零 ~イヌツキの少女達~   作:もふもふたぬきねこ

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まさかの千恋*万花アニメ化!?
タイミングにびっくり……発売から10年越し?
しかもキャスト続投! 表名義だったら大変ですよ!?
おめでとうございます!



さて零(zero)という作品名。
これは「0(虚無)」の存在である「霊(れい)」というダブルミーニングだそう。

ゲーム中では零式フィルムを指す言葉になりますが、
もう一つ別に使用されます。
それは一体何でしょう?



それからご報告。

予定の三倍近い文章量になってしまいましたが、
物語上の最後である現在のチャプター7、
そしてエピローグの下書きを終えました。

よって、本編のエタりなしにはできそうです。
色々ありまして投稿体力が続けばという
大前提はありますが……。
来年アニメ始まっても終わってないかも?

最終話はかなり先になりそうですが、
応援頂ければとてもとても嬉しく思います。



では、今回もよろしくお願いします。


76. 『(ゼロ)』の担い手

 

 

 

『ど    ご    何    処    』

 

『死       た    な     い』

 

『ひ゛    め゛          ま゛』

 

 

バシャァン!!!

 

 

「こんな現実……あっちは大丈夫なんでしょうね!?」

 

散曄の発生に加えて、霊感が上がったというのもあるのでしょう。私の目に飛び込んでくるのは、街中を「ありえないもの」が闊歩している様子。まるで日上山のよう。

 

全ての霊がこちらを気にしてくるわけではないみたい。寝ぼけの様なものなのか。でも一部の霊は私を「姫」と認識している様子。そういった怨霊だけ吹き飛ばす。そのくらいなら私でも強化レンズを使わなくていい。

 

 

 

日常に、こんな世界が重なっていただなんて思ってもみなかった。

 

 

 

すれ違う人たちからは、何だか不思議そうな視線を向けられる――当たり前ですよね。普段は常に茉子が傍にいてくれて、大した表情もしていなくて、走るなんてあり得なかった。

 

そんな朝武芳乃が少年帽を被って、レトロカメラを持ちながら全力で走る光景。何人かは毛先の色の変化にも目が届いているのかもしれません。幸い皆さんには怨霊が見えている様子も、怨霊側が関わっている様子もない。

 

今は私の事はどうでもいい! とにかくやる事を!

 

 

 

診療所が見えた!

 

 

ガラララ……!!

 

 

「みづはさん! いらっしゃいますか!?」

 

「芳乃様!? そんなに急いでなにを――」

 

 

 

入り口から診察室に繋がる廊下。その先にみづはさんが居らっしゃった。

その間には、みづはさんの姿と重なるように……怨霊が一名。多分近代の方。

 

「しゃがんでください!!」

 

「ええっ!?」

 

 

バシャァン!!

 

 

『あ゛う゛う゛う゛……』

 

一四式ではあるけれど、怨霊が怯んだ。幸いみづはさんはフレームアウト。

これ以上中に入らせてたまるものですか!

 

「みづはさんは診察室の中へ! 扉を閉めていてください!」

 

「わっ分かりました!!」

 

幽霊だからすり抜けるかもですけど、何もしないよりマシでしょう。幸い他の患者さんはいらっしゃらない。大立ち回りもできそうです。

 

 

 

さてこの怨霊は、診療所にお世話になっていた時の行動をなぞった方なのかしら。執着は弱そうだけど、単に怯ませるだけにはいかない。祓わないと。

 

強化レンズは使っちゃダメ。これ以上花守の儀に影響を与えそうな行動は避けるべき。先の戦闘も考えればフィルムの無駄遣いも厳禁、霊片も溜められない。街中でさえあの数だったのに、マヨイガの中なんてどうなっているか。

 

 

 

つまりは――三七式フィルム!

 

 

 

『く゛   る゛   』

 

「起きたばかりで申し訳ないですけれど!」

 

接近。3メートル。赤点灯

 

『し゛  』

 

「また!」

 

接近。手が伸びてきた。1メートル。赤点灯

 

『い゛』

 

接近。15センチ――赤点滅

 

「お眠りください!!」

 

 

バッシャァアアン!!!

 

 

あの恐ろしかった深羽さんの絶対霊に比べて、かなり精神的余裕がある。動きはゆっくりで分かりやすい、大して迫力はない、触れられた所で絶対霊よりマシ。練習でいきなり難易度マックスだったんですから、このくらい出来なくてなんとしますか!

