零 ~イヌツキの少女達~   作:もふもふたぬきねこ

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二回目のマヨイガ編第二話。
前回に引き続き茉子視点です。

今回もよろしくお願いします。


44. 交錯する目的

「あれが……怨霊」

 

「みづはさんもお見えになる感じですか?」

 

「割とはっきりとね。それだけ常世に近いという事なんだろうか」

 

ワタシたちが最初に遭遇した怨霊のように、射影機を通さなくても認識可能な存在のようで。

見た目は……なんだ? どう見ても農民じゃないですね、わりとしっかりとした身なりに見える。

3人のうち2人は貴族とまではいかないにしても、平民ではなさそうな装いです。

 

白目を剥かれて、口が半開きで、ゾンビのように両腕を前に出しているのは変わりませんけど。

這いずっている存在は初めて見ますね。霊とは浮いているものじゃなかったんでしょうか。

 

「さて、自分で言った口だ。一旦は俺の方で対処してみる」

 

「お願いします。こちらも構えてはおくので……一体誰をなんでしょう」

 

前に出られたのは放生さん。露払いに専念とは仰られていましたか。

つまりはまあ……露払いが必要なくらいの怨霊と、露払いじゃ済まない怨霊を経験済みって事ですよね。超絶魔境じゃありません? 日上山。

不来方さんはワタシが聞き取れなかった何かを理解されたご様子。後で伺いましょう。

 

 

バシャバシャバシャバシャン!!

 

 

『ウ゛ ア゛ ア゛ ゥ゛……』

 

最初から四連射、出し惜しみ無し。3体ともしっかり怯んでいる。

よく明治時代のカメラに連射機能なんて搭載できましたね? 麻生博士。オーパーツ過ぎる。

 

「俺が三七式を使ってこんなもんか。時間が経ちすぎてしがらみが薄れているらしい」

 

「今まで怨霊が現れたというお話はなかったそうですから、元々の想いも薄いのかもしれません。日上山は明確だったか……誘われた人達でしたから」

 

「確かにな。元々大した執着もなく、只々現世に残ってしまった土着の霊が今回の件で叩き起こされた感じか。だが数はいるらしい」

 

ザックリ理解した感じ、ここの霊は弱い感じなんでしょうか。

まあ小春さんの件の時も不来方さんお一人で8体対応されてましたからね。

 

にしても、まあ。

 

「……お化け屋敷っていうのは、こんなにわらわらと霊が出てくるものだったかな? 映画の演出はわりと自重している方なのかもしれないね」

 

「お化け屋敷に行った事がないので分かりません。ここまで来るとビックリ感は皆無ですね」

 

「武実乃山を彷徨っていた霊達の多くがこの建物に集まっている感じなんでしょうか――放生さん、不来方さん、加勢します」

 

「悪いな、よろしく頼む。俺と夕莉の撮り漏らしを狙ってくれ」

 

最初に現れた怨霊は3体だったわけですが。

その奥からわらわらと。白い影っぽいはずなのに重なり過ぎて実体に見えてきます。

 

 

『お゛  か゛    り゛  た゛』

 

『ひ゛    さ゛  ま゛』

 

『き゛  し゛    お゛  え゛        は゛』

 

『け゛  む゛     く゛  る゛』

 

 

元々霊感があるわけでもないですけど、声が重なり過ぎて聞き取れない。

ワタシに聖徳太子のような才はないようです。あったとしてもここで発揮したくないですが。

本来ならば芳乃様を前に出す事はあり得ないですが、そうしないと撮影の邪魔になる。

真後ろに控えていましょう。今の芳乃様は随分と熟練の気配がありますし。

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

「……反応は消えたか。随分フィルムを吐き出す羽目になったな。夕莉はどうだ?」

 

「こちらもフィラメントの灯りは消えました。個人的にも感じるものはないかと。芳乃さん、お疲れ様でした」

 

