前置きが長くなりましたが、この日も全部で7話あります……。
アンケートにご回答頂きました皆様、ありがとうございました。
詳しくは御存じない読者様のほうが多そうですので、「零」側に関する
用語や人物に関してはチャプター4の最後に掲載予定の登場人物紹介などを
通して、世界観を知って頂く形にしていきたいと思います。
今回もよろしくお願いします。
「はぁ~……」
「まあまあ芳乃様、これまでのお務めと同じです。ワタシがこう言うのもおかしいですが気に病まれないでください」
『4日ぶりか。まあ前向きに捉えるなら憑代を集めるいい機会と思う事だ』
朝起きて、鏡を見て。
――獣耳が生えてた。
どうにも寝ている間に生えたみたいですね。
昨日深羽さんは耳に関して言及されませんでしたから、その後から濃くなり始めたんでしょう。
単に祟り神を祓うだけならまだいい。これまで何度もやって来たんだもの。
だけど。だけどですよ。
「射影機のお世話になるのは……正直まだ慣れないんだもの」
私が怨霊相手に撮影したのは、3日前のマヨイガの「絶対霊」なる怨霊兼怪物以来の事。
アレのお陰で多少は耐性が付いた気がしますけど、いざ対峙した時にどうなるかはわからない。
またファインダー一杯に幽霊を捉えなきゃいけないと思うと、それだけで気が重くなる。
『芳乃が吾輩の気持ちを理解してくれるようになって嬉しいぞ。怖いであろ? 幽霊』
「存在がどうこうというより、私にとっては見た目の問題がありますけどね……」
白目を剥いた人と相対するとか、生きてる人でも嫌ですよ。
「現状が現状ですので予め不来方さんたちにご一報差し上げた方が良いでしょう。芳乃様はこれから舞の奉納がありますから、よろしければワタシの方で連絡しておきますが?」
「そうね、私だと妙に硬い印象の文章らしいし。お願いするわ」
「こういうメールで「拝啓」だの冒頭の挨拶だのは不要なんですよ。承知しました」
『ご主人にも「確信はないが祟り神出現の可能性がある」とは既に伝えてある。若干微熱気味? まあ37度きっかり程度でトレーニングにも行っておるから大丈夫だとは思うが。夜に出る事になってもすぐに支度できよう。まずは芳乃もやる事をやるのだぞ』
「そうですね、わかりました」
有地さんも少しお疲れなのでしょうか。私以上に慣れない環境で過ごされていますからね。
着替えて神楽殿に向かっている間に遠くの方で、
ウォン!! ウォン!!
という小さいながらも目立つ音が聞こえてきましたから、深紅さんもお戻りになられたでしょう。
――つまりは写真の補正に進展があったという事で。
不来方さんと深羽さんからもお話があるかもしれません。
♢♢♢
「本当にコスプレですね、モフモフ犬耳の巫女なんてそれだけでも映えそう。畏れられるどころか観光客寄せに使えるんじゃないですか? 良ければ事務所に話出しますけど」
「深羽、そういう事は思っていても口にしては駄目よ?」
「深紅さんも口を開かれない方が良いかと。後押ししそうだ」
「これが呪い関連で現れているというのは……私としても信じられませんけど」
『やはり祟り神と怨霊は気配が違うようですね。じゃあ私が感じているのは一体……?』
現在、志那都荘の最上階。雛咲さん親子のご宿泊のお部屋。流石はスイート、広いですね。
不来方さんはお店があるのでお電話でのご参加です。
私たちが分かるレベルで耳が生えると、放生さんと鏡宮さんも見る事が可能だそうで。
しかしまあ、これって本当に外ではコスプレ扱いなんですね……。
でもそれで穂織への偏見が減るなら、私はっ!
