零 ~イヌツキの少女達~   作:もふもふたぬきねこ

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深羽による芳乃遊びが終わって、フィルムの補充へ。
何が三台目かといえば、当然アレの三台目です。

今回もよろしくお願いします。


30. 三台目と親心

「いらっしゃいませ芳乃さん、井山さん達も。お待ちしてました」

 

『失礼するぞ。こーひーの香りとはどんなものなのかのう? ここは妙に落ち着く』

 

「お邪魔致します、不来方さん」

 

 

 

行動開始は祟り神も出現する逢魔ヶ時過ぎという事で、あの場は一旦解散。

 

放生さんたちは写真の文字の解読へ。何か分かるといいんですが。

茉子はお昼の準備があるからウチ(朝武家)へ、有地さんは鞍馬君とトレーニングへ。

なんでも有地さんは竹刀を重いものに替えたそうで……大丈夫なんでしょうか?

 

という事で、喫茶・こずかたには私、ムラサメ様、雛咲さん親子で来ています。

先日の穂織観光メンバーですね。

 

と。

 

「お先にお邪魔しております、芳乃様。雛咲……? さん達もお疲れ様です」

 

「外向けはこの格好なもので。「井山雪」と名乗っていますのでよろしくお願いします。この場は「深羽」で結構ですから」

 

「私も何か変装をしたほうがいいのかしら……?」

 

「何もしなくても大丈夫。目に入らないだろうから」

 

お客様としてみづはさんがいらっしゃっていました。こんな感じで休憩に来られているんですね。

深羽さんの「井山さんモード」を見るのは初めてでしたか。分かっていても迷いますよね。

ただ、深羽さんの一言は一体?

 

「ご休憩になってお待ちください。その間にフィルムの充填を済ませますから。この複眼式も仕組みは同じでしたよね?」

 

「どうもです。送って来て頂いた品物の内容はどんな感じでした?」

 

「零式フィルムは流石に少なかったですね、3枚分くらいでしょうか。三七式と七四式は量を入れて頂いたみたいでかなり楽になるかと。それと……もう一つ見て頂きたい物があるので、そちらもお持ちします」

 

という事で、注文をしてコーヒーを淹れて頂いてから待つ事に。

フィルム以外の物とは何なんでしょう?

 

 

 

「何か御進展が?」

 

みづはさんもこちらのテーブルに合流されて、現状の共有です。

ホットブレンドの香りが落ち着きます。先日の水出しはまた違う良さがありますね。

 

「あの写真のブレ補正を行って頂きました。今は放生さんたちに解読をお願いしている所です」

 

「今の写真はあんまり駒川先生は見ない方が良いので、そのおつもりで。それと今朝から朝武さんに例の耳が生えている状態なので、今晩の祟り神退治に私が同行するって所ですね」

 

「深羽、昨日はそれらしい感じはなかったの?」

 

「特には。じわじわ溜まるっていうよりは一気に増える感じなのかなぁ。おチビさん、そこんところどうなの?」

 

『おチビ…………正直、わからぬ。これまでも芳乃の意識がない時に耳が生えてくる事は何度もあったし、覚醒している時も直前まで予兆なしだった。祟り神の出現場所も、発生周期も、朝武の巫女姫が呪詛に飲まれるまでの期間もバラバラだ。どういう原理で奴らが現界しておるのかもな。お主らの言う事が真実なのであれば、祟り神より憑代側やもう一つのナニカとやらに周期があるのやもしれぬが。だとしても思い当たらんよ。何か法則があったのだとしたら、今までの巫女姫達にももう少し楽をさせてやれただろうに』

 

ムラサメ様がしょんぼりされています。

今までに何人もの巫女姫を見送って頂いている状態ですから……。

 

みづはさんにもムラサメ様のお言葉を伝えたところで。

 

「芳乃様、最近の祟り神の出現はどうなっておられますか?」

 

とのご質問。ええっと。

 

 

 

