今回もよろしくお願いします。
「答える義理はないわ、犬畜生。お前もとっとと現世から失せなさい」
「深羽、待ちなさい。今は多分お話が聞けるから。大事な機会なの」
「…………わかったわよ。命拾いしたわね」
深紅さんが説得されて、深羽さんが射影機を下ろされました。でも気配はそのまま。
正直、今のこの場に立つのはさっきまでの戦場より怖いんですが?
とはいえ、どう動いてくるのかは分かりませんが確かにこちらの言葉は通じる様子。
この機会を逃す手はありません。
『……貴様、まさか「
「私の名は「雛咲深羽」よ。次にその気色悪い呼び方をしたら、神だろうと滅ぼしてやる」
「駄目よ深羽、朝武さん達にとって大事な時なのだから」
「……ふん」
また聞いた事のない単語が出てきましたが、最大級の
とにかくこちらも話に参加させてもらいましょう。まずはきちんと確認しないと。
「あなたは……穂織と朝武を呪う祟り神、でいいんですか?」
『クハハハハハハハ! あのケガれた者共の末代が我をタタリなどと呼ぶか。やはり人間、自らに都合の悪い事は塗り潰すのが好みらしい』
間違いではない……という事なのかしら。
「穢れた者」って、犬神を放った朝武義和の事? 都合の悪い事って一体……。
『お主の目的はなんだ! 確かに過去、人は過ちを犯してお主を呪詛の塊たる犬神へと変貌させた。だが今を生きる者達には関係ない事だ! 500年経っても未だその憎しみは消えぬというのか? まだ朝武を滅ぼす事に固執するか!』
『
「私の一族を滅ぼす事が……些末事、ですって?」
『たかが人間の血一つ現世から葬る事に我が執着すると? そも、業腹だが貴様は姉君の加護を受けて我の力を継いだ存在。忌まわしき事にその髪と耳が如実に表している。ブシツケに我が身に潜り込みおったから排除してやっていたまでの事』
なんなの? 話が繋がらない。
目の前の祟り神もとい犬神は、朝武の一族を滅ぼす事を「些末事」「ついで」と言った。
加えて……私が祟り神と、そのお姉さん? の加護? を受けている? この髪と獣耳がその証?
ダメだ、混乱してきた。
「この500年間巫女姫様方を死に追いやっていたのは、あなたのせいではないと?」
『ククク。貴様がそれを我に問うか? 銀の髪の娘共の滅びを望んだのは、貴様の血だろうが』
「…………えっ? ワタシ、の?」
『呆れたな。ショウキをこの地に撒き散らし、憎しみの血を流させ、我を堕とし、姉君を砕いたあの男。畜生に堕ちた我が身にさえ、未だ念を遺す愚物の望みよ。それが真たる目的ではないようだが? 流石は人間、よくぞここまで欲深くなれるものよな』
「どういう事だ……?」
有地さんはまだご存じなかったんでした――ここで話す事になるなんて。
『茉子は朝武長男の直系なのだよ、ご主人……言い分は大体分かった。芳乃達朝武の巫女姫を真に呪っておったのは、祟り神と化していた目の前の犬神ではなく朝武長男義和本人の残留思念と言いたいらしい。雛咲親子が言っておっただろう? 祟り神の元になった犬神以外にもう一つ気配があると。つまりはそれが長男の怨念のようなものなのだろう』
『忌々しい、死してなお姉君を汚し続けるなど。だがそれも我の自我が完全なものになるまでの事。これもお導きか、清らかな姉君の御身と器までこの地にお戻りになられ、我が集う道標となった。後は貴様の腹を掻っ捌くだけだ、
そんな事を口にして――祟り神が有地さんの方を向き、尻尾を振りかざす。
有地さんは無関係なのよ!
「止めてください! 有地さんに何の
「事情は分かりませんが、マサオミを傷付けようとするのは止めて欲しいのです。せめて理由を教えてもらえないでしょうか?」
私とレナさんが有地さんの前に立つ。私ごと貫いて来ようと知った事ではありません!
レナさんはせめて私の後ろに下がっていてください……と言っても聞いてもらえませんか。
『……相も変わらず、貴女は気に掛け過ぎでございます。御身を宿し、御身を振るい、御身を狂わせた。これを罪人と言わず何と呼びましょう? 加えてその罪人の身にもあの愚物の一部が宿っている。これ以上姉君を汚させませぬ』
レナさんの問いに、犬神の態度が大きく変わった。これが本当に犬を生贄にしたただの呪詛なの?
