零 ~イヌツキの少女達~   作:もふもふたぬきねこ

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茉子の存在が無かったら、この作品は絶対に成り立たない。

今回もよろしくお願いします。


63. 芳乃、はじめてのおつかい

「とんでもない事になったわね……」

 

「レナさんと深羽さんを起こすだけのつもりが、問題全ての大本に繋がりそうですからね。15年余分に生きてきた甲斐があったというものです」

 

 

 

茉子の隠れ家に戻って来て、こちらの夕食を頂きました。中々戦国の食事は新鮮でした。

 

まだ頭の整理がつかない。

これまで歩んできていた人生が、穂織の歴史が、まさか今の私たちの影響を受けていただなんて。

 

 

 

「ムラサメ様のお話の通り、直近の未来が決まっているのであれば……ワタシ達の最優先事項は、この時代でしか得られない情報を現世に持ち帰る事です。不来方さんや深羽さんが行われてきた「過去視」を、実体験しているようなものなんでしょう。それがマヨイガの突破や最後の玉石の欠片の場所、封印の手段に繋がるのだと思いたいですね」

 

「なんだか茉子は大人ね。私、そこまで冷静に考えられない……」

 

「そりゃあ既に精神三十路越えですからね。散々悩む時間はありましたし、落ち着いても来るものですよ。残念ながら、未だに殿方とのお付き合いはゼロですけど……馬庭さんのお気持ちがよく分かります。恋愛って何なんでしょう? 美味しいんですかね?」

 

いや、うん、まあ……あれ?

 

私たちも含めた女性陣で、お付き合いの経験があるのって恐らく深紅さんだけなんじゃあ?

こう言うと失礼だけど、一番そういうのが苦手そうなイメージがあるのに。

ご縁ってすごいものなんですね。旦那様の詳細が謎極まりない(死者とか意味不明)ですが。

 

私は(仮)を外したら、有地さんとどうすればいいのか正直分からない……深紅さんに相談?

 

「なんにせよ髪をもう少し染められるまで、暫く芳乃様はここに居て頂いた方が良いでしょう。髪型も工夫しないと姫様に見間違われますから。引き続きワタシの方で動きます」

 

「ごめんなさい、何の役にも立たなくて……何か手伝えるかしら」

 

「ここで家事の練習でもしてみます? ガスも水道も電気もない環境ですから、忍びのワタシじゃなければ現代人は火起こしすら苦労します。あっちに戻ったら、料理なんて楽勝って思えるかもですよ。ワタシも助かりますし」

 

ははは……ホント、親子そろって家事はからっきしだものね。料理くらいはしたいかも。

 

「さて、()はマヨイガと城へ向かいます。目付役である以上、日々の報告は義務なので。先程の通り、芳乃様はこちらで静かに待機を。時計はありませんが、日付が変わる頃には戻ります。灯りを」

 

「分かったわ。お疲れ様、茉子」

 

口調が大人になった茉子が、灯りを持って茉子が出て行って。

 

 

 

……静か。新月で真っ暗なのも相まって、本当に静か。微かな虫の声だけ。

此処には電子機器どころか電気も水道もガスもない。時計すらない。これが戦国の夜。

 

茉子とムラサメ様にはどんな夜だったんでしょうか。

黒澤さんなんかは、とんでもない場面を目にされてきていたようですが。

というか、大丈夫ですよね? まずは上手く逃げられているといいんですけど。

 

 

 

 

 

――ドシッドシッドシッドシッ

 

 

 

 

 

何だか遠くから、人間でもただの獣でも出せないような重い足音が近づいてくる?

こんな音を出せるのって。

 

 

 

『ちっ。姉君の御印を塗り潰すとは、真に無礼な小娘だ』

 

 

 

ですよねぇ……。

 

訪問者は案の定犬神様。何となく身体に光が灯ってる。

いきなり舌打ちしないで下さい。仕方がないじゃないですか。

にしても、直接何を伝えにきてくれたのでしょう?

