零 ~イヌツキの少女達~   作:もふもふたぬきねこ

74 / 74
彼女のルートに再び合流。
二話分引っ付けたので、少々長めです。


ここまで73話も投稿してきてビックリなのですが、
これまで「武実」としていたのが、
本当は「建実」という。ええぇ……。
多分原因は「朝武(ともたけ)」の「たけ」です。

という事で、全話修正入れました。
以降は「武実」→「建実」になります。
朝「武実」利なんて名にしたものだから、修正が無駄に大変。
おバカです。
もし残っていたら、ご面倒ですが誤字報告してもらえると幸いです。


今回もよろしくお願いします。


73. 花の帰還 姫の直感

「無茶し過ぎです。ムラサメ様」

 

「そう言ってくれるな芳乃、ここが無茶のしどころであろ? 正直賭けではあったがな」

 

「本当に賭けであられましたよ、ムラサメ様。貴女の御容態を伺っていて予め準備を整えていなければ、医者が居たとてどうにもなりませんでした」

 

「まさか聖域の奥から、今のお身体で這って出て来られるだなんて……」

 

「肉体とは不便だの。重くてかなわんよ。オマケに真っ暗だわ素っ裸で擦れるのが痛いわ息は出来んわなんのって。冬でなくてよかったぞ、凍え死んでおった」

 

「身体は大事にしましょうよ、ムラサメちゃん」

 

 

 

私たちがここに来る30分前。

なんのご縁か夜の穂織をご用事で歩かれていた馬庭さんから、不来方さんへの緊急のお電話。

 

それは。

建実神社から聞こえると思しき咳き込む声を、確認されようと境内に入られたら。

 

 

 

一度だけ、田心屋で一瞬見えた緑髪の女の子が。

裸で咳き込みながら倒れている。そんな光景。

 

 

 

建実神社には誰も居ないし、診療所に掛けても不在。有地さんは出られず。

私、茉子、レナさんは馬庭さんのプライベートナンバーを知らないし、小春さんの時のアプリグループはどったんばったんしてた状況のタイミング。気付くはずがない。

更にお父さんやみづはさんの携帯電話に掛けても、関係各所連絡中で回線混雑。

 

故に最後に辿りついたのが、本来無関係だった不来方さん。張り紙大正解。

 

 

 

「しかし現代の技術とはすごいもんだのう。こんなもの一つで楽に息を吸えるようになるとは」

 

「なんとしてでも命を繋ごうとした、その努力の結実ですから。とはいえ、今は息が吸えるだけで病巣の治療はこれからです。今のお身体が普通の人の身であるなら、暫くは時間が掛かります。そのおつもりで」

 

「今ここでの話は構わんか? でないと、せっかく身体に戻った意味がないのでな」

 

「……医者としてはノーですが、守り神であられるムラサメ様には弱いですね。無理はなさらないで下さい。準備をしてきます」

 

「すまんな、駒川の」

 

「馬庭さんも本当にありがとうございました。冷静に動いていただいていなかったら、手遅れだったかもしれません。ワタシ達が何も知らない立場だったらパニックだったでしょう」

 

「いえ、何となくですけどそんな気はしていましたから。それにアタシは、みんなよりお姉さんですので。まー坊の事は……全然落ち着けていないんですけど……」

 

「ダイジョーブなのですよ、ロカ。マサオミは強いんですから!」

 

 

 

私たちが夢に入って丸二日経っていたそうで。

長いと見るべきか、それとも短かったというべきか。

まあ茉子なんて15年も過ごしたのだし短いのかな。

 

みづはさんが志那都荘にいらっしゃっていたのは、私たちの点滴の用意だったとの事。

人間、水なしで生きられるのは精々三日なんでしたっけ。危なかった。

 

 

 

志那都荘にて初めて食べた栄養ゼリーなるものを無理矢理胃に流し込んで。

濡れた服の着替えに深羽さんの変装衣装を借りて――余談ですが、所々キツくて緩い。

極めて不必要な精神ダメージが入りました。

 

