零 ~イヌツキの少女達~   作:もふもふたぬきねこ

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明けましておめでとうございます。
相変わらずのペースになりそうですが、今年も宜しくお願い致します。
前作は5カ月で120話投稿したというのに……。

という状況でしたので、チャプター6終了までは下書きしました!
そこまではちょっとペースを上げていこうと思います。

深羽を救出、山を下ってとある人物に会いに行きます。

今回もよろしくお願いします。




57. 『陽炎山(カギロイヤマ)』の幼巫女

「ここ、ですか」

 

「すごい人形の数ですね。流石は()()神社、ですか」

 

幽ノ宮から参道を辿って下山した途中。

私と不来方さんは上りの途中で脇道に逸れた形になった形代神社に。

 

社に置かれている人形は勿論すごいんですが……なんで木から首を吊った人形がそこら中にあるんですか? 気味が悪いってレベルじゃないんですが。

 

「私は来た事なかったんですよね。日上山のマヨイガってこの先なんでしたっけ」

 

「そうですね。地下が胎内洞窟に繋がっていて、蓮さんからは更にその先だと聞いています」

 

『未練の深い娘よ。哀れだな』

 

ちょっと犬神様から思ってもみなかったお言葉が。哀れと仰いますか。

 

不来方さんの先導で入り口が開けられて――

 

 

 

『こんばんは。お久しぶりね、死にたがりのお姉ちゃん』

 

 

 

普通にいた。全く幽霊らしさも禍々しさもない。

ムラサメ様に近いような方ですね。

 

多数の人形が飾られた雛壇の上に腰掛けられていた、黒い着物に白い髪の女の子。

白い髪は私の銀髪に似ていますけど、特徴的な赤い虹彩が目を惹きます。

 

『変わったね、お姉ちゃん。今は死のうとしてないんだ?』

 

「そうですね。「一緒に死なない」道を選びましたから」

 

『そう、残念ね。死んだらあなたも一緒にここで遊べたのに』

 

やはり幽霊ではあるんですね……。

 

『そっちのお姉さんは私より強そうね。偶々、でもないのかな? 半分元々こちら側?』

 

「流石、結構詳しいのね。あなた『箱入(はこい)(さま)』なんだっけ? 私が強いのは必然だから」

 

『私は偶々ですぐ死んじゃうけど、お姉さんは殺しても死にそうにないものね。それでここに何をしに来たの? お姉さんとお姉ちゃんの夢を元にした隠世のようだけど。「あの人」を連れて来てくれたの?』

 

「申し訳ないんですが、「あの人」はここにはいません。長くこちらにいらっしゃるあなたなら、此処の状態をご存じではないかと伺ったんです」

 

『……そう、今回も居ないんだ。意地悪ね』

 

「あの人」というのがどなたか分かりませんけど、本心から残念そうな顔をされています。

 

『娘よ』

 

まさかの犬神様からの声掛けが。しかも何となくトーンが優しい?

 

『今、この隠世は別の常世と繋がっている。其方に感じるものはないか? あれば語って欲しい』

 

『……不思議な、神? のようだけど、憑代があの五月蠅い男なんだ。静かになっていいわ、そのお礼に丁度いいかしら』

 

そんな事まで分かるんですね。相当に力の強い巫女のようです。

しかしまあ、私はボロクソに言われているのに白菊さんはお願いされる立場の差ですよ。

 

『またこんな場所が生まれたのは、変な人が他所から力を持ってきているからよ』

 

「変な人、ですか?」

 

『あなたは今の穂織の巫女? 柱になる前に壊れそうなくらい脆そうね。諌女の役すら危うそう』

 

「まずは貶す」の止めて頂けません? 巫女を辞めたくなってきます。

 

「現代の穂織の巫女は柱を立てる事を前提にしていませんので。ワタシはその従者です。その人の事、教えていただけませんか?」

 

白菊さんは少し考えられた後。

 

『多分、あなたと同じ匂いの人』

 

そう、茉子に向かって言い放った。つまり。

 

「朝武義和、ですか」

 

『そういう名なの? 何処にでもいる人よ、自分の事しか考えていない。ああいう人が考えているのはいつも自分の事だけ――()()()()()()のよ。その一点だけなら最高峰なのかもね』

 

「死にたくない……え、待って? アイツまだ生きているの?」

 

『死んでるわよ? だけど死にたくないの。死にたくないから、死なない為の方法を探している愚かな人。人は必ず死ぬ。それは私も、日上山の巫女達も形が違うだけで例外じゃない。肉体は滅び、魂は夜泉に融ける。だけど探してる……どんな形であろうと。怖がりなのね、他のみんなと一緒で』

 

「死んでいる」けど「死にたくない」。それは……怨霊として力をつけるとか?

