零 ~イヌツキの少女達~   作:もふもふたぬきねこ

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メインの最終チャプター7。お待たせしました。
現代に帰還です。


キャー赤色バー!
ありがとうございます!

だからと言うつもりはないですが、
しっかり完結させたいですね。
体調は見させてもらいつつ、
確実に進めたいと思います。

現在も勿論書き進めているのですが……
最終的に100話いきそうです。
なんという計画性のなさ。


というわけで、最後まで日数はかかりそうですが
お付き合い頂ければ幸いです。

今回もよろしくお願いします。


CHAPTER 7 穂織に咲かせ 万の花
72. 五百年後に芽吹く呪詛


「有地さんっ!!!」

 

叫んだ直後の身体は、やたらと重かった。

肉体があるからか、身体が水に濡れていたからか。

 

 

 

単に、呼び掛けたその本人に、床に押し倒されていたからか。

 

 

 

えっ?

 

 

 

「巫女姫様っ!」

 

「将臣、よせっ!!」

 

「お兄ちゃん!! お願い元に戻って!!!」

 

 

 

巫女姫様という懐かしい呼ばれ方、久しぶりに聞いた老齢の男性と若い男女の声。

鞍馬玄十郎さん、鞍馬廉太郎くん、鞍馬小春さん。

現代に居るはずの三人の声。

 

 

 

もどってきたの?

 

じゃあ、このめのまえにいるひとはだれ?

 

 

 

まさおみ、おにいちゃん。ありちさん、ありちまさおみさん、有地将臣さん。

春休みから、ずっとウチに居てもらっている同年代のクラスメイト。叢雨丸の使い手。

私が知っている限り、最も誠実な男性の一人。

 

先ほどの出来事において、寸前に私を庇ってくれた人。

 

 

 

じゃあこの、何かの欲望に塗り潰されたかのような目は、何?

 

 

 

――芳乃、お前は俺の(おんな)

 

 

 

私の心のなにかが折れていく感覚が全身を支配し、同時に目の前の顔が降ってくる。

 

 

 

「すみません有地さん!!」

 

 

ドウッ!!

 

 

顔と顔が接触する寸前に、今までで一番聞きなじみのある声が耳に飛び込んできた。

同時に目の前の顔も横に吹き飛んだ。横から誰かの蹴りが入った模様。

 

とっとと起きなさい、朝武芳乃!!!

 

「茉子!?」

 

「芳乃様、目覚められましたか!」

 

「巫女姫様、ワシの後ろに! 女将も下がって居れ!」

 

「しかし大旦那様!!」

 

おのれ、なんだ貴様らは!

 

「これ以上はよせ将臣! マジでシャレになんねえぞ……なんつう力してんだ!!」

 

「鞍馬君はそっちの腕を……くそっ若さの差か!? 累は妹さんを見てろ!」

 

「廉兄! 何とかお兄ちゃんを止めて! お兄ちゃんしっかりして!! 目を覚まして!!!」

 

「小春さん、これ以上近づかれるのは危険です!」

 

 

 

茉子に蹴り飛ばされた有地さんを確認しようとして。

目に映った光景への違和感が先に来た。

 

 

 

志那都荘の最上階。

深紅さん深羽さん親子が宿泊されているスイートルーム。

 

そこは、惨状と化していた。

 

机から座椅子から小物から荷物から、何から何までが強盗に荒らされたかの如く散らばっていて。

障子とカーテンには、何かで力づくに斬られたかのような跡。割られた窓。

その下に転がっている一振りの刀。叢雨丸。

 

 

 

これを作り出したのが、鞍馬君達が必死に押さえつけようとしている、有地さんなの……?

 

 

 

「将臣君! しっかりするんだ!!」

 

実利様……じゃない。

お父さん? ここに居たんだっけ?

 

「安晴様! お下がりください!」

 

磯良さんでもみつはさんでもない。

駒川みづはさん。

 

「これは……有地さん、じゃ、ない…………誰、なの?」

 

深羽さん……に、似た声、似たお姿。

雛咲深紅さん。

 

私が入っていた水桶には、まだ眠られているような不来方さん。

その手の先には深羽さんとレナさん。

 

 

 

――状況は理解した。理解したくないけど理解した!!!

 

 

 

「有地さん目を覚まして!! 義和に乗っ取られないで!!!」

 

私がノロマだったせいで、有地さんが朝武義和に乗り移られた!!

