零 ~イヌツキの少女達~   作:もふもふたぬきねこ

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喫茶店の店主である「零シリーズ」の主人公の一人、
夕莉に武実乃山での幽霊話を相談していきます。

今回もよろしくお願いします。


3.  私たちの知らない世界

私たちは淹れて頂いたコーヒーを頂きつつ。

みづはさんの奢りで不来方さんも飲み物をご用意されて――美味しいですね、このコーヒー。

落ち着く香ばしい香りに加えて飲みやすい。インスタントとはずいぶんな違いです。

 

お話の段取りはみづはさんから。

 

「夕莉君は穂織の「いわく」については知っていたね?」

 

「イヌツキの土地、の事でよろしいですか?」

 

「ああ、その事だ。率直に聞くが……ここに住んでみてどう思ったかい?」

 

本来はかなり変な会話なんでしょう。

祟り神が住まう土地に住んでみてどうか、なんて事をそこの住人から質問されるなんて。

 

ですが、返ってきた答えは。

 

 

 

「ナニカがいるというのは本当なのだと。ただ、それが無暗に町に降りて来なかったり人を誘わない時点で()()()()なのではないかと感じます」

 

 

 

とんでもない回答――祟り神がマシな部類!?

降りてこさせない為に私たちが動いているというのはありますが。

 

「ものすごい答えが返ってきましたね。流石にワタシも想定外です」

 

「俺もびっくりだよ」

 

「こういうのって……ここだけではないんでしょうか?」

 

『いやあ、吾輩にも分らぬが。世の中とんでもないものだな』

 

「それは以前夕莉君が居た土地と比べて、という事かの?」

 

玄十郎さんからの質問。玄十郎さんたちもそこまで詳しくはないという事ですか。

 

「……そう、ですね。それで、今日のお話というのは?」

 

これ以上は踏み込むべきではないようですね。本筋をお話ししましょう。

 

「不来方さんが仰っている「ナニカ」は、多分私たちが祓っている「祟り神」なんだと思います。なのですが、昨晩武実乃山へ祟り神の穢れを祓いに行った際に……」

 

「祟り神とは違う、「幽霊」と思わしきものに出くわしまして。ムラサメ様、アレは祟り神とは全く別物という事でいいんですよね?」

 

『思い出したくないのう……アレは祟り神とは全く別物だ。何かに対して怨みを抱いておる人間の霊、吾輩はそう考えておる』

 

「あの山に、怨霊ですか」

 

不来方さんにはムラサメ様の声が届いているので、有地さんにみづはさんと玄十郎さんへの伝達をお願いしてお話を進めます。

不来方さんが「幽霊」という言葉をすっ飛ばして「怨霊」と口にしたのが気になりますが……。

 

「因みになんじゃが……夕莉君は巫女姫様達の仰っている祟り神や幽霊に、この穂織に来てから出くわした事はあるかの?」

 

「祟り神と断言出来るものに遭った事は無いと思いますが、幽霊であればほぼ毎日目にしています。ムラサメ様も以前お見かけした事はありますから」

 

『吾輩はゆっ、幽霊ではないぞ!? 由緒正しき武実神社の御神体「叢雨丸」の管理者なのだ!』

 

「普通の人に見えないわ触れないわ宙に浮いてるわなのに、何をどうしたら幽霊じゃないんだよ、この幼刀(ようとう)が」

 

『だぁれが幼刀か!』

 

「……本当に、元気な幽霊ですね」

 

不来方さんのあまりに冷めた対応に、有地さんもムラサメ様も思わず居直って。

 

 

 

つまり――この方にとって、幽霊というのは本当に身近な存在で。

 

 

 

「その、そこまで幽霊というのは数がいるものなのかい?」

 

「そうですね。気付けば目の前に居た、なんて事は何度もありました」

 

ゾクッとしました。昨日のアレみたいなのがいきなり目の前に?

