どのキャラにも言えますが、何で夜に入ろうとするのか。
今回もよろしくお願いします。
「はっ!?」
「芳乃さん、目が覚めましたか? 夢の中ではあるんですけど」
今度は夜の山の中。結構大きな川の水の音がする。相も変わらず武実乃山ではなさそう。
何であれ、不来方さんが居らっしゃる時点で安心感が段違いです。
小春さんの捜索の時のように水浸しの御姿。ここは現実の状況も反映されるようですね。
さっきまでも夢ではあったはずだけど、現実と区別が付かない。
自覚を保たないとあっという間に囚われてしまいそう。
「ご無事でよかったです、不来方さん……茉子と有地さんたちは?」
「ここにはいらっしゃいませんので、別の場所か、或いは別の夢に居るのかもしれません。芳乃さんはさっきまで何かご覧になっていたんですか? かなりうなされていましたが」
アレについてご本人に申し上げるのは思う所がありますが……正直にお伝えしましょう。
「恐らくですけど……学生時代の不来方さんの記憶、かと」
「それはまあまた。大丈夫でしたか? 気分の良いものではなかったと思いますけれど」
あれほどショッキングな記憶をそんな短文で言い切られてしまえるのがすごい。
不来方さんはアレを実際に体験してきた。恐らく他にもたくさん。私ならとっくに壊れていそう。
「トンネルの近くでたくさんの人と、異常に背の高い女の人と……黒澤さんのお店の前でモノトーンの幽霊と……どこかの崖の上で真っ赤な夕陽に誘われそうになって」
「よりにもよって、という所ですね。慰めになるかは分かりませんが、芳乃さんが最初にご覧になった光景は「ありえないもの」です。私が実際に遭遇した景色ではないですよ」
「あれが……?」
途中までは何処からどう見ても現実と見紛う光景だった。
あれが、「ありえないもの」だった?
「あのトンネルは工事中の崩落事故を皮切りに沢山の方が亡くなっていて、結局工事も中断になって……そういう場所です。亡くなった方が大勢いたのは事実ですが、あの場面が実際にあったわけではないんです。あくまで「私に見えたもの」でしかありません」
「……あの、背の高い女の人は?」
「私にも分かりませんけど、蓮さんのお話では密花さんのお店にも現れた事があるそうです。日上山には関係のない、ですけれど他の怨霊に飲まれないほどの強力な個を持つ正体不明の存在。『八尺様』……都市伝説に語られるものと似ているんだそうで。あまり考えない方が良いかと、憑かれますから」
つまり、不来方さんは普段からあれくらい「ありえないもの」をはっきりと見る事が出来る。
恐らく深羽さんも、深紅さんも。真に射影機を使える方々の大半が共有されている世界。
以前問いかけを頂いた――私たちが突然不来方さんの視界を得たらどうなるか。
その模範回答が、
あの女の人は、穂織の祟り神のように「日上山ではないけれど「あちら側」の存在」という所なんでしょうか。八尺……約240センチ? 確かにそのくらい身長がありそうだった。
有地さんならお詳しいかもしれませんね。
……やめやめ、これ以上考えるのはよそう。多分意味ないし。
「立てますか? まだお疲れでしょうけど先に向かいましょう。恐らくですけど、この夢の先には深羽さんが居らっしゃいます」
「……という事は、やっぱりここは」
「日上山の麓にある「
じゃあ弔写真が私をここに連れてきてくれたんでしょうか?
もし持っていなかったら、私はどこにいたのやらですね。
ここが日上山。初めて見る穂織の外――あまりその例えにしない方が良いでしょうか。
こう申し上げてしまうと失礼ですが、周囲の光景は中々に荒れ果ててしまっています。
傍にある旅館は土砂に飲まれてしまっている。
たしかコレもネットの記事にあった。何十年も前にあった大規模な地滑り。
これがその実態ですか。
「夢の再現が忠実なら、山頂近辺にある「
不来方さんが居らっしゃらなかったら、私も茉子も有地さんも夢の中で遭難してしまっていそうです。ムラサメ様はもっとヒドイかも。
あの夢を見てきた後ではありますけど、私は幸運だったという事なんでしょうか。
♢♢♢
『融 け る』
「大丈夫ですか、芳乃さん」
「まだ……大丈夫です。後で車内で休ませてもらったら十分落ち着くかと」
私が倒れていた「
電車や汽車すらお話で聞いただけか、テレビで少し見た事があるくらい。
ケーブルカーというものも列車の駅を実際に見るのも初めてです。
「実際」と言っていいかはあやしい? 夢ですからね。
そんな事より。
――怨霊が多すぎる!!
