零 ~イヌツキの少女達~   作:もふもふたぬきねこ

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ねじ曲がり過ぎれば、逆にある程度整理されるもの。

茉子視点からスタートです。
今回もよろしくお願いします。


68. 御伽の起源はこんなもの

ボフン

 

 

「異常は?」

 

「滞りなく。お疲れ様にございます、茉莉様」

 

「……今は茉子で大丈夫ですよ」

 

「もう常陸さんを茉莉様って呼ぶのに慣れてきたよ。あっち(現代)戻ってからも間違えそう。()()のお陰で今は大丈夫だけど」

 

「ワタシも演じているのか素なのか、分からなくなる時がありますからね。あと、ワタシも有地さんの前で極力()()をやりたくないですよ……何でよりにもよって、最悪の痴態を見た人に管理をお願いする羽目に……」

 

「何度でも謝るけどさ、アレが不可抗力だったのは分かってよ? 今の常陸さんだとマジで俺の首飛ばないかヒヤヒヤしてるんだから」

 

 

 

散曄が起こって数日。

 

隣国はこちらに合戦をしかけるべく、出陣してきた。

攻められる前に攻める考えか、攻め落とすなら今という考えか。確認した限り両方。

外から見る分には大した資源もなければ、どこかへの橋頭保となるわけでもないんでしょうけど。

 

 

 

――という知識は、目の前に居るこのお人から。

叢雨丸の銘の話とかもそうでしたけど、ゲーム知識ってすごいものなんですね。

 

 

 

先日の軍議の前に話をした際。

 

『白兵戦は槍メインとして、1543年より前なら鉄砲伝来はまだで火薬や大筒もないなら遠距離は弓か投石、地形を生かすなら落石と……士気を落とすなら火矢と熱湯か。兵力差を考えるなら釣り野伏(のぶせ)的な挟撃……いきなりは無理だよな。騎馬戦なしで俺の兵装が法眼丸なのを思うとどうするべきなんだろ。常陸さん、鎖鎌とか使う?』

 

 

 

という、ワタシでは想像に時間が掛かっただろう戦略が当たり前のように出てくる。

流石に鎖鎌は訓練すらした事ないですね。囮役は慣れていますが。

 

今まで護衛だの闇討ちだのは散々やってきましたけど、合戦への参加は初めて。

忍びの修業にそんなものはありませんでしたから、精々社会の授業程度の知識しかない。

 

ですが、ワタシの調査でこの辺の詳細な地形を知っている人が戦略ゲームの経験値をお持ちの場合、かなり卑怯じみた戦法を採れるようで。実際に平安から武士の時代への変容もご覧になっているそうですし。

ワタシの犬化による情報収集精度も、生身の人間じゃありえませんからね。

 

まあ、人に戻った際の服を守ってもらうために、結局有地さんに見張りをお願いしているわけですが……早着替えの術が無かったらまず頼まない。ああもう……。

 

「あんまりやり過ぎないで下さいよ? 戦上手の穂織なんて異名は要りませんから」

 

「やろうとしてる事、ただのチートだもんな……とはいえ、出来る限りこっちに死人も怪我人も出したくないから、やれる事はやるよ。そうしないとどうなるかは、俺も結構見てきたからさ。夢でもゲームでもないなら尚更ね」

 

後世に残っているほどの、この時代の有用な戦法をあっさり採る事が出来る。

紛れもなく戦の時代に力を発揮したと()()()()()()()()()。酷いカンニングです。

ワタシ達自身にその技能が無くとも、御屋形様や実利様に進言すればそれに近い事は実行できてしまいますから。

 

平安末期の動乱を直に見てきているらしい有地さんも、比較的人への攻撃の躊躇が薄れてきてしまっている。既に現代での逸般人枠に片足を入れている状態。

芳乃様が知ったらどう責任を取ろうとされるやら。

 

「進行ルートはどうなりそう?」

 

「一本に絞れたはずです。偽情報と陥穽(落とし穴)であちらも進みにくいはずですから」

 

「常陸さんも大概ムチャクチャだよね……」

 

「忍者の嗜みですよ。まあこんなのが日常の人間ですから、お陰で朝武茉莉に夫が現れるのは相当先になりそうです。本人には申し訳ないですね」

 

この後に常陸家が存在する以上、誰かと結婚するのはほぼ確定でしょうけど……大名の孫とはいえ、こんな暗部の女を将来誰が嫁に貰ってくれるんですかね?