「お疲れ様でした……あんなに一度に数が出てくるとは思いませんでした」

 

大量の怨霊が現れてから数分。

放生さんと不来方さんが前に立たれて怨霊たちを打倒していき、お二人の死角から偶々抜けてきたような怨霊を芳乃様が撃退されて。廊下で一本道でしたから、攻められるのも一方向からだったのも功を奏しましたね。仮に肉体が残っていたら、今この場は惨状になっている気がします。

 

「お疲れ様でした、皆様。芳乃様も随分と慣れられましたね」

 

「話だけは伺っていましたが、怨霊退治が本当に少年漫画の様なものだとは思いませんでしたね」

 

安晴様のように祈祷するわけでもなければ、陰陽師のように式神や反閇(へんばい)を踏むこともなく。

カメラを拳銃のように怨霊に向けて打ち倒す――これが現代除霊です。

芳乃様は苦笑い。今の状況に自覚はあるご様子で。

 

「射影機が無ければ戦うどころじゃないんですけどね。俺や夕莉も直接怨霊に攻撃的干渉をする手段があるわけじゃありませんから。当然ですが、あんなもの近づかないに限ります」

 

「山中に居た怨霊が全てここに集まっていたんでしょうか?」

 

「それもあるんだろうが……元々ここの関係者らしいのもいた。全部が全部ではないだろう。例の絶対霊の元部下とか、な」

 

放生さんの立てられた仮説では、ここは黄泉の門に関する研究所の様なものとの事。

個人の邸宅でないのであれば、何十人とここに勤めていた人がいるというのも想像が出来ます。

 

故にあんなお姿になってしまったのかもしれませんが。

そうだ、確認しておこう。

 

「不来方さん、怨霊が何を言っていたか分かったんですか?」

 

「一人だけですが……「お帰りだ」と。芳乃さんとみづはさんのどちらかは分かりませんし、別の何かだったのかもしれません」

 

「やはり……私か芳乃様は、ここに関わっている可能性があると」

 

意味深なセリフですね。確かにお二人のどちらが対象なのか分かりませんが、こちらのメンバーがそれぞれ「誰なのか」を認識できている可能性がある。

今までの怨霊にも同じことが言えるのなら、これまでの武者の怨霊とかは特に気になります。

 

さて。

 

「進むとしよう。休みたいのは山々だがここは長居すべきじゃないからな。入り口でこんな様子だと、あまり先の事を考えたくないんだが」

 

前回マヨイガに入ってからの時間までは正確に記憶してないんですよね。多分30分くらい?

一体どのくらいの時間で身体に影響が出始めるか分からないですし、個人差も多分ある。

特にみづはさんは影響されやすいでしょうし、逆にワタシは耐性を得ている可能性も。

この前の経験を基準にしない方が良いでしょう。

 

「左右に障子戸がありますけど、ほぼ全て畳が敷かれただけの和室でした。折れ曲がりはありますが300メートルほどは一本道です」

 

「分かった。夕莉は射影機を構えていてくれ、道は俺が照らす」

 

「……先が、真っ暗ですね。吸い込まれそうな気分だ」

 

 

 

放生さんを先頭にマヨイガの中を進む。

ギシギシと床がきしむ音が聞こえますけど、メリッと言わないあたり比較的頑丈ですね。

前回は途中から謎の幽霊が射影機に写って、最終的には飛ばされたわけですけど……今回はどうなるやら。

 

これは……前回歩いた道と構造が違っている?

推定でしかありませんが、前回歩いた道は幻覚。正しくあの場所にあったのはあの部屋だけ。

現在歩いた距離的には前回と同じく80メートルほど。最初に撮影をした場所と大体同じ。

 

そこで。

 

「止まってください」

 

不来方さんからお声が。芳乃様と同じような感じでしょうか?