二、三分に一回くらい襲われてますよ!? しかも複数人が大半。
どんな霊山ですか? 人外魔境の間違いでしょうコレは。
そりゃあ夜の武実乃山でも平然と入って来られるわけですよ、日上山の皆さんは。
加えて武実乃山の怨霊のようにフラフラ近寄って来るわけじゃない。確実にこちらを目指して歩いてきて、間違いなく「あちら側」に誘おうとしてくる。加えて昔の人では無く「現代の人」と分かる見た目。
中には明らかに「巫女」と思しき存在まで。なぜか目隠しをしているのが異常に不気味。
そのほとんどを不来方さんが相手してくださっていますからよかったものの、私だけだったら逃げるか既に力尽きていそうです。あるいはフィルムを切らしているかも。
夢の中の筈なのに、射影機のフィルムはキチンと消費されていく。不思議と納得できます。
「当時もこんな状況だったんですか?」
「そうですね。私が19の時……11年前の事です。今ほど落ち着いては居なかったかと」
既に私も生まれている。そんな頃にこんな状況が。
恐らく深紅さんは、更に他のご経験もある。
武実乃山も特別なんだとは思いますけど、「特別の中では普通」なのかもしれません。
向こうに何か見えてきた。あれが――
”日上山ケーブルカー 水籠前駅”
「下に降りてきていますね。都合がいいです」
「これがケーブルカー……どうやって動かすんですか?」
当然ですけど、今は運転される方がいらっしゃいませんよね?
まさか怨霊が運転してくれる?
「え? 普通にキーを回してスイッチを押して……」
「不来方さんが動かすんですか!?」
「そうですけれど……?」
ここも、ここも私の常識がおかしかったりする?
茉子を見つけたら聞いてみよう。
ジリリリリリリリリリ……
発車の合図の音なんでしょうベルが鳴り響く――ここって廃道になったのでは?
山の傾斜に合わせて車両の中に階段があるんですね。よく出来ています。
流石に動いている車両の中までは追ってこないでしょう。少しは休憩出来そうです。
「座って休みましょう。何分かはかかりますから」
「わかりました。では……っ!?」
ザザッ
何!? 景色が一瞬ブレた。また誰かの夢に!?
でも前と違って見えている景色が大きく変わったわけじゃない。
座席に座っている不来方さんは、不来方さんだけど……少しだけ今よりお若い?
かなり草臥れていらっしゃるように見える。
『人と違うものがみえるのが怖い?』
!?
今のは誰の声? 私が発したの?
これはまさか。
「深羽さん……?」
今の「私」は深羽さんなの?
怨霊に向かって話される時の、平坦で、冷たい、どこか突き放すような声質。
これが、「何もなかった」頃の深羽さん?
「芳乃さん?」
「えっ……不来方さん、今の不来方さんですか?」
「今も昔も不来方ですけど……何かご覧に?」
現実に戻った、という表現はおかしいはずですけど、今に戻って来たみたい。
先ほどの光景は不来方さんと深羽さんの「記憶」なんでしょうか。一先ず座りましょう。
「さっき私が「深羽さん」になって。不来方さんに「人と違うものが見えるのが怖い?」と」
「……言われましたね。彼岸湖で助けて頂いた帰りでしたか」
じゃあさっきのは本当に過去の深羽さん。あんなだったんだ。
「当時の深羽さんは、誰にでもああいった?」
「その時の深羽さんは私も知り合ってほんの数日でしたね。誰にでもそれに近い感じでした。私は初日に「最低」と言われて……言われても仕方がなかったですね。唯一の例外が深紅さんです」
何もかもを達観するかのような、失望しているような、拒絶しているような。
あなたも私と違うのか――そんな感じの声色だった気がする。
「ですけど、それでも私を助けるために山の上まで来てくださったんです。厳しくはありましたけど、当時から優しい人でしたよ。空っぽの様に振舞われていましたけど、深羽さんも正しく一人の「人」でしたから」
「現に私たちは深羽さんにも散々お世話になっていますけれど……あんなに違っただなんて」
「私の過去をご覧になった芳乃さんならお分かりかと思いますけど、私も似たようなものです。当時は何をするにもビクビクして、鏡で自分の顔を見るのが大嫌いで、密花さんの後をついてばかりで……ある程度変われたのは、この日上山の一件があったからかもしれません」
「何か御心境が? そういえば深羽さんは、深紅さんが一時期「ありえないものが見えなくなった」と仰っていましたが」
「精神的なものはあると思います。私の場合は「見えなくなった」という事は無かったですけど、前向きに捉えられるようになったと思いますよ。私の生を肯定してもらえたおかげで」
少し難しい言い回しですけど、霊感をお持ちになった事を前向きに考えられたんですね。
私は……変われるんでしょうか。
「そろそろ駅に着きますね。芳乃さんは止まるまで座っていてください、揺れますから」
あの時の不来方さんを一言で表すなら、多分ですけど誰にも理解されない「孤独」。
私も自分が巫女姫である事にちょっと似たようなものを感じていますけど、比べられない。
でも今の不来方さんは、マヨイガにマウンテンバイクで突撃されるレベルのアクティブさ。
そして私たちにお力を貸して頂いている。私なんて過去に命を救われている。
「変われるか」じゃなくて、「変わらなきゃ」ですね。
「幽ノ宮前駅」のホームの階段を降りて、舗装されていない道の先。
進行方向を横切るように綺麗な石畳が敷かれています。
「あの参道の先が幽ノ宮です。すぐですよ」
「この日上山の神社の本殿、でいいですか?」
「詳しくないので多分、としか言えないですね。中腹には
日上山の信仰はかなり大きいものだったんですね、奥の院まであるんですか。
穂織の神社は武実神社の本殿のみ。規模もそこまで大きくはないでしょう。
昔はどれだけの人がこの山を上ったんでしょうか。
数人の怨霊の祓って。今更ですけど日上山の怨霊の方々はほぼ現代の服を着られていますね。
明らかに制服やスーツと分かる服装も。武実乃山より現実感がキツイ。
到着した、左右に延びる石畳。
左側は麓から上って来る時の参道ですね。右に続くのが……あれですか。
何処かマヨイガを彷彿とさせる雰囲気の、重厚な感じの門。
ただ……。
門の前にいる、松明と鉈らしきものを持った大柄な男性の怨霊は一体?