 

っと、先に確認を。

 

「レナさんは無事なんですか?」

 

『山は我が身そのもの、姉君はこの地そのもの。手間ですらない』

 

レナさんは武実乃山のどこかにいるご様子。

まあ食べ物も飲み水も簡単に手に入るのでしょうし、今は幸い暑くも寒くもない。

犬神様がついていらっしゃるなら大丈夫でしょう。

 

ただ、手間じゃないならこっちも助けて下さいよ!

 

「黒澤さんの事は御存じないですか?」

 

『知るか。どうせ夜泉子だ、死んだところで呪詛をも飲み込んで生き返ろう』

 

深羽さんの扱いがどんどん人間離れしていきますね……。

 

 

 

さて、聞けるならこっちから話をさせてもらいましょう。

 

 

 

「ムラサメ様から伺いましたが……この時代の出来事は、500年後の私たちが関わっているそうですね?」

 

『我は手を出していない。姉君のご意志を継ぎ、今は穂織を見下ろすのみ。貴様らの身に起きている事は、姉君の縁とその呪具(射影機)に依るものだ』

 

「では……()()犬神様に関しては」

 

『姉君が御姿を失われた時と同様、現世の記憶が混在している。だが()()()()()との対峙に比べ、事情は以前より把握している。これまで曖昧だったからな』

 

じゃあ今、この瞬間の事も。

 

「当時、話している相手が未来の存在だと……ご存じだったんですか?」

 

『だから面倒と言った。因果は複雑怪奇、我も合点に時を要した。畜生に堕ちた我が(おのれ)を取り戻し、何のつもりかあの白児に宿り、貴様らに手を貸す。朝武の小娘が磯良の傍に居らぬ事に疑問を抱かず、わざわざ我が身を晒す――本来の我ならあり得ぬ思考にあり得ぬ縁。姉君の御導きに加え、呪具による因果の歪みよ。この場は貴様と白児という異物が住まう境界、他より先までの記憶が鮮明となる』

 

私が神頼みをした段階で、犬神様は現世から過去の事情に繋がる事を悟っていたんですか。

 

ここもムラサメ様のお住いのように、一つの境界を形作っている。

戦国と現代が交わる常世になっているから、犬神様も話が出来るんですね。

 

 

 

つまり――深羽さんを取り除こうと日上山で抵抗はしたけど、夜泉子パワーで結局予想通りの道になった上に神格まで戻ったと。深羽さんヤバいですね……。

射影機が神の因果すら捻じ曲げるとは、流石の麻生博士も想定外だと思いたい。

 

 

 

『無駄口が過ぎた――罪人は御身を手にし、永久花は選定された。だがあの小娘は、姉君の名どころか存在すら知らぬ無礼の身。姉君の御力を受け入れるに値しない。貴様が代われ』

 

ああ、私が巻き込まれるのはやっぱりそういう経緯なわけですね……。

 

「どうやって入れ替われと? 幽閉状態らしいんですが」

 

『はぁ……愚物の血筋を一時我が身で惑わせる。その程度は自然の摂理の枠。あの小娘は誘いにくいが、罪人と繋がりの深い春という娘共なら容易。その間に貴様が務めよ』

 

神様にため息吐かれた。本気で面倒くさそうなのが刺さる。

 

春……お春ちゃん。この時代の小春さん? を、要するに神隠しに遭わせて。

この時代の姫様も何らかの方法で退かすと……小春さんの神隠しはこれが縁? でもないか。

 

それと。

 

「花守の儀で何をすればいいか、全然知らないんですけど?」

 

『阿呆め。貴様ら銀髪の娘共が、唯一真面(まとも)に継いできた事すら忘れたか』

 

またアホ扱いしてくる……分かりましたけど。

まあ、この時代から伝わって来ているだろうもの、私が誰よりも自信を持って巫女姫としての役を務められるものは一つしかない。そういう事ですね。

 

 

 

神楽舞を、奉納すると。

 

 

 