ですが不来方さんはその後をすぐには口にされず、射影機のアングルを色々されて。

 

「……蓮さん、芳乃さん。構えて頂いていいですか? フィラメントは反応するのに私では対象が見つけられないみたいです」

 

「分かりました」

 

「夕莉が探しているものではない、という感じか? まあやってみよう」

 

「…………なんだか、音が? まるで声のような」

 

御三方が射影機に集中されているので、ワタシは後方の警戒を――と思っていたのに。

 

「みづはさん? 大丈夫ですか?」

 

「ああ、うん。勘違い……ではなさそうなんだけどね。囁き声より更に小さい、だけどリズム音とかノイズではなさそうな音がなんとなく聞こえているんだ。これに意識を向けるべきなのか」

 

「いえ、意識は向けないでください。表に暴けば勝手によく聞こえるようになると思いますから。自分から踏み入るのはあちら側の影響を受けやすくなります」

 

判断を迷っていたところで不来方さんからサポートが。射影機を下ろされていますが……?

 

「俺はダメだな、夕莉に似たような感じだ。朝武さんはどうだ?」

 

「いけそうです。よろしいですか?」

 

マヨイガを見つける際と同じようなやり取りですね。どうにも芳乃様に関連している模様。

皆が頷いて。

 

 

パシャッ

 

 

「……!? 構えていても驚くね。しかも声が……「そんなもの」、「わか」?」

 

前と同じように、祈祷師のような服装をした霊が歩いていく姿が。

こちらに一瞥もくれず、滑るように動いて消え去っていった。これぞ幽霊ですよね。

 

「みづはさんは何か聞き取られたんですか?」

 

集中はしていましたが、ワタシには全く聞こえませんでした。

他の御三方はどうでしょう?

 

「霊ではなくて「影」か。あの写真の存在と同じに見えたが。聞こえたか?」

 

「音がこもり過ぎていて……今ならあの写真を寄香にも出来そうですけど」

 

「危なそうなので止めましょう? 不来方さん。私が撮っていけば済むお話ですから。私にも声は聞こえませんでしたけど、みづはさんは聞き取れたんですか?」

 

「先程よりは鮮明に。ですが……すみません。さっきの二言以外は分かりません。声も消えてしまって」

 

「影が移動していますからそれは仕方のない事です。しかし駒川先生だけある程度まともに聞こえるとなると……先ほどの影が例の書籍の執筆者、駒川何某(なにがし)なのか?」

 

霊感がある御三方には聞こえず、みづはさんだけ。

みづはさんはご自身に霊感がないと仰っていた。それでも特に不来方さんと放生さんを超えてみづはさんだけ聞こえるという事は、そういう事もあり得そうです。

 

「今は進んでみましょう。また何かわかるかもしれません」

 

わりとこういう場面で物怖じをしないんですよね、芳乃様って。

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

先ほどの「影」とやらを追う様に、板張りの回廊を更に奥へ。

構造はともかく、ここまでの道の見た目は前回までと同じですね。そしてそろそろ。

 

「いるみたいです」

 

今は芳乃様も不来方さんと同じように射影機を構えられたまま。

念のために先頭のお二人に確認をとって。

 

 

パシャッ

 

 

「……「どうすれば」、「わか……まこと……ば」、「おや……さま」、そんなところでしょうか」

 

さっきまでとは違う言葉のようですね。先ほどは「そんなもの」「わか」の二単語。

「どうすれば」はそのままですが、また「わか」、そして「まこと」。

「おや」と「さま」はなんでしょう?

