零 ~イヌツキの少女達~   作:もふもふたぬきねこ

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元のプロットとは全く違う展開に。
最初から組める作者さんはすごいと思います。

今回もよろしくお願いします。


77. ありえないもの(景色)を現実に

 

 

 

「なんで『(ゼロ)』を使ったの?」

 

「穂織に薄暗い霧がかかっていて、身体に良くないと思ったから……」

 

「実際良くはなかったけど、自分の身にもっと良くないとは思わなかったの? なんで自分をもっと顧みてくれないの? 私がお母さんに極力お願いしない理由は分かっているわよね?」

 

「私の事より深羽達の安全を優先したくて」

 

「縛りが解けたらどうなるかとか考えなかったの? また私を捨てて一人にする気? 今度は私も後を追うからね? サチさん*1と怜さん宛に「全 部 お 母 さ ん の せ い で す 。」って血文字で遺書書きなぐってやるんだから。仏壇から説教されなさい。私からも、一番の原因であるお父さんも一緒にあちら側で延々と説教してあげる」

 

「それはちょっと……」

 

「まあまあまあ深羽さん、そこまでにしましょうよ。深紅さんの行動も深羽さんと穂織の為を思っての事です。その場で止められなかった私にも責任がありますから、この一件が終わったら纏めて叱ってください。皆さんも既に集まられています」

 

「深紅さんにその判断をさせてしまった私達も反省すべきですから。後で話し合いましょう。プリンを頂いたら深羽さんも落ち着きますよ」

 

「流石にこの状況が現実になるとは思ってなかったがな。あっちは未来視持ちか?」

 

「はぁ……確かに私のせいでもある、ね。分かりましたよ、今は止めます。た・だ・し、後で二人には報告するからね?」

 

「…………東京に帰るのが怖くなって来た」

 

 

 

見張りの必要がなくなった診療所で、私もプチプチクッションのグルグル巻きを手伝って。機材を診療所から運び終えたところで、リビングでは日上山の皆さんが一堂に会されていました。

 

勿論、議題は深紅さんの()()だったようです。まあうん……。

 

腕を組んで仁王立ちされている深羽さんと、ちょこんと正座している深紅さん。どっちが親か分からない。深紅さんを庇われる鏡宮さんと、深羽さんを抑えられる不来方さんを観察中の放生さん。皆さんの立ち位置がよく分かりますね。

 

 

 

「冗談抜きに肉体に戻っておってよかったぞ、元のままだったら確実に吾輩は穂織から吹き飛んでおったな……こんな美味い物を口にする前では死に切れんかった」

 

「志那都荘の中でさえ突風が吹いたかと思いましたですよ。ね、コハル」

 

「今頃女将が大変でしょうね……ムラサメ様、はいっあーんです」

 

「ワシから連絡を入れてある。心配ない。神風が吹いただけの事だ」

 

「祖父ちゃん、それでいいの……?」

 

「実際神風だったよ。抑えるのを押し退けてきそうな重い空気が、一斉に吹き飛んだからね。いやあ驚いた」

 

「宗方美優の本気の怒りはテレビの比じゃないですね。超美形なのに見た事ない学院生だなんて不思議に思っていたけど、正体がまさかの彼女とは。道理で廉太郎も対応が丁寧だったわけだ」

 

幸い他の皆さんも無事だったご様子、ムラサメ様は本当に危なかったですね……。深紅さんの一撃のお陰で、お父さんも暫く休憩が取れる状況みたい。馬庭さんはその情報秘密でお願いします。

 

井山雪さんの正体を知らない人には、鞍馬君からの扱いが極めて特殊な女性に見えるんですね。今までそういう立場は私と茉子だけだったから。

 

「芳乃様、お疲れ様でした。みづはさんもありがとうございました。手伝いに行けず申し訳ありません」

 

「茉子は茉子の仕事をしてくれていただけでしょ、神社の防衛をお願いしたのは私だし。そっちもお疲れ様。茉子が怨霊を殴れていなかったら、ここの守りがどうなっていたか分からなかったから」

 

「私も役目を全うしようとしているだけだよ。患者の治療を自分のテリトリーで出来ないだなんてね。鞍馬君もお疲れ様、やはり男手はあるといい」

 

「いえ、それしかやれる事がなかっただけなんで」

 

とまあ、お互いの労いもやったところで。

プリンを頂きつつではあるんですが。

 

 

 

誰も話題にしていなかった(ブツ)に、触れると致しましょうか……。

 

 

 

「それで、ええっと……こちらは?」

 

「射影機です」

 

「それは……はい、そうだとは…………はい」

 

 

 

朝武家のリビングの中央の机。

その上に置かれた、一台のレトロカメラ、のようなもの。

 