既に誰かに転生しているとかなら幾分マシそうですけど。

 

『今何処にいるか、分かるか?』

 

『この隠世と隣り合っている何処か。それが貴方の言う別の常世なのかしら。そちらも不思議な雰囲気ね。でも詳しくは分からないし知ろうとも思わない』

 

「……やっぱり有地さんの玉石が目的ですか」

 

これでレナさんの夢に居る事と、その目的はほぼ確定。あちらは神様の夢的なものですからね。

あとは。

 

「あちらに行く方法、何かご存じではないですか?」

 

不来方さんの質問、これに回答がもらえるといいんですけど。

 

『え? お姉ちゃんなら簡単じゃない? 「あの人」の作った隠世写しも持っているのでしょう? ここからでは遠そうだけど、境界に立てばすぐに見つけられると思う』

 

何で出来ないの? 的なニュアンスが返ってきました。

「あの人」の作った隠世写し――多分射影機ですよね? じゃあ「あの人」って……。

 

『従者のお姉ちゃん、誰かの寄香を持っているでしょう? それを使えば?』

 

「えっ? ワタシがですか? そんなものあったでしょうか」

 

茉子が服の中をゴソゴソ漁り始める。私もそうだけど、夢でもキチンと再現されるみたい。

そして。

 

「あ」

 

何か見つけた。

 

「ワタシが保管していたのを失念していました……」

 

「そういえば撮りましたね。なんだか一昔前の気分です」

 

茉子が持っていたのは……ちょっとふやけてるけど、手帳? そのページを見せてもらうと。

 

「……ああ~、これね、茉子が預かってくれていたんだった」

 

『へえ。私よりもかなり古い人で、しかもまだ生きてるんだ。弔写真、にしては随分と落ち着きのない姿? 幽婚には向かなさそう。奇抜な格好をしているのね、いつかのくノ一みたいな』

 

「日上山にも忍びが!?」

 

『珍しい物を持っていたわよ? 隠世を拒絶する光を出す道具。あんなのもあるのね』

 

『こんな小娘が姉君の御力の繋ぎ手など……恥にも程がある』

 

不来方さんが最初に撮られた「ムラサメ様のお写真」が挟まれていた。水対策万全。

そうか、これはムラサメ様の寄香になるんだ。

そしてやっぱり「奇抜(コスプレ)」評価なんですね……穂織の文化って一体。ほら茉子、帰ってきなさい。

 

「この写真がありましたね。寄香に使えそうです」

 

「夕莉さんが一回経験済みなら、おチビさん程度の影を追うくらい何て事ないか。射影機も三台あるんだし。にしても、こんな間抜けな寄香は初めてね」

 

『彼もいけずよね。ずっと一緒になろうって約束したのに全然来ないし、来たと思ったら寄香は持っていないし、その後此処を訪れもしない。挙句別の女を好きになるんだもの。そのくせに自分が関わっている者だけこちらに寄越すだなんて。前に来た時もフられてしまったわ』

 

『人間など得てしてそういうものだ。其方のように純粋な存在が一握りなのは知っていよう。期待しすぎるな』

 

『貴方も大変な目に遭っているみたいだものね。その身体の汚れ様、神様も楽じゃないみたい』

 

とにかくこれでレナさんの夢に移動できそうです。

そちらに行ってからは……。

 

「まずは有地さんを捜すべきなんでしょうか?」

 

「いや、レナちゃんを優先した方が良いですね。言い方は悪くなりますけど、朝武義和にとって有地君は利用価値がある――呪詛持ちだし、叢雨丸も使えますから。一方でレナちゃんの持っている欠片から抜け出した以上、目的の話はありますけど……本来は相容れない存在なんだろうレナちゃんは寧ろ邪魔になります。夢の中で死ぬと現実でもそのうち死にますから」

 

深紅さんからそんな事を聞きましたね。シミを残して消えてしまうんでしたか。

そんな事には絶対させない。

 

『知りたい事は知れた?』

 

「はい。ありがとうございます……貴女は今後もここに?」

 

『勿論、約束したから。現世の日上山でもお姉ちゃんの隠世でも会えなかったけど、別の隠世で会えるかもしれないもの。そして一緒に寝るの、ずっと一緒に』

 

「お返しってわけじゃないけど、伝言はある? 現世のここになら連れてくる事もできるけど」

 

