本当なら「決定的瞬間」って感じな気もします。
誰か作者に「バシャン」以外のオノマトペを下さい。
普通のシャッターなら「パシャッ」か「カシャッ」くらいかもですが、実際のSEを聞くとまず一致させられないのです。
今回もよろしくお願いします。
準備もあるし、私達は丸二日間の眠りから覚めたばかりという事で、決戦は明日。
早めのお昼を頂いて、志那都荘の方角からスキール音が響いてきたのを聞きつつ、喫茶・こずかたに向かっています。
というのも。
♦
「射影機の特訓、ですか? 私なんて夕莉さんの借りパクでぶっつけ本番でしたし、今までも散々撮って来たんだから大丈夫だと思いますけど」
「出来る事はしておきたいんです。特に深羽さんがお持ちのチャージ式は、私はいまいち勝手がわかっていなくて。『花』が使えるか確認できたらとも思っていたんですけど」
「確かに「霊片を散らす」というお力は、日上山の射影機でないと意味がないかもしれませんね」
私はまともに使った事がないけれど。深羽さんがお持ちのチャージ式には霊片の数が関係ないらしく、基本自分の力だけ。
ですが、「才があれば使える機能がある」とも不来方さんは最初に仰っていた。あちら側に近づく行為ではあるけれど、今それに怖気づいている場合じゃないと思っています。
そんな理由で、不来方さんと深羽さんに特訓お願いをしました。茉子は神社で仕事中です。
「まあ……確かに朝武さんが知らない使い方もありますし、私がいるなら実戦訓練も出来ますか。流石に練習台にされた経験はないんだけどなあ」
と、仰られるという事は――
「また怨霊の気配になっていただく、と?」
「そうですよ。その機能は強化レンズや私達個人の能力と違って、能動的に使えるものじゃないんです。麻生博士も考えてなかったでしょうからね」
「……まさか、
「普通に撮られる分には九〇式でも大丈夫でしたけど、今回のやつはヤバいかもですね。強化レンズなしの〇七式なら大丈夫だと思いましょう。絶対霊を相手にするって言うなら、なりふり構っていられないのは私も同意しますから」
なんだかちょっと不穏な……?
♢
「さてと、じゃあまずは口頭で説明しましょうか」
不来方さんにコーヒーを淹れて頂き、それを飲みつつ深羽さんから講義。
コーヒーを頂くのは久々ですね。頭がしゃきっとする。
「先に確認ですけど。朝武さんが日上山の射影機を使った時に、ゲージが全部灯ってファインダーの枠が赤くなった経験はあります?」
「はい。戦国時代で一度、散曄の影響で瘴気に侵された方々を元に戻す際になりました」
あの時は何と言うか、どんな敵でも祓えるような気すらしましたね。
「それは射影機が最大限あちら側に寄ったんだと思って下さい。射影機は確かに「ありえないもの」を写す力がありますけど、実体はあって存在はこちら側ですよね? つまり射影機の在り方そのものをあちら側に近づければ、それだけ干渉力が強くなる。チャージ式ならフルチャージです」
「私と蓮さんの射影機では、霊片を数多くファインダーに入れる事が分かりやすいでしょうか」
当初三つまでしか灯らなかった霊片に反応するゲージ。それが日上山で『花』の強化レンズを使えるようになった影響か、私も不来方さんと同じく五つまで点灯させられるようになりました。あの状態だとファインダーが赤くなると。
「その状態は、要するに『シャッターチャンス』。普通に撮る分には一番力を発揮できる状態ってわけです」
「そこは感覚的に分かりますね」
問題は、これが
「普通に怨霊を蹴散らすならこれを維持するのが基本です――が、それとは別にもう一つ。しかもシャッターチャンスよりも更に強力な一撃になりえる撮影方法があります」
「それは……強化レンズよりも、という事ですか?」
「強化レンズとは別の、本来射影機には考慮されていなかったものなんだと思います。なので併用できるんですよ。私の『圧』より強力で、深羽さんの『滅』に近いものです」
