話がマトモに進むのは次……と言えるのかな。
どうにも本作は話の進み方が冗長になります。。。
今回もよろしくお願いします。
「ああ芳乃様、お疲れ様です。疲れは残されていませんか?」
『これはまた、随分とはーどわーくのようだの』
みづはさんの診療所へ。因みに有地さんは志那都荘へ向かわれています。
なんでも鞍馬君と少し話をしたい事があるんだとか。なんなんでしょう。
そしてみづはさんからいつも通り私の体調を気遣って頂いたわけですが。
これは……祟り神退治の方ですよね? 夜のプロレス疑いじゃありませんよね?
「私は大丈夫ですけど……みづはさんこそ大丈夫なんですか? かなり隈が酷そうに見えますが」
「これはお恥ずかしい所を。医者が体調不良など笑えないのですけれどね。ですが、流石に私も今までの立場では居られないものでして」
これだけ
とはいえ、事情は察しますけれど。
「お持ちの資料を全て見直されているので?」
「それに加えて実家の方で管理していた無関係そうだけどかなり古い物や、大学時代の伝手を頼って陰陽道に関する情報がないかも確認しているよ。陽炎山に関しては放生さん達の方がそもそも詳しそうだからお任せしているけれど、こちらは私がやるべき事だからね。この時のために調べてきたと言っても過言ではなさそうだから。まあ患者の診察時間を減らすだなんて以ての外だから、プライベートを削るしかないわけだけれど」
穂織で唯一のお医者様。故にプライベートな時間なんてほぼゼロ。
必然的に起きている時間を増やす事になっていらっしゃる。
「これでも大学時代に研究に打ち込んでいた時に比べればマシな方なんですよ。ちゃんと医者の役割は全うしますのでご安心ください」
「ですが……」
「芳乃様や常陸さんからご心配頂けるのは大変ありがたい事ですが、何せ深羽さん達が穂織にいらっしゃる間に事を進めなければ夕莉君への負担が膨れ上がりますし、次がいつになるか分かりません。特に深羽さんは今回かなりの強行軍で来て頂いたようですから、彼女と言えど二度目はなかなか難しいでしょう」
「深羽さんたちから何か伺ったんですか?」
「いや、世間一般的な話なんだよ。単に田舎暮らしの我々が知らなかっただけの事さ」
そういって、みづはさんはスマホを操作されると画面を私たちに見せてくださいました。
そこには。
『……表で顔が売れておると、憶測もとんでもない速度で広がるものだな』
「有地さんの仰っていたSNSなどの力の大きさがわかりますね」
宗方美優、失踪か!?
現在○○テレビ系列で放送中の月9ドラマ「
番組関係者らは一様に否定しているが、熱心なファン達の情報によればこの連休中は宗方が登場しないシーンを中心に撮影が進められているとの予想が立てられており、いくらNGを出さない彼女と言えども事前にそれだけのシーンを撮り溜めておく事は不可能との見通しだ。また彼女に関係があるとされている青いスポーツカーが連休中都内での目撃を絶っており、この事から宗方が現場入りしていないという説に拍車をかけている。元々私生活が秘密の宗方美優だが、ここまで姿を現さないのは「失踪したからではないか」との見積もりであり、ドラマの内容に併せて「
本誌は宗方のマネージャーに取材を申し込んだが、基本的に全ての個人取材を断っている事も有名であり今回もNGとなった。一方で本作に楽曲提供をしているピアニストのLUNAからは、「以前の彼女に戻ったんですよ。溌溂なのが不思議です」という意味深なコメントを得られた。
彼女がファンの前に姿を現すのがいつになるのか。本誌は今後も彼女の足跡を追っていく。
「………………これ、マズくないですか?」
まさか深羽さんが失踪扱いにされ始めているなんて。
あの人の事だから、この手のニュースはとうの昔にご存じなのだと思いますが。
前に伺った時は「どうにか調整がつきそうな状況」と聞きましたけど、現実は深羽さんが映らない部分を先に撮影されているって事ですよね? ものすごい数の人の予定が変更されていそうです。
このピアニストさんは一体? 多分ですけど、ある程度今の事情をご存じなんでしょうか。
