零 ~イヌツキの少女達~   作:もふもふたぬきねこ

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初めての芳乃達が登場しないお話です。
当時から10年経っているので、こんな感じの話はするんじゃないかな? という妄想。

今回もよろしくお願いします。


23. 巫女姫達の知らない話

「成程、そういう経緯でここに。あの子達も何というか災難ですね」

 

「ええ……まさか、それがここに越してくる縁になるとは思わなかったんですけど」

 

 

 

深羽さんとこうして時間を取って話すのは久しぶりだ。

私と違って、彼女はこの国でも有数の忙しい人に該当するだろうから。

 

そんな事情もあって、何故私が引っ越し先に穂織を選んだかは話していなかった。

 

出会いがあんな状況ではあったけれど、だからこそ私達はお互いをよく知っている。

真に「友人」と呼べるのは彼女だけかもしれない。密花さんは半分「親」だから。

 

 

 

聞いた深羽さんは「ほーん」という感じだ。流石、一度(はこ)に詰められた人は違う。

 

「普通にいい場所ですよね。息苦しくないし、温泉はあるし、ご飯も美味しいですし。デジタル的な五月蠅さがないからお母さんも心地いいみたいで。時間が取れたらサチさんも連れてこようかな。経緯や裏の話はともかく、ここに縁が出来たのはある意味運が良かったんじゃないですか? 血色のいい霊なんておかしな存在もいるんですから、ちょっとは気も紛れますよ。イヌツキの噂は周辺の町の僻みなんだと思ってましたけど」

 

「私はあまり事前情報が無かったから……タクシーの運転手さんに「あんな所に行くの?」って言われた時は、どう反応したらいいか分からなくて。いざ来てみたら日上山よりずっと栄えた明るい観光地で意外だったのが第一印象でしたね。もっとも、その時は観光どころではなかったですし」

 

本来、私は穂織に来る予定がなかった。あの時密花さんからの連絡が無かったら、今も日上山で密花さんと一緒に過ごしていたかもしれない。

 

その僅かな時間の出来事が縁になって、今の私はここに居る。深羽さんと会った時も密花さんと会った時もそうだけど、人生なにが切っ掛けで繋がりが生まれるか分からないものだ。

 

「今の状況は有地君が刀を抜いた事が切っ掛けって考えられそうですけど、当時って何か原因ありきで起こったんですか? 祟り神とやらは数百年続いているから別として」

 

「私も密花さんから連絡を受けて、とにかく事の対処に当たる事だけを考えていたから。事後処理も密花さんがしてくれたので、経緯については詳しく知らないんです。なのでさっきお話した事以外はあまり……」

 

 

 

数年前の夏。

元々密花さんが旅行の下見で穂織に行った際に頼まれ事があったらしく、どうしても密花さんでは対応出来ないという事で私も後を追う形で初めて穂織を訪れた時の事。

 

タクシーで聞いた先入観から不安だったけど、いざ着いてみれば古き良きといった感じの観光地。

ある程度の賑わいはあり、でも人が密というわけでもなく、程よく活気のある雰囲気。

そこを歩く霊も、特別私や他の誰かに干渉しようとしている様子もなし。何より「誘おうとする」存在が居ない事実が私の心を温めた。

 

密花さんから話を聞いた口調の深刻さからは想像できないくらい、町は明るかった。

 

 

 

――ただ一か所を除いては。

 

 

 

とにかく大騒ぎだった事はよく覚えている。

町の上役であるごく一部の人間しか知らない状況だったけど、その「一部」の人達は冬陽(ふゆひ)さんをずっと感情的にしたように山に向かおうとしていた。当然ともいえたけれど。

 

解決はした……私が関われたのはここまで。

密花さんの手によって早々に骨董喫茶・くろさわに帰還する事になったから。

私がこれ以上あの場にいたら、今度は私に何が起こるか分からないから。

 

 

 

「神主さんやオーナーさんが妙に夕莉さんに低姿勢だと思ってましたけど、そういう事なら納得ですね。だから引っ越し先としても顔が利いたわけですか」

 

「あの後密花さんが色々話を聞いて、芳乃さん……というか朝武一族だけが「ありえないもの」に関わる環境だと分かったから。他に顔を知っている人がいない場所よりも知っている人がいて、尚且つそこまで都会でない土地を選んだんです。私も人混みが得意でないのは今もですから」

 

後は――もしまた何かが起こったとしても比較的対処しやすいように。

朝武家が祟り神に関わっている事は聞いたけれど、アレは直接原因ではないと思った。

この土地には他にも何かがいる。当時、それが怨霊かどうかは分からなかったけれど。

 

関わらずに済むならそれでよかったし、積極的に関わるつもりもなかった。

万が一、頼られた時だけ。今は寧ろ安晴さん達が色々便宜を図ってくれている。

仮にお店が繁盛していなかったとしても、既に生活するには困らない状況なのだから。

 

