零 ~イヌツキの少女達~   作:もふもふたぬきねこ

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一話当たりの情報過多。
分けようとも思いましたが、流れ的にそのままですみません。

今回もよろしくお願いします。


49. 只人知らない調べごと

「いらっしゃいま……あら、まー坊。いらっしゃい。巫女姫様も常陸さんもいらっしゃいませ」

 

「こんにちは、馬庭さん」

 

「お邪魔するね、芦花姉。三人いい?」

 

「はーい、こちらのお席にどうぞ。穂織が誇る美少女二人を侍らせちゃって、ひょっとしてまー坊にモテ期到来?」

 

「ありがとうございます、馬庭さん。そうですねえ、このまま行くと有地さんには責任を取っていただく事になるかもしれません――命をもって

 

「まー坊! 一体何をしたの!? まさか巫女姫様に夜這い!? どうしてもっていうならお姉ちゃんが受けてあげるから!」

 

「やめて!? 昨日の朝の事がフラッシュバックしそうだから! ついでに何トンデモねえ事言ってんの!?」

 

『アレはのう……あの状況ですら一歩を踏み出せんやつにそんな度胸があるはずもない』

 

マヨイガうんぬんから解散して夕方の神楽舞まで休憩時間。

甘味で心のカロリー補給をするべく田心屋にやってきました。

 

昨日の……ああ、深羽さんの()()ご発言ですか。私の対応は言わずもがな。

半分意味が分かりませんでしたけど、有地さんの心に相当ダメージが入っていたようです。

そちらはともかく何かの形では報わないと。原因が私であるのは事実なんですし。

馬庭さん、器が大きいなあ……大人ってこういう事なのかな。

 

 

 

『激動の一週間だの。巫女姫の呪詛に関する事も含めて、ここまで一気に事態が動いた事は恐らくない。吾輩達の神隠しはあったらしいが、結局何が変わったという事もないようだし』

 

「小春の神隠しが六日前だっけ。濃いや」

 

「幽霊出現に始まり、不来方さんに神隠しにマヨイガに深羽さんたちに祟り神に犬神に絶対霊ですからね。ワタシの身体もおかしな事になってしまったものです」

 

「他にも詰めないといけない事はいくらでもありますから。朝武長男の呪詛は当然として、わからないのはレナさんの「姉君様」扱いです。他のお話も全部紐付けないと解決にならないのかもしれません」

 

目で見えているものが印象深く、かつ核心的な要素を担っているのは事実だと思いますが。

 

 

 

「叢雨丸が下賜された経緯」「妖の女」「巫女姫の寿命の裏側」「最後の玉石の行方」。

そして「名を失われた土地神様」、極めつけは「黄泉の門」――あちら側への入り口。

 

 

 

茉子に話を聞いた限り、武者の侍にも勢力があると。

まさか怨霊が同士討ちを始めたとは思いませんでした。つまり仲間じゃなくて敵って事ですよね。

 

最後の玉石の行方に関しては――茉子の印象が正しければ。

 

「茉子、最後の欠片はマヨイガの大変そうな扉の向こう側なんだった?」

 

「そうですね。犬神もそれらしい事を言っていましたし、見た目からしてヤバそうな扉でした。なにより絶対霊がその扉から出てきましたからね。お昼のお話も集約するならば、あの扉の向こう側に瘴気の大元――「黄泉の門」があるのかと」

 

『そんな所に最後の玉石の欠片があるとはな。犬神ですら感知できて居らなんだのは、花守の儀による封印が作用しておったせいかもしれん。偶々転がり込むとは考えられんから恐らく人為的なものだ。その欠片すら封印の一部を成しておる可能性もある』

 

「なんにしても、そこまで行く事は確定なんだよね……朝武長男の呪詛が斬れるんだったら、ヤバめの怨霊だったら叢雨丸も効果があるのかな?」

 

