零 ~イヌツキの少女達~   作:もふもふたぬきねこ

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零恒例の射影機の登場です。完全にオーパーツですよね。
実際にどういう機構で動いているのか分かりませんので、
その辺りは独自設定になります。

今回もよろしくお願いします。


6.  『射影機(シャエイキ)

「ムラサメ様は御存じなのですね」

 

「「「しゃえいき?」」」

 

聞いた事がない言葉ですね? 漢字に直すとどう書くのでしょう。

 

「ムラサメ様が何かご存じのようなのかい?」

 

「そうみたいですね。ムラサメ様、どういったものなのですか?」

 

茉子から尋ねられたムラサメ様は、驚きと懐かしそうなお顔。

 

『ご主人の口にした通りカメラの一種だが、何より特異なのは才ある者がこれを使うと「ありえないもの」を写す力があるという事だ。今から百年以上は前……明治時代だったか? この地を訪れた者が持っておったような気がする。当時話だけ聞いてかなり驚いた記憶があるぞ』

 

「「ありえないもの」を撮影するカメラ、ですか?」

 

「凡そムラサメ様の説明で合っています。「ありえないもの」、即ち霊を撮影する事が出来るカメラです。ムラサメ様、少しそのままそこに居て頂いて宜しいですか?」

 

『えっ? まあ、うん、構わぬが……吾輩を撮るのか? 魂が抜けたりせんだろうか』

 

「元から魂だけだろ? つまりは心霊写真専用のカメラなのか」

 

「フィルムは……〇七式。なら大丈夫なはず」

 

ムラサメ様の不安に対して有地さんがツッコミを入れ、不来方さんがカメラのシャッターを切られたのか「カシャッ」という音。ムラサメ様もちょっとビクッとして。

インスタントカメラといったでしょうか? 撮影したフィルムがすぐに出てくるんですね。

 

少しピラピラとさせられて、そして見せて頂いた写真に。

 

「――この方が、ムラサメ様なのか」

 

みづはさんが驚愕していらっしゃいました。

写真にムラサメ様が普通に写っている様子。これにはビックリです。

 

『本当に吾輩の姿を写真に写せるのか』

 

「ここまではっきり写ってる心霊写真も中々ないよ。全然俺達と区別が付かないし。これ、祖父ちゃんや安晴さんにも見せてやりたいな。祖父ちゃんは特に大喜びしそうだ」

 

「そうですね。不来方さん、この写真は頂いても?」

 

「大丈夫です。それくらいであれば単なる写真でしかないかと」

 

「ちょっと気になるご発言ですが……それではこれはワタシがお預かりしますね。しかしこれが幽霊の対策になるんですか?」

 

確かに。

幽霊を撮影できる事にはビックリですが、根本的な解決とはならないでしょうか?

 

「今射影機に装填しているフィルムに大した力は籠っていません。ですので、単に撮影するだけになりましたが……強力な除霊能力を持ったフィルムであれば、怨霊を除霊する事も可能です」

 

『吾輩は除霊されるかもしれんかったのか!?』

 

「なんともないんだからいいじゃない」

 

『ぬぅ……自分を霊だと認めるようなもんだしのう』

 

これはとんでもない道具が出てきましたね。まさか幽霊撃退の為の道具をお持ちだなんて。

 

「その……しゃえいき? というのは誰でも使えるものかい?」

 

「いえ、ある程度の霊感や才は必要になります。加えて除霊という事であればその効果にも差は出るかと。この射影機を使った方は私も含めて4人知っていますが、効果が同じというわけでは無いようでした」

 

『すごい人に撮られておったら、吾輩はやはり消えておったのでは?』

 

「だからぁ今消えてないんだからいいじゃない。それよりも、俺にとってはそんなポンポン怨霊ってのを撮影する機会があったって事に驚きだよ」

 

「そうですね。私たちの祟り神と同じように、こういった存在と対峙されている方々がいらっしゃるという事ですか」

 

「ワタシや芳乃様でどの程度の効果があるのかは分かりませんが……少なくとも現状のワタシたちの手札よりは遥かに強力そうですね」

 

