今回もよろしくお願いします。
「う~ん」
『何を悩んでおるのだ、芳乃? 連休中の宿題で分からんところでもあるのか?』
そんな悩みだったらどれだけ気が楽だったんでしょうね……。
「最近判明して、かつ分からない事の整理ですよ。大筋はともかく細かい所は判明していない事も多ければ、何が分かっていないかを把握もしきれていませんから」
『確かにの。前進しておる事は間違いないが、分からん事は山ほどあるからな。りふれっしゅにはいいかもしれん』
朝武家、居間。
神楽舞を奉納して、夕ご飯を頂いて、お風呂にも入って。
お父さんは祝詞の奏上中、有地さんはお風呂、茉子は片付けをしてくれています。
となると、今の私が出来る事ってこのくらい。
玄十郎さんにも書き出しておくといいってアドバイス頂きましたからね。
まず私個人についてはこんな感じでした。
・朝武家の呪い:短命なのは朝武長男義和の呪詛、犬耳は土地神である犬の神の加護の表れ
・祟り神:姉の身体である玉石を集めようとしていた。私たちが山に踏み入ったから交戦
・銀の髪:土地神である「姉君様」の加護を受けている証拠らしい
・射影機を使える:多分お母さんを亡くしているから。あとは家系とか?
・女子しか生まれない:御家断絶の為の朝武長男の呪詛? 断定はできない
・子を生むと呪われる:犬神曰く、呪っているのは長男。早く次代を生む為とは?
・マヨイガに招かれている:可能性の話。他の人かも。小春さんは?
・絶対霊に襲われる:私が「花」に力を与える「姫」だから? 何が出来るでしょう?
・私が自害すれば何かが終わる:長男の呪詛? 怨霊関係?
『巫女姫達への呪詛が犬神のせいでなかったのは衝撃的であったな。寧ろ味方側だったとは』
「そうですね。おまけに私たちが祟り神祓いを行っていなかったら、ひょっとしたら問題は解決していたかもしれなかっただなんて」
意思疎通が出来ませんでしたから分かりようがありませんでしたけど、私たちを襲う事が目的なんじゃなくて、邪魔しに入ってきていたから迎撃されていただけだったとは思わなかった。
基本最初の一体が発生した時点で祓いに向かっていたから、憑代同士が集まる事なく武実乃山に散逸したままだった。
放置しておくと祟り神が強力になるとか山から下りてくるとかのお話は問題ではあるんですけど、手を付けていなければどうなっていたんでしょう。
『だが……まだ分からぬ事もあるな。生まれるのが女子のみというのも、歴代巫女姫が短命であるというのもれっきとした事実だ。これまでは朝武家を滅ぼそうとする呪詛によるものだと思い込んでおったが、犬神が言うには「子を生むまでは呪われない」。世代交代を急がせるための呪いのようだが……女子だけしか生まれん事についてはもう分からん。土地神様の加護があってこの状況だからな』
理由が全く思い当たらないんですよね。
御家断絶を目論まれていたと思っていたのに、「次代を残すまでは呪われない」。
一方で次代を残した巫女姫は「用済み」扱い。多少の差はあれど、最も長命でも50代と伝わっています。時代を加味した場合のお話はありますけど、平均以下なのは確実。加護が強かったか弱かったか、子を生むのが早かったか遅かったか、そんな所でしょうか。
お母さんの場合は茉子を操ってまでどうこうされようとしていた。
理由は「既に私が生まれていたから」らしいですけど……。
加えて、生まれてくるのは「女子」だけ。
戦国時代において御家を継ぐのは基本「男子」です。
だからてっきりそういう意味での御家断絶を図って「女子」しか生まれない呪いになったと思っていましたが……「朝武の血を繋ぐ事」自体は出来ているんですよね。
そこに何の意味があるんでしょう? まあこれは喫緊の課題ではないですか。
「あの絶対霊――駒川磯良さんの目的が私くさいというのは止めて頂きたいですね……」
『誰だって嫌だぞ、あんな存在に目をつけられるなど。「花」と「水」が必要なのだとするならば、吾輩も対象の可能性が高い。特に今の吾輩は霊体だ、肉体を持たねばがーどのしようがない。人柱になる事は受け入れたが、怨霊の仲間になる事は御免被る』
「これと同じように、ムラサメ様個人に関しては如何ですか?」
『吾輩か? 芳乃達ほど大したものはないであろうが……まあいい機会か。書いてくれるか?』
という事で、ムラサメ様に関する事を書き出してみると。
・人柱の経緯:死の淵にあった自分から進んで人柱になった。多分農民。それ以外は曖昧。
・病態:肺に関する大病。具体的な病名は不明だけど、恐らく結核。当時でいう労咳かな?