 

「ここは私が以前居た場所に比べれば数は少ないですし、()()()へ誘う霊も居ないと思います。ただ、霊が居る事自体はどの土地でも特別不思議な事ではないと思いますが?」

 

「そうですか。えっと……それでは普段見えていなかった霊が見え始める切っ掛けってご存じだったりしますか?」

 

 

 

私のこの質問は、大失敗だったかもしれないですね。

 

 

 

――不来方さんから伝わる気配が明らかに暗く重くなりました。

ああ~もう! 私のバカッ! 思いっきり地雷踏んだくさい!

 

 

 

「あっそのっご、ごめんなさい!! 大変不躾な質問を……」

 

「いえ、こちらのお話ですので。私が知る範囲では「あちらに近づく」事で見えるようになるかもしれないです」

 

「えっと、その……例えばですけど臨死体験ってやつですか?」

 

「それもありますし、身近な方が亡くなったりそういう土地に近づいたり。色々だと」

 

「ワタシたちが穢れを通して、ソレに近づいている可能性も無いわけではありませんけど。ムラサメ様、少なくともワタシたちの代になってから、山で幽霊を見たのって初めてなんですよね?」

 

『……そう、だな。加えてあれほど恐ろしい状態の霊を見たのはこれまでで初めてだろう』

 

霊体であるムラサメ様でも初めて。

つまりは私たちが突然見えるようになったんじゃなくて。

 

「じゃあ以前は居なかった幽霊が現れ始めた、って事か」

 

「将臣、どういう事じゃ?」

 

「ムラサメちゃんは昨日俺たちが見たみたいな幽霊を今までに見た事がないらしいんだ。それにずっとここで過ごしてきてる朝武さんや常陸さんはともかく、叢雨丸の使い手でしかない俺は穂織にも武実乃山にも関わってまだひと月くらいだろ? そんな俺でも見えるって事は」

 

「有地君も特異体質である事には違いないだろうが、見えるようになったと考えるよりは現れ始めたと考える方が自然、という事だね?」

 

「それはそれで、また新しい謎が出てきますけどね。理由がサッパリです」

 

「そうね……」

 

見えるようになったわけじゃなさそうのは分かりました。断言には早そうですけど。

ですが、結局現れるようになった理由は分からないですね。

もう一度山に入って情報を集めるなりなんなりしないと。

 

 

 

「因みになんですが、その祟り神と巫女姫……芳乃さんの「犬耳」には何か関係があるのでしょうか?」

 

 

 

!?

 

思わず自分の頭を叩くように触れる。

触った感じ、獣耳は出ていない。

えっ? でも不来方さんは……?

 

『お主、今の状態でも芳乃の獣耳が見えておるのか?』

 

「ええ。実体が無いのは理解されているという事ですか?」

 

「茉子、有地さん。見えますか?」

 

「いえ、ワタシには全く」

 

「俺にも見えないよ」

 

つまり――私たちには見えない程度に薄くなっているだけで、消えたわけではない?

 

「それほど気配は強くありませんが、()()()()()事はわかります。以前芳乃さんをお見かけした際には無かったと思いますが」

 

「それではやはり、祟り神を祓ったような感じで獣耳が消えたのではなく」

 

「あの幽霊と遭遇したか何かが理由で、一時的に散っただけって事か」

 

「将臣、昨晩は祟り神には遭遇しなかったのか? 確かに朝は話に出ていなかったが」

 

「そうなんだよ祖父ちゃん。遭遇する前に幽霊が出て来て撤退する事にしたから。だから朝武さんの獣耳が残ったままのはずなんだけど、俺たちの見た目には消えててさ」

 

「聞いた限り、今回は過去のケースには当てはまらないようだね。夕莉君程の体質が無いと見えないほどに薄くはなっているけれど、という事か」

 

『まさか、吾輩でも見る事が出来ておらんというのに』

 

先程のお話もそうですが、よほど霊感が強い方のようですね。

巫女などと言われている私が情けなく思えてきます。

 

「ですが……正体となると流石に分かりかねるでしょうか」

 

「いや、十分だよ。芳乃様達が突然見えるようになったわけではなさそうだ。文字通り幽霊側が現れ始めたという事と、その影響で芳乃様のお身体に溜まった穢れが一時的に散った状態である事は分かったんだからね。ありがとう、夕莉君」

