零 ~イヌツキの少女達~   作:もふもふたぬきねこ

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視点は武実神社に戻って。
昨日の朝に安晴が約束した事が果たされます。

今回もよろしくお願いします。


46. 出遭いと事情と目的と

「はっ!?」

 

『お、起きたか芳乃。体調は良さそうか?』

 

私は一体? 確か朝から不来方さんたちがいらっしゃっていましたよね?

話の中でマヨイガに行く事になって、行くメンバーを決めようとして。

 

――頭がその先を思い出す事を拒絶した。全身に猛烈な悪寒。

 

とりあえず……ここは私の部屋? 寝てしまっていたということ?

 

「……今、何時です? 私は体調を崩したんですか?」

 

『いや、そういうわけではないと思うが……病とか呪いとかではないはずだ、安心せい。今は昼前といったところだ。ご主人達は居間にいる。吾輩は先に知らせてこよう。芳乃も落ち着いたら来るがいいぞ』

 

何だか要領を得ませんが、病気はともかく呪いでないのは助かります。

せっかく憑代こと玉石をほぼ元の形に戻したのに、いきなり呪詛を強化されるなんていうのはご勘弁願いたいです。

 

有地さんたちは居間にいらっしゃるとの事でしたね。行くとしましょう。

 

 

 

「ああ芳乃、気分はどうだい?」

 

「大丈夫だけど……私、倒れちゃったの?」

 

「まあ、うん、いや……間違いではないかな?」

 

居間にいたのはお父さん、有地さん、ムラサメ様の三人。

確か不来方さんに深羽さん、放生さんにみづはさんもいらっしゃったはずなんですが……。

加えて、最初に顔を出しそうな茉子が出て来ない。有地さんの反応も気になりますし。

 

「深羽さんが朝武さんの耳元で何かを呟いたっぽいんだよ。そうしたら」

 

「血の気が引くみたいに芳乃が卒倒してしまってね。なかなか焦ったけど、夕莉君達が言うには休ませていれば大丈夫だって事だったから」

 

『三時間ほど前の話だな。今ここに居らん面子は茉子の先導でマヨイガに向かっておる。昼には戻ってくるとの事だったぞ』

 

耳元で囁かれたら、卒倒した? 三時間も気絶? 一体何を――

 

 

 

イッシ ニオワッ ク マ カ?

 

 

 

!!??

背筋にこれ以上のものなんて存在しないと言い切れそうな悪寒がまた走った。

思い出すのは止めておこう。また倒れるかもしれない。

 

「今の僕達は待機するだけだね。僕もさっき社務所から戻ってきた所なんだ」

 

『茉子達が手がかりを持ち帰ってくれるはずだからな。吾輩の身体の話もあるが、今の所は触り様がない。動かしたり吾輩が近づいたらどうなるか分からんからの』

 

私が寝てる間に色々お話が進んでる……。

まあ、あの悪寒を受けたのなら仕方がないと思っておきましょう。

 

「まだちょっと顔色が悪い? あったかいお茶でも入れてくるよ」

 

「悪いね、将臣君。あ、良ければ好きなお菓子を開けておくれよ」

 

「分かりました」

 

有地さんが温かいお茶を入れに台所へ。お客様に入れて頂くのはどうなんでしょう?

 

「さて……ちょうどいいタイミングだから約束していた事を果たそうか」

 

「約束?」

 

なにかお父さんと約束してたっけ?

 

「僕達と夕莉君の関係だよ。今日話すという事だっただろう?」

 

ああ、確かに。聖域に入った後に話すって事だったっけ。

卒倒したらしいインパクトにまだ頭が混乱しているみたい。

 

『吾輩も聞きたいところだ。不来方の事は全く知らなかったからな』

 

「ムラサメ様もお聞きになりたいって事なんだけど、大丈夫?」

 

「勿論だよ。ムラサメ様も関わっておられる事だからね」

 

『なに?』

 

ムラサメ様まで? 何もご存じないという事なのに。

 

「早い話が……以前僕達は夕莉君、正しくはその師匠の黒澤さんに『人捜し』をお願いした事があるんだ」

 

「人捜し……先日の小春さんの神隠しの時みたいな?」

 

「まさにその通りだよ。そして」

 

お父さんがより神妙な顔をして、言葉を一度切る。

その後に口から放たれた言葉は。

 

 

 

「神隠しに遭ったのは――秋穂と茉子君、そして芳乃。この三人だったんだ」

 

「…………は?」

 

 

 

衝撃の一言だった。

 

『知らん……知らんぞ、吾輩はそんな事は』

 

「私が……? いつの話なの? お母さんや茉子もだなんて」

 

お父さんは、当時を思い出すかのように渋い表情でお話を始める。

 

「数年前の夏だったね。最初は……秋穂の姿だけ見えなくなったんだ。だけど、その後を追うかの様に芳乃と茉子君の姿も見えなくなった。だからムラサメ様の行方がわかる人は、その場では居なくなってしまったよ」

 

全く記憶にない。ムラサメ様も唖然としていらっしゃる。

神隠しの最中はともかく、おそらく助け出されたんだろう後に関しても全く覚えていない。

これはどういう事なの?

