喫茶・こずかたにて、野郎1名と女性6名と性別不詳1名。将臣の女子慣れが進む。
今回もよろしくお願いします。
「お邪魔します……おお、ホントにいた」
『手間をかけさせてしもうたな、ご主人。すまんかった』
「お疲れ様です、有地さん。無事でよかったですよ」
「そっちこそね。もう何が何だかなんだけど……」
「アイスコーヒーを御馳走しますので、よければお休みください」
「ありがとうございます。頂きます」
志那都荘で深羽さんからお電話を頂いて、現在は喫茶・こずかた。
お店の中は店主の不来方さん、お客である深羽さん、深紅さん、鏡宮さんと。
普通に座っていらっしゃるムラサメ様。霊体ではあります。
無事だったのは大変喜ばしい事ではありましたが、伺ったお話は大変なモノでした。
「軽く電話で聞いたけど、この真昼間にムラサメちゃんに反応して幽霊が起きてきたって?」
『それもそうなのだが……穂織の町を浮遊する霊を吾輩が見る事が出来るようになっておるだけでなく、あちらも吾輩を認知出来るようでな。もう気が気ではなかった……死ぬかと思ったぞ。ここに辿りつけたのが奇跡だ』
「おチビさんがその台詞を言うと完全にギャグよね。霊が霊に襲われた場合ってどうなんだろ?」
「茶化すんじゃありません」
そう。
私たちが今まで見てきた幽霊はほぼ
そんな幽霊たちがこの晴天の中で、しかもムラサメ様に反応して動いてきたという。
加えて今のムラサメ様の視界は、不来方さんや深羽さんたちに近いもののご様子。
少しは慣れられたとはいえ、幽霊嫌いであるムラサメ様には厳しそうなものがありそう。
「先程朝武さん達から伺ったお話も大変ですけれどね。今度は常陸さんのお身体を憑代にするなんて。先生の頭を動かすにはいい機会ではあるんですが」
「全くワタシの記憶にないというのがキツいんですよねえ……色々信じたくないです」
「主導権を握られているという事ですから。有地さん、お待たせしました」
「ありがとうございます。ムラサメちゃん、叢雨丸に対する感覚の違いとかはある?」
『恐らくだが……若干弱い。先程もかなりご主人に接近されるまで存在に気付けなんだ』
犬神が口にしていた事は真実の様です。
不来方さん曰く、馬庭さんの様に特別霊力がある方でもないのにムラサメ様が見えているくらいですから、元々あちら側の存在である幽霊たちには丸見えなんだとの事。
だけど半分は生者にも見える。故に幽霊たちにとっては救いを求める対象になるんだそうで。
「拠り所となれる」というのはこういう意味ですか。
まだ完全に叢雨丸の管理者でなくなったわけではないご様子。
急ぎ私たちからのムラサメ様への信仰を強化する必要がありそうです。
「しっかしまあ、あの犬もやってくれたわね。こんな状態じゃ剥がすに剥がせない」
「ワタシの中は、そこまでがんじがらめのような状況なんですか?」
「朝武さんの耳と同じで「一体化」に近いです。今の状態で私や深羽が常陸さんに射影機を向けても、常陸さんの霊体ごと影響が及んでしまいます。少なくとも犬神が表に出ている状態でないと」
「それに常陸さんの身体が壁を担ってるから、それでも剥がせる保証はないわね。ちなみに私達には犬耳が今も丸見えの状態よ。昨晩の犬形態が出てきたら今度こそ消し飛ばしてあげるけど」
「犬神も射影機を警戒しているようなので、なかなか難しいかと……」
『こちらもこちらでとんでもない事になっておるのう。しかも最後の玉石は普通に山にない状態となると、もう見当もつかん。それ以前に今の吾輩では穂織を出歩く事も出来ん……』
もう優先順が付けられません。
最終的には門を閉じて玉石を完全な形に戻す事になりますけど、そこまでの手順が引けない。
「ムラサメ様は私たちと、と申し上げたいところですけど。私でも普段は霊は見る事が出来ませんから……射影機を構えていれば見られるんでしょうか」
「芳乃さんがその視界を得るのはやめましょう? 取り敢えずこの店には害為すような霊は入って来れません。武実神社とどちらが安全かは分かりませんが、一旦の居場所にはなるかと思います」
『感謝するぞ。というより、土地も含めてとんでもない結界だな。これも射影機の力なのか?』
「全くない事はないと思いますけれど……」
「射影機のお陰だったら、密花さんのお店はもう少しマシだった気がしますね……」
「あれは放生さんに悪い事をしましたよね、リアルお化け屋敷。多分だけど、ここって元々そういう風に作ってあるんじゃないですか? やり方は分からないけど」
「まあ……はい、そうです」
一番最初にここにお邪魔した時も、ムラサメ様がそんな事を感じておられましたね。
建物自体が神社の結界に近いわけですか。
不来方さんはそれをご存じの様……この物件って玄十郎さんが紹介されているんですよね?