去年度までの事はいいですよね。有地さんが穂織にいらした時から考えましょう。

山で観光の男の子が迷ってしまって、有地さんが捜しに入って遭遇したのが最初。

この祟り神は次の日に退治しています。

 

そこから……一週間は空いていますね。8日くらい? で一回。

で、有地さんのトレーニングが始まってまた一週間くらい。

 

その後はみづはさんの元に出現した祟り神。これは6日くらいでしょうか。

ただこれは例外と言えるかもしれません。憑代を弄った事が原因のようですからね。

そして幽霊が出現した時が次なので10日くらい……あれ?

 

 

 

「若干ですけど……周期が狭まっている?」

 

『確かにそうだな。幽霊関係でゴタゴタしておったせいで深く考えておらんだが、最近は4日に一度程度。これまでもそこまで頻繁に出現しておった感覚はないから、かなりの高頻度と言えるかもしれん。一体何がそうさせておる?』

 

「ま、怨霊の方と全く無関係じゃないんでしょうね。有地君があの刀を抜いてからはどうなの?」

 

『今のはそこからの話だ。これも大体の感覚でしかないが……元々は多くて月に1、2回だった。それが直近は10日から1週間程度、そして今の4日前後。記憶を辿る限り、流石に此処まで高頻度で発生した事はなかったように思う。活発化しておるのか?』

 

「……朝武さん達が、あの憑代を山から持ち出された事にも関係があるかもしれません」

 

ムラサメ様が仰られた通り、最近は変化が多い。

叢雨丸が抜かれ、憑代を発見して集め始め、幽霊が出現し始めて。

どれがどう作用しているかがわからない。

 

「成程……秋穂様の代の祟り神祓いも狭くてひと月に1、2回だったと記憶していますから、そう考えるとかなりハイペースですね。呪詛とは何かが溜まって出現するものとは違うのか? 私の時は破壊に対する報復として現れたし……」

 

出現する力がなかったなら、みづはさんの時も出てこなかったかもしれません。

つまり、何かが溜まる事と祟り神の出現は必ずしも一致しない?

いよいよわかりませんが。

 

 

 

「そうですか。じゃあ取り敢えずまとめて吹っ飛ばす方向で」

 

 

 

深羽さんがこれまでのお話も吹っ飛ばす方向の形に話を持っていかれました……。

 

「深羽、それが駄目だからって私を止めたのではないの?」

 

「実際に目で見るのと結果しか聞かないのじゃ全然違うの。それに夕莉さんほどじゃないけど私も「看取り」は出来るし。流石にあのヘドロ相手にやるのはちょっと気が引けるけどねえ」

 

「みとり」? みとり、見取り……看取り?

不来方さんが怨霊の跡とも言えそうな白い影に触れるやつでしょうか。だとすると。

 

「深羽さん、あの祟り神に直接触れるのは危険です。以前有地さんがアレに呑み込まれたような状態になって、その後に悪夢を見るような感じにもなられています」

 

「有地君は目覚めるのに2日かかった程です。肉体的にも精神的もかなりの負荷がかかった事でしょう」

 

『うむ。あの時は吾輩が神力を送り込んだ事の影響もあっただろうが……その間、ご主人は何かを追想する夢を見たらしい。お主らだと更に強力な何かに呑まれるやもしれんぞ』

 

私にも茉子にもそんな経験はありませんが、有地さんはそう仰っていた。

叢雨丸と祟り神に何らかの関連があるせいなのかもしれません。

 

ですが、ただでさえ霊感の高い深羽さんがそんなものに触れたなら。

なにより不来方さんや深羽さんに怪我や呪詛を移す事をしようものなら。

 

「まあ勿論警戒はしますけど。大丈夫ですよ朝武さん、駒川先生も。朝武さんとおチビさんには昨日話をしたでしょう? 私達に手を出すと武実乃山がヤバくなるって」

 

『その話……ホラ話でも比喩表現でもないという事か』

 

「緊急手段として頼りにするものではないわ、深羽。本当に危ないという事なのだから」

 

「だったら尚更じゃない? 二股なんかせずに護ってくれるでしょ」

 

「それはまあ……うん」

 

一体正体はなんなんでしょう? 守護霊的な存在なんでしょうか。二股?