・お身体は生きている:「永久花」という不老不死状態になっている。原理は不明
・役割:「叢雨丸の管理者」だけと思っていたけど、実際は「穂織の守りの一角」みたい
・祟り神に襲われない:「姉君様」に護られているからと推定
・蘇生方法:聖域に眠る肉体に取り憑けばよい? 復活した途端に死にそう
「……自分で書いていてなんですけど、最後のってなかなか酷いですね?」
『実際そうなのだから仕方あるまい。咳き込んでばかりで呼吸もままならんかったはずだ。病状が変わっていないのであれば、復活しても即呼吸困難でぽっくり逝くかもしれん。これに関しては駒川の者に力を借りねばどうにもならんだろう。治るかもわからんしな』
「そうですね。ただ今の状況でムラサメ様のお身体を聖域から動かすというのは……」
ムラサメ様のお役目が「叢雨丸」に神力を宿すだけでなく、「花守の儀」という何らかの儀式の核を成している可能性も出て来ています。
聖域にお身体がないといけないのであれば、現状動かすわけにはいきません。
『吾輩の身体については一旦良い。蘇生できるなどとは全く思っておらんかったからな。まずは芳乃達の事だ』
「わかりました。ありがとうございます」
「お疲れ様です。芳乃様、ムラサメ様」
茉子が片付けを終えてこちらに来ました。こっちは何もやってないわよ。
「茉子こそお疲れ様」
「何をされていたんですか? 宿題ですか?」
「そこまで能天気になれればよかったのだけれどね……」
『芳乃的な今までの整理だ。新事実や不明点が多すぎるからな、一旦明文化するというのは頭の整理に役立つだろう。茉子も書き出してみたらどうだ?』
「…………たしかに、新事実というかなんというかですからね」
茉子は一番ショックが大きいものね。
という事で、茉子について書き出してみると。
・常陸家の血筋:うちと違って男子も生まれるし短命でもない。つまり呪詛にはかかっていない
・犬神の半身:朝武義和の直系だから。義和の呪詛を含む犬神とよく馴染む? 尻尾も使える
・犬化:犬神の能力? すごく可愛らしかったですけど。白い子犬だった
・神隠しの時の行動:朝武義和に操られていた可能性が濃厚。常世にいたせいみたい
・絶対霊からの優先度:少なくとも私よりは低い。花守の儀には無関係?
「数こそお二人より少ないですけど、わりと内容がヒドいですね」
「まあねえ……」
『まさか茉子にも獣耳が生えるとは思わんかったからな。てっきり玉石を憑代としてのみ顕現できるのだと思っておったが、呪詛を縁に身体そのものに憑りつけるなど』
結構ショッキングな内容です。その行動の結果もショッキングでした――女として。
「ワタシに関しては直接犬神に話を聞くのが早いでしょう。細かい理由はあるでしょうけれど、嘘をついている感じではなさそうです。それと、犬神にとってワタシは「
そう言って、茉子がスマホの画面を見せてくれました。
これは「犬の神」としてではなく「犬神」としての家来の俗称なんですね。
『調べておったのか?』
「自分の事ですから、調べられる範囲では調べておこうかと。それと……こんなのも」
次に茉子が見せてくれたのは……これって。
「犬神の、
「そうです。発音だけだと分かりにくかったですから、漢字に当て嵌めるとどうかと思いまして。犬神側からも何も言われていませんので遠からずだとは思います」
――
これが、穂織の土地神様の一柱の御名。
『武実乃山そのものが御神体。白い大きな身体の山の子、茉子の犬化の姿、言い回しを聞く限り男神。狛犬の「狛」、か。大体合っておりそうだな。つまり本来は白い体躯の山犬なのか』
あの黒紫色のヘドロ状の身体に赤い目からは想像もできませんけどね。
しかしこうして神の名と思わしきものが判明したとなると、
「呼び方を変えた方が良いんでしょうか?」
「ワタシたち人間が軽々しく口にするなと言っていますから大丈夫じゃないですか? あの時は相手が深羽さんだったからの可能性もありますが」
