零 ~イヌツキの少女達~   作:もふもふたぬきねこ

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山の中パート2。今度は話の進行に関わります。

今回もよろしくお願いします。


26. 紐付く御神刀の関係者たち

「さてと。ふざけた話はここまでにしておいて、私が先程知った事をお知らせしましょうか」

 

「お家帰りたい……精神ダメージがかつてないレベルです……」

 

「今からが本題でしょ? 茉子。1つくらいなら私の部屋に置いておいてもいいから」

 

「だからやめてください!」

 

しばらくはこのネタでからかえそう。

それにしても、特に何かをなさった様子も見られなかったんですが?

 

「何か分かったんですか?」

 

「分かったというより「視た」が正しいですね。正確に何年前かは分かりませんけど、有地君がそこの沢で溺れたみたいです」

 

「「ええっ!?」」

 

それは――昨日聞いた、馬庭さんに助けられたっていう時の。

 

「そんな事まで分かるんですか?」

 

「夕莉さんから「影見」は聞いているんですよね? あれは基本的に「寄香」を通して「残影」を辿る形になりますけど、人の強い感情が残っていれば寄香無しでも見えるものがあります――いわゆる「過去視」ってやつですね。多分あの……甘味処の店員さんかな? にすぐ助けられたので大丈夫だったみたいですけど。おそらく4、5年前ですか」

 

私たちも「マヨイガ」で経験してますから、「過去を視る」というのもわからなくはないですけど……ここまで自然に?

 

「で、まあこれ自体はいいとして。その後なんですけど……なんか黒紫色のヘドロみたいな? キモイのがその場所に現れるようになってます」

 

「――祟り神!」

 

「それがワタシたちの祓っているものです。そんなピンポイントに出現しているなんて」

 

「これが祟り神なの? 記憶で見てなかったですね、てっきりも〇〇け姫の乙〇主的なのを想像していました。どっちかっていうと最初のやつのちっさい版かな?」

 

「ワタシのどうでもいい記憶なんて見ずにそっちを見てください!!」

 

そんなのが山に出ていたら私たちも祓えませんよ!

この山に実はシ〇神様みたいなのがいるとかありませんよね!?

 

それよりも。

 

「じゃあ……有地さんがここで溺れた事に」

 

「ヘドロが関与しているか、あるいは有地君が溺れた事でヘドロが関わるようになったか。どっちかなんでしょうね」

 

「一体何が……実はその件、昨日有地さんから聞いたばかりなんですけど。特別変わった事なんて何も」

 

祟り神に「誘われた」? 何のために? 鞍馬家ではあるけど朝武家ではないんですから。

この場に居たのは有地さんだけじゃなくて鞍馬君兄妹と馬庭さんも。だから偶然の可能性が高い。

 

ではもう一方。祟り神「が」何かに誘われた……? だったとしても一体何に?

 

昨日のお話を思い出しなさい。何かそれっぽいお話はなかった?

 

 

 

――川の砂利とか飲み込んじゃったり。

 

 

 

「……まさか?」

 

「芳乃様?」

 

「何か思い当たりました?」

 

可能性。とてもとても小さな可能性ではあるけれど。

もしそうであるならば、色々説明がつく。

 

「その時に……有地さんが、憑代の欠片を飲み込んだ?」

 

「欠片をですか? 確かに小さなガラス片に近いですから、あり得なくはないかもですけど」

 

「もしそうだったなら、まあ普通ならとうの昔に身体の外に出ていそうですね」

 

単なる異物なら仰る通り。

でもあれは「単なる」シロモノじゃない。

 

「あの欠片――憑代そのものも、力のあるモノなんですよね?」

 

「予想の範疇ですけどね。単なる呪いの器ではないと思いますよ」

 

「レナさんは憑代の欠片を持っていた事でムラサメ様を見聞きする事が出来ています。なら、何らかの理由で有地さんの中に憑代の欠片が留まっていたとしたら?」

 

繋がった気が、するんですが?