「現代社会において完全に姿を晦ますというのは極めて難しい事ですからね。ただ、それだけ深羽さんも無理を押してここへ来て頂いている事になります。となれば、資料探しくらいは急ぎ実行すべきかと思っているんですよ」
「確かにワタシたちも悠長にしている場合ではなさそうですね。とはいえ祟り神の件が一段落ついた以上、次に何を行うかの方針はどうしても不来方さんや深羽さんたちの指示を仰がないと難しそうなんですが」
『だの。明日聖域に入るとは言え、そこで怨霊に関する情報が出てくるとは限らんからな。元々無関係だからあまり関わらせずと思っていたのに、今や不来方達がおらねば話が進まん。祟り神を除いてしまうと、吾輩がどれだけ無力かよく分かる』
現状私に何が出来るか考えると……正直思い浮かばないんですよね。
祟り神祓いと巫女姫としての活動以外、いかに何もやって来なかったかが分かります。
射影機を使って町中を撮ってみるとか? それで何か新たな情報が得られたりするんでしょうか。
「それで、芳乃様達は何かご連絡が?」
あ、そうだった。当初の目的を果たしていないんでした。
「明朝武実神社の神域にお父さんと私が入る事になりまして。お父さんは既に儀式に入って、私も午後の神楽舞の後はそちらに合流する形になります。その関係で今日は殆ど身動きが取れない状況でして、不来方さんたちも中休みを取って頂いている所です」
「そうですか……遂に武実神社の聖域が。お話は承知致しました。今日は一日ここに詰めているかと思いますので、何か必要な事があればご連絡いただければと。すぐに向かいます」
「よろしくお願いします。ワタシから申し上げるのはおこがましそうですが、お自愛なさってください」
「ははは、全くだね。私が常陸さん達のお世話になるなんて事は絶対に避けないと」
♢♢♢
「あら巫女姫様、常陸さんも。いらっしゃいませ」
「こんにちは。馬庭さん」
「こんにちは。二人なんですけどよろしいですか?」
「はい勿論。ご案内いたします」
それなりに歩き回っていたところで盛大に私から腹の虫の音が響いたため、志那都荘に向かう前に田心屋で甘味を頂く事に。
なんだか今日も馬庭さんはテカテカしていらっしゃいますが?
「不来方さんたちが来られた感じですか?」
「御明察です。あの食べっぷりといい数日分の売り上げが一日で達成できるといい、まさに神様の振る舞いですよ」
『相変わらず凄まじい胃袋だな。どういう構造になっておるのだか』
深紅さんはまた全部食べられたんですね……。
食べなくてもよさそう、という謎の体質疑惑もありますけどお菓子好きだという辺り、深紅さんも見た目相応の女性……いや、見た目と実年齢に凄まじい乖離のお話があったんだった。
「こちらほうじ茶です。ご注文が決まりましたらお声がけください」
「はい、ありがとうございます」
なかなか自分で入れるお茶でこの香ばしさは堪能できないんですよね。
これもお店ならではの楽しみ方です。
「しかし安晴様は……今日は本当によろしいので?」
「うん。食べ物っていうのは「現世の欲」の塊らしいから、出来る限り取らないんだって。お手洗いと水を飲むくらいなんじゃないかしら。私が神楽舞を奉納している間に身体を清める事はするみたいだけど」
『本来はそれなりに期間を設けて行う儀式を、突発的に一日で終わらせる勢いだからな。本来なら許される行為ではないだろうが……まあ此度は緊急事態だ、許して頂けるであろう。なにせ新たに祀られる対象となったものが凡その状況を知っておるし』
そんな理由で今日は朝武家の昼食がありません。神社を閉めているわけではありませんから、戻ったら社務所でのお仕事は勿論やるわけですけどね。
あの犬神、今度から何と呼べばいいんでしょう? お父さんは「犬神様」と呼んでいたけれど。
「まあそういう事なのであれば、ここでお菓子を頂いた後は以前レナさんを連れて行ったお寿司屋さんにでも行きましょうか。芳乃様は本当に久々ですし」
「……記憶にない」
『当時の芳乃は先月までのツンツンもーどだ。大して味わっていなかったであろうさ。さて吾輩も少し回ってこよう。犬神が居なくなった変化があるかもしれぬし、どうにも後一つありそうな玉石の欠片の話もあるからな。また後でだ』
私、そこまで酷かったですか?