深紅さんは正体を御存じのようですが……。

 

 

 

「お待たせしました」

 

 

 

という所で、不来方さんが戻っていらっしゃいました。

フィルムの充填作業は暗室で行われるとの事でしたけど、真っ暗な中でどうやってされるんでしょうね。

 

それと……もう一つ左手に持たれている小箱は? 何だか破れた御札の様なものがいくつも……。

 

「ありがとうございました、夕莉さん。枚数は……三七と七四は十分ですね、零式は3枚、九〇も6枚と。まあ普通に使うのは七四式までですか」 

 

「そちらにお持ちなのは……まさか?」

 

「そのまさかなんです。深紅さんの方が私よりお分かりになるかもしれませんね。これの都合でまだ全部のフィルムを充填はしていなくて」

 

箱を開けて中身を取り出されると……ああぁ。

 

「さ、三台目の、射影機……?」

 

間違いなく、間違いなく穂織が買えちゃう……。

 

『此度の件が終わった時、吾輩は存在出来ておるのだろうか……?』

 

「日本にある全ての射影機がここにあるのかもしれませんね。他にもまだ現存していたなんて」

 

「結構大きいですね、この射影機。夕莉さんや放生さんのとどう違うのかな」

 

「…………そっくり」

 

不来方さんや放生さんの射影機より更に古そうですね。

カメラとは言い難い、レンズ付きの正方形の箱っぽい見た目に蛇腹がついたもの。

梵字の代わりにお札っぽいものが貼ってあるのは一体? 破られていますけど。大丈夫です?

これはレトロを通り越して発掘品のような気配すらします。

 

「送って頂いた水無月さんのお知り合いにも、麻生博士の後裔に当たる方がいらっしゃるそうでして。お持ちの物をお借り頂いたそうです。更にもう一台あるらしいので必要であればそれも貸して下さると。そちらは本来展示品で正しく高級品だそうですが」

 

「まだあるんですか!?」

 

「そりゃあありますよ。昨日お母さんがお世話になった怜さんの所にも、壊れてますけどあるらしいですし。元は天倉さんが拾ったんだっけ? にしたって、麻生博士の血縁多すぎない?」

 

『まるで射影機のばーげんせーるだのう……』

 

「射影機というのは、穂織の外ならホイホイ拾えるものなのかな?」

 

ありえないものがありえるようになってしまいませんか? みづはさん。

一方で。

 

「で……お母さん?」

 

「あ、ううん。ごめんなさい、深羽」

 

「それはいいけど、この射影機がどうかしたの?」

 

深紅さんは三台目の射影機にずっと目を向けられていて。

比較的ふわっとされた雰囲気の深紅さんが、これだけ意識を傾けられているのは初めてかも。

 

そして。

 

 

 

「…………以前、私と兄さんが使っていた射影機に、すごくそっくりだから……」

 

 

 

との事。

 

確か深紅さんが使われていて壊れた射影機は最新型だったと聞きましたから、ならばこれも比較的新型に近いんでしょうか? かなり古い感じがありますけど、こっちの方が新しいんだ。

 

そして深紅さんにはお兄さんがいらっしゃるんですね。つまり深羽さんの伯父様。

お父さんより年上なわけですけど、美形だろうなあ。

 

「なら買い取らせてもらおっか」

 

軽っ!! ポケットマネーで穂織を!?