穂織にある射影機は、私が最初にお借りした日上山仕様、不来方さんの持っていらっしゃる放生さんの連射式、深羽さんの持っていらっしゃる水無月さん経由のチャージ式の三台、()()()。現在もそれぞれの膝の上に置いてあります。

 

 

 

それ以外の、今まで見た中で一番大きく、明らかに豪華な見た目の射影機が増えている……深紅さん、流石にもうちょっと説明を下さい。

 

 

 

「その射影機は気を付けてね。確認を取った限りではここの3つ以上にプロトタイプらしくて、本来の使用者以外が使う事を全然考えてないらしいの。工芸品としても貴重みたいから」

 

「茉子、プロトタイプって単に試作品じゃないの?」

 

「意味はそうですけど、試験的に実用性とかを度外視して性能だけを極限まで追い求めた物もあるようで。深羽さんのご説明の通り、特定の人が使う事しか考えていなかったりもします。これもその一種なのでしょう」

 

「ガ○ダムでありますね! 量産型より強いのですよ!」

 

「芳乃が奉納してくれている舞も、芸能の神様が舞われていたものの里神楽(さとかぐら)*2だろう? その原形なら神様仕様と言えるんじゃないかな?」

 

私の持っている日上山仕様の1.3倍はある――よくぞここまでコンパクトにしてくれました。にしても、試作品が一番豪華だとは。神様仕様と言われてもしっくりくる。叢雲様向け? 本来の使用者っていうのはどういうお役目の方だったんでしょうね。

 

レナさんの例えは分かりませんけど、つまりは深紅さんがお持ちだったらしい最新式に次いで強力なのかな。代わりに安全性がないと。

 

「これは……もしかすると朧月(ろうげつ)彫りですかな? ここまで精緻な品物は初めて拝見しました」

 

「有名なの? お祖父ちゃん」

 

「一昔前まではな。月をモチーフにされる事で知られていて、仮面などの流麗な彫り物をワシも何度か見た事があったのだ。だが40年ほど前に技術が途絶えられてしまって、それ以来殆ど出回っていないと聞いている」

 

「パッと見でも凝ってるのが分かるよな」

 

「朧月って、宗か……深羽さんが今主演をされている、ドラマの聖地って噂の群島の? というか、収録中に穂織にいらっしゃって大丈夫なんですか……?」

 

「ノーコメントです」

 

失われた伝統工芸品の一面も持ち合わせているわけですか。以前、確実にお値段が高いと聞いていた射影機が一つあった。ということは。

 

「こちらは……フィルムを送ってくださった水無月さんの、更にお知り合いの?」

 

「ええ。密花さんのお店にお邪魔した際にその水無月さんと、スポンサーで射影機の本来の持ち主である麻生(あそう)海咲(みさき)さんがいらっしゃっていまして。「基本仕事人間の美優さんが帰ってこないくらいだから、大変なのかな?」と思って持って来ていた、との事だったのでこちらでお借りした次第です。あの方が先生の遠縁って実感がなかったですね、結構サバサバ系でしたよ」

 

「まさか日上山に来てるだなんて……確かに穂織に来られるよりは良かったですけど、お借りしたって軽く言えるもんじゃないんですよ。これは私が使わせてもらいます。壊したらシャレになりませんし。流歌さんのスポンサーとか私でも背筋が冷える……」

 

「こんなの怖くて触れませんよ……よろしくお願いします」

 

「深羽、私は?」

 

「ダメに決まってるでしょ! この射影機は本来月守(つきもり)の巫女限定。これ以上のイレギュラーはバッドエンドの無苦(むく)の日で穂織どころか世界が滅ぶわよ。というわけで、放生さんは引率じゃなくて最前線参加決定という事で」

 

「冗談きついぞ……」

 

あったらいいのにね、くらいにお話の出ていた四台目が本当に穂織に来てしまった。戦力アップはありがたいですが、壊したら最低でも麻生家に滅私奉公に出る事になりそうです。

 

 

 

さてと、真面目にお話をしましょう。

 

 

 

「こちらの射影機は、どういう方式になるんですか?」

 

「一回助けてもらった時に見ましたけど、これで巫女姫様や不来方さんたちは幽霊退治をされていたんですよね? すごいんですね、昔のカメラみたいなのに」

 

「実際100年以上前のシロモノだ。とんでもない技術だろうさ」

 

「こちらはチャージ式です。視覚的にお借りしていたものよりも分かりやすいかと」

 

「こんな凝った射影機があるとは思いませんでしたよ。本番はともかく、朝武さんと夕莉さんも一度私に構えてみて」

 

 

 

手に取らせてもらう。

案の定重くて、これを長時間はキツイ……。ファインダーから見える情報だけでも豪華ですね、ここにも細工が。

 

で……あの十二の円。最初からファインダーに描かれていたんですか。

 

それが。

 

 

 

「……おおぉー……」

 

