零 ~イヌツキの少女達~   作:もふもふたぬきねこ

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まったく筆が進んでおりませんが、
せっかくの千恋*万花で桜の季節に話を進めないのはなぁという気がしますので、
ストック分放出です。

ゆっくりになりますが、
よろしければ引き続きお付き合いくださいませ。

今回もよろしくお願いします。


66. 語り継がれぬ理由

「御神様方がお前を護っておられる。安心して務めを果たせ」

 

「姫様。ご準備は整っておられますでしょうか」

 

「ええ、よろしいかと。それでは……茉莉姉様」

 

「はい。ご案内致します、()()様」

 

「………………お珍しい」

 

茉子がどれだけ呼び方を徹底していたか分かりますね。

みつはさんが目を丸くされていらっしゃいます。

 

 

 

翌朝、穂織の城にて。

 

一夜を姫様の代わりとして過ごしました。

よくまあこんな幽閉状態で三カ月近くも。数時間でも疲れたのに。

その努力をぶち壊しにしてしまって、本当に申し訳ない限りです……。

 

なお本当の姫様は、様子を確認しに来た茉子によって追加で気絶させられた様子。不憫すぎる。

ちなみに髪の毛先が少しだけ銀色になって来ていたようです。私と縁が繋がったのかな。

 

昨晩、実利さんやみつはさんには大いに驚かれました。いきなり銀髪ですもんね。

茉子の執り成しで、「既に磯良様も把握している」の一言で事なきを得ました。

お春さんたちを含めた、神隠しに遇った皆さんも戻ってこられたとの事。よかったです。

 

不安なのが……未だに義和の姿が見当たらないらしい事。どう動くつもりなんでしょう?

結局勘太郎さんにも有地さんの意識は宿されていないとの事。もっと後なんでしょうか?

 

 

 

 

 

 

「私が御案内出来るのはここまでになります……ワタシはここでお待ちしていますから」

 

「ええ。行ってきます――守りはよろしくね、茉子」

 

再び籠に乗せてもらって、今度は大名行列のように旧武実神社とでもいうべき場所へ。

御簾で隠されてなかったら今以上に緊張してましたね、籠の外に出た時は息が詰まりました。

これこそ本物の姫の在り方というものなんでしょう。

 

父である実利さん以外、みつはさんも、茉子も、勘太郎さんも、皆頭を下げている。

今頃磯良さんは、最も恐ろしい黄泉の門の寸前にいらっしゃるのでしょう。覚悟が違う。

 

ここから先、進めるのは私だけ。この時代の人も、現世から来たみんなも居ない。

でも私の本当の役割はここから。先の事は知っているとはいえ、やる事をやらないと。

 

 

 

最後だけ茉子になった茉莉さんに送り出され、神楽殿の中へ。

 

 

 

現世の武実神社より暗く、飾り気のない社の神楽殿。

中には……見覚えのある岩に注連縄。その前には抜き身の叢雨丸。

 

やっぱり、()()()()はそういう事ですか。射影機で撮ってみると何か見えるかもしれない。

 

右手に灯明(とうみょう)*1を、左手に神楽の鉾鈴を。

袂に忍ばせている射影機も一緒に、聖域――柩籠の中へ。

 

 

 

ここは……現世で先日お父さんと入った時と全く同じ。

構造は勿論、木材が新しいって感じもない。500年間全く変わらなかったんだ。

一つ、また一つと扉を開ける。鈴を持ったままじゃちょっと開けにくい。

 

そう思いつつ進み続けて、最後の扉。

 

ここだけは、お父さんじゃなくて私が開けたんだっけ。

あの時は両手で引いたけど、その時の感触は今も覚えている。片手で十分。

 

何の取っ掛かりもなく、スムーズに横に引かれる。

 

最後の部屋の中には、あの時と同じ。

長さ2メートル程度の直方体の木枠。その中に。

 

 

 

お眠りになられているムラサメ様のお身体、綾さん。そして磯良さんの残された文。

 

 

 

胸は上下していない。これも現代と同じ。既に時が止まっているんでしょうか。

今考えるべきじゃない。私の務めを果たしましょう。

 

 

 

部屋の隅に灯明を置き、小さな火で僅かに照らされただけの中で。

 

「すーっ、はーっ。すぅ~~っ、はぁ~~……よし」

 