現在みづはさんの診療所。

こちらにいるのは私、茉子、レナさん、綾さんに戻ったムラサメ様、そのムラサメ様をここまで運んでくださった馬庭さん、そしてここの主のみづはさん。

 

ムラサメ様のお身体が見つかった段階で、みづはさんが治療の手配を進められていたそうで。

即座に緊急対応が取れた事が功を奏し、こうしてお話をする事が出来ています。

 

ムラサメ様が聖域から出て来られた一報を受け、悩みに悩んだ上でお父さんはムラサメ様を私たちに託して現在神楽殿で祈祷中。今までもぶっ通しだったらしいから不安なんだけど。

その護衛に玄十郎さんが付かれています。

 

志那都荘には日上山からの皆さんと鞍馬君。

小春さんは有地さん変貌のショックが大きかったようで、先に休ませられたとの事。

無理もないですよね。詳細を知っている私ですら、折れそうになりましたから。

何かあれば連絡が取れる体制をとってもらいました。

 

 

 

さて。

 

 

 

「一体なぜ、ムラサメ様は綾さんのお身体に戻られて?」

 

「ムラサメでなくなり、叢雨丸に居れんくなったからだよ」

 

話し始めてくださったムラサメ様の雰囲気は、明るいものではありませんでした。

 

「吾輩が叢雨丸に宿れておったのは、叢雨丸が「水」の信仰を得られる器であり、吾輩も花守の儀の「花」としてのお役目を果たせる状況だったからだ。綾自身には何の力もない」

 

「しかしムラサメ様は、玉石から叢雲様の御力を頂いていますよね?」

 

「それは違いない。だが肉体を保てておったのは、形は何であれ花守の儀によって柩籠が機能し、吾輩が永久花となったからこそ。故に調和が崩れれば花としての力は失われて、吾輩はじきに唯の生霊から本当の地縛霊へ。看取りでもされん限り、お主らとの会話も不可能となる。身体は永久花で無くなり、そのまま衰弱して腐り果てておったろう」

 

「調和が崩れた……となると」

 

「勘太郎殿以来、500年ぶりに現れた叢雨丸の使い手であるご主人は……今や純粋な「有地将臣」とは言い難い。朝武義和に侵蝕されつつある。叢雲様にとっても長男は穂織を穢し、恋した男の魂を喰らおうとする敵だろう。故に叢雨丸は神力を失い、吾輩との繋がりも断たれたとみている。繋がっておったら叢雲様は穢され、吾輩も呑まれる可能性があっただろうしな」

 

「まー坊が……神様に愛された?」

 

「とても縁の強い魂をお持ちなんですよ、有地さんは。それで会話が可能な守り神の御力が失われる前に、綾さんのお身体にお戻りになったんですか」

 

「そうなる。そして一時的とはいえ、ムラサメとして綾の身体に収まるまで猶予があり、取り敢えず吾輩は生きている。まだ神様方との繋がりは切られておらん。今でも何となく気配を感じる」

 

「それは有地さんの居場所、という事ですか?」

 

「恐らくな。予想は付くだろうが……穂織の底に向かっている。お主らは見てきたのであろう? ()()に何があったか」

 

つまりは……穂織の黄泉の門。

 

「……アレ? ムラサメちゃんはあの門を、わたしたちと一緒には見ていなかったんですか?」

 

「吾輩はレナ達と在り方が違ったのでな、また500年をかけてこの時に辿りついた。そして同じようにレナと雛咲娘の夢に入ったわけだが……全く同じ道を辿れば、吾輩は永遠に時の牢獄に囚われる。故に神様方に手を付けて頂いたのだろう」

 

「守り神としての日々を、もう一度繰り返されたのですか?」

 

「一度目の記憶は失ってな。記憶が戻った今の気分は……神様方と歴代の巫女姫達に申し訳ない限りだの。無意に害し、傷つかせ、死なせてしもうた」

 