 

「ワシからも、感謝申し上げます」

 

「いえ……芳乃さん達がその祟り神を祓われているというのは、その犬耳を消すために?」

 

これは……何と答えればいいでしょう? 間違ってはいませんが。

無理を押して協力頂いているような立場なのに、こちらの事情を隠すというのも。

 

「早い話がそういう事です。こういう土地で、巫女姫たる芳乃様に獣耳が生えているなんて事が分かったら大変な事になりますから」

 

茉子が話を切りにかかった――これ以上はご迷惑をかけられないですよね。

 

「知らない人が見たらただのケモ耳コスプレなんだけどな」

 

「はたきますよ? 有地さん」

 

『後で吾輩が殴っておく。心配するな芳乃よ』

 

「いえ、ワシがきっちり扱いておきましょう。さぶかる? というやつだったか」

 

「げっ!?」

 

「……そうですか」

 

有地さんの今日の鍛錬のスパルタ度合いが増したらしいですが自業自得です。

一旦茉子の回答が無難なのでしょうか。

 

 

 

流石に、放って置くと私が死にますとか、祟り神が町に降りてきますとは言えませんよね。

 

 

 

「それでは、芳乃様達はこれまで通り祟り神の穢れの祓いを行って頂けますか? 夕莉君から聞けた話と更に詳しい情報を合わせて、正体が何なのかを探る事にしましょう。私も今一度山に関する資料を漁ってみます」

 

「分かりました。よろしくお願いします……ムラサメ様、大丈夫そうですか?」

 

『……怖い。怖いが、そうも言っておれんだろう。こうしてご主人どころか全く無関係の者にすら力を借りておるというのに、叢雨丸の管理者たる吾輩が動けんというのは、な』

 

「ワタシと芳乃様だけでも祟り神を祓う事は出来ますから。その時は……有地さんに肉壁になって頂くという事で」

 

「ひっでえなオイ!?」

 

「幽霊を怖がる霊が居るなんて」

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

「そうかい、夕莉君が……僕も今度お礼に行くとするよ」

 

「やっぱりお父さんもあのお店を知っていたの?」

 

「うん。穂織に移って来られた際にも挨拶に来て頂いているよ。その時は……芳乃も茉子君も学院だったかな? あのお店は僕達穂織の住人向けの憩いの場でもあるのさ」

 

「あの人、引っ越した先が穂織でよかったかもしれないですね」

 

「なぜですか? 有地さん」

 

「すっごい美人だったから。あの人が都会に住んでいたら毎日ナンパ待ったなしだと思うよ。俺には雲の上の人っぽくて逆に話しかけようだなんてまず思わないけど、廉太郎辺りはまず手を握りにいきそう」

 

「それは……」

 

『大変そうだな。特にあの感じだとそういったものは苦手な気がするぞ』

 

 

 

夜。

私は神楽舞を奉納して、お父さんもお務めを終えて。

茉子が作ってくれた夕ご飯を頂いている所です。

 

有地さんは相当扱かれたみたいですね。いつもよりカックンカックンしています。

 

普通であれば軽薄だとかおふざけな感じにも聞こえる有地さんの感想ですけど、あの不来方さんに関しては否を唱える要素がないですね。

加えて押しも弱そうですから、そういう目に遭ったら押し切られそうです。

鞍馬君に知られないようにしないと。

 

 

 

「元々は夕莉君が働かれていたお店の店長さんが、穂織に少し縁があった人でね。そのお店から独立される際にこの土地と玄十郎さんを紹介されたんだよ。店長さんが言うにはここに夕莉君が住む分には問題なさそう、との事だったから」

 

「それは……霊感の点でって事?」

 

「多分、としか言えないかな。夕莉君の事については?」

 

「ムラサメ様が見えるほどの体質である事は驚きました」

 

『子供は比較的霊感が強い事が多いから吾輩も見える事があるようだが、今の状態の芳乃の獣耳が分かるほどはっきりと見えておったとはの』

 