ここまで緊張するのは、初めて人前で舞った時以来かもしれない。

でもそれは、言い方は何だけど500年続いてきた巫女姫の日常でしかなかった。

 

 

 

今日は違う――穂織の命運がかかっているのだから。

 

 

ザッ

 

 

「ふっ」

 

 

しゃらん

 

 

神楽舞を、奉納する。

戦国時代に来てから一度もやっていなかったけど、現世では十年以上欠かさずやってきた事。

 

 

しゃらん

 

 

肩から腕、手首から指先まで。

動かすのではなく、意味に沿って動くように。袖が舞うように。

 

 

しゃらん

 

 

身体が覚えている事だけど、それに任せる事はない。

自分の代で終わらすのだと、毎日真剣にやって来た。

 

 

しゃらん

 

 

初めて奉納した時と同じ。

一つ一つ、動作の意味を浮かべるように。淀みなく、神への感謝と願いを込めて。

 

私の足音と、身体が空気を切る音と、神楽舞の鈴の音が数分間柩籠をを満たして。

 

 

しゃらん

 

 

「…………ふぅ」

 

――奉納を、終えた。

 

 

 

これでいいはず、なんだけど……。

 

 

 

「……何か、起こったりはしない? これで終わったの?」

 

やるべき事はやったはず。だけど何も起きないのは流石に不安になる。

他にも何かやる事が? お告げとかあったりしないんですか?

 

そう思った、ところで。

 

 

 

「来るぞ」

 

 

 

お眠りになっていたムラサメ様から、小さな呟きが聞こえた気がして。

 

 

フッ

 

 

灯明の火が消えた……ええっ!? 真っ暗なんですが!? どう帰れと!?

あと何が来るんですかムラサメ様!?

 

と、パニックになる……余裕もなかった。

 

 

 

バン!

 

 

 

遠くから、木と木がぶつかる音。

 

 

 

バン!

 

 

 

考えられるのは。

 

 

 

バン!

 

 

 

私が閉じてきた、ここまで通じる扉が。

 

 

 

バァン!!

 

 

 

入り口側から順に、勢いよく開かれているという事で。

 

 

 

 

 

 

スパァン!!!

 

 

 

 

 

 

(ようや)く会えたぞ!! 芳乃ぉおおおっ!!!」

 

「ええええええええぇぇぇっっっ!?!?!?」

 

 

 

 

 

 

「ああぁ……不安になって来た」

 

芳乃様が神楽殿の奥に去られて幾ばくか。実利様に付いていた者達は城に戻っていく。

ワタシといえど、これ以上近づく事はできない。故に中の様子は全く不明。

 

こちらに来て凡そ15年。最初の頃以来、こんな弱気になる暇もなかった。

やはり芳乃様と関わってしまうと、ワタシは心配性になるんですね。

昨日の潜入作戦なんて胃に穴が開くかと思いましたし。

 

「茉莉様」

 

声を掛けられた。最近になって何度か聞くようになった声だ。

 

「勘太郎か。昨夜は突然の演舞の奉納、御苦労だった」

 

「恐縮にございまする」

 

「して、何用か?」

 

「は、儀が終わり次第褒美を頂けるとの事で、それまでこちらの警邏に回るようにとご指示を。もし何かあれば御刀を持つ事も許されております旨、お伝え致しまする」

 

合流と緊急時の行動に関する連絡でしたか、必然ですね。ホウレンソウは大事です。

 

「心得た。十全に努められよ」

 

「御意に……一つ、お尋ねする事をお許し願えますか?」

 

このタイミングで?

重要な儀式の最中な事を、彼も重々認識しているはずだけど。

 

「許す。いかがした?」

 

「ありがとうございます。実は昨日、手前は実利様の姫様に偶然お遭いしたのですが……その際「ありちさん」と、そして「鞍馬殿、また後ほど」とお声がけ頂きました。その意をご存じであれば、お聞かせ願えませぬか。どうにも耳に残っておりまして」

 

ああー芳乃様のポカかー……そりゃあ気になる。どうしましょうね?

にしても、耳に残っているという事は有地さんの意識が少しは…………うん?