「ムラサメ様が気に病まれる事ではないでしょう。言い方は何ですが、記憶を封じられたというのならそこに意味があったはずです」

 

「だと良いがの。そのお陰か、今回は以前より500年分の記憶がしっかりしておるし」

 

「ですけど、あの夢の最後は違ったのでありますね?」

 

「今の吾輩が夢で見たのは、最後の出来事を見ておったお主らの姿()だけだ。真に霊体に近かった吾輩がアレに近づけば、恐らくあちら側に吸われていただろうさ」

 

あの時の私たちを、更に俯瞰されていたわけですか。

そして……また500年もの時を、つまりは千年も唯一人の守り神として過ごしてこられた。

 

「犬神に堕ちてもなお穂織をお守り下さっていた白山狛男神様は、僅かだが神格をお取り戻しになった。故に茉子に与えられた御力は戻り始めている」

 

「ワタシへの力が、()()()()()()()?」

 

「ああ、そういえば茉子が茉莉さんに宿った際に御力の影響を受けたって聞いてるわ。神隠しに遭って、戻す際にって。つまり茉子は私と同じような感じなのよ」

 

「マコもお姫様でしたからね!」

 

「じゃあワタシが戦国で最初に山で見つかったのが、まさにその時だったわけですか。我々常陸家がムラサメ様を見聞き出来ていたのはそこにありそうですね」

 

加えて犬化の影響で裸族化進行の疑いもあるわ。

話の腰を折るから、伝えるのは後にしよう。

 

「一方で、叢雲様の御力を消費し始めておる芳乃の髪は黒くなりつつある――調和が崩れた、とはそういう話だ。吾輩がほぼムラサメで無くなった以上、叢雨丸にも信仰は宿りにくい。儀に関わる「花」「水」「姫」三つ全てが機能不全……もう持たんぞ」

 

「持たない……一体、何が持たないと?」

 

馬庭さんはここまでのお話をほぼご存じない。

いきなり結論をお伝えするのも考え物ですが、多分馬庭さんも元「朝武」ですものね。

 

隠し事はなしです。

 

 

 

「穂織が常世……あの世に呑み込まれるようです」

 

「あの世にって……夕莉さんが居た日上山の噂のように、ですか?」

 

「その事をご存じなら話が早いですね。噂ではなく事実で、比喩ではなく本当に、です。あちらのような人外魔境と同じかどうかは、ワタシ達にも分かりませんが」

 

「…………そんな、こと、が」

 

 

 

こんな事、誰一人としていきなり信じられるわけがない。

言われたら相手の正気を疑う自信があります。

 

でも、それが真実です。

 

「何か、すぐにわたしたちが出来る事はあるのでありますか?」

 

「一番の救いとして、レナが持っておる玉石は光を失われておらん。レナ自身も清浄なまま。茉子と芳乃には山の力である狛神様の御印(獣耳)が有り、まだ芳乃の髪もほぼ銀髪だ。吾輩も完全には叢雨丸との縁を失っておらん。調和は崩れておるが、力は残っている」

 

「まだ取り戻しは付くわけですね」

 

「となると、やる事は一つですね。分かりやすくて助かります――先に有地さんのお身体に謝っておかないと」

 

茉子の気配が茉莉さんになった。

やる気満々ね……まあ相当怨恨がありますから。

 

 

 

朝武義和の呪詛を有地さんから追い出して、叢雨丸を復活、正しく花守の儀をなせばいい。

殴る蹴るより射影機を使った方が現実的じゃない?

