零 ~イヌツキの少女達~   作:もふもふたぬきねこ

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夜の山の中二話目。
作者が最も苦手とする描写場面で呻いてます。

今回もよろしくお願いします。


32. 三つ巴

どうしても、先日の出来事が頭に思い浮かぶ。

 

 

 

――神隠(カミカク)

 

 

 

まさか。

 

「どういう状況だったの?」

 

『仕事中に耳鳴りが少々あるという事で、女将が今日は早めに休ませたのだ。その後に軽食を持っていったところで、リヒテナウアーさんの不在が分かった。携帯電話も部屋に置いてあるから連絡のつけようがない状況でな。防犯カメラも何故かその時間帯だけ写っておらんかった』

 

「有地君、電話代わってもらっていいですか? ――オーナーさん、雛咲です。何時頃レナちゃんが部屋で休まれたかは分かりますか?」

 

『部屋で休むよう指示したのが一時間ほど前。女将が確認したのは20分前の事になります。先程までこちらで確認をしておったのですが、従業員の誰も目撃していない状況で。ひょっとして武実神社に顔を出しているのではないかと将臣に電話をした次第だったのですが……』

 

そのお話を聞いて、深羽さんは空を仰がれる。

 

「……ヘドロ如きがやってくれたわね。オーナーさん、そちらから捜しに行かれるというのは絶対にやめてください。こちらで必ず連れて戻ります」

 

『目星が付いておられるのですか?』

 

「大体は。警戒しておけばよかった……」

 

「深羽、反省するのは後よ。まずは凡その場所に向かいましょう」

 

「……そうね。私達が連れて帰りますから志那都荘でお待ちください。いいですね?」

 

『…………承知致しました。大変申し訳ありませんが、リヒテナウアーさんを宜しくお願い致します。将臣、頼んだぞ』

 

「勿論だよ。祖父ちゃん」

 

そうして通話を切られました。

しかし、レナさんの居場所って。

 

「あの()()()()、多分これがレナちゃんです。あの時の私達もこんな感じだったのか」

 

レナさんに謎の気配……あっ!

 

「神様に近いようなっていう、あの気配ですか!?」

 

「多分ですけどね。土地神と憑代と祟り神に関係があるなら、彼女に何らかの影響が出ていてもおかしくないですから。おかしな存在に誘われた経験は私達にもあるんですよ。昨日耳鳴りの話を聞いた時に考えておくべきだった……」

 

「となると、志那都荘の近辺から山に入られて……ご案内します。そちらへ急ぎましょう」

 

「その前に、もう一つ確認させてください」

 

早くレナさんの所に行きたいところですけど、深紅さんはまだ何か?

 

「有地さん、ポケットに……何かを入れられていますか?」

 

「え? ええっと、多分憑代が……っ!? なんだこれ!?」

 

普段憑代の欠片の管理は、叢雨丸の使い手である有地さんにお願いしています。

それが最も安全だろうから。今日も身につけて下さっていたようです。

 

だけど、ポケットから出てきた憑代の欠片「らしき」ものは。

 

『……どういう状況なのだ、これは。祟り神のおかしな気配の原因の一つがコレだと? こんな状態に吾輩が気付かんなど』

 

ついにムラサメ様も叢雨丸から分離されて、ソレを凝視される。

 

 

 

赤く輝いて、まるで心臓の鼓動の様に明滅する水晶の破片が有地さんの手の上に。

単なる水晶の欠片だったら綺麗なのに、今はなんだか禍々しさを感じる。

 

 

 

「どう見てもいい雰囲気は感じないですよね……有地さん、大丈夫ですか?」

 

「それは何ともないんだけど、拍動みたいなのは何となく感じる……全然気づかなかった」

 

そっちもそうなんですが、夜の闇でも感づいた事が一つ。

 

「有地さん、ちょっと失礼しますね」

 

「えっ?」

 

私よりはるかに体力があって戦闘もしていない有地さんから、若干上気したような雰囲気。

額に手を当てて……これは。

 

「平熱だとは思えない……」

 

『触れるぞご主人……今朝よりは間違いなく熱いな。ここまで山を上って来たとは言えこれは……怠くは無いのか?』

 

「今も特には……気を張っていたせい? たしかに、指摘されると少し熱いって思えるかも。コイツから感じてるのか?」

 

有地さんにも体調悪化の兆し? 本来なら即撤退ですが、この状況だと……。

それに私たちと違って、有地さんはこれまでも憑代に何かを感じられている所がある。

今現在、有地さんの身体の中にはこれと同じ憑代の欠片が存在している――同じような状態?