引っ越しされた事はお父さんも知っているというお話。
じゃあここって。
「それって、
「そうです。建物自体も霊が通り抜けてしまう構造になっているそうですし、安晴さんが定期的にお祓いと盛り塩をして下さっています。祟り神相手でなく、所謂普通の霊ならば安晴さんのお力は十分に通用するとの事で」
「安晴様がこちらにお越しになっていたのはそういう理由もあったんですか」
全く知らなかった。
単に憩いの場として通っているだけだと思っていたけど、そんな事をしていたなんて。
多分ですけど不来方さんの体質に配慮した結果ですよね。
……この事実も、ムラサメ様すら知らない。コレは一体?
「とりあえずムラサメちゃんがここに居させてもらえるのはありがたいとして、叢雨丸に宿って移動とかは? そもそも宿れる?」
『宿れんかったら相当にへこみそうだな。一先ずやってみるとしよう』
ムラサメ様が椅子から降りられて、有地さんが袋から出されて抜刀された叢雨丸に触れられる。
いつものようにムラサメ様の姿が消え、叢雨丸に光が灯ったような――大丈夫みたいですね。
「『殊更に御身を汚すな』……!!?? 今の、ワタシの声ですか!?」
「常陸さんのお声でも、ここまで低くできるんですね。半分男性のようにも聞こえます」
「この状態でも犬は起きてるってわけ。もう一回出てきなさいよ、撮ってあげるから」
「怨霊とは全く異なる気配ですね。歪んではいるようですけど、これが神の気配ですか」
『こうして直に聞くと知っていても驚くな。これまでの祟り神に比較的近いが、また違う力を感じられる。やれやれだのう』
一瞬だけ茉子の中から犬神が出てきた。
今のは茉子も聞き取れた様子。わりと器用に出現できるみたいです。
天敵だろう深羽さんたちの前でさえ出てきたという事は、それだけ犬神にとっては許せない事なんでしょうか。
「先生に状況は私からお知らせしますが、一先ず今の時点で可能な事から順番に行いましょう。駒川先生はお持ちの資料の発掘中、朝武さんは今日の儀式と明日の聖域への立ち入りがあるとの事ですから、私達が専門となってくると……例のマヨイガでしょうか? 後は穂織の外の調査とか」
「ここに来たのは元々それが目的でしたもんね。お昼も夜も私が山に入って気配なし。向こうから招かれないとダメなんでしたっけ。鏡宮さんの時はどうだったんですか?」
「私自身は先生のついでなんだと思っていますが……先生のご友人である
ビデオテープが招待状ってなんです? 嫌でもあのホラー映画を連想する……後7日、みたいな。
「電話ってあっちからでも通じるんだ……」
「寧ろ電話の方があちら側と繋がりやすいですよ? 怜さんも誰かの霊に『死ねばよかったのに』と電話で言われた事があるそうです」
『かひゅっ』
「お母さん、例えが極端すぎるし真似しなくていいから。おチビさんの呼吸止まってるから」
「とんでもない脅迫電話ですね?」
「私だったら電話線引きちぎりそう……」
写真家の黒澤さんも相当な体験をされていますね?
