零 ~イヌツキの少女達~   作:もふもふたぬきねこ

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和風ホラーあるあるですが、漢字の単語が読みにく過ぎです。
零は特に。

今回もよろしくお願いします。


55. 『結ノ家(ムスビノイエ)』の案内人

「ここも中々の光景ですね。水に浸かった墓地とは」

 

「すごい数……」

 

「『忌谷(いみだに)』と言う場所です。地滑りの際にこうなってしまったそうで」

 

名前の刻まれていない墓石が物凄い密度で、物凄い数立っている。

この墓石の一つ一つが、全て故人がお眠りになっている場所だと?

まるで迷路を形作るかのように並んでいます。

 

「ところで、この先には何があるんですか?」

 

「表向きには、日上山の山頂にある彼岸湖に通じているだけです。先程の幽ノ宮の水もカルデラ湖のものですよ」

 

「では……裏側は?」

 

「ある種の……結婚式場、とでも言いましょうか。巫女が式を挙げるための、『結ノ家(むすびのいえ)』という場所に繋がっていると聞いています。今から向かうのはそちらです。私も行くのは初めてで」

 

 

 

巫女の結婚式。

 

巫女の取り扱いと言うのは、宗教によって様々だとお父さんから聞いています。

穂織の場合は朝武家、つまりは巫女姫の血を絶やさないよう早々に結婚して子供を生むのが必須だった。でも場所によっては、巫女であるうちは乙女のままでいなければならないとも。

 

不来方さんも資格があるという濡鴉ノ巫女なる存在、彼女たちの場合はどうなんでしょうか。

 

 

 

舗装はされていないけど、ある程度整備された道。

その両脇には彼岸花。暗い山の中、そこら中が水浸しの景色に赤が妙に映えます。

単体で見るなら綺麗な花なのに、こういう環境だとどうして名前の意味を連想するんでしょう。

 

建物が見えてきた――あれが。

 

「あそこですね。恐らく番人が中に居ますので気をつけていきましょう」

 

「番人、ですか? またさっきの鉈の人のような?」

 

「一体芳乃様たちは何と戦ってきたんですか……?」

 

そのまま「鉈の人」よ。「松明の人」でもいい? 日上山の怨霊の元凶でもいいかもですけど。

あの言葉(クソ男)は止めておこう。夢から覚めた時もとっさに使ってしまいそう。

 

「大きな鏡を持った老婆、だと思います。正面から鏡を見ないようにしてください。気が付いたら匪に詰められていた、なんて事になりかねません」

 

日上山の怨霊は殺意が高すぎる……そこまでします?

もしそうなったとして、私と茉子は柱として機能するのでしょうか。茉子は実際に入れられたし。

なんにしても考えたくありませんが。

 

「ワタシ、居ない方が良くありませんか? 全く攻撃手段がないんですけど。肉壁です?」

 

「茉子なら相手の足元だけ見て立ち回れたりとかしないの? 忍者でしょ?」

 

「いつの間に芳乃様もあのバイブルを? あんな真似できるわけないじゃないですか、と言いたいですが……出来るだけやってみます。閃光弾くらいなら使えるでしょうか?」

 

バイブル? 茉子のオタカラ本の一つかしら。読むわけないでしょ。

まあ話は通じたみたいだし、出来る限り戦ってもらいましょう。

 

 

 

不来方さんが結ノ家と呼んだ建物。

その中に入ると。

 

「……縁結び、という事ですか」

 

「ここまで一か所に集まっていると気味が悪いですね。本来縁起が良い物の筈なのに」

 

綱に大量に結ばれた赤い紐。結婚写真と……絵馬、ですか。

絵馬は願掛けを記すか、或いはその願いが叶った礼を報告するための物。

数はともかく武実神社にもかけられていますしね。

 

しかし、ここにある数は(おびただ)しいという表現が似合う。

これだけの数の人が、ここまで縁結びにいらしていたと?