 

 

 

何を言っている芳乃っっ…………んんぁあ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁっ!! 人の身体っ勝手に、使うんじゃ、ねええ!!」

 

鞍馬君と放生さんを力づくで引き剥がした直後に、有地さんが自らの顔を全力で殴った。

その勢いで後ろに吹き飛び、テレビが倒れて割れた。誰かの悲鳴が耳に届く。

 

まだ有地さんの意識は残ってる!

 

「ふおっ!? このお部屋の状況は!? ポルターガイストでありますか!?」

 

レナさんも目を覚ました!

 

「レナさん手伝って下さい!! 有地さんが義和に乗っ取られます!!」

 

「最後のアレは夢ではなかったですか!? っっマサオミっ目を覚ましてください!!」

 

「お二人は前に出ないで!! アイツの意識が残っているなら――」

 

……あの時の金の小娘か! お前は後で可愛がってやる! 茉莉其奴等(そやつら)を抑えておけ!! 実利ぃ! 貴様はこの場で(くび)り殺してやるぞ!!

 

「っ案の定ですね……誰が茉莉ですか! 人違いです! やらせると思ってるんですか! 抑え込まれるのはあなたですよ!!」

 

唇を切って血を流す有地さんの姿をした義和が、邪悪な笑みを浮かべて立ち上がる。

どうやら500年前の記憶がしっかりある模様。

 

茉子が有地さんを組み伏せにかかる。並みの人ならまず抗えない。

だけど有地さんの力が尋常じゃない、火事場のような。

 

一方の茉子も、流石に火事場力と体重差なら有地さんには勝てないはず。

なのに、何とか拮抗している――黒い獣耳!? 手伝ってもらっている!?

 

ぬぅ!? 茉莉! 貴様も犬畜生の(しゅ)に掛ったか! 愚か者めがっ!!

 

「だから人違いです! これは呪いなんかじゃありません! 御加護なんですよっ!!」

 

なんとかしないと、茉子も有地さんも危ない!

 

何か手段は、手に……持ってる!!

九〇式、狙いを絞れ!!

 

「『花』!!」

 

 

バシャァアン!!!

 

 

あっっぐっうっ……よしのぉっ!? 俺に何をっっっあ゛あっクソッたれぇぇ!!」

 

「ぐっ……なっ有地さん? 有地さん!? 何をなされるつもりですか!?」

 

 

 

茉子を投げ飛ばすように弾き飛ばし。

 

いち早く有地さんが駆けた先には……床に転がっていた叢雨丸。

 

「おい将臣!!」

 

「致し方ないかっ……許せよ将臣!」

 

「玄十郎さん、それは――」

 

手に取られた。相対するために玄十郎さんも法眼丸を手に取られる。

鞍馬君と玄十郎さんとお父さんは、多分また有地さんが暴れると思っているのよね。

 

 

 

でも私には違う未来の確信があった。恐らく茉子も同じ考え。

 

今の有地さんなら躊躇しない。

もっと恐ろしい未来、その幻視に心臓が大きく早鐘を打つ。

 

 

 

叢雨丸の刃を、自らの首に当てられる。

 

 

 

「「有地さんっ!!」」「マサオミっ!!」「お兄ちゃん!!」

 

 

 

全力で呼び掛ける。

それでも勢いのまま止まらない。止められない。

 

 

 

でも想像されていた、一方で当人が求めていた結果は――訪れない。

 

 

 

「ああっクソッ、これマジのナマクラだった……っ!! 邪魔をするなぁぁっ!!

 

 

 

首の皮一枚も斬れない。

例えどんなものでも斬れたとしても、この人だけは斬る事が出来ない。

私たちには幸運でも、今の有地さんにとっては不幸だったのかもしれない。

 

おのれ、邪魔するものは芳乃以外全員打ち首に――

 

 

 

「『圧』!!」「『滅』!!」

 

 

バシャァアアアアン!!!!!!

 

 

まだ聞けていなかった女性二名の大声。

続けて重なる大きなシャッター音。

 

「夕莉!?」

 

「深羽さんも!」

 

「ナイスっですわぁ! …………これ、はっ!?……悪いっ……後はっお願いっっ!!!」

 

強力な二撃を受けてはじけ飛び、一番長く有地さんの意識が戻った。

それでも支配から逃れる事は出来なかったみたいで。

 

 

 

有地さんが駆け出す――割られた窓に向かって。

 

 

 

「いかん!! やめよ将臣っ!!!」

 

「有地さんっ!! 駄目ですっ!!!」

 

私と玄十郎さんの求めは、動きを止めるには至らず。

 

 

 

 

 

 