「私が出せる最大出力が、フルチャージの『滅』とそれを併用した零式フィルムの時って事です」
つまりは、霊片の数に関わらず強力な攻撃を出せる、と。
とんでもない機能ですね。
「その方法ですけど、早い話がカウンターです」
「カウンター? 数を数えるわけじゃないんですよね?」
「カウンターアタックです。怨霊の攻撃を避けて、無防備な霊体に反撃するのだと思って下さい」
「私達が射影機を使って「あちら側」に干渉しているのと同じで、霊っていうのも攻撃してくる時は「こちら側」に干渉してきています。つまりアイツらが一番こちら側に寄った、距離が限りなくゼロになった時に撮影をするカウンター。私は便宜上、致命の一枚『フェイタルフレーム』と呼んでます。宗方美優としての私が撮られたら、芸能人として終わりの大炎上案件って事ですね」
「フェイタルフレーム……」
なんだかすごそうなのは分かります。
ですがその説明を整理するならば。
「それを狙おうと思うなら……怨霊の攻撃を避けた直後か」
「受ける寸前、って事です。リターンは大きいですけど超ハイリスク。絶対霊相手に失敗しようものなら、そのまま怨霊の仲間入りです」
「私が小春さんの捜索時、怨霊を祓うのに使っていたのがそれです。六一式の残り枚数を考えると、それに頼らざるを得なくて」
そういえば、武者の霊を祓われていた時に攻撃のすれ違いざまに撮影されていましたね。そんな危険な行動を狙ってされていたんですか。だからあの枚数で倒せたと。
最初の訓練の際、私もファインダー一杯に怨霊を捉える事はしましたけど。今度はそれを攻撃寸前まで維持するか、攻撃された後にきっちり追わないといけない。
あの時は無理だと断じたけど、今度はそれが必須になるわけですか。
「お母さんから聞いた話、絶対霊相手でもフェイタルフレームなら通用するらしいんですよ。まあお母さんの場合は更に使える力があるんですけど」
「「ええぇ……?」」
深紅さん、一体どんな死線を潜り抜けてきたんですか……?
「まあお母さんの事は置いといて。絶対霊とやり合うって言うなら、フェイタルフレームの練習は無駄にはなりません。とはいえ、私もサンドバッグになった事はないのであまり回数は試せないと思って下さい」
「そもそも大丈夫なんですか? 怨霊を模倣した深羽さんを……私が文字通り攻撃するって事ですよね?」
「その通り。だからもし朝武さんがシャッターチャンスの零式フィルムと強化レンズで私にそれをやろうものなら、冗談抜きで私が成仏するかもしれません。特に私は半分あっちですからね。なので〇七式でやってくださいって話を、ここに来るまでにしていたわけです」
「深羽さんもそうですが、芳乃さんにも危険な事です。寸止めでは成立しないので」
練習だったとしても、深羽さんにとっては極めてハイリスク。私にもリスクがあると。前回やっていただいた時はチャージ機能が作動するかどうかだけだったけど、今回は正真正銘深羽さんを攻撃する事になる。
私たちが今までで怨霊からのまともな攻撃を受けたのは、幽霊遭遇二回目の茉子の時。あの時の怨霊は昔の穂織の一般市民でしかなかったわけですけど、それでさえ茉子は行動不能になった。
それ以上の事を、私から深羽さんに。
「という事で、心根が優しい朝武さんには厳しいだろう選択を課します。今まで通りに射影機を使って、磯良さんの絶対霊の相手や有地君の奪還を実質私達に任せてもらうか。この場で私を実験台に練習をして、朝武さん自身も死のリスクに近づく事を前提に最前線に立つか。選んでください。どちらであっても咎めない事は約束します」
「芳乃さんには叢雲様と犬神様からの力もありますから、射影機に頼らない形でも前線に出られる場はあると。それにこれは、強化レンズと同様に大きく「あちら側」に踏み込む行為です。芳乃さんの体質に影響が出る可能性があります。それをご理解の上で選んでください」
二者択一。今までの人生で一番難しい選択かもしれない。