「じゃあ今晩山に入る事は確定と。その際私が放生さんの射影機を借りて、朝武さん達に同行させてもらいます。それでいいですね?」
「貸すのは構わないが……君自身の事はいいのか? フィルムの話もある」
『フィルムについては、昨晩
「つまりもしかすると零式で八連射が可能と。私の力使えばこの写真のご本人が現れてもどうにかなるでしょ。しっかしまあよく黒澤さんも製造元知ってましたね? 南の方の離島なんでした?」
「あまり力を使い過ぎては駄目よ? 深羽にも負担が大きいのだから」
「お母さんがそれを言うの? 自分から襲われに行くくせに」
『これが……これが怨霊退治に向かう前の者達の会話なのか?』
「下手に緊張されるよりいいけどね。心霊番組の潜入がバカみたいに感じるのは同意しとく」
「ワタシたちも変に緊張しませんし、心強い限りですよ。ねえ芳乃様?」
「そうではあるけどね……無駄に緊張している私もバカなのかしら? それと、有地さんの微熱は本当に大丈夫なんですか?」
「問題ないと思うよ。トレーニング中に疲れたとかは特になかったし、朝ご飯も普通に食べられたし、今も倦怠感とかは特に感じてないから。強がりじゃないから安心して」
そう仰られるなら、一先ずは大丈夫ですか。
放生さんがお持ちの二眼の射影機は「連射」が可能なシロモノだそうで。
私が見た「四」の字は連射枚数だったんですね。で、才がある人は「八」になると。
九〇式の一撃で不来方さんがあの絶対霊を怯ませているくらいですから、最強のフィルムで不来方さんより強いらしい深羽さんが八連射なんてしようものなら、木っ端みじんにしそう。
「さてもう一つ……これが元々の景色、か。このくらいならなんとかいけるか」
「ポイントのピックアップは出来そうですね。拡大して解読を進めましょう」
「鏡宮さんは見過ぎないようにしてくださいよ? 物理的に絞め落とす事になりますから」
「そうなる前に俺が止めるから、君のスキャンダルネタは避けてくれ」
深紅さんが持ち帰ってくださった「補正後の写真」――写真家の方は凄いですね。
あの手振れ写真がここまで綺麗に出来るとは。お陰で不気味さも増し増しなんですけど。
あの瞬間はこんな感じだったのですか。
相変わらず、パッと見で読める字があるわけではない。
だけど文字だと分かる部分がはっきりしています。知識があれば大丈夫なのかもしれません。
そういえば。
「昨日放生さんがお持ち帰りになった日誌は如何でしたか?」
「ああ。まだ途中だが、麻生博士が当時の武実神社の神主と会話した事は間違いないようだよ。聞いた話を備忘録の形で書き記しているようでね、「陽炎山」の文字は見つけられた。まずは写真を優先するが、そちらも並行して進める」
「原稿もこれくらい気合いを入れて頂けると助かるんですけどね?」
「やっているだろう? 単なる解読より時間がかかるだけだ」
『密花さんに累さんのヒモ扱いされていますから、もう少し売り上げに繋げてください』
不来方さん、わりと躊躇なくザックリいかれますね?
「私は画像やら映像の補正を見るのは日常茶飯事だけど、あの写真をよくぞここまで。怜さんってそっち方面もプロなのね」
「怜さんは写真を画像として取り込まれただけよ? 画面に映したらパソコンが固まってしまって、怜さんに「角ぶっ叩いて」って言われたからチョップしたら更新されて綺麗になったの」
『なんと都合のいい怪奇現象なのだ……』
「私以上にお母さんの使い方を熟知してそうね。会うのが楽しみだわ」
深紅さんの家電破壊体質も、幽霊が関わると逆に極めて有効に作用するんですね……。
「解読に関して放生さん達には昨日お話したんですけど、怜さんのお知り合いの作家さんにもご協力をお願いしてます。セカンドオピニオンとして照合させてもらえれば精度も上がるでしょうし」
「文字の解読に多方面からの照合は定石だからな、都合がいい。彼が俺の遠戚だったのは知らなかったが……世の中狭いもんだな」
「
鏡宮さんは出版事務所から派遣される形で放生さんのアシスタントをされているそうですね。
作家さん関係に伝手が多いのも分かります。
というか。
「穂織の外って……こんなに色々と繋がっているものなの?」
「SNSを使えばそれこそ世界中だよ? 知名度がある人が一言呟くだけで1億人単位が動くから」
「芳乃様よりは世間を知っていたつもりでしたが、全く規模が違うんですね。驚きです」
『穂織が如何に時代から取り残されておったか分かるな。まあそのお陰で今の景観や文化が残っておるのだ、別に悪い事でもあるまい』
『そうですね、ぜひ穂織の個性を大切にしてください。私は今の穂織が好きですから』
今回の一件と私への呪詛が解けたら、一度は穂織の外に出てみましょう。
ネットでしか知らない世界だけど、間違いなく私の知らないものに触れられるでしょうから。
コンコン
ん? ノック音。志那都荘の方でしょうか?
「あ、来た来た。はーい、ちょっと待っててねー」
『吾輩の時にも、そのくらい明るく振舞ってもらえんだろうか……』
深羽さんが結構フランクですね? 基本誰にでも敬語なのに。
ムラサメ様は霊体である間は諦めてください。お身体はどこかにあるらしいですから。
「失礼致します! ご注文の品をお届けに参上仕りました! こんにちは、ヨシノ、マコ、マサオミ、ムラサメちゃんも」
「レナさんでしたか。お邪魔しています」
入口に姿を見せたのはお仕事着のレナさん。
この階へ立ち入る事が出来る人は制限されていると伺いましたけど、レナさんは入れるんですね。
お盆をお持ちのようですが?