「………………最悪。こんなところまで再現しなくていいのに」
不来方さんからげんなり声。こんなセリフを不来方さんから聞くなんて。
「あの怨霊を知っているんですか?」
「日上山の怨霊騒ぎの元凶だと思って下さい」
最悪じゃないですか……見た目の雰囲気からして明らかにヤバそうですけど。
たしか深羽さんがそれらしい事を。え~っと。
「――クソ男? でしたか?」
「芳乃さんがそう口にされるのは止めましょう? 安晴さんに怒られてしまいます。振り切って中に入るのは無理ですね。こんな状況だったから深羽さんも私を拒否されたのかもしれません」
瘴気を浴びる前の絶対霊的な感じなんでしょうか?
とにかく。
「倒さないとダメなんですね?」
「行けますか?」
「行きます。深羽さんを助けないと」
今までずっとお世話になりっぱなしです。今度は私の番と言うだけのお話。
避けるなんて選択はありません。
「……芳乃さんは絶対に直接目を合わさないでください。必ず射影機越しに――こちらの目を潰しにかかってきます」
一体生前に何をやらかした人なんですか……もう。
♢♢♢
『見るな…………その目で儂を見るな…………ワシを見るなぁああ!!!』
「こっちだって射影機越しでも見たくないんですよ!」
「芳乃さんはその調子で撮影を続けてください! 絶対こちらに来ないように!」
不来方さんと放生さんがお持ちの射影機は、怨霊を撮影すると「霊片」を飛ばす。
私には大して除霊の力なんてありません。けれど霊片を出す事はできる。
だから私が霊片を出しつつ、不来方さんが纏めて攻撃をする戦法となりました。
本当なら射影機の得意分野は逆。現実で手に持った射影機が逆だったらよかったのに。
まあ私が連射機能をまともに使えるかという話はあったけれど。
怨霊の攻撃を引き付けるために、不来方さんはあの怨霊を「直接」見ている状態。
それに対してこの怨霊の反応です。ここまで大きな声ではっきり叫ぶ怨霊は初めて見る。
松明で場所を晦ませつつ、鉈で不来方さんの目を抉ろうとするような。
余程トラウマじみたものがあるんでしょうか? 関係ないですけどね!
にしても。
「これ、効いているんですか!?」
「そう思うしかありません!!」
『み゛ぃ゛い゛い゛い゛る゛ぅ゛う゛う゛う゛な゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!』
タフすぎません!?
不来方さんですらこれだけ撮影し続けても弱らないなんて!
このままじゃ不来方さんでも危ない。何か手段が……今なら私でも出来る?
後で叱られそうですけど――出来る事を信じるしかない!!
「ありえないもの」を受け入れろ!
「散ってください!!」
バシャァアン!!
「芳乃さん!?」
『がぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛』
ただ、普通よりたくさん霊片が飛び散るよう祈った。
それだけではあったんですけど上手くいったみたいです。花弁のように一度で5つの霊片。
そして今までファインダーに見えていなかったもの。
左下のスペースに「花」の文字――これが私のハラキリ技!?
「八連!!」
ババババババババシャァアアン!!!!!!!!
怨霊の周りにたくさん浮かんだ霊片を、不来方さんが纏めて捉えられての複眼式の真骨頂。
――怨霊が松明を落とした!!
「やったんですか!?」
「まだ駄目です! 芳乃さん! こちらを見ては――」
倒したと思った歓喜やら安堵やらある種の達成感やら。
そんな物が入り混じって、射影機を下げてしまった。
私の目に映ったのは、落下した松明から引火して、身体全体に燃え移って。
それでもこちらを振り向いた、鉈を持った男の黒く濁った目を持つ顔。
目が合った。
『見るなああああああああああああああ!!!!』
全力疾走で、鉈を振りかぶって、燃えながら、怨みを込めた目で、こっちに向かってくる。
何でここまで冷静に物事を見ていられるんでしょう? 走馬燈のような?
――射影機を構えなさい!!!
どこからかそんな怒声が聞こえた気がして、射影機を怨霊に向けるべく腕が動く。
ギリギリだけど……間に合わない!!
『―――間抜けが』
最初からそうですけど、
カメラでの戦闘ってどう書けばいいんでしょう……。
次回も楽しんで頂けると嬉しいです。