零 ~イヌツキの少女達~   作:もふもふたぬきねこ

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ゲスト的なキャラの登場です。
原作から28年後。既に50を超えている彼女ですが、どんな姿なのでしょうね?

裏話的な本話ですが、後々話に関わります。

評価を付けて頂きありがとうございます。
カラーバー! 赤色になるような作品を目指したいと思います。

今回アンケートをお願いしています。
本作のクロスオーバー先(というか、本来は主題側)の「零」シリーズを
どのくらい読者の皆様がご存じか、というものです。

今回も宜しくお願い致します。


28. 娘として女優として元アイドルとして

「どうも母がすみません。私も黒澤さんに全くお礼出来ずにいて」

 

『大丈夫よ。というより、深紅の娘がこれだけ溌溂(はつらつ)と話が出来る子なのに驚いたわ。経緯が経緯だからあまり世間に出ずに育ったんだろうなあと思っていたのだけど、まさか「宗方美優」とはね。それと私の事は「(れい)」で結構よ。密花さんは私も存じているし、本当なら私も「麻生」になっていた人間だから』

 

『れ、怜さん。深羽の前であまりそういうお話は……』

 

『何? あの後いきなりアシスタントを辞めて、サチさん経由で子供を生んだって話は聞きつつあなたからは何の連絡も無くて、更には写真を撮られに来たと思ったら3歳の娘をほったらかして行方不明になって。密花さんからお話を頂いた時は、また()()()に囚われてしまったのかと心配したくらいだったのに。こっちは年齢通りの年を重ねて、あなたは殆どあの時のままってどういう事? その肌のハリとツヤは何? しかも真冬さんとイチャイチャ? また私の愚痴を延々と聞きたい? 私も日上山に迷い込んだ方が良かったのかしら、優雨(ゆう)にも会えたかもしれないものね』

 

「冗談でもそのご発言は止めてください。結果的に今の形を維持できていますけど、本当ならお母さんは怜さんに会える状態ではありませんから」

 

 

 

夜8時、予定していた定時連絡。

 

怜さんが時間をきっちり守ってくださる方で助かった。

下手にこっちのスマホの電源を入れておくと色々な所から連絡が入って面倒この上ない。

 

フラフラしがちな我が母が一時身を寄せた女性。

しっかりされている方なのは想像していたけれど、強い芯のある人みたいだ。

というか……お母さんがこの人の家事全般を見ていたってのに驚き。逆じゃないの?

 

 

 

『まあ、あなた達の事は一旦置いておきましょうか。写真の補正は出来たけど、それでも私の知識で読めるものはなかったわね。知り合いに天倉(あまくら)っていう作家がいるから、文字らしき部分だけ送って読めないか聞いてみるつもりよ。深紅なら直接手に持っていても問題ないでしょうけど、この写真も相当なモノみたいね』

 

「ありがとうございます」

 

天倉(けい)さん。確か……お父さんの仕事仲間で、怜さんの婚約者だった麻生優雨さん関係の。

お母さんが怜さんの元にいた頃、姪の双子の方が面倒事に巻き込まれたって話だったか。

 

おかしな繋がりだ。単なる親戚・友人関係の筈が、全員怨霊の被害者なのだから。

 

写真には写ったモノの記憶が宿る。モノは人に限らない。ヒトも、怨霊も、世界すらも。

朝武さんが撮ったあの場所は「隠世」、本来なら「ありえないもの」。

それを写したものが現実世界に存在してしまっているのだから大変だ。鏡宮さんとか特に。

 

本当なら焼いてしまった方が良いのだけれど、朝武さんに協力すると決めた以上は重要な手がかりとして扱わなければならない。寄香にはもってこいのシロモノなんだから。

まあ私の本来の役目は怨霊に対する兵器でしかない。こちらのお仕事は放生さんと鏡宮さん、そして天倉さんにお任せするとしよう。

 

『深羽さんから見て、今回の穂織の件はどう思っているかしら? 少なくとも私達が体験した出来事とは方向性が違うみたいだから、いいアドバイスはできなさそうだけど』

 

「「ややこしい」の一言ですよ。今の穂織や彼女達が抱えている問題がいくつあって、どう絡まっているのかを分けないと混乱します。偶々同時発生しているだけかもしれませんし、逆に全部繋がっているかもしれないですし」

 

『深羽、それはどういう事?』

 