「何が見えるんですか、芳乃様?」

 

「月の満ち欠けが見えるみたいなの。すごく凝ってる」

 

「でしょ? 撮影はしなくていいから、強化レンズを使う気にもなってみて。特訓で確認できなかったし」

 

上下に行って帰る二重円じゃなくて、時計回りにゲージが溜まると。分かりやすい。そのゲージの線が円を通過するたび、月が新月から満ちていく。よくまあこんな機構を。

 

っと、いけないいけない。では――「花」。

 

「……うわあ、これは使ったら大変な事になりそうです」

 

「どういう状況で?」

 

「五枚花弁、桜の花びらがファインダーに映りました。一枚溜めるのに大体お月様3つ分の時間なので……」

 

「単純計算で計27個相当ですか。使ってしまうと芳乃さんの黒髪化が一気に進みそうですね」

 

円形の線の外にも桜の形状に光が溜まる。ちょっと見にくい。溜めるのにかなり時間を掛けるけど、私にとっての最強の一撃になりそうです。

 

よし、確認終わりと。念のためにこっちのチャージ式でも……うん、同じね。

 

 

 

「遂に芳乃が雛咲母をも超えたのか。叢雲様の御力はとんでもないな」

 

「そうね、と本音では言いたいところなんだけどね?」

 

「朝武さんの御力は「加算」なんだと思いますけど、私の場合は「乗算」のようなので。『零』を使用した場合の換算は50くらいだと。加えて二重に溜められますから……」

 

「……世界は、広いのう」

 

「ホントにね……なんでこんな力を素で持ってるかなあ。私みたいなビックリ人間じゃないはずなのに」

 

ついにムラサメ様と深羽さんの意見が合った。別に上限勝負をしているつもりはないですけど……約100? マヨイガごとふっ飛ばせるのでは?

 

 

 

『零』って穂織を浄化されたやつですよね? あれが個人の能力? 名から察するに「ありえないもの」を文字通り「ありえなくする」力でしょうか。穂織全土に影響を及ぼせるレベルの射程と範囲と威力を持つ上に、一瞬で溜められる。

 

加えて『祭』もあるから……もうお一人でよくないですか?

 

 

 

「私も十二ですね。溜めるまでの時間の差なんでしょうか?」

 

「多分そんなとこでしょ。それと皆さんに伝えておきますけど、お母さんがやったのは下手すれば一発であちら側行きの行為です。もう二度と使わせませんのでその御積もりで」

 

案の定すごい代償だった……穂織組が全員コクコクと頷く。

 

助けて頂けたのは本当にありがたい事だったけど、ご自身を犠牲にされるなんてもってのほか。既に危険な橋を何度も渡っていただいているというのに、目に見える危険まで踏んでいただくつもりは毛頭ありません。

 

「とにかくこれは私が使いますから。朝武さんが夕莉さんの、夕莉さんが流歌さんのを使って下さい。いけるでしょ?」

 

「分かりましたけど、慣れないといけませんね」

 

「放生さんは拒否権認めませんから。ついでに遠縁のよしみで、コレ壊した時の釈明手伝いお願いします」

 

「絶対効果ないヤツだろ……やれやれ」

 

「お母さんもこっちの月のはダメ。もし使う事になっても流歌さんのにして」

 

「はい……」

 

 

 

さて、人の振り分けを考えないといけませんね。

予定では。

 

マヨイガ組が私、茉子、深羽さん、深紅さん、小春さん。

神社組が不来方さん、放生さん、レナさん。

 

だけど放生さんも射影機を使われて、かつ深紅さんの使用も考えると……。

 

 

 

「深羽さん」

 

「分かってるわよ朝武さん……仕方がない。夕莉さん、お母さんをお願いできます? 怨霊レーダーとかオート霊視機能にはなると思いますから」

 

「私は大丈夫です。では深紅さんは私達と一緒に神社の入り口の方へ」

 

「分かりました」

 

これで攻撃手段はとにかく、バランスは前より良くなったかな。

上手くいく事を祈りましょう。

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

「うわあ。まさかあっちで撮ったのが、現代にまで持ち込まれるだなんて」

 

「流石、ありえないものを撮るカメラですね……床下の怨霊ってコレですか? なかなかにインパクトのある人が城に住み着いていたものです」

 

「この人、喫茶店前で会った? 本当なら歴史的な資料になるかもしれませんね。戦国の実物写真なんてありえないんですから……この辺は現代にあっては駄目ですね」

 

「いくつか燃やさないと、私達だけで回っていた時期のは特にヤバいし。あーこっちは私がハイテンションで撮ってたやつですか。あれは楽しかったなあ」

 

「本物の戦国武者が大量に写っている写真なんて、夕莉の言う通り歴史的価値が凄まじそうだが……表には出せないな。面倒だ、全部燃やそう。下手に寄香にも出来ん」

 