 

 

 

ふと、何かに気付かれたかのようにレナさんが胸元に触れられ。

目を見開かれて身体中を軽く叩かれ始めた。

 

「レナさん? どうされたんですか?」

 

「…………あの石、ないでありますですが? どこかに落とした!?」

 

「ええっ!?」

 

「安心しろ。長男に奪われる事を防ぐための措置として、ご主人が神社から持って来た玉石ごとレナの身体に入られたのだ。レナは叢雲様の器と呼ばれるほどに相性がいい。これで残りの欠片は本当に二つだ」

 

「焦りましたよ……つまり、黄泉の門前にあるだろう首なしバカ父上の骨の口の中と」

 

「マサオミの身体の中、でありますね!」

 

「…………まー坊の身体に、そんな大層なものが?」

 

しかもそれ、馬庭さんが大きく関わられているんですよね。

 

 

 

「此度とは別に、お主には礼を言わねばならんかったのだ。馬庭芦花」

 

「アタシに、ムラサメ様から、でございますか?」

 

「ああ。数年前、ご主人……有地将臣が沢で溺れた際に助けてくれておっただろう?」

 

「はい。忘れるはずもありません」

 

「あの時にご主人は神の欠片を身に宿した。そこまでは(えにし)だったと言えるが……神の御身を人間が口にするなど、本来は禁忌。そのままご主人は世の流れに乗れず、裁かれておった可能性も十分あった。お主が姉としてご主人の傍に居り、救い、見守ってくれたから今がある」

 

「……あの、時、に?」

 

「うむ。あの出来事自体は必然だったのだろう。だがそれを現世に確実に引き戻したのはお主だ。そして此度は吾輩がお主に救われた。深く感謝するぞ」

 

「……ずっと、もしまー坊を死なせてしまっていたらって、そうとしか……近くに居ない方がいいとすら、思っていたのに……ありがとう、ございます」

 

馬庭さんは泣き出されてしまった。

 

ずっと気にされていたんですね。もし自分が、最初から関わっていなければと。

だからそれからも、馬庭さんは有地さんの「姉」として私たちより長く見て来られていた。

 

唯一神と直接縁がない、人としてありのままの繋がりだけで。

 

 

 

「芳乃様、みんなも。こちらの準備が出来ましたので、そろそろムラサメ様の投薬治療を始めます。今のムラサメ様は私の患者ですので、守り神であられようと基本的には医者に従って頂きます。宜しいですね?」

 

「ふふふ、怖いのう。みつは様よりは磯良様似かの? よろしく頼む」

 

「……みづはさん。アタシは一緒に居させてもらってもいいですか? アタシのお役目はそれだけだと思いますから」

 

「こちらからお願いするよ、そもそも馬庭さんにも投薬を受けてもらうかもだ。医者として可能性は放置しかねるからね。こちらにいる間は、ムラサメ様と芳乃様達を繋いでいただく役をお願いする。本当なら芳乃様達にも受けて頂きたいところですが?」

 

「まあ……御加護がありますから」

 

「死に体のムラサメ様を500年生かされた御力ですからね」

 

「電気ビリビリでありますよ!」

 

そうでなかったとしても、優先事項は別に置かせてもらいます。

 

「そこは元気モリモリかな? アタシは是非……それでは巫女姫様、常陸さん、レナちゃん。連絡はアタシに貰えれば」

 

「承知しました。こちらも進展があればご連絡差し上げます」

 

「みづはさん、よろしくお願いします」

 

「ええ勿論、この穂織を預かる医者として。志那都荘に戻られたら、胃に優しい食事を摂られてください」

 

「お大事にですよ! ムラサメちゃん!」

 

「ああ、またな」

 

 

 

 

 

 

『――そうかい。分かったよ、安心した。ありがとう芳乃』

 

「そっちはどうなの?」

 

『良くない気配が近づいているのは分かる……けど、祟り神じゃないだろうね。ならば僕が居る意味もあるはずだ。こちらは引き続き祈祷をするから、芳乃や茉子君達は将臣君の事をお願いするよ。叢雲様の御名を芳乃が持ち帰ってくれた事で、僕も前より少しは神様方のお手伝いが出来ると思う』

 

「承知致しました」

 

「ありがとうではあるけれど、無理はしちゃダメよ?」

 

『ご安心下され、ワシも控えさせてもらっております故。リヒテナウアーさんもそろそろ休んでおくれ。病み上がりもいい所なのだから』

 

「無理ですね! マサオミを捜す気マンマンですから!!」

 

