零 ~イヌツキの少女達~   作:もふもふたぬきねこ

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少し「零 ~濡鴉ノ巫女~」のストーリーを説明する回です。
短めですが、原作ストーリーをご存じない方には情報多めになります。
後々そっちのお話は明かしていきます。

今回もよろしくお願いします。


47. 仕事人達の休息

「本当にごめんなさい、常陸さん。相当無理させちゃいましたね」

 

「いえ、お気になさらないでください。ワタシにとってもまたとない好機でしたから。自分から抵抗に走った自業自得です。しばらく四足歩行が染みつかないといいんですけれど……」

 

普段であれば犬神の方が力が強いせいで、茉子としては特別抵抗とかをしている事はないみたい。

だけど、今回は犬神が茉子の中に戻ろうとするのを猛烈に拒絶していたんだとか。

 

だから深羽さんは茉子と犬神それぞれに「縛」を使われていた――茉子の魂が守られるように。

そうでなかったら、茉子は犬神に精神を壊されてしまっていたかもしれない。

 

結果として犬神に身体の主導権を能動的に明け渡す状態になったせいで、茉子の感覚は半分犬のような気分との事。

笑い話で済む範疇ならいいけれど、茉子が茉子でなくなるかもしれなかった。やめてほしい。

 

「力も才もないのにマヨイガに踏み入った私が言える立場ではないんだけど、己の領分を越える事をしてはいけないよ? 精神を神に取って代わられた人を元に戻す術は私にはないからね。診るのは少し後にしよう、二人とも脈拍が高すぎる。芳乃様、少しの間ここをお願いできますか?」

 

「わかりました。茉子、今はしっかり休みなさい。深羽さんもお休みになってください、穂織に来て頂いてから動き続けて頂いているのですから」

 

『うむ、二人とも少し横になっておれ。茉子も役目を外れたのは肩の負傷の時くらいであろう?』

 

「余計に落ち着かないのですが……」

 

「仕事でスケジュール詰めよりはマシなんですけどね。あの頃の喫茶店に戻った気分。寝てばっかだったなあ……」

 

私が言えた口じゃありませんけど、二人ともワーカーホリック気味なんですね……。

深羽さんが仰る事の仔細は分りませんけど、二人とも受け入れてはくれるようです。

ここは任せてもらいましょう。

 

みづはさんが席を外されて。

 

 

 

「……本当にややこしいですね、ここの問題。日上山の時はわりとシンプルだったのに」

 

深羽さんが静かにそう口にされた。

 

『そうなのか?』

 

「何があったか想像もできませんが」

 

「怨霊や絶対霊相手にどうにかされていたという事は想像がつきますけれどね……」

 

「そこは常陸さんの言う通り。私が疲れているのは人間関係のドロドロ具合です。直接特定の誰かに対する呪詛なんて私には経験がなかったので、ここまで面倒と思わなくて。別にそっち関係のプロってわけでもないんですけど」

 

案の定、小春さんの仰っていたバトル漫画じみた戦いをされていたのは本当の様です。

今なら聞けるかな? 少しお話を伺ってみましょうか。

 

「深羽さんは日上山のご出身というわけではなかったですよね? 何故そんな事に?」

 

私の言葉を受けて、深羽さんはう~んと……話すか悩まれている感じでしょうか?

 

ですが。

 

 

 

「……お母さんが日上山で行方不明になったんですよ。正確には私の前から姿を消していたお母さんが、日上山で発見されたんです。その過程で、ですね」

 

 

 

お話してくださいました。でもお母さんって……。

 

「深紅さんが……行方不明、ですか?」

 

「そうです。14年間私が何かしらやってたって話を覚えてます? それがお母さんの捜索です」

 

「先日、昼間に山中でして下さったお話ですか」

 

『吾輩は知らん話だが、そうであったか』

 

たしか「何もない」状態から「何かはある」状態になるのに、14年かかったと。

 

 

 

