初の彼女の視点です。
今までウィークリー投稿でやって参りましたが、今後はちょっと不安定になりそうです。
よろしければ引き続きお付き合いください。
今回もよろしくお願いします。
「芳乃様、みづはさん、お疲れは大丈夫ですか?」
「大丈夫よ、心配しないで」
「私もまだまだ大丈夫だよ。これでも一応夕莉君より若いんだからね」
「これに乗った方が楽でしょうか? 先日は大急ぎだったのであまり覚えていないんですけど」
「いや、徒歩のペースに合わせていたら絶対疲れるだろう? そもそもよく登り切ったもんだ。にしても……同行させてもらうのは初めてだが、どう見ても山を歩く格好じゃないな」
ワタシの先導で武実乃山の中腹、小春さんが辿りついた場所――マヨイガのあった場所へ。
地図を作りはしたものの、結局実際に経験した身ですから頭の方が覚えています。
どうにも自動マッピングをする癖がいつからか出来てしまったんですよね。
そんな状態だから、穂織の道なんて隅から隅まで知っている……と思ってたんですよ。
なのに喫茶店一つ見つけられていなかったなんて。これは半人前と言われても仕方がない。
祟り神が出る可能性はほぼないとはいえ、今度は怨霊相手。いつもと違う状況ですから警戒するに越した事はありません。ワタシは祟り神退治の時と同じくノ一衣装です。
違うというのは、普段はこの山を上られない方が二名、更にはマウンテンバイクを押していらっしゃる方が一名。まあこのうちお二人は山登りに慣れていらっしゃるとのことですし、実際余裕そうなので大丈夫でしょう。既に前例もありますし――あの時は大変お世話になりました。
そして……重武装の我が主。祟り神祓い用の略式巫女衣装ではなく、なんと神楽舞用の正装。
加えて鉾鈴と射影機が入ったカバンを肩から下げられている状態。まるで決戦装備です。
その恰好で山に入られるのは、ワタシでも大変だと思いますが……?
「日上山のマヨイガは……たしかあの洞窟の先でしたか? 私は招かれませんでしたけど」
「ああ、
「その「わたらいけいじ」というお方は?」
「昭和の後期に日上山に住んでいた、日本に帰化した民俗学者です。穂織ほど表向きではありませんが、日上山にもなかなか独特な風習が残っていましてね。彼は特に『
「写真の風習ですか、確かに珍しそうですね。射影機が日上山にあるのも納得の気がします」
「……まあ、な」
……? なんでしょう、放生さんの含みを持った頷きは?
今までのお話を伺った限り、日上山という所は武実乃山を遥かに超えるとんでもない霊山のようですけど……なかなかタフですね? その民俗学者の方。わざわざ帰化されるまでとは。
そんな山を何度も行き来していたという不来方さんたちもなんですけどね。
でも芳乃様のお話の限りでは、元は観光地で景勝地。一体何が起こったというんでしょう。
それに関連しているかは分かりませんが、小春さんを捜し出して頂けた『
祟り神や叢雨丸が実在する穂織は変わっているんだろうと勝手に思っていましたが、わりとこの国中に似たようなものがあるのかも。
知識量はともかくワタシも芳乃様と経験値そのものは変わりませんし、もっと外に触れないといけないのかもしれません。今回の案件が解決次第、ですね。
ここを……右か、ちょっと側道に逸れる感じに。今の所は霧の気配はないですか。
「放生さんからご覧になって、穂織はいかがですか? 評判は中々と思っているんですが」
「ネタ探しのためにそれなりの土地は回ったつもりだったが、その中でも色々独特だな。まず住民の格好からして面食らった。まあ観光地として見るなら、外の客にはいいアクセントになっているんだろう。アクセスがもう少しマシだと助かる……ここに来るまでに寿命がひと月は縮んだ」
その辺りのご要望は深紅さんにお願いします。ちょっと乗ってみたいんですよね。
「蓮さんはもう少し累さんと回ってあげてください。ぼやいていましたよ? 声を掛けないと部屋から出ようともしないって」