『吾輩達の為とはいえ、神相手に相当色々やってくれておるからな。ただの人間が神をも縛れるほどの力を持っておるというのが未だ信じられんが。詮索はせん方が良いのだろうが、何者なのだろうな?』
犬神の言葉を聞いた限り、特別な存在ではあるみたいなんですよね。特大の地雷のようですが。
「『禁忌の夜泉子だ』」
うわ出た。
「いきなり出て来ないで下さい。別に聞いてません『貴様ら人間共の罪を教えてやろうというのだ。口を慎め』もう……」
茉子はややこしいですね……当人である深羽さんが居らっしゃらないこの場で犬神から聞くのもどうかと思います。
なんかノリノリ。コレ、多分犬神的な嫌がらせですよね。深羽さん相手には色々ありますから。
「『アレは現世の母胎に隠世の魂を降ろした存在だ。人間で言うなら「生者」と「死者」の間に生まれた禁忌の子よ』……なんか深羽さんからそれらしい事は聞きましたね。「お父さんはこの世に存在しない」と」
「そうだったわね。一種の比喩表現だと思っていたけど、そのままの意味だと?」
「『黄泉に下った魂を、輪廻を介さず穢れに塗れた「夜泉」のまま母胎に直接宿す。故に夜泉子は黄泉の力を強く引き継ぐ。人間の分際で永遠を成そうなどとした果て、罪の形そのものだ』」
『……成程、雛咲娘は存在自体が半分あちら側になっておるのか。それが自然体だから極めて強力な霊力もあれば、あちら側に侵される事もない』
輪廻転生の考え方。仏教的な考え方だからそこまで詳しくはないですが……。
亡くなった方の魂は一度浄化され、再び転生してくる。ざっくりこれでいいですよね?
この流れに乗らない出生とは一体?
「『あの娘の存在自体が罪なれば、その行為も罪。夜泉に塗れた母胎は代価として魂を侵され、禁忌の代償として輪廻の輪に乗らず消え去るのみ。が、あの娘に魂を現世に縛り付けられ未だに生きている。よくぞそこまで罪を重ねられるものだ』つまり深紅さんは、本来は既にご存命でない状態だと?『もしあの娘が母胎の魂を縛っていなければ、日中に我と器を縛るのも容易かっただろうな。呪い子め』」
恐らくなんですけど、深紅さんも「永久花」みたいな存在なんですよね。お若いのは副作用。
元々既に寿命を使い果たされているはずだけれど、「永久花」になった事で生き延びれていた。
それを深羽さんに救出された後、深羽さんに魂を縛られて黄泉に連れていかれずに済んでいると。
深羽さんの「縛」については、ムラサメ様はおろか犬神すら縛れている事をこの目で見ています。
なんとまあ。
「『元は神の気紛れ、神と人との間に子を生すもの。これを、人間共の間だけで強力な柱を立てるために隠世の力を現世に暴いた産物だ。あの射影機などと言う道具のようによくぞそこまで罪を重ねられるものだ』神様だって人間に直接干渉していいんですか? 海外において人に火を与えた神は相当ひどい目に遭ったと記憶していますが。貴方も神なんでしょう? ワタシの身体を乗っ取らないでください」
おお、茉子のあたりが結構強い。それなりに慣れてきているみたいですね。
「『……許されぬ、それは我らとて同義。それが許されるのは裁く神すらおらぬ存在のみ。我は既に畜生に堕ちた。姉君は御隠れになった――そこの銀髪の娘共を生かすためにな』はい?」
え?
「ちょっと待ってください。では姉君様は朝武家に加護を与えられたがために御名を失われたと?」
「『ほう? そこは理解しているか』」
『……一つは御身の下賜、叢雨丸を穂織の民に授けられた事。もう一つは朝武家を守るための何らかの加護を与えられた。少なくとも二度、穂織の民の為に禁忌に踏み込まれているのか』
そんな。
土地神様が名を失われる原因が、私たち「巫女姫」にあっただなんて。
朝武義和の呪詛に抵抗するために、神としての在り方を失くされてまでお力を授けて下さった?