 

「今度はある程度は聞き取れました。これは……迷っている? 苦悩の念に近いんでしょうか?」

 

「取り敢えずなにがなんでも呪ってやるという感じではなさそうだな。今の所は影なんだからそうでないと困るが、夕莉が聞き取れてきているとなるといつ本体が現れるか分からん。フィルムを換えておくとしよう」

 

「私はこのままでいいですか?」

 

「そうですね、今は〇七式のままで。怨霊が現れた時は私達が対処します」

 

前回はあの絶対霊を引き下がられていただきましたからね。この上ない安心感です。

 

 

 

「最初の出迎えで怨霊共は掃けた感じだったのか? 今度は気持ち悪いくらい出て来ないな」

 

「あの影だけ、ですね」

 

そのまま先ほどまでの行動を繰り返し。

影からみづはさんが聞き取れたのは、大半が悩んでいるかのような雰囲気のワード。

暗~い雰囲気で「どうしよう」的な感じなご様子。霊も結構悩むもんなんですね?

 

聞き取れたと思われるワードで重要そうなのは。

 

「「花」と「水」、ね。水と聞くと否が応でも日上山を想像してしまうな」

 

「ですが水に関する文化は……」

 

「そうですね、少なくとも今の穂織には存在していないかと。尤もこんな場所があった事も全く知りませんでしたから、ムラサメ様ですらご存じない範囲で何かがあったのかもしれませんが」

 

「漁った資料にも全く出てきませんでしたからね。焚書にでもされてしまったと?」

 

この辺も日上山との繋がりがあるんでしょうか? 調べられるといいんですが。

さてと。

 

「構造は変わっているようですけど、距離的にはもうすぐ前回ワタシたちが飛ばされた点です」

 

東と西が真逆、鏡合わせになっている感じですね。それ以外は同じような。

有地さんの提案からムラサメ様が現状に偶々気付いて、ワタシたちが引き返そうとしていたところで想定外に「呼び戻し」が行われた結果、あんな目に遭った地点。

ここはすでにあの場所の中なんでしょうか? あるいはあの瞬間に飛ばされただけ?

 

霊感がないワタシと言えど、全身に力が入ります。

 

「夕莉、朝武さん。どうだ? 駒川先生も何か聞こえますか? 俺は嫌な気配がしてきた」

 

「影ではなく、怨霊の気配ですけど……あの絶対霊の様な気配ではないです」

 

「私の射影機のフィラメントは真っ赤なんですが? 二方位です」

 

「……それはかなり不味くありませんか? 芳乃様。今の所、ここでは声は聞こえないようです」

 

前に来た時は青かった(非敵性)んでしたっけ?

(危険)ならとっとと知らせてくださいよ! 余裕あり過ぎじゃありませんか!? しかも二方向!?

 

どこから来る? 後ろにはいない。前にもいない。幽霊なんだから上から?

 

途端、背筋を撫でる強烈な寒気が。

 

「壁から来ます」

 

「両側から来るな。面倒な事だ」

 

常識を守ってください常識を! ちょっとくらい幽霊に常識を求めてもいいですよね!?

壁の向こうじゃどうしようもないじゃないですか! ムラサメ様じゃないんですから!

 

 

 

『と          ば』

 

『ち       た   ば』

 

 

 

ワタシじゃ全然聞き取れませんけど、武者の怨霊が二体。ほぼ透けていない。地縛が強い?

この状況でなにをするのが正解なんですかね?

 

(喧しい白児(しらちご)だ)

 

ほっといて下さい! あと普通に思考に混じってこないでください!

 

「これが幽霊の類……? あんなにハッキリしているものなのか。ムラサメ様の写真みたいだ」

 

「ここまでハッキリしているのは絶対霊以外で初めてですよ……お任せしても?」

 

「そのつもりです。誰を「捕らえる」つもりなんでしょう?」

 

「「血を絶つ」というのは……朝武家か? それとも駒川家? なんにしても物騒な事だ」

 

「方々から随分と恨まれているんですね、私達(巫女姫)は」

 

ワタシの要請に不来方さんと放生さんが応じる形で左右へ。

お二人は武者の言葉が聞き取れているんですね。「捕らえて」「血を絶つ」? 物騒過ぎます。

とにかく。

 

