零 ~イヌツキの少女達~   作:もふもふたぬきねこ

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チャプター6開始です。お待たせ致しました。
別作品が完結したので、こちらもぼちぼち進めて参ります。
超ゆっくりの更新になりそうですが……。

本チャプターですが、前半は思いっきり「零」の要素が主体になります。
特に本話についてはキャラ以外「千恋*万花」の要素がほぼありません。

零ってこんな雰囲気なんだ、くらいに見て頂ければ幸いです。

今回もよろしくお願いします。


CHAPTER 6 現世と隠世を別つ場所
52. 『禍津陽(マガツヒ)』に染まる夢


……?

 

もう夢の中に入っているの?

意識が出来ているというなら、覚醒している感じなのよね?

 

「まこー? ムラサメさまー? 有地さーん? 不来方さ~ん?」

 

音にはなったけど、聞いている人はいないみたい。私しか居ないの?

みんな、別のどこかにいる? まだ起きてない?

 

「ここは一体?」

 

気付いた時には真っ暗だったと思うけど、だんだん明るくなってきたような。

ぼんやりと見える景色は、なんだか赤い……道路? トンネル? 誰の夢なんでしょう?

 

自分の手を見ようとして、視線が下に向いて。

 

 

 

「うっ……!?」

 

 

 

なに、この光景は。

 

 

 

気味が悪いくらい、真っ赤な夕陽に照らされた「現場」。

 

事故? まるで人が、人形のように。

私を除いて何十人と地面に倒れてしまっている。

誰一人、ピクリとも動かない。仰向けになっている人の目には、なにも映されていない。

 

みんな、いきていない。

 

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ…………」

 

息が荒くなってきた。胃液が逆流する。吐きそう。

頭が理解を拒む。こんなもの、すぐに飲み込めるわけがない。していいはずがない。

 

……冷静になりなさい。落ち着きなさい。これは夢なのよ、芳乃。

 

「すぅーーはぁーー……すぅーーはぁ~~~……これは一体、誰の? こんな……」

 

私にとっては夢だけど、誰かにとっては現実だったはず。目を背けちゃいけない。

誰かが実際にこの光景に遭遇しているという事になる。ニュースの中の現実はこうなんだ。

レナさんか深羽さんのどちらか、或いは姉君様。見た感じは現代日本のようだから深羽さん?

 

周辺に視線が向く。

 

すぐそばには最近見ない電話ボックス。あまりに無機質で不自然で、気持ち悪さを助長する。

そして、道路の先にはぼやけていても判別できていたトンネル。

その上部に記されていた文字は。

 

「――日上(ひかみ)トンネル?」

 

じゃあ、ここは日上山? でもこれは深羽さんの記憶のはずで?

今の私の格好は白系統の……セーラー服というやつですか? やっぱり深羽さん?

でも深羽さんは日上山のご出身ではないというお話。

 

日上山にお住まいで、学生服を着ていておかしくない……まさか。

 

「この夢は……不来方さんの、なんですか?」

 

「日上トンネル」という単語もどこかで見た記憶がある。

えっと……あれだ、ネットの記事。

 

たくさんの方が亡くなったという、トンネル工事中の崩落事故。

 

キチンといつかは覚えてないけど、たしか2000年代だった。ざっくり十数年前。

不来方さんが学生でも辻褄は合う。崩落から命からがら逃げだして、だけど力尽きた……?

じゃあ、不来方さんは日上山にお住いの際にこんな現場に居合わせたと? その生き残り?

 

これが……不来方さんが「あちら側」に近づいた時、なのかしら。

 

 

 

視界の端で何かが動いた。

 

 

 

「っ誰か生きて――」

 

身体はその場から動かせなかった。

だって夢なんだもの。「朝武芳乃」の身体じゃないんだから。これは「不来方夕莉」の身体。

今までの「私」の声は、「朝武芳乃」にしか聞こえていない心の声。

 

だから、どんな光景でも自分からは目を逸らせない。夢をなぞるしかない。

 

倒れていた人たちが、ゆっくりとだけど、ムクリと起き出して。

血まみれな黒い顔に虚ろな目で、何を考えているか分からない表情で、「私」の方を向く。

 

 

 

ナンデ オマエハ イキテイルノ?

