零 ~イヌツキの少女達~   作:もふもふたぬきねこ

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こちらからがチャプター6.5のメインです。

今回もよろしくお願いします。


60. いわく生まれし時代

ザザッ

 

 

今までより、ノイズも視界のブレも大きい。

 

景色が変わった……なんだか久々に見たような感覚ですね。

これまでが外だったからか、視界が狭く感じる。

 

「さっきまでと、何だか違う感じでありますね? 時代劇っぽいと言いますか」

 

今度はレナさんが傍にいらっしゃる……レナさんのお姿のまま。

もう叢雲様はいらっしゃらないという事ですよね。

 

一方で。

 

「犬神様がいない?」

 

つまり、今から見る景色のどこかにいらっしゃるという事になる。

 

平安末期の最初に見た時とは違い、今度は建物の中からの景色。

建物の様式が少しガッチリしたような。時代が変わったのかな。

 

 

 

今度こそ、ムラサメ様が導いて下さった場所。

という事は、多分この頃が。

 

 

 

「そんなものが、この穂織に在ると本気で申されるのか?」

 

「然り。偽りを語る理由もございませぬ」

 

あれは。

 

「ミウさん!? ……いや、ユーリさん?? でもないですね。どなたでしょう?」

 

「結構お二人とも似ていらっしゃいますからね……あちらの女性がみづはさんのご先祖様ですか」

 

私たちがいるお部屋にいたのは……なんとなく、何処か見覚えのあるお顔。

恐らくですけど絶対霊ですよね。あの時の相貌を元の姿に戻されるとああなるんでしょう。

 

つまり、あのお方が「駒川(こまかわ)磯良(いそら)」さん。朝武に仕えて下さった最後の陰陽師。

そしてもうお一方が。

 

氷室(ひむろ)久世(くぜ)灰原(はいばら)、そして我ら黒澤が守り人を担う皆神(みなかみ)(うつろ)陽炎(かぎろい)日上(ひかみ)黒キ澤(くろきさわ)。お越しになられまするか? 陽炎の山などはここからも近い。すぐご案内出来ましょう」

 

穂織に黄泉の門を伝えた存在――妖の女の原形? であるらしい黒澤さん。

まさに今、穂織に黄泉の門がある事が伝えられたわけですか。

 

「…………陽炎の山にて、巫女が柱に立てられている話は伺っております。しかしまさか、天災ではなく黄泉の門なる物を封じるためだと?」

 

「陽炎と日上の巫女は、夜泉に還る死者の心を鎮め、御山に御澄(みすみ)を満たすためのもの。他所とは少々趣きが異なりまするが、隠世と現世の狭間にて柱として眠り続けているのは同じと言えましょう。もっとも、この穂織の地は(はたて)零域(れいいき)に通ずるわけではなさそうな様子。氷室の封じる門か、皆神の村にて鎮めている虚に近いものでしょう」

 

「…………ヨシノ。意味、分かりますか? わたしにはさっぱり……」

 

「ごめんなさい、私も完全には分からないです。各地で「あちら側」への入り口を守られているという事でいいんだとは思うんですけど」

 

知らない言葉がかなり多い。不来方さんや雛咲さん親子ならお分かりなんでしょうか。

ただ聞いた感じでは、穂織にある黄泉の門は言葉通りの物のようです。

 

今のお話だけで、穂織を含めて最低でも七か所。世の中魔境が多いんですね……。

 

「我々には、何が出来ると?」

 

「まずは入口をお探しにならねば。穂織は山の気が強いご様子、その力で抑えられている事もあるやもしれませぬ。奉られている神がいらっしゃるならば、お伺いを立てられるといいでしょう。儀に関しては門が如何なるものか次第。見つけられた際には、我らの村にいらして頂ければ」

 

そう仰られて、黒澤さんはその一室を去られた――と思ったところで。

 

 

 

その黒澤さんと、私たちの目が合った。

 

 

 

「無事だった? 朝武さんは何だか雰囲気変わってるみたいだけど」

 

「へっ?」

 

「ミウさんですか!?」

 

「私も混じってしまっているようなんです……」

 

「不来方さんもいらっしゃるんですか!?」

 

今度は合体ですか……?

