零 ~イヌツキの少女達~   作:もふもふたぬきねこ

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お供(非人間)が増えます。

今回もよろしくお願いします。


54. 『幽ノ宮(カクレノミヤ)』に眠るのは

何かが聞こえた気がして。目の前が一瞬黒紫色に染まって。

私の目の前に迫って来ていた火だるまは消えていました。

 

「芳乃さん!!」

 

生きているみたい。火が消えているって認識しているんですから目も抉られてないんですよね?

 

 

 

じゃあ、この目の前の「祟り神」はなに?

 

 

 

「……えっ祟り神!? なんで!? ここは武実乃山も混じっているんですか!?」

 

日上山に祟り神はいないはず……よね?

なのに、私の目の前には数体の祟り神がいて。

 

火だるまだった鉈男の怨霊に取り憑くように殺到している。

 

レナさんの夢が混じって? いや、私自身の夢? 茉子や有地さんかもしれませんけど。

 

何故(なにゆえ)ここまで鈍いのか』

 

「犬神様の声!?」

 

この状態でも喋れるんですか? しかもなんか酷い事言われてません?

さらに祟り神が怨霊に殺到して、ついに鉈男の姿は完全に見えなくなって。

何だかボコボコし出して。

 

 

 

いつかの、巨大な犬神の姿になった。

あの時はハイテンションで大変でしたけど、改めてやっぱり威圧感が凄い。

 

 

 

「どうやって貴方がこちらに?」

 

『夢は常世へ繋がる。白児が常世に入ったなら我があのような器に留まる必要は無い。この銀髪の娘は姉君の御身を戻す契約を結んでいる、業腹だが手助けせねばならん……この身体の馴染みも妙に良いな。なんだこれは』

 

いつかのハスキー声より何となく周波数があった声に聞こえる。

不来方さんもこちらにいらして。私が言うのはおかしい気がしますけど無事でよかった。

そこはそれでいいんですけど、後回しに出来ない情報が。

 

「茉子もここに居るんですか!?」

 

『一々喧しい。そこの社の中だ。中身に夜泉子の夢が流れ込んで不快極まりなかったから、とっとと切り離した。漸く我の力を僅かにでも使えるようになったかと思って来てみれば……どんな間抜けだ』

 

「常陸さんが幽ノ宮の中に? では深羽さんは……」

 

『他にも柩籠の気配は近くにある。お前なら残影を追えるだろうが、巫女』

 

さっきの射影機の力は犬神様の力の一端だったんですか。

でもそれは後だ。

 

茉子がこの建物の中にいる。深羽さんも近くにいるみたい。

犬神様は気分屋な印象がありますけど、今回は何気に重要な事を教えてくれますね。

契約は「相互協力」なんでしょうか? ありがたいですけど。

 

「……先に常陸さんを助けましょう。芳乃さんが私の記憶を見てお疲れになったように、もし常陸さんが深羽さんの記憶を見ているならかなり心に負荷がかかっています。深羽さんを先に助けてしまうとこの場所も変わってしまうかもしれません。元通りの幽ノ宮なら構造は分かりますから」

 

「わかりました。よろしくお願いします……犬神様も来て頂けるので?」

 

『元のこいつを(けしか)けた方が良いか? 枢木(くるるぎ)恭蔵(きょうぞう)、これも大層な罪人だな』

 

「絶対にやめてください死んでしまいます」

 

なんで協力確認しようとしただけで怨霊をけしかけようとするんですか……。

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

「すごい……」

 

「あの時のまま、か」

 

入口の門の見た目だけなら、武実乃山のマヨイガみたいな雰囲気だった。

でも一歩中に入ってみたら。

 

武実神社より遥かに荘厳な、大量の燈籠に照らされた本殿が。拝殿ではないですよね?

 

外と中で別の世界の様。時が止まっているかのように、劣化している感じがまったくしない。

此処では一体どなたを祀っているの?

 

『器が居るのは地下だ』

 

「地下まであるんですか!?」

 

「では……多分あそこですか。行きましょう、案内します」

 

神社って、どこの神社でも地下があるものなんですか?

穂織では唯一の武実神社ですけど……実はかなり規模が小さいんでしょうか?

 

不来方さんの導きで脇にある扉から階下へ。

さっきのような間を抜けた途端、今度はマヨイガの様な暗い雰囲気になる。

どっちが本当の姿なんでしょう?