「朝武さんのお付きに常陸さんって女の子がいたでしょ? あの子、件の朝武長男の直系の子孫らしいの。まさか血筋が残っていたとはね。で、呪詛を放った当の本人の直系にもかかわらず、祟り神とかいうヘドロの襲撃を受けているのは意味不明。それにおチビさんが見える理屈の通った理由にはならない。ある程度判明した事もあるけど、何がしたいのやら何が絡んでいるやらよ」

 

『話には聞いたけれど、随分と賑やかな生き霊がいるものね。世の中そんなのばかりだと気が楽なのだけれど』

 

()()()()()()()()()()を鑑みるに、朝武さんへの呪詛云々だけで話が終わるとは思えない。

彼女も同レベルで危険な立場にある可能性が極めて高い。けど、そっち側は専門外なのが現状だ。

おチビさんについても不明な点が多い。聞いた話とは別に考察する必要がある。

 

「まあ、彼女達の現状だけでもお腹いっぱいというお話ですよ。で、怨霊が出現し始めたきっかけは御神刀が抜かれた事の可能性が高いですけど、仮にそうだとして呪詛を祓うための刀を抜いたら怨霊が出るってどんな欠陥封印なの? と。 他にも色々ごっちゃごちゃでして、下手に凝ってる脚本家や原作者の設定よりひどいです」

 

まあ、聞いただけでも封印をトチったケースは4つある。昔の人も何やってんだか。

日上山の件はあのクソ鉈男と麻生博士に賠償を請求する。

 

『あの仲居さんのお話もあるものね。必要なら、周辺の町で戦国当時の穂織の状況の客観的な印象を調べる事は出来るわよ? 違う視点を得られるかも』

 

探偵を鼻で笑える直感の持ち主だものね。

何故数百万部とあるだろう新聞のバックナンバーから、正解をピンポイントに引けるのか。

 

「お母さんならあっさり調べられそうだけど……今はいい。帰って来て、不安になるから」

 

『調査の腕前は私の知る中でピカイチなのに、娘に人間性を全然信用されてないわね? アドバイスにならないって口にしたけど……私のケースに当て嵌めるなら「想定外(アクシデント)」の一言かしら』

 

「想定外、ですか?」

 

あまり怜さんがどういう出来事に巻き込まれたかは知らない。

怜さんは「眠りの家」に囚われた。お母さんは「氷室邸」で自分の過去を繰り返したと聞いた。

取材先であった久世屋敷(眠りの家)で、写真を撮ってしまった事が始まりであると。

 

知っているのは精々そこまでだ……私の原点でもあるようだけど、だからこそ聞いていない。

 

『私が知っている封印の儀式――戒ノ儀(かいのぎ)の失敗の真実は、「人柱の心を揺さぶる出来事が儀式完了の寸前に発生した」という想定外が発端よ。なら穂織の件は「刀の使われ方」が想定外なんじゃない? 今までは刀無しでもその祟り神とか言う怪物を退治できていたんでしょう?』

 

 

 

御神刀「叢雨丸」の使用方法自体がおかしい……あのチビは何と言っていた?

 

戦国当時、長男こと朝武義和が放った呪詛「犬神」を祓う目的が元々と聞いたはず。

朝武さん達が対峙しているのは、その残り物が「憑代」の力を得て「祟り神」と化したものだと。

今の叢雨丸の在り方は、それらを祓うものだと私は整理していた。

 

なんだかおかしい。

 

あの刀が祟り神を祓うためのシロモノなら、なぜ有地君が現れるまで誰も使えなかった?

それまでに何人の巫女姫を犠牲にした?

たまたまあの憑代を口に入れた人間が現れるのを数百年待っていたとでも?

だったら欠陥品にも程がある……なんだか前提もおかしくないか?

 

たしかネットで見た限りあの刀は元々神楽殿の岩に刺さっていて、誰も抜く事ができず。

勇者の剣イベントとやらにはなっていたけど、ちゃんと使い手を捜すって目的があって。

最終的に有地君が抜いて、そのまま使い手として振るっているというのが今の状況。

 

 

 

――なんでわざわざ岩に刺さっていたの?