私たちが戦っている祟り神も十分常識はずれなのでしょうが、まさか対幽霊に特化した道具がカメラだとは思いもしませんでした。自分から心霊写真を撮りに行くなんて。

 

しかし、不来方さんのお顔は相変わらずの曇り顔。

 

「このカメラは……確かに「ありえないもの」を写す力も除霊の効果もあります。ですが使用するにはいくつか問題があります」

 

「カメラ、昔の……あっ、フィルムって事ですか?」

 

「そうですね。一般に販売されているフィルムとは全く別の、専用のフィルムを使用しないと除霊の効果は期待できません。加えて簡単に手に入る物でもありませんので、手軽に使えるわけではないんです」

 

なるほど。今の私たちだとスマホを使って撮影するのが日常ですが、昔のカメラなんですから当然フィルムが要りますよね。そりゃそうです。

そのフィルムというのが特殊なものであるのも必然と言えそうですね。

 

『先程吾輩を撮影するのに貴重な一枚を使ってもらったのか?』

 

「無制限でない事には間違いありませんが、さっきの撮影には除霊効果がほぼ無いかなり古いフィルムを使いました。私の以前の仕事にはそれで十分だったので、これは比較的こちらにも数を持ってきています」

 

「だけど本格的に除霊効果のあるフィルムとなると、という事かい?」

 

「はい……送ってもらうにしてもストックがあるか分かりませんし、新しく作って頂くにしても何処にお願いすればいいのか私には分かりません」

 

「幽霊に使える事は間違いないですが、安易にポンポン使用できるものではないという事ですね。制限が「いくつか」と言う事でしたけど、他にもあるんですか?」

 

茉子の質問に、不来方さんの雰囲気が更に暗く……。

 

「……射影機を使うという事は、少なからずあちら側に踏み込むという事です」

 

ああ、察しました。

つまりは。

 

「使う才能があまりない人や、あるいは才がある人でも使い過ぎてしまうと」

 

「この前の常陸さんみたいに、ある意味幽霊に干渉されるような感じになっちゃうのか」

 

『ありえないものを見る、とは必然的にそういう事になるだろうな。吾輩は特別として、本来この世におらんものを力づくで暴くような事なのだから』

 

「使った反動でああなってしまうのは……ご勘弁頂きたいですね」

 

「という事で合っている感じかい? 夕莉君」

 

みづはさんの確認に不来方さんは。

 

「そういったモノに耐性がないまま無理矢理霊感を使うようなものです。あちらの存在を見るという事は、あちらの存在に混じるという事になります。加えて――もし皆さんが突然今の私のような視界を得られたら、どうお感じになると思いますか?」

 

という質問を返されて。

日常的に、他の人には見えないものに満たされた世界に身を置く。

少し考えて……まさか。

 

 

 

最悪の場合って。

 

 

 

「こういう言い方は大変失礼だが……これまでの生活を送れなくなりそうだね」

 

みづはさんが幾分かマイルドな表現で返してくださいました。

つまりは、それが日常生活どころか――

 

「そういう事になります。ですのでそう軽々とお貸しできるものでは」

 

「ご配慮ありがとうございます。そうですね、お借りするにしても」

 

「問題が多いですね。先刻の貴重なフィルムのお話もあります。使うとしてもここぞというタイミングになりそうです」

 

「もしもの時のために、俺たちの才能だけ先に確認させてもらうのはアリかな?」

 

『まあそうだな。使わんに越した事はないが、もしもの場合には備えねばならん。わざわざ射影機を借りたとしても使えんかったら目も当てられぬ』

 

「そうだね、確認だけはさせてもらった方がいいかな。夕莉君、私達の才を確認するくらいは可能かな?」

 

不来方さんは――少し悩まれたうえで。

 

「……そう、ですね。そういったものを確認するだけであれば霊を撮影する必要はありませんから。〇七式なら数はありますので、皆さんで数枚ずつ撮って頂ければわかるでしょう」

 

「ありがとう夕莉君、お礼は後ほど必ず。ではまず私からやらせてもらおうか」

 

幸い私たちの才能を確認するくらいであれば大丈夫のようです。

それにしても、「霊を撮影する必要がない」とは?

