零 ~イヌツキの少女達~   作:もふもふたぬきねこ

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夕莉よりも深羽の方が動かしやすいせいで、
深羽は口数も出番もかなり多くなります。夕莉はお店もありますから。
仮に公式のその後があったならどうなっているんでしょう?

今回もよろしくお願いします。


21. 雛咲親子の疑問と謎体質

「思っていたより賑やかな人達だったね? ちょっと想像からズレていたよ」

 

「女優の宗方美優をあんなに間近で見る日が来るとは思わなかったですよ。にしても、なんで深紅さんはあんな運転なんだ……」

 

「ワタシもお顔を拝見した時は驚きました。なんでも送り迎えをされている時に、マスコミを振り切るために()()なったらしいですよ? マニュアル車でないと何故か運転できないそうで」

 

「てっきり不来方さんか、黒澤さんみたいな雰囲気の方に近いと思っていたのに……」

 

『吾輩は話のし甲斐があるぞ。更に二人も会話が出来るとはな。娘の方にはいつか祓われそうで少々怖いが……』

 

深羽さんたちが志那都荘に向かわれて、現在は正午過ぎ。新しいタイヤ痕が刻まれました。

茉子のお昼ご飯を頂きつつ、不来方さんのお知り合いの皆さんについての感想です。

 

 

 

結論――結構濃い。これが普通だと?

 

 

 

本来幽霊対策に来てくださった方々なのに、どちらかというと祟り神が主体のお話になってしまいました。新情報盛りだくさんでしたが。

幽霊兼怨霊は実際に確認しないと何とも言えないとの事。

いわく「思い当たる例があり過ぎる」……世の中すごいんですね。

 

「そういえばムラサメちゃん。深紅さんたちの話じゃムラサメちゃんって生きてる可能性があるんだろ? こう訊くのもなんだけど、人柱になった時の事ってなんか覚えていたりしないの?」

 

ちょっとデリカシーに欠けるお話ではありますが、たしかに興味はありますね。

 

『どうであっただろうな。少なくとも首を落とされたとか、生き埋めにされたとかではないと思う。吾輩が肺の大病を患っておったのは話したな? 恐らく翌朝を迎えられんほど衰弱して寝たきりだったから、そのまま眠ったように人柱になったのだろうとは思うが……その後に身体をどうされておってもわからぬな。何かで話を聞いて、自ら志願したのは間違いない』

 

「では、可能性としては即身仏に近いような感じですか」

 

「それだと……ムラサメ様のお身体には今もご病気が残っているという事になりそうですね」

 

『人柱になったからといって病魔は治らんだろうな。文字通り「生きておるだけ」なのだろう』

 

だとしても、ムラサメ様がまだ生きていらっしゃる可能性がある。

ならば助けない選択肢はありませんよね。

 

『まあ今は吾輩の事よりも幽霊の話だ。特に雛咲娘の予定の都合上、10日以内に事を進ませねば骨折り損にも程がある。意図的に何か起こせるというわけでもないが、出来そうな事をせねばならんぞ』

 

「それはそうなんだけど……今の所能動的にやれる事って、憑代を傷つけて祟り神を無理矢理呼び出すくらいだろ? 流石にそれはなあ。憑代の欠片探しをするのはありだろうけど」

 

「まあ最終手段ですよね。一応ワタシは改めて武実乃山の地形を確認しておこうかと。今日は快晴ですから流石に霧に巻かれる事もないでしょう。僅かにでも違和感を感じた時点で引き返します」

 

どうなんだろう。真昼間の幽霊というのは確かに想像は出来ないけれど、想像できない事が起こっている状況が今の穂織だもの。茉子一人で行かせるのは危ない気がする。

 

「茉子、私も」

 

「ダメですよ。不来方さんや深羽さんたちからご用事があった時に芳乃様がすぐに動けないようだと、それこそご迷惑になります。自由に身動きが取れる状態にしておいてください」