「失敗したら有地さんは怨霊の仲間入りですよ。今のワタシ的には都合が良かったりもしますけど」

 

「冗談に聞こえねえのが怖え……」

 

鏡石(かがみいし)なる物があれば防御は可能なようですけど、それに頼ればいい話じゃないですよね。

 

『吾輩の力がどの程度使えるかもあるしな。お主らが叢雨丸を「水」の信仰象徴と認識してくれたおかげで力は戻ったようだし、通用するのだとしたら強力な攻撃手段だ。たらればで終わらせるには正直惜しい。ここまで来たらビビっておれん、一番引き込まれやすいのは吾輩だしな』

 

ムラサメ様の正体が花守の儀の「花」、叢雨丸が「水」と判明した事でムラサメ様はかなりお力を取り戻されたらしく、穂織の浮遊霊が見えなくなったとの事。一安心です。

解釈が合っているかは分かりませんけど、ムラサメ様への分かりやすい信仰の形になりました。

 

とはいえ、叢雨丸の力が普通の怨霊に通用しない事は犬神が断言しています。

強力な怨霊にしか効果がない。それを有地さんに試して頂くなんて事は憚られる事です。

 

 

 

「ごめんください」

 

 

 

ん? このお声は?

 

「いらっしゃ……あら、深雪(みゆき)さん。今日もありがとうございます。鏡宮さんもいらっしゃいませ。こうして見ると、やっぱり鏡宮さんと雪さんって結構似ていらっしゃいますね? 深雪さんとも」

 

「他人の空似もあったものですね。ですが私と井山さんは本当に親類関係ではありませんよ。二人よろしいですか?」

 

「はい、テーブル席でよろしいですか?」

 

有地さんから目配せが入る。言いたい事は分かります。

 

「芦花姉、もしよかったらこっちに案内してもらえないかな?」

 

「……ああ、有地さん。朝武さんと常陸さんもいらしていたんですか。では、よろしければ一緒に卓につかせてもらいます」

 

「かしこまりました、すぐにお茶をお持ちします。まー坊、アナタ鏡宮さんとも知り合いなの?」

 

「不来方さんのお店経由でね。ここ数日のお話だよ」

 

なかなかアドリブが効きますね、有地さん。間違ってはいないんですが。

深紅さんはメニューを……見る必要ありませんよね。多分全部ですから。

深紅さんの偽名は「深雪」さんと仰られるんですか。色を真逆にされた感じかな?

親戚で雪と深雪ならあり得そうだし。

 

さて、私たちは座席を移動してっと。

 

「今日はお二人で行動されていたと伺いましたが?」

 

「ええ。深紅さんの才能を十全に発揮して頂くべく、穂織の外を回っていました」

 

『助かる話だ。我々は外を知らなさすぎるでな』

 

「ムラサメさんは……なんだか気配が変わられましたか? 昨日と別人とは言わずとも、在り方が変わられたような」

 

『ああ、そういう事もあるかもしれんの。後で話そう』

 

「先にワタシたちのお話をさせてもらいましょう。ご調査いただいた事に関連している事もあるかもしれませんから」

 

深紅さんの才能? 色々摩訶不思議な事もあれば、一部はその正体も判明しましたけど。

今日のご予定までは伺っていなかった。何をして頂いていたんでしょう。

こっちであった事もお話しないといけませんね。私は現場に行ってないから、茉子お願いね。

 

 

 

「御神刀を通じた水の信仰、ムラサメさんのお身体、駒川先生のご先祖様と絶対霊に花守の儀という秘祭……なかなかに盛りだくさんだったんですね。叢雨丸の銘が「水」を示しているという考えは盲点でした」

 

『その辺りは皆そうだったぞ。ご主人のげーむ知識もなかなか有用なものだ』

 

「深羽さんも言ってたけど、あれらってホントに元ネタがあるんだなって思うよ」

 

「深羽が「(さい)」を使っただなんて……」

 