「芳乃様とみづはさんはこちら側へ。不来方さんたちのスペースを確保しましょう」

 

お二人の戦闘の邪魔にならないように立ち回る。

単純な視界の広さと視力ならワタシも負けないはずです。

狙いが芳乃様かみづはさんなら、ワタシの動きである程度誘導も可能出来るかもしれないですし。

 

ああ、遂に怨霊が()()()来た。ゆっくり浮いているのがワタシの常識のはずだったのに。

おまけに刀を振りかざしながら。殺意が半端じゃない。

 

 

『お゛ お゛ お゛ お゛ お゛ お゛』

 

 

バシャン!

 

 

「今までの怨霊より遥かに執着が強い……六一式で行きます」

 

「こっちはもう七四式だ、三七式なんて使う余裕はないぞ。俺は強化レンズもないんだからな。間違っても刀に触れるなよ、夕莉でもただじゃ済まなさそうだ。鏡石が一発で砕けるかもしれん」

 

 

『じゃ        き    』

 

『たた     ば    ろ    れ    』

 

 

斬りかかってくる武者を躱しつつ、不来方さんと放生さんが攻撃を続けられる。

お話を伺った限り、攻撃される寸前かされた直後が一番効果があるらしいですね。

カウンターのようなものですか。文字通り命懸けの行動ですが。

 

フラッシュが焚かれているわけではないのに、重いシャッター音と同時に光の様なものが怨霊に飛び、怨霊から何かが飛び散る。ぼやけた感じですけど、多分怨霊の顔の人魂。

これが多分芳乃様も見ていた「霊片」ってやつなんですよね? 見えるようになってしまった。

いよいよワタシの身体もヤバくなってきたようです。今なら射影機を扱えるでしょうか?

 

「今までもこんな状況だったのかい? 不幸中の幸いか、体温が戻った気分だよ。現実感がないとも言えるけれど」

 

「多少の差はあれど、大体こんな感じです。強力な怨霊と直接戦った事はワタシたちは無いんですけれど」

 

「あれの目的は……」

 

みづはさんもびっくりですよね。入り口でも見ましたけど、コレが除霊の現場です。

絶対霊を除けば今までに遭遇した怨霊の中で一番タフですね。流石は元戦いの時代の兵士。

ここが半分以上「あちら側」なのも関係しているかもですが――まだ成仏しない。

 

そんな戦闘中に。

 

「不来方さん、放生さん。一度こちらに」

 

何かを考えられていた芳乃様から、まさかのお言葉が。危険すぎる。

 

「何言ってるんですか芳乃様! 退路は向こう側なんですよ!」

 

「君が戦う気か?」

 

「いえ、少し気になる事が」

 

「……わかりました」

 

その言葉を受けて、お二人がこちら側に戻られる。

一体何を考えて。

 

 

 

そう思っていたワタシの頭が、直後にバグりました。

 

 

 

「は?」

 

(醜い)

 

 

『邪魔  るか』

 

『渡さ  ここ   斬  』

 

 

「これは……初めて見ましたね。言葉の相手は怨霊側でしたか」

 

「出来れば一生遭遇すべきじゃないんだろうがな。どういう関係だ?」

 

「目的が違うのでしょうか?」

 

二体の武者の怨霊が、恐らく目標である芳乃様かみづはさんに向かってくる……事はなく。

 

 

 

同士討ちを始めた。

 

 

 

先ほどまでと同じく殺陣みたいな派手さはありませんけど、袈裟切りか首を落とす気満々の。

怨霊同士でも殺意溢れまくってますね? 彼ら的には互いに生きている扱いなんでしょうか。

 

「朝武さん、なんで分かった?」

 

「片側の武者が、もう一方の武者の攻撃を「避けた」からです。仲間ではないのかと」

 

「「邪魔するならば斬る」とは言っていましたけど……」

 

「……比べると、装備も少し違うんでしょうか?」

 