 

 

 

――はぁ、なんのつもりやら。

 

 

 

「話は後だ。バレぬよう構えていろ」

 

「はっ」

 

走って近づいてくる足音が複数。それなりに重装備。

見えてくるのは大して戦に出ていない者が持つ、この時代には少々華美な鎧。

ウチ(バカ)の手の者。そりゃそうですよね、実利様がそんな事やるわけはない。

 

 

 

つまりは、そういう事ですかぁ。

 

 

 

「……お前達、何の戯れだ?」

 

「お控えを。これは世子様が命じられた事に御座いますれば」

 

「私はこの儀の警護の全権を実利様より賜っている。父上からは何も聞いていないぞ。何の命をお下しになったというのか」

 

「控えろと申した……これより、真の儀を取り行うとの事。一切を近づけるなとの命に御座います」

 

真の儀だぁ? 一体何を企んで思い付いて実行してるっていうんですかね?

バカ父上の命であろうが、目上の()にその言葉遣いと、刀を向ける意味分かってんのかな?

 

そうでなくてもこっち、隠密(アサシン)ですよ?

 

 

ビュッ

 

 

「真の儀とはなんだ? 首を搔っ切られたくなければ吐け」

 

「ひっ……」

 

大して訓練もせず、意味もなく重い鎧を着た雑兵程度の実力しかない侍大将の首に苦無を当てるなんてわけもない。

反応すら出来てない。後で起きると聞いている侵攻が思いやられる。

 

さあ、さっさと答えてください。時間の無駄。刃を当てていきますよ?

 

「っ……そこの賎民(せんみん)などではなく。真の、水の使い手で、ある、世子様と……花で、あらせられる、芳乃様が、御結ばれになる、と。さすれば、花は更に、御力を――」

 

こいつ等というかあの男はどこまでバカなんですか!?

こんな大事な儀式の最中に、実の姪を襲うつもりか!

 

「――父上は、何処に居られる?」

 

 

つつつ……

 

 

「あっぐっ……社の、中でございますっ……山の穴より遡り、殺生石に続かせた――」

 

しばらく何をしていたかと思えば、昨日までマヨイガの道から逆走して岩の下に穴掘って地上まで繋げてたんですか!? 重機もないのにどんな行動力ですかもう!!

じゃあ既に芳乃様はバカと遭遇を!?

 

 

 

――こんなのに構ってる時間はない!

 

 

 

「勘太郎! やれ!」

 

「御意!」

 

 

ドゴッ! バキャッ!

 

 

「げえっ……」「ごっ!?」

 

鎧を着ていようが関係ない、顎を狙ったいいパンチ、ですねっ! ふんっ!

 

「ぐあっ……」

 

「この者達を捕らえておけ! 勘太郎、付いて参れ! 姫様の元に向かう!」

 

「承知!」

 

 

バァン!

 

 

「…………御刀が、ない!?」

 

あああもう! 持ち出しやがりましたね!

周辺の警護はしていたけど、まさか社の下から来るなんて! 後で何としても塞がないと!

 

「後だ! 柩籠に向かう!!」

 

ご丁寧に柩籠に至る扉は全部開いてる! 何が起きたか悩むまでもない!

急げ急げ急げ急げ!!

 

 

 

 

 

 

「む? 芳乃、その髪の色はどうした?」

 

意外と冷静!? まあ今まで黒髪だったのしか見てないのだから当然かも?

 

 

 

まさか、このタイミングで朝武義和(長男)が突入してくるなんて。

 

 

 

提灯に照らされた顔は、霊体で見た時の小悪党には違いないけど。

喜びやら興奮やら驚きやらが混ざってる。不気味でしかない。

 

最悪な事に、その手には叢雨丸。儀式の進行もそうだし、力が宿っているなら手が出せない。

仮に斬れ味が無かったとしても、殴られたら痛い鉄の棒には違いない。加えて私は普通の身じゃないんだから、どうなるか想像もつかない。

 

「実利めに閉じ込められておったという疲れによるものか? まあ良い! その髪も中々どうして似合っておるぞ!!」

 

そして割とどうでもいい感じにスルーされた! もうちょっと不思議に思いません!?

 

「よしk…………伯父上、何故こちらに?」

 

「お前との契りの為に決まっておる! 愚弟をどう陥れてやろうかと思っておったが、こうして芳乃と俺が結ばれる吉事の前にはどうでもよい事よ! いや、こうしてこの場が設けられた事は、磯良が神とほざく犬とやらの天啓か? 畜生風情でもやるではないか」

 

そんな事あるわけないじゃないですか!

堂々と陥れるつもりだった事を言わないで下さい!

 

 

 

じゃあ何ですか? 結果的に儀式の失敗に繋がったにしても、本当の目的は単に欲望まっしぐらに(朝武芳乃)を襲う為だった?