 

「……叢雨丸に選ばれた理由も、そういう事であると?」

 

「あのちんちくりんに聞いたら早いんじゃないですか? 今日は有地君に憑いてるんですよね?」

 

ちんちくりん……。

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

『俺の腹の中に?』

 

「まだ可能性の話なんですけど、もしそうだったとしたら色々説明がつくんじゃないかと。ムラサメ様は何か感じられませんか?」

 

『……うーむ。もしご主人が憑代の欠片を飲み込んでおって、今も中に残っておるのだとしたら完全に馴染んでおるな。恐らく欠片の形で存在していない。ご主人の魂と一体化しておるのだろう』

 

「なんならMRIでも受けてみます? 手配しますけど」

 

「それが何なのか分かりませんが、すごすぎそうなので一旦ご遠慮させてください」

 

志那都荘にいらっしゃった有地さんに電話した結果、可能性はゼロではなさそう。

あとは、線が繋がったとしても新しく謎になったと言える事も。

 

『仮に憑代の欠片が俺にも宿ってるとして……それと叢雨丸に何の関係があるんだ? これがどこかでムラサメちゃんと縁があるって事か?』

 

それです、有地さん。

 

何らかの力を宿しているらしい犬神、及び祟り神の憑代となっている欠片。

この欠片そのものに祟り神が宿っている事は現認されているから間違いない。

 

という事は。

 

『憑代そのものと叢雨丸に、本当に何らかの縁があるという事だな。吾輩が人柱になった時にそんな存在は聞いた事がなかったのだが。雛咲娘の予想のままの可能性があるわけか』

 

『当時の叢雨丸ってどういうもんだって言われてたんだ?』

 

『吾輩が知っておるのもご主人達と大差ないぞ? 吾輩はそもそも平民だしな。土地神様から下賜されたものとは聞いている。とは言え、神を始めとした上位の存在が人の暮らしに直接干渉される事は本来ない。影響が大き過ぎるからだ。だからそれを代行するこの世の存在を橋渡しに任命した――その役に進んで納まったのが吾輩だ。この程度であれば安晴や玄十郎、駒川のように穂織の歴史に詳しい者なら知っているだろう。吾輩は誰から聞いたんだったかのう?』

 

「その「穂織の土地神」ってなんなの? 少なくとも観光HPや悪い噂、ここに来てからの伝承とかでも聞いた事ないんだけど? あんたの事ばーっかだし、どういうわけか仲居さんからそれっぽい気配がするし」

 

『べっ別に吾輩も目立とうとしたとかは全くないのだぞ? 単に目に見える形で「誰にも抜けない刀」として伝説の存在である叢雨丸が実在した事と、人柱たる吾輩についても記録に残っておるからそっちが目についただけとは思う。歴代の巫女姫や霊力の強い子供は実際に吾輩を見る事も可能だから伝えられやすいしな。下賜して頂いた神様の名は吾輩も知らんのだ、当時は皇祖神の名すら考えた事もなかった。レナに関しては吾輩もサッパリだ』

 

「武実神社が祀っているのは、てっきりムラサメ様と叢雨丸だけなのだと思っていましたが」

 

「さらにその大本になる穂織の土地神様も本来はいらっしゃられる、という事ね。言葉だけは聞いていたけれど……この辺りはお父さんに詳しく調べてもらわないといけないでしょうか」

 

私は武実神社の巫女ではあるけれど、正しく「神職」である神主はお父さんだ。

お父さんしか入れない区画が存在するのは知ってる。そこを見てもらった方が良いかもしれない。

とはいえ、あそこは神主であろうが本来「禁制」。おそらく長い間誰も入っていないけれど。

何百年ぶりに叢雨丸の使い手が現れた時代ですから、入るのも許して頂けるんじゃないかしら。

 

巫女である私も知らない、存在はされているんでしょう穂織の土地神様。

精々はっきりしているのは「叢雨丸を下賜された御方」という事だけ。

これまで散々お世話になってきているのだから、敬まわせてもらう形にもさせてもらわなければ。

 