 

「巫女姫の神隠しだなんて、この穂織においては最大級の異変だ。だから穂織の住人で詳細に知っているのは僕と玄十郎さん、みづはさんの三人だけ。後は常陸家の方達だよ。他の方々にお知らせしたらとんでもない事になりそうだったからね。だけど……やっぱり三人足らずでは芳乃達を見つけられなかった。力も足りなかったんだ」

 

まるで小春さんの時と同じような。

違いは一日の事で終わらず、神隠しに遭ったのが一人ではないという事。

 

「その頃志那都荘に黒澤さんが偶然宿泊されていてね、状況を悟ってくださった黒澤さんから玄十郎さんにお話を伺ってくれたんだ。僕達としても穂織の外の人の方が協力を求めやすかったから」

 

「じゃあ黒澤さんに……私たちの捜索を?」

 

「捜索とは言うけれど、芳乃も知っている通り『残影』を追う人捜しは普通の捜索と全くやる事も意味も違うんだ。縁の強いものを寄香として、影見でその人の影を追う。だけど……()()()()()()()()()()()という事は、場合によっては捜して頂ける方ご本人を「あちら側」に迷い込ませる行為になる。極めて危険な事らしいんだ。黒澤さんも人捜しの依頼のご経験が何度かあったとの事なんだけど、危険すぎて断ったケースもあったそうだよ」

 

『……そうか。影の行先が「あちら側」だったとしても、不来方達のような力ある者なら境界を難なく踏み越えてしまえる。故に、尚更危険なのか』

 

そんな危険な事を、当時黒澤さんが担って下さっていた。

……私が不来方さんに人捜しをお願いした事も、同じくらい危険な事だった?

現に小春さんはマヨイガの寸前へ……結果だけならよかったものの、私はなんて事を。

 

「仮に秋穂や芳乃達が「あちら側」に行ってしまっていた場合、祟り神や武実乃山には何らかの変化が訪れると思っていた。まあ結果的に犬神様は芳乃達を呪っていたわけではなかったけど、朝武の血が途絶えるという事には反応されたと思うよ。だけどその時点で僕が感じた事は何もなかったから引き受けて頂けたんだ。でも……黒澤さんでは秋穂達の影が追えなかった」

 

「追えなかった?」

 

「捜される本人が見つかる事を拒否していると辿れないらしいんだよ。より強力な才能と、より濃い寄香があればまだ可能性が、との事だったんだけどね。ただその間も僕達は居てもたってもいられなくて、夜間も含めて山にも踏み入った。だけど痕跡一つ見つけられず、情けない事に僕も負傷してしまって。その状況を見て黒澤さんが日上山から呼んで下さったのが……当時黒澤さんのお店の従業員で、更に強い力と才能を持っていた夕莉君なのさ」

 

私たちが「帰る事を拒否した」というのに、全く理由が思い当たらない。

神隠しに遭っていた方が良かったという事?

 

夜の武実乃山に入る危険性は、理由を知っているかはあるけれど穂織の人間なら誰しもが理解している。お父さんや玄十郎さん、みづはさんなら言わずもがな。それでも入ってもらっていた。

でも見つけられなかった……だから、より才能のある不来方さんを呼んでいただいた。

 

 

 

「夕莉君が最終的に寄香に選んだのは、当時神楽殿の岩に刺さっていた叢雨丸だよ。だから多分だけど、ムラサメ様の影を追う事になったんだろうね。唯人(ただひと)の影を追う事さえ危険な行為なのに、守り神たるムラサメ様の影を追うなんて事は無謀に近い。黒澤さんすら夕莉君の説得に回られたほどだった。だけど……それでも夕莉君が山に入ってくれるという事で、黒澤さんと一緒に武実乃山に入られた。そうしたらあっさりと山中の沢の傍で三人とも倒れているのが見つかった。僕も何度か見て回ったはずなのに」

 

『吾輩の影を追うなど……死者の跡を辿る行為に等しい。それ程の危険を承知で行ってくれていたのか。吾輩も誘われておったとはな』

 

 

 

そんな事が、たった数年前に?