結構な情報量だったと思いますけど、さらりと理解されるあたり流石アシスタントのプロのお二人ですね。深紅さんも黒澤怜さんの元助手でしたか。

そんな深紅さんは深羽さんが強化レンズを使われた事実に衝撃を受けているご様子。

茉子から聞いた限りでは、暴れられないストレスが溜まっていたっぽいですけど……。

 

さて、今度はお二人が調べてきてくださった事について伺いましょう。

 

「私と鏡宮さんで「妖の女」のお話の裏取りと、この周辺の土地での伝承調査をしていました。深羽にお願いされまして」

 

「裏取り……穂織の外でですか?」

 

「妖の女のお話は駒川先生から伺われていますか? 昨日挙がった通りなら、穂織だけでなく諸国を巡っていた可能性があります。という事は、戦国中に同じようなお話が上がっていれば実在も目的も分かるかと思いまして。深紅さんに走っていただいて、各地を回っていたんです」

 

じゃあ深紅さんの才能とは……あの運転技術の事ですか? 鏡宮さんは平気なんですね?

 

「そういうのを調べるのって結構大変じゃないですか? ネットとかならともかく半日でなんて」

 

「それがですね。深紅さんに同行させてもらうのは初めてではないんですけど、信じられないくらい効率的なんですよ。直感の下に一発で大当たりを引かれますから」

 

「私は足を使った調査には慣れていまして。写真一枚あればその人を捜す事も出来ます……けど、インターネットを使おうとすると変なページに飛ばされたりでして。あ、馬庭さんすみません。毎回申し訳ないんですけど通しでお願いできますか?」

 

「はい! かしこまりました!」

 

そっちの才能でしたか、大変失礼を。体質は相変わらずのようですが。中身は聞いちゃいけない。

 

写真から人捜しって……それは「影見」じゃないんですよね?

今朝から出られていたのなら、数時間で調べられた事になります。探偵もびっくりです。

 

そして案の定の注文方法ですね。馬庭さんも慣れたもの。

 

「それで結論なんですけど……実在していますね。しかも知っている事でした」

 

「深紅さんがご存じだった、んですか?」

 

そこに繋がりがあるとは思いませんでした。

深紅さんはなんだか複雑そうな表情をされていますが?

 

「私が初めて射影機を使ったのは、ある土地で行方不明になった方を捜すためだったんですけど。どうもその土地とも関係があったみたいです」

 

「そこだけでなく、深紅さんが黒澤怜さんのアシスタント時代に入られた建物も繋がりがあるようでした。それから天倉さんの姪の方々が関与された、今はダムの底に沈んでしまったという土地にも関係がありそうです。早い話、何れも「黄泉の門の封印」を行っていた場所になります」

 

『そんな縁が……』

 

深紅さんたちの過去と穂織の伝説に繋がりがあっただなんて。

つまり。

 

「その「妖の女」の方が、「黄泉の門」の存在をその土地の方にお知らせして」

 

「それ用の建物を作ってそれぞれの方法で閉じてたと。武実乃山のマヨイガもそのための物って事かな」

 

「物理的に門を塞いでしまえば迷い込む人は居なくなりますからね。書籍が大量にあった事を考えると、放生さんの予想通り門を閉じるための研究機関として機能していた可能性もあります。しかしまあ、どんな人がそんな事実をご存じだったんでしょうね?」

 

みづはさんも仰っていましたね。穂織のマヨイガは戦国時代の研究者の屋敷っぽいと。

当時の朝武家の陰陽師だった駒川磯良さんが、「妖の女」なる謎の人物から「黄泉の門」的な存在の話を伺って、マヨイガを建ててその封印方法を考えると同時に物理的に迷い込む事を防いだ。

これが一番しっくりきます。

 

「詳細まではさすがに。ですが」

 

「推定の段階ですが、その人らしき人物の「姓」は分かりまして」

 