「朝武さん達が来る前に深羽がお願いしていたんですよ。「せっかくこんないい部屋に泊っているのに、会議するだけだなんてつまんない」との事で」
「先生もそのくらいの事をやってくださる甲斐性が欲しいものです」
「ルームサービスは高いだろうが。スーパーで買ってきたら1袋で数日は持つんだぞ?」
『堂々と仰らないでください。累さんが不憫すぎます』
「ここの板長さん、ご飯は勿論なんですけど和菓子も一流って事だったんで。考え事をしている時に食べてもらおうかと」
「ええっと、1、2、3…………7? あれ!? 8人分お持ちしたのですが、間違えてしまったですか!? ムラサメちゃんが食べられるようになっていたりします!?」
『残念だが触れる事も叶わんよ。食べてみたいものだがな』
「間違ってない間違ってない、1個はあなたのだから。女将さんには話してあるから、はい入って入って」
「へっ!? ええっと……それでは失礼します」
深羽さんに案内されてレナさんが客室に。
まあお客さんからご飯を奢ってもらうというのは中々ない事ですよね。
さてお盆に乗っているのは。
「……竹筒、ですか?」
「多分竹ようかんだね、
「芳乃様ですよ? あるわけないじゃないですか。芳乃様ですよ?」
『二回言う必要があるほどの事か?』
なんだか茉子からの扱いがますます雑になっている気がしますが?
過去、私のせいで食べられませんでした的なやつ? なら食べたいって言いなさいよ!
「シゲさん……板長から「よろしければ風景もお楽しみください」との言付けを
「遺しちゃだめ遺しちゃだめ、それ死んじゃってるから。預かってるのよ? という事は中に仕掛けか……朝武さん、最初に
「えっ?」
突然深羽さんから何かの出番を振られましたが……吹く?
「ええっとですね。ここの穴から空気を入れて中身を出すそうですよ? ヨシノ」
「口で吹くんですよ、口で」
「深羽さんはそっち派なんですか? 口だと風船を膨らませる要領だけど、やり過ぎると中身が飛び出るから気をつけてね」
「有地さん、芳乃様に風船を膨らませた経験があるとお思いですか?」
「茉子、それ以上続けるなら昨日の深羽さんのお話をここでブチ撒けるわよ?」
これはアレなの? 昨日のお話の仕返しみたいなものなの? ちょっとイラッとしてきた。
ならばそっくりそのまま返しましょう――あ、固まった。
さて、そんな事を言われてはいますけど風船を膨らませた事がないのは事実です。
とにかく息を吹きこめばいいのよね? 穴って……ちっさ! ここを口でどう塞ぐんです!?
ちょっとはしたないですけど、竹筒を丸ごと咥えるしかないですか。
「……深羽、何故携帯電話を構えているの?」
「動画撮るために決まってるじゃない。こういう無駄にレンズの多いスマホの使い道はこういう場面なのよ。犬耳銀髪美少女が頑張って息を吐く姿、記憶に残すだけじゃ勿体ない。事務所送り用」
『私達以外犬耳は見えませんよ。犯罪臭がするので止めてください』
『これ……確か軽く振るだけで出んかったか? 雛咲娘の性格が分からんくなってきた』
「最初に会った時とは随分変貌したもんだ」
「この十年、先生は何一つ変わっていませんからね」
ふんっ!
割と……難しい! いきなりドバっと出そうで怖い!
ちょっとずつ、ちょっとずつ……!
おっ!
スポンッ!
「お見事です! ヨシノ!」
「おぉー中はこうなってたんだ。こういうのは初めて見た」
『風流だな。手が凝っておる』
「お疲れ様です、芳乃様。綺麗ですね。和食職人さんの手にかかればこういうお菓子も景色になるんですか」
竹筒の入り口は普通の羊羹の色だったけど、中身は透明な寒天の中に笹が浮いているような感じになっていて、逆の端は白く。
竹筒の中で笹が川の中を流れているようです。出すまで分からない、一つの景色ですね。
「夕莉さん、今動画送ったから観ておいて。これはお願いして正解でしたね、器用だわ」
『私を共犯にしないでください。というか、なんで動画にも犬耳が映っているんですか?』
「深羽はそういったものを意図的に変えられますから……」
「寧ろ動画の方が映り込みやすいものですよ、夕莉さん。私が入手してきたマヨイガのビデオにもはっきり映っていましたし」
「この犬耳と
放生さんがそう仰ると、竹筒を右手に持って……?
ブルブルブル、ブンッ!
スポッ!
「ええっ!?」
普通に出てきましたよ!?
他の皆さんも。
ブンッ!
スポッ!
「……深羽さん?」
「別に朝武さんのやり方がおかしいわけじゃないですよ? その方法も一般的ですし、竹筒から吸って食べられる方もいますから。私は一応女優なのでやりませんけど」
意図的じゃないですか!! 女優ならしない事を私にさせたんですよね!?
本作の深羽は大分俗に染まっています。割と芳乃はお気に入りです。
天倉螢もプレイアブルキャラなんですが、怜や深紅に比べると影が……。
そこまで本作には関わりませんが、せっかくなので仕事をしてもらいます。
もう一人の「水無月」は次話にて。
景色が描かれた羊羹は見かけますが、竹羊羹だとどうなんでしょうね?
次は喫茶・こずかたへ。フィルムの補充と……?
次回も楽しんで頂けたら嬉しいです。