 

「ここの絵馬は写真の代わりなんです。まだ写真が無かった頃の代わりですね。蓮さんが仰るには、芳乃さんがお持ちの写真が日上山における最初の弔写真(とむらいしゃしん)なんだと聞いています」

 

「その弔写真、というのはどういう取り扱いを?」

 

「芳乃さんと常陸さんは、死後写真というものをご存知ですか?」

 

茉子と顔を見合わせる――「わかりません」という表情よね。

 

「元々は西洋の風習で、亡くなった方が朽ち果ててしまう前の姿を残そうと撮った写真です」

 

「亡くなった方の写真を撮るんですか? 遺影のように亡くなられる前ではなく?」

 

「最期の姿を忘れない、そういう意味なんだそうです。ただ日本の場合はムラサメ様も仰っていたように、「魂を抜かれる」みたいな迷信は知られていますよね? 日上山の場合はそれを真実と捉えた、より故人が写真に残られているような取り扱いをしているんですよ」

 

だから亡くなられた後の写真……いや、ちょっと待ってください。

 

「それではこのお写真の方、黒澤さんも……亡くなられた後に撮影されたものだと?」

 

白黒とはいえ、あまりにも綺麗な姿の写真。生きているようにしか見えないんですが?

 

「巫女だけは別でして。()()()()()()()()()()()()()()ので、事前に写真を撮ってソレをお見合い写真に使って、その後に弔写真として祀るんです」

 

「撮る事が、出来ない?」

 

ああ、茉子は知らないものね。()()()()()()がなんなのか。

つまりは、巫女に関しては通常の遺影に近いという事ですか。実際にはお見合い写真と。

しかし……その後の事を考えると、ご結婚されたお相手はどうされたんでしょうか。

 

さすがにご存命の時の写真ですよね。とはいえ――

 

本当に引き込まれそうな美しさというか、普通の写真からは感じない雰囲気があります。

あまりにもリアルと言うか、生きているというか。

 

 

 

「弔写真自体は日上山に沢山あるんですけど、芳乃さんがお持ちの物は極めて特殊です。射影機を作られた麻生博士ご本人が、実際に射影機を使って撮影された唯一のものだそうですから」

 

「芳乃様そのお写真を急いで仕舞って下さい引き込まれちゃいます!!!」

 

「はっはい!!」

 

 

 

とんでもない写真じゃないですか! 今の私結構ヤバかったんですよね!?

製作者ご本人のオリジナル物だなんて、一体何が込められているか分かったものじゃありません。

知らないうちに引き込まれそうになってた、なんと恐ろしい。そりゃ強力な寄香にもなりますよ。

 

 

 

かなり綺麗だけど、何処かマヨイガの様な雰囲気も。

仮にマヨイガも劣化していなければ、こんな感じだったのかもしれません。

さっきまでいた幽ノ宮に近いと言えば近いんでしょうか。こっちの方が生活感はありますね。

 

……ブーンという音。今度は一体何を見せられるんでしょう。

 

「不来方さん、これも撮った方が?」

 

「……多分、害はないものです。ただ、私に訊ねないようにお願いします」

 

何だか意味深ですが、取り込まれるような事はなさそうです。

方向は……あの先の部屋? ええっと。

 

 

パシャッ

 

 

「やっぱり……」

 

「「……深紅さん?」」

 

てっきり深羽さんかと思っていたら、まさかの深紅さん(母親)が。今と全く変わらぬお姿。

何かに連れられて行くように、力なさげに、でも間違いなく自分の意思で歩いている。

ほんのわずかに見えた表情は複雑で、期待も後悔も入り混じったような。

 

これに関しては訊ねないよう、予めお言葉を頂いています。心の中に閉まっておきましょう。

 

「私達の目的地もあの部屋です。芳乃さんは強めのフィルムに切り替えておいてください。常陸さんは閃光を使われるなら一声お願いします。私達も眩みますから」

 

「承知しました。部屋の中だと回避は不可能そうですから、しっかり目をつぶってください。可能なら耳も」

 

「わかりました。七四式にしておきます……私の力って使ってもいいんでしょうか?」

 

「芳乃様は今更厨二病に目覚めたんですか?」

 

「なんとも言えません。かなり強力そうではありますけど……深羽さんも仰っていた通り、強化レンズは射影機の機能を引き出す行為です。「あちら側」に近づく危険性がある事は念頭に置いてください」

 

正しくは「強化レンズ」と。危ないのは確実そうですね、出来るだけ控えよう。

茉子の「ちゅうに病」ってのはなんなの?