 

「いえ、深羽。欲しいという意味では」

 

「お母さんが何かに対して関心を示すって事が、相当に珍しい事を自覚してないわね。当時の思い出に近いんでしょ? 私達なら持っていても大丈夫だろうし、これの持ち主さんはもう一台あるみたいなんでしょ? 譲ってくれって言うなら問題だけど、買い取らせてもらうならいいじゃない。夕莉さん、後でその水無月さんの連絡先を教えてもらうか、手紙でも書いてもらっていいですか? 事情も勿論話して、言い値なら先方も悪い気分にはならないでしょうし」

 

「それなら密花さんにお話をして頂いた方が良いですね。コンタクトを取ってくれたのは密花さんなので」

 

「それもそうですか、後で連絡してみます。先に伝票だけ見させてもらいますね? 久々に正しいお金の使い方が出来そう……えっ? 水無月、「流歌(るか)」? いやでも、私が聞いた苗字は間違いなく四方月(よもつき)……偶然? 旧姓?」

 

これが、これが真のセレブの買い物。世界はこうやって回っているんですね……。

なんだか驚かれている風にも見えますか? 「流歌」さん、綺麗なお名前ですね。

 

「後で確認してみるか……話をそらしちゃってすみません。で、これは夕莉さんや放生さんのとは違う感じなんですか?」

 

「実際に触って頂いた方が早いですね、かなり勝手が違います。少し慣れが要りそうです」

 

何がどう違うんでしょう? 霊をファインダーに収めて撮る、だけですよね?

一応「霊片」を纏めて撮ると威力が上がるらしいですが、私が点灯させられたのは3つまで。

前回唯一祓った際には、特に違いというのも感じなかったんですが。

 

「フィルムは?」

 

「試し撮り用に〇七式を数枚分だけ入れてあります」

 

「ムラサメさん、そこに立っていてもらえますか?」

 

『こんな時だけキチンと名前を呼ぶでないわ! 吾輩を除霊する気か!?』

 

「撮らないわよ、構えるだけ。じっとしてないと怖い目に遭わせるわよ?」

 

真面目な雰囲気ではあるんですが、深羽さんだとムラサメ様を本当に除霊しそうで怖い。

深羽さんが三台目の射影機を構えられ、ムラサメ様が逃げられようと……

 

――えっ?

 

 

 

『……んなっ!? 吾輩の身体が動かん!?』

 

「ムラサメ様!?」

 

「芳乃様、一体何が!?」

 

 

 

ムラサメ様のお身体が、まるで見えない針金でも巻きつけられたかのように止まっている。

 

「深羽さん、やり過ぎです」

 

「そうでもしないと逃げるでしょ。あー確かに、コレは使い勝手が違うわ。機能は使えると」

 

「深羽、今すぐ「(ばく)」を解いてムラサメさんに謝りなさい」

 

「はいはい。ゴメンね、怖い目に遭わせて。もうしないから」

 

フッと、ムラサメ様を縛っていたかのような見えない針金の気配が消えました。

 

「ムラサメ様! 大丈夫ですか!?」

 

『……ま、まさか、この身体になって金縛りに遭う日が来るなど……』

 

「深羽さん、仮だとしてもムラサメ様に危害を加えるような真似はお控えください。私達穂織の住民にとっては守り神に等しい方なのです」

 

流石にみづはさんの声も重くなります。そりゃあそうなんですけど。

 

「大変失礼致しました。とはいえ、これも真面目に私達の命に係わる事ですので今回についてはご容赦ください。「縛」を使ったのは謝罪します」

 

()()、ですか?」

 

さっき深紅さんも仰っていましたが。束縛の「縛」ですよね?