 

祓えた! 看取りは出来ないのでごめんなさい。

 

「……みづはさん、終わりました。開けてもらって大丈夫ですよ」

 

「承知しましたが……一体どうされたんですか? それほど血相を抱えてここまで来られた上に射影機を……まさか、有地君が? その帽子は?」

 

()()()()()です」

 

被っていた少年帽を取った。

その結果、みづはさんの表情が別の驚愕に変わった。霊感が無い方でも獣耳が見えているんですね。幸いまだ分かりやすい影響は出ていないみたいだけど、これで危険性は伝わったはず。

 

「……何が、起こっていると? もう、なのですか?」

 

「まだ始まったばかりだとは思いますが、穂織が常世と混じってきているのだと。茉子と不来方さん、深羽さんが各地で対処をしてくれています」

 

「そんな状況に……一先ずこちらへ。ムラサメ様は起きていらっしゃいますから」

 

「今更ですが、失礼します」

 

 

 

「巫女姫様、先ほどの大声……その、耳は? これ、まさか本当に?」

 

「いいえ馬庭さん、呪いなんかじゃありません。神様の御加護なんですよ?」

 

「よく来たな、芳乃。やはりナニカに満ち始めておったか」

 

診察室には馬庭さんと、横になられて点滴と繋がっている静かな気配のムラサメ様。幸い何かが起こる前だったようです。一安心。

 

馬庭さんにとっては驚きの一言でしょう。何せ地元民にとっては蔑称であり禁句じみていた「イヌツキの巫女姫」に、本当に犬の耳が生えているのだから。

 

「ムラサメ様は何かを感じられていたのですか?」

 

「死に体には違いないからな、何となく感じた事がある気配がしておった。早い話がお迎えだったのだろう。縁起でもないが」

 

「ええ、縁起でもありません。医者としてムラサメ様のお命は必ず繋いでみせます……芳乃様、その髪の色は? 今の状況の影響を受け始めておられるんですか?」

 

「昨晩より、明らかに黒い箇所が伸びてしまっていますね」

 

「これは……状況とはそこまで関係ないかと。ですが射影機を使えば使うほど黒に染まっていくようです。使いどころが考え物ですね」

 

大半は深羽さんの一撃を避けそこなったが為ですからね。

それでも進んだのは2割ほど。不来方さんたちにとってですら極めて危険な攻撃を4回耐えられるほどだと思うと、叢雲様が私に授けて下さった御力が如何に強力なのかを感じられます。

 

ああっと、先に連絡しないと。

断りを入れて履歴からリダイヤルを。

 

 

 

『芳乃様! そちらは大丈夫でしたか!?』

 

取るのが早い。茉子も余裕はあるのかな。

 

「こっちは一旦大丈夫。そっちは?」

 

『今の所は小康状態、と言えるんでしょうか。安晴様の御力が周囲に満ちたのだと思います』

 

やっぱり。「自分には何も出来ない」なんて事全然ないじゃない、お父さん。

 

「周辺の様子は分かる?」

 

『少なくとも建実神社周辺に新たな怨霊は出現していません。最初に会敵した怨霊達も、そこまで積極的に襲って来る事もないようでした』

 

幸い神社周辺の瘴気は抑えられているみたい。とはいえ、事実上唯一の戦力である茉子を神社から離すわけにはいかないわね。

 

「分かったわ。茉子はそのまま神社で待機を。普通の幽霊はいいから怨霊が現れたら眠らせてあげて。お父さんまで倒れたら間違いなく大変な事になるわ」

 

『そちらは勿論です。ですが街中が……』

 

「不来方さんと深羽さんに見に行ってもらってる。私たちよりずっとお強いんだから大丈夫よ。志那都荘には深羽さんが向かっているから、玄十郎さんにその事を伝えてくれる?」

 

 

 

一番の問題は今居る診療所。ここには霊的な防御手段が私以外にない。病院というのは幽霊が出る定番。さっきの霊のように習慣的に来てしまうかもしれない。

 

緊急避難所扱いだった喫茶・こずかたにさえ怨霊が現れたとなると、唯一安全な場所は――

 

 

 

「みづはさん、ムラサメ様をウチ(朝武家)まで運ぶ事は可能ですか?」

 

「本来なら絶対に頷かないご提案ですが、そう来ると思いましたし私も同意します。数時間だけならバッテリーで稼働可能ですから、車椅子でご移動いただきましょう。その後で運べる機材を朝武家に運び入れさせていただきます。ムラサメ様、お身体は起こせそうですか?」

 

「これでもこの道具なしで這って出てきた身だし、お役目も残っておる。まだ簡単にはくたばらんさ」

 

