零 ~イヌツキの少女達~   作:もふもふたぬきねこ

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や~っとまともに話が進みます。

今回もよろしくお願いします。


31. 一難去らずに

「芳乃、そういった事は僕に任せてほしいんだ」

 

 

 

家に帰った時、すでにみづはさんから連絡が入っていたのか、かなり久しぶりにお父さんから怒られてしまいました。まあこればっかりは覚悟していたけど。

 

 

 

「勿論芳乃の気持ちは嬉しい。けれどこれは芳乃が頭を下げる事じゃない。芳乃の親であり、武実神社の神主であり、一応この穂織の代表を務めさせてもらっている僕がやらないといけない事なんだ。僕の役目がなくなってしまうよ」

 

「ごめんなさい。でも、私も当事者だから。私の為に命を預けてくださると目の前で言って頂けているのに「お父さんに確認を取ります」だなんて言えないし、私が頭を下げなくていいなんて事にはならないと思ってるわ」

 

「まあまあ安晴様、ここで芳乃様にいくら仰られても絶対に意見を曲げませんよ。芳乃様の頑固は筋金入りですから。そういった事は有地さん辺りに矯正して頂きましょう」

 

「俺に飛び火した!?」

 

『わりとご主人には素直なのだ。こういう時は吾輩が言っても聞かんし、今回の件は吾輩も首肯しておるのでな。貧乏くじだがよろしく頼む』

 

むぅ。まあ確かに有地さんには無駄にご迷惑をおかけした事もありますし? 穂織の外の視点をお持ちだから、つまりはこれが「一般的」なのかな~と思っている所はありますが。

いつか茉子の性癖も矯正してやるんだから。

 

「とにかく午後からはやる事が盛りだくさんですから、まずはお昼と致しましょう。お腹が膨れれば考えも落ち着きますよ」

 

「……そうだね、ありがとう茉子君。今は僕にしか出来ない事をさせてもらうよ。芳乃はまたいつか、こういった話をさせておくれ」

 

「うん、ありがとう、お父さん」

 

一先ず夜に向けての準備には移れるわね。

祟り神が出現していると分かっている状態で、意図的に部外者の方を山に入れるなんて前代未聞。

万全を期さなきゃ。

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

「しかしまあ、射影機が三台って無茶苦茶じゃない? 不来方さんから借りてる射影機すらまだ二回しか使ってないのに、既に三台体制だなんて」

 

「恐らくですけど、ワタシたちの怨霊に対する心構えが甘いんだと思いますよ。本来ならばこのくらいの備えをした上で挑むべき存在なのでしょう。ワタシは普通の怨霊に軽く触れられただけであのザマでしたから、武者の怨霊や絶対霊にまともに攻撃されたら多分一撃であちら側行きです。祟り神も巫女姫様方の鉾鈴が通用しなかったならば、今まで野放しであってもおかしくないんですが……先日言ったじゃないですか、あの絶対霊と比べたら祟り神は野犬レベルって」

 

『祟り神の脅威を小さく見積もるべきではないが、これまで怨霊と相対しておったであろう者達が今の体制に疑問を持っておらんのはそういう事だ。芳乃や茉子は怪我の経験もほぼないが、不来方や雛咲親子はそうでないのかもしれん――あの万葉丸とかいう薬を使っておるのだからな。既に吾輩達だけで手に負える範疇は超えておるのだ、力を借りられるところは借りていくぞ』

 

お昼を頂いたのち、お父さんは私たちの装備の祈祷に入って。

茉子は追加の装備の準備、有地さんは玄十郎さんから教わったらしい叢雨丸の手入れの実施中。

叢雨丸の祟り神に対する斬れ味が落ちるという事はないらしいですが、それでも効果があるとは思っておきたいですね。

 

そして私はと言うと。

 

「で、芳乃様はそれをやって何か変わりそうなんですか?」

 

「射影機を構える事に違和感はなくなったけれど……」

 