そこで、深紅さんは一呼吸置かれて。

 

 

 

「――「くろさわ」、というようです」

 

 

 

まさか。

 

「黒澤……密花さんのご先祖であると?」

 

「いえ、黒澤怜さんの方かもしれません。いずれにせよ偶然にしては……」

 

「そこまでは分かりません。黒澤という苗字自体は特別珍しいものではありませんから。ですけれど私の先祖の姓も「黒澤」ですし、深羽から伺っているそうですが今の日上山の本柱を担われている方も称号に近いようですが「黒澤」さんになります。不思議な縁です」

 

更にビックリの新情報。

 

「深紅さんは元々「黒澤」姓だったんですか?」

 

「母方の曾祖母が「黒澤八重(やえ)」と言います。曾祖父が「宗方(むなかた)良蔵(りょうぞう)」と言いまして、これが深羽の芸名の元ですね。その娘で私の祖母に当たる「宗方美琴(みこと)」が雛咲の養子になりまして、それが今の私達の姓です。怜さんや密花さんとの親戚関係は、今の所はなさそうなんですけれど」

 

偶然の一言では片づけられなさそうです。

とはいえ、今考えるべきなのは。

 

『まあ名については置いておいてだ。その地には実際に「黄泉の門」があったというのか?』

 

「そうですね。一つは実際に目で見ていますから間違いありません」

 

どんな生活をされていたんです?

 

「それはまたすごい経験ですね……常陸さんが見たのはやっぱ違う感じ?」

 

「黄泉への直通ではなさそうでしたね。そこに至っているであろう扉だと思います。ヤバさ満載でしたよ? 呪いのオーラ全開でしたから」

 

「じゃあ間違いなく穂織にも門があって、謎の黒澤さんが存在を駒川磯良さんに知らされた可能性が高い、と」

 

「そうですね。ただ穂織に関してはちょっと違ったところがありまして」

 

鏡宮さんはそこに一つの追加事項が在るようで。

違い? 違いというと……。

 

「犬神のように、直接あちら側に関係していない異形がいる事ですか?」

 

「それもそうなんですけど、気になるのは出入口が二つある可能性がある事です」

 

そうだった。「封」の字は二か所。

一つはあのマヨイガで間違いなさそうだけど、もう一つは……。

 

「……やはり武実神社が、もう一つの入り口であると?」

 

「確証は誰も持てていません。武実神社は綺麗すぎますから。今朝発見されたと伺ったムラサメさんのお身体や叢雨丸、意識が散逸しているとはいえ実在が確定している土地神の存在が関与した結果、かなり強固な封印を成しているとは考えられるそうですけど。武実神社を封印の拠点として、マヨイガの封印を構築していた可能性も考えられます。神社周辺にそれらしい入口って見つかっていないんですよね?」

 

「ワタシにはまったく覚えがないですね。芳乃様、聖域はいかがだったんですか?」

 

「時間が止まっているような感覚はあったけど、それっぽいものも瘴気らしい負の気配も全く。隠し通路とかも無いと思うわ」

 

「仮に汚染されてたら聖域じゃなくなってそうだし、ムラサメちゃんの身体も無事じゃないよね」

 

『そうであろうな、ありがたい事だ。勿論吾輩も覚えがない』

 

可能性は高そうだけど、それらしいものは見つかっていない。

武実神社の傍にもマヨイガのように普段は見えないナニカがあるんでしょうか。

 

 

 

「お待たせしましたー!」

 

 

 

と、馬庭さんが注文した品の一部を持ってきてくださいました。相変わらずすごい量。

でも商品を持つ腕は以前より安定しています。

 

『腕っぷしが鍛えられておるな』

 

「ありがとうございます、馬庭さん」

 

「いえいえ、こちらこそ毎度ありがとうございます……私用で申し訳ないんですけど、夕莉さんはお元気でしょうか? 神社の方にお世話になられているという事ですけど……」

 

あ、それはごめんなさい。100%ウチのせいです。お世話になっているのはこっちですね。

 

「お元気ですからご安心ください。張り紙通り、武実神社へ出張頂いているだけですので」

 

「という事は探し物のお願いですか? すごい的中率ですからね」

 

えっ?