 

 

 

ギシギシと音を立てる階段を下って、今度は思ってもみなかった光景が。

 

 

 

「……水浸し、って段階じゃないですよね。水没しかけているんですか?」

 

「外からだと分かりにくいんですけど、ここは湖の上に建てられているんです」

 

『ここの柱共には都合がいい』

 

廊下は床上まで浸水しているような。水底こそ見えるけど、沢よりも深い。

こんな神社は日本中探してもないのでは。

 

ふと、頭の中に音が聞こえる。最近聞くようになったキンキン音。

 

「――呼び戻しの音?」

 

「聞こえますか?」

 

「多分射影機の霊波形の音ですね、ちょっと待ってください。こっちで撮ります」

 

不来方さんは対怨霊戦にフィルムを消費いただいている。私が撮った方が良いでしょう。

射影機を廊下に向けて構える――反応した。フィラメントは青。

敵対しない霊か、初めてマヨイガに入った時のような影か。

ここでいいですね。〇七式にして。

 

 

パシャッ

 

 

っ!?

 

「茉子っ!?」

 

明らかに狼狽した表情の茉子が、廊下の向こうへ後ずさりしていく。

一体茉子には何が見えているの? あの茉子が怯えるなんて、高所くらいなもののはず。

 

「恐らくですけど、「諫女(いさめ)」の方々です。深羽さんがそうでしたから」

 

「いさめ、ですか?」

 

『使い捨ての巫女だ。永久花として(はこ)に入れる価値のなかった存在。数を揃えられる分、穂織に比べて敬虔な事よ』

 

使い捨てだなんて……茉子はそんな人たちの怨霊に追われてるの?

 

「随分日上山の信仰にお詳しいのですね?」

 

『今の穂織の恥知らず共が蔓延する以前、その信仰は日上山の形に比較的近かった。人間の生活圏に触れて千年も経てば、その程度の事は知っている』

 

「私たちが姉君様を信仰される前に、穂織に日上山のような宗教観が?」

 

『本当に貴様は姉君の加護を受けた存在なのか? 貴様らが姉君への感謝を捨てたから、今や姉君の御身のみを祀るなどと言う無礼極まりない状態なのだろうが。そうでなければ姉君が身を裂かれる事もなかったというのに』

 

ひたすらにボッコボコに言われてますね、私……。

ただまあ、今の言葉で分かった事もあります。

 

 

 

目の前に居る犬神様と、御名を失くされた姉君様が最初に穂織で信仰されたのは凡そ千年前。

ですけど穂織に残る神様の記録は約500年前から。しかも対象はムラサメ様と叢雨丸。

 

つまり、その前に一度神様方への信仰が薄くなった――失われた可能性が高い。

 

現代に近いんでしょう。神社に行くのはお祭りや元旦と言った何らかの行事があった時だけ。

一年を通じて神社に通われる信心深い人は、穂織でも玄十郎さんを始めとしたごく数人。

お願いをするような対象ではありますけど、正しくその恩恵に感謝し、敬われている方が全体でどのくらいなのか。神主のお父さんですら土地神様の真名を二柱とも知らなかったくらい。

 

先日犬神様は「二度目の誓いを破ったら穂織を滅ぼす」と仰った。

つまり一度目は500年より更に前、人々が神への感謝を忘れ去った時だったんでしょう。

武実神社が建立されたのも500年前の事のようですからね。

 

 

 

「……不思議なくらい、匪女(はこめ)も諫女の方々も出て来ないですね」

 

不来方さんがポツリと。

茉子を襲ったと思われる怨霊ですよね? たしかに茉子は恐怖一色の顔で後ずさりしていたのに。

私たちは一度も遭遇していない。

 

『今の我の器の業だ、相当恐れているらしい。この際都合がいいが』

 

「ああ……それは仕方がないかもしれません」

 

「さっきの鉈を持った男の、ですか? たしかくるるぎ……」

 

「そうです。芳乃さんは日上山の歴史を少しご存知でしたね? とある時期に()()()()()()()()()()()()事をご存知ですか?」

 

ネットで見たような。明治の終わり頃に一気に減ったんでしたっけ。

それが今のお話と繋がる………………えっ?

 

「……まさか、鉈の人が全部?」

 

火継守(ひつぎもり)まで殺りおって。日上山の夜泉であろうとこの男だけは受け付けまい』

 

うわあああ……それは失礼ながら、心霊スポットになっても仕方がない気がします。

 

 

 

「恐らくここです」

 

『大層な数よ。質までは揃えられなかったようだが』

 

「何なんですか、この部屋……」

 

不来方さんの案内の元、怨霊に遭遇する事もなく辿りついた幽ノ宮の地下の一角。

先ほどまでの廊下と同じように、水浸しになっているのは同じであるんですが。

 

 

 

ここには正しく水が張られていて、何かの箱がいくつも浮いている……。

 

 

 

本柱(ほんばしら)籠女(かごめ)を支える柱達の部屋です。恐らく常陸さんはあそこにいます」

 