「車椅子はアタシが押していきます」

 

で、あれば。

 

「茉子、玄十郎さんはそこに居るのよね?」

 

『はい、神楽殿で安晴様のお傍にいらっしゃいます。ワタシは今境内です』

 

「こっちの話は聞いていたわね? 今からムラサメ様を車椅子でお運びするから、こっちに向かってもらうよう伝えてもらえる? 手伝ってもらいたいの。その間は茉子がお父さんの傍に居て」

 

『芳乃様はどうされるんですか?』

 

「私は引き続きみづはさんに付くから。それと、もし神社の外に出るなら帽子を被って。皆さんにも獣耳が見えているかもしれないわ」

 

『承知しました、すぐに。一応鉢金で押さえつけてますが、玄十郎さんにも確認してもらいます。お気をつけて』

 

よし、これで方針は立ったわね。

流石は茉子、話が早い。

 

「よろしいですか?」

 

「まさか巫女姫たる芳乃様に、私の護衛をお願いする日が来るとは思いませんでしたよ。承知致しました。馬庭さん、そちらの車椅子を出してくれるかい? 私は他の準備をさせてもらう」

 

「今の芳乃なら安心だ。実利様を思い出す雰囲気、穂織の代表たる堂々とした振舞いじゃから」

 

実利様と一緒にしないで下さい。あんなカリスマ無理ですから。

 

「ムラサメ様、こちらに失礼しますね。巫女姫様、アタシの方から街中に何か連絡した方が良い事はございますでしょうか?」

 

「繁華街は不来方さんが回ってくださっていますから……ちょっと待ってくださいね」

 

何かしら対処した方が良い可能性はある。悩むなら相談。

通話履歴から不来方さんを……あった。タップと。

 

 

 

『不来方です。診療所は大丈夫でしたか?』

 

 

 

こっちも早い。一旦は落ち着かれた状況かな。

 

「一人いらっしゃいましたけど、こちらで祓いました。診療所には霊的な守りがないので、これからムラサメ様を建実神社に運びに入ります。そちらは如何ですか?」

 

『その方が良さそうですね。こちらは表に出ている人が多いおかげか、怨霊というよりは浮遊霊が軽く自我を持つ程度に済んでいるようです。看取りで眠ってもらいました』

 

流石というか。射影機を使うまでもないなんて。

 

『どちらかというと、芳乃さんの様子の方が大変かもしれませんよ? 「あんな巫女姫様は見た事が無い」とのお話がいくつか耳に届いています』

 

「あははは……」

 

やっぱり、相当目立つ事をした自覚はありますからね。まあムラサメ様たちを守る事の方がずっと大事です。後で茉子にカバーストーリーをお願いしましょうか――

 

 

 

「夕莉さん。ウチの社長にプリンを20個アタシ名義で注文しておいてもらえます? 巫女姫様は田心屋のプリンを急いで食べるために、変装して特急でご自宅に戻られたというお話を」

 

『ああ、芳乃さんの田心屋プリン好きは有名ですから、それでどうにかできそうですね。噂されていた方には軽くお話しておきます。状況が落ち着いていたら私の方で神社に運びますから、芦花さんはそちらに居てください』

 

「すみません。よろしくお願いします」

 

 

 

……そんなに有名なんですか? 私のプリン好き。

いやまあ実際大好きですけど。誰が広めたの? 茉子? 有地さん?

 

 

 

普段作り笑顔か仏頂面な巫女姫が、大量の田心屋のプリンを食べるために、お忍びのつもりの下手くそでバレバレな変装をして注文しに来て、茉子が回収した的な話を聞いて、即刻全力で家に帰った……これでいいの?

 

 

 

荒唐無稽な気しかしないこのストーリーも、馬庭さんと不来方さん曰く私であれば成り立つと? 超複雑なんですが。ついでに田心屋の宣伝入ってますよね? 流石は実質経営者。

 

「芳乃が一人で走っておるだけでも穂織の住民には衝撃的だ。少年帽など被っておったらその時点でもう意味不明だろう。射影機や髪の色には中々目は向かんさ」

 

「自分が気にしているよりも、他者の目は第一印象に意識が残りますからね。芳乃様のプリン好きは私も前から知っていますし……よしっと、これで準備はできました。向かうとしましょう」

 

「そこまで有名なんですか……? 一体誰から?」

 

「安晴様ですね。大変ありがたい広告です」

 

「「あの芳乃に趣向品が出来たんですよ!」って喫茶・こずかたでよくお話を」

 

お父さん!!!