それじゃあ……。
「以前貴方が仰った「私が自害すればいい」とは、巫女姫がいなくなれば姉君様のお力が戻ると?」
「『それで姉君がお戻りになるなら貴様なぞ即刻噛み砕いている』うわあ……」
あっさり否定された。さらりと殺されていそうなのはゾッとします。
一応姉君様のお力を頂いている存在なんですよね? 私たちって。そんなサクッと。
『……姉君様が御名を失われた事は罰の結果。既にそう決められたもので、戻せば償えるものでも許されるものでもないのだよ。それでお主が命を捨てれば文字通り無駄死にだ、芳乃』
やはり理由は教えてもらえないようですが……ムラサメ様曰くそうではない、と。
ならばやはり呪詛か怨霊関係なんでしょうか?
「ふぅ~いいお湯だった……ええぇ、常陸さんから犬耳が生えてる。犬神モードなの?」
有地さんがお風呂から上がっていらっしゃいました。
犬神的に「罪人」である有地さんが同席されるのはどうなんでしょう?
……って、あれ? 茉子から獣耳が消えた。
『ご主人は相当犬神に嫌われておるらしいな。話していて愉快な存在ではないようだ』
「風呂出て来ていきなりそんな事言われんのはどうなの? 普通に犬神と話が出来てた感じ?」
「まあそうですね。犬神的に愉快なお話だったようで、いくつかお話が聞けました」
「そんなお話だったのであまり公言出来ないんですよ。申し訳ないんですけど有地さんにお話しできるのは後の事になりそうです。ワタシたちとしても聞いてよかったお話ではなさそうでしたから」
「なんか気になるけど……取り敢えず了解。俺に関する事じゃないみたいだし」
そうですね。雛咲さん親子、そして武実神社関係になります。
問題なのは――前者に関しては特大の爆弾なんだろうという事ですが。
「最近の出来事に関して私たちそれぞれで分かった事、分からない事を整理してみているんです。有地さんもよろしければいかがですか?」
「こっちからお願いするよ。たまたま刀を折っただけだと思ったら、実は色々関わってたとかだらけで「俺ってなんなの?」状態だから」
という事で、有地さんについて書き出してみると。
・叢雨丸の使い手:玉石を身に宿している。最初の使い手であるっぽい「鞍馬家」の末裔
・ムラサメ様に触れられる:玉石を身に宿している。神力と同じ力持ち
・「罪人」扱い:姉君様を狂わせた、とは? どうも先祖のお話っぽい。「鞍馬家」関係?
・有地さんの中の呪詛:祟り神に関わったから?
・小春さんの神隠し:有地さんが目的だったりする?
・怨霊に襲われる?:現時点では不明
有地さんも数がある上に、私よりも不明な点が多いかもしれません。
犬神にも怨霊にも直接は関わっていなさそうなんですが。
「「俺」個人と見るより、「玉石を身に取り込んだ鞍馬家の末裔」的な意味がどれもありそうだよね。罪人の件は特に。小春の件は俺と関係あるのかな?」
『言い方が悪いかもしれんがそうだな。玉石を飲み込んだのが廉太郎であったなら、ここに居ったのは廉太郎だったかもしれん……なんだか身体中を弄られていそうだのう』
「あいつ
『ガルルルルルル……フン! 神罰だ! 全くでりかしーぜろだの、ご主人は』
もうこれはそういう物なんですよね。わざとではなく天然であると。
「仮に鞍馬君が使い手になっていて、ムラサメ様に狼藉を働かれようとしていたら……玄十郎さんが文字通り鬼になっているかと思いますからそれは大丈夫だと思いますけれど」
「有地さんはもう少し表現方法を学んでください。いつか深羽さんから口撃を受けますよ」
「それは……死にそう。そんなに俺の言い方ってマズそうなの? コスプレ関連は不来方さんとか深羽さんとも一致してたし」
『「奇抜で破廉恥なこすぷれ巫女装束を来たペッタン幼刀」という表現が適切だとでも? この怨みは死ぬまで忘れん。毎晩「不○」だの「ヘタレ」だの耳元で囁き続けて欲しいか?』
「……了解。そういう気分であると」
一言一句覚えていらっしゃいますね。これは根深そうです。
有地さんも逆の立場になるとご理解されるようで。
「それと……俺の中にも呪詛があるって話か。玉石も呪詛に関係しているからなのかな?」
『可能性はなくはないが……恐らく別件だ。駒川の者の診療所に祟り神が現れた時の事を覚えておるか?』
初めて幽霊に遭遇した数日前の事ですね。