 

「以前芳乃さんにもお話したかと思いますが、射影機には霊や失くしものの撮影以外にも()()()()()使える機能があるんです。私が以前使ったのは「圧」といって、怨霊を後方に強く圧しやる効果。先程の深羽さんのは「縛」といって、霊体の動きを一時的に拘束する力があるんです」

 

そんな機能まで。そういえば「圧」はあの絶対霊の時に口にされていましたね。

あれは不来方さんの独自のお力だったんですか。あんな怨霊まで押し返せるなんて。

 

「特殊機能やレンズ効果は単に射影機を使うよりも遥かに危ないので、朝武さんが自分の能力をどうこう考えられるのは勧めませんよ。お詫びというのも変ですけど、朝武さんは私を撮影してみてください。事前に確認しておいてよかったと思うでしょうから」

 

そう仰られて、深羽さんから射影機を受け取ります。

ちょっと重い。加えて持ちにくい。どれがシャッターボタンですか? カメラっぽくない。

 

ファインダー越しに写る深羽さんは、井山さんモードではありますけど普通の深羽さんです。

この射影機だと霊片が見えない……? 上部の十字がフィラメントなんですよね? 今は青ですが。

 

 

 

「それじゃあ――いきますよ?

 

 

 

「なにを」と問おうとする前に。深羽さんがカツラを取られて、結われていた髪を解く。

 

 

 

瞬間――深羽さんの気配が怨霊のソレに変わった。

 

 

 

『ひうっ!? そ、そんな馬鹿な……』

 

「いきなり寒気が……一体何が」

 

初めてお会いした際、ムラサメ様に向けられた黒い雰囲気。あれより更に濃い。

フィラメントが灯していた色が、「(非悪性)」の点灯から「(警告)」の点滅に。

そして。

 

「これは……?」

 

ファインダーの中央に、低い音と共に円形の謎の模様が徐々に形作られていく。

1秒ほどで一周模様を描いて、今度は反転するように二重の模様となって。

なんなのこれは。

 

撮ってみてください

 

完全に怨霊と相対しているかのようなプレッシャーのまま、深羽さんがそんな事を言う。

ファインダー越しに映る深羽さんの姿は、例の写真を幻視するかのような恐ろしく暗いもので。

 

「は、はい……」

 

とにかく撮るしかない。

 

 

バシャン!

 

 

今まで私の撮影ではほぼ「パシャッ」としか音が鳴らなかった射影機から重い音が響き。

模様が消えて、再び描かれようとしていた途中で……フィラメントが青に。

深羽さんからの気配も元に戻った気がしました。

 

「御馳走しますので、皆さんミルクコーヒーを飲んで身体を温めてください。深羽さんは思いっきり陽の気に切り替えてください。店内が冷え切ってしまいました」

 

「はいはーい、わっかりました。ちょっと入口も開けさせてもらいますねー」

 

『……「何にでもなれる」とは聞いたが、まさか怨霊の気配にすら変えられるだと? 演技という枠をどう考えても超えておる』

 

「この子の体質は本当に特殊なので。対象が「人」であるなら、ほぼ完全に模倣できてしまうんです。それこそ絶対霊に近い気配まで」

 

「つまり……さっきのが芳乃様達の対峙されている怨霊の気配という事ですか。これほどの威圧感や恐怖をこの歳になって感じるなんて。元が人だった分、祟り神より遥かに質が悪そうです」

 

少なくとも私が祓った怨霊より遥かに強い気配でしたけどね。

まさかご自身を怨霊の様にされるなんて。誇張じゃないにも程がありませんか?

 

「脅し用なんですけどね、たまーに会話が成立しない人が世の中いるもので。もう皆さんに使う事はないと思いますから安心してください。私としてもこれは気持ち悪いんですよ。夕莉さん、後で万葉丸一個もらえます? 一応撮られましたから」

 

御神水(ごしんすい)でなくて大丈夫ですか?」

 

「具体的な模倣ではないですし、短時間なので大丈夫です。撮ったのも朝武さんですし。それで、朝武さんは違いが分かりましたか?」

 

なんだか新しいワードが聞こえた気がしましたけど、一旦置いておきましょう。

本来の目的――この射影機の違いというと。

 

「……霊片が見えなくて、ファインダーの真ん中に円形の模様が徐々に描かれていきました」

 

「棘っぽいのがいくつあったか覚えてます?」

 

「片側に一つずつの計二つだったかと」

 

「なら、朝武さんは夕莉さんのを使った方が良いですね」

 

深羽さんには別のものが見えていたんでしょうか?