 

 

 

 

 

 

「ムラサメ様、巫女姫様。大変遅くなりました」

 

「お疲れ様です、玄十郎さん。鞍馬君も神社にいらっしゃっていたんですか?」

 

「深羽さんが志那都荘に来て、「多分人手が居るから診療所行ってきて」って話だけもらったんですよ。巫女姫様が帽子被ってる姿といい、流石にこんな状況の事とは思ってなかったっすね……この女の子が、ムラサメ様」

 

「こうして顔を合わすのは初めてだの、廉太郎。だが話は後にしよう」

 

 

 

診療所を出て程なく、玄十郎さんと鞍馬君と合流。こちらに急行してくださっていました。ここで人手が増えるのは本当に助かります。深羽さんの予知はもう考えない。その感じだと、志那都荘も無事みたいですね。

 

幸いこの辺りも居るのは浮遊霊くらいで、強い意思を持った怨霊はいないみたい。玄十郎さんは小春さんの捜索時に実際に怨霊をご覧になっている。力のある怨霊だったなら目にする事も出来るでしょう。神社に近づけばお父さんの力の範囲内だし茉子もいるから、不測の事態も安心できる。

 

「ここからはお引き受け致します。ムラサメ様と馬庭さんは命に代えても守ります故。廉太郎を自由にお使いください」

 

「志那都荘での仕事で物を運ぶのは慣れてるんで、任してください。芦花姉はムラサメ様をよろしくな」

 

「まさか廉太郎にそんな事言われる日が来るなんてね。アンタもまー坊に負けないくらい巫女姫様を手伝ってね」

 

「命を捨てられるのは困るのう。まだまだ穂織の為に働いてもらわんと」

 

「分かりました。神社までよろしくお願いします。それではみづはさん」

 

「ええ。ムラサメ様は車椅子のままリビングの方へお運びを。3時間は大丈夫です。何かあればすぐにご連絡下さい。鞍馬君はこちらをお願いするよ」

 

引継ぎを済ませてムラサメ様たちは建実神社へ、私たちは診療所へ。近くまで行ってもらえれば茉子が気付くでしょうから、後は任せておける。幸い逢魔ヶ時までは時間がありますし、その頃には不来方さんも神社で合流できるかな。

 

お願いするばかりだけど、今は自分のすべき事を切り分けないと。

 

 

 

「で、任せて下さいとは言いましたけど。医療機械なんてまず人力で運べないですよね?」

 

「幸いそこまで大掛かりなものはないから安心しておくれ。台車で軽トラに積むから、まずはその準備をお願いする。荷台に載せる際は特に頼りにさせてもらうよ」

 

「なら小春も来させますか? 志那都荘に居ますけど」

 

「いや、彼女は神隠しの経験者だ。護衛なしに出歩かない方が良いだろう。それに診察室はそこまで広くないからね、作業は私と後一人までだよ。芳乃様は申し訳ありませんが、診療所周辺の哨戒をお願いできますでしょうか。あそこも比較的山に近いですから」

 

神社の穴はお父さんが塞いでいる形。問題はマヨイガから。となると、怨霊も山から下ってくる可能性が高そうですね。もちろん期限はあの時間。

 

「わかりました。一先ず逢魔ヶ時になる前までの最低限という事で」

 

「十分です。急ぎましょう」

 

まだ時間はある。けれど、何となく周囲に暗い霧のような物が立ち込めてきている気がしてる。霊だけじゃなくて生きた人間にも影響を及ぼす代物。みづはさんと鞍馬君にも何が起こるか分からないから、引き際を誤らないようにしないと。

 

 

Prrrrrrrrr……Prrrrrrrrr……

 

 

着信。お相手は――二回目ですね。ムラサメ様の保護以来。

 

「はい、朝武芳乃です」

 

『鞍馬君は届いた?』

 

深羽さん。第一声がこれという事は、あちらも余裕がありそうです。

 

「はい。さっき合流して今から荷運びの準備に。そちらは大丈夫でしたか?」

 

『多分だけど、レナちゃんのお陰で志那都荘には近寄って来ないわね。流石だわ。周りも見て回って、確かに自意識のある霊の数は増えているけど、まだ怨霊の域には達してないのが大半。見つけたやつは片っ端から吹っ飛ばしたから、一週間は起きてこないでしょ』

 

レナさんは存在自体が結界と化しているんですか、ほぼ元に戻った玉石の力はすごいですね。そして不来方さんと違って、相変わらずやる事の度が過ぎている気がする……。

 