『とりあえず、俺が叢雨丸やらムラサメちゃんやら神力やらってのと関係ありそうなのはそれの影響の可能性が高いってわけね。ある意味腑に落ちたけど』

 

「何故ですか?」

 

『だって穂織に来る以前は俺ただの学生だよ? 正真正銘の一般人。血筋がどうのっていうなら廉太郎や小春や母さんも居れば、可能性としては祖父ちゃんの方がそういう才能強そうだし。神様的な力を宿してるかもしれないものを飲み込んだならまだ納得じゃない?』

 

「それは分かりませんよ? 私達親子はそういうのを持っていなくてもこんな有り様ですから」

 

「これ以上ないお言葉ですね……」

 

深羽さんのお父さんについては謎がありますけど、射影機無しでも色々見えてますものね。

 

『憑代の件は了解だ。幽霊やマヨイガについては何かわかったか?』

 

「あんたは分かってるでしょうけど、気持ち悪いくらいに霊がいないわよ。現世の影響が強い日中はどっかに隠れていて、日が落ちてくるとこっちに来るんでしょうね。マヨイガに関してはまだ詳しくは調べない事にするわ、下手に踏み込むと引き連れてきちゃうかもだし。もしそうなったら……武実乃山が地獄になるわよ」

 

あんな怨霊でしたからね……。

あれが山を徘徊するようになろうものなら、下手をすれば穂織から完全撤退もあり得そうです。

その時は……流石に私もあきらめるしかないか。

 

 

 

「私やお母さん、夕莉さんが襲われたら――多分絶対霊よりヤバいのが出てくるから」

 

『『「「そっち!?」」』』

 

 

 

あの絶対霊以上!? 一体何を引き連れているんですか!? 不来方さんまで!?

 

「ちなみに一番ヤバいのは放生さんね、こっちはほぼ出現確定だし()()()()()()()()。七股出来るタラシは伊達じゃないなあ。武実乃山ごとあっちに消えたくなかったらちょっかいかけない事ね」

 

『最初からそんなを事するつもりはないが……肝に銘じておこう』

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

「思っていたより得られたものが多かったですね。やっぱり実際に見てみないと」

 

「……タフですね、井山さん」

 

「ワタシもいろんな意味でクタクタです……」

 

「女優は体力仕事なんですよ? それに結構日上山も往復しましたから。あの時は若かったなあ」

 

 

 

一旦山の探索を終えて。

 

「甘味でも食べませんか?」との深羽さんの提案に便乗して、現在田心屋に向かっている所です。

今日は文字通りエネルギー切れですからね。カロリーを補給したいところではあります。

 

茉子は幽霊に触れられた時以上にダメージを受けていそうね……間違っても他の人に話すような事はしないから安心なさい。特に有地さんに気をつけないと。

 

にしても。

 

「日上山って……今は封鎖されているような感じでネットには書かれていましたけど、その前に通われていたという事ですか?」

 

確か百科事典にそれらしい事が。

大規模な土砂崩れに加え、トンネル周辺での崩落事故もあったと記憶しています。

土砂崩れはかなり前だったはずだけど、崩落事故は十数年前くらいだった気が。

 

「いえ? その後からですよ。破れた金網を潜って、廃棄されていた山の機材を動かしたりして」

 

「アグレッシブすぎませんか……?」

 

「ず~っと探し続けてきて、ようやく手に入った手がかりでしたからね。最初は藁にも縋る思いでしたけど、いざ山腹に入って確信が得られたのならそりゃあ入るでしょう?」

 

「半分くらい心霊スポットだったんですよね?」

 

「私にとっては日常と変わりませんから。それと半分じゃなくて完全な心霊スポットでした」

 

そうだった。少なくとも不来方さんと雛咲さん親子に「心霊スポット」なんてものは存在しないんですよね。何処であろうとほぼ同じ。

 

とはいえ、そんな場所に何を探しに行かれたんでしょう?