玉石に関してはよろしくお願い致します。残り一つと言うなら、以前は使用を悩みましたが射影機を使った呼び戻しで探す事も視野に入れないといけないですね。
「お昼を考えて小さめのものにしておきましょうか。芳乃様は?」
「あ、うん。どれが軽いのかわからないから……茉子のと同じのにしてもらおうかしら」
「分かりました。馬庭さん、すみません」
「はい、ただいま……?」
茉子が馬庭さんをお呼びした……のはいいんですが、なんだか馬庭さんが不思議な顔を?
「どうされたんですか?」
「あっいえ! 申し訳ありません! 多分見間違えかと思いますから」
「見間違え、ですか?」
一体何と……まさか幽霊? 祟り神? ちょっと不安になってきました。
が、返ってきた内容は予想外のもので。
「笑われそうな気がしますが……
…………!?
それって、もしかしなくても!?
「そんな方は見ていなかったと思いますよ? ドラマか何かでご覧になったシーンを偶々想起されたのではありませんか?」
「そんな子が出てくるようなドラマは見ていなかったと思うんですけど……ムラサメ様にとってはアタシもまだまだ子供という事でしょうか。あ、すみません。ご注文はお決まりですか?」
茉子がカバーストーリーをとっさに作ってくれましたが……一体何がどうなって?
♢♢♢
「こんな事態は想定外ですね。ワタシには原因に思い当たる節がありません」
「私もよ。どう考えてもムラサメ様の事よね……一瞬とはいえ、馬庭さんの目に映っただなんて」
大変失礼な事ながら、田心屋で頂いたお菓子の味をあまり覚えていません。
頭の中は疑問で埋め尽くされています。
知っている限り、ムラサメ様を見る事が出来る条件は4パターン。
一つ、朝武の直系である事
一つ、憑代こと「玉石」を長期にわたって身につけていた事
一つ、極めて高い霊感を有する事
一つ、比較的霊感の高い、かつ存在を信じている子供である事
子供というのは大人よりも直感や霊感に優れているそうで、幼子ほどムラサメ様を認識出来ている事が多いんだそうです。
ただ、私たちの様に常時見えているだとか会話が可能だなんて例はないそう。
馬庭さんの先ほどの例は四番目に近そうではありますが……。
馬庭さんは私たちが関わっている方の中で最も祟り神にも怨霊にも縁遠い。
突然霊感が上がるなんて機会には遭遇していないと思っています。
信心深いというのはあるのかもしれませんが、それだと玄十郎さんも今なら見えているのかも?
「これはムラサメ様にもお話をしておかないといけないわね」
「『永久花への信仰が薄れ始めただけだ。大した事ではない』」
「いや茉子、それってとんでも……?」
えっ? 今私、茉子と話をしていたわよね?
「『姉君を祀る人間が減り、姉君の御身たる玉石が集まった事で貴様らの信仰も薄れた。あれは永久花ではあるが元は何の力も所縁も持たぬただの人間の小娘。信仰を失えば俗世からの守りはなく、だが存在の力だけは無駄にある。放って置けば姉君の分御霊からも切り離され、奴らの拠り所にも成れよう。喜ばしい事だ』」
振り向いた先にいたのは、見た目には単にニヒルな笑みの茉子ではありますけれど。
――黒い、犬の獣耳が生えてる。
という事で新ルート合流です。
「月蝕の仮面」は零シリーズの四作目のタイトルです。
現在穂織にある3台目のチャージ式射影機がこの作品の物になります。
次はこの直後から。
次回も楽しんで頂けたら嬉しいです。