 

「芦花姉は不来方さんの「その辺」を知ってるの?」

 

「え? うん。アタシも失くしものを探してもらった事はあったから。小春ちゃんの事があった時は、物に限らないんだあとは思ったけどね。一番驚いたのは夕莉さんの年齢よ、まー坊も知ってるわよね? 一緒にお酒飲もうと思って念のために確認したら、同じくらいだと思ってたのにあの美貌で一回り近く上だったなんて……何をしたらあのハリとツヤを維持出来るんだろう」

 

そうか。馬庭さんは小春さんの神隠しの当事者でもあるんですよね。

影見について知らなくても、物探しに詳しい事は御存じでも不思議じゃない。

 

年齢は……そうですよね。私の向かい側にお座りの方の(ダブルスコア超え)にはもっと驚くでしょうけど。

 

「夕莉さんは結構身体を動かしていますよ? 自転車は昔から乗っていますし、登山もされますから。馬庭さんも如何ですか?」

 

「ここの経営だけで手いっぱいですねえ、社長がもう少し金銭感覚がマトモだったら時間が取れたかもしれないんですけど。でもそれで若さを維持できるなら一考ですか……」

 

「おい芦花! 何油を売ってやがる! とっとと戻ってこい!」

 

「あ、まずっ。失礼致しました。すぐに次のをお持ちしますね!」

 

厨房から大将さんの声が飛ばれました。職人な感じの印象ですね。

私も舞の練習以外大して運動らしい運動はしていないし、茉子に教わるとおかしな事になりそうだし、何か考えてみないと。

 

 

 

 

 

 

「さて食べながらですけど、もう一つの方のお話もさせてもらって宜しいですか?」

 

何気に深紅さんが食事をされている場面をキチンとみるのは初めてかもしれない。

御年はお父さんより上のはずで気配もしっかり大人なのに、どこか小動物感があります。

 

もうひとつというと――

 

「周辺地域での伝承、ですか?」

 

「そうです。そちらに関しても関係がありそうなお話を手に入れられましたから」

 

周辺地域での伝承と聞くと、どうしても「イヌツキの地」としての暗い話が多い気がしますが……。

 

「皆さんは日本において、供給が十分な鉱物物資が何かご存知ですか?」

 

なんだか鏡宮さんから授業の様な問いを頂きました。社会の勉強ですね。

これは割と有名なお話だったかな?

 

「石灰石でしたか」

 

「正解です、朝武さん。では石灰石で出来ている高級品って分かりますか?」

 

石灰を使った高級品?

そもそも石灰なんて、運動場の白線を引くくらいしか用途が思い浮かばないんですが……。

 

「芳乃様、コンクリートも石灰で出来ていますからね? 白線だけじゃありませんよ?」

 

心を読まないで!

 

「……あー、大理石とかですか」

 

「ピンポンです、有地さん。日本で使われている大理石はほぼ輸入ですけど、国産の大理石もあるにはあるんですよ」

 

それは知らなかったですね。ですが……それが一体?

 

「陽炎山とは別の方角になりますが、武実乃山と同じ山脈に属する山に良質な大理石の産出地があるんです――それも千年ほど前から」

 

「つまり……隣町って事ですか?」

 

まさかそんな近くに、そんな場所があっただなんて。

 

千年前。穂織については歴史が分かりませんね、記録があるかどうかも。

平安後期から鎌倉に至るくらいの時期から、それほど長く大理石が採れる土地があったとは。

 

「芳乃様と婚姻されたい方の中には、穂織の開発だけでなく資源の利権的なものをお考えの人もいるのかもしれませんね……しかし、そのお話が伝承とどう繋がるので?」

 