「私も詳しく知っているわけではありませんが、昔は穂織にも鉄道を敷設する話が何度か出たらしいですよ。結局お流れになったようですけれど」
「そんなお話が?」
「こういうのは田心屋の社長さんが詳しいよ、彼はなかなかの鉄道ファンだから」
初耳ですね、穂織に列車を走らせる計画があったとは。
ムラサメ様に伺ったらご存じでしょうか? ただまあ四方を山に囲まれた穂織ですから、昔のお話ともなるとそれはそれは大変そうです。機会があったら馬庭さんのお父様に伺ってみましょう。
それに……いい事でもあるんでしょうけれど、外との繋がりを持っていたら今の穂織の形はないでしょう。もっともそういった方のお見合いを芳乃様が受けられたら、今からでもその形になりそうですけれどね。
さて。
「……不思議なものですね。武実神社にいた時は快晴だったというのに」
本当にソレです。
霧が出てきた。あの時のような。幸い祟り神も怨霊も出て来ていない様子。
まあ……並の怨霊が出てきた所で射影機は三台ありますから、何とかなると思いたいです。
さて準備して置いた綱を。
「現在位置は把握しておりますのでご心配なく。綱を持って頂いてワタシから逸れないようにお願いします。以前この状況になった時は携帯の電波が入らなくなりました」
「了解だよ。今日の予報では霧どころか雲もなかったはずだから、これも普通の霧ではないという事か……成程、確かに圏外だね。念のためにレコーダーを動かしておくか」
「夕莉、朝武さん、どうだ?」
「今の所は先日の私を追っているだけですね。自分で自分の影を追うというのは変な気分です。あの時はマヨイガの寸前まで霧は出ていなかったと思いますけど」
「今は特に……感じるものはないかと。私が招かれているわけではないんでしょうか」
不来方さんのは、なんだかドッペルゲンガー的な物を想像してしまいますね。
ワタシの場合は……犬神の性格になったワタシ? イヤですねえ……。
今でも頭に絵面を思い浮かべたくない。
有地さんの目の前で全裸でわんこ座りとか、隠すも何もないじゃないですか! 特に下!
本当になんて事をしてくれたんです?
(貴様の身など知った事か)
頭の中になんか聞こえてきた気がしますが――知ってください! シャレにならないんですよ!
「ちゃろー☆」だの「ヨロピク」だの言って、自業自得で爆死した程度の我が主とは精神ダメージの次元が違うんですから! しかもそれが記憶にないとかもう本当に死にたくなる。
あの時は一旦流しましたけど、有地さんにどう責任をとってもらいましょうね? 当たり前ですけど初めてだったんですよ? 殿方にそこまで肌を見せただなんて。
あれから更に数分進んで。
「……こんな光景に、穂織の中で遭遇するだなんてね」
みづはさんが呟かれる。ワタシも二度目の体験ですが、やはりすごい状況です。
霧による完全なホワイトアウト。少しでも動けばワタシでも方角がわからなくなる。
「本当にあの時の再現だな。榊のやつはどうやってあそこまで辿り着いたんだか」
「芳乃様、不来方さん、いかがですか?」
「私の影は霧で遮られてしまって……芳乃さんはいかがですか?」
不来方さんは霧に撒かれてしまって、ご自身の影が見えなくなっている様子。
芳乃様はいつの間にかカバンから射影機を取り出していらっしゃって。
ナニカを探すように向きを変えられたり、構え方を変えられたり。
「こちらへ。茉子、いい?」
「かしこまりました」
そして、とある方向へ歩き出される。位置と方角を頭に叩き込んでおかないと。
15秒ほど歩いた所で、歩を止められる。
「不来方さん、放生さん。あちらに射影機を構えて頂いても?」
「俺は呼び戻しは下手なんだがな」
「アングルもそれでいいですね?」
こくりと芳乃様が頷かれる。
放生さんは複眼式、不来方さんは元々芳乃様にお貸し頂いていた日上山仕様の射影機を構えられる。芳乃様は水無月さんが送ってくださった……レナさん曰く、先日深紅さんが霊〇弾を放ったらしい射影機を持っています。気功波を放つカメラって何なんでしょうね?