てっきり不来方さんだけが見える霊に向かって撮影とかするのだと思っていましたが。

 

 

 

みづはさんが不来方さんから――「射影機」とはこう書くらしいですね、を受け取って。

 

「私を3枚撮影してみてください。使い方は普通のカメラと同じです。それで感じられた事を私に教えて頂ければ」

 

「それで分かるのかい? 了解した、失礼するよ」

 

不来方さんを撮影するんですか?

鞍馬君辺りなら100枚くらいは連射しそうですね……。

それでどう才能があるか判断するのでしょう?

 

みづはさんがパシャ、パシャ、パシャとシャッターを3回切って。

 

「いかがでしたか?」

 

「……特に、何もだね。ファインダー越しに何かが見えたわけでもなし、撮った時に感じたものも無しだ。唯のアナログカメラかな。リールが無いんだね?」

 

吐き出された写真も、至って普通に不来方さんが写っているだけですね。

 

「分かりました。それでは」

 

「あ、じゃあ次は俺がやります」

 

『気合を入れるのだぞ、ご主人』

 

「いや、不来方さんを撮るのに気合入れるって廉太郎みたいで嫌なんだけど?」

 

「わりと有地さん冷静ですね?」

 

そうして有地さん、続いて茉子も不来方さんを撮影して。

 

「……全くもって特に感じるものはないですねえ」

 

「そうだな。昔のカメラのわりにファインダーは曇りもなくて綺麗だなって思ったけど。こんな時代にインスタントカメラってあったんだ」

 

2人も感じるものはないですか。そして、私の番。

射影機を不来方さんに構えて……。

 

 

 

「――えっ?」

 

「芳乃様?」

 

茉子から声をかけられた、んだと思いますが意識は別の方向に。

 

 

 

みづはさんも有地さんも茉子も。

何かが見えたわけでも変わった事もないと言っていました。

 

 

 

では――ファインダー越しに不来方さんに宿っているように見える()()()()は一体?

 

 

 

「芳乃さん、そのまま私を捉えて撮影してみてください」

 

「はっはい……」

 

不来方さんから指示をもらって、一度シャッターを切り……!?

 

音が、聞こえる? 低くて小さいノイズのような音が。

さっきも聞こえていたのかもしれないですが、気付くほどに大きく。

そしてファインダーの周りの枠が伸びて、淵を作るように。勝手にリールが巻かれるらしき音も。

さらには不来方さんに見えていた灯りが、1つから2つに。

 

「朝武さん、大丈夫か?」

 

「だ、大丈夫、だと。ですがこれは」

 

『芳乃よ、何が起きているのだ?』

 

「不来方さんに青い灯りと、それから何やらブゥーンって音が……」

 

「もう2回、シャッターを切ってみてください」

 

変わらないトーンの不来方さんの声。

本来であれば、これだけ美人な方を堂々と撮らせてもらえる事を喜びそうなものですが……。

 

 

2回目のシャッターを切って。

 

 

ノイズがより大きく、しかもファインダーにも灯りが?

不来方さんに見える灯りも3つに。

 

 

3回目のシャッター。

 

 

なんとなく、背筋が寒くなったような気がしました。

 

「お疲れ様でした。芳乃さんには射影機を使う才があるようですね」

 

「芳乃様、一体何が見えていたんですか?」

 

アレが、ありえないものを見るって事ですか。

 

「……さっきムラサメ様に答えた通りよ。不来方さんに青い光が灯って、ノイズみたいな音も聞こえて。ファインダーにも機械的な何かが写っていた風に私には見えたわ」

 

「朝武さん、借りていい?」

 

有地さんに射影機を渡して、構えられますが……やはり何もないようで。

 

「射影機の機能を正しく使用できたという事です。芳乃さんが見た青い光は私の霊片、聞こえた音は霊波計の音、ファインダーに映っていたのはフィルムの充填状況を示した機能になります。才がある場合は通常より高速で薬剤が充填されますので」

