零 ~イヌツキの少女達~   作:もふもふたぬきねこ

5 / 70
幽霊に襲われつつも、なんとか帰還できた芳乃達。
その対処法を求めて。

今回もよろしくお願いします。


5.  プロに伺う幽霊対策

「芳乃様。放課後少し宜しいでしょうか?」

 

「みづはさん? 構いませんが?」

 

「常陸さんと有地君も時間があれば。先日の件です」

 

「……っ分かりました。2人にも声をかけておきます」

 

あれからまた数日。

土曜日になったら不来方さんのもとにお邪魔しようかと思っていた前日に、今日は嘱託医として学院にいらしていたみづはさんからお呼び出しが。

先日の件というなら――幽霊関係。今は喉から手が出るほど欲しい情報ですね。

 

 

 

「時間を頂いて申し訳ないね」

 

「いえ、とんでもないですよ」

 

「こちらこそ、お忙しいのに調べて頂いてすみません」

 

「それで……みづはさんのお話というのは?」

 

「早い話があの幽霊の目星、でしょうか。根本的な解決には何もならないのですが、正体不明のナニカと対峙するよりはまだマシかと思いまして」

 

そう言って、みづはさんが少し古びたノートの付箋が貼ってあるところを捲ります。

 

「確認になりますが……有地君、ここがイヌツキの土地と呼ばれる真相は覚えているかい?」

 

「昔の朝武家の跡目争いで長男が次男を倒すために犬神を使った呪詛を放って、現代までソレが残っている、でいいですか?」

 

有地さんにはあまり知って頂きたくなかったんですけどね。

この地が呪われた土地だなんて呼ばれている理由は――私の先祖にあるのですから。

 

「うん。そしてその犬神の呪詛は弟君の一族に不幸をもたらすだけでなく、領民にも不幸を与えた。大飢饉、洪水、山崩れ……多くの人が亡くなった。叢雨丸によって犬神が祓われた事で不幸を脱したけど、隣国からの攻め込みに加えて内乱も発生し、領民同士でも戦闘があった」

 

「……この穂織の地は」

 

「大昔はかなりの数の領民が亡くなられた、ってお話ですよね」

 

「そういう事だね。そしてすなわち犬神に対して怨みを持っている幽霊が居たとしてもおかしくない、と私は考えているよ」

 

祟り神は犬神の一種。ならばそれに敵対する幽霊は、祟り神にとって邪魔者という事ですか。

 

「そうだったとして……なんでこのタイミングで? 朝武さんの一族が祟り神を祓ってきたのって今に始まった事じゃないんですよね? それにこう言っちゃなんですけど、普通の幽霊が呪詛に嫌われるくらいに力を持つなんて」

 

「その通りだよ、問題はそこだ。確かに芳乃様の……朝武の一族が祟り神を祓っているのは犬神に呪詛をかけられて以来ずっとになる。だけど今回は一つ、これまでと違う点があるんだ」

 

今までと違う点――これしかありえないですね。

 

「有地さんの存在。つまりは叢雨丸の使い手が居るという事ですか」

 

「ええ、これが一番の違いになるかと思います。前回叢雨丸が振るわれたのは一番最初の跡目争いの際に土地神様から授かった時のはずで、今はそれ以来数百年ぶりの状況です。全く無関係という事はないでしょう。直接的であれ間接的であれ、何らかのトリガーになっているとは思っています」

 

「……俺がいるせいで、あんな?」

 

「有地さん、それは違いますよ。先日の件は有地さんがいたからワタシは助かったんですし、何かが動き始めているという事かもしれません。ご自分の責にしないでください」

 

「そうですよ有地さん。貴方のせいという事は絶対にありませんから」

 

叢雨丸の使い手が現れた事によって、何かが動き出した可能性は確かに十分ありそうです。

それは――これまで達成出来なかった、犬神の呪詛の解呪の可能性もあるわけで。

「有地さんがいたせいで」ではなくて、「有地さんがいてくれたから」が正しいのですから。

 