二度と電話に出れなくなりそうです。
私たちが入ったマヨイガは……最初に辿りついたのは意識が朦朧としていた小春さん。
但し不来方さんが仰るには、小春さんが入る前に消えてしまったとの事。
そして次の日に私たちが山で霧に撒かれた時に、出口を求めて私が射影機で発見したわけですが。
私たちは射影機で暴いた形で入りましたけど……小春さんの時は最初からあったんですよね。
なら真に招かれていたのは小春さんだったんでしょうか。
「私たちがマヨイガに入った時は……招かれていたんでしょうか?」
「断言は出来ませんけど、拒否はされていないはずです。私が到着した時には扉が開きませんでしたから」
『では仮に招かれていたとして……一体誰が招かれていたのだ? 四人ともなのか?』
「全員いわく持ちだもんな。ただ一応だけど全員祟り神関係だよね? 怨霊とは別って事になるけど。ただ小春もってなると……」
「ワタシだけは朝武義和の直系ですから。昨日の武者の怨霊が長男の側近だったというなら、現れた怨霊の一部が長男関係者であり、ワタシを招いた可能性はあるかもしれません。まあ……今はこんな有り様ですが」
茉子が困ったポーズ。既に取り憑かれていますからね……。
ただ、戦国時代つながりで有地さんにも縁がある可能性が出てきています。無論私もムラサメ様も。そういう意味では小春さんも鞍馬家子孫枠に該当する事になります。
「あそこに繋がる何かを駒川先生が見つけてくれるといいんですけどね。朝武さんのあの写真を寄香にするのはあまりにあんまりですし」
「あの写真を寄香にすると……どうなるんですか?」
「最悪の場合、そのまま意識だけあちら側に行って「はい終わり」。今の常陸さんに限れば大丈夫かもだけど」
「霊体だけあちら側に囚われてしまうんです。現世の肉体は悪夢を見ているかのように昏睡、そのまま衰弱して……最終的にシミのような痕跡だけを残して消えてしまいます」
どういう原理なんですか、それ……? 多分深紅さんはその現場をご覧になってるんですよね?
「完全にホラー映画の演出ですね……ご説明ありがとうございます」
「映画って割とよく出来てるんだなぁ」
『なんでそんなものを好き好んで作って見れるのか、吾輩には全くわからん』
「…………あ」
恐ろしい例え話が雛咲さん親子から出たところで、不来方さんがなにかを思い出されたかのように。
「なにかありました? 夕莉さん」
「ひょっとしてなんですけど……これって寄香に使えないでしょうか?」
そう仰って、カウンターから出てこられた不来方さんが指さされたのは。
――マヨイガの扉をぶっ壊したマウンテンバイク。
♢♢♢
「ただいま、お父さん」
「お帰り芳乃……何かあったかい? お昼も戻ってこなかったようだけど」
喫茶・こずかたで明日からの行動方針が決まって。
ムラサメ様は不来方さんに護衛されるような形で武実神社に戻って参られました。
不来方さんが仰るには「最初はかなりキツイ」との事で、今のムラサメ様のお気持ちがよく分かるんだとの事。ありがたいですね。私が射影機を見続けない方が良いのもそういう意味ですか。
茉子も有地さんも一緒に帰還。
茉子はいつも通り夕ご飯の支度中。有地さんはムラサメ様から今日の出来事について確認中です。
そういえばお昼は帰ってこれなかったんだ。参拝の方には申し訳ない事をしました。
取り敢えず直接怨霊と関わる事は避けられましたけど、茉子に取り憑いた犬神と会話するなんて事をしていますから、念のために万葉丸を頂きました。味には慣れそうにないですね……。
で、不来方さんを境内でお見送りして、神楽舞の奉納の為に神楽殿へ来たわけですが。
私に……何かあるの? お父さんが元気そうであるのは何よりなんだけど。
「色々あったにはあったけど……「私」に何かあった感じ?」
「うん。なんというか……芳乃の力が増している? 夕莉君みたいな感じだね。直接霊感がどうこうというわけではないんだと思うけど、芳乃の身体がとても綺麗な事は感じられるよ」
寧ろ明日聖域に入るのは無理じゃない? って思ったくらいにドロッドロだと思ったけど、逆に綺麗? 実感もきっかけも全くないのだけど、万葉丸のおかげ?
私に何があったんだろう。茉子やムラサメ様には物凄い事が起きていますけど。
「芳乃の言った
「分かってるわ。お父さんも無理はしないでね」
「あはは、ちょっとそれは難しそうかなあ。ちゃんと水は摂ってくるよ。それじゃあ後で」
ここは一応「分かっているよ」的な言葉を返すところじゃない?
それだけ儀式が大変って事なんだろうけれど。朝からぶっ通しだものね。
さあ、神楽舞を。
今の状況で犬神の意識って玉石にあるのかしら? それとも茉子の方?
やめやめ、邪念が混じっていますね。祈りを捧げる事だけに集中しましょう。
一人称が「私」が5人も居るせいで作者ですら識別が付かなくなります……。
(芳乃・夕莉・深羽・深紅・累。あとみづはと小春も)
これでこの日は終わりにしようと思っていたのに、まだ夜パートがあります。
日程の都合で詰め込み過ぎなんでしょうか?
次回も楽しんで頂けたら嬉しいです。