「藁にも縋る思いでしたけどね。サチさん……私の養母がそれらしい情報を見つけてくれて、黒澤さんに「人捜し」を依頼したんです。だけど返事は「本人が戻る事を望んでいない」なんてとんでもない内容で。居るのは間違いないみたいなのにどういうつもりなんだって頭が噴火しまして、仕事ほっぽり出して自分で山に乗り込んだんですよ。お陰で私まで「人捜し」の対象になって、黒澤さんも巻き込んじゃって。結果的に私達は夕莉さんに助けられて、私もお母さんも見つけられたんですけど……お母さんはその時の影響で、ご存じのようにあの見た目になってるわけです。娘の私が追い抜いてしまいました」

 

 

 

深紅さんの見た目があまりにお若いのは、そういうわけだったんですか。

ムラサメ様のお身体が歳をとられていないのと似た理由のようですね。

黒澤さんが「人捜し」を危険視されている事も、不来方さんに助けられたというのも。

 

「その辺の事情はともかく、日上山にも「黄泉の門」的なのはあったらしいです。細かい説明は省きますけど、それを封じる柱だった人が限界を迎えていたらしくて。私やお母さん、黒澤さんが神隠しに遭ったのはその補助的な事をさせるためみたいでした。最終的に夕莉さんがその人の精神を回復させて、その人は完全に柱となる事を受け入れられて。それでケリがついたんですよ」

 

『……これを聞いていいか分からんが、その人は何を重荷にされていたのだ? 吾輩は元々死に体だった事もあってか、今の立場をそこまで気負っておらんつもりだが』

 

「膨大な数の「死者」の、最後の想いよ。本当なら複数人で分けて請け負うはずだったのに、その人は日上山最後の巫女となったがために一人で全てを看取る事になった。貴女と同じで死んだわけじゃない。だけど生きながらに死に続け、とんでもない数の強烈な記憶を自身の魂が摩耗して消滅するまで見届ける事になった――今この時もね。私が貴女にムカついているのは、勝手で悪いけどその辺の対比があるのかもしれない」

 

『…………そう、か。数多の人そのものを背負ったのか。重みが違う、かもな』

 

私にとっては人柱として命を散らす事だけでもショッキングな出来事ですが、その裏側はそんな状況になっていたなんて。しかもまだご存命?

結果的に、その御方は全てを受け入れられた。なんという器の強さと大きさ。

 

「不来方さんがその方を説得……というのも違う気がしますけど、そうされたんですか?」

 

「そこは夕莉さんに聞いてください。私も知ってはいますけど、本人から聞くべきでしょうから。まあそんな感じで……引き金を引いたクソ男が居たのは穂織に近いですけど、構造はシンプルです――人柱の機能不全ですね。ですけど此処の場合は昔の怨みやら呪詛やら犬やら神やらでややこしい、そういうお話です」

 

「そのお話を伺うと、確かに穂織の今の状況は複雑そうですね。芳乃様の獣耳や祟り神、犬神の真実はおよそ分かりましたが、ワタシの先祖の呪詛やあの絶対霊と化していた巫女のような方のお話もあります。大筋的には二本が絡み合っているようですけど」

 

「あの絶対霊……犬神も言っていたけど、女の人だったの? しかも巫女?」

 

「はい、犬神は「いそら」と呼んでいました。さっきの事も合わせると当時の神職の方なのでしょう。みづはさんに何かお話を託されて、例の書籍の場所を示されて消えてしまいましたが」

 

マヨイガでなにがあったかをまだ聞いていませんでしたけど、茉子たちは一番の目的を達成してくれたみたいです。お疲れ様。

今頃みづはさんは、聞いた内容を整理されてお父さんたちに話している所でしょうか。

 

巫女姫とは恐らく違うんでしょうけれど、確かに祈祷師のような恰好をされていた。

犬神が言うには「姉君様を祀っていた」人物。犬神からも名を認知されるほどの信仰心。

それほどの方が、何かをきっかけにあのお姿になってしまった。

 