 

 

 

『深羽、考え過ぎては駄目よ。あなたは私と違って頭が良いのだから、悩み過ぎてしまうわ』

 

「……そうね、今も思考の渦に飲まれそうだった。この辺は夕莉さんや放生さん達にも知恵を借りるわ、勿論朝武家にもね。あとサラッと自分をディスらないで」

 

『えっ? 私、何か変な事を言った?』

 

相変わらず自覚がないわね、この母は。自分を卑下しないでっつうの。

 

『あなたも大変ね、深羽さん。取り敢えず深紅は今晩こちらで借りて、明日そちらに送り返すようにするわ。ルリ(うちの猫)も久々に深紅に会えて喜んでいるし、この子の家事スキルを存分に生かしてもらえるし。今の写真は下手にメールで送ると危険そうだから深紅がそちらに着くまで待って。螢にはその後会いに行くようにするわね』

 

『まだ片付ける場所があるんですか……? この子の事は私も嬉しいですけど』

 

『この連休中の食事の作り置きよ。あなたの方が料理上手だし、外で食べるにしても人が多いし。にしても、何で深紅の方に懐くのかしら』

 

「ありがとうございます。あ、今後の連絡なんですけど」

 

新しい携帯にしてもらわないと。夕莉さんに買ってきてもらった意味が無いし。

お母さんもたまにはいいじゃない、うちでは時間を持て余していたでしょう――主に私のせいで。

猫に懐かれていたのは初耳ね、飼うのも一考かな。

 

『了解よ、今後はそちらでね。あなたも時間が空いたら私に顔を見せてくれると嬉しいわ。私にとっても娘みたいなものなんだから』

 

「ええ、近いうちに必ず。それではお母さんをよろしくお願いします。お母さんはくれぐれも怜さんの家の家電を壊さないように」

 

『えっ。最初にお邪魔した時にもうインターホンを――』

 

 

ブツッ!

 

 

ピンポンじゃなくてノックしなさいって言っといたじゃない。修理費、どうしようかな。

 

取り敢えず写真の件はこれで進展するはず。放生さん達と天倉さんにお任せしよう。

夕莉さんはともかく放生さん達には直接伝えるか。同じ建物にいるんだし。

 

 

 

 

 

 

「あ、ミウさん! これからお出かけでございますか?」

 

「ううん、放生さんの所に顔を出すだけだから。心配しないでレナちゃん」

 

 

 

私達の部屋の担当をしてくれているのは、女将とこちらのレナ・リヒテナウアーちゃん。

リヒテナウアー(L i e c h t e n a u e r)なんてファミリーネームだったから、てっきりドイツ人なんだと思ってた。

 

日本に来たのはごく最近。だから表の私(宗方美優)の事も知らなかった。

ならこちらとしても気安くていい。加えてこの子の心は綺麗で誠実だ。

という事で指名させてもらった。女将さんがいるし大丈夫でしょ。

 

欧州人らしく純日本人にはいない金髪ではあるけれど、聞いた話では僅かに穂織の血が入っているとの事。そのせいなのか、どこか日本人らしさも見られる親しみやすい顔だ。

 

雛咲だとややこしいし、こっちとしても「リヒテナウアーさん」といちいち口にするには時間がもったいない。なので互いに名前呼びにさせてもらっている。

 

中々に面白い子である。

日常的な日本語は全く問題ないし、発音も極めて滑らか。

なのに……外国人あるある「ニンジャ、サムラァイ」的な日本感を別の方向に曲げたかのようなおかしな知識が時たま混じって来る。私が話していて飽きない人は稀有だ。

 

取り敢えず「上手なベッドメイク」≠「床上手」である事を女将に通報しなければならない。

他の人の前で口にすると面倒な事になるわよ。こっちは半分体験済みだからよく知ってる。

 

……直接この子は穂織の現状に関係ない、という話ではあるけれど。

気配が気になるのは事実。お母さんと夕莉さんに危険が降りかかる要素は可能な限り排除したい。

とはいえ、こんな子の記憶を読むのは避けたい。話をする程度に留めましょうか。

 

 

 

「レナちゃんはおじいさんに穂織の事を聞いて、ここに来る事に決めたんだっけ?」

 

「はい! 初めて聞いた時から必ず来たいと思っておりました! 留学枠も全然お話が無くてかなり先になる事を覚悟しましたが、まさか雇って頂けるなんて。患者還暦雨あがれです!」

 

「いいとこだもんね、ここ。レナちゃん的にはどんなところに惹かれたの?」

 

「そうでありますね……具体的に「こう」というのはないのかもしれません。ただ、お話を聞いただけで穂織の風景が頭に浮かんできたり、なんだかファミリーが集まった時の雰囲気を思い出したりでして。来た事も見た事もないのに懐かしいような気分になりました。おかげで実際に穂織に来てからも違和感なく落ち着けております。どうにも最近ちょっと耳鳴り的なものはするのですが、まだ緊張しているという事でしょうか」

 

「緊張はまだ残っているでしょうね。でもまあ、すぐに慣れてくるわよ」

 

なにかしらの既視感(デジャヴ)に近い? 憑代とやらにそんな効果があったりする?