 

深紅さんが入って行ったと思われる障子戸に徐々に近づく。

何となく心臓の音が大きく、早く、耳に響くように。

 

茉子が障子の脇に立って、そっと横に開く。

その先には更に襖が――不来方さんが頷かれる。

 

私が射影機を構えて、不来方さんと茉子が襖を左右に。

 

 

 

「これは……婚約の席の?」

 

豪華な座布団が二つ、その前には屠蘇器(とそき)。後ろには屏風。

傍には衣桁(いげた)に掛けられた、白い水の流れが表されているような白金の着物。

 

まさに祝言を上げるための場所。

 

そして、その部屋の右脇には。

 

 

 

――あまりにもこの部屋には似つかわしくない、装飾のされた黒い()

 

 

 

『これはこれは』

 

「「!!??」」

 

傍からいきなりおばあさんの声が聞こえて、私は倒れそうになって、茉子が私を庇う様に。

不来方さんは静かにその方を見つめられています。

 

『夜泉子だけでなく、あの()の看取り人にイヌツキの巫女姫まで。なんと目出たい事でしょう』

 

今までの怨霊とはまた違う、生きた気配を感じさせる白い装束の老婦人。

透けていない。この人は本当にここに存在しているの?

 

「もう日上山に次代の永久花は必要ないはずです。ここは私と彼女の夢の中。何故貴女がいらっしゃるんですか?」

 

『これは異な事を。本柱を支える柱はいくらあっても足りませぬ。だからこそ夜泉子も、あの娘を看取った貴女も戻ってこられたのでしょう? 半信半疑ではありましたが、廃れたと思っていたイヌツキの巫女姫様までお越しになられるとは。(まこと)に僥倖でございます。あの方は優秀なミコをお残しになったようですな』

 

なに? 何のお話?

多分「本柱」は黒澤逢世さん、「看取った人」は不来方さん、「夜泉子」は深羽さん。

 

ここまではいい。

 

あの方? 優秀な()()? そしてイヌツキの巫女姫?

私を待っていたと? どういう事なの?

 

「彼女は「一人で行く」と仰って下さいました。諫女も匪女も籠女の皆さんの全ての想いも、たった一人で背負ってくれた。夜泉は戻り、御澄(みすみ)に満ちたはずでしょう?」

 

『それは現世のお話でございましょう? 現に此処には迷える者達が数多く残っております。あの野蛮な男や招かれざる存在は受け入れがたい事この上ありませぬが、巫女に最期を託されるというのであれば、それを拒まぬのが我ら。彷徨える者達がいるのは夜泉が溢れているから。ならば新たな柱を立てねばなりません。夜泉子の心は強いですが、その器は小さいようで。幽婚を望む様子もありません。あの娘を看取れた貴女が柱になられれば、永く『(クロ)(サワ)』も鎮まるでしょう』

 

「ワタシたちにとっては夢や記憶であっても、あなたたちにとってはここが現実という事ですか」

 

『現実も虚構もございません。現世か隠世かの差でございます、ミコよ。残念ながら貴女は柱には向かぬご様子、伝達して頂く役も担っておいででしょう――さあ、お役目を果たされましょうぞ』

 

この人の言う「ミコ」は茉子の事らしい。茉子は巫女じゃない。じゃあ、「御子」?

なら「あの方」っていうのは……。

 

「芳乃様、来ますよ!!」

 

そんな事に頭を回している間に――鏡ってアレの事!?

 

 

 

「……ん?」

 

 

 

いつの間にか視界が狭く、周りが暗く、今にも左右から蓋でも閉められそうな――

 

「芳乃さん!!」「芳乃様!!」

 

「ちょおっ!?」

 

箱に閉じ込められようとされてる!? 冗談じゃありませんよ!

ええい!

 

「花!」

 

 

バシャン!!

 

 

僅かに見えていた隙間、そこから先程の老婆を狙って「花」を放つ。

 

『ほっほっほ、中々のお力。貴女を柱に立てられないのが真に残念でございます』

 

「常に射影機を構えていてください!」

 

「芳乃様は本当にチャクラにでもお目覚めに!? とにかくこちらへ!」

 

「フンッ!」

 

 

ドカッ!

 

 

はしたないですけど、閉められそうになっていた箱を蹴り開けて脱出!

見ただけでああなるんですか!?