『若いのには敵わんなあ……それではこれにて。巫女姫様達もお気を付け下さい。時間は勿論、その当の将臣の事もありますので』

 

こういう気配は、穂織の人間ではお父さんが一番敏感なのかもしれない。

そのお父さんが対抗できるって言っているんだから、今はお願いしよう。

 

姉君様である叢雲様の名を伝えた時は、やたら驚いてた。

お父さんは正式な建実神社の神職なんだから、何かで知っていたのかもしれないわね。

 

「お食事を準備出来ればいいんですが……ウチの親、動かしますかね?」

 

「この二日間も何とかしてたんだから大丈夫よ……キッチン吹き飛んでないでしょうね? 私たちが帰る時に、志那都荘からパンか何かを頂いて持っていきましょう」

 

「持ち運びが簡単なものをシゲさんにお願いしますですよ!」

 

結局私もお米一つ碌に炊けませんでしたしね……さあ、志那都荘に入りましょうか。

 

 

 

「お帰りなさい、御三方」

 

鞍馬君の案内の後、鏡宮さんの声に迎えられた志那都荘の最上階。

惨状と化していたスイートルームはある程度片づけられて……スイートルームには似つかわしくないんじゃない? というものが目に入って耳に響いた。

 

 

ずぞぞぞぞぞぞーー

 

 

「ええっと……皆さん、そのカップ麺は?」

 

「放生さんのストック。観光地で食べると値が張りそうだからって、大量に持って来ていたそうです。そこまでケチるならこっちで出すって言ったんですよ? 流石にこの時間に板長さんに動いてもらうのは危ないし申し訳ないしで。久々に食べましたよ、偶にはロケ弁よりいいかも」

 

「いや、流石に俺が深羽さんの世話になるわけには……」

 

「累さんならいいんですか?」

 

「累が俺のアシスタントなのは夕莉が一番知っているだろう? 別に養ってもらっていない」

 

「……累さん、ひと月ほど休暇を取られては?」

 

「その後()()()()()になりそうですから。夕莉さんのお気持ちだけ頂いておきますよ」

 

「よろしければ朝武さん達も如何ですか? いくつかもうすぐ出来上がりますから」

 

そうご提案してくださった深紅さんの傍には……これ既にいくつ重ねられているんです?

その上で、まだ最低でも5つも? 放生さんもいくつ持ってきていたんですか?

不来方さんと深羽さんも二日ぶりの食事のはずなんですが……強靭な胃ですね。

 

 

 

ちなみに不来方さんも深羽さんの服を借りていますが、違和感ゼロとの事。

今まで気にしてませんでしたけど、牛乳を飲んで走り込みでもすべきなのかしら……?

 

 

 

「折角ですから頂きましょう。少し時間を長めにしてよく噛めば大丈夫です。何気に芳乃様は初めてじゃないですか? たった3分ですごい完成度なんですよ」

 

「茉子が頑張ってくれていたお陰で、確かにインスタントどころかレトルトすらほぼなかったものね。いただきます。よろしければ、後でお父さんたちの分も分けてもらっていいですか?」

 

「神社のお食事なら大丈夫ですよ? 安晴さんがとてつもない量の様々な食材をお買いになられていた所にお遭いしまして。朝武家の食事情は察しましたので、そちらを使わせて頂いて作り置きをさせてもらいました。慣れていますからお気になさらず」

 

「「大変申し訳ございません……」」

 

思わず茉子と揃って土下座しそうになった。

わざわざお時間を割いて、別の大切な用事のために来てもらっているお客様に、食事のお世話までして頂くって本当にどうなんでしょうね……鏡宮さん、ありがとうございます。

 

「わたしも本場ニッポンのカップめんは初めてなのですよ!」

 

「腹が減っては戦は出来ぬ、と言いますから」

 

「お母さんは戦に出させないわよ? 門から何か呼び込みそう」

 

「私ってそこまでなの……?」

 

 

 

 

 

 