多分今の私たちと同じくらいの年の頃ですよね?

14年間何かを求めてこられたとの事でしたけど……。

 

「まあ巫女姫様があそこに入る事は勧めませんね。参道はボロいですし、そこら中水浸しだったしで普通に登るのも結構ハードですから。常陸さんなら大丈夫でしょうけど」

 

「幽霊関係は問題ないんでしょうか?」

 

「――当時はともかく、今は大丈夫だと思いますよ」

 

一体何があったんでしょう? 今は良くても「当時」はダメ?

理由が想像つきませんが。

 

 

 

「あら、巫女姫様。常陸さんに井山さんも。いらっしゃいませ、今日もご一緒だったんですね」

 

そんな話をしている間に、いつの間にか田心屋に辿りついていました。

馬庭さんの元気な笑顔には癒されますね。

 

「こんにちは、馬庭さん。お邪魔してもよろしいですか?」

 

「勿論です! どうぞ中へ。井山さんの従姉妹の方は、今日は御観光ですか?」

 

「はい。今頃説法でも聞いているんじゃないでしょうか」

 

「??? 穂織にお寺が……?」

 

「と、とにかくお世話になりましょう! よろしくお願いします」

 

説法て。

深紅さんはもう一人の黒澤さんに何を怒られているんです? 運転の荒さとか?

 

そうだ。こちらも確認させてもらいましょう。

 

「馬庭さん、小春さんのご様子は伺っていますか?」

 

「ええ、元気ですよ。駒川先生からのお話もあって、まだバイトは休んでもらっていますけど。今日もお昼に顔は出してくれまして、以前みたいな溌溂とした感じが戻っていました。連休中はアタシ達も人手不足なので、早めに復帰してもらった方が良いかなあ……」

 

「そうですか。それはよかったです」

 

今日有地さんも様子を見に行かれていたわけですけど、大丈夫みたいですね。

加えてぼーっとしているような感じもないと。本当に良かった。

 

「鞍馬君の妹さんが、彼に手綱を振り回されて気疲れでも起こしているんですか? そうなると私達の学年(三年女子一堂)でも彼を総スカンにする案が出てくるんですけど」

 

深羽さんはよくそんなストーリーを即興で口に出来ますね? 本当にありそうでこわい。

 

「いえ! そういうわけではないんですけど……総スカンにしてもらった方が廉太郎も矯正されるかなあ? なんでまー坊とあそこまで差が出来ちゃったんだか」

 

「今丁度更生中なので、井山さんは勘弁してあげてください」

 

「そうですか? 分かりました」

 

取り敢えず、鞍馬君の連休明けの身は守られたようです。

 

 

 

「それでは、ご注文がお決まりになりましたらお声がけください」

 

馬庭さんからほうじ茶を頂いて、ようやく一息です。

今日は深紅さんが居ませんから注文数も普通になりそうですね。

 

「大福を頂きましょうか、お母さんのおススメだったし。巫女姫様達は以前からここの常連でいらっしゃるんですか?」

 

「芳乃様はつい最近まで箱入りもいい所でしたから。今年度に入ってからですよ」

 

「箱入りって……」

 

「それじゃあ穂織のどこかのお店にご自分だけで入られた事があるんですか? 少なくともワタシは芳乃様とどこかへ遊びに行った記憶はありませんが。誘っても断られてましたし。友達と遊ばれたのすらこの前が初めてでしょう?」

 

ぐぬぬ、これはお昼のアレを根に持ってるわね?

 

「夕莉さんも大概でしたけど、巫女姫様は輪にかけて日常がループしていたんですね。まあ事情が事情ですから分からなくはないですけれど、あっという間に年取っちゃいますよ。長生きするつもりなんでしょう?」

 

深羽さんはサラッと重い事をブッこまれますね? その通りではあるんですが。

 

「ワタシは和風パフェにしましょうか。芳乃様はどうされますか? プリン以外で」

 

あっ!? プリンを封じられた!?