こちらに引っ越して来た時、秋穂さんは既に亡くなっていた。

残った関係者の内、一人は霊体である事に加えて件の血筋ではなかったらしいから別として。後の二人には出来る限り私の存在が露見しないよう、こうして分かりにくい場所で、比較的年齢層が高い客層になるような見た目の物件を譲ってもらった。

私は詳しく知らないけれど、建物自体にも仕掛けがあるようで。迷い込むか招くかしないとここへ来るのは難しい。

 

 

 

だからこそ、みづはさんが彼女達を連れて来た時は驚いた。緊急とは言わずとも何かあった。

即ち祟り神とは違う――「神隠し」に似たような出来事が起こっているのだと。

 

 

 

「で、今回のマヨイガの件と、その前に……オーナーさんのお孫さんの神隠し、と。そもそも巫女さん達には幽霊も見えてなかったんでしたっけ。鞍馬一族は朝武の血筋ってわけじゃないんですよね? 更に前の世代を考えればちょっとは同じ血筋でしょうけど」

 

「直系の一族は女の子しか生まれないらしいから、少なくとも呪詛とやらを受けた後の分家筋ではないと思います」

 

「回りくどい事をしますよね、その呪詛やら大本の「長男」とやらも。次男家をその場で呪殺するんじゃなくて、男子が生まれない形で血を絶やさせようとするなんて。寿命の事はありますけど」

 

今回神隠しに遭ったのが、何故「鞍馬小春」さんなのかが分からない。

彼女は呪詛に関係していないはず。そもそも祟り神の存在すら知らない。

なんらかの特異体質である有地さんの従妹ではあるから、彼女もその才を持っている可能性がないわけではないけど。記憶を見た限り、あの時の彼女は「山のナニカに惹かれた」感じだった。

 

行動自体はあの場に居た怨霊の「共鳴」に近いのだと思う。

比較的血の近い有地さんを求めた。あの場に居た女性の怨霊との共感。

シチュエーションとしては比較的珍しいかもしれないから、穂織で該当したのが鞍馬さんだけだった可能性がないわけでもないけれど、これ以上は推測の域を出ない。

 

そういえば……彼女はあの時何かを言い淀んだ? コレについては勘でしかないけれど。

この件だけで考えてしまうと、祟り神と怨霊、ないしマヨイガは一切無関係という事になる。

そうなると今度は犬耳の話が分からない。これも別件なの?

 

 

 

深羽さんの指摘は――確かに。

 

 

 

秋穂さんは今の私の年齢から数年後には亡くなってしまった。

だけど芳乃さんを生む……子孫を残す事は出来ている。戦国時代からこれまでもずっと。

穂織という土地に守られてきた立場ではあるけれど、一方で自ら祟り神退治なんて死地に赴く様な事をやってきている。そのうえで500年ほども。

何気にすごい事ではないだろうか。

 

「考えた事もなかったですね。私達の時は……「一緒に終わる」ための結果だったわけですけど。じゃあそもそも芳乃さんの一族にかかっている呪詛の目的は?」

 

「単なる「末代まで云々」とは違うってのが自然じゃないですか? まあこういう考察は放生さんと鏡宮さんにしてもらった方が理論立ててもらえそうですし、取り敢えずは鏡宮さん辺りにメールを送っておけばいいと思いますけど。やっときますか?」

 

「お願いします。私より深羽さんの方が早そうですから」

 

「はいはい、じゃあコーヒーもう一杯お願いしますね。それとなんだけど夕莉さんの名義で携帯一つ契約してもらえません? あっちの黒澤さんには私に連絡できるようお母さんに番号持たせてますけど、こっちの人達も一応連絡は出来た方が良いでしょ。勿論お金はこっちで持ちますから」

 

表向きの影響力も強い深羽さんの携帯番号を必要以上に知られるのは、いいとは言えないか。

別にこちらとしても問題があるわけでもない。寧ろ芳乃さん達が直接深羽さんと連絡が取れるメリットの方が大きい。携帯を貸す形ならそこまで問題も無いだろうし。

あとは。

 

「古い機種なら……深紅さんでも使えますか?」

 

「……どうだろう。PHS(ピッチ)とか、バブル時代の肩掛けのやつ(ショルダーフォン)とかならいけるかも? ポケベル的なのもダメだったもんなあ」

 

流石にそれは穂織で販売していないと思います。PHSってそもそも使う事が出来るんでしょうか?




何があったかは次のチャプターにて。

2016年当時であればPHSの使用はまだ可能だったようです。
つまりは昭和家電でないので多分深紅は使用できません。

次は翌朝から。相変わらず怨霊も祟り神も射影機も出て来ない……。
射影機だけはそのうち出てきます。
次回も楽しんで頂けたら嬉しいです。
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