 

「四連!」

 

『流石は麻生様のお品物でございますな。もっと早くに訪れて頂いていれば、より幽婚を果たした娘が居たでしょうに』

 

「そんなに巫女を犠牲にしたいんですか!」

 

『信仰をお捨てになったイヌツキの地の方らしいお言葉ですな。一人の本柱でどれだけの魂が救われていると思っていらっしゃるのですか?』

 

「数の問題じゃありませんよ!」

 

『何の犠牲も伴わない救済こそ虚言でございます、御子よ――貴女が此方にいらっしゃるのは少々手狭でございますね。後ほどご報告に伺います故、今は御退席頂きましょう』

 

滑るように老婆がこちらに――やっぱり怨霊ですよね!

茉子が攻撃される!

 

「茉子!」

 

「肉を切らせて骨を断つ、です! 芳乃様は攻撃に集中してください!」

 

「駄目です! 負担が大きすぎて――」

 

私が居るのは茉子の真後ろ、たしかに距離減衰はなく威力は上がる。

だけどここは殆ど常世。加えてあんな強力な怨霊に触れられようものなら!

 

 

 

老婆の右手が伸びて。

 

 

 

ガッ

 

『ぬぅ?』「えっ?」

 

 

 

茉子が老婆に左腕を()()()()。みたいではなく実際に。

 

「……! これは便利な身体にしてもらったものですね! 初めて感謝しますよ!」

 

『これはまさか、堕ちたはずの狛犬神の力だと!? そんな馬鹿な事が!?』

 

茉子は「犬神の器」、つまり常世の力を持っている。中身も本当に外に居ますけど。

一番最初に怨霊に触れられた時は茉子もただの人だった。だから魂だけ剥がされそうになっていたけど……それが()()()()()()()()ならどうなるか。

 

結果は、ご覧の通りなわけですね。

 

『ぐぅっ!?』

 

「護衛と対人制圧ならお手の物なんですよ! ついでにこっちは若いんですよ!!」

 

「常陸さん! 鏡を!」

 

茉子からも普通に怨霊に触れられる様子。しかも茉子は対人戦のセミプロ。

呪詛任せの老婆に負けやしません。今まで散々話を聞かないお見合い相手を、何十人と追い払ってもらいましたからね!

 

――鏡を奪い取れた!!!

 

「現代科学の力を存分に味わってください!!」

 

 

ピィン

 

 

ナニカのピンが抜かれた音。次いで目配せ。

これって確か大変なやつ!!

 

 

パァン!!!

 

 

『ぐぅあああぁぁ目が! ……おのれ、私の目を!』

 

閃光を奪い取った鏡に反射させて老婆を照らす。これなら効くみたいです。さすが茉子!

 

「ありがとうございます!! ――芳乃さん!!」

 

「はい!」

 

畳みかけるなら、今!

そう思って、強化レンズを使ってシャッターを切ろうとし――

 

 

 

 

 

 

バキャッ!!!

 

 

 

 

 

 

た寸前で、部屋の隅の大きな音に意識が飛ぶ。思わずファインダーから目を外す。

茉子も、不来方さんも、目の眩んでいる老婆の怨霊さえも意識がそちらに。

 

 

 

 

 

 

部屋の隅に置いてあった箱の蓋が開き、黒い水に濡れた片腕が突き出ている。かなりホラー。

 

 

 

 

 

 

ザバァ……

 

 

「…………よくも、やってくれたわね……?」

 

 

ポタッ ポタッ……ビチャッ! ドスッ ドスッ…………

 

 

箱から出ていらしたのは、やっぱりと言うか勿論深羽さん……なんですが。

 

直視するのを躊躇うレベルの冷たい声と気配と目つき。滴る黒い水が更に恐怖のアクセント。

もう相手を呪い殺せそうな視線。日本一有名だろうビデオの怨霊のソレより怖いかもしれない。

 

右手に持たれているのは、現実でも持ってもらっている水無月さん(チャージ式)の射影機。

 

『……っ!? 自力で柩籠を内から開けるなど!?』

 

視覚が戻ったらしい老婆が驚愕の表情に変わり、更に驚愕を超えたナニカの表情へ。

そして。

 

 

 

「零式――滅」

 

 

 

ドォゥウウウウン!!!!

 

 

もうシャッター音でも何でもない爆発音だけが耳に入り。

視界には茉子の閃光を超えているんでしょう光がほとばしり。

 

老婆は声もなく、最初から何もいなかったかのように、光と音と共に消滅した。




深羽は比較しようもなく最強です。
お陰で取り扱いに物凄く困っています。

次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
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