朝から体温は高め。憑代からの影響を受けている可能性があったりするのではないでしょうか。

 

「こういうのは初めてですか?」

 

「そうですね。とはいえ、ワタシたちは今まで夜の山中で祟り神を祓う前に憑代を確認した事はありませんでしたから。気づいていなかっただけかもしれません。失礼を……39度近そうですね、普段ならすぐにでもお休みいただくレベルですが……」

 

39……かなり重めの風邪くらいは優にある。だけど有地さんはここまで気付かれていなかった。

となると単なる発熱ではないのでしょう。やはり憑代からの影響の可能性が。

憑代を出して頂くのは、祟り神を祓って欠片を合わせる時。

戦闘前に確認をした事はなかった。今までにも実はこんな事が?

 

「有地君、このまま動く事はできそう?」

 

「大丈夫だと。今も特別身体に違和感は感じていないので」

 

「身体の負担が大きいと思いますが、少し我慢をお願いします。このままリヒテナウアーさんを追わないのも、人数を分けるのもよくないと思いますから」

 

「こちらこそ、それでお願いします。ここでレナさんを追いかけない選択肢はないんで。こんな時に申し訳ないです。朝武さんたちもごめんね」

 

決して謝られるような事ではありませんが……状況が状況、一先ず切り替えましょう。

 

「これは祟り神かレナさんに憑代が反応している、という事なんでしょうか?」

 

「こんな見た目ですけど、祟り神とやらの気配より神様的気配の方が強いんですよ。だから遠くにいるレナちゃんの気配がコレに飲まれてあやふやに感じるんです。お母さんの見立ては?」

 

「多分……引き合っているのではないかしら。割れた御神鏡の様に」

 

深紅さんの例えはよく分かりませんけど、憑代同士が引き合っている?

という事ならば。

 

「山の祟り神と、レナさんがお持ちの欠片と、この憑代とが引き合っている、と?」

 

「俺もその煽りを受けてる様な? テンション上がってる感じなのか」

 

「可能性は高いでしょうね。或いはレナちゃん本人か。有地君や呪詛を受けている朝武さんが引かれなかったのは……多分射影機が近くにあったからじゃないのかな、と」

 

『射影機にはそんな力すらあるのか』

 

「私の祖母が経験したと聞いています……射影機が手元にあったから助かった、と」

 

使ってしまうとあちら側に引き込まれてしまう危険性もあるけれど、持っているだけなら逆にあちら側から守ってくれるものにもなりえる。

「私は、運が良かったのだ」と。

 

「常陸さん、さっき言っていた場所に案内してもらっていいですか? 有地君はその欠片を手に持っていてください。見た目でも近いか分かるかもしれないですから。私達が持つと色々マズそうなので申し訳ないんですけど」

 

「俺は大丈夫ですよ。ムラサメちゃんも問題ない?」

 

『無論だ、寧ろ当然の話だろう。右手は抜刀しておれよ。体調が変化したら口にしてくれ』

 

「承知致しました。芳乃様、よろしいですか?」

 

「勿論大丈夫だけど、この件は……」

 

不来方さんに、また影見をしてもらった方が確実ではないのでしょうか。

そう頭に思い浮かべたところで。

 

「夕莉さんへの連絡は駄目ですよ。今は射影機を持ってないですし、夕莉さんを参加させない為の代打の私達です。あの人はわりと自分の危険を顧みずに進むところがありますから」

 

考えを読まれていたかのように、深羽さんからぴしゃりと一言。

確かに射影機はこの場にある三台で全て。前回はマヨイガに単騎で突撃すらして頂いている状況。

もし連絡をしたならば……今の状況でも山に入られる可能性は高い、ですね。

 

「……申し訳ありません」

 

「別に謝られる事じゃありませんよ。今日のお昼の事とかはあるでしょうけど、もう少し私達を信用してもらえると嬉しいという話です」

 

「寄香はありませんけど、私も深羽も影見は出来ますから。必要なら憑代を使う事も検討します」

 

「「「「『それはダメ(です)』」」」」

 

「はい……」

 

深紅さんがコレに触ろうものなら、武実乃山が即刻魔境と化しそうです。

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

「なんだか点滅が早くなってきた気がする。俺もドキドキしてきた感じがあるか?」

 