「待っておくれ。常陸さんは幽霊と何かあったのか?」

 

「先日祟り神が出現して祓いに出た際に。祟り神を祓う事は出来たのですが、その後に幽霊が出現しまして。ワタシがヘマをして触れられてしまった、という所です」

 

「アレは茉子のヘマじゃないでしょ! 私が冷静に動けていたら……」

 

「常陸さんは大丈夫だったのかい?」

 

大丈夫じゃなかったんですよ。もうあんな事、二度と体験したくないです。

 

「触れられた瞬間に……強烈な悪寒と気怠さと気持ち悪さやらとのコンボで身動きが取れなくなりまして。有地さんに運んで頂いて帰還したような感じですね」

 

「アレはホントに焦ったよ。ああっと、幽霊も全部で5体現れました」

 

「おまけに私の鉾鈴も茉子のクナイも、有地さんの叢雨丸さえ効果なしで。そのお話を明日不来方さんに相談しようかと思っていたところです」

 

「そうでしたか……まずはご無事で何よりです。そうであるならば、明日とは言わず今から向かう事にしましょう」

 

ええっ。ですけど。

 

「勿論私も思う所がないわけではありません。ですが手遅れになる可能性も出てきます。夕莉君から他の詳しい方々へ繋いで貰う事も出来るかもしれません」

 

たしかに穂織の中だけで完結させる事ばかり考えていましたけど、状況が状況です。

穂織に対策を知っている存在が居ない以上、外に求めるしかないかもしれません。

 

「事は一刻を争います。今は彼女の力を借りましょう。常陸さんにもまた無茶をしないように釘を刺さないといけませんし」

 

「うぐっ。それを言われると弱いですね」

 

「そう、ですね。分かりました」

 

幽霊に襲われた夜に決めたじゃない。もう茉子たちを傷つけさせないって。

なら――人にお願いをする時の覚悟を決めるとしましょう。

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

夕暮れ時。

こういう時間を「逢魔ヶ時(おうまがとき)」とでも言ったでしょうか? 不思議な色合いの空。

昼の時間と夜の時間が溶けあう、けれど暗くなっていく時間帯。

夕陽を見ている分には綺麗なんですけど、そういう考え方をするとなんだか違う見え方がします。

 

『出来る限り早い方が良いのは駒川の言う通りだな』

 

一度家に戻ってムラサメ様にも来て頂いて、今は不来方さんのもとに向かっています。

 

「……何故なんでしょう? 道が覚えられない。ワタシ、忍者なのに」

 

「不思議な場所だろう? どういう原理か私も分からないんだが、観光の方が探そうとしても見つからないらしいよ。逆に無意識に迷い込んでしまうとあっさりたどり着くんだそうだ」

 

「そしてお父さんや」

 

「祖父ちゃんは平然とたどり着けると。確かに不思議だな」

 

前のように細い小道を通り抜けて。

先日お世話になった「喫茶・こずかた」へ。

 

 

 

「いらっしゃいませ……みづはさん、芳乃さん達も。よくいらっしゃいました」

 

「お邪魔するよ、夕莉君。3人ともこの前と同じでいいかい?」

 

「「ありがとうございます」」

 

「あ、俺はモカブレンドをお願いしていいですか? 一回飲んでみたくって」

 

『どんな味か、一度飲んでみたいもんだのう』

 

みづはさんが不来方さんに注文をされて。

やっぱりこのお店のコーヒーの香りは不思議と落ち着きます。

コーヒーの抽出した後のカスでも匂い袋になるんだったでしょうか?

家に置く事を考えてもいいかもしれないですね。

 

「お待たせ致しました。それで、私にお話が?」

 

さて、この瞬間がやってきました。

 

「はい……その」

 

覚悟を決めなさい! 朝武芳乃!

 

 

 

「――お力を貸してください!!!」

 

 

 

全力土下座!!