『時が来るまで大人しくしていろ。無駄に騒ぎを起こせば、余計に我が動く事に繋がる。面倒を掛けさせるな』

 

言いたい事だけ言って、犬神様は一瞬で去って行きました。

もうちょっと言い方ありません? 人間を嫌っているのは知ってますけれども。

 

「はぁ~~……」

 

こんな事、本当は思っちゃいけないけれど。

 

「憂鬱だぁ……」

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

「ただいま戻りました。流れというのは恐ろしいものですね」

 

 

 

この時代で肉体を持って、凡そ半月。

花守の儀を明日に迎える日の朝、昨晩は戻らなかった茉子が帰ってきた。

重要な儀式の寸前だから、特に忙しいわよね。

 

さてと。

 

「お疲れ様。流れって?」

 

「姫様に関する人員配置です。芳乃様から聞いた「お春ちゃんの神隠し」、これが他の姉妹達にも影響している様で、昨晩からゴッソリいなくなって本家の方ではてんやわんやです」

 

確かに娘「共」と言っていましたか。

実際にはみんな姫なわけですから、集団失踪なんて大問題よね。

 

「ですがワタシは消えていない。朝武茉莉は一応義和の手の者であり裏の人間ですから、流石に堂々と姫様の護衛に付く事は今までなかったんですが……」

 

「今回は例外になった、と」

 

「はい。此度の神隠しをも退ける存在という事で、磯良様の助言で今日明日と姫様の傍付きに指名されたようです。ワタシが傍にいれば、姫様も神隠しに遭わないって考えですね。ですのでこの後すぐに戻ります」

 

「でも、この時代の朝武芳乃(姫様)と500年後の朝武芳乃()は入れ替わる歴史。つまり――」

 

「ワタシが姫様を誘拐して、芳乃様をその立場に据えるという事でしょう。とんでもないですね」

 

確かにとんでもない。

今まで近づけていなかった存在に近づけるチャンスが訪れて、しかもそれが案の定刺客みたいな行動を取る予定にあるのだから。磯良さん、人選間違えてますよ?

 

「どこかのタイミングで姫様を城から出しますから、芳乃様はそこからの代役になります。基本無言で頷いてもらえれば。ワタシも傍仕えですからフォローできるかと」

 

「大変助かります」

 

「いえいえ、それが従者というものです」

 

こちらに来て半月。今日以降の事を考えて胃が痛かったけど、いい加減覚悟を決めるしかない。

ちなみに、火を起こすどころか煙すら立ちませんでした……せめて火打石があれば。

 

「長男の方は?」

 

「実利様を陥れる計画を練る事に夢中で、基本どうでもいいって感じかと。知ったとして、神隠しの責任を実利様に被せるとかじゃないですか?」

 

ブレないなあ長男……。

 

「磯良様の入れ知恵がないはずですから、難しい事は考えていないでしょう。ただ……穴の奥で何をやっているかは分からないんですよね」

 

未だ未来の記憶は持っていなさそうか。

性格を考えれば、覚醒した直後から全然違う行動を取り始めそうよね。

 

「結局勘太郎さん……有地さんは?」

 

「未だに勘太郎殿のままです。何にしても筋書きは変わらないはずですから、特別考えずにいきましょう。途中まで儀式は進み、そこからバカ父上が儀式を無茶苦茶にする流れは知っているんです。芳乃様は柩籠で神楽舞を奉納されるわけですけど……その時のワタシの行動が読めませんねぇ。どうやって警備を突破されるのやら」

 

まだ有地さんは来ていない、か。

ある意味安心できる要素でもあります。長男の呪詛が集まっていない証でもありますし。

 

 

 

「では、これ以降の予定の詳細をお伝えします。まずムラサメ様こと綾さんへの宴は、もう昨晩に行われていて。今はみつは殿が付く形でバカ父上の屋敷……もうマヨイガでいいですか、の一室でお眠りになられています。今晩磯良様がお会いになるはずです」

 

宴の晩の直後に人柱になったわけじゃなかったんだ。一日間があったと。

うん。もうマヨイガでいいと思う。

 