正に神隠しだ。以前のムラサメ様のお言葉を借りるなら、私たちは「山の気にあてられた」と?

ムラサメ様を追われたというなら、お母さんどころかムラサメ様すら神隠しに遭ったという事になる。どれほど強力な力に呼ばれたというんだろう。

 

それ程危険な事をご承知の上で、不来方さんは行動を決断してくださった。

だからお父さんたちは……。

 

「不来方さんと黒澤さんは、この時お母さんに?」

 

「うん。芳乃達より秋穂の方が先に目が覚めてね、御礼を言わせてもらった。そして夕莉君の体質についても黒澤さんからある程度伺った。かつては黒澤さん自身も夕莉君に救われたらしいよ」

 

だからお二人はお母さんの事も、私たちの獣耳の事も知っていたのね。

そういえば初めて喫茶店にお邪魔した際、ムラサメ様の事を「血色のいい霊はひさびさ」と仰られていた。前回というのは神隠しの捜索時に見つけられたムラサメ様だったのか。

 

「そんな夕莉君が独立されるという事で、引っ越し先の候補を黒澤さんから相談された際には勿論二つ返事で引き受けたんだ。夕莉君にとっては祟り神より怨霊の方が危険な存在で、霊相手であれば僕の力も多少は通用する。この穂織の町を風水で見た時、加護も含めた霊的な力が最も及びにくいがために意図的に空けていた物件を使って。出来るだけ霊が中に留まらないように、そもそも知っている存在以外には簡単には見つけられないよう陰陽道や神道に基づいた改築をして。出来る限り夕莉君が穂織でのびのびと生活できるように、そう思ってね」

 

「……そう、だったの」

 

『既に……吾輩達は不来方に救われておったのか。感謝してもしきれんな』

 

お父さんたちの態度も、あの店の不思議も、不来方さんが知っている感じだったのも。

全部、私が神隠しに遭って助けられた事から始まっていた。

お父さんや玄十郎さん、みづはさんが出来るだけ不来方さんへの協力を避けようとしていたのは、また「あちら側」に関わってしまう様な事を防ぐため。

 

 

 

そっか……。

 

 

 

「この話を聞いて、何か思い出した事はあるかい?」

 

「……ううん、当時の事は何も。そんなお世話になっていただなんて」

 

「黒澤さんは思い出さない方が良いと仰っていたよ。それも「あちら側」に触れる行為だ。僕が夢で秋穂の後を追おうとした話はしたね? それと同じなのさ。だから僕達もその事を芳乃や茉子君に伝える事はしなかった。ムラサメ様からもお話がなかったなら、その事をご承知だったか、或いはムラサメ様も覚えていらっしゃらないんじゃないかと思ってね。覚えていないならそれでいいし、そこから何かをしようとする必要は無いんだ、芳乃」

 

『そういう事であったか……』

 

だから今になるまで私にも知らされていなかった。私の体感では単に目覚めただけだったんだ。

知る必要が無かったから。知ると危険だったから。知ると周りを危険に晒すから。

 

その始まりは、不来方さんや黒澤さんといった全く穂織に無関係な方を、祟り神よりも危険な存在に近づけるような出来事だった。

 

これに報いようと思うなら、私は一体何をすれば……。

 

 

 

「ただいま戻りましたー」

 

 

 

茉子!?

じゃあ不来方さんも帰って来た!?

なら……とにかく、とにかくやる事は!!

 

「よかった。常陸さんたち、無事に戻ってこられたんですね」

 

「そうだね、僕達も迎えに……芳乃!?」

 

『待て芳乃! 吾輩も行くぞ!』

 

 

ドタドタドタドタ!!

 

 

こんな時にやる事は、一つ!!!

 

「失礼しま「『申し訳ありませんでしたーーー!!!』」……?? えっ?」

 

「これは…………なんですか? 常陸さん、説明を求めます」

 

「深羽さんも無茶を仰いますね? 芳乃様のは発作と言えなくもないんですが、ムラサメ様までとなると本当に何かがあったか……なんでしょう?」

 

「待っておくれ。本当に発作だとしたら怨霊どころの話じゃないよ?」

 

「随分と気合の入った土下座だな。夕莉向けのようだが、見ているこちらも圧倒される勢いだ」

 

こんな時こそ、意味を成すのが土下座でしょう!

ムラサメ様もされているんだから間違っていませんよね!?