お借りしている不来方さんの射影機でいいのであれば、それはそれでいいんですけど。

 

「コーヒーどうもです。夕莉さんはいくつでした?」

 

「合計十個です。浮遊霊に構えただけだったので、さっきの場合だとまた違うかもしれませんが」

 

「私みたいにおチビさんに構えたら、ですか? 多分同じだと思いますよ」

 

『もう一度は流石に勘弁してくれ、寿命が縮む……雛咲娘はいくつだったのだ?』

 

「十六よ、単純計算で朝武さんの8倍。夕莉さんの射影機の霊片認識は最大5個だけど、朝武さんでも3個はいけるんでしょ? ならそっちを使ってもらった方が良いってわけ」

 

「もう私には分からない世界ですね。深羽さんや夕莉君が芳乃様よりお強いのは分かりましたが」

 

十六? もうごっちゃごちゃじゃありません? 模様。

私とお二人ではそれほどの差があるという事ですか。

 

「芳乃さんは私や深羽さんに追いつこうなんて思わないでくださいね? それは本来の芳乃さんの生き方を外れる行為ですから」

 

「そうですよ、死んだ魚みたいな目で穂織を見たくないでしょう? 朝武さんは基本的にこれまで通り祟り神とやらに専念してください。そのために私が来ているんですし」

 

「ですが、それだと深羽さんも……」

 

「大丈夫ですよ、私は特別なので。これ以上踏み込みようがないですから」

 

「それでも抵抗は持ってね、深羽。私が言う事ではないけれど」

 

「ホントにそれよ。まあ分かってるから」

 

取り敢えず、深羽さんは霊感もあちら側への耐性も極めて強いみたいですね。

それを安心要素と捉えるなんて事はすべきでないでしょうけど、今は力強いと思いましょう。

 

『で? 吾輩を辱めて何が分かったのだ?』

 

「除霊効果の出し方よ。夕莉さんや放生さんのは「霊片」の数だけ霊力を溜めて威力を増すから、撮れば撮るだけ基本的には有効。だけどこっちはチャージ式なの」

 

「霊体をファインダー内に捉え続ける事で威力が増すんだと思います。フィルムの枚数は少なく済むかもしれませんけど、危険度は跳ね上がるかと」

 

「そこも……私が知っている射影機と同じ、なの」

 

ムラサメ様の皮肉が深羽さんに全く通じない。つまりは真面目なんですよね、先ほどの事も。

訓練を付けて頂いた時みたいなのを常時しなければいけないと。

 

 

 

――つまり、私には。

 

「ムリです!!」

 

「「分かってます」」

 

ご理解が早くて助かります。使えと言われても使えません!

 

 

 

「こちらも祟り神への効果を早いうちに確認した方が良いですか……今日の退治に私も参加した方がいいのでしょうか?」

 

「私としては、出来るだけ夕莉君の参加は控えてもらいたいんだがね? 私個人としても、ここの住人としても。勿論そのために深羽さんが負担してくれなどという事は絶対ないですが」

 

「別に構いませんよ? 私は期間限定の対怨霊兵器のつもりでいますから。夕莉さんの負担を減らすための私です――使い潰されるほどヤワでもありません。二台持ちは流石に危なそうだから、次の機会にでも私が使えばいいかな」

 

「…………」

 

う~ん……。

本当なら不来方さんにも深羽さんにもお手を煩わせてしまう事は避けたいんですが。

当の私がこのザマ。幽霊に対しては殆ど役に立ちません。いないよりはマシなレベルでしかない。

素早く動く祟り神相手に、まともに撮影できるかも分からなければ、威力も参考にならない。

必然的に不来方さんか深羽さんに負担をお願いする事になります。

 

にしても、みづはさんのご意見は一体?