「勘太郎殿は明日、芳乃様の神楽舞の前に叢雨丸での演武を奉納されます。武実神社の神楽殿に該当する場所ですね。その都合で勘太郎殿も俗世には触れず、今は城に詰められている状態です」

 

「私が話す機会ってあるの?」

 

「今の所はないですね。いくら姓を賜ると言っても、姫様とは身分に差があり過ぎますし話す必要性もありません。男性ですから尚更ですね。あくまで儀式に必要なのは神気を纏った叢雨丸と芳乃様の神楽舞、そして綾さんのお身体と柩籠ですから」

 

そっか……何かのきっかけで、有地さんが目覚めたりするかなとか思っていたんだけど。

 

「で、ここからです」

 

「今日の姫様の予定ね」

 

「姫様は今晩磯良様からの祈祷を受けるために、日が沈んでから籠でマヨイガに向かわれる事になっています。ですので、誘拐できるのは清めの部屋から籠に乗られるまでの間だけです。本来の予定時刻より早めに姫様をお出ししてお眠りいただき、姫様をお運びする予定ですね」

 

「そのズレた時間分から私が入れ替わって、清めの部屋で待機する……茉子はこの後お城に詰めっぱなしなのよね? 茉子がここに来たタイミングで連れて行ってもらう形? それとも今から城内に潜伏?」

 

「それが厳しそうなんですよねぇ」

 

ええぇ……そこは流れに乗らないの?

 

「今日の警備はいつもより厳重ですから、芳乃様だけを城内で潜伏させられる保証がありません。天井裏とかで全く動かず半日近く息を潜めているとか出来ます?」

 

「出来ないです……」

 

「なので、その時が来るまで城の近くに待機いただく形になりますが……護衛のワタシと姫様()()になるタイミングは、神楽舞の為の正装に着替える時しかないんです。こちらの姫様はあの服自力で着られませんから、予定ではワタシが手伝う形なわけですね。ですが芳乃様なら一人で着付けられますから、その時間分だけ空白を作れます」

 

あの服って……現世の神楽舞の正装と同じ物なの? ならまあ着られるけど。

でも稼げる時間はその分しかない。つまり――

 

「私は自力で……そのタイミングにそこに居なきゃいけない」

 

「そういう事です。今から城の近くまでお連れして隠れて頂く事は出来るんですが、実際に侵入して頂くのは芳乃様お一人だけです。経路と人員配置は把握してありますから可能であるはずですが、予定外があった場合はアドリブで切り抜けて頂くしかありません」

 

「…………また胃が痛くなってきた」

 

「ワタシだって心が痛いですよ。一人で買い物すらした事ない芳乃様に、いきなりス○ークの真似事とか。本当なら最低でも肘当て膝当てヘルメットを付けさせて、1秒たりとも視線を外さないよう尾行したいくらいです」

 

「心配性なのは知っているけど、過保護すぎじゃない?」

 

護衛というより、親の行動よねソレ。

蛇の真似事って何だろう?

 

 

 

「いいですか芳乃様!」

 

「はっはい?」

 

「現代でどこかのお店にコソッと入るのとはわけが違うんですよ? 叱られるんじゃなくて、何かあったら飛んでくるのは警察じゃなくて侍で、手錠で拘束どころか問答無用で斬り捨てられる可能性も十二分。最初にこの時代でワタシと遭遇した時の別バージョン、芳乃様が不審者である事には違いないんです。姫様のお顔と同じ人がいるはずのない場所に居るんですから取り調べは確実、傍付きであるはずのワタシが居ない状態なんてあり得ないんですからワタシも拘束。何らかの形で姫様が助けられて城に戻されて、芳乃様と顔を合わせたら歴史が終わり。ワタシが解放されなかったら姫様が救出されずに歴史が終わり。その辺が回避されたとしても牢屋行きの――」

 

「長い長い長い! 言いたい事は分かったから! 私が悪かったわよ!」

 

 

 

割と真面目に心配されているのは分かった!