『部屋から俯瞰した感じ、神社周辺は大丈夫みたいね。だけど案の定というか、山の方から流れ込んで来てるのがいるみたい。そっちの方をこの後見てくるわ。人手が要りそうなら、実質暇してる放生さんも送り込む?「暇しているつもりはないんだが……」』

 

「ああ、放生さんも傍に居られるんですか。お疲れ様です。人手については大丈夫だと。放生さんは何を?」

 

『「累と連絡を取っている所だ。もうじき穂織に着くらしいからこっちの状況を伝えている。エンジン音とターボの音と車が横滑りする音が混じって、聞き取りにくい事この上ない」加えてジャミング装置が真隣に居ますから仕方ないですね』

 

穂織と日上山とを往復して、しかもあちらで用事を済ませた上で、もう到着?どんな速度で走っているんでしょう? そしてその状況で電話出来る鏡宮さんがすごい。深羽さんは母親を何かの機械に例えるのはどうなんですか?

 

『「それなりに装備は充実させられそうらしい。幾分か明日の突入に余裕が……うん? どうした累? 車が止まったようだが」』

 

何かあったんでしょうか? 今あちらには射影機がないですから、流石の深紅さんだったとしても少々不安が――

 

 

 

『「何? 深紅さんが一度撮る? どうやっ」電話借りますよ。鏡宮さん、お母さんが何を……ああもうなんて馬鹿力、縛りが解けるじゃない。お母さん? お母さんちょっとストップ。()()()()()()()の?』

 

「深羽さん? 深紅さんがどうしたんですか?」

 

「芳乃様? 深羽さん達に何か?」

 

「いえ、もうじきこちらに到着するらしい深紅さんが何かを――」

 

 

 

そこまで口にしたところで、私にも何かを感じられた。

そちらに顔を向ける。私の動きにつられて、みづはさんと鞍馬君もそちらに向かれた。

 

 

 

穂織と日上山を繋ぐ山の方角。その山腹、道路が走っているんだろう場所。流石に遠くて誰かが居るとか、車が止まっているとかは分からない。

 

でも……時計を思わせる十二個の白い丸と、それに重なる黒い丸。計二十四個。レナさん救出時と同様、まるでファインダー内の光景が実際に現実に描かれたかのように。

 

ハッキリと、こちらからでも分かる大きさで、(くう)に浮かんでいた。

 

「なんだありゃあ……」

 

「あれは……月?」

 

霊感がないだろう鞍馬君とみづはさんですら、はっきり見えているようで。

 

『――後でお説教ね』

 

深羽さんのその一言で、私も何が起きているかを理解した。何が起きるかも理解した。

 

 

 

深紅さん、無茶苦茶過ぎますよ……。

 

 

 

カッ!!!

 

 

 

流石に音まではここまで届かなかった。

けれど十二の満月と新月から電撃が迸って、フラッシュしたのは分かった。

 

 

 

直後、放たれた月光と共に猛烈な勢いの霊圧が――穂織を一掃した。

 

 

 

「うわっ!?」

 

「うおおっ!? なんだこの感触!?」

 

「今のは、突風……ではなかったよね? なのに身体が圧されたような」

 

確かに物理的な風じゃない。

のに、身体が吹き飛ばされそうな感覚が全身を突き抜けた。多分獣耳も消えましたね。

 

何となく薄暗い感じに見えていた辺りの景色が、いつも通りの明るさを取り戻し。周辺に見えていた、怨霊でもなかった浮遊霊ですら、全て消えていた。

 

……これ、ムラサメ様が霊体だったら成仏されていませんか?

 

『Prrrrrrrrr……Prrrrrrrrr……』

 

深羽さんに掛けているはずの電話からコール音が聞こえる。何だか不思議な感覚。まあ発信先は分かってますよね。お相手は鏡宮さんの隣に居らっしゃるだろうに、きちんと専用電話で掛けられる冷静さが怖い。

 

 

 

『「……もしもし? どうしたの? 深羽」帰ってきたらオハナシね? 「えぇっ? でも今はこのくらいの事はした方g」ブツッ…………「……かなり、あたふたされているらしいが?」』

 

 

 

電話を切られたんだろう音の後に残った無言が、深羽さんの感情を如実に表していますね……。

 

『取り敢えず、やる事やったら神社集合って事で』

 

「はっはい……」

 

黙って従おう。口は禍の元、触らぬ女優に祟りなし。




以前の長ったらしい登場人物紹介に
一文だけ書いていました。初代最強の強化レンズです。
実際シリーズの看板娘なら余裕だと思います。

次は逢魔ヶ時を過ぎた頃。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
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