 

 

 

そんな羨望の様な、嫉妬の様な、怒りの様な呪詛に塗れた声が聞こえた気がして。

彼らが、彼女らが不自然な動作で立ち上がって。

ゆっくりと、徐々に、だけど確実に、こちらに近づいてくる。

 

これは、幽霊じゃない。人だ。「人だった」存在だ。

 

 

 

――ヒヒッ……ニガサナイ。

 

 

 

「……嫌、イヤ……いや…………」

 

ただ一人、怪我をしていない人物が視界の端にいる。

不自然なまでに背の高い白い服の女が笑っている。こちらを嘲笑しているかのような。

こんな状況でなんであなたは笑っていられるの?

 

気持チ悪イ。狂ッテイル。感覚ガオカシクナル。

 

逃げたくても逃げられない。

目を閉じたくても閉じられない。

耳を塞ぎたくても塞げない。

 

「私」ではあるけれど、「朝武芳乃」ではないのだから。

 

 

 

 

 

 

ナンデ オマエダケ シンデ シンデ 死んで 死ん 死死死死死死死  ね

一緒に、落ちましょう。

 

 

 

 

 

 

「いやぁ!!!」

 

間近に迫って来ていたソレらの姿を、手を、声を拒絶するように、右腕だけ動かせた。

その腕の先、右手で握っていたのは――射影機。

 

 

パシャッ

 

 

ボタンを押せとか、除霊しろとか、そんな事を考えたわけじゃない。

ただの反射。だけどシャッターが切られた音が耳に入った。

 

「はあっ……はあっ……こ、今度は、何? 何処なの?」

 

あの現場から私は移動していて、今度は……街中?

さっきの凄惨な現場よりも遥かに日常に近い。お陰で幾分か冷静になれた。

それなりに人通りがある。でも穂織とは明らかに違う。

 

みんな和装じゃない。本来この国では一般的らしいけど、私にとっては違和感でしかない。

 

スーツ姿の男性。スーツ姿の女性。学生蘭服を着た青年。セーラー服を着た少女。

観光客じゃない。なぜなら感情のある顔が一つも視界に入って来ない。何も考えていない。

みんな無表情。さすればのっぺらぼうのようにも見えてくる。

 

日常に喜びも悲しみもない。ただ、同じように日々を義務的に過ごす。感情なんていらない。

 

目の前の建物に視線が向いた。

 

二階建ての和風建築。

これはなんとなく穂織に似ているかもしれないけれど、窓ガラスにはどこか洋風の雰囲気も。

 

扉の上に文字を見つけた。ええっと。

 

「ANTIQUE UN CAFÉ KUROSAWA」

 

ANTIQUE、アンティーク。西洋骨董。

UN CAFÉは……そのままカフェ? つまりアンティーク・カフェ、骨董喫茶。

 

じゃあ、ここが「骨董喫茶・くろさわ」ですか。

 

不来方さんの以前のお勤め先。不来方さんのお師匠さま、黒澤密花さんのお店。

窓から見える店内の雰囲気は、喫茶・こずかたより小物を増やしたような雰囲気。

 

これは不来方さんがお勤めになっていた時の記憶?

だけど……まだ制服だ。白いセーラー服。さっきの光景からそんなに時期は変わらないんだ。

 

周りの建物と比べて、黒澤さんのお店だけ不思議と色があるように見える。

落ち着いて周りを見ると、周りの人たちもそんな風に……見えていればよかった。

 

何で気付いてしまったの。何で分かってしまったの。

 

 

 

赤い夕陽に染まった雑踏の中に、何故か奇妙に馴染んだモ ノ ト ー ン の ソ レがいた。

 

 

 

直視してはだめ。意識してはだめ。目を瞑りなさい。瞑って、瞑って瞑ってつむって!!

 

ソレが、なんとなく「私」に近づいてくるのが分かる。

心臓の音がドクドク鳴っているのが耳に響く。ようやく瞼が閉じられ世界が暗くなる。

 

もうすぐ後ろに来ている。手が伸びてきている。それがよく分かる。ああ、もうダメ……。

 

『来ないで……私には関係ない』

 

最近聞きなれた小声が聞こえた――不来方さんの声だ。知っているトーンよりかなり重い。

実際にそう口にされたのかな。

 

背中からソレの気配が薄くなり、離れていくのが分かる。

ちょっと安心できた。

 

不来方さんも安心されたのか、瞼が開かれ目の前が明るくなった。

 

 

 

「―――――――――――――――」

 

 

 

心臓が止まったかと思った。音にならない絶叫を人生最大の全力で出した。

 