片方はこれまで通り。この先の主体を不来方さんと深羽さんにお願いする形。私は神様方からの力があるから現状でも強化レンズは使える。縁は強いんだから、他の何かにも役立てるかもしれない。
この場で深羽さんを傷付ける事無く、それで綺麗に解決するかもしれない。
もう片方は犠牲を越えたエゴの道。
深羽さんが傷を負う代償を以て、自力で先頭に立つか。
出来たとして、付け焼刃かもしれない。失敗するリスクを増やすだけかも。私も本当に霊感に目覚めるのかもしれない。祟り神なんていたとはいえ、日常生活すらこれまで通りにいかない可能性あり。
それでも、結末には大きく影響しないかもしれない。
どちらの選択であろうが、既にお二人にはお返し出来ないほどのご協力を頂いている。その上で、私の意思で更にご負担をお願いするか否か。
叢雲様への信仰を取り戻すと自分で誓った。
磯良さんに穂織を護ると自分で約束した。
有地さんを助けると自分で決めた。
――中途半端は無し、よね。
「練習、お願いできますか?」
「……分かった。やる以上は殺す気でやるから。夕莉さん、御神水を。鏡石は私のを渡しておきます」
「…………持ってきます。少しお待ちください」
巫女姫という立場ではない、他の誰でもない、
それを背負って……それでも前に進んでみせる。
♢
「目の前に居るのは、朝武さんの知っている雛咲深羽じゃないわ。朝武さんを殺すべく襲い掛かってくる怨霊。一切躊躇しない事。あ、でも強化レンズはなしでフィルムも〇七式でお願いね?」
「分かりました」
「誰になられるおつもりですか?」
「勿論あの人ですよ。黒澤さんが知ったら何て言うでしょうね……普通の怨霊じゃないわよ。文字通り、触れられたら死ぬからね?」
喫茶店内の座席を寄せて、ある程度の広さを確保して。私と不来方さんが、深羽さんと対峙する形に。既にファインダー内には深羽さんがいる。
深羽さんからは、鈍色をした拳より小さいくらいの石を頂きました。以前言葉だけ聞いた『
もしこれが砕けた場合、本来なら私は「死んだ」という事。
つまり私は、今から本当に殺されにかかる。
「それじゃあ――いきますよ?」
先日の時と全く同じセリフ。
だけど……感じる気配の格が違う。
冷たく、暗く、音のない、濃密な死の気配が目の前に居る。
人形の如き美しさはそのままなのに、目の白黒は反転し、服の白黒も反転し、肌は青白く染まり、全身から黒い水が滴り落ちている。ファインダー内の全てが、黒く染まり始める。
これは……夢で数秒だけ見た、不来方さんを迎えに来た黒い花嫁だ。
「フィラメントはどうなっていますか?」
「……緊急警告と同じように、赤点滅をチカチカと」
「それが極めて早くなった僅かな時間で撮影をします。あまり時間は掛けられませんが、まずは避けつつ狙う事を重視してください。今の深羽さんに触れられた場合、本当に命に関わります」
辺りの静けさを貫通して、頭の中には既に耳が壊れそうなくらいにキンキン音が鳴っている。コレ、多分獣耳が出ているんだ。それに加えて心臓の音がバクバクしてくる。
落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け!
落ち着かないと死ぬわよ芳乃!
『一緒に、堕ちましょう?』
この言葉――黒澤逢世さんの絶対霊、なんですか。
私が気絶させられたって聞いた時の。そりゃこんなの無防備に聞かされたら、意識も飛びますよ……っ!!
『融けて』
「ひっ!?」
突進するかのように滑って前進してきた深羽さんに、反射で飛び退いてしまった。
この状態でファインダーを向け続けるんですか!? フィラメントの点滅なんて意識を向けている余裕もない!
「流石にぶっつけ本番は難しいか……芳乃さん」
「はいっ!?」
「最後の目的を果たす事無く、ここであちら側に行く覚悟はありますか?」
質問の意味が正確に理解できない。「死ぬ気でやってますか?」という事?