 

 

 

 

 

 

「ここまで中々しんどかったですね。まあレナちゃんも朝武さんも無事でよかったですけど」

 

「わたしのせいでこんな事になってしまって、申し訳ないであります」

 

「レナさんのせいではありませんよ。それで不来方さんと深羽さんは今まで?」

 

「こちらの身体に憑りつくような形で、黄泉の門のような場所を延々と回っていたような感じでした……気が滅入りましたね」

 

私たちの経緯を説明し終えた後、今度は不来方さんたちのここまでの流れを伺ったんですが。

 

 

 

「一部は聞いてたんですけど、儀式の内容が意味不明にも程がありますね。巫女の八つ裂きに使った縄を注連縄にするだの、仲の良い双子の子供を地獄の穴に放り込むだの。匪詰めの日上山も大概でしたけど、まだマシだったんですかね。私ですら見るのキツイくらいでしたし」

 

「なんでニッポンの方はそんな事思いついたんですか……?」

 

「そこは一括りにしないで下さい。私じゃ絶対思い浮かびませんから」

 

「同じ巫女でも、扱いは随分な違いでしたね。刺青の巫女の方の例は……今でもゾッとします」

 

 

 

話を聞くだけでも気が滅入る内容。そんな現場をずっと回られていたとは。

そして一言に門を封じると言っても簡単ではないご様子。お話を伺っただけでも鳥肌が立つなんてものじゃありません。想像を遥かに超える……思い付きもしない、凄まじい痛みを伴う方法。

 

これはアレなんでしょうか? 不来方さんと深羽さんの心を壊しにかかったけど、失敗したような? 流石人外魔境を生き抜いた方々。

 

穂織ではムラサメ様がその役を担われている可能性が高いわけですが。そのムラサメ様は当時の事をあまり覚えていなければ、身体もご無事で、しかも生きていらっしゃる。

一体どのように封じられたのでしょう?

 

「姉君様の名は「叢雲」様、ね。それで、その朝武さんの先祖って有地君にそっくりだったんですよね? 有地さんが乗り移られていたわけではなかったんですか?」

 

「そう、だと思います。間違いなく私たちはその方の視界に入っていましたけど、一切反応されませんでしたから。有地さんが中にいたわけではなく始祖本人だったのだと思います」

 

「こちらのどこかにいるんですかね? わたしの夢だというのに、全然わかりませんよ?」

 

「だといいんですけど……」

 

こっちでの茉子にも会えていませんけど、一度も会えていないのは有地さんとムラサメ様。

ムラサメ様は綾さんであるとして、有地さんの先祖である勘太郎さんは足軽の可能性が高そうではあります。

 

 

ザザッ

 

 

また景色が飛んだ。ここは……。

 

「武実乃山の、中?」

 

あの沢ですね。この時代もほとんど姿を変えていないようで――

 

と思えるだけなら、よかったのに。

 

 

 

「……これが当時のナマクラですか。ここにあるのは文字通りって感じですけど」

 

 

 

元々社か、祠でもあったんだろう場所。少しだけ瓦礫が残っていた。

その傍に、打ち捨てられて錆びてしまった……叢雨丸()()()だろう鉄の棒。

 

そんな……。

 

 

 

『貴様ら人間共の信仰など、この程度のものだ』

 

刀を見つめる私たちの背後から、最近よく聞くようになったハスキーな声。

白い姿に戻られた犬神様。首に玉石を掛けられている。

 

その声には怒りと、少しの悲しみが感じ取れた。

 

「いつからなの?」

 

『季節が二百と巡らぬうちだ。姉君の御力で子は生まれ育つようになっても、人間共から戦が無くなるわけもなし。元より姉君がお与えになったのは戦の為の武具。ならば子を守るよう祀られる(つるぎ)であろうが、血を流すための道具として使おうとする阿呆はいくらでもいる』

 

「当時の方々にとって、必要だったのは守り刀ではなく戦うための刃だったわけですね……」

 

「コマさんの力では、どうにもならなかったんですか?」

 