 

 

不自然なまでに両目を見開いて、無表情に叫ぶように。

あんぐり口を開けたモノトーンの女性が、眼前で「私を見ていた」。

 

 

 

雑踏の音が消え、「私」たちが発する音は無く。それでも目の前の光景は変わらない。

 

 

 

『私は治りました。私は治りました。私は治りました。私は治りました――』

 

意識が飛んだのか、気が付いた時にはその女性は居なくなっていた。

壊れたプレーヤーのように、同じ言葉を不来方さんの声が繰り返し発しているだけ。

 

――気付けば目の前に居た、なんて事は何度もありました。

 

これは、そんな一言で終わらせていい出来事じゃないですよ……。

 

 

パシャッ

 

 

女性が消えた安堵か、景色が変わったショックか。再び射影機のシャッターの音。

もういやだ。

 

「…………夕陽が」

 

引き込まれるかのように、真っ赤な夕陽が私の目の前にあった。とってもきれいだ。

でも「私」は気付いている。

 

海なんてテレビ以外で初めて見た。

 

身体の下から響いてくるのは、大きなしぶきの音。まるでこちらを呼んでいるような。

崖の上だ。あと一歩でも踏み込んだら、その先に地面はない。

だけど「私」は誘われていく。過去同じような光景に、まるで情景を抱いたかのように。

 

不来方さんは気付いているの?

 

そんな状況にまったく恐怖を抱かない。寧ろそうなりたいと願っている。

いつも死がそばにある、そんな日常。

だから自分が行くべき先は分かっていて。そこに恐怖があるわけがない。

ただ、それが今なのかを迷い続けている。

 

身体が、前に進もうとする――「朝武芳乃」と共に。

ここで私も前に進めば、今を終わらせられる。もうこの夢を見なくていいかもしれない。

 

 

 

わたしは、ひとりだ

 

 

 

不意に後ろから強い力で抱きしめられた。

 

『ダメよ。許さない』

 

何を許さないの?

この声は誰? 聞き覚えがある声だ。

 

『ダメよ。許さない』

 

今度は知っている声だ。深羽さん。今より少しだけ若いような、ちょっと怒気が混じったような。

じゃあさっきの声は黒澤さんか。

 

『あなたも、勝手に行かないで』

 

何処へ?

分かってる。「あちら側」へ、よね。

 

『あなたはひとりで行こうとしているかもしれない……』

 

ここから先に進む事を、黒澤さんと深羽さんが止めてくれている。

思い出しなさい。私は何をしにここへ来たの?

 

『でも 今は……あなたはひとりじゃない』

 

 

 

レナさんと深羽さんを、起こしに来たんでしょう?

 

 

 

大丈夫、ちゃんと覚えてる。

これは夢。不来方さんの記憶を夢に見ているんだ。

割り切りなさい。これは私にとっての現実じゃない。「あちら側」に行くのは今じゃない。

 

 

 

ふと拘束が緩んで、身体が動かせるようになった。

黒澤さんと深羽さんの姿はない。一人ポツンと、夕陽をバックに崖の上に立っている。

「私」の姿は「朝武芳乃」になっていた。右手は射影機を握っていた。

 

これが……不来方さんが過去に経験された事。

「あちら側」に近づいた時の事。不来方さんが見てきた景色。

 

「ありえないものが見える」という才能の、その現実。その実態。

 

祟り神相手にてんやわんやしていた頃の私を叱りつけたくなってくる。

舐めていた。考えが甘かった。死と隣り合わせの日常、本物はこういうモノだったんだ。

 

だけど、今考えるべきはそこじゃない。今私が居るべき場所はここじゃない。

でも何処へ行けばいいの?

 

――ちゃんと渡して頂いたものがあるじゃない。

 

懐に仕舞った一枚の写真。さっそく使わせてもらう事になるなんて。

日上山最後の本柱、黒澤逢世さんの「弔写真」と言うそうですね。

 

これを左手に、お願いする。祈る。巫女としての自分を総動員する。

 

私のいるべき場所へ。レナさんと深羽さんを助けるため。

どうか私に力を貸してください。




零側を主体にすると全部こんな感じになってしまって、
作者が書き切れなかったので主体側に混ぜたのが「千恋*万花」だった感じです。

次はいるべき場所へ。大体今までの雰囲気に戻ります。気長にお待ちください。
次回も楽しんで頂けたら嬉しいです。
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