でも振れ幅が転倒(擦り傷)から斬り捨て(人生終了)まで広すぎるって!

一応今私が生きてるんだから、救出失敗による歴史の終わりは流石にないでしょ!?

 

「あまりに急な話だったので、準備が間に合わなかったんです。申し訳ないんですが、なんとかよろしくお願いします」

 

「うん、茉子の心配はよく分かったから。気を付けるわ」

 

まあ確かに、茉子なしで何かをする事もほぼない。

そんな私の初めての潜入が、一人で戦国のお城とかね……。

 

予定外も予定外だもの。今までも茉子に頼りっぱなしなんだし、頑張ろう。

幸い顔は姫様そっくりらしいし、誰かに遭遇してもそれっぽく演じればなんとかなる?

 

「芳乃様が侵入される経路からワタシが姫様を抱えて出てきますから、入れ替わりで入ってください。着付けが終わる頃には合流して、それ以降はお傍にいられるはずです」

 

「マヨイガで磯良さんに会った後はお城に戻って、明日の朝に武実神社に移動して」

 

「そこからはワタシも含めて誰も芳乃様に近づけません。その頃には既にムラサメ様は柩籠――聖域の中に運び込まれています。そこに芳乃様だけで向かって頂き、神楽舞を奉納いただく形です」

 

そこは良さそう。問題は儀式がどうおかしくなってしまうかなのよね。

 

 

 

犬神様のお話しのままであるなら、叢雨丸は義和に持ち出されるはず。

でも神社の中は一種の常世だ、犬神様が知っているのは神社から出た時の様子かもしれない。

叢雨丸が安置されるのは神楽殿、私がいる予定なのは聖域。バッティングはしないはずだけど。

 

本当にそうなるかは誰にも分からない。ここで神様には頼れない。私たちに託されたんだから。

この時代における、私だけのお役目なんでしょう。

 

 

 

「時間がありませんので、まずは移動を開始しましょう。向かいながらでもお話は出来ますから。こちらの笠を」

 

「了解よ。よろしくね」

 

 

 

 

 

 

まあ、うん……。

方法がないのは、分かっているんだけど、ねぇ……。

 

「一番間近の潜伏先が、まさか厩舎の馬房の端だなんて……」

 

 

ブルルルルルッ

 

 

「ひっ!?」

 

馬なんて間近で見るのは初めて。時代劇で見るようなやつじゃない。思ってたより可愛らしい。

この時代にサラブレッドはまだいないんでしたっけ?

 

でも怖いものは怖い! なんなのその唇剥いたみたいな口! 笑ってる!?

 

オマケに。

 

「臭いがキツイ……」

 

動物慣れしてないせいか、余計にきつく感じる。

催したらここでしてって言われたけど、絶対ムリ! 色々と! この時代真っ当な紙もないのに!!

これ、城に入った時に臭いでバレない? 着替えられるタイミングでとっとと着替えないと。

 

この状況は仕方がない。茉子が急ごしらえで整えてくれただけでもありがたい。

私だけじゃ城に近づく事すら出来なかっただろうし、今日明日は特に厳重なんだから。

 

 

 

さて、此処からやらなきゃいけない事を整理しておこう。

 

 

 

茉子から手渡された地図。

経路自体は詳細に描いてもらってある。問題なのは分かりやすい目印がない事。

 

――何せ、移動するのは床下なんだから。

 

扉だとか角だとかじゃなくて、柱の本数を数えて進まないといけないらしい。

大体の場所まで行けば上に出られる蓋が分かるだろうけど、間違えれば迷子。

小さくキズは付けてもらっているらしいから、それを見逃さないようにしないと。

 

射影機を使えば、壁越しでも人の位置は大体分かる。

それを駆使して、予定通りの人員配置である事を願いつつ辿りつくしかない。

 

マヨイガへの出発は大体逢魔ヶ時の頃。陽が見えないけどあと1時間少々。

つまりは、もうすぐ茉子がお姫様を抱えて目の前を駆け抜けていくはず。

 