私たちが「祟り神」「犬神」と呼んでいるだけで、犬神は本来「妖怪」の部類。獣に近いはず。
でも目の前の犬神からは明らかに人と同等以上の思考力が存在している。これは一体何なんだ。
「私達の前でそれをさせると思う? 今のお前如きが私から逃れられると?」
深羽さんと深紅さんが射影機を構えられる。相変わらず深羽さんの気配が怖い……。
その様子を犬神も憎々しく思っているようで。
『ちっ……あの男の気が散った事は好都合だが、不完全な身でそれを受けるのは不都合か。人間共め、常世を侵す事も辞さぬモノを作り上げるとはな』
『……今のお主の望みはなんだ。叢雨丸の敵である以上、何であれお主は祓うべき存在。だがこの場の者達に手を出さぬというなら、話くらいは聞いてやる』
『大きく出たな、不完全な即席の人柱風情が――姉君の御身を返せ。その身も、その骨も。そして讃えよ。さすれば我が牙、姉君に免じて一度は収めてやる』
「お姉様のお身体……あなたの宿る憑代ですか?」
『我が姉君の御身たる
祟り神が呪詛を篭めた一言を添えて……
その場に、凡そ球形を成した透明の玉石を残して。
途端に大量の汗を掻いていた事を思い出し、緊張の糸が切れ、今までの状況を自覚し。
『「「「「はあぁ~…………」」」」』
私たち穂織の5人はへたり込んでしまう。
「全然お話は分かりませんでしたが、トロルとは随分な違いでしたね。タタミ神のフュージョンがあんなにおどろおどろしいとは」
「ごめんなさい。私がもう少し早く戻って来ていれば状況は違ったかもしれなかったわね」
その分からない状況であれだけ冷静に質問できるレナさんはすごいですね……。
深羽さんは犬神をずっと縛ってくれていたようだったのに、割と余裕そう。
霊力ってすごい。アレを拘束できるものなんですね?
「いえ、とんでもないです。本当にありがとうございました……マジでヤバかった」
『まったくだ。心から礼を言うぞ、雛咲深羽、そして雛咲深紅。穂織の民を守ってくれた事、感謝する。あんな存在にもハッタリが通用してよかったわい』
「お気になさらず、それが今日の目的ですから。しかしあの犬の怪物が言っていた意味は、皆さんは……?」
色々新ワードが多かったですが、大体は分かるでしょうか。
ショックが大きそうなのは。
「やはり
「バカな事言わないの。その贖罪をほとんど無関係のあなたたちが今の今までずっと続けてきてくれているんでしょう? 感謝こそすれ、恨むなんてこれっぽっちもないわ。茉子は茉子よ」
案の定。やっぱり負い目を持ってしまうのね、茉子は優しいから。
こっちはそんな事全然思っていないんだから。というか茉子がいなくなったら
「その話は知らなかったからびっくりしたけどね、常陸さんがムラサメちゃんを見られるのはその辺が関わってたんだ。で……俺が「罪人」ってなんなんだよ? 俺何かした? 憑代を飲み込んだ事? しかも俺も呪詛持ちとかもう意味が……」
「そのお話は私も全くでして……」
『一度整理した方が良かろう。あの祟り神……いや、もう完全に犬神に戻ったか。アレがわざわざ虚言を吐く必要もないだろうから、一旦は真実として並べ直すとしようぞ。芳乃の獣耳も消えたし、その正体も考えねばならん。レナも無事だったのだ。ご主人、一先ず玄十郎に一報を入れよ』
「まずはそうしよっか、了解。
「であれば、志那都荘の私達の部屋にこのまま集まりましょうか。あそこなら話し合うにも十分広いし、そういう整理は放生さんの方が得意そうだし。お腹も空いたでしょ? 有地君はご飯についてもオーナーさんに話しておいてもらっていいですか? 朝武さん達は神主さんと駒川先生に連絡を。私は夕莉さんに連絡を入れるので。お母さんはレナちゃんを見てあげてて」
「分かりました。ありがとうございます」
とにかく、全員。
無事でよかった。
部分的にカタカナになっている箇所がありますが、フォントの都合です。
新しい設定や単語が出てきましたが、ぼちぼち解説されていきます。
次々チャプターくらいになるものもありますが……。
これで一旦の山場は終わり。共通ルート終了くらいです。
チャプター4もあと2話です。長かった。
今年の投稿は本話が最後になります。ここまでお付き合い頂きありがとうございます。
引き続き来年もよろしくお願い致します。
次回も楽しんで頂けたら嬉しいです。