 

「じゃあ俺が行こうか? ついでに欠片探しも出来るし」

 

「ん~、流石に単独行動は危険ですか。わかりました、それでは有地さんはこの後お願いします」

 

『昼間であれば祟り神の心配は無いだろうから、芳乃には吾輩がついていよう。何かあったらご主人を呼ぶ事はできるからな。とはいえ、ご主人は念のために叢雨丸を身につけておれよ』

 

茉子の言う事はわからなくもないけど、当事者が一番動かないというのはちょっと……。

 

「僕は神社の過去の日誌を見てみる事にするよ。ひょっとすると何かの記録が残っているかもしれないからね」

 

私以外みんなやる事が決まってしまいました。どうしようかな。

 

 

Prrrrrrrr……

 

 

「ん?」

 

私の携帯だ。発信元は……不来方さん? 早速何かあったんでしょうか?

 

「はい、朝武です」

 

『不来方です。すみません芳乃さん、今お時間大丈夫ですか?』

 

「ええ、大丈夫です」

 

切羽詰まったような雰囲気ではなさそうですが?

 

『実は「貸してもらっていいです? もしもし雛咲です。巫女さんって穂織の町には普通に詳しいですよね?」』

 

「えっ? ええ、まあ」

 

お電話が深羽さんに代わりました。一般レベルには分かると思いますが。

 

『夕莉さんに穂織を案内してもらおうと思ったら、「決まったルート以外歩かなくって大して分かんない」って。あり得なくありません? 1年以上ここに住んでいるのに、観光地で何してたんだって。で、挨拶の時に会った……鞍馬廉太郎君と、妹さん? あの子達が案内をってお話も頂いたんですけど、ちょっと挙動不審で私が身バレしそうで。観光的にも地理的にも把握しておきたいのでそれなりに歩いて回りたいんですけど、そうなってくると神社組の皆様が適任なのかなと。ついでに他のお話も出来ますし』

 

さらっと不来方さんをディスられてますね……そして鞍馬君はやっぱり鞍馬君だった。

小春さんも志那都荘にいらっしゃるみたいですけど、さすがに大女優相手は緊張しますよね――私みたいな世間知らずでもない限りは。これは私が特殊なんでしょう。

 

私は不来方さんに近い感じにダメなんですよね。友達と遊んだ事すらごく最近が初めてですし。

こういう事に一番向いているのは茉子だけど、山の調査に行くとさっき決めたばかり。う~ん。

 

『ある程度は吾輩でも務められよう。めし処の味の善し悪しは分からぬが、それなりに今の穂織の街中も歩いておるから地理的な案内は可能だ。それに雛咲娘を目立たせぬようにするというのであれば、この穂織ではより目立つ存在である芳乃がいた方が隠れ蓑になるしな』

 

なるほど。ムラサメ様がいらっしゃるのであれば、案内については大丈夫そうです。

 

隠れ蓑……どう、なんでしょう?

確かに穂織の住人にとっては私の方が目立つかもしれませんけど、観光客の方からすればどう考えても深羽さんの方が目立ちますよね?

それに加えて学院でも噂になっている「謎の美人喫茶店店主」である不来方さんも居ますから、正体不明という意味では悪目立ちする気がしますよ? その件も伝えておきましょう。

 

「案内自体は大丈夫ですが、私は一応この町ではそれなりに目立ちますよ? 耳目は集めてしまうかと思いますが」

 

『ご心配ありがとうございます。でも大丈夫ですよ、これでも女優ですから。()()()()()()()()のが私の特技なので。その辺りの犠牲は夕莉さんになってもらいます「えっ? 私がですか?」』

 

不来方さんが不憫になってきた。まあそう仰られるのなら。

 

「分かりました。それでは私が務めさせていただきます。今から志那都荘に向かえばよろしいですか?」

 