 

 

 

「芳乃様!?」

 

「朝武さん!? 一体何を――この前のアレ!?」

 

「この前のアレです、有地さん。はぁ~~」

 

「えっと、あの……これは?」

 

『すまぬが気にせんでくれ。時々こやつは阿呆になる』

 

人にお願いをするなら――土下座が相場じゃないですか!

こっこれは、床を頭で掘る勢いでやった方がいいのでしょうか!?

あるいは、今後はコーヒーに砂糖とミルクを禁止するとかっ!?

 

「はいはい芳乃様、床を掘ろうとするのは止めてください。余計に不来方さんとお店にご迷惑を掛ける事になりますから」

 

「はっ!?」

 

「自覚ゼロなのがヤバいな。それで多分対価はコーヒーの一生砂糖抜きとかか。不来方さん、気にしないでください。発作みたいなものなので」

 

「そんな発作は医者として見過ごせないのだけれど?」

 

『どうせまた「いんたーねっと」とかいうやつで、微妙にズレた都会かぶれになったのだろう。ご主人にかました時に学ばなかったのかのう』

 

「ええっと、私は大丈夫です。人生で初めて土下座をされたもので」

 

おかしい――最高峰のお願いの文化ってネットに書いてあったのに!!

土下座したら野球も延長戦になるんですよね!?

茉子と有地さんは私の心を読めるんですか!? ムラサメ様は盗み見を!?

 

「病ではないのですね? はぁ……夕莉君には大変申し訳ないんだが、また知恵を貸してほしいんだ。お願いできるだろうか?」

 

「分かりました。時間もいい所ですしお店も閉めてしましょう。先に芳乃さんにはお手拭きをお持ちしますから」

 

「お手数をおかけします。まったく勘弁してください、芳乃様」

 

そう言って不来方さんは冷えたお手拭きを下さって、お店の札を裏返し玄関を消灯されました。

何というか本当に申し訳ないです……。

 

 

 

「それで改めてのお話というのは?」

 

「先日の幽霊話の件なんだが……あれから芳乃様達が再度対峙したらしくてね。その際に祟り神を祓うのに使っている武実神社の鉾鈴や祈祷を受けた道具、そして武実神社の御神体である叢雨丸ですら全く効果がなかった、という事なんだ。おまけに常陸さんが幽霊に触れられてしまって、かなりの虚脱状態に陥ったらしい。何か対処法か、詳しい方を紹介して頂けないかという相談だよ」

 

みづはさんがそのお話をすると、不来方さんのお顔がかなり曇ってしまって。

思いつめたような感じになられてしまいました。

 

「そう、だったのですか……少しお待ち頂いても宜しいですか?」

 

「ああ、こちらは構わないが?」

 

そう言って店の奥に消えてゆく不来方さん。

数分して……戻ってきた不来方さんが手に持たれていたのは。

 

「お待たせしました」

 

「それって……アンティークか何かですか?」

 

「見た事がない品物ですね」

 

茉子の言う通り、最近のものではなさそうななにかの道具。展示品でしょうか。

それと……こちらはお薬? 昔のお薬を思わせる瓶ですね。

 

「コレは……昔のカメラかな?」

 

梵字(ぼんじ)が刻まれているようだね」

 

有地さんとみづはさんはその正体を知っているようで。これが昔のカメラなんですか。

今のカメラより大きいのは当然なんですが、意外にも形は今のデジカメに近いんですね。

梵字は、確か仏教で使うインドの文字だったでしょうか?

 

『まさか……お主、これを一体どこで?』

 

ムラサメ様は驚愕の反応。見た事があるのでしょうか?

 

「私が勤めていた店の店主から借り受けているものです。以前の私の仕事道具でもあったので」

 

その言葉を聞いて、ムラサメ様は更に驚いたように目を見開かれて。

 

 

 

『実物を見ても信じられんが、これは――射影機(しゃえいき)に相違ないか?』




という事で、零シリーズの主役アイテムの登場です。
詳しい紹介は次話に行います。

次回も楽しんで頂けたら嬉しいです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。