「そうですか。やはり有地さんは山の方に……」

 

「まあもう一つの中身の本拠地がマヨイガなんだし、入る事は出来ますよね。おチビさ……約束したか。ムラサメさんがまだ有地君と繋がりがあるって言うなら、信用度も高いでしょうし」

 

「必然であり幸いでもある。仮に有地君がそのまま表で暴れるような事になっていたら、この穂織と言えど動く所が動く事になった。本人と再会できるまでの時間、凶器となりかけた叢雨丸の引き取りなんて現実的な事を解決している間に、こちらは瘴気の底だ」

 

「監視カメラと警報装置くらいならどうにか……」

 

「深紅さんはその体質を前提に動かないで下さい。先生の懸念は幸い杞憂となっていますから」

 

「監視員さんの正気が心配になるもんね。こっちで手回す方が平和的かな」

 

「相変わらず、雛咲さん親子はお話の方向性がぶっ飛んでいらっしゃいますね?」

 

「少し前までの私たちの経験の方が、あり得ないはずなんだけどね……」

 

「どちらもムービーに出来そうなくらいでありますね!」

 

お腹も膨れて、改めての結論のお話。美味しかったけどちょっと胃もたれ気味。

まあもうやる事は分かりきっています。

 

 

 

有地さん奪還作戦。そして花守の儀による黄泉の門の正しい封印。

 

 

 

「さて真面目な話、マヨイガから行くのと本来の場所だったらしい神社の入り口、どちらからの方が勝算がありそうだ? 俺は過去を知らないし、戦力外の身だから考察しかできないが」

 

「今の神楽殿に、鞘岩以外で穴を塞いでいるようなものはないはずなんですが……」

 

「とはいえ、あのバカ父上が穴を掘らせて儀式の最中に芳乃様の元まで辿り着いたのは事実です。マヨイガからの穴と、どこかで繋がっている形で存在はしているのでしょう」

 

「あちらに居た時にコマさんから聞いたのですが、山の穴というのは入り口がたくさんじゃなくて、中が迷路みたいになっているみたいですよ?」

 

確かに建実乃山に昔の穴がいくつも開いているというのは知らないし、聞いた事もなかった。

あのマヨイガの先から、山の中が炭鉱状になっているという事ですか。

 

「以前の事を考えると、マヨイガに朝武長男の部下の怨霊がいるのはほぼ確定。恐らくだけど、討伐に出向いた実利さんの部下もいるんでしょう」

 

「みづはさんにも入ってもらったあの時の同士討ちはそういう事でしたか……となると、こちらを捕らえるつもりだったのが義和側で、斬るなりなんなりするつもりなのが実利様側……なんだかちぐはぐな気も?」

 

「当時の現場をご覧になった常陸さん達には、そちらが印象深いのかもですけれど。隠世というのは、異なる時間帯の存在が同時に存在する事は十分にありえますから」

 

「捕らえるつもりだったのは私とレナさん、斬るつもりだったのは討伐時なんでしょう……今でもゾッとするわね、捕まっていたらと思うと」

 

怨霊関係も祟り神関係も十分に怖かったけど、本能的な恐怖心で比較するなら絶対霊より現実味のあったあちらの方が上だったかもしれない。

深羽さんの夢を見たらしい茉子の反応がよく分かる。

 

「迷路状になってるって言うのは、ありがたい情報であると共に厄介だな。この二日で出来る限りマヨイガから回収した冊子を読んでみたが、少なくとも地図らしきものは載っていなかった」

 

あ、そういえばソレ。

 

「放生さん、その本見せてもらってもいいですか?」

 

「ああ、構わないが……?」

 

精々二日半前に回収したという事実が信じられませんけど、回収できていて良かった。

今の私なら。ええっと――

 

 

 

「駒川録……各地の黄泉の門に関する情報と封じている手段、楔を担う客人、花守の儀の構築までの検討案、柩籠の再現、花役の選定条件、夜泉を秘めた柱、散曄なる災い――」

 