 

「昨日のお母さんを思い出してください。このお店にはあれだけメニューがあるんですよ? 知っている味が一つだけじゃ勿体ないと私も思いますけど」

 

援護射撃まで入ってきた……昨日ぜんざいも食べたじゃないですか。

まあ確かに、深紅さんは一体何種類のデザートを食べられたのやらでしたね。

 

「では……私はあんみつを頂きます」

 

「了解です。馬庭さん、すみません」

 

金時も悩みましたけど、まだ夏ではないですしね。さてと。

 

「ご注文はお決まりですか?」

 

「はい。えっと、あんみつ「と和風パフェと大福、それから金時にきんつば、胡桃ゆべしをお願いします」!!??」

 

「はい! 今日もありがとうございます! それでは少々お待ちください」

 

一気に三品追加されている!? しかも金時も混じっているし! ゆべしってなんですか!?

 

「考えずに食べたいものを頼んだらいいと思いますよ? お代はこっちで持ちますから。この中では表向きにも年長者ですし」

 

「なんで金時に悩んだって分かったんですか?」

 

「顔に書いてありますから。読むまでもないです」

 

そこまではっきり!?

 

「すごいですね、ワタシもそこまでは芳乃様の表情を読めないです。あんみつが第一候補じゃない事は分かってましたけど。それとお代は……流石に自分たちが選んだ分は出させてください。ダメ人間になりそうです」

 

「そうですか? ならそうしましょうか」

 

先日の土下座の時の有地さんといいムラサメ様といい……みんな私の心が読めるようになってきているんじゃあ?

 

 

Prrrrrrrr……

 

 

「ん? 私の電話ですね……不来方さん? ちょっと失礼します」

 

「はいどうぞ。大体話の中身の予想は付いていますから」

 

という事は、深羽さん関係なんでしょうか。取り敢えず電話に出ましょう。

 

「もしもし、朝武です」

 

『不来方です。今お電話大丈夫ですか?』

 

「はい。問題ありませんが……何かありましたか?」

 

口調は特に焦っている様子もなし。急ぎではなさそうです。

 

『今深羽さんの携帯を契約した帰りでして。傍に深羽さんが居らっしゃるならお渡ししておこうかと。可能そうですか?』

 

ああなるほど、確かにそういう話になりそうですね。

そう思って深羽さんを見ると、深羽さんからいつの間にか私に手が伸びている……。

先日のお電話もこんな感じで代わられていたんですね。取り敢えずお渡ししましょう。

 

「ありがとうございます……どうもです、夕莉さん。今田心屋にお邪魔してます……お、いい仕事ですね。それならいけるかもしれないです。それではお待ちしてますので」

 

単に電話契約された以外にも何かなさっていたような感じでしょうか? いい事みたいですけど。

 

「すみません。私宛の連絡だったのにそちらの電話を借りてしまって」

 

「いえ、それは全然大丈夫なんですけど。井山さんはスマホを持ってきておられないんですか?」

 

「ここにありますよ? 電源を切ってあるだけです」

 

ポーチから出てきたのは何一つ飾ったものがない、でも恐らく最新式のものだろうスマホ。

確かにこちらに来る前、電源を切ったとは聞いていましたが今の今まで?

 

「それだと「携帯」電話の意味がないのでは?」

 

「今お母さんが出掛けているじゃないですか? それで何かの拍子にこの携帯に電話をかけてこようものなら、延々とお経みたいなのが流れるウォークマンに変貌しかねませんから。今日のお出かけは決まった時間に先方からお電話を頂く事になっているので」

 

深紅さん……。

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

「お待たせ致しました。こちらは最初の三つ、あんみつと大福と和風パフェになります。残りもじきにお持ち致しますので」

 

「ありがとうございます。それと今から不来方さんがこちらに来られるので、ほうじ茶をもう一人分頂いてもいいですか?」

 

「夕莉さんもいらっしゃるんですね。承知致しました」

 

「……おお、色とりどりです」

 