 

 

 

っと、そんな事より重要事項を伝えないと。

精神安定剤的にありがたい事ではあるんですが、大事な場面で常陸茉子に戻ってしまうのも考え物です。

 

 

 

「それと、これはまだ未確定の話になりますけど」

 

「うん」

 

「あっちの連中にも瘴気の影響が出ています。偶に錯乱したかのような兵が出ていましたから」

 

元々比較的霊感が強い人には、既に浮遊霊が見えているのかもしれませんね。

あるいは憑りつかれやすくなっているのか。

 

「朝武さんや犬神関係の影響がないから、こっちに近づくほどに瘴気を吸ってる感じかな。ならそれ系のありえなさそうな計略でも使えるかも。遅滞戦術も普通より効きそう」

 

「ありえなさそう……妖怪的な?」

 

「あるいは怨霊的な、ね。それじゃあ」

 

「ええ、また後ほど」

 

まずはお仕事しないと。今のワタシのお役目は穂織を生かす事。

本当ならレナさんと深羽さんを起こすだけのはずだったのに、人生って分からない。

 

レナさんは大丈夫でしょうけど、不来方さんと深羽さんはご無事なんでしょうか。

ワタシはまだ一度も戦国ではお会いしていない。お二人が融合しているとかいう、中々に愉快な状況ではあるらしいですが。まあ深羽さんもいるなら大丈夫でしょう。

 

一番不安なのは我が主なんですよねぇ。ちゃんとご飯作って食べられているんでしょうか……。

 

 

 

 

 

 

ボリッボリッ……

 

 

「お米が、まだまだ硬い……」

 

顎が鍛えられそう。茉子が如何に玄米を美味しく炊いてくれていたかよく分かる。

そんな呑気な事を考えられているのも、茉子と有地さんが戦地に向かってくれて、本当の姫の朝武芳乃が城に戻っているからこそ。平和ボケって言われそう。

 

 

 

ちなみにそのお姫様、いきなり城で目が覚めたかと思えば、今度は戦で話どころではなく。

とにかく生き延びろとか言われて大混乱だったみたいです。本当にごめんなさい……。

 

 

 

茉子たちが穂織を発って数日、事前に聞いた話ではそろそろ接敵の頃。

そちらも勿論心配ではあるんですが。

 

「山の方は……見て回るのは難しいわよね」

 

既に私の髪は銀髪に戻った。また染めている暇なんてなし。

仮に染めたところで、歩けるのは市井のみ。山は義和の縄張りに近い。

あれ以来、一切の動きは不明。

 

あの最後の台詞から、何も考えてないとは思えないんですよね。

絶対よからぬ事を考えてるはず。

 

 

 

『一人ボケっと飯とは、呑気なものだな』

「ぶっ!」

 

 

 

いきなりハスキー気味な声を掛けられて、何とか炊いた硬いご飯を吹きそうになった。

 

「げほっげほっ! ……前みたいに歩いて来てもらえないんですか?」

 

『貴様が気付かなかっただけだ』

 

「それは大変申し訳ありません」

 

犬神様が来た。磯良さんのお部屋でお会いして以来ですね。

 

「レナさんはご無事ですか?」

 

『当然だ……と言いたいが』

 

言い淀まれた。

 

『黄泉の影響は強大、山も徐々に瘴気に侵蝕され始めている。故に器が食える草花も枯れれば、敏感な獣達も警戒して表に出て来ん。まだしばらくは持つだろうが、限度はある』

 

という事は、山からの瘴気が穂織に下ってこないのは犬神様が止めて下さっているからですか。

なんだかんだ優しいですよね。

 

「磯良さんや、長男の様子はご存知ですか?」

 

『あそこは常世に染まりつつある。我の手から離れ始め、中は窺えん。後を考えれば生きてはいるだろう』

 

「後、という事は」

 

『近いうち、我は畜生に堕ちる。経緯は覚えておらぬが、愚物が生きていたのは確かだ。磯良が既に堕ちていれば、あそこは当に常世に呑まれている』

 

なるほど。確かにあの絶対霊が生まれていたら、既に形を残せているはずもありませんか。

そして、犬神の誕生も……。

 

「茉子や有地さんたちの様子は分かりますか?」

 

『問題など起こるまい』

 

「今後の歴史を考えれば、という事ですか。まあ有地さんは叢雲様の御力も頂いているわけですし」

 

『あの周辺にはアレが……まあいい』

 

そこで止めないで下さいよ、気になるじゃないですか。

喋っちゃダメ的な物かもしれませんけど。

 

さてと。

 

「それで……こちらには情報共有を?」

 

そうだとは思っていませんけど、ここでわざわざ接触頂けたのは?