じゃあこの箱の中って……今は考えないでおこう。

不来方さんが指さした先には、台の上に乗せられて唯一水に浸かっていない、他のより少し変わった箱が安置されています。

 

また音が聞こえる。

 

「芳乃さんが撮られますか?」

 

「…………はい」

 

音は射影機の霊波形の音。呼び戻しか、あるいはさっきみたいな。

 

 

パシャッ

 

 

「茉子!!」

 

『喧しい。騒ぐな、影だ』

 

気絶したらしい茉子が、たくさんの巫女に身体を抱えられ、あの箱に入れられて。

――蓋を閉じられた。

 

バシャバシャと水をかき分けてその箱の元へ。

鍵っぽい物はない。このまま開ければいいんですよね!?

 

「ふんっ…………ぐっ、なんで!?」

 

開かない!? びくともしない! 結界みたいな何かでもあるの!?

 

「ここの真上に祭壇があります。そこに「マガツヒの鏡」を納めると天蓋が開いて。以前はそれでここの封印も解かれたんですけど……今回もそこを辿らないとダメですか」

 

上を見あげる。

確かに何かの扉。木製の窓のような。

とにかく上の階に戻ればいいんですね!?

 

私がいち早く振り向いて部屋を出ようとし始めたところで。

 

 

 

 

 

 

『まったく人間はいちいち無駄に面倒な事をする』

 

 

ヒュオン! バキャッ!!

 

 

 

 

 

鞭のような空気を切り裂く音と、後ろの天井の方から何かが壊れた音が。

 

――犬神様の尻尾が鞭のごとく伸びて、多分さっきの木窓を破壊した。破片が降ってきてる。

 

不来方さんが唖然としてる。こんな顔初めて見たかもしれない。

 

『どうした?』

 

「………………いえ。なんでもありません」

 

物凄く何かを言いたそうな顔をされている不来方さんですけど、時間短縮になったのは事実!

天井から燈籠の灯りが、目の前の箱を照らすように。

 

もう一回! ふんっ!!

 

 

ギギギギギギ……

 

 

「茉子!」

 

箱の中には――黒い水に浸かっていた茉子が。

怪我はしてなさそうだけど今の状態は!? 水を飲んでない!?

 

「茉子! 茉子!? 起きなさい! しっかりしなさい!!」

 

「…………ぅん」

 

生きてる! 良かった!

寝ていただけの感じみたい。顔を軽くぺちぺちと。

 

「…………よ、しの……さま……?」

 

「茉子! 大丈夫だったの!?」

 

目が覚めた! 私が誰かも分かってるみたい。

 

 

 

「芳、乃、様。芳乃、様……よ゛し゛の゛さ゛ま゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁっっ!!!」

 

「えええっ!?」

 

 

バッシャァアアアン!

 

 

思いっきり茉子に抱きしめられて、勢いそのまま台から落ちて後ろの水面にダイブする。

 

「ごわがった、ごわかっだですぅよじのざまあぁぁ……」

 

「ああうん、はいはい、頑張ったわね茉子。もう大丈夫よ」

 

茉子が泣くのを見るのは本当に久々。相当怖い目に遭ったみたい。

私も……大変失礼ながら不来方さんの記憶を見て壊れかけましたから、茉子も近いものを見ていたのかもしれない。特に茉子は射影機を持ってないし。

 

『あの愚物の穢れた血で柱になれるはずもない。夜泉すら迷惑だ』

 

「この際は不幸中の幸いなんですけれど。すると深羽さんは……もしかするとあちらの?」

 

鼻をすする音がちょっとは落ち着いてきたかしら。

休ませてあげたいけど、そうも言ってられない状況だし。

 

「茉子、立てる? まだ深羽さんが茉子みたいに閉じ込められている可能性があるの。捜しに行かないと」

 

「ズッ……うぅっ…………すみません、大変しつれいを。分かりました。不来方さんも来てくださったんですね……なんで貴方はまたその姿に?」

 

『貴様の中に夜泉子の記憶が流れ込んで不快極まりなかったからだ。都合よく別の憑代も見つかった。貴様並みに馴染む。ここに居る間はこれで十分だ』

 

「ご無事でよかったです。深羽さんの場所ですけど……恐らく幽ノ宮の外になります。一度出ましょう」

 

何とか茉子も復帰。まだちょっとふらついていますけど。

不来方さんは何処か思い当たる場所があったみたいです。

 

 

 

「茉子はどうやってここに?」

 

「ワタシの目が覚めた時は地下の別室に居たんです。水に浸かったような状態で、周りには巫女らしき方たちがたくさん……死体のように浮いていらっしゃるような状況で」

 

先ほどまでの道を逆走して一階へ。

 

茉子の体験は、それはまあ……私並みにショッキングな現場そうですね。

現実味という点では私の方が強いかもしれないですけど。

 

「で、そこを出ようとしたら巫女の怨霊に追い回されて、髪で首を絞められて気を失って。次に気が付いた時は丁度あの箱の蓋を閉められる所でして……()()()()()()()()()()()んです」

 

え?