「思っていたよりサイズがありますね。夕ご飯はワタシたちの分を調整しておきましょう」

 

馬庭さんが注文した品を持ってきてくださいました。

あんみつはみつあめに餡子が乗っている物……と思っていたんですけど。随分カラフルです。

給食に出たフルーツポンチを彷彿とさせますね。

 

「昨日も思いましたけど、価格の割には豪勢ですよね。都会で出したら倍は取れますよ」

 

「そんなに他の町と穂織は違うものなんですか?」

 

物価もそこまで違うんでしょうか。というか、都会は倍もするんですか? お財布が……。

 

「いや、多分このお店だけです。志那都荘は相場より少し安いくらいでしたし。恐らく昔設定した価格のまま、材料の質や物価の変動を無視して据え置いているんじゃないですか?」

 

「田心屋の大将さんは頑固一徹らしいですからね。ちっとも言う事を聞かないと馬庭さんがぼやいていらっしゃいましたから」

 

ああ、だから馬庭さんが経営に口を挟まれているわけですね。

大将さんに任せるとお店が破産しかねないから。

 

「……あ、いらっしゃしました。皆さんお疲れ様です」

 

少し口につけたところで夕莉さんが田心屋にいらっしゃいました。

 

「いらっしゃいま……あ、夕莉さん。いらっしゃいませ。巫女姫様達との相席でよろしかったですか?」

 

「お邪魔します、芦花さん。それで大丈夫です、ありがとうございます」

 

「こんにちは、不来方さん……なんだか荷物が多くないですか?」

 

深羽さんの携帯の契約に行かれていたんですよね?

だとしたら紙袋は1つで十分な気がしますけど――3つある。

 

「私のと私のとお母さんのです。にしてもよく見つけましたね? 骨董レベルでしょ?」

 

「全く需要がないわけではないらしいんですよ。メールやネット機能を煩わしいとお考えの方もいるそうで」

 

「井山さんのが2つあるんですか?」

 

「片方は穂織用の、もう片方はお母さんとの専用です。出来る限りデジタル要素を除いた機種を探してもらったんですよ。昨日はショルダーフォン(バブル時代のやつ)も考えていたくらいだったんですけど」

 

そうして不来方さんが深羽さんのお隣に着席されて、袋から出てきたのは。

 

「……これ、携帯なんですか?」

 

どうみても家庭用電話の子機ですらないのでは? 液晶画面すらないんですが。

 

「あはは! すごいすごい、よくまあこんなものを。もはやトランシーバーですね」

 

「お店の方にも「本当にこれでよろしいんですか?」と何度も確認をされてしまって……」

 

「そこまでしないと使用が難しい深紅さんがまたすごいですね……」

 

「逆に霊石ラジオとかだと物凄くクリアな音声で流せるんですけどね、普段はそっちですし。あ、巫女姫様達の番号教えてもらってもいいですか?」

 

れいせきラジオ? とやらが何なのかはわからないですが、取り敢えず良かったです。

にしても、穂織用とはいえ大女優の携帯番号を知ってしまってもいいんでしょうか?

 

この辺りは茉子が手慣れているので、茉子が深羽さんの穂織用新スマホを借りて私のスマホにもササっと登録してくれました。登録名は「井山雪」さん名義です。

 

「夕莉さんもお疲れ様でした。ゆべし、食べてください。夕莉さん用だったので」

 

「ありがとうございます」

 

それ不来方さん用だったんですか!? まさか未来視まで出来たりします?




「何が出てくるんです?」→「ラスボスの皆さんだ」

ゆべしは柚餅子と書く東北・関東の和菓子です。何故か選びました。
ちなみに夕莉と深羽はお互いの心の中がある程度筒抜けです。

霊石ラジオって会話可能なんですかね? 雛咲親子ならクリアな音声にはなりそうですが。

散策は今回で終了。次は久々に射影機が出てきます。一日が終わるまであと二話。
次回も楽しんで頂けたら嬉しいです
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