「そこが深紅さんのすごい所ですね――「惹かれるものがある」の一言ですから」

 

「山や川の誕生経緯が、神話由来にされているものがあったりするんです。神に蹴とばされて山頂が低くなったとか、涙が川になったとか。その採石場にも同じような空気を感じたもので、近隣の方々に少し取材をさせてもらいました」

 

流石は神話というか、スケールがすごいですね。穂織も戦闘の余波で温泉湧いてますけど。

そこで取材という手に出られるのが、元カメラマン助手の発想というものですか。

 

「まだ内容を纏められていないんですけれど、大まかな流れはこちらを見て頂ければ。多少の差はあれど、本筋と結末はどこも同じのようです」

 

鏡宮さんが手帳を私たちに見せてくださいました。

綺麗な字ですね。お話を伺いながらのメモでしょうに、私のノートより読みやすいかも。

ええっと。

 

 

 

この地域を治める山の神には二人の子がいた。即ち山の娘と山の子である。

二人の続柄は不明確。共通しているのは男女一柱ずつという事。

 

山の子は白い巨体。力が強く、厳格な存在。姿を現す事は稀だった。

山の娘は異色の髪と異相を持ち、人に寄り添う存在。姿を見た者が何人かいた。

 

山の娘は人に寄り添ううち、人間の男と恋に落ちる。

しかしその恋は成就せず、悲しみの果てに山の娘は身を投げてしまう。

経緯は数パターンあるが、この結末は共通。男のその後は多種多様で絞れず。

 

山の娘の亡骸は山に還り、大理石の鉱床に(現場付近は珍しい黄色の大理石の産出地)。

山の子は人間を憎んだが、罰を与える事はなかった。

だが今でも住民を見続けており、禁を犯したものを裁くという。

 

上述の経緯から、この地域の大理石は希少価値が高いものの、産出は厳しく管理されている。

明治時代に穂織への鉄道計画が持ち上がった際には、「神が御座す山に穴を開けるなど以ての外」と一貫して反対の立場を取り続けたとの事。

 

穂織が「イヌツキの地」と呼ばれている事は皆知っているが、「犬憑き」ではなく山の子が遣わした犬によって周辺地域を治めた朝武を中心に見張られている、という認識が強い様子。

 

 

 

「……こんなお話、初めて知ったんですけど?」

 

「ワタシもですよ。穂織から出ていませんし、周辺地域にお住まいの方が穂織に来られる事はないでしょうから必然なのかもしれませんが。鉄道計画すら今朝みづはさんから伺った事です」

 

『吾輩も全く知らなんだな、山の神の御子に関する話が残っておるなど。御山の事を含めても、穂織への評価が普通なのも驚いた』

 

戦国時代の黒澤さんの存在の話もありますけど、知らない話があるものですね。

犬憑きの話以外に、この地方に人と神様の悲恋の伝承があったなんて。

 

「人と神の恋って海外はザラですけど日本でって……これってそのくらい古そうなんですか?」

 

「残念ながらそこまでは分かりませんでした。ただ、多分ですけどそこまで古くないのではないかと思います」

 

有地さんが言う日本神話の恋愛というと……なんだっけ、ワダツミ神関係?

だけど鏡宮さんが考えるには違うと。

 

「現代の言葉に変換されているだけの可能性もありますけど、キーになっているのは山の娘の亡骸は黄色の「大理石」になっているという点です。かなり古めの文献でも必ず「大理石」と書かれているんですよ。瑪瑙(めのう)翡翠(ひすい)といった宝石類も採れる豊かな土地なのに」

 

『それがどうかしたのか?』

 

「……あー、「大理(だいり)」って言葉が千年前の成立だからか。昔の中国の地方国名でしたっけ」

 

「そういう事です。有地さん中々博識ですね」

 

何でご存じなんですか? これもゲーム知識?