『もう現世には私がいないもの。でも……そうね、「私の寄香を忘れないで」と伝えてもらえる? 優しい彼に辛い役目を背負わせた事が、彼が忘れてしまった理由のようだから。何時か私に会いに来てくれると嬉しい。穂織の巫女が持っている――そこの写真の女を思うんじゃなくて

 

ううっ……一瞬気配が絶対霊じみたものになった。恋する人って怖い。恋敵は逢世さんですか。

話に聞いた「放生さんの七股問題」はこうして形作られていたんですね。来世は大変そうです。

 

つまり、放生さんが危険な状況になった時に現れかねないのはこちらの白菊さんと逢世さん、と。

そりゃあ武実乃山くらい滅びますよ! 日上山(人外魔境)の柱のツートップとか!

 

「了解よ。ついでにいい加減決めろと言っておくわ」

 

『お願いね。それで……貴方がここを去るのなら、また五月蠅い男がここに残るの?』

 

『そうなる。姉君の夢にこんな汚物を連れ込む気はない』

 

『ならいっそ、貴方の穢れを被せてしまえばいいんじゃない? ここはじきに潰されるんでしょう? 元々狂っているんだし、これ以上狂っても同じだと思うもの』

 

『なに?』

 

何だか、どこか理解できそうで理解できない。

犬神様の「犬神」部分だけ、あの鉈の人に残すという事ですか? そんな事が?

 

『よく馴染んでいるもの。お姉様が大好きな者(シスコン)同士だから、気付かないうちに背負わせられると思うわよ。どうせ夜泉に融けなさそうだし、お姉さんならお姉ちゃんの夢ごとそのまま潰せるでしょう?』

 

『この男と同列に扱われるのは心外だが、其方がそう言うなら可能か。捨てていこう。都合がいい』

 

「あんたら、人をゴミ箱かトイレ扱いしてんじゃないわよ。一時的とはいえシスコン共の念なんて身体に残したくないんだけど」

 

「枢木恭蔵の念はどうしても残りますから。可能なら一緒に流してもらえると」

 

「夕莉さんも言いますね? 私は便利屋じゃないってのに……移動した直後に潰すわよ。精々身体を残さない事ね?」

 

「どうしましょう? ワタシたち完全に蚊帳の外ですよ、芳乃様」

 

「それはそうなんだけど、それが普通って事を忘れちゃだめよ、茉子」

 

そもそも幽霊と普通に会話できている事や、神様が隣に居る事に不思議を感じなきゃいけないはずなんだから。

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

形代神社を出て、ムラサメ様の写真を寄香にあっちの世界へ。

すぐに助けに行ける――そう思っていた時期がありました。

 

「はぁ……はぁ……なんで、夢の中なのに…………」

 

「しっかりしてください芳乃様。皆さんまだまだ余裕ですよ?」

 

『情けない。見るに堪えぬ』

 

「私はわりと長い距離を漕ぎますから」

 

「女優は案外体力勝負なんですよ? カメラ映りを気にすると、不自然な体勢をし続けないといけないのもザラですから。定時帰りではありますけど、普段スケはガッチガチですし」

 

現在日上山の登山中。今度はケーブルカーを使わず、下ってきた道を逆走する形で。

標高は700メートルくらいだそうですね。もう八合目くらいではあるはずですけど。

 

毎日神楽舞の奉納だとか練習は欠かさずやっているのに、このメンバーの中では圧倒的体力不足。

夢の中のおかげか汗こそかきませんけど、しっかり疲労しなくてもいいのに……。

 

「山頂には湖があるとの事でしたけど?」

 

「そうですね。その彼岸湖の湖上に『水上ノ宮(みなかみのみや)』という隠された奥の院があります。そこが日上山で最も現世と隠世の境が曖昧なところです」

 

「いくらなんでも、あの湖を歩いて渡ろうとするのはどうかと思いますよ? よく私も止めに入ろうとしましたよね」

 

「あの時はお世話になりました……」

 

「ワタシなら……泳げば行ける?」

 

『貴様も阿呆なのか。そこの軟弱な娘といい穂織の人間共は短絡思考に過ぎる』

 

「あなたも幽ノ宮の仕掛けを無視して破壊されていましたが……?」

 

『人間の暇潰しに従う義理はない』

 

こっちはいっぱいいっぱいなのに、皆さんハイキング的な会話はカンベンしてください。

やっとフルネーム呼び捨てまで格上げされたのに、早速「軟弱な娘」に格下げされました。

ああ、やっと参道まで戻って来た。

 

「結局私は見る事がありませんでしたけど、舟で渡ったんでしたっけ?」

 