 

「芳……ああ、案の定だよ。皆様、ご無事で何よりです。お疲れ様でございました」

 

「おかえりなさい。俺にはこの状況が分かんないんですけど……お茶、飲まれます?」

 

「…………そう、ですね。有地さん、申し訳ないんですがお願いできますか? 一先ず芳乃様からここに至った経緯だけ聞き出しますので」

 

いくらでも話すわよ! 茉子、貴女も当事者なんだから!

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

「申し訳ありませんでした……」

 

「大丈夫ですから、常陸さん。私は大丈夫ですから。芳乃さん達も頭を上げてください」

 

「なんなの? 穂織には土下座の風習でもあるの?」

 

「イヌツキの地以上に酷い風評被害になりそうなので、そのお考えはお捨て下さい。深羽さんが発信されると取り返しがつかなくなりそうです」

 

さっきのお話をかいつまんで茉子に話した結果、茉子も私たちに倣う事になりました。

これが正しい使い方、合っててよかった!

 

「これってアレですよね? 有地君が溺れた沢の所で、朝武さん親子と常陸さんとおチビさんを見つけたっていう」

 

「そうです。当初はムラサメ様の正体が不明だったので手探りでしたけど、守り神といっても現世寄りの存在だったのでそこまで危険な感じではなかったんです。行き先も完全な隠世ではなくて、その影響を受けた現世のようでしたから」

 

「深羽さんは夕莉から聞いていたのか?」

 

「あらましはここに来た日に。先日現場の過去視もしているので、大体の経緯も分かりました」

 

かこし……過去視、初めて山に入って頂いた時に有地さんが溺れた現場を見られたものですか。

あの時に、深羽さんは既に私たちの事もご覧になっていらっしゃったのか。

 

私たちが発見された沢は、有地さんが溺れて、その時に玉石の欠片を飲み込んだ場所との事。

という事は、まさか。

 

「『姉君の御身を捜し出す誉れ、貴様ら如きが選ばれた事を誇るがいい』……じゃあなんですか? ワタシたちは有地さんが飲み込まれた玉石の欠片を捜すために神隠しに遭ったと?」

 

「常陸さん、申し訳ないけどちょっと我慢してね……犬、知っている事を吐きなさい。耳と尻尾引き千切るわよ」

 

『その力は神相手にぽんぽん使うものではないと思うぞ……? 雛咲娘よ』

 

深羽さんが茉子――正しくは中にいる犬神に「縛」を使ったみたい。茉子の獣耳が消えない。

なんとまあ無茶苦茶な。考えも過激すぎませんか? 新たに呪詛が生まれそう。

 

「『忌み子め……銀髪の娘達と永久花は、憎らしい事に姉君の御力を受けている。故に姉君の御心が届きやすい。意識は散逸されているが、姉君は今もなおこの地を守ろうとされている。しかし御身をこの地から失えば、いくら姉君と言えどそれは叶わぬ。だから求められたのだ、貴様らを使ってでも失われた御身を戻す事を』 じゃあ正真正銘「神に招かれた神隠し」だったんですか」

 

「……俺が玉石を飲み込んじゃった上に穂織を離れちゃったから、姉君様が朝武さんたちに捜索要請したのか。レナさんが持ってるのも合わせれば、最低でも二個は山から消えたから」

 

「秋穂達は神隠しに遭ってから夕莉君に発見されるまで数日かかっているけど、怪我一つなく無事だったんだよ。土地神たる姉君様が守ってくださっていたからだったんだね」

 

「黒澤さんと夕莉君が言っていた「本人達が帰還を拒否している」というのも、土地神の要請に応えるためだったという事になりそうですね。それなら納得がいきます」

 

まったく当時の事を覚えていないけど、土地神様から玉石を捜すようにお願いされた結果だったのね。タイミング的には有地さんが夏休みでこちらに来られて、帰られた後の事なんでしょう。

 

先日深羽さんが過去視をされた際、有地さんが溺れた後に祟り神が出現するようになっていた。

祟り神にとっては自分の憑代で「姉の身体」だから当然捜索対象。だけど見つからなかった。

だから姉君様からすら要請がかかって、私たちも神隠しという形で山に入ったんですね。

 

では。

 

「茉子は……私が道連れにしてしまったという事ですか?」

 

茉子は朝武の血を引いてはいるけど、「銀髪」でもムラサメ様的な存在でもない。

あの頃もずっと私のそばに居てくれていた。だから……一緒に誘われてしまった?

だとしたら、茉子にも申し訳ない事をしてしまいました。

 

「『否。愚物の血を姉君が招かれるものか』」

 

と思ったら違うとの回答。じゃあ、茉子は一体?