「光も強くなっているでしょうか?」

 

「まさか憑代が祟り神センサーとして使えるなんて思いもしませんでしたね。場所的にはかなり志那都荘側、かつ少し登って来ています。ムラサメ様、いかがですか?」

 

『近いぞ、もうすぐ合流するだろう。芳乃達は構えておれよ。なんだか穢れの気配も強い。すまんがご主人は今しばらく耐えてくれ』

 

周辺に怨霊の気配はないという事で、今度は私たちが前に立たせてもらっています。

有地さんの持つ欠片の灯りは、最初の頃の倍近い速さで明滅を繰り返していて。

なんとなくですけど、祟り神が現れる前のイヤな気配も。

 

「お母さん」

 

「換えてあるわ。数の多い方をお願い」

 

「了解」

 

後ろでは深羽さんたちが射影機の準備を……いるって事ですか?

 

そして。

 

 

 

「……いた!」

 

「すぐには飛び込まないように。近くに祟り神がいる可能性が高いですから。今はこのままのペースで行きましょう」

 

「怪我は……されていない、のね。よかった……」

 

 

 

間違えようのない金色の髪に志那都荘の仲居さん服。レナさんです。

まるで夢遊病かのようにフラフラと、でも獣道らしき轍に沿って歩いておられる様子。

見た限り、怪我はされていない。それだけでもよかった。

 

 

 

「起きてきた……」

 

「どういうわけなんだか……怨霊が反応しているのは私達みたいですね。レナちゃんの前方から来ますから皆さんそのつもりで」

 

『ああ、間違いなさそうだな。ご主人、憑代を仕舞って臨戦態勢に入れ。祟り神も……これは恐らく一体ではないぞ。そのつもりでな』

 

「了解、初の複数体か。一体は俺だけで一旦捌いてみる」

 

「あまり無理はなさらずに。ですがよろしくお願いします――茉子」

 

「はい。急ぎ祓って有地さんに合流しましょう。怨霊側はよろしくお願いします」

 

「任せてください。こちらを気にしないように」

 

祟り神を祓える人員が複数人いる今を、ここまでありがたいと思う状況はないですね。

歴代でも初めてなのかもしれない。複数体の祟り神が出現するかもだなんて。

 

そろそろ、レナさんにも声が届くでしょうか。

 

「レナさん、レナさん、大丈夫ですか?」

 

私が軽く呼びかけてみますが、反応は無し。

 

「あっちは相当数がいそうか……先行してくるわ。お母さんはこっちをお願い。後ろもいるから」

 

「気をつけて」

 

深羽さんはレナさんの進行方向の更に前へ。そちらに怨霊が現れたという事でしょうか。

お一人に任せてしまうのは心配ですけど、怨霊に対して出来る事はほとんどない。

今私が出来る事に集中しましょう。

 

レナさんのすぐそばまで来ましたが、こちらに気付かれるご様子は無し。

表情は……特に苦しそうとかはなさそうですね、本当に眠っているだけの様な。ちょっと涎が。

志那都荘でお休みになった状態のまま歩いてきたのか、憑代の影響で眠らされているのか。

 

「このまま寝た状態で歩かせっぱなしってのは……もういっそ無理矢理起こす?」

 

『今の状況ではその方が安全やもしれんな。何が起きるか分からんが、眠ったまま戦闘に巻き込んでしまうよりはマシだろう』

 

「ではワタシが――レナさん!!」

 

 

パンッ!

 

 

茉子が大きな声と一緒にねこだましを放って。

 

 

 

「ふにゃ!?」

 

 

 

レナさんから猫みたいな気の抜ける声が聞こえて。

 

 

キィーーーーーーーーーーーーン!!!

 

 

「うっ!?」

 

「なんだこの耳鳴り!? 鳥肌もやべえ」

 

「これはヒドイ総員起こしでありますぅ……」

 

『ぐぅ!? 吾輩にすら響くなど』

 

「つうぅ、芳乃様! しっかり!」

 

「来ますよ」

 

 

 

強烈な耳鳴り。自分の耳より獣耳から突き刺すような音が頭の中に飛び込んできた。

そして、深紅さんが一言告げられて。

 

 

ザザザッ!!!

 

 

祟り神! 一体だけ!?

そう思ったら。

 

 

 

『じゃ     を   か』

 

 

 

逆側から怨霊! しかも小春さんの時みたいな武者の霊!? なんてタイミング!

私たちがとにかく祟り神を!