霊を撮るための練習? と言えるか分かりませんけど、射影機を構える練習中。

今回は鉾鈴と射影機の二刀流、パッと見てすぐに判断しなければいけません。

雛咲さん親子が居るからと言って、お二人に全てをお任せするつもりはないんですから。

 

今までカメラを構えた事すらほぼありませんでしたけど、見たいと思った所にすぐに射影機を向けるようにはなってきたと思います。

 

「俺は部外者に近いからこう思えちゃうんだろうけど……朝武さんは祟り神に専念した方が良くない? 射影機を使う事自体危ないって不来方さんが言っていたし、そもそも鉾鈴と射影機って同時運用していいものなの?」

 

「それはまあ、そういう危険も伺っていますけれど。でも自分で祓う手段があるのに全てをお任せするというのは――」

 

『ご主人の懸念については正直分からぬ、なんせ初めての事だからな。だがまあ、今回怨霊に対する戦力に芳乃が含まれておらんのは間違いないぞ? そもそも芳乃の射影機にはフィルムが補充されておらんからな、口にしておったが不来方も雛咲娘も最初からそのつもりでいるという事だ』

 

あ! 確かに!

急いでダイヤルを回して枚数を確認してみると。

 

「……六一式が、5枚だけ……小春さんの時に不来方さんが使われたんだった」

 

だから補充って話になったんでした。一四式に頼る場面じゃないですよね。

 

「あっぶな。弾無しの武器なんてゲームならサンドバッグ一直線だよ。深羽さんの射影機は?」

 

『最も強力なフィルムが3枚、先日絶対霊に使った九〇式が6枚、芳乃の口にした六一式より強力であろう七四式というのさえ通常運用可能との事だ。加えて雛咲娘の霊感は芳乃の遥か上らしい。連射も出来るそうだし、もう比較するまでもなかろ。火力型の雛咲母の射影機もある。あれは「あちら側」を見るためではなく本当に除霊用の射影機のようだしな』

 

「芳乃様の使用は本当の緊急時になりそうですね。いざという時のためにとっておきましょう、芳乃様」

 

なんで、なんで私はこういう所で抜けてしまうんでしょう……。

なんか茉子に慰められた感があります。ありがたいけど。

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

逢魔ヶ時。今頃武実乃山には幽霊が彷徨っているかもしれない、なんて思っていた時に。

 

「御免ください」

 

日中にも伺った声が玄関から。

 

「はい、すぐに。茉子君、僕が迎えさせてもらうよ」

 

「かしこまりました。それではよろしくお願い致します」

 

基本的にお出迎えは茉子がやってくれていますから、お父さんから言い出すのはかなり珍しい事。

別にお父さんが茉子に丸投げしてるわけじゃなくて、茉子が率先してくれるから自然になってしまっただけではあるのだけど。

 

「大人同士のお話というのもありますから」

 

と、茉子は納得した様子。こちらは待つとしましょう。

そして。

 

「こんばんは……やっぱり二人はコスプレ? 本当にその恰好で山を上るんですか?」

 

またこのくだりですか……気を取り直して。

 

「こんばんは、深羽さん、深紅さん。本日はよろしくお願い致します」

 

「ええ、よろしくお願いします……そのご恰好で本当に大丈夫なんですか? 常陸さんはまだ大丈夫そうですけれど」

 

「そう思いますよね? 不思議と大丈夫なんですよ」

 

深紅さんからも心配されてる……そこまでダメですか? この格好。

有地さんはそこに同意を求めないでください。もうあなたもこっち側の人です。

 

「一応今までこの服装でもこけた事はありませんので大丈夫です。鉾鈴の効果を最大限に発揮する事を目的としていますので。深羽さんは変装されなくて大丈夫なんですか?」

 

今朝も含めて、基本的に深羽さんが出歩かれる際は井山さんモードにされていますけど、今は髪も降ろされて変装無しです。喫茶・こずかたでの出来事を彷彿とさせるんですが?