 

「そんなもの、ワタシにはまったく……」

 

『ふむ、まあ芳乃にはその才があったという事だな。多用せんに越した事はないが』

 

「夕莉君は大丈夫だったのかい? その、霊片というものを私達に撮影されていたんだよね?」

 

撮れば撮るほど数を増していった、青い光。

たしかに不来方さんのお身体に何か悪影響があろうものなら……。

今度は土下座では済みませんね、何をすればいいのでしょう。

 

「心配ありません。肉体に宿っている霊体を引き剥がすというのは、並大抵の事では不可能ですので。今回のフィルムでは文字通り撮って頂いただけになります。芳乃さんは……数も増えましたか?」

 

「は、はい」

 

「ならばフィルムに宿っていた除霊効果が、一時的に芳乃さんの目に溜まった状態になったという事です。更に才のある方なら他にも使える機能があります」

 

つまり、撮った分だけ私の霊感とでもいうものが一時的に高まったという事ですか。

少なくとも不来方さんが理解されている範疇を超えた物ではなさそうです。

 

「じゃあ緊急時に朝武さんが使う事は出来るのか」

 

「そういう事にはなりますね。お借りする事が前提のお話ですが……」

 

こんなシロモノ――いくらするのでしょう?

たしか、インターネットで見たデジタルカメラでも私のお小遣いの数十倍は優に……。

 

「先程のお話は別にして、お貸しする事自体は構わないのですが……一度私も同行させて頂いても?」

 

「えっ?」

 

不来方さんから予想外の提案。

みづはさんやお父さんからのお話を聞く限り、関わりたくなさそうとの事でしたが。

 

「常陸さんは一度怨霊に触れられているのですよね?」

 

「はっはい。安晴様のご祈祷や芳乃様の舞の奉納で状態は落ち着きましたが」

 

茉子の回答に不来方さんは、儚げな雰囲気ながらもしっかりとした目線で。

 

「それはつまり、結果的に常陸さんの霊体が肉体から引き剥がされようとしていたという事です。先程の撮影では私の霊体へそんな干渉をする力はありませんでしたが……剥がされてしまったら、どうなるかは想像がつきますね?」

 

もう、考えるまでもありませんね。

魂が抜けた人間の身体。それが示すものは。

 

「常陸さんはそれ程危険な状態だったという事か」

 

『やはり、そうなってきてしまうか』

 

「その状況を見ていませんので断言は出来ないですが、可能性は。常陸さんは念の為にこちらを飲んでください。揺らいでしまった霊体との繋がりを元に引き戻す薬だそうです」

 

不来方さんが持ってこられていた瓶……「万葉丸(まんようがん)」と書かれているんでしょうか?

茉子を案じて持ってきてくださったんですね。ありがとうございます。

 

「わかりました。ありがとうございます……んぅぐっ!? ううぅ、これは、苦い……楽器のマークのアレが美味しく感じるレベルですね……」

 

「常陸さんがそう言うって、多分よっぽどだよな……」

 

「茉子はある程度いろいろと耐性がありますからね。私たちはヤバそうです」

 

お父さんが作った「ご飯という名のナニカ(ありえないもの)」を無表情で食べれるくらいの耐性はありますから。

分かりやすい感想をありがとう、茉子。

 

「それで、夕莉君が直々に現場に赴いてくれるというのは?」

 

「私であれば確実に射影機を使用できますし、芳乃さんより使い方も分かっています。関わりになった方が、あちら側に近づいてしまうのをただ見ているだけというのは……もう嫌なんです」

 

もう、いや。

つまり、不来方さんは過去に……。

 

「……本当に申し訳ない。こういった事に君を巻き込むまいと思っていたのに」

 

「いえ、お気持ちだけで。私が自分から言い出した事ですから」

 

「ありがとうございます。ご都合の良い時間はありますでしょうか?」

 

私がそう不来方さんに確認すると、不来方さんは少し考えられて。

 

「祟り神が現れるのは夜、というお話でしたでしょうか?」

 

「そうですね。基本的に現れるのは夜になります」

 

穢れが溜まった強力な個体は話が別のようですが、普段程度の祟り神は夜に限ります。

太陽の光が嫌いなんでしょうか? あるいは夜に高まる何かが?

