零 ~イヌツキの少女達~   作:もふもふたぬきねこ

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元々は前話と一括りだったので短め。
繋ぎの一話です。

今回もよろしくお願いします。


69. 伝承を見据えて

「あースッキリした!! やっぱり発散先は持っておかないとね」

 

「ええっと……深羽さん、でいいんですよね?」

 

「そうですよ、有地君。ご無事で何よりです、有地さん。もう侍になられて? ああ、この時代では後で苗字を貰うんでしたっけ」

 

「お二人が混じっていると言うのはこういう状態なんですね。精神的には大丈夫なんですか?」

 

「私達は()()の経験があるから、意思と記憶が二つあってもそこまで問題が無いんですよ。常陸さんも無事だったようで何よりです」

 

 

 

大混乱のままに隣国の兵は撤退。

これで穂織に()()()が付いたのは確実でしょうね……。

 

あの地には女の姿をした化け物が居ると。とはいえ、これを真の理由にしては武士の恥。

それをゆがめた結果が回り回って「妖の女の扇動」扱いになるとは。

この時代には既にあった異相の女の御伽が、混じって塗り潰されてしまったんですね。

 

 

 

凡その片付けを終えて、深羽さん&不来方さんこと黒澤さんと合流です。

 

「今までどうされていたんですか? ワタシが合流する寸前まで、芳乃様とレナさんとご一緒だったと伺いましたけど」

 

「あの駄犬がレナちゃんだけ連れて行ったお陰か、カットが変わんなかったせいでこのひと月近く正真正銘のサバイバルよ。役作りに丁度よかったわ。蛇やカエルって、本当に鳥の味がするんですね……虫の食感はもう……その感じだと朝武さんは無事に逃げきれたんですね。良かったですよ」

 

「猿共に見つかる寸前でしたけどね。準備しておいた甲斐があったというものです」

 

可哀そうに、不来方さんは精神にダメージ入ってるっぽい。

虫はワタシにもちょっとキツイ。サバイバルでは貴重なタンパク源なんですけどね。

深羽さんは逞しすぎません? 流石は本格演技派大女優。

 

「それで……俺が無事でよかったって言うのは、朝武さん達から聞いてますけど長男の?」

 

「そ。今や有地君が持っている呪詛が、現世におけるアイツのまともな最後の意識だろうから。ここまで会ってはいないんですか?」

 

「数日前に花守の儀の時に遭遇して、叢雨丸で斬りかかられました。それだけですね。その後で鞍馬姓を貰ってます」

 

「それって、「それだけ」で済む話じゃなくありませんか……?」

 

事実ではあるんですけどね。

 

「確認のしようがありませんけど、取り敢えずワタシ達が最後に見た時までは、日上山で深羽さんが認識されたような気配は持ってなかったものと思います。腹芸が出来る人とは思えません」

 

「この時代ではアレの娘である常陸さんが言うなら、尚更ってとこですか。まさか15年もここに居ただなんて。それで今は……あのマヨイガに籠られている、と」

 

「多分ですけどね。で、歴史の順番的に次に来るのが……犬神の誕生と」

 

「玉石の破壊、だと思います。今はレナさんが持たれているとは思うんですけど……儀式の前日以来、この一週間ほどはワタシも会えていなくて」

 

 

 

穂織に残られている芳乃様と接触されている可能性もありますけど、ここからの流れは想像がつかない。

 

要素だけでも白山狛男神様の斬首と犬神化、玉石の破壊に加えて山中に撒かれる流れ、黄泉の門の本当の仮封印に義和の処刑、磯良様の絶対霊化。そして姫様がイヌツキの巫女姫と呼ばれる時代。

 

ここからも起きる事が多すぎる。ワタシ達もどこまでこの時代に居るやらですが。

 

 

 

私達(黒澤)が関われそうなのは、黄泉の門の仮封印って所ですか。駒川磯良さんが表に出て来れない状況なら、こちらから方法を進言させてもらう形になりそうですね」

 

「そうですね。それであれば穂織に――」

 

「茉莉、勘太郎」

 

「「はっ」」

 

ワタシと有地さんは即座に跪坐。実利様がいらっしゃいました。

 

「御苦労だった。それで……其方が磯良に花守の儀を伝えたと聞く?」

 

「黒澤でございます、朝武実利様。散曄の気配を感じ、遅ればせながら穂織に向かっておりました」

 

「ここまでの道中、苦労されたようだ。散曄はどうにか抑えたと娘から聞いたが?」

 

「穂織の黄泉の門への入り口は一つにあらず、にございましょう。茉莉様から伺った限り、今の封印は実利様の姫君の神楽舞に依るものとの事ですが……隠世の(いざな)いは生者の舞のみで祓えるものではありませぬ。恐らくは……実利様が帯刀されておられるその御神刀を楔とする事になるかと」

 

流石は演技派大女優。それっぽさどころか、気配が真に迫ってますね。

着物がボロボロなせいか、ヤバめな雰囲気すら感じますもん。

 

「これが神の御刀と知っておるか」

 

「私より磯良殿に告げた「水」を冠する神刀、「叢雨丸」とお見受けいたしまする」

 

「分かった、詳しい話を聞こう。茉莉、黒澤殿の世話を。勘太郎は帰還の手筈を整えよ」

 

「ははっ」

 

「かしこまりました……では黒澤殿、こちらに」

 

「よろしくね。お顔は安晴さんなのにあの口調だと違和感がすごいですね。同じ人で正義の味方も悪のトップもやるもんですよ。貴方達も中々堂に入っているんです事。あっちに戻ったらウチの事務所来ない? 多分エキストラはすぐにいけるわよ?」