『すみません、芳乃さん。なら……田心屋で待ち合わせをお願いできますか? 一度こちらまで来ていただくと歓楽街は通り過ぎてしまうので』

 

不来方さんも田心屋には行かれるんでしたね。立地的にもちょうどいいですか。

 

「承知しました。20分以内には着けると思いますので」

 

『宜しくお願いします。それでは』

 

 

 

と、電話が切られました。これで私にも予定が出来ましたね。

 

「という事で、話は分かってると思うけど深羽さんたちを案内してくるわ。暗くなる前には戻って来るから」

 

「分かりました。これを機に芳乃様も人との付き合い方を覚えて下さると。仕方がないとはいえスーパー世間知らずですから」

 

「随分と目立つ集団だよな。鏡宮さんがその辺はしっかりしていそうだけど」

 

「せっかく頂いた機会なんだから、芳乃も務めとか思わず羽を伸ばす気で行ってくるといいよ」

 

いやあ、女優さんと一緒でそれはなかなか難しいわよ? お父さん。

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

「あら、巫女姫様。いらっしゃいませ。お一人ですか? お珍しいですね」

 

「こんにちは、馬庭さん。こちらで待ち合わせをさせてもらっていまして。先方がいらっしゃい次第お世話になります」

 

「そういう事でしたか、承知致しました。ちなみに何人いらっしゃるかは分かりますか?」

 

田心屋には到着しましたが、私の方が早かったみたいです。

 

やっぱり私が出歩くと結構目立つんですよね……茉子がいない状況だと特に。最近はお見合いを申し込まれる人を避けるために単独行動は基本避けていますから、なおさら珍しくなっています。

何人いらっしゃるか聞いていなかったですね。不来方さんと深羽さんは確定として、最大で5人いらっしゃるわけですが……。

 

「あそこです……あ、もういらしていますね」

 

「時間かけすぎちゃったか。()()()()、お待たせしました」

 

「あ、いらっしゃった……え?」

 

向こう側から歩いていらっしゃったのは。

 

一人目は不来方さん。うん、いつも通りの雰囲気です。ちょっとミステリアス感が薄れてきた?

二人目は深紅さん。あの車の運転が想像できない儚さのままです。やっぱり信じられない年齢。

 

そして、三人目――誰!? 穂織にいそうではある美形の同世代に見える!

髪型も長さも声色も雰囲気も知り合いに一致しない、穂織の和服を着ていらっしゃる女性。

鏡宮さんの完全女性穂織仕様的な。これ深羽さんなんですよね? 演じるってこういう事ですか。

 

『すごいものだな、今時の化粧というものは』

 

「いらっしゃいませ、夕莉さんでしたか。こちらの方々は……?」

 

井山雪(いやまゆき)と言います。学院の3年です。巫女姫様とは喫茶・こずかたでお話させていただいた事がありまして」

 

「今日は雪さんの従姉妹の方が来られているので美味しい甘味でも、と思って芳乃さん達をお誘いしたんですが、常陸さんから「芳乃様の遊びの修業」との事で芳乃さんお一人になりまして」

 

「……お世話になります」

 

よくまあそれっぽいエピソードを作りますね? 流石色んな脚本を読まれていらっしゃる。

というか「私の遊びの修業」ってなんなんです? 茉子は本当にそう言いそうですけど。

そして実の母を従姉妹で通すんですね? 事実より違和感がないのがすごい。

 

「まあまあそれはそれは、ありがとうございます。腕を振るわせていただきますね。ご案内致します……学院にあんな美形の子がいたんだ、へぇ~」

 

馬庭さんはちょっと違和感ありっぽいみたいですけど、不来方さんたちを案内されました。

裏側を知っていますから問題ありませんけど……サラッと騙されているって事ですよね?