 

「これが祟り神……私は先に後ろの怨霊を」

 

『待て雛咲母! こやつ、一体だけではない!!』

 

と思った所でムラサメ様から声が飛び。

 

 

 

祟り神が分身するかのように――「五体に増えた」。

 

 

 

「ふおっ!? ヘドロが!? ヨシノたちまで!?」

 

「嘘だろおい……二体どころかいきなり五かよ」

 

「シャレになりませんねえ……深紅さんは後ろの怨霊を見て頂けますか? ワタシと有地さんで前方に壁を。キツいかとは思いますが一先ず専守防衛でいきましょう。芳乃様はレナさんをお願いします」

 

「分かりました。こちらは構えておきます」

 

「レナさん! 大丈夫ですか!?」

 

「はっはい! わたしはダイジョーブでありますが、一体何が!? タタミ神!?」

 

意識ははっきりしていらっしゃるみたいですね。よかった。

とは言え、状況は十分に最悪です。まさか二体どころか五体だなんて。

 

とにかく、レナさんと深紅さんは絶対に守る!!

 

『来るぞ!!』

 

ムラサメ様の声の直後に、祟り神たちから触手が伸びて。

 

「ハアッ!」

 

「ラアッ!」

 

茉子と有地さんが弾くと同時に。

 

 

ガキン!!

 

 

後方からも何かを弾く音…………は?

 

 

『邪    ま    す    か』

 

 

五体の内、三体の触手は……私たちを飛び越え、なんと武者の怨霊の方へ。

そして、武者がそれを右手の刀であっさり弾き返した。ええぇ……。

 

「あの武者霊を祓うのは後の方が良いでしょうか」

 

『冷静だのう! 今のままの狙いである事を願うぞ……ご主人! 茉子! お主らは組で各個撃破だ!! 芳乃は守りに努めよ! 雛咲娘が戻ってくれれば幾らか状況が好転するやもしれん!』

 

「分かりました! レナさんと深紅さんはこちらに!」

 

「承知しました! 必要ならすぐ防衛に戻ります! 有地さん!」

 

「基本クナイ投げでの足止めお願い! シャアッ!!」

 

茉子と有地さんが前進した事で、祟り神の動きにも変化が。

 

祟り神五体の内、三体が――なんと武者の怨霊の方に。私を祟るよりも優先度が上だなんて。

残った二体の内、一体は有地さんと茉子が。そしてもう一体の触手が――こっちに!

 

 

ビュオッ! ガキンッ!!

 

 

「えいっ! 目的はレナさんなんですか!? 絶対渡しませんよ!」

 

一体相手に弾くだけなら、私だけでも何とかなる!

 

「影縫い!」

 

「ナイス! オゥラアァ!!」

 

『焦るな! 確実に仕留めよ!』

 

あっちももうすぐ何とかなる!

私は自分の役目に集中を!!

 

 

 

「時代劇って結構史実なんですね」

 

「これがリアルニッポンのタテでありますか!?」

 

 

 

そんな中、深紅さんの静かな声とレナさんの場違いな興奮した声。

ちらりと後ろに目線をやると。

 

 

 

――武者の怨霊が、三方からの触手を捌きながらもゆっくりと、こちらに近づいてくる。

 

 

 

ウソでしょ!? シャレにならない! 殺意高すぎませんか!?

 

「……朝武さんはそちらの祟り神を。ムラサメさん、絶対にこちらに来ないように」

 

『撮る気か!?』

 

「祟り神ごと、一度撮ります――本気で」

 

その一言で、周辺の気配が変わった。

 

 

 

周囲の音が止み、まるで時間が止まったかのように。

深紅さんが射影機を構えられて。本来第三者からは見えないであろうはずの謎の模様が、私の時より遥かに複雑な柄を描いて陣を成す。

その光景に目が離せない。

 

そして。

 

 

 

「――『(さい)』」

 

 

 

バッシャァアアアン!!!

 

 

 

凄まじいシャッター音と、本当にかめ〇め波のようななにかが武者の怨霊と三体の祟り神に飛び。

 

 

『ぐぅおおおおおぉぉぉぉぉ……』

『『『――――――――――――――』』』

 

 

祓うには至っていませんけど、間違いなく大ダメージが入った。

武者からも、声にはなっていませんけど祟り神からも間違いなく悲鳴が。

本当に除霊ってなんなんでしょう。

 

「朝武さんは前を。一四式でもやり過ぎだったかしら……」

 

「これがコハルから聞いたかめ○め波ですか!? どっちかというと霊〇弾(ショッ○ガン)!?」

 

もう何というか脳が理解を拒む言葉が聞こえてきましたけど、私は私の役目をこなさないと!