なんとか着替え終わって、マヨイガまで移動できれば一旦は良いけれど。

そこからは茉子ですら未知の状況。磯良さんに何をお話されるやら。

 

義和がこの時代の姫を狙ってるって話も聞いてる。

実の娘が護衛に付いてる状況で襲ってくる事はないと思いたいけど、出来る限り会いたくない。

 

二人きりの瞬間が生まれたらと思うとゾッとする。

有地さんの時みたいな感じになるはずがないのだから。

 

 

 

タタタタタタタタタッ!!!

 

 

 

軽くて速い足音――来た!

 

目の前の仕切りの隙間を一瞬で通り抜けていく、茉子こと茉莉さん。

お姫様抱っこで袋に入った何かを抱えてる。誘拐は成功したみたい。

 

その茉子と、一瞬目が合った気がした――「あとはお願いします」と。

 

 

 

やるしかない!

 

 

 

侵入口は……開けてもらってある。あそこから床下へ……ええぇ!?

 

()っまっ!)

 

分かってはいたけど、小柄な部類だろう私がしゃがんで頭がギリギリ。

匍匐だと城の中に砂とかを持ち込んじゃう。この姿勢で足首で進むしかない。

茉子はどうやって通過してきたの? 蛇ってこういう事? 犬化を使った?

 

床下の構造は想像してたのと違う。

狭い空間に何本も柱が立ってる感じを想像してたのに、最早迷路。建築の基礎的な。

ある意味迷わないけど、違う場所に進んだら時間が掛かる事になる。

 

「方向的にはあっちね。目印は……これか」

 

柱が入り組んでるし暗いしで見通せないけど、大体の方向は把握した。

後は頭上に居るんだろうお城の人達にバレないよう、音を立てずに進まなきゃ。

念のために射影機を構えながら行こう。

 

 

ドッドッドッ……

 

 

床上の警備の人の足音なのか、自分の心臓の音なのか分からなくなってきた。

息くらいは大丈夫だろうけど、それでも息がしづらい。

早く、広くて明るい場所に出たい。

 

ありがたい事に明るさ補正もあるらしい射影機が無かったら、暗くて道どころじゃ――

 

 

 

(……待って待って待って待って待って待って待って!?)

 

 

 

フィラメントが赤色! 敵性の幽霊!? 怨霊!? 朝武義和が来た!?

方向は……通って来た後ろ!? 何かが追って来てるの!?

 

 

 

なんとか身体を捻じって、そちらに身体を向けた。

 

 

 

射影機のファインダーから見えていたのは、朝武義和じゃなかった。

多分見えていたとして、そうだったのならそこまで怖くなかったと思う。

 

 

 

 

 

 

そこにいたのは。

不来方さんの夢の中で、「骨董・喫茶 くろさわ」の前で遭遇した、女性の霊のそっくりさん。

 

――柱をすり抜けて、四つん這いで、ありえない高速で接近してきてた。

 

 

 

 

 

 

(っっっっっっっっっっっ!?!?!?!?!?!?)

 

前回は全力で声にならない声で叫んだ。今回は僅かばかりに残った理性で唇を噛んで塞いだ。

 

これも磯良さんの怨霊の仕込み? 開いた門の影響? 単なる浮浪者の霊? 私の夢?

 

何だっていいわよ!! 七四式!!

 

 

『……出してぇ! 出してよぉ!!』

 

(勝手に出てってくださいよ知りませんよこっち来ないで下さいいいい!!!!!)




床下の怨霊は、読者の方の何人が知っていらっしゃるやら。
ご興味があれば「刺青ノ聲」「四つん這いの女」で調べるとすぐ分かります。
(もちろんホラー要素なのでご注意ください)
ある意味偉業の存在です。

主役のはずの芳乃より茉子が非常に忙しい戦国編。取り敢えず茉子に任せればいい。
夕莉と深羽は何処へやら。

次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
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