なんとまあ。

 

 

 

「こちら、ほうじ茶です。ご注文がお決まりになりましたら御呼びください」

 

いつもの元気な笑顔で馬庭さんからお茶を頂きました。さて。

 

「……深羽さん、でいいんですよね?」

 

「そうですよ。それなりに上手く化けているでしょう? この姿の時は「井山」でお願いします」

 

『上手いなんてものではないぞ。気配すら別人ではないか』

 

間近で見ても深羽さんだと気付かない。美形には違いないですけど。

 

「この子の特技は文字通り「なんにでもなれる」なので。その気になれば朝武さんにもなれるでしょう。流石に背は変えられないみたいですけど」

 

「それはそれで誤認させる方法があるんだけどね。まあやり方次第ですよ」

 

「以前悪ふざけで()()()の真似をされた時は、流石に息が止まりましたけど?」

 

「黒澤さんには貴重な九〇式を連写されましたからね……あれは反省したのでご安心を」

 

あの見た目から私の姿にもなれる。女優の方ってすごいですね。

背は……私より5センチは高そうですけど、高くするならともかく低くも出来るんですか?

 

「あ、好きなの注文しちゃってくださいね? お代はこっちで持つので」

 

「えっ! いえ、そんな……」

 

来て頂いている立場だというのに、さらに奢ってまで頂くなんて。

 

「既に生きてる間に使いきれないくらいは資産がありますから」

 

サッと取り出されたのは謎の黒いカード。取り敢えず普段見るようなものではなさそうです。

断るのが失礼な方向になった。

 

「私なんて何も仕事をさせてもらえないんです……」

 

「最近の電子機器を一切使えないお母さんに今時の仕事ができるわけないでしょう? タイプライターでも使う気? それに外で仕事させたらまぁた何処かに行っちゃいそうだし」

 

「何故新品のパソコンやスマートフォンですら、触れるだけでも謎の文字の羅列やら映像やらが出現するんでしょうね? 基本的に昭和家電まででしたか、お使いになられるのは」

 

「車は余計なものがついてなければ大丈夫なんですけどね、オートマはダメですけど。家電扱いじゃないのかな? 発信機はダメだったしなあ」

 

『異常体質過ぎるだろう……騒霊でもそんな事にならん気がするが』

 

「え、えっと……そういう事であればご馳走になります」

 

深紅さんの謎の体質も気になりますけど、一先ずご馳走になる事にしましょう。

プリンもいいんですけど……多分皆和菓子。今日は私も違うものを食べてみますか。

ぜんざいを頂きましょうか。皆さんはもうお決めになっているご様子、申し訳ないですね。

 

「馬庭さん、すみません」

 

「はい、ご注文は何になさいますか?」

 

いつも通り、にこにこ元気笑顔の馬庭さんに。

 

「えっと、私はぜn「こちらのメニューにあるもの、一つずつお願いできますか」……!?」

 

まさかの深紅さんが爆弾を放り込まれました。さすがに馬庭さんの顔が驚愕に染まります。

 

「全部でございますか!? 結構な量になるかと思いますけれど……」

 

「私と雪がそれなりに食べられますので。残すような真似は致しませんからご安心ください」

 

いや、心配事はそっちじゃないと思いますよ? 純粋に心配されていますよ?

馬庭さんが不来方さんをご覧になって――その不来方さんが頷かれたのを確認して。

 

「か、かしこまりました。それでは早くお出しできるものから準備いたします……おとーさーん!! フル稼働!! 新作の試作してる場合じゃない!!」

 

バタバタと厨房へ消えていかれました。これで厨房は戦場ですね……。

深紅さんがああ注文されたという事は、これが雛咲親子の日常ですか。

というか。

 

「そんなに食べられて、体型とかは大丈夫なんですか?」

 

女優をされているんですからかなり気を遣われるんじゃ。

 

「私は限度がありますね。なので今回は夕莉さんを太らせる事が目的です――貴女はもっと色々食べなさい。あ、お母さんが無限に食べられるので残す事は絶対にありませんよ?」