 

「芳乃様次第ですね。ワタシはこの先も芳乃様の従者ですので」

 

「常陸さんも少しは別の人生考えてみてもいいんじゃない? 朝武さんを振り回す側とかさ。そういや俺の婚約者(仮)話って、全部終わる頃にはどうなってんだろなあ」

 

芳乃様を振り回す……それはそれで面白いのかも。あの方は立場に縛られ過ぎていますから。

(仮)話は貴方方がヘタレでなければ、とうに決まっていたんでしょうけれどねぇ。

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

「お帰りなさい、茉子」

 

「ただいま戻りました、芳乃様。飢えていらっしゃらないようで何よりですよ……その髪はどうされたんですか? 毛先だけご自分で実験を? 随分とナチュラルですね」

 

戦に行っていた人に飢えを心配される私ってどうなんだろう……。

まあ実際、この10日程度は中々ひもじい思いをしていましたが。

 

「ああ、うん。この髪は――」

 

「ちょっとお待ちを。今日はお客様をお連れしてきていますから」

 

「お客様? 私に?」

 

となると、有地さん? まさかこちらの姫様?

 

 

 

茉子の隣に現れたのは……黒い着物に長い髪の女性。

見間違えようがない。

 

 

 

「お久し振りですね、朝武さん」

 

「黒澤さん! ご無事だったんですね!」

 

「芳乃さんもご無事でなによりです。あの時はすみません」

 

まさか戦地で不来方さんと深羽さんと合流できていたなんて。

これも縁って事なんでしょうか。

 

「お二人がいらっしゃったお陰で、戦の被害もほぼゼロに出来ています。ところで芳乃様。こちらにいらっしゃった間に、何か動きは?」

 

「それなんだけど……」

 

「まずは犬耳、ですか」

 

ああ、深羽さんにはほぼ常に見えていたんですものね。

 

「はい。犬神様がこちらに来られて、私に加護を授けられていきました。次に会う時は……自分が犬神に堕ちる時だと」

 

「そう、でしたか。あの犬もそれなりに粋な事をしますね。ちゃんと力は授けていったと」

 

「これでイヌツキの巫女姫フラグも立ったわけですね。まあこれに関しては時間経過でそうなりそうですか……つまりは次に起きるのが」

 

「うん……犬神様が、首を落とされる事、かなって」

 

 

 

この出来事に朝武義和が関わっているのはほぼ間違いない。問題はその経緯。

 

そもそも丸腰の状態だったとしても、あの長男が犬神様の首を落とせる?

正しくこの穂織の神、単なる刃物で傷つけられると思えない。

 

となると、考えられるのは神具。神器。

一番考えられるのは……そのケースを考えたくない。

 

その後も。

みづはさんから聞いた限り、犬神という呪詛は「苦しみぬかせた犬を殺して生まれる」。

これから犬神様が捕らえられて、長く傷付けられたりするという事?

玉石はみづはさんが傷つけられている。つまり物理的に砕く事は可能ではありそうですけど……。

 

 

 

「何かしらイベントが起きないと分からなさそうね。それと……今の穂織ですけど、やはり清浄とはいえなさそうです」

 

多分不来方さんから不安な情報がもたらされました。

 

「表向きは平穏にも思えますけど……日上山の禍津陽のように、重い気配に満ち始めています。何かを切っ掛けに「ありえないもの」を「ありえるもの」と捉えてしまった場合、あっという間に散曄とやらで隠世に呑まれますよ。こっちも急ぎ対策が要りますね」

 

「ですが……多分ですけど、今はまだ対策を打つわけにはいかないんですよね?」

 

「その通り。だって――」

 

 

 

その方法は――現代の武実神社の神楽殿の鞘岩、この時代の殺生石に叢雨丸を突き刺す事だから。

 

 

 

これを行ってしまうと、以降は叢雨丸が使用できなくなる。

それが500年、有地さんが現れるまで続く。そういう歴史。

 

「正しい仮封印は無理ですけど、私達は芳乃さんと違って穂織を出歩けますし、射影機も使えます。事が起きるまでは潰して回る事にしますよ」

 

「よろしくお願いします。私にも……何か出来る事はないのかしら」

 

「現状は難しいですね。いきなり姫様の影武者としては立てられませんし、お春ちゃん達のいる所にも流石に姫様のそっくりさんは置いていけません。誘拐される可能性が高いです。ここに居て頂く以外ではリスクが大き過ぎます」

 

なんというか、花守の儀から離れた途端にぶっちぎりで役に立てませんね……。

 

「芳乃様のこの時代でのお役目は「生き抜いて頂く」事です。500年後の花守の儀では、芳乃様がいなければ何一つ進まないんですから。今はそれを考えてください」

 

「大きな出来事があれば否が応でも関わる事になると思いますから。今は充電のタイミングよ……その髪の色の変化、そういう事なんでしょ?」

 

相変わらず心を読まれてますね。

そういえば髪の色の事を話してなかった。

 

「時代を越えて姉君様の力を使った……その代償みたいなもののようです」

 

「分かりやすいバロメーターですね、真っ黒になったら何もかもがおじゃんですか。暫くは射影機を使われないよう。特に強化レンズはその御力を使うのでしょうから」

 

「これ……多分現代の芳乃様にも影響が出てるんですよね? あっち大丈夫かな」

 

「お父さんが飛んで来てそうね……」

 

自分で言うのもなんだけど、大騒ぎになっていそうよね……。




万葉丸は平気で食べられる夕莉でも、
貴重なタンパク源はダメでした。

戦国編残り二話。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
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