 

 

「……全部読めるのか?」

 

「どうにもあちら側で叢雲様の御力が身についた際、読めるようになったそうですよ。ワタシもあちらでそれなりに暮らしたお陰で、自然に読めるようになりました」

 

「わたしは全然でありますね! そういうパワーはもらってないんでしょうか?」

 

「先生を常陸さん役で送り込むべきでしたね、今後の仕事が捗りそうでした。どうします? 先生。お役御免ですよ? 私達」

 

「ヤバいわね、わりと鏡宮さんのストレスが溜まってるっぽい」

 

「まだお腹が空いていらっしゃるのかしら……?」

 

「深紅さん、ご準備なさらなくても大丈夫です。後日こちらでコーヒーを御馳走しますから」

 

恐らく私たちとお話しした後、文献を集める形で纏めて下さったんですね。

時間もなかったというのにありがたい事です……この辺りか。

 

「……御山より深淵に通ずる道は、大まかにはやはり下に下っている形になるようです。発見された亀裂は文字通りのようで、梯子を掛けられている。その先以降は気配が違っていて、以前は誰が作らせたものなのか、と。具体的なルートは書かれていないですね、磯良さんも全ての道を把握されているわけではないでしょうから」

 

とはいえ、実利様は義和を担いだまま門に辿りつかれている。

何かしら感じ取れるものはあるのかもしれません。

 

「どうせ無計画に掘らせまくっただけでしょうからね……気配が変わるのは、神社から合流する本道からなのでしょう。実践するかは別にして、不来方さん達の『影見』でこういったものを追っていただく事は可能なんでしょうか?」

 

茉子からの問いに対して、不来方さんと深羽さんの表情は「うーん」という感じ。

 

「影見の形は……難しいかもしれません」

 

「これまででその道を通っているのは磯良さん、長男、次男、そして今現在そこを下っているんだろう有地君の四人。このうち三人は500年前の人物だから、仮に寄香があったとしても……私達でも影見は難しいわね」

 

「『過去視』という形なら可能かもしれませんけれど、ひたすら撮影し続けて、正解の道に居続ける事が前提になります。一番影見を行いやすいのは有地さんになるんですけど……」

 

「有地君に関する寄香が、朝武家にあったりはしないか?」

 

放生さんからの問いに、今度は私たちが「うーん」となってしまう。

 

有地さんに関する寄香? まだウチに来て頂いて一か月少々。

そこまですごそうな代物をお持ちというお話は聞いた事がありません。

あり得そうなのはスマホと叢雨丸ですけど、どちらも本人が携帯中。スマホは応答せず。

 

ムラサメ様でも今の叢雨丸は追えないかもしれません。

鞍馬君たちと写っているだろう写真か、御実家から回収させてもらうのが現実的なんでしょうか。

法眼丸が使える可能性もあるかもですが。

 

「わたしの中にある玉石ってどうなんでしょうか?」

 

「深羽と不来方さんは、人そのものを寄香にした事は?」

 

「ないわ、必要性がなかったし。出来なくはないのかも。今の玉石は実体が無いから難しいかなあ」

 

「記憶の読み取りなら別ですけど、寄香としては私もないですね。ただ……追えたとして、追う相手は有地さんではなく叢雲様になります。行先は正真正銘の隠世になりますから」

 

「行けたとしても、帰ってこれなくなる可能性がありそうですね。最終手段になりそうです」

 

玉石は神の御身そのもの、一応生者であったムラサメ様の憑代だった叢雨丸より更に神性が強い。

行先はただでさえ黄泉の傍、そこから先に進んでしまえばそういう事になりそうです。それこそ犬神様が仰っていた神の看取りになるかもしれない。

 

以前私が不来方さんにお願いしてしまった「人捜し」を再びやっていただくようなものですから、それよりも危険な事は――

 

 

 

待てよ?




ここからは芦花も当事者になります。
が、特別霊感があるというわけではありません。

次は翌朝。芳乃が考え付いたのは?
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。