ただまあ、今回注目しないといけないとは場所の話ではなくて。

 

「それでは……このお話は古くとも千年ほど前までで成立していた可能性が高いという事ですか? たしか大理石が採られ始めたのも同じような時期なんですよね?」

 

「大まかな指標でしかありませんけどね。ただ神話の時代のお話が現代まで残ったものではなく、実際にそれっぽいお話があったんじゃないかと個人的には思っています。山の神様の娘と子の二人が、神なのか人間として降り立ったのかなど仮定はいくらでも立てられますから。採石されるようになった恵みを、神に例えたのかもしれません」

 

「そこまで追求する必要はなさそうですね……犬神が何も言ってこないのが何だか逆に不気味ですね。寝てるんでしょうか?」

 

たしかに。ムラサメ様が叢雨丸に宿られただけで表に出てきたくらいの犬神様が、ひょっとするとご自身たちも関わっているかもしれないお話に口を出してこない。

深紅さんを警戒されているとかですかね。今は射影機をお持ちじゃないんですが。

 

「それにしても……なぜ深紅さんはそんな場所に感じられるものが?」

 

何かを感じられたという事でしたが、いきなり引き寄せられるような感じなんでしょうか?

だとすれば、深羽さんが過保護気味になられるのも分かる気がします。

 

「そういうのもないわけではないんですが、気になったのは憑代……玉石の事です」

 

『玉石がか?』

 

今は神社の神楽殿に祀っている、水晶のように透明な球体。姉君様の御身。

あれが一体?

 

「掘削現場から、こちらを少し頂いてきました」

 

「これは……水晶ですか?」

 

鏡宮さんがそう仰られて、カバンから小さな袋を取り出される。

その中から出てきたのは――水晶のような、玉石の様な、透明な石の欠片。

 

「「方解石(ほうかいせき)」と言います。恐らくあの玉石を成す物です」

 

『「「「方解石?」」」』

 

有地さんでも分からないものが、私と茉子に分かるわけがない。

鏡宮さんがスマホを操作されて、解説画面を見せてくれた。

 

「大理石の主成分で、水晶に似て無色透明なんです。他の成分や鉱石が混じるとよく知られる白系統の色になるんですね」

 

「知らない事が多いですね。ですが、あの玉石が何故この方解石だと?」

 

私はてっきり水晶なんだと思ってた。茉子の疑問はもっとも。

透明な鉱石と言えばまずは水晶が思いつくし、ガラスと水晶が元は同じ物である事くらいは知っています。なぜそこで別の可能性を?

 

「有地さんに見せて頂いた時の欠片ですけど、既にいくつかの欠片を合わせた後だったんですよね?」

 

「そうですね。ええっと……4、5個くらいだったと思います」

 

「水晶は簡単には細かく砕けないんです。粉砕しようと思うなら余程念入りに潰している事になりますけど、今度は回収できるようなサイズになりません。ですが方解石は比較的簡単に割れるんです。その事実と周辺の資源の関係から、あの玉石はこれだと推定しました」

 

『学者の視点だの。それ程違うものなのか』

 

見ている視点が全然違う……玉石の欠片の大きさからそんな事考えます?

 

「大理石に当たりを付けていたのはそれが理由です。正解かどうかまでは分かりませんでしたが」

 

「ですが、関わりの度合いはともかくワタシたちが全く知らないような伝承があったという事ですね。大変お疲れ様でした」

 

「それが今日の私の役目でしたから。こうして報酬は深羽から貰っていますし」

 

そして――さっきのお話の間にいつの間にか積みあがっている空のお皿。マジックですか?




深雪というのは深紅の母の名です。

説明万歳。お疲れ様でした。
長々書いておいて何なのですが、そこまで重要な要素でもない気がします。

次はやっと夜です。ですがまだまだこの日は終わりません。チャプター5はあと二話。
次回も楽しんで頂けたら嬉しいです。
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