お二人は少し位置を変えてみたり、カメラのアングルを変えられたりされていますが。
「俺は全くダメだな、何も反応しない。一見お断りって所か」
放生さんは無反応のご様子。
「私は……一瞬だけ反応はするんですが」
「ひょっとして、夕莉君の場合はマヨイガに「拒否」されているとか?」
「経験がないので分かりませんが、そうかもしれません。少なくとも招かれてはいないのかと」
あの絶対霊をノックバックさせていましたからね。警戒されているのかもしれません。
「芳乃さんは如何ですか?」
「多分いけます。よろしいでしょうか?」
芳乃様には何かがしっかり見えているご様子。前回もそうでしたからね。
つまり……怨霊ないしマヨイガの目的は芳乃様? さっきの霧のお話はありますけど。
皆が頷いて、それを確認された芳乃様がシャッターを切られる。
パシャッ
傍からゴクリと息が呑まれる音が聞こえた。お気持ちは分かりますよ、みづはさん。
「……ある程度オカルトには理解があるつもりだったけど、こうして出くわすと信じられないね。こんなものが武実乃山に、しかもこんな形で目にする事になるだなんて」
「ワタシは二度目ですけど、それでもビックリですよ」
撮影されたと思われるエリアから霧が切り取られたかのように薄くなり。
姿を現したのは巨大な日本家屋――あの時と同じ、マヨイガ。
「私が壊した扉はそのままですね」
「霊が金槌を持って一々直すとは思えんからな。取り敢えずここに来た甲斐があったというもんだ。全員が拒否はされていないのか、或いはそれ以上に俺達を招いたメリットがあるのか。此処の主にどのくらい自我が残っているのか分からないが」
こっちのお二人は落ち着いてますねえ。静かに入り口を見つめられる芳乃様もなんですけど。
「では当初の予定通りといこう。先頭は俺と夕莉、後ろに駒川先生、次に朝武さん、殿は常陸さんだ。駒川先生は絶対に俺達を追い抜かないように」
「承知しました。私だと気を抜いたら命がなさそうですね」
「恐らくですけど、徐々に気分が悪くなっていきます。違和感があったら早めに教えて下さい」
「茉子、お願いね」
「勿論です、後ろはお任せください」
狙われているのが芳乃様の可能性が高い以上、端に配置するのはあり得ない。
必然的に殿はワタシになりますよね。まあ襲われたとしてもどうにかしてくれるでしょう。
で、不来方さん。こんな場所でもマウンテンバイクはキチンと固定されていくんですか?
♢♢♢
「確かにかなり古いな、日上山の渡会邸よりも間違いなく昔のものだろう。それでもここまで原形を留めている辺り、風化の概念は無いんだろうな。時間が経過していないのか」
「ムラサメ様と有地さんからは、ここが
「常識と非常識の反転に、例の黄泉の門のお話かい。私にはもう何が起こるか予想がつかないけど、長居しない方が良さそうなのは間違いなさそうだよ。どんどん体温が低くなっていっている気がする。なんて重い空気なんだ」
「酷くなる前に万葉丸をお渡ししますので飲んでください。清めの火を持って来た方が良かったでしょうか」
「みづはさんの場合、効果よりも味による気付けになりそうですね。見た感じは……前回の時と一緒でしょうか」
相変わらずというか、ボロボロのように見えて時代を考えればかなり綺麗に残っているだろうこの建築物。仮に現世に残っていたら重要文化財ものじゃないですか? リアルお化け屋敷ですが。
前回ワタシたちだけで入った時は恐る恐るでしたけど、放生さんは興味津々、みづはさんは冷静、不来方さんはみづはさんの心配をされる形で誰も恐怖に囚われていない。流石です。
さて、確かに建物の見た目自体は前回とほぼ同じようです。
――早速違う要素が出て来ているんですけどね。
『ア゛ ア゛ ウ゛ ウ゛ ウ゛』
『か゛ ゆ゛ う゛ ま゛』
『お り だ』
怨霊さんたちのお出迎え付き……全く嬉しくない。
という事で二度目のマヨイガ編、蓮が初参戦です。
廃墟探索が零の醍醐味だと思います。濡鴉ノ巫女はマップが綺麗で広すぎる気が。
文章に起こすにあたっては描写が地味すぎるため、あんまり戦闘はありません。
そもそも作者が動きのある場面を書くのが超下手なんですよね……。
次は引き続きマヨイガです。
次回も楽しんで頂けたら嬉しいです。