「ひょっとして、不来方さんもムラサメちゃんに触る事が出来たんじゃないか?」

 

『可能性はあるかもしれんな。とはいえ「試してくれ」とはとても言えんが』

 

「夕莉君はムラサメ様を見る事も出来たかい。情けない話だけど、神職である僕よりもある種の才能は遥かに上だろうね。その店長さんも「私よりずっと上」だと言っていたから」

 

という事は、以前働かれていたお店の方も霊感をお持ちの方だったのでしょうか。

類は友を呼ぶ……いや、それは違いますよね。

 

「まあそんなこんなであの物件を玄十郎さん達が紹介されて、ああして経営をされているんだよ。穂織でコーヒーを専門にしているお店は珍しいし、場所も場所だから観光の方々も来る事がほぼない。だから僕達地元の住人が主にお世話になっている感じじゃないかな? あまり彼女にはこういった事を相談しない方がいいかと思っていたんだけどね」

 

「みづはさんもそう仰っていましたね」

 

「……やっぱり、それ系のモノを引き寄せちゃうって所ですか?」

 

「将臣君は何となく分かるかい? そんなところだと思うよ。夕莉君はあの体質を活かそうとして穂織に来たわけじゃないんだ……ならそっとしておくべきかな、とね。まあ僕も芳乃の命が懸かっているんだから、いざとなれば頼らざるを得なくなるんだろうけれど」

 

「そう、ですか」

 

『見たくないのに引き寄せる、か。難儀などと吾輩が言える程度ではないのう』

 

 

 

私も、仮に朝武の生まれでなければ、巫女姫でなければ、祟り神の呪いを受けていなければ。

自分から進んで祓いを行うなんて事はまずしていないでしょう。

 

私の場合は生まれた時から巫女姫となる事が決まっていて、それに関して何も疑いを持ちませんでしたが、後天的に……しかも望まぬ形でその道を歩まざるを得なくなったというのなら。

多少の正義感は有っても、命に係わるレベルなら話は別ですよね。

 

 

 

しかもそれを、自分にとって関係ないものまで引き寄せてしまう。

 

その苦労は、軽く口にするものじゃないですね。

 

 

 

「それで一先ずは今まで通りという事なのかな? 勿論祈祷は続けるけれど」

 

「うん。今の情報だけじゃ不来方さんにもこれ以上お伺いを立てられないし、また出るかどうかも分からないから」

 

「みづはさんも今一度資料を確認して頂いている所です。また芳乃様から耳が生えてきたら山に行くとしましょう」

 

「それなんだけど……今度の朝武さんの耳って今までみたいに生えてくるのかな? 不来方さんが言うには薄くなっているだけで消えてはないんだよね? 以前みたいに穢れに直接触れたとかなら別だろうけど」

 

「そういえば……」

 

『それもそうだな。まあ耳がはっきりしてきたかどうかくらいは吾輩でも分かるだろう。祟り神の気配であればそれなりに分かるしな。ご主人はその時までしっかり鍛錬せい』

 

「ムラサメちゃんがしっかりしてくれないとナマクラを振るうだけになるんだけど?」

 

『叢雨丸はナマクラじゃないですぅー。 ちゃんとした御神刀ですぅー』

 

「まあ最悪肉壁という事で」

 

「それマジなの!?」

 

「あは、じょーだんですよー?」

 

「全っ然冗談に聞こえねえ……」

 

今はあまりにも情報不足。これ以上想像で話を進めてもどうしようもないですからね。

まずは日ごろのお務めをしっかり果たすとしましょう。




という事で、芳乃と夕莉の関わりはこんな感じです。
夕莉は、原作よりはよく喋るようになっています。

「零」では定番のアレについては、もう少し後の話です。

初回一気投稿は一旦ここまで。
いかがだったでしょうか? ご感想や評価を頂けると嬉しいです。

よろしければ、次回をお待ち頂けると幸いです。
20話ほどストックはありますが、全然終わりが見えないもので……。
ゆっくり投稿させてもらえればと思います。

引き続き、よろしくお願い致します。
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