「幽ノ宮の奥に水門があって、そこから彼岸舟(ひがんぶね)で渡る形になります。私達4人は乗れそうですけど……」

 

『そんな時を浪費していられぬ、唯でさえそこの軟弱者に時間を取ったのだ。幽ノ宮の水底に憑代を捨てて水門から貴様らごと飛ぶ。巫女は水上ノ宮を呼び戻せ。門は開けてやる』

 

「何気にエグい事されようとしてません?」

 

「やっと、着いた……」

 

事が終わったら、私も神楽舞の練習以外に身体を動かそう。うん。

 

 

 

茉子が閉じ込められていた幽ノ宮の地下。その別方向へ。

そこには。

 

「彼岸舟なんて大層な名前だからどんな装飾の舟かと思えば、ただのボロ舟なの? 私が夢でお母さんとすれ違った舟?」

 

小さな舟が一隻。そしてその先には閉じられた門。

その門が。

 

 

バキャッ

 

 

犬神様から伸びた尻尾でぶっ壊された。

ちなみに門だけでなく、幽ノ宮のあちこちがこれで破壊されています。何だか申し訳ありません。

 

『さっさと呼び戻せ』

 

「三柱様に申し訳ないですね……分かりました。芳乃さん、逢世さんの弔写真を出してもらえますか?」

 

「こちらに」

 

その隠された社に行くにも逢世さんの寄香が?

本当にすごいお力を持っていた方だったんですね。

 

不来方さんの左手は弔写真に、右手は射影機に、私が下部を支えて。

捉えるのは水門の向こうの霧の先。

 

 

パシャッ

 

 

「……初めて武実乃山のマヨイガに辿りついた時を思い出します」

 

「よくまあ寄香も無しに呼び戻せましたよね? となると、やっぱり朝武さんは招かれていたって事になるけど……」

 

霧が微かに晴れて、その遥か向こうにはうっすらと鳥居が。

想像するのは世界的に有名な神社ですけど、今から向かうのは現世と常世の真の境目。

観光気分ではいられない。

 

「で、どうやって運んでくれるの? 今のあんたに触りたくないんだけれど」

 

『夜泉子に触れられるなど、こちらが余計に穢れる。今の憑代を失う以上はこの姿を保てん。器に触れていろ』

 

「まさかワタシが貴方の力で御三方を抱えて水上を走ると?」

 

『それを望むか? 殊勝だな。一時的に貴様の器を憑代に我が身を顕現させる。精々落ちぬ事だ』

 

「私が常陸さんや芳乃さんに触れてしまうと、記憶を読んでしまいますから……」

 

「必然的に私の後ろですね。私は朝武さんの後ろに着きます。あと犬、いい加減夜泉子って呼び方を止めなさい。外に出たら本当に滅ぼすわよ」

 

『ならば貴様も口の利き方に気を回す事だ。その呪具で今の我を封する事など出来まい……何故こんな程度の悪い信仰を源にせねばならんのか』

 

という事で、茉子が犬神様に触れ、後ろに私、深羽さん、不来方さんと続いて。

 

 

 

まるで泥が洗い流されたかのような、一瞬の出来事。

 

 

 

犬神を形作っていた祟り神的なヘドロが、固まり状になって湖に落ち。

大きな白い狛犬が姿を現したと思ったら。

 

 

 

『行くぞ』

 

ドンッ!

 

「ちょお!?」

 

 

 

最初からトップスピードで湖面を走り始めた!!

何かの力なのか、身体が茉子から離れてしまう事はありませんでしたが――

 

「芳乃様! こんな時にワタシの胸をもまないでください!! 思春期ですか!?」

 

「そんなっづもり……! ぐ、ぐびが、しまっで……!」

 

「ごめんね朝武さん! 姿勢直すのは無理!」

 

「祟り神の姿といい、本当にも○○け姫ですね」

 

『奴は雌だ。着くぞ』

 

しがみ付くのが精一杯で両腕が変なところに。私も窒息しそうなのよ!

犬神様は何を真面目に訂正しているんですか!? というかアレって実在していたんですか!?




簡単な紹介ですが、白菊は江戸後期生まれの白髪赤眼の少女です。現在日上山に埋められた柱。
看取りの力だけなら夕莉と深羽を凌ぎます。
犬神が白菊に優しいのは、7歳未満(つまり他の神の子)だからです。

実は夕莉や深羽達と違って現実にモデルがあるようで、
それが濡鴉ノ巫女の設定の元ネタかもらしいですね。

やっと本チャプター最後の建物に来ました。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
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