 

 

 

『貴様に我の力を与えるためだ、朝武芳乃』

 

 

 

ああ、重い話だった。

 

『恐らく次の邂逅の際、我が首は落ちるだろう。故に今、ここに足を運んだ』

 

「獣耳を頂く、という事ですか。この時代の姫様と違って、今の私は犬神様の御加護を失ったわけではないはずですが……?」

 

『この時代にて、「朝武芳乃」という存在に我の力を与えたという()()が要る。我が力は貴様を生かすという姉君のご意志、山の力。穂織で生きる限り、簡単にはくたばらん』

 

叢雲様の安産の御力に、犬神様の生き抜く力。

このおかげで呪いを受けながらも、朝武家は一人娘のみで500年間血を繋げられたわけですね。

 

『日上山での様子を見るに貴様らの持つ呪具にも作用するようだが、踏み込み過ぎれば肉体もろとも常世の存在になる。既に貴様は時を越えてその呪具を使っている、故に姉君の御力が失われ始めている。先の世で姉君の御身を取り戻すためには、業腹だが何としても貴様を生かさねばならん』

 

うん?

 

「叢雲様の御力が、失われて……?」

 

そう言われて、鏡が無かったせいで見ていなかった自分の髪を、身体の前に持ってくる。

 

 

 

――毛先が数センチ、黒くなり始めている。まるでこちらの姫様と入れ替わるかのように。

 

 

 

銀の髪は叢雲様のご加護の証。

これは射影機を使った分かりやすい副作用、という所ですか。

 

『姉君の御力が失われれば、我の力も消える。呪具の力は薄れ、舞の力は薄れ、あの小娘を見る事も叶わん。容易に傷つき、隠世の声にも飲まれ』

 

「その縁の果ての存在である私も……自害、出来てしまうようになると」

 

『そうだ、それこそ姉君の御意志は途絶える。花守の力も失われ、この地の滅びが定められる。姉君の献身を貴様の下手で無に帰させるなど許しはしない』

 

 

 

私が、私たちが生かされているのは、500年後の穂織において花守の儀を完全に為し、黄泉の門を閉じて穂織が瘴気に沈む未来を回避するため。穂織の未来を生かすため。

その未来に進む為、恐らく義和の呪詛による妨害を受けながらも私まで命を繋いで貰ってきた。

私が生まれ、今この時まで生き残る事は500年前から定められている。

 

故に、私がまだ死ぬ事はない。死ねない。そういう歴史。

その代償に、歴代の巫女姫が寿命を削って来たようなものなのだから。

私が自害を選べた時は、既に終焉以外の選択肢がないんでしょう。

 

祟り神だった犬神様とみんなで戦った際、生きる事を諦めようとした時、ムラサメ様に叱られた事を思い出しますね。

みんなと、ここまで繋いできた歴代の巫女姫達に対する最大の侮辱だと。

 

 

 

本当に、その通りです。

 

 

 

問題は……多分ですが、封印や姉君様方の想いだけの話ではないのでしょう。

そっちの意味でも、私が自害してしまえば()()()()()がある。

こちらはある意味で呪詛なのかもしれませんけどね。

 

「分かりました」

 

『我の額に触れろ』

 

私が触らせてもらうのは初めてですね。

まあ日上山での茉子の時はそれどころじゃなかったですけど。

 

モフッとした触感から。

 

「……っっっ!? あっううんっ……うぁっ、ああっ、こ、れは……っ」

 

久々に感じる。あの、身体中に電気が走る、カイカ……んん゛っ! 感覚が――

 

 

ピョコン

 

 

ああぁ生えましたね、手でもチェック。間違いなく。今一瞬頭に浮かんだワードは認めない。

これで、この時代からイヌツキの姫の逸話が生まれるようになると。

 