 

と。

 

「退いた!?」

 

「芳乃様、ご無事ですか!?」

 

「悪い! 一体しか仕留められなかった!」

 

『気を抜くのは早い! 状況を見定めるぞ!』

 

茉子と有地さんたちが戻ってこられて、後方にいた三体の祟り神が残りの一体と合流して。

 

「随分と沢山来ますね」

 

深紅さんがそうボソッと仰られると。

 

 

ザザザザザッ!!!

 

 

「……うおぉマジかよ。モンスターハウス的な?」

 

「深羽さんが先にいらっしゃいます。ワタシたちは一秒でも長く耐えますよ」

 

『最悪、またご主人に神力を分け与える。先に詫びておくぞ、すまぬなご主人』

 

「まだ死ぬつもりはないからありがたいよ。そっちこそね」

 

「これは……まさか残りの憑代の欠片が全て?」

 

「流石に気持ち悪いでありますね……」

 

「ええっと、射影機の霊力の残量的には……」

 

もう数えるのも億劫な。

優に30以上はいるでしょうか? 地面や森より祟り神の方が視界を占める割合が大きい。

 

一体相手で取り敢えず。二体でギリギリ拮抗。

なのに、こんな数なんて……。

 

 

 

「ごめんなさい……」

 

思わず口から出てしまった。でもしょうがないじゃないですか。

 

元はと言えば、全て私を狙っている存在。そんな怪物がいる所へ皆を招いてしまった。

今謝らないと、もう謝れなさそうなんですから。

私なんかの命の為に、私がこんな抵抗をしなければ。皆をこんな目に合わせずに済んだのに――

 

 

 

『馬鹿者!!!』

 

返って来たのは、まさかのムラサメ様の怒声。

 

『芳乃! 全てがお主のせいだとでも思っておるのか! お主が諦めればそれでよかったなどと思っておるのか!! それはこの場に居てくれている者達と、穂織の皆と、これまで血を繋いできた朝武の巫女姫達に対する最大の侮辱と知れ!!! これは芳乃だけの問題ではないのだぞ!! 謝罪の意味などない!! 自惚れるでないわ!!!』

 

いや私のせいでしょう? 今の状況にあって、まだそんな厳しい事を言われるんですか?

 

「そうですよ、芳乃様」

 

茉子はこんな状況ではあるけれど、いつものような飄々とした声で。

 

「よく考えてみてくださいよ。こんな化け物が芳乃様の命を奪った程度で満足してくれるとお思いですか? あり得ないでしょう、絶対山を下って穂織を滅ぼしにかかりますよ。それに芳乃様が死んでしまったら、次はワタシが何かしら狙われる気がしますのでやめてください。諦める前にまだ命の使い道がありそうなんですから、とっととその鉾鈴を構えて頂けると助かります」

 

なんか酷くない? ちょっと私怨も混じってない? 本音じゃないわよね?

 

「廉太郎じゃないけど、誰ともお付き合いすらせずに人生終了はカンベンだなあ。やっと何かが変わりそうな状況なのに、さ。というわけで朝武さん、俺の将来の為にも頑張ってくれない? まだ結婚もしてないのに未亡人……これは女の人だけだっけ? まあそんなの御免だから」

 

有地さんはよくここで婚約者(仮)設定を思い出せますね?

まあ巻き込んだのは私ですから、真面目に責任を取る事も考えないとではあるんでしょうけれど。

 

 

 

何というか、みんな酷くありません? 意図は分かりますけど、もっとやり方があるというか。

有地さんはまだいいですけど、ちょっとイラッとしました。

 

「はぁっ。何を勘違いされているんですか? 今から本気出しますって事ですよ!!」

 

でも、乗っからせていただきます!