みづはさんが玉石の欠片が何なのかを解析しようと傷つけた結果、祟り神が出現した出来事。
アレで茉子は肩を負傷、有地さんはムラサメ様に神力を流し込んで頂いて無理矢理強化したような状態で戦闘され、最終的に退治されました。
「ワタシは気絶してしまっていて顛末を詳細には知らないのですが、何があったので?」
思い出せ思い出せ思い出せ。私もあの場に居た。
確かあの時のお話は。
「有地さんから神力を抜かれた後、有地さんにとっては「腕が黒く侵された」ような、と?」
「そうだね。右腕が真っ黒になったように見えて、そのまま意識も飲まれるみたいに気絶して。翌日は金縛りにもあったんだっけ。怨霊騒ぎ以降は見てないから忘れてたよ」
『恐らくだがその時だ。穂織から離れておる間、ご主人がそういった経験をしておらんのであれば穂織に来た後に原因があろう。あの祟り神退治の際、朝武義和の呪詛をご主人も浴びたのだ。尤もご主人は呪詛を向けられる対象ではないから、茉子と同じく芳乃や歴代巫女姫達のような呪われ方をしておらんのだろう。取り除き方がわからぬがな』
「となると……冗談抜きで叢雨丸を俺の魂にぶっ刺さなきゃいけなくなる気がしてきた」
『冗談であって欲しいぞ。魂が欠損すれば寿命が減るのは確実。ご主人がご主人でなくなる事もあり得る。加えて使い手はご主人しかおらんのだから自刃になる、狙いは極めて難しい。ご主人に何かあってからでは実行自体不可能。他の手を考える方がまだ現実的だろう』
まるで謎かけのようですね。結局本人にしかどうする事も出来ないだなんて。
これは不来方さんたちにご相談しても難しいでしょうか。怨霊関係ではありませんからね。
「おや、皆集まっていたのかい? 丁度よかったよ」
お父さんが祈祷から戻って来た。もうそんなに時間が経ってましたか。
「お疲れ様です、安晴様」
「お疲れ様、お父さん。丁度よかったって……私たちにお話?」
「正確には将臣君になるかな? さっき犬神様から神託があってね、「御身を返還せよ」との事だったよ。今の状況は犬神様もご存じだし、僕も時間がかかる旨はお伝えしている。その中でのご神託だったから気になってね。何か思い当たる事はないかい?」
このタイミングで、有地さんの玉石の欠片を祀ってある本体に戻せ、と?
「実は俺が来るまで朝武さんと常陸さんは犬神と話をしていたらしいです。俺が来た途端引っ込んじゃったんですけど」
「有地さんのお話は出ていませんから……さっきまでの話を聞いた上でお父さんに伝えた?」
だとしたらめんどくさ過ぎませんか? あの犬神。呪詛どうこうじゃなくて性格的に。
『今ご主人が仮に玉石を姉君様に返還された場合……正しく叢雨丸の使い手ではなくなるだろうが、身体には数年を掛けて溜まった神力が宿っておるからすぐに使えなくなったり、吾輩を認識できなくなるという事は無いだろう。本来祓う相手である祟り神は既におらんしな。となると、どこまで怨霊に効果があるかという事だが……』
「叢雨丸自体は穂織の元住人である怨霊には無効、だけど穂織に仇なす朝武義和に近い存在なら使える、だっけ。不来方さんたちが言ってた「鏡石」的な役割でもあるのかな?」
「『阿呆』違うっぽいですね、しかもやっちゃいけないレベルの。この辺忠告してくれるのならいっそ全部喋ってくれません?」
「神様方が僕達に伝えられる内容には限度があるんだよ。八百万の神である日本の神々は、自然の成り行きこそが正しい形。ある神様が手出しをしてしまうと、他の神様の領域に干渉してしまうよね? 一つズレてしまうと、そこから多くのものズレてしまう。神様とて現世の存在を好き放題にされていいわけではないんだ」
「さっきそれらしい話を丁度犬神からされたわ。そう言われてしまうと聞けないわね」
犬神の発言の意図は何なんでしょう?
Prrrrrrrrr……
「うん? 私の……不来方さんから?」
もうそれなりに遅い時間ですけど、お急ぎのご連絡でしょうか。
皆顔を合わせる。とにかく出ましょう。
「もしもし、朝武ですが?」
『不来方です。こんな時間に申し訳ないんですけど、今から志那都荘に来て頂く事は出来ますか?』
不来方さんのお声は……何だか緊迫しているような?
『深羽さんがレナさんの意識の中に入ったまま目覚められなくなって……手を貸してもらえませんか?』