互いにけん制し合ってくれているおかげで、比較的じっくりと見る事が出来ます。

あんまり凝視したくない事に変わりはありませんが。

 

不来方さん曰く「捕らえる」と口にした武者の方が、放生さんが「血を絶つ」と言っていた武者より装いが若干派手なんでしょうか? 二体とも輪郭までははっきりしていないので分かりにくいですけど、間違っていないはずです。

 

「恐らくだけど……時代が違うんだ。比較的華美に見える方が古く、簡素に見える方が新しく実用的。私か芳乃様を斬る事を目的としていそうな武者の方が、より戦火に身を置いていたんだろう。余計に物騒な事だけどね」

 

みづはさんもしっかり見えているご様子。鎧とはそういう進化をしているんですね。

では時代が違うのか……主君が違う? どれだけ戦いに身近だったか、ですか。

 

あ。

 

 

『小癪 』

 

『消  せよ』

 

 

本来なら相当にスプラッタな光景の筈ですが、特に飛ぶものも叫び声もないのがせめてもの救いです。華美な鎧武者の左腕が消えた。怨霊でも欠損は起きるんですね?

 

 

 

「――そろそろ撮り(消し)ますね」

 

 

 

そんな光景の中でも、ずっと射影機を構え続けられていた我が主から無慈悲な一言が。

 

 

 

バシャァアン!!

 

 

 

『ぐぅおおおおおぉぉぉ』

 

『がぁああああぁぁぁ』

 

 

 

「飽きた」と言わんばかりのトーンの声から、とんでもない一撃が繰り出される。

 

腕を斬られても聞く事がなかった怨霊の悶絶する声が周囲に鳴り響く。

刀同士で打ち合っても身じろぎしなかったのが、写真を撮られた途端に吹き飛んでいくのはもう理解が及ばない。そして主人があまりに好戦的すぎる。

 

「よ、芳乃様……? 今のは?」

 

「私でも溜め続けていれば少しは変わるみたいです。今のは九〇式フィルムですので」

 

「それで片づけていい部類じゃないだろう。自重してくれ」

 

「蓮さん、追撃を。看取りは私がやります」

 

また随分と貴重なフィルムを……まあ出し惜しみしてやられるよりはずっといいですけど。

二体の武者が大きく怯んだところで、不来方さんと放生さんが前に出られて追撃される。

 

 

 

そして二体とも白い塊のようになって、不来方さんに触れられて……消えていった。

 

 

 

「これで何とかなったんですか? 夕莉君の行動は一体?」

 

「早い話が霊の遺言を聞いてやって、成仏させてやったような感じです。俺もできなくはないんですが、話を聞くのは夕莉の方がずっと上手いようで」

 

「蓮さんの場合は女性相手なら上手くいきますよ。残念ですが何も見聞きできませんでした。記憶が摩耗しきっているのかもしれません」

 

「いい加減そういうのは勘弁してくれ……」

 

これはアレですかね? 射影機の特殊な力を聞いていた時に出た「確定撃退」。

単に祓うわけではなく、話を受け取って成仏させているというなら納得です。

 

さて。

 

「壁の向こうから怨霊が来たという事は……もしかして向こう側に部屋が?」

 

今までの経路から考えると、その部屋に通じる道は相当に回り込まないと存在しない事になる。

前にあそこから逃げ出した時の経路は流石に正確には把握してないんですよね。そもそもここに至るまでの道も違いましたし、あの時も幻覚交じりでした。

今も幻覚状態なんでしょうか? 鏡合わせのような状態――中央に何かあるっぽい?