死んでも構わないとは思っていない。でも死んでしまうかもしれないとは思ってる。
この場から、逃げるつもり自体はありません。
深羽さんがゆらぁっとこちらに向き直られた。
「逃げません!」
「……肩を抱かせてもらいます」
後ろに回った不来方さんの左手が、私の左肩を掴む。右肩には不来方さんの射影機が触れている。これでさっきみたいな避け方は、不来方さんを押し退けない限りほぼ不可能になった。
「私も狙います。芳乃さんはとにかくファインダーから目を離さず、フィラメントの点滅を確認してください。ギリギリのタイミングで私が「圧」を放ちます」
つまり、タイミングが一瞬でも遅れたら……文字通り「死ぬ気はありますか」と。それは私だけじゃなくて、一緒に手伝ってくれている不来方さんも。
ありえない事がこの世に有っても、あり得てはならない事を起こさせてたまるもんですか!
「分かりました!!」
『あなたを待っていた』
また深羽さんが突進されてくる!
怖いっ、けどっ……逃げるな逃げるな逃げるな逃げるな逃げるな逃げるな!!!!!
ファインダーが一気に近づいてくる深羽さんの顔で一杯……コレ!?
「『圧』!」
ババシャァン!!
『あアっ……』
もう狙ったというより、フィラメントの灯りの変化に反射的に指が動いただけ。でも、今までとは明らかに違う撮影の感触。間違いなく私から何かが抜けた。
その何かが、不来方さんの圧と重なって――絶対霊と化している深羽さんを弾き飛ばした。
フィルムは最弱の〇七式なのに……これが!?
「今ので多分出来ています。あのタイミングです」
「本当に寸前ですね!?」
『あト、一回、ダけ』
「……っ! わかりました!」
私も大変なつもりでいるけれど、ありえない事をやってもらっている深羽さんにはもっと大きな負担がかかっている。これ以上トロトロしていられない!
攻撃寸前のカウンターのタイミングはひとまず分かった。本当に触れられる直前。次は攻撃直後のフェイタルフレーム。つまりファインダーを覗いたまま攻撃を避けないと。
横に避けながらなんて茉子じみた器用な真似は私には無理。
後ろに飛び退きながら撮影するしかない!
『あなたも いっしょに』
すぅーっと近づかれる怨霊モードの深羽さん。
手を広げられて、私に抱き着くような感じに。
後ろに避けれれば、チャンスはある!
攻撃の寸前……ここっ……!?
避けたつもりだった。でも私の反応に身体が追いついて来ない。茉子のようにはいかない。
結果、私の身体に深羽さんの身体が掠った。多分だけど、見た目以上に身体にまとわれている黒い気の影響が広いんだ。
「あ゛っ!?」
途端に、猛烈な違和感が身体を襲う。
「っっ……う゛っ…………あ、あぁあ゛っ…………はぁ……これ、が…………霊体への、影響」
「芳乃さん!!」
「……っううぁ……はぁ、はぁ……流石にこれは、長い時間やるもんじゃないですね。大丈夫だった? 朝武さん。下手すれば死んでたわよ……? これってまさか」
幸い私は生きているらしい。事前に頂いた鏡石とやらのお陰……うん?
砕けてはいなさそう。つまり、あの攻撃を受けたとしても私の身体が耐えきったんでしょうか。
「すみません、深羽さん、不来方さん。私は大丈夫みたいです。割と身体の違和感も早めに引きました。深羽さんは大丈夫だったん、です……か?」
取り敢えずお二人に安心していただくための言葉を選んだつもり……でしたが。
御神水を飲まれた後の深羽さんのお顔は晴れない。
私では……戦力になりそうにない、という事でしょうか……?