『その呼び方は止めろ。我が名代として遂行できるのは、あくまで姉君自身への信仰に対する守護のみ。加えてその御身は人間に与えられたもの。安易に手を出せば、今度は我も理に触れかねん。それこそ姉君の願いは途絶える』

 

犬神様が祟り神であった頃、初めて言葉を交わした際に「二度目の誓い」と仰られていた。

あの時の子が初代朝武となり、穂織を治めたならば叢雨丸は崇め奉られる物になったはず。

始祖もあの時の女性が神だったと気付いた。だからこそ社があった。

 

ならば、叢雲様の想いと信仰を後世に繋ぐと誓ったに違いない――「当時」は。

 

つまり、これが。

 

「……一度目の誓いの、末路ですか」

 

『何を動揺している? 何度も言っているであろう。人間などこんなものだと』

 

かつて町をあげて崇めるべき象徴となった御神刀は、戦の世には単なる刃物でしかなかった。

遂には山中に打ち捨てられた、ただの錆びた鉄の棒にされてしまった。

 

……私たちが憎まれても、仕方がない気がしてきました。

 

でも現代において、叢雨丸は有地さんという使い手が現れる以前に姿を取り戻されている。

ここで全てが途切れていたわけじゃないはず。

 

「犬神様は、この時代には?」

 

『今は我が身から見下ろすのみ』

 

「という事は、この後に……あぁ、成程ね」

 

深羽さん……いや不来方さん? ええいややこしい、一旦黒澤さんとしましょう。

黒澤さんが顔を向けられた先には。

 

「あのお侍さんより細身で、背の高さも多分同じでありますね?」

 

「朝武の始祖よりも更に有地さんにそっくりですね。ですけど……」

 

「伺ったレナさんの例のように、乗り移っているわけではなさそうですか。マズいんだけどなあ……早めに有地君を探したいんだけど」

 

平安末期に見た光景の焼き直し。

あまりいい身なりとはいえなさそうなお百姓さん? の方が、同じように木刀を持ってこちらにいらっしゃる。私たちは間違いなく視界に入っているはずだけど、特に反応はされず。

いつの間にか犬神様は姿を消された。干渉してはならないんでしょう。

 

そして、木刀を振るための準備をされている中で。

 

「……うん? このようなところにかような刀が?」

 

錆びた叢雨丸に気付かれた。錆び切ってしまって、まるで太めの木の枝のよう。

長さ太さを見た限り、この叢雨丸はまだ太刀(たち)のようですね。

 

「かつては利刀(りとう)だったと見えるが、随分と古い品のようだ。研いだとて、流石に使い物にはならぬか。しかしこのまま地に打ち捨て置くには忍びないな……」

 

そういって叢雨丸を手に取られ、社があったところに置かれようとした――寸前。

 

 

 

「なぬっ!?」

 

「「「おおー」」」

 

 

 

ホントに驚いた感じの有地さん姿のお百姓さんと、何となく展開を予想をしていた私たちの伸びーっとした声。

 

叢雨丸が光を放ち、錆びを吹き飛ばしてあっという間に本来の姿を取り戻した。

叢雲様が、朝武の始祖に手渡された時のままの輝き。

 

「これは妖刀の類? しかし、それにしては陽のような輝き。俺の手には負えぬか、御屋形様のお言葉を仰がねば……一雨来そうだ、急ぐとしよう」

 

お百姓さんは鍛錬を中止し、持っていた荷物を包んでいた風呂敷を木刀に巻き付けて叢雨丸と共に抱え、走って山を下って行った。

 

「これが話に聞いた、最初の叢雨丸の使い手の誕生って事でいいんですかね?」

 

「本当は二人目だったんですね」

 

「あの人が初代鞍馬になる「勘太郎」さんであるのは間違いなんでしょう……もうムラサメ様が宿られているんでしょうか?」

 

「この時代のマサオミはカンタロウって言うんですね!」

 

後の玄十郎さんや有地さん、鞍馬君と小春さんに繋がる方。

あの方が、この後をどうやって生き抜かれたのか。

 