 

「……であれば、夕方の少し前に武実神社に伺う形はいかがでしょうか?」

 

「夜に山に入るための準備って事ですか?」

 

有地さんの質問に対し。

 

「いえ、霊が最も現れやすいのは逢魔ヶ時――昼と夜の境界、現世(うつしよ)隠世(かくりよ)の境目が曖昧になる時間になります。完全に陽が落ちていない時間であれば、祟り神の危険性も幾分かは減らせるでしょう」

 

『成程。こちらとあちらの境が切り替わる時、より引き込まれやすくなる、か』

 

これは初耳ですね、丑三つ時より夕方の方が現れやすいだなんて。

先程このお店に向かっていた時がまさにその時間帯だったわけですけど、そういう考え方があるんですね。

 

今の日没は大体18時30分ごろ。であれば。

 

「分かりました。それでは……17時くらいでいかかでしょう? その時間には舞の奉納を終わらせておきます」

 

「不来方さんはワタシがお迎えに上がりますね」

 

「いや、常陸さんは一人でここに辿りつけるの?」

 

「……き、気合いで……」

 

「私が迎えに行っても構わないよ。何かがあった時のために武実神社に詰めるつもりでいるから」

 

「恐らくですが、次以降はここに来る事は簡単だと思います。私一人でお伺いする形でも問題ありませんが、そう言って頂けるのであればお待ちしています」

 

「ありがとうございます。それじゃあ茉子、お願いできる?」

 

「はい芳乃様。それではワタシが案内するような形で、みづはさんも来ていただく形でもよろしいでしょうか?」

 

「常陸さんのテストという事かい? ふふ、分かったよ。16時30分頃には支度しておこう」

 

「明日は朝の鍛錬だけにしてもらうか。ああそうだ、鍛錬ついでにさっきの写真を祖父ちゃんに見せてあげたいんだけどいいかな?」

 

『玄十郎のやつ、どういう反応をするだろうな? 拝み倒されんか心配なんだが……』

 

さっきのお写真の事もありますし、今日の事もお伝えしておくべきですよね。

 

「それであれば、私も玄十郎さんとお話させてもらっても? 状況は私からお伝えすべきだと思いますので」

 

「……朝、大丈夫?」

 

有地さんに真剣に心配されている……。

まあすでに2回ほどだらしのない姿を見せてしまっていますから仕方がないですが。

 

「ちゃんとワタシが起こしに行きますから大丈夫ですよ。それでは朝食は早めに支度をしておいて、ワタシと芳乃様も有地さんの鍛錬に付き添わせていただくとしましょう」

 

『吾輩が耳元で「かごめかごめ」を歌ってやってもよいぞ?』

 

「それはまた、一日憂鬱な気分になりそうですね」

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

「本当に、夕莉君には申し訳ない限りだね」

 

あれから神社に戻って、夕食の席でお父さんに今日の事をお話した第一声。

本当にその通りね。

 

「安晴さんは不来方さんの事をどのくらい知っているんですか?」

 

「あまり僕から話すべきではないと思うから部分的にね。以前は……山が観光名所になっていた町に住まれていて、高校を卒業された後に先日も話した骨董喫茶店で働かれていた、という事かな。そこの店主さんが占いや霊的な案件もお仕事とされていて、夕莉君もそれを手伝っていたという所だよ」

 

「穂織の外にはそういった事をご職業にされている方がいるのね」

 

「相当に珍しいと思うよ? 俺がパッと聞いたら間違いなくインチキを疑うし、今時そういった話は本当に聞かないから」

 

『だが吾輩を写せる射影機持ちだ、疑うべくもない……ああ、茉子。あの写真は?』

 

「あっそうでした、すっかり忘れてましたね。安晴様、こちらを」

 