「これは……予想していませんでしたね。どうするべきでしょう」
そんな事を思っていた中、意外な方向性のお言葉を不来方さんから頂戴しました。
「何がですか?」
「さっき私の手が掠った時点で、本来なら朝武さんの霊体は全身丸ごと引き千切られ、ほぼ確実に死んでいるわ。良くても昏睡状態。だから身代わりとなる鏡石を渡したわけだけど……割れていないわよね? 代わりに別の部分に代償が出ているの」
別の、代償? さっきの身体の気持ち悪さじゃないですよね? パッと見で分かるものなんでしょうか。
「芳乃さん。ご自分の髪を、ご覧になってください」
髪? 確かに鏡も無しに自分ではあまり見ようとしませんね。
括っている髪の先端を身体の前に持って来て…………えっ?
「これは……まさか?」
「そのまさかなんでしょうね――つまり朝武さんは鏡石を使えない。想定外だわ」
元々完全に銀色だった私の髪。
ですが戦国でのやり取りの結果、毛先が黒くなってきていた。これまでで5センチくらい。
逆に戦国時代の朝武の姫は、花守の儀の前までは完全な黒髪だった。けれど未来において私が叢雲様の力を授かり、銀の髪になっている縁と紐付いた事で銀に染まり始め、そこから500年間巫女姫は代々が銀髪で生まれてきた。
それが……15センチ以上、一気に黒く染まっている。
髪には霊力が宿るという理由で、幼い頃から髪は伸ばしていた。今の長さは大体臀部を超えたあたり、80センチくらいだったはず。
つまり今回のやりとりだけで、神力ともいうべき力が2割は削られた事になる。
「朝武さんへの霊的干渉は、神の力によって防御される。故に鏡石が機能しない。一方で攻撃にも消費される。つまり――朝武さんが強化レンズを使い過ぎたり怨霊の攻撃を受け過ぎた場合、儀式における『姫』としての役割を果たせなくなる可能性があるわけよ」
「芳乃さん、身体の気怠さとかはありますか?」
「いえ……精神的な疲れはありますけど、今は身体が重いとかは何も」
「鏡石が砕けていないなら私や深羽さん、恐らくは深紅さんでもあり得ない状態です。つまり今の芳乃さんは、万葉丸や御神水で回復する意味も手段もありません。叢雲様の力を消費して身を護る形になっています。即ち、他の誰よりも攻撃を受けてはならないという事です」
「そして……可能な限り、強化レンズも使ってはならない、と」
漸く得られた、怨霊に対する切り札。
でも想像以上に諸刃の剣の類でもあったようです。私自身に力があればよかったのに。
……いや、さっき得たばかりじゃない。
「ですけど、フェイタルフレームなら関係ないんですよね?」
「中々前向きね、可能性はあるわ。朝武さんの強化レンズは神の力なんでしょうけど、フェイタルフレームは人としての朝武さん本人の力のみ。つまりは私達と一緒」
「そうは仰いますけど……今までこういった霊感を持たずに過ごせていた日常が、もう戻ってこない可能性もありますよ。自ら足を踏み入れていくだなんて」
ご心配頂けるのは本当にありがたい事です。
ですが、今の私の役目は平穏に生きていく事じゃないと、そう思っています。先程自ら選択しましたしね。
それに。
「不来方さんは……乗り越えられたんですよね?」
「…………はぁ。安晴さんや常陸さんが仰っていた「
「夕莉さんも否定できないでしょ? あの時はやっと十数年ぶりに泣けたんでしたっけ。まあここまで来てしまっている以上、遅かれ早かれですよ。幸い私達とも縁があるんですから」
「あの時の私達と違って、
「そういう事です」
あの夢を見た限り、不来方さんは一度「あちら側」に旅立たれようとしていた。
けれど「生を肯定してもらった」とも「死なない道を選んだ」とも仰っていた。
深羽さんは「何もなかった」時間を14年も過ごされていた。人間の善性を諦めていた。
けれど今は「何かはあって」、人々から期待を集められる存在となっている。
流石に同じレベルとまではいかないでしょうけど、私も目指せるはず。
「さて、休憩にコーヒーのおかわりをお願い……とか思っていたんですけどね?」
「……さっきの深羽さんの影響、でしょうか?」
「分かりません。確認をしないと」
練習が終わって、方向性も定まって。一旦休憩の雰囲気、になりかけたところで。
何となくだけど、私にも感じられる気配。
重く耳に響く、霊波計の音。
『…………ア゛ア゛ア゛ア゛』
招かれざる客が、玄関をすり抜けて喫茶・こずかたに入って来ようとしていた。
背格好を見るに――戦国時代の一般人の、怨霊。
バシャァン!!