不来方さんの疑問……ムラサメ様が柱になるのは花守の儀の際。

なら、今はまだ魂に反応された程度という事でしょうか。

 

 

 

 

 

 

「そんなもの、この俺が治める穂織にあるものか。耄碌したか? 磯良」

 

「私とて何も疑いを持っておらぬわけではありませぬ、義和様。ですが何をする事もなくというのは……」

 

「我が栄えある朝武に仕える陰陽師一族も堕ちたものだな。そんな物よりとっとと金山を探せ。或いは大理の石を守っているなどという蛮族共との戦の支度をせよ。愚弟に功などくれてやるものか」

 

「……かしこまりまして」

 

 

 

穂織のお城。といっても、絵に描いたような天守閣があるような立派な物じゃない平城ですね。

穂織にもちゃんとお城があったんだ。そういえばお堀になっている場所があったっけ。

 

で。

 

「ホント絵に描いたような小悪党面よね、割としぶとく生き残るタイプの。女性の方は私達がマヨイガで戦った絶対霊と同じ方ですね。やはりあの姿が成れの果てだったんですか」

 

初めて今回の騒動の大本であろう、長男こと朝武義和を見た。

何処にでもいそうな、ただのおじさん……というほどでもない? 30~40代?

特に目立たない、まあ確かに偉人になりそうというよりは小悪党的な感じの男性。

そんな人が、磯良さんを小馬鹿にしたようにあしらって去って行った。

 

その結果が、どんな末路を引き寄せるかも知らずに。

 

「はぁ……御屋形様は軍備の最中、やはり若様にお話をせねばならぬか。唯でさえお忙しい所を心苦しくはあるが、このままにしてはおけぬ……降って来たか。何かの凶兆でなければ良いのだが」

 

深いため息をついて、女性――駒川磯良さんは移動を始めた。

 

「パワハラってやつでありますね!」

 

「この時代ではそれが普通ですけれどね。上の命令が絶対でしょうから」

 

「それを是としない立身出世を考える人が大勢いた時代でもあるんですけどね。後を追いましょう」

 

ここで情報を手に入れないと、今後の解決に繋がらないかもしれない。

レナさんと深羽さんとの合流という目的は果たせましたけど、それでも夢から覚めないこの状況。

叢雲様のお導きなのかもしれない。

 

 

 

「信じられぬ、と言うよりは信じたくないと言うのが正しいな。この穂織に千引(せんびき)の岩*1があると」

 

「あるいは、という所でございます。しかし守り人は御山の向こうの陽炎の山にも、峠を隔てた先の日上の山にも門があると語っておりました。季節が変わる間もなく確認が取れる程度の距離……単なる虚言であるとは思えませぬ」

 

到着した部屋で執務をしていた私の先祖、次男こと朝武実利は――

 

「安晴さん? 神主さんよりは目がクッキリって感じですね」

 

「ヨシノのお父さんは、結婚される前にもヨシノのファミリーだったという事でありますか?」

 

「そうなのかもしれませんね……私が見ても、そう思うくらいですから」

 

お父さんに似てた。

お父さんは比較的糸目気味でいつも微笑んでる感じだけど、こっちの人は目は開いていて険しい感じ。お父さんが思いっきり怒るとこんな感じになるのかもしれない。

 

「呪いの岩だとすれば、市井に流布されておる殺生石(せっしょうせき)を思い浮かべる。周辺は父上より退去の命が出て数年は経っているが、今も狂い人が現れるそうだな」

 

「仰る通りで。ある程度の範囲は退去させましたが……年々狂い人が現れるのは、やはりあの岩に近い地に居を置く者達にございます」

 

「目星は付いた。問題は儀式に必要と聞く「水」「花」「姫」だ、これは具体的に何を指す?」

 

「「花」は柱と聞いております。「姫」は花を祀る者――私の娘共でも担えるのかもしれませぬ」

 

「水は?」

 

「…………狛神様にお伺いを立てたところ、この穂織をお守りくださっている、と」

 

「この地の湯か、そうでないのか。狛神様がお応えなさったと言う事は、余程の力があったと考えられるが。水害の話も父上の代でも聞かぬ、これが守りの御力だったという事か?」