 

「では常陸さんは別のナニカによって……まさか、朝武長男か?」

 

「『勘が良いな、奇妙な魂の男。褒美に教えてやる。銀髪の娘共には常に姉君と我の力がかかっている。だがこの者共を招いた時だけは隠世に片足を踏み入れた事から力が薄くなった。故にあの愚物には都合が良かった。既に次代は生まれていて用済みだったろうからな』 ちょっと待ってください! じゃあワタシがその場に居合わせたのは『用済みの娘を狩るためだろう。あの娘は比較的呪詛に耐えていたからな』 そっんな……そんな、こと」

 

信じたくない、受け付けたくない回答。

じゃあ、もし不来方さんに見つけて頂くのが遅れていたら。

お母さんが――茉子の手によって?

 

気分が悪くなってきた。

 

「……朝武義和の目的はなんなのですか? 秋穂達は、なぜ」

 

「『さてな。あの愚物の呪詛は次代が生まれた後、母体に対して極端に濃くなる。我らが力を以てしても、くたばるのを少々遅らせる程度になるほどに――そろそろ束縛を解いた方が良いぞ? 夜泉子の娘。この器の魂魄と我を混ぜたくないのであれば。いくら禁忌の存在とて人間にそこまで器用な真似の維持はできまい。我としても下賤な人間の魂に合一される事は本意ではないのでな』」

 

「へえ? その辺は把握してるって事? ……ムカつくけどその通りね」

 

「まだ大丈夫です! 問いかけを続けてください!」

 

深羽さんの顔は汗ばんできている。

茉子の顔色もどんどん悪くなってる。だけどそんな事を言う。

多分神隠しの経緯を聞いたからよね。何時だって茉子は優しくて頑張り屋だ。

 

「ではこれを最後に聞こう。今日貴方も遭遇したあの女性の怨霊は? 貴方は「いそら」と呼んでいた」

 

「『我が身が畜生に堕ちる前、姉君を祀っていた女だ。「はなもりの儀」を行おうとしていたようだが、あの愚物の手でこの地に瘴気がまき散らされた後の事は知らぬわ』」

 

「……ごめんなさい、これ以上は限界!」

 

 

 

深羽さんが「縛」を解かれて――茉子から獣耳が消えた。

 

 

 

「ハアッ!! ……はぁ……はぁ……すみません。ワタシがもう少し耐えられていられれば」

 

「なに馬鹿な事を言ってるのよ、茉子。お願いだから無理はしないで。自分を大切にして」

 

息も絶え絶えに、汗だくになってしまった茉子を抱きしめる。

お疲れ様、茉子。

 

「ごめんなさい、常陸さん。無理をさせてしまって。これを飲んで」

 

深羽さんから差し出されたのは小瓶に入ったお水。

万葉丸とは違うようですが……喫茶店で言葉が出た「御神水」でしょうか?

 

「深羽さんも大丈夫なんですか? ただでさえ強化レンズと特殊機能の消費があるのに、あまつさえあんな形で神に対して縛を使い続けるなんて」

 

「流石に私も飲みますよ。俳優が疲れを顔に出すなんて失格もいい所なんですけどね。あーあ、朝武さんの服どうしようかな。これ普通にクリーニング出せます? ダメだったら弁償しますので」

 

深羽さんが着ていらっしゃるのは、どういうわけか私が神楽舞で着る正装の巫女装束。

それが汗でかなり濡れています。深羽さんにも相当な負荷がかかっていたようです。

 

「そんな事は気にされなくていいですから、深羽さんもまずはお休みになりましょう?」

 

「ええ、深羽さんも茉子君も今は休んでください。その後は一度私の方で診させてもらいます。安晴様、一室お借りしても?」

 

「勿論です。芳乃、案内してあげてもらえるかな」

 

「はい。みづはさんは深羽さんをお願いできますか? 私は茉子を」

 

「申し訳ありません、芳乃様」

 

「謝る場面じゃないわよ。ここは「ありがとう」でいいの」

 

『吾輩も行こう。少しでも見る存在がおる方が良いだろう』

 

あのお水を貰った事でかなりマシにはなっているようだけど、最初に怨霊に触れられた時以上に衰弱しているかもしれない。

 

――犬神の口から語られた真実が、茉子の心に傷をつけてしまったのかも。




という事で、夕莉が穂織に来た経緯でした。
わりかし正義感の強い夕莉なので、求められる場所なら行くと思います。

原作にはこういうエピソードはなかったかな?
割とあってもおかしくない気がしますが。

次は休憩中の芳乃達です。時間が全然進まない……。
次回も楽しんで頂けたら嬉しいです。
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