今度は獣耳も突然生えるようになるんですね……姫様、頑張ってください。

 

『城の小娘にも縁が出来た。精々生き延びろ』

 

「この耳、出ずっぱなんですか?」

 

『常世の気配か、呪詛が近い時のみだ。常世でその証を失えば、貴様も畜生以下に堕ちよう』

 

仮にも神の御力を授かっている人間。私が常世に囚われてしまえば……考えもしなかった。

絶対に御免被ります。

 

そういえば。

 

「茉子にも既に御力を与えられているんですか? 以前茉子に宿られていた犬神様が、化けられたような犬の姿に成れていますけど」

 

『朝武茉莉は幼少の時に我が身で迷い、常世に踏み入った。現世に帰した際に我の影響を受けている。まさかその縁で中身にあの白児が宿るとはな』

 

既に神隠しに遭っていたと。多分その時から茉莉さんは茉子になったんですね。

茉子と犬神様の縁は、本当はその時点から繋がっていたんですか。

 

『ついでだ、白児に伝えておけ。我が身は山体であり獣、常世からの影響を受けるほどその身は人間でなくなると。事が終われば、あんな口煩い白児は要らん』

 

 

 

そうして、犬神様は姿を消されました。

 

 

 

最初のイヌツキが、(巫女姫)じゃなくて茉子(従者)だったとは。歴史は分からないものです。

常陸家代々の皆様が身体的に優れていらっしゃったのは、各々の努力の賜物は勿論ですけど、そういった理由もあったのかもしれません。

 

でも茉子には伝えておかないと。犬的行動が日常になってしまうのはマズいでしょう……まさか自宅でラフ(半裸)に過ごしているのってそういう? もう手遅れ気味なのかも……。

 

私も改めて獣耳を授けては貰いましたけど、だからといって今出来る事が増えたわけじゃないんですよね。

今は大人しく体力温存に努めましょう。ご飯が更に硬くなっちゃった。

 

 

 

にしても、犬神様は一体何を言いかけたのかしら? アレって?

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

「うわあああああ!!??」

 

「何故だ! 何故兵達が倒れていく!? 毒霧か!?」

 

(あやかし)です! 黒い女の妖に御座います!!」

 

 

 

離れていても聞こえてくる敵軍の声。ハッキリ言って、完全に想定外でした。

ここまで入念に作戦を練って来たのが馬鹿みたいです。ありがたい事ではあるんですが。

これだけ酷いとこちら側も大混乱ですよ。

 

 

 

バッシャァアアアン!!!!!

 

 

 

アッハハハハハァ!! 団体客ぅ!! 撮影の(ぶっ飛ば)し甲斐があるわね!! 射影機ってこんなテンションで使う物だった……?」

 

 

 

有地さんの未来知識を含め、色んな計略を準備して、実行して、足止めして、数を絞って、とうとう白兵戦という所で。

 

突如森から現れた、ボロボロの黒い着物を着た、長い髪を振り乱して、狂笑している不気味な女。

目にした途端、謎の光と音と共に兵がバタバタと倒れていく。ある程度瘴気を吸っているせいか、十分に射影機の作用がある模様。

 

そりゃあ妖の女扱いもされますよ……てっきり本当は銀髪の芳乃様か、金髪であるらしい叢雲様かレナさんだったのだと思っていましたけど。

怨霊より遥かに怖いですもん。隣国的にはこうだったと。深紅さん流石ですね、正解でした。

 

事情を知らなかったらこっちも即座に撤退案件です。

実際、味方の兵はアレを目にしないよう退いてもらってますし。

 

 

 

「アレ……まず間違いなく深羽さんだよね?」

 

「不来方さんも混じられているそうですけどね。大分ストレス溜まってたんじゃないですか?」

 

「もう真面目に絶対霊的存在じゃない?」

 

「本人に言ったら後で社会的に抹殺されますよ。御屋形様方に伝えてきますから、残党の追い立てをお願いします」

 

「マジか、怖え……了解」




ハイテンションの深羽とか、原作じゃありえませんね。

零原作をプレイ済みの方は、紅い蝶の黒澤紗重を想像してください。
笑い声はあんな感じです。リメイク版は綺麗すぎて怖さが薄い気が。

戦国時代編も終盤です。あと3話。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
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