 

「やっぱり、叢雲様の信仰は完全に失われてしまっていたんですね」

 

「ですけれど、マサオミのそっくりさんがサムライブレードを握ったらきれいになったんですから、まだムラクモさんのパワーは残っているという事でありますね」

 

「この時代の日上山ってどうだったんですかね? さあ……私は歴史についてはさっぱり……」

 

これで私の先祖、後の当主である実利にも話は伝わった。

 

 

 

――此処からの展開は、大体予想が出来る。

 

 

 

「お話し中の所、失礼致しまする。若様、母上」

 

「みつはか。いかがした?」

 

「はい。百姓の者が山中で奇妙な太刀を手にしたと。元は朽ちておったようですが、触れた途端にあたかも研いだばかりの如き輝きを取り戻した代物との事です。俄かには信じられぬ話でしたが、確かに百姓が持てる刀と思えませぬ」

 

「その刀は?」

 

「こちらに御座います」

 

髪型が違って眼鏡がないせいで合わせにくいけど、みづはさんに似ていらっしゃる磯良さんの娘さん。この方が、後に封印の儀を引き継がれた方なんでしょうか。

 

傍仕えのお侍さんの手には、叢雨丸が。

 

「なんと。このような刀が山中に落ちておったと? 美しき直刃(すぐは)。我が刀、法眼丸をも凌ぐ気を感じられる……待て。祖の遺された書の中に、刀を記したものが確か……」

 

「始祖様が御遺しになったと聞いた書に御座いますか?」

 

「父上より伺った話では、かつてこの地にあった古き社に関する記述、そしてこの穂織の由来に関するものだったと。とはいえ先の乱にて社は失われておるようだし、この地の神であられる狛神様は其方が祀っている。故に道祖神の類かと思っておったが、それでは刀と結びつかぬ……これか」

 

後ろに回って、こそっと見せてもらう。

実利が開いた古い書。やっぱりミミズ文字で読めませんね……と思っていたのに。

 

「……読める?」

 

「ヨシノ?」

 

「こっちの時代の何かに寄って来てるのかな……先程芳乃さんから伺った、叢雲様の加護の力かもしれません」

 

普通に読める。現代仮名遣いに変換されるような感じでもなく、何故か自然に。

その中には、確かに叢雨丸と思わしき刀に関する記述があった。でも叢雲様に関する記述は曖昧にされているようですね。叢雲様も自身の正体を隠されていましたし、それに配慮したんでしょう。

 

「雨の力を帯び、命を繋ぎし護りの剣。それ程の物が失われた社に本当にあったと? 世が世であれば、盛大に祀っておれただろうに……正に今の叢雨を、この刀が呼んだとでも?」

 

「叢雨……まさか」

 

「どうした、磯良。申してみよ」

 

「申し訳ありませぬ。狛神様より口にする事を禁じられております故、平にご容赦を」

 

「そう言うならば致し方あるまい……先程の「水」の話、結びつくと思うか?」

 

「お導きなのかもしれませぬ。みつは、その百姓とやらは?」

 

「聞く話もあるかと思い、待たせております」

 

「名は?」

 

「勘太郎と」

 

「通せ。会うとしよう」

 

「かしこまりました」

 

そうして、一同は去って行きました。

 

「オーナーさんのお話はこういう事でしたか。あの刀の褒美として鞍馬姓を貰ったと」

 

「ニッポンは面白いのですね、こういう感じでファミリーネームをもらえるとは」

 

「諸説あるみたいですけど、誰でも名字を名乗れるようになったのは恐らくこの後の時代からですからね……この後は武実神社の原形の建立、穴掘り、ムラサメ様の捜索ですか。茉子は何処に居るんでしょう? 有地さんは恐らく勘太郎さんなんでしょうけど」

 

「該当する方が生まれているかも分かりませんから。ま、あの子なら上手くやるでしょ」

 

 

ザザッ

 

 

また景色が変わった。さっきの場面からどのくらい経過したんだろう。

遠目に見えているのは――

 

「あれが、昔の武実神社ですか」

 