有地君の例じゃ判断しようが無いしなあ。

耳鳴りは……私は医者じゃない。適当な回答は避けるべきかな。

 

「ミウさんはアイドルをされているとの事ですが、芸能の方から見た穂織というのも独特なモノなのですか?」

 

「珍しくはあるかな? 全住民含めで今時ここまで「昔の日本です!」的な雰囲気を町全体で醸し出してるとこは来た事がないし……それと今の私は女優(アクトレス)なんだけど、なんでアイドルって?」

 

「ああっ、それは大変失礼ちゅかまちゅりました。レンタロウが休憩中にうんうん唸りながら雑誌を読んでいたもので、何を悩んでいるのかと思ったらミウさんと思わしき方がアイドルとしてご紹介されている記事でして。ニッポンの……フォトグラビア、だったでしょうか?」

 

オーナーさん経由で焼却処分しておいてもらわないといけない。

よくまあ彼も10年以上前の雑誌持ってたわね。あの子達は当時小学校低学年くらい?

まさか今の私とあの黒歴史を結びつけられるとは。勘はいいらしい。

よし、総スカンにしてもらうよう常陸さんにチクろう。身バレするっての。

 

「あの……ミウさんはどうやって自分に自信をお持ちになっていますか?」

 

「うん? アイドルやら女優やらやっているからって事かな?」

 

「はい……ニッポンでだと違うみたいですけど、祖国でのわたしは引っ込みがち扱いというか、周りの子達と比べて子どもっぽさが抜けないというか。友達が男の子と恋人になって、その……お、おっ、おと、おと、な、な、関係、になってる子もそれなりにいるのに、わたしはその手前の関係にも踏み込めそうにないといいますか……恥ずかしくなってしまうんです」

 

こういう所は日本の血なのかな? この国も最近はそうでもないけど。

 

「そうねえ、私が自分を空っぽにする事はある意味特技に近いから自信とはちょっと違うかもね。ただ今の話からレナちゃんに言えるのは――周りに合わせる必要は無いと思うわよ?」

 

「合わせる、でありますか?」

 

「そう。周りは周りで自分は自分。引っ込み思案は日本風にいうなら奥ゆかしい。私が子供の頃から水着で写真を撮られ慣れているのは、ただの考え無しのバカ。だけど一方で勿論その仕事を誇りに思っている人もいるわけね。価値観なんて人それぞれなんだから、合わせる必要は無いわ。「これが自分なんだ」って思う様に言い聞かせるといいかもね」

 

中身空っぽだった私が何言っているんだってお話だけど。

ちなみにお母さんの考えは許さない――自分だけ好き放題やってこっちを放置すると?

だから縛らせてもらった。まだまだ責任は取ってもらう。

 

「――これが「わたし」、ですか」

 

「説教臭くなっちゃったわね。まあ私なりの解釈でしかないから、いいように考えてみたらいいんじゃない? それこそ友達に相談したりしてね」

 

「……そう、ですね。そうですね! はい! ヨシノやマコたちにもお話を聞いてみようと思います!」

 

うん、この子は笑顔が似合う。夕莉さんくらいしか友達の居ない私とは大違いだ。

 

「それじゃあお仕事頑張ってね。女将さんには課題を増やしとくよう頼んでおくから」

 

「はい! ……はいぃっ!? えっ!? わたしは一体何をやらかしたので!?」

 

この子が神様的な血筋ねぇ……。




前書きの通り、アンケートをお願いしております。
結果に応じて作中での解説度合いを調整しようと思っています。
どうぞよろしくお願い致します。

夕莉さんもっと動けません?

「黒澤怜」は零シリーズ3作目「刺青(シセイ)(コエ)」の主人公でフリーの写真家です。1988年当時23歳。

本編に大きな関わりはありませんが、本作では天倉姉妹が生存しています。
「虚」エンドではありません。

この話を書いていてふと思いましたが、レナの中の人が
某ミミック万歳エルフの魔法使い等と未だに一致しません。聞き直しても分からない。

今回で長かった一日が終わります。本当に長くなってしまいました。
次からはようやく話が動き始めます。射影機も怨霊も祟り神も準備万端です。
次回も楽しんで頂けたら嬉しいです。

「零」シリーズについてどのくらいご存知ですか?

  • 「零 ~濡烏ノ巫女~」をプレイ済み
  • 「零」シリーズのいずれかをプレイ済み
  • 「零」シリーズは知っているくらい
  • 「零」シリーズをほぼ知らない
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