 

「まだ、()()()()の?」

 

「はい……もちろん怖かったんですよ? ただその後はあまりにもリアルと言いますか、知りたくなかった現実を知ったような体験で。道行く人の心の声が全て聞こえてくるようで――顔は笑顔なのに考えはドス黒い方とか、親切のようで平然と噓を吐かれる方とか。もう認識もしたくなかったですけど百人以上は居たと思います。最後には全く顔は見えない声も聞こえない人にベッドに押し倒されまして。自分で身体は何一つ動かせず全く抵抗できずで、その人の手がワタシの身体に近づいてきて「終わった」と思った所で……目が覚めました」

 

うわあぁ……幽霊要素はないけれど、人の真っ黒な部分を全部見てきた感じね。

最後のなんて、たしかにそっちの方が私たち的には恐ろしいかもしれない。

 

この体験って。

 

「……私からはアドバイスが難しいので、深羽さんと合流したら相談しましょう」

 

「はい……」

 

『欲に塗れた実に人間らしい行動だ。同族を「真っ当」などと考えている貴様らが可笑しい』

 

深羽さんはこんな状態だったんですか。

それは他人に対して厳しくもなるかもしれません。人間不信の要素しかない。

犬神様にとって「人間とはこういうモノ」。私たちへのスタンスが分かった気がします。

 

「それで、ここは一体? お話に聞いた日上山の何処かなんですよね?」

 

「私か深羽さんの記憶が主体になった場所のようです。ここ自体は日上山の山頂付近にある神社の中でして、11年前には常陸さんが閉じ込められていた柩籠に深羽さんが入れられていました」

 

「柩籠……ムラサメ様を永久花にしていたというアレですか?」

 

『此処のが大本だ。穂織に残っているのは磯良が模倣した劣化品に過ぎん。匪女にも籠女にもなれん、巫女ですらない死に掛けの小娘を中途半端な永久花として姉君の御身に宿すなど、虫唾が走る』

 

本当の柩籠、「不老不死」を生み出す箱。

その実態がこれですか。

 

放生さんが仰っていましたね。

「不老不死」を目指すものではなくて、「柱として永遠に機能させるため」のモノ。

ファンタジーのように追い求めるものでは全くない、()()()()()()()()()()のモノ。

間違っても夢見るものじゃない。

 

無礼を承知で言葉にするなら――ムラサメ様は運が良かったのかもしれない。

 

 

 

一階に戻り、本殿から門に戻って幽ノ宮の外へ。

この近くのどのあたりに深羽さんが居らっしゃるんでしょう?

 

そういえばここに入る前、犬神様が不来方さんに「残影を追えるだろう」的な?

私でも分かるでしょうか。射影機を構えて……。

 

「恐らくこっちの……芳乃さんは分かるんですか?」

 

「えっ? 何となくだったんですけど、合っているんですか?」

 

「鬱蒼とした雑木林にしか見えないんですが……」

 

客人(マレビト)でない貴様らが招かれるはずもない。夜泉子の母は相当な珍客だ』

 

ええっと……反応がありますね、ここに見えない何かがある感じですか。

ベストショットは……こんな感じ?

 

 

パシャッ

 

 

「……今のが、当時の深羽さんですか?」

 

「大体芳乃さんや常陸さんと似た年の頃だったと思います。本格的な女優になられる前ですね」

 

「もう影がいきなり出るだの道が突然見えるようになるだの、なんなんでしょう? マヨイガの時からそうなんですけど」

 

後ろ姿ではあるけれど、今より小柄な深羽さんと思わしき方が見えなかった道の先へ。

 

こんな所へ、たった一人で。

 

手に持っている射影機は、今私が持っているものと同じ。

本当にこの射影機が「そう」使われてきたんだと、今更ながらに実感します。

 

『我はここで待つ。器の侵入を拒絶している。結女(むすびめ)共だろう』

 

「最も招かれざる存在でしょうから。ではここでお待ちを」

 

『疾く終わらせよ。時を浪費するな』

 

不来方さんと犬神様の間だけで会話が完結してしまいますね。

一応私、貴方を祀るはずの巫女なんですよ?




曲がりなりにも神なので、いちいち人の作ったギミックになんて従いません。
お使いゲーの大敵です。ついでにエンカウント無効持ちです。

次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
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