「建てている途中みたいでありますね。なんであそこにしたのでしょうか?」

 

「実利さんのお話の中に「殺生石」という言葉はありましたが……って事は、やっぱアレなのか」

 

建てている途中の武実神社。朝武実利と磯良さんが話をしている様子も見える。

そこまで時間は経っていないみたい。

 

殺生石……九尾の狐伝説の話ですよね。有地さんが仰るには「穂織の表の歴史」がこれに近かったというお話だったでしょうか。

傾国の美女に化け、隣国を扇動していた九尾が討たれ、しかし呪いを振り撒く石となった。やがて僧侶に砕かれ、各地に飛び散る形で力は弱まった、みたいな。

 

つまりあそこに殺生石があるわけですが……って、まさか?

 

「申し上げます!」

 

大きな声に思考が中断される。みつはさんですね。

 

「何事か」

 

「義和様が御主導の山体掘りにて……地の底深くに通ずると思わしき亀裂が見つかったと」

 

「何!? それは(まこと)か!?」

 

「先程、茉莉(まつり)様よりお伝え頂きました。続けて「花」を急ぎ見つけよとの旨、義和様より命が下られたとの事で市井に向かわれております」

 

「……分かった、兄上にはこちらから話を伺う。みつはは茉莉に付け。あれは優秀ゆえ下手など打たぬ、兄上側だけで進められては調整が利かん」

 

「かしこまりました。失礼致しまする」

 

みつはさんが、まつりさんとやらを追いかけられた後……磯良さんが天を仰がれた。

これが、犬神様から伺った例のお話。

 

「怖いもんですよね。こういう嫌な事はバカのやる事で苦労せず繋がるんですから」

 

「ミウさんは何か聞いていたので?」

 

「私たちがこちらの夢に来る前、犬神様から経緯を聞いていたんですよ。適当に掘った穴が正解を引いてしまったと」

 

「Oh...ビギナーズラック? ニッポンではボタンからゴマ、でしたか?」

 

「瓢箪から駒、の事ですか? 近いかもしれませんね」

 

「磯良、何とかなるか?」

 

「通ずる道が出来た以上、そちらも閉じねばなりませぬ……私の居を移します。さすれば義和様もご納得されるでしょう。こちらの主導は娘達にさせまする。柩籠の体を成す事は出来るかと」

 

「「姫」の役まで担えるか? しばらく身動きが取れぬという話だったが」

 

「…………申し訳ありませぬ。断言は」

 

「分かった。清めの支度はこちらで進めるとしよう」

 

深い悩みを抱えた表情で、実利と磯良さんが去られました。

これで山に建てられたのが、あの「マヨイガ」なわけですね。

 

 

 

さて。

 

 

 

「……場面が変わりませんね。何処に向かえばいいでしょう?」

 

こちらの夢は叢雲様の意思が多分ある。まだ私たちが知るべき何かが?

あれ以降犬神様にも会えていない。別行動されている可能性が高そうですが。

 

「今はまだ大した形がないでしょうけど、マヨイガ側に向かいましょうか。今の私達は霊体の様なものとはいえ、夢の中でもあの男に不要に近づくのは良くない気がしますから城は避けましょう。町の方は行き先が分からなさそうですし……今の穂織なら夕莉さんも覚えられそうですね。まあ……確かに」

 

そこで納得されてしまうのが不来方さんらしいというか。

朝武義和に近づかない方が良さそうなのは同意ですね、外からの呪詛が宿っているならこちらに干渉してくるかもしれません。

 

マヨイガが現世のような規模になっていないなら、見つかった穴を窺えるかもしれないし。

*1
イザナギが黄泉への道を塞いだ岩




実はあまりテキストが原作に存在しないこの時代を想像で書いた結果、
原形がなくなりました。
予定では10話少々の戦国時代編をよろしくお願い致します。

本筋に特に関係のない用語解説

氷室:初代zero
久世:三作目(刺青(シセイ)(コエ)
灰原:四作目(月蝕(つきはみ)の仮面)
皆神:二作目(紅い蝶)に関わる人物、或いは舞台です。

次から話が動きます。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
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