こんな馬鹿げた真実、絶対後世に残せませんよ!

 

 

 

「なかなか(みやび)な装束だな。脱がせるのが少々面倒そうではあるが……これも最初に与えられた試練という事か!」

 

ポジティブシンキングすぎる! そのままここでヤる気ですか!? 冗談じゃないですよ!

で、叢雨丸を投げ捨てるんですか!? 考え無し過ぎる! 提灯は置くんですね!?

 

 

ガッ

 

 

「なに、記念すべき最初の契りだ。多少の手間も記念となろう!」

 

「ぐぅっ、おっ伯父上、乱暴は」

 

「伯父などと申すな、これから夫婦(めおと)になるのだぞ? 「あなた」であろう?」

 

気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。

全身に鳥肌が立った。これ以上の気持ち悪さを経験する事は今後もないと思う。

 

 

 

床に押し倒された! 流石に体格と力の差はどうにもならない!

深羽さんの夢を見たらしい茉子の気分がよく分かる。というか深羽さんはその後どうされたんですか!? そのままとか絶対あり得ないですよね!?

 

 

 

考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ! とにかく力を溜めろ!

 

――足音!

 

 

 

「芳乃様!」「朝武さん!」

 

 

 

茉子と有地さん……じゃない! 茉莉さんと勘太郎さん! グッドタイミング!

 

「ぬぅ!? 卑賎の分際が神聖な儀を邪魔するな「フンッ!!」どお゛っ――」

 

全身全霊を篭めた膝蹴りが運良くどこかに当たったようで、義和が崩れ落ちてくる。

回避!

 

「勘太郎! 叢雨丸を! 芳乃様、ご無事でしたか!?」

 

「ギリギリだったけど、大丈夫。ありがとう、茉子、有地さん」

 

「マジでギリギリだったね……コイツが朝武長男か」

 

「ええ、これが諸悪の根源……うん? 勘太郎?」

 

「あれ? 常陸さんじゃないの? 朝武さんは朝武さんだよね? どう呼びゃいいんだろ……」

 

という事は? そう言えばさっき呼び間違えたけど、訂正されなかった。

 

 

 

「……有地さん、なんですか?」

 

「ああうん、俺だけど……?」

 

「このタイミングですか。完全に神気を纏った叢雨丸を握られた事で、意識が入られたんですかね?」

 

「その喋り方は、やっぱり常陸さんでいいんだよね?」

 

「はい、常陸茉子です。15年ほど朝武茉莉として過ごしてますけどね」

 

「15年!? そっちも随分長かったんだねぇ」

 

 

 

ああ、私が茉子と再会した時の焼き直しだ。

とにかく、勘太郎さんに有地さんが宿られたようです。ここまで長かった。

さっきの反応を見た限り、これまで義和とは遭遇してない様子。よかった。

 

「有地さんが一番狙われる可能性が高いと聞いていて、心配していたんです。今までは……?」

 

「平安末期くらいで、俺に似た人を俯瞰してた感じ。多分朝武の始祖なのかな? あっ、姉君様の名前! 叢雲姫命(むらくもひめのみこと)? 様でいいんだと思う。 叢雨丸の正体にはビビったわ、マジで言葉通りだったとは。で……俺何かに狙われてる感じなの? また犬神? まあ、あれじゃ罪人って呼ばれても仕方ないよなあ……」

 

じゃああの時、あのお侍さんに宿られていなかっただけで同じ場に居たんですか。

お互いに見えてなかったんですね。

 

「深羽さんの予想では、そこのおバカが有地さんの持っている呪詛を狙ってくると」

 

「あー最後の意識って事か、じゃあコイツに殺されなきゃいいわけね。了解」

 

「叢雨丸を頂いた後はどうされていたんですか?」

 

「戦いまくって、何か姉君様にフラれた流れで小春に似た子と結婚して。で、こっちに来て叢雨丸を拾って、だね。それからは朧気なんだけどとにかく武実神社に突入して、ここまで来たって事くらいかな。ムラサメちゃんの身体がここにあるって事は……もう花守の儀ってやつは?」

 

「今まさにその最中で――」

 

 

 

――せん、みん、風情がぁ……!!

 

 

 

朝武義和が片手で股間を抑えながらも起き上がって来てた――喋り過ぎてた!