武者は両側から来ましたけど、前回のマップを考えるならこちら側ですか。

 

「芳乃様、射影機で見て頂いても?」

 

「分かったわ」

 

主人に了承してもらって、壁の方向に構えてもらう。

ただ……。

 

「……特に反応はないかしら」

 

駄目ですか。前回呼び戻しが出来た時は突然反応が大きくなった感じでしたからね。

同じく不来方さんと放生さんも構えられますが、やはり同じご様子。

可能性としては、強力な武器を持っている事を警戒されている感じでしょうか。

 

一方で。

 

「恐らくだけど……常陸さんの言う壁の向こう。そこから何か聞こえる。さっきまでの声と多分同じ質のものだ」

 

みづはさんだけは何かが聞こえているご様子。なら進まない手はない。

 

「何かが封じられているのか? だが誰も呼び戻しが出来ないとなると」

 

「何処かで関係のあるものを探さないといけないですね。過去視出来る場所があるか……」

 

「もっと奥まで進んでみるべきなんでしょうか?」

 

皆さんそんな事を仰る――別に鍵を開けなくてもいいんですよね?

半人前とはいえ、ここには正真正銘の忍者がいるというのに。

 

「とにかくこの壁に穴を開ければ問題ないんですよね?」

 

「極論そうなるが……君のクナイで掘るつもりか?」

 

「まさか、そんな時間は掛けませんよ。危ないので下がっていて頂いていいですか?」

 

印を組んで、はい! どーん! と出来ればどんなに楽だったか。

現実の忍者にはちゃんとした準備がいるんですよ。

 

ガサゴソと。昔の物と比べて安全に取り扱えるのが助かります。

 

 

 

「…………えっ?」

 

「本物は初めて見たな……もっと下がっていよう。巻き込まれたらシャレにならん」

 

「ひた……茉子、そんなものを持ち歩いていたの?」

 

「〇次元ポケット並みだね。クナイの時点でアウトだけど、然るべき人達に見つかったら大変な事になりそうだ」

 

 

 

使うの久々なんですよね。こんなものしょっちゅう使っていたら大変ですけど。主にコストが。

金属の壁じゃないからマグネット固定はできないと。テープだけじゃ粘着が不安、釘でやるか。

突っ込むための簡単な穴だけクナイでほじ空けて。普通に穴を開けられて幸いですね。

()()()を押し付けて、釘とテープで固定して、コードを繋いで引っ張って~。

 

皆さんワタシより後ろに居ますね? ――安全よし! 点火装置よし! メットは鉢金で代用!

 

「皆さん耳を塞いでいてくださいね? ……3! 2! 1! ファイア イン ザ ホール(F i r e i n t h e h o l e)!!

 

うりゃあ!

 

 

カチン!

 

 

ドォオォン!!!

 

 

爆発音とともに、壁を構成していた素材が吹き飛ぶ。マヨイガの神秘も科学には勝てない模様。

パラパラと破片が落下する音の後には、人が通過するのに十分な大きさの穴。

 

どれだけ分厚かろうが、現代忍術は漆喰程度の強度には負けません。

なんだか不来方さんと放生さんが物凄く複雑そうな顔をされていますが、ある物は使うべきです。

 

「……これってダイナ「火遁(かとん)です」」

 

「いや、Cふ「火遁です」……これが現代の火遁か。真面目に鍵やら仕掛けやらを探していたのが馬鹿みたいだな。匪もバールでこじ開けるべきだったか」

 

「火遁って手で印を組むやつじゃないの? 口から火を噴くみたいな」

 

「それはアニメや漫画だけですよ、芳乃様。変わり身や縄抜けはワタシも出来ますけど、チャクラは練れませんし壁にも立てません」

 

ワタシは忍者の嗜みとして漫画持ってますけど、穂織で映りましたっけ?

 

「一体常陸家には何が置いてあるやらだね。いつか踏み込まれても知らないよ?」

 

「どなたに、とは聞かないでおきます」

 

(流石あの愚物の血、野蛮だ)

 

うっさいですよ。




原作でもこのくらいヤンチャ出来たら楽だっただろうに。

次でマヨイガ編終了です。
次回も楽しんで頂けたら嬉しいです。
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