「ま、今は休憩しましょう。今日の探索で放生さんは殆ど怨霊に役に立たない事が分かりました。逆に朝武さんでもやり方次第では怨霊とやり合える事が分かりましたから、射影機三台運用なら前線に立って貰う事になりますよ。悪いんですけど、私のお母さんは強いが故に危険すぎるんです。常陸さんは言わずもがな、今日みたいな無茶は出来ませんけど犬から情報を引き出すのが一番早いですから」

 

「勿論です。ワタシの身体からとっとと出ていって欲しいのもありますから。前みたいなのはもう二度と御免でして……」

 

有地さんの前でのアレはね……。

 

「私は元々自分の事でもあるんですから、勿論前線に立たせてもらいます。ただ……何故私が対抗できると改めて分かったんですか? それに何故神楽舞の衣装を深羽さんが?」

 

「私が「朝武芳乃」になるためですよ。仮にマヨイガが朝武さんを招いていたのなら、連れて行かないと招かれません。ですけど朝武さんご本人じゃ絶対霊には対抗できなかったって事でしたし、夕莉さんだけでは負担が大きいですから。私が朝武さんに成り代わったわけです。あ、髪を一本頂いています。事後報告で申し訳ないです」

 

『すごかったぞ? 実際の背丈に差はあったのだろうが、見た目といい言葉遣いといい雰囲気といいほぼ完全に芳乃だった。怨霊の気配になった時も思ったが、「何にでもなれる」とはまさかあそこまでだったとはな。演者とは大したものだ』

 

「本物の芳乃様より冷静過ぎましたけどね。簡単に言うと、有地さんへの塩対応時代の芳乃様のパワーアップ版でした。怨霊が出て来てもパニックになるどころか「殺っちゃっていい?」的な雰囲気が漂っていましたから。火遁には芳乃様より驚かれていましたけど」

 

「縦横比を合わせれば多少の背丈は誤魔化せるのよ。ただアレは驚かない方がおかしいでしょ……穂織の治安維持はどうなってるんですか、全く。撮影のセットでも使った事ないのに」

 

火遁……ああ、プラスチック爆弾とかいう。お弁当箱に花火を詰めた感じなんだったっけ?

そんな理由だったんですか。まあ私ではあの絶対霊には何の役にも立たなかったでしょう。

魂レベルで私に似せられるというのは、流石にちょっと怖さが出てきますが。

 

「それともう一つ、気絶させるにしてもちょっとやり過ぎました。他にいい手あったかな」

 

「それなんですけど……私に何をされたんですか? 思い出そうとすると壮絶に悪寒が走るんですけど」

 

「囁いただけではあるんですけど、さっきの日上山の柱の人の絶対霊仕様で軽く誘いました」

 

何てことするんですか!? そりゃあ意識も飛びますよ! なんで絶対霊仕様!?

 

 

コンコン

 

 

襖からノックが。みづはさんでしょうか?

 

「はい、どうぞ」

 

「失礼します」

 

入って来られたのはみづはさんと……不来方さん?

お盆をお持ちに。

 

「少しは休めたかい?」

 

「簡単ですがおかゆを作ってきましたので、よろしければ」

 

「ああ、申し訳ありません。家事手伝いがお客様にお昼を作っていただくなんて……」

 

もうお昼なんですね。色々あり過ぎて時間の感覚がおかしくなっているみたいです。

ありがたいですね。というか私が作るべきなのでは? 料理できませんけど!

 

「これを頂いて、安晴様たちのお食事の準備を致しませんと」

 

「心配ないよ、私と夕莉君と有地君で作って来た。このおかゆも夕莉君が作ったものだから」

 

「夕莉さんが? ……コーヒー以外に作れたんだ」

 

「酷くありませんか……?」




零側はザックリこんなお話です。

次はマヨイガで得られた情報の分析。
なんで濡鴉ノ巫女のクロス先を千恋*万花にしたのかの切っ掛けでもあります。
次回も楽しんで頂けたら嬉しいです。
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