お客様である深羽さんよりも不来方さんに「この土地の人間として」ご自愛頂きたいなんて。

 

 

 

「――では、私が参加させてもらいます」

 

 

 

そんな中、まさかの深紅さんからのご提案が。

 

「深紅さんがですか?」

 

「ダメよ、お母さん。私が後日試すなりすればいいだけでしょ? 別にすぐ使う必要は無いんだから。そもそも今日の相手は怨霊じゃないのよ? 怪我の可能性だって――」

 

「深羽を「兵器」だなんて存在にするつもりはないから。一応これでも貴女の母親なのよ? そんな悲しい事を娘に言わせたくないの」

 

「それは……あぁ~もう、口が滑った。私もお母さんを責めたくないし、これ以上は言わないわ」

 

深羽さんは引き下がられた。

となると、この場を決めるのは必然的に。

 

「――祟り神に射影機が通用するかは分かりません。私にこんな事を申し上げる資格がないのは分かっていますが……相応に危険を伴いますよ?」

 

『無論、参加してもらうからには吾輩達で可能な限り守ろう。だが絶対無事というわけにはいかぬ。先程雛咲娘も言っていたように今夜の本題は祟り神だ、お主ら親子は初会敵になるが故に動き方を知らん。今日の所は雛咲娘に動きだけ知ってもらって後日試す事も勿論ありだし、もし怨霊が現れたとしても今夜は一旦引くなり、別の場所に誘導して吾輩達だけで別々に祓う事も不可能ではないだろう。急いで貰えるのは真にありがたいが、お主らの安全には代えられん……それでもよいのか?』

 

全ての大本である私。ムラサメ様もフォロー頂きありがとうございます。

ですが、この責は私が負わないと。後でお父さんたちに怒られそうですけど。

 

「祟り神に対して役に立つかは分かりませんが……少なくとも娘を怨霊退治の道具にするつもりは私にはないんです。深羽が入ると言った以上、私が入っても同じ事。自分で決めた事ですから」

 

深羽さんが苦い顔をしてる。こんな表情は初めて。

私のお父さんや玄十郎さんと同じ、この方も「親」なんですね。

 

「ありがとうございます。お二人の安全には万全を期して臨みますので」

 

「……今ほど、自分が無力だと思った事はありませんよ。何故、私には」

 

「何を馬鹿な事を言ってるんです? 生きた人間を治療できるのは貴方だけなんですよ? 朝武さんや常陸さんや有地君や、勿論私達も、正しく診れるのは貴方だけ。医者なんですからなにもかも自分一人で出来ないのは分かっているでしょう? お役目を全うしてくださいよ」

 

「みづはさん、私の事はそこまで気にされなくてもいいですから。密花さんも少し過保護なんですよ。安晴さん達を始め、穂織の方々には十分なほど良くして頂いているんです」

 

みづはさんはこれまでも十分すぎるほどに、私たちのお力になってくださっています。

これ以上は働きすぎですよ? お二人が言って下さいましたから私からは申し上げませんけど。

 

「……すまないね、医者がクランケ(患者)を不安がらせる事を言うなんて。バックアップと連絡関係は任せておくれ。これでも一応穂織の連絡網の頂点の一人だからね。私の役目を全うさせてもらうよ」

 

『芳乃、今宵の装備は改めて安晴に清めてもらうぞ。可能な限り万全を期す』

 

「はい」

 

これで、今晩の行動計画は決まった。




三台目はシリーズ四作目「月蝕(つきはみ)の仮面」の主人公の一人、「麻生海咲(あそうみさき)」の所持品です。
実は裏設定で、「深紅が持っていた物に極めて似ている」というのがあったりします。
月の満ち欠けではなく、ごちゃごちゃした模様が出る方ですね。
ちなみに送り主が借りパクしていた高級品の方も現在麻生家で管理しています。

今後はこの三台体制です。怨霊さん逃げて。

次はやっと夜の山に入ります。ここまで長くてすみません。
次回も楽しんで頂けたら嬉しいです。


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