 

「射影機を真面目に使おうと思うと、「井山雪(変装)」でも「宗方美優(偶像)」でもなく「雛咲深羽(本人)」である方が都合がいいんですよ。もう日は落ちかけですし、似た顔のお母さんが傍に居ればよく似た姉妹って勘違いしてもらえますから」

 

なるほど。何にでもなれますけど、射影機を一番使えるのは自分である時なんですね。

つまりは深羽さんも本気で来てくださっているという事ですか。

 

「さっき僕も伺ったんだけど、雛咲さん達としても山の気配はよくないらしい。十分に気をつけておくれ」

 

「ムラサメちゃん的には?」

 

『祟り神の気配はいつもくらい、なんだと思うのだが……』

 

なんだか、ムラサメ様が歯切れの悪いご様子?

 

「なにかお感じになられるのですか?」

 

『表現が難しいが……普段は山全体で一つと数える所が、今回は偏っておるように感じるのだ。なんなのだこれは?』

 

「規模自体はいつも通りなら、出現している祟り神も恐らく一体という事ですよね? 偏りというのが想像がつきませんね、怨霊を避けているんでしょうか」

 

茉子が推論を立ててくれますけど、結局は分かりません。

今言える事は、これまでとは話が違うという事で。

 

「多分ですけど……何かが紛れ込んでいます」

 

深紅さんからそんな不安になるお話が……今度は一体何が山に居るって言うんです?

 

「全く知らない気配じゃないんですよ。ただ今の山の雰囲気のせいでカーテンに隠されているみたいな、そんな感じなんです。怨霊とかとは方向性が違うので、新しい怪物が現れた感じではないと思うんですけどね」

 

ちょっと安心する補足を深羽さんがなされました。とはいえ、本当に一体何が?

悩んでいても埒があきませんか。

 

「では参りましょう。お二人はご準備は?」

 

「特には。分かっていると思いますけど、朝武さんはその鉾鈴で相手する事に専念してください。ただ、先制は私達に任せてもらえると後々楽になります」

 

『そうだな、それで射影機が祟り神に通用するかも分かるであろう。宜しく頼むぞ』

 

「ムラサメさんは絶対に私と深羽の前に出ないでください。わざと視界から外すというのは私達も慣れていないので」

 

『……心得た。まだ吾輩もやる事があるのでな』

 

「基本叢雨丸に宿ってればいいんじゃない? もし本気でその身体を撮影されたら、生きてるらしい方の身体がどうなるやらだよ」

 

「索敵はワタシが行いますので、気配を感じた時に前に出ていただく形でいきましょう。安晴様、行って参ります」

 

「気をつけて。雛咲さん達も、どうぞ宜しくお願い致します」

 

「こっちで言いだした夕莉さんの代打ですから。しっかりお仕事してきますね」

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

「分かってはいましたけど、夜は本当に真っ暗ですね。日上山の方がマシだったかも」

 

「それでいて、浮遊霊の一体も居ない……不思議なところ」

 

茉子を先頭に、深羽さん、私、深紅さん。殿を有地さんに務めていただく形で山を進む。

ムラサメ様は既に叢雨丸に宿られています。

 

「普段だと祟り神との遭遇までは数分くらいです。幽霊や謎の気配は如何ですか?」

 

「怨霊は多分そのうち出てくると思いますけど……おチビさん、分かってる?」

 

『やはり吾輩の勘違いではないのか――祟り神の気配が妙に遠いのだ。今までなら真っ先に芳乃かご主人に向かって来たはずなのに』

 

「小春の時は同時出現したよな。怨霊とかち合うのを避けてるってわけじゃないんだとすると?」

 

「前みたいにマヨイガの場所とか、という事ですか?」

 

もうわけがわからない。

私に獣耳が出ている以上、祟り神が現れているのは間違いないはず。

 

呪詛は私にかけられている。天敵の叢雨丸もある。だから真っ先に私達に向かってくる。

その根底が覆される? 両方揃っているのに。

 

「……おそらく、もう一つの気配の方ですね。更に霞がかったかのような雰囲気になっています」

 

深紅さんの仰る事が事実なら、私よりも優先するようなナニカが山に入り込んでる?