志那都荘の最上階。

その割れた窓から、有地さんは叢雨丸と共に夜の闇に姿を消した。

 

 

 

 

 

 

続くかもしれなかった音に私は恐怖していた。全身の肉が千切れ、骨が砕ける音に。

だけど聞こえてきたのは、地面を踏みしめるように小さく連続で響く足音だった。

 

安堵した。でも、状況は……。

 

 

 

「……ごめんなさい、力不足でした。零式を切るべきだったんでしょうか」

 

「こっちもごめんなさい。まさか『滅』を振り切ってくるなんて。あと多分、変わらなかったと思いますよ」

 

「お詫びなんてとんでもないですよ」

 

「ええ、それにあの状態の有地さん……いえ。アイツが一瞬でも引っ込んだんですから。効果はあったはずです」

 

「やっぱり今のマサオミは……」

 

有地さんが志那都荘を飛び出されて、竜巻でもあったかという部屋は落ち着きを取り戻しました。

夢に落ちていた私たちは全員目覚めた。ムラサメ様は叢雨丸に憑かれているのか。

 

「巫女姫様、大変申し訳ありません。まさか将臣があんな……」

 

「いえ、お詫びしないといけないのは私なんです。玄十郎さん」

 

「芳乃、将臣君に一体何があったんだい?」

 

「それに、常陸さんだけじゃなくて」

 

「巫女姫様にも犬の耳が……? 髪の色だけでも不安だったのに」

 

「色々説明したい所ですが……どちらを優先すべきでしょう。ワタシだけでも有地さんの痕跡を追った方が良いでしょうか」

 

耳に、髪? ……ああ、私も獣耳が出ているんですね。そして戦国と同じ、毛先が……。

一度見た時より黒い部分が増えている。あれから数回使いましたか。

 

「深羽、身体は大丈夫なの?」

 

「大丈夫よお母さん、心配かけてごめん。でもまだ終わってないからもうちょっと無理するわ。あんなやつ、存在させておけない」

 

「夕莉、お前も大丈夫なのか?」

 

「大丈夫です。私は皆さんに比べればずっと軽いと思いますから」

 

「幸いのお言葉ではありますけど……」

 

「駒川先生、こちらで何かご用意を?」

 

「ありがとうございます、猪谷さん。診察……よりも先に、軽く部屋を整えましょう。それだけでも落ち着き方が違うかと。安晴様、玄十郎さん、こんな時間ですが各所に一報を。『酔われてハイになられた方が模造刀を持って出歩かれている。発見されたら即連絡。保護はこちらでするので近づかぬように』とでも、お願いできますか?」

 

「……分かりました。すぐに」

 

「承知致しました。廉太郎、小春、女将。少しここの片付けを頼む。ワシは電話ついでに志那都荘内にも話を通してくる」

 

「わかった」「うん」「かしこまりました」

 

あの儀式を采配されていた一族の末裔。そう思うと感じるものも違います。

やはりみづはさんは落ち着き方が違いますね。

 

「茉子、あなたも今はここに居て。一人より、みんなで捜した方がきっといいから」

 

「……かしこまりました」

 

「そうですよ、マコ。落ち着いたらみんなでさがしましょう。大丈夫です! マサオミなんですから!」

 

うん。有地さんなんだから。あんな男に負けやしない。

情報共有したら、みんなで捜しに行こう。

 

 

 

そう考えていたんだけど。

 

 

 

「……芦花さん?」

 

声の主は不来方さん。

馬庭さんから携帯に着信があったようで……まさか有地さんに遭遇を!?

 

私たちの視線を確認されつつ、不来方さんが電話に出られる。

 

「不来方です。芦花さん?」

 

『ああっやっと繋がった!! 夕莉さん!? 安晴様やみづはさんには電話が繋がらなくて!』

 

「落ち着いてください。私もお二人も志那都荘にいます。一体何が?」

 

『すぐ武実神社に来られますか!?』

 

スピーカーモードでもないのに、離れていても聞こえるほどの声量。

明らかに状況はひっ迫していて、しかも関わっているのは武実神社。

 

否応が無しに手を握ってしまう。

 

 

 

その、馬庭さんからもたらされた情報は。

 

 

 

『神社の神楽殿に咳き込み続けてる女の子が!! 早くしないと多分大変なんです!!』




朝武長男、現代に降臨です。
原作では大して活躍してなかった気がしますので、
本作ではお邪魔しました。

さて、芦花が発見したのは?

不定期投稿が続きますが、
次回も楽しんでいただければ嬉しいです。
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