 

「今のままで特に体調を崩したりとかはしてないんですが……?」

 

「健康どうこうじゃなくて、もっと日々を楽しめっつってんですよ。なんでせっかく日上山の外に出てきたのに生活がループしているんですか」

 

『雛咲母はそんなに食べられるのか?』

 

「全く食べなくてもも「はいそうです、でいいの」はい、そうです」

 

深紅さんの謎体質がどんどん増えていく。

 

 

 

「さて、待っている間に……ご存じなら教えていただきたい事がありまして」

 

深羽さんの雰囲気がスッと変わりました。これは真面目なお話ですね、

自然とこちらも背筋が伸びます。

 

「志那都荘で住み込みバイトをされている仲居の「レナ・リヒテナウアー」さん。彼女の事、何かご存知ですか? クラスメイトだと伺いましたけど」

 

意外なご質問が来ました――レナさんについて? なぜなんでしょう。

 

『恐らく憑代の気配の事だ、芳乃よ。これは不来方も知らん事だ』

 

ああなるほど。となると、来歴をお話すればいいかな?

 

「レナさんはご先祖様が穂織にいらっしゃった事があったらしく、そのお話を聞かれてこちらに来られるのをずっと待っておられたらしい北欧出身の方です。そのご先祖様が憑代の欠片を拾われたらしくて、レナさんの一族がそれをお守りとして長年身につけられてきたと聞いています」

 

『その関係なのか、レナは吾輩を見聞きできる。あちらの欠片に関してはレナの一族が大事に扱っていてくれたおかげか、犬神の魂が慰撫されている状態の様でな。下手にこちらの憑代に合わせるより安全そうだから持ってもらっておるのだ』

 

その説明を聞いて不来方さん、深羽さん、深紅さん三人の顔が悩み顔になりました。

 

「アレを持っていただけで、()()なるものでしょうか?」

 

「さあ? 他の例を知りませんし、そういうのに詳しいわけでもないですし」

 

「あまりに自然な気はしますが……」

 

「ええっと?」

 

何か問題でもあったんでしょうか。

 

「レナさん……彼女から憑代の気配がする事自体は不思議ではないんですけど、あまりに「自然」なんです。後付け感がないというか、最初から持っていたというか。先日お会いした際にも全く違和感を感じなかったくらいで」

 

イマイチ不来方さんの説明に要領がつかめません。

そんな私の顔を見て、深羽さんが更に説明を付け加えてくださいます。

 

「例えばですけど、今ここに居る4人が持っている霊感は先天的なもの……付け加えられたものではなく、最初から持っていたものが何かをきっかけに目覚めたケースです」

 

雛咲さん親子は分かりませんけど、私はお母さんを、不来方さんは恐らくご両親を亡くされている。射影機の使用が可能となる条件の「あちら側に近づく」を多分満たしているわけですね。

 

「一方であの男の子……有地将臣君の、神力に対する適性? と言っていいかどうか分からないですけど、多分それは後天的なもの。彼自身に刀を振るう体質は無いんだと思います。何かしらの理由で刀を振るえる条件を満たした後付けタイプなんだろうなあと」

 

『ご主人がか? しかし……いや、そうか。ご主人に神力を流した際、魂にはかなりの負荷がかかっておった。元々その才があったならばもっと楽に受け入れられていたかもしれんのか』

 

深羽さんからの追加説明。有地さんは後天的な才能であると。

ムラサメ様のお話は診療所に祟り神が出現した時の事ですね。あの時は目覚めに2日かかるほど。

でも。

 

「それだと……有地さんはどうやってその才を身につけられたんでしょうか?」

 

『分からぬな。選んだのは吾輩ではなく叢雨丸だ。可能性としてはレナのように穂織や祟り神にまつわるナニカに以前触れたか、今も持っておるかだが……ご主人にはその自覚がなさそうだ。これは確認のしようがない』

 

「不思議なのは、そのリヒテナウアーさんなんです」

 

深紅さんが言葉を挟まれます。レナさんは「自然」との事でしたが?