 

 

 

「ファイトなのですよヨシノ! わたしにも出来る事があれば……」

 

「いえ、リヒテナウアーさんは居て頂ければ十分です。それだけで違いますから」

 

「深紅さん?」

 

私も立ち上がって鉾鈴を構えたところで、射影機を構えられている深紅さんからそんなお言葉が。

 

『どういう事だ? 雛咲母』

 

「今の祟り神の目的は朝武さんを害する事ではないのだと。多分リヒテナウアーさんを傷付けずに攫う事を重視しているのではないでしょうか。現に今も全方位から襲うなんて事はされていませんし、フィラメントも赤点滅(緊急警告)はしていませんから。理性的なのか、射影機を警戒しているようです。先程のはもう一度使えますし、既に溜めてありますので冷静に」

 

傍に立っているだけの私の耳にすら響く、大きく重い霊波計の音の中。

たしかに。さっきのやり取りの間に攻撃されていても全くおかしくない。

 

そういう知恵が回らない可能もなくはない。でもさっきは三体と二体に分かれた。

つまり優先順は間違いなくあるという事。私よりレナさんを優先しているように。

なのに、攻撃してこなければ包囲もしてこない。

前方でカタマリにはなってますけど、壁を作るだけで様子見に回っているかのような。

 

 

 

『よ゛    く゛    も゛』

 

 

 

後ろから武者の霊の声が――復活してきた!?

なんて事を考えていたら。

 

「……おいおいおい、今度は何なんだよ。こんな事も出来るわけ?」

 

「完全にファンタジーですね。怪物の合体ですか」

 

『ある意味好都合かもしれんがな……これが犬神としての祟り神か』

 

「これが、私への呪詛の、本当の姿……」

 

「タタミの神が犬になるのですか!? 東洋の神秘ですね!」

 

「随分と大きな犬が日本にいたんですね」

 

大量に発生していた祟り神は、文字通りヘドロのような状態から融合を始めて。

 

 

グゥウオオオオオオオオオオオォォォォゥゥゥゥ!!!!

 

 

巨大な黒紫色の身体に赤い目、長い尻尾らしき触手を持つ狼のような怪物に変貌した。

なんというか、深羽さんが言っていたみたいにも○○け姫のアレみたい。数メートルはある。

これが正真正銘の『犬神』ですか。

 

『後ろの武者の怨霊か、より射影機を警戒したのかの? なんにしても数は減った。さっきまでよりやりやすいやもしれん』

 

「ここでコイツを倒せれば、ひょっとして憑代の欠片もほぼ集まる感じ? リアルモン狩りの機会なんて本当にあるもんだなあ」

 

「可能性は十分ありそうです。ピンチはチャンス、千載一遇とはこの事ですね。芳乃様、いけますか?」

 

勿論。

 

「さっき言ったでしょ――今から本気を出すって!」

 

絶対に鉾鈴を突き立ててやるんだから!

 

 

 

前方から犬神が、後方から武者の怨霊がジリジリと迫ってきて。

 

「大丈夫です。時間は稼げたようなので」

 

と、深紅さんが射影機を降ろし、さらっとそんな事を仰る。一体何の時間を?

 

 

 

そう思ったその時。

犬神の動きが止まって、振り向いて。犬神より更に向こうの先の道から。

 

 

 

ザリッ

 

 

「私の」

 

 

ザリッ

 

 

「お母さんに」

 

 

ザリッ

 

 

「力を使わせたの」

 

 

ザッ!!

 

 

「どっち?」

 

 

 

深羽さん! ご無事だったんですね!

ただ……気配が昼間の怨霊模倣のパワーアップ版みたいなものになっているんですが?

長くて綺麗な黒髪が浮き上がって大変な事に……。

 

「こっちよ、深羽」

 

深紅さんが武者の怨霊を指さす――なんとなく武者が動揺した?

そして深羽さんの()()が溢れ出し、深紅さんを除いた私たちの冷や汗が一気に吹き出す。

 

ムラサメさん、どいてなさい。消えるわよ

 

『……っ!!! ご主人! 彼女の視界から外れろ! シャレにならん!!』

 

「言われなくても! 絶対霊よりおっかない……」

 

「芳乃様! レナさんもこちらに!」

 

そうして、私たちが獣道の脇に飛び退いた直後。

 

 

 

 

 

 

(めつ)』――八連(はちれん)

 

 

 

ババババババババシャァアアアン!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

もう戦争映画とかで聞きそうな重い銃撃の音が鳴り響く。これのどこがシャッター音ですか。

 

武者の怨霊は跡形もなく消し飛び。

犬神の方も多少は余波を受けたような――

 

 

 

貴様…………一体何をした?

 

 

 

犬神が、喋った!?




シャッター音での戦闘描写が出来ません……。どうすればいいやら。
深羽はゴ○さんになりました。

次はこの直後から。
次回も楽しんで頂けたら嬉しいです。
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