私が射影機を手に取ろうとするより早く、不来方さんからの一撃が入って店外に吹き飛んだ。
たしかこのお店は風水的に最も霊的な影響を受けにくく、構造的にも霊は通り過ぎてしまい、お父さんが定期的に盛り塩とかもしている、この穂織で最も怨霊が入ってき辛いだろう場所。
さっきの練習の影響? でも……うん、盛り塩が黒くなっているとか、そんなのは起きていない。
この建物が変わったわけじゃない。なら変わったのは……外?
練習が終わった後に消えていた、獣耳が再び表に出てくる感覚――まさか!?
バァン!
『オ゛オ゛オ゛オ゛…………』
『く゛ ら゛ い゛ 』
『し゛ く゛ な゛ 』
喫茶店の周りは住宅街。特別祟り神だの神社だの幽霊だのが関わる要素はない。最も生に溢れた現世の象徴の一つ。この辺りには来にくいはず。
なのに、そんな景色の中を霊がうろついている。私が視えるようになっただけという事? でも何となく周辺も暗くなっているかのような。
バシャァン!!
後方からシャッター音。今度は深羽さんの一撃で怨霊が消えていく。
「幸い完全な怨霊とまではいかないくらいか。さっきの練習くらいで、いくら何でもこんな状況は招けないわよ」
つまりは。
「まさか…………もう散曄が?」
「可能性は高いです。元々時限式だったというお話でしたから」
現代の穂織で、再び黄泉の門が開き、瘴気の中に堕ちようとしているという事。
分かりやすく時間が無くなって来た。
Prrrrrrrrr……Prrrrrrrrr……
私の携帯に着信。発信元は――
「茉子! そっちは!?」
『その様子だとそちらもですか!? こちらは――フンッ! 殴り飛ばさせてもらっています! まだ玄十郎さんが見えないレベルではあるようです! 神社周辺はワタシと安晴様で守りますから、芳乃様は至急診療所へ! ムラサメ様が大変かもしれません!』
「分かった! 気をつけて!!」
神社は神域、本来なら最も怨霊が入ってきにくいだろう場所。でも今は、最も黄泉に近い場所。瘴気の出入り口候補。そこに霊が現れ始めている。幸い茉子は引き続き怨霊に触れられるみたい。
茉子なら怨霊相手だろうと簡単に負けはしない。私は私に出来る事を。
「不来方さん! 深羽さん! 私は診療所へ行ってきます!!」
「分かりました。では私は繁華街の方へ。深羽さんは志那都荘方面をお願いできますか?」
「あの子は死に体だから余計にマズいか、了解です。ああ、全部を相手にしようと思わないように。流石にフィルムが切れるわよ。それと――」
深羽さんから渡して頂いたのは……穂織にいらした時の、少年帽?
「犬耳、もし他の人に見えているとマズいでしょ? 無いよりマシよ。流石に私は今からカツラ被り直すのは面倒か……髪型だけも変えますかね」
確かに今の私の獣耳は、誰にでも見えている可能性がある。
それは非常にマズい。帽子なんて被るのは初めてかも。
「ありがとうございます!!」
16話の前書き以来の登場。
自己解釈のオンパレードになります。
「FATAL FRAME」が「零」の北米タイトルです。
(欧州は企画名である「Project Zero」)
二作目以降に採用された、零における最重要攻撃手段です。
余談ですが、零は発売されている地域とハードで
パッケージが結構違ったりします。
特に
ホントに人気がありますね。しかも二回リメイク。
そして一作目の北米版は一体?(謎のオッサン……)
穂織もどんどん隠世に染まってまいりました。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。