 

「彼女も特殊な物を持っていたようですけど……それを踏まえても「自然」です。その憑代を持っていなかったとしてもムラサメさんを見る事が出来ていたり、ひょっとすると彼女も刀を使う事が出来るかもしれません」

 

『いや待て待て。レナは生まれ自体は穂織に関係がないぞ? 先祖が憑代を持っておったとはいえ、遥か遠くの異国の地でそれ程の適性があるものが誕生して、しかも穂織にやってきておるだと? とんでもない縁だぞ。それにレナは吾輩を見聞き出来ても、ご主人とは違って触れる事は出来ん』

 

「だから疑問なの。私達の予想では、憑代は本来清浄な力、或いは存在を宿した物。そんな力を生まれながらに有している彼女は神様的な血でも引いているって? って事。そんな人、初めて見るわよ。しがみ付いていて不思議に思ってたけど、有地君はアンタに触れるんだ?」

 

深羽さん、ムラサメ様に対してはかなりフランクになりますね?

 

レナさんは……確か高祖母さんが穂織にいらっしゃった際に、当時の旦那様と出会ってご結婚をされているはず。穂織と全く無関係というわけではないんですよね。

 

他の方のプライベートのお話なので、こっちでベラベラ喋るのもどうかと思いますが……。

一応話しておきましょう。あとでレナさんには断っておかないと。

 

「レナさんは4代前のお爺様が穂織の方ですから、この地と無関係という事はありませんよ」

 

『レナは穂織の血を引いておったのか? それは知らんかったな。4代というと百年程度か……鉄道敷設計画の時期か?』

 

「ですけど4代も前となると……」

 

ほぼ他人ですよね。写真がほぼ無い時代ですから大半が記録だけの存在です。

穂織に鉄道を敷設する予定があったんですか? 初耳なんですが。

 

「4代前、明治半ばくらい。ウチで言うと、あの?」

 

「そうね。この時代は色々あったのかしら……」

 

一方で雛咲さん親子は何か思う所があった模様。

射影機をお持ちだったくらいですし、雛咲家は名家だったりするんでしょうか。

 

 

 

「お待たせしました~!!」

 

 

 

といったところで、馬庭さんが注文した品を持ってきてくださいました。

片手のお盆一枚にいくつ載せているんですか? プロってすごい。

 

『大分腕の血管が浮いておるが、大丈夫かの?』

 

「まずはお餅系からになります。冷たいものは間に挟まれますか? それとも最後に?」

 

「ありがとうございます。どうする?」

 

「温くなってしまうから挟んで頂いた方がありがたいけれど……手間ではありませんか?」

 

「いえいえとんでもない! それが仕事ですので! それではごゆっくりお寛ぎ下さい」

 

そう言って、馬庭さんは再び厨房へ戻っていかれました。今頃大将さんがフル稼働しておられるんでしょう。

 

「じゃ、話は一旦ここまでにして頂きましょうか。美味しい物は美味しいうちに頂かないと」

 

「特にお餅は硬くなってしまいますから」

 

「既に空皿が積まれているんですが……何度見ても慣れませんね」

 

厨房に気を回していた間に、深紅さんの周辺のお皿が数枚空になって積まれている……。

何が乗っていたかすら分からないんですけど? ぜんざいはしっかり残して頂いていますが。




深紅にはこういう謎の体質が追加されていきます。静かな喋り口調はそのままです。
「井山」という苗字は雛咲親子の育ての親の姓です。

町の案内はダイジェスト。

次は考察しつつ、明日の予定を決めつつ。もう一人零側の人物名が出てきます。
怨霊達は休憩中、射影機もチャージ中です。活躍は9話先の予定です。

次回も楽しんで頂けたら嬉しいです。
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