「うん? なにかな?」

 

茉子がお父さんに今日撮った写真を渡して。

――お父さんが見た事ないくらい目を見開いてる。

 

「……こっこれは、まさか?」

 

「ムラサメ様よ」

 

「ここまでハッキリ写ってると、これが心霊写真だなんて誰も思わないですよね」

 

『うっぐぅ……非常に複雑な気分だ。射影機に写る以上は認めざるを得んが』

 

写真に写っているのがムラサメ様と分かった途端に――お父さんが拝み始めちゃった。

 

「ああ、ムラサメ様。このような高貴なお姿をしていらっしゃる……」

 

「ええぇ? 奇抜で破廉恥なコスプレ巫女装束を来たペッタン幼刀じゃあ?」

 

『いい度胸だ、ご主人。今晩はわらべ歌のめどれーといこうか』

 

「よく有地さんもそこまで言えますね……」

 

「普通なら名誉棄損にセクハラで裁判案件ですね。ムラサメ様のやり返し方も中々エグイですが」

 

いくらなんでもそこまで言います? わりと有地さんの倫理観は普通の印象だったんですけど。

ああ、これ以上お父さんをほっとくとここで祝詞(のりと)奏上(そうじょう)し始めそう。

 

「これは明日玄十郎さんにもお見せするから回収するわよ」

 

「ああ、すまないすまない。いや、僕が知る分だけでも秋穂(あきほ)の代からずっとお世話になり続けているムラサメ様をようやく目にする事が出来た感動で、ついね」

 

『見よご主人! 正しく吾輩を敬っておる者はこういう反応をするものだ!』

 

「これは明日の祖父ちゃんが不安で仕方がないなあ」

 

「そこは同意しますね。さて、いい加減お話を元に戻しましょう」

 

茉子が場をリセットしてくれました。こういったところは助かります。

そういえば。

 

「お父さんは射影機って知っているの?」

 

「しゃ、えい、き? 聞いた事はないと思うけど?」

 

「さっきのムラサメちゃんを撮ったカメラの名前だそうです。ムラサメちゃんは名前も知ってたんですけど」

 

「カメラ……ああ、アレの事かい。射影機というんだね」

 

名前は知らずとも、存在は聞いていた感じかしら。

 

「僕も詳しい事は知らないよ? 普通では見えないものが見えるカメラで、骨董収集されている方には相当に珍重されている品物だって事は聞いているけど」

 

「珍重されているという事は、知っている方は知っている感じですか……安晴様、ちなみにどのくらいのお値段かってご存知ですか?」

 

ムラサメ様も以前ご覧になっているという事は、一台だけではないんですね。まさか同じ物?

壊してしまった時の事を考えると聞いておくべきなんでしょうか。

何となく不安な気が……。

 

「う~ん、大体という数字も難しいけれど……うちの土地を全部売っても足りないんじゃないかな? その手のオークションですら半端には手がつかないって聞くくらいだから」

 

「そんなにするの!?」「そんなにするんですか!?」

 

「朝武の土地って、確か朝武家は穂織の大地主なんですよね!? 町一つ買えるレベル!?」

 

『そうだぞ、8割方朝武の土地と思ってよい。昔はそれこそ全てだったしな』

 

そっそんな……私のお小遣いの数十倍ってレベルじゃないじゃない!!

 

「……ア、アレに触るのが別の意味で怖くなってきた」

 

「同感です。そんなとんでもないものをお持ちだったとは」

 

「レトロカメラ自体結構人気があるからある程度の高値はって思ってたけど、さすがに想定を通り越してるなあ」

 

いろいろ聞いておきたい事があったのに、それどころじゃない考えが私の頭を駆け巡って。

不来方さん、実は超お嬢様だったりしますか?




という感じで、芳乃は射影機を使用可能です。理由はすぐに分かります。
写真自体開発されたのが江戸末期なのに、明治時代でポラロイド並みの性能。
麻生博士すごい。

次は翌日、引き続き射影機の設定説明になります。
次回も楽しんで頂けたら嬉しいです。
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