手には小刀。その刃の先は……っ。

 

「……お前、ムラサメちゃんに何する気だ?」

 

「舐めた口を利くなぁ!」

 

ムラサメ様のお身体、綾さんの首元。

ここで綾さんが傷付けられたら、どうなるか分からない。

 

「俺と芳乃の契りを邪魔するなど……晒し首にしてくれる!」

 

「お前と朝武さんの契り? 何言ってんだコイツ」

 

私もそう思います。茉子もそう思ってます。

でもこの場では口にしない方が良いですよ!

 

「その刀を寄越せ! それは俺の刀だ! さもなくば貴様のせいでこの小娘が死ぬ事になる! 茉莉! その賎民を取り押さえろ! この俺が直々に首を落としてやる……!」

 

言ってる事はムチャクチャだけど、このままだとムラサメ様が危ない。

どうすれば……。

 

 

 

「はいどうぞ。常陸さん、俺を捕まえててくれる?」

 

 

 

と思ってたら、有地さんが逆手に持った叢雨丸をすんなりと義和の前に。

一体何を考えてるんですか!? 斬れ味がなかったとしてもただじゃ……!

 

「……よろしいんですか?」

 

「大丈夫だから」

 

「くくく……漸く身の程をわきまえたか、いい心がけだ。賎民風情で語れるなら、辞世の句くらいは聞いてやってもいいぞ?」

 

小刀は捨てられ、有地さんからひったくるように叢雨丸が義和の手に。

そして。

 

 

 

「そんなもんねえよ。お前なんかに斬られるか」

 

「ほざけぇええええ!!」

 

 

 

激高した義和が、力づくの構えながらも刀を振りかぶって――見てられない!

 

 

ギィン!

 

 

目を瞑った直後、何がどうなったのか分からない金属同士がぶつかったかのような音がして。

 

 

 

「き、貴様っ…………あ、妖、か……?」

 

何だか怯えが混じったような義和の声で目を開けて。

 

「ただの人間だよ。その刀が使えるだけのな」

 

 

 

何が起きていたかを確認した。

 

叢雨丸の刃は、有地さんの首に触れる寸前まで確かに到達していた。

でも、そこから先は見えない壁に止められているようだった。

 

 

 

叢雨丸は、叢雲様が恋した男を護る為に身を削って授けられた刀。

その刀で、恋した男の身体()を傷付けられるわけがない。

 

 

 

「くそっ……何故斬れん!?」

 

義和が何度も刀を振って、有地さんの頭周辺に刃が近づこうと、絶対にその刃は届かない。

 

「ちぃっ、化け物め! だがまだ使いようはある……茉莉! その妖を抑えておれ! 芳乃! ここで待っておれよ!」

 

そう言って、叢雨丸を持ったまま朝武義和は外へ向けて駆けだした――まだ続きやるつもりなの?

僅かに静寂が続いて。

 

 

 

「ふぅ……さて、この後はどうなるんだっけ?」

 

 

 

淡々とした、有地さんの声が響いた。

 

「流石にワタシも焦りましたよ……斬られずとも、殴打されるとは思わなかったので?」

 

「ありえないでしょ、姉君様が自分の身体から引っこ抜いてまで授けてくれた刀だよ? 当たった瞬間に折れるかなくらいに思ってた。しかもこれ、夢見てるんじゃなくて多分実際に過去なんでしょ? じゃあここで死ぬ歴史じゃないじゃん」

 

「流石、叢雲様に選ばれた人ですね……この後は実利を襲うんでしょうけど、失敗するはずです。有地さんはその後で叢雨丸の回収を。恐らくですが……始まります」

 

「散曄、ですか。こちら側もあのバカの開けた穴から流れ込んでくるかもしれません。具体的な状況が描けませんけど、対処しないと」

 

「穂織が瘴気に包まれるってやつか。とにかく外に出よう。ここじゃ何も分かんないから」

 

そう仰って提灯と、義和が放り捨てた小刀を回収しつつ、有地さんがムラサメ様を一瞥。

 

 

 

「――また、500年後にね」

*1
昔のろうそく代わり。油皿とも呼ばれる




原作零シリーズでの儀式の失敗理由は基本中々重いんですが、
二次ならこんな理由でもいいじゃない?

舞のイメージは某RPGの召喚士様の異界送り。
文字描写は作者の書き力が全く足りません。


週投稿は難しそうですが、確実に進めては参ります。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
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