誰かが迷っているのではないと願いたいですが。

 

 

 

「――出ますよ。6体」

 

 

 

深羽さんがそう仰られて、深紅さんは既に射影機を構えられていて。

まだムラサメ様すら気づかれていないんですが?

 

『信じられん索敵能力だな。今やっとわずかに気配を感じた程度なのに』

 

「ありがたい事です。ではよろしくお願いします。ワタシたちは祟り神の気配に集中しましょう」

 

「集中できっかな……了解」

 

「私は……見させていただいても?」

 

「多分参考になりませんよ? お母さんの後ろに」

 

許可して頂いたととらえましょう。深紅さんのそばに。

 

 

 

『オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ォ……』

 

『い゛   た゛        い゛』

 

『た゛…………け゛  て゛』

 

 

 

最初に遭遇した頃の幽霊と見た目はそこまで変わりませんが、言葉の様なものが……。

何となく姿もはっきりしていますか? 透けていますし明らかに生気がないのは一緒です。

 

「自我はほぼ無いけど、浮遊していたわけでもない。地縛の存在が生者(私達)に反応した感じ?」

 

「多分。不来方さんから伺った存在とはまた別だと。明確な目的はないのだと思う」

 

「そっか。じゃあ……いい?」

 

「分かったわ」

 

雛咲さん親子が冷静に分析されて。

 

そして。

 

 

 

バシャァンッ!!!

 

 

 

深紅さんがシャッターを切った、んですよね? 日上山式の射影機と全然感じが違う。

物凄い音とフラッシュじみた光と同時に、怨霊が反応の声すらなく全部吹き飛んだんですが?

 

「一四式でこの威力かあ。流石チャージ式に「(じゅう)」」

 

「私はこの方が慣れているから……余計に苦しませずに済んだかしら」

 

しかも私が使ったのと同じ一四式だそうで。私、1体祓うのに数枚使いましたよ?

一枚で6体って。

 

『これを九〇式だの零式だので撮影されたら、確実に吾輩は消えておるな……』

 

いつの間にか近くにいらっしゃった有地さんの持つ叢雨丸からそんなお声が。

 

「私達に敵意を向けない限りは怨霊扱いされないけど、流れ弾は保障できないわよ。朝武さんは参考になりました?」

 

「いえ、まったく」

 

「これを参考に出来てしまったら、芳乃様が巫女姫から陰陽師にジョブチェンジしそうですよ」

 

「小春の時の不来方さんよりも派手だよ。幽霊退治ってわかんないなあ」

 

流石にあのシャッター音だとこっちに意識が向きますよね。

でも当の深紅さんは冷静で。

 

「……山の山頂は、こちらの方角ですか?」

 

と、進行方向を指さされる。山頂とは少しズレるでしょうか?

 

「正確にはもう少し右側、方角では北北東方向ですね。何か感じられるんですか?」

 

「さっきの、不思議な気配が多分そちらへ徐々に。私達が歩いているくらいの速度、なのかもしれません」

 

『用心せよ。幽霊を祓ってもらった影響なのか分からんが……何だか妙な気配を吾輩も感じる』

 

茉子の説明の後、深紅さんからそんなご説明が。

じゃあ誰かが山に? ムラサメ様の感じるものっていうのも気になります。

 

 

 

そう思った所で。

 

 

 

「…………祖父ちゃん?」

 

有地さんのスマホにコールのバイブが有ったご様子。否が応でも不安が募る。

有地さんが私たちの方を向かれて、私たちは頷いて。

 

「もしもし、祖父ちゃん?」

 

『――将臣か? 今問題ないか?』

 

「祟り神退治のために山に入っているから、手短にお願い」

 

 

 

 

 

 

『――リヒテナウアーさんを見ておらんか?』




自身の能力を嫌っている節のある深紅ですが、娘の為ならガチモード。火力常時二倍。
おかしいですね、第二主人公の夕莉の出番がない。

そして新しいルートへの合流。

次も引き続き夜の山の中、チャプター4のメインです。
次回も楽しんで頂けたら嬉しいです。
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