 

 

現在、再び喫茶・こずかた。

 

鞍馬家の皆さんとレナさんは志那都荘に戻られて、お父さんは再び祈祷中。私たちも後で受けるって聞いているから倒れないといいんだけど……。そちらに深紅さんも付いて下さっています。結界補助代わりとして、神楽殿に超高級機も置かせてもらいました。

 

みづはさんはムラサメ様の病状の診察。幸い現代医学であれば治癒は可能との事で本当によかった。馬庭さんは一度田心屋に。色々ほっぽり出して頂いていますからね。

 

そしてこちらは夢の中で撮影した写真の排出中。結構撮ったものです。次いで本命であるフィルムの補充。鏡宮さんが準備をして下さっています。確かに全部処分の方が安全ですね……ああっと、この写真は流石に残しておこう。

 

 

 

「……おい。こいつ、枢木(くるるぎ)恭蔵(きょうぞう)か? あそこの婆さん達も?」

 

「はい。幽ノ宮(かくれのみや)の前に陣取っていました」

 

「あの人、何で目を攻撃してきたんですか?」

 

「姉に恋慕していたくさいんだけど、秘密にしていたみたいで。それを濡鴉ノ巫女に看取りの形で暴かれたと思って、逆上した結果。で、巫女が居なくなって『禍津陽(マガツヒ)』が起こった。最悪よね」

 

それで巫女を目の敵にしていたわけですか。本人は満足だったかもしれませんけど、周囲はたまったもんじゃない。

 

「今頃、犬の穢れごと現世でも隠世でもないところ行きのはずよ。(ウツロ)にでも放り込んだ方が良かったかなあ?」

 

「でも……霊視の『大償(オオツグナイ)』で見た時は紗重(さえ)さんと真壁(まかべ)さん、あそこから上って来ましたよね?」

 

「うちの先祖はあんなのしかいないのかな……全くもう」

 

「深羽さんの先祖……深紅さんから伺いましたが、確か黒澤氏なんでしたか?」

 

「密花さんや怜さんとの繋がりは分かんないけどね。お母さんから聞き直したんだけど、私の血筋では最後の黒澤だった高祖母が高祖父と住んでいた家で、以前麻生博士が最後の射影機を作っていたらしくて。曾祖母がそれを持っていた――座敷わらしから貰ったって言ってたらしいわ。因みに紗重ってのは高祖母の妹よ、本当は姉らしいけど」

 

今更ですが、そこら中に関わられていますね、麻生博士……。

深紅さんから伺った話では、そのお陰で曾祖母の美琴さんは助かったと聞きましたか。

 

そしてその高祖母の妹(黒澤紗重)さん、地獄の穴を上って来たって何ですか……?

 

「そういえば最新型と聞いていたな。どう違ったんだ?」

 

「単に退治する、なんてもんじゃないらしいですよ」

 

「私達のように「瘴気を散らす」、ではなくですか?」

 

「ありえないものの中でも更にありえないシロモノですよ。まあ当然というか、普通の材料では無理だったんですけど」

 

「何を使われて?」

 

「神器ですよ」

 

「そ、そんなものを……?」

 

つまりはどこかの御神体がカメラの中に入れられていたと? 巫女としては驚愕のお話。叢雨丸や玉石を射影機に突っ込むのと同義。犬神様から神罰を受けそう。

 

 

 

「それが前提だったんでしょうか。水無月さんからお預かりした二台はサイズが違いますから」

 

 

 

準備を終えられた鏡宮さんがこちらに来られました。フィルムと……提灯とは違いますね、和風のカンテラのような?

 

「また使う機会が来るなんて。取っておくものですね」

 

「不来方さんはご使用の経験が?」

 

「『清めの火』といって、芳乃さんもなっていただいた夜泉濡(よみぬれ)を防ぐための火です。たとえ濡れていても、この火がある間は隠世への干渉が元に戻ります」

 

夢に入る際、水浸しになったのは日上山的にあちら側に干渉しやすくする為でしたね。この火があれば、それが無関係になるわけですか。

 

「本来の用途とは違いますが、怨霊を寄せ辛い効果はあるのかと。それとこちらを」

 

「流石麻生の本家筋、備えてますねえ」

 

「これはそういうレベルか……?」

 

一番強力な零式フィルムの液さえ二十枚分はある重量……私も使った経験がある九〇式も三十枚分くらいかな? 分けたとしてもそれなりに使えますね。

 

「朧月の射影機にはそれなりにフィルムが入っていますので、ここの三台で分けましょう。補充の機会はこの先ありませんから」

 

「そう言って頂けるならありがたく。ところで鏡宮さん、サイズってこの蛇腹の事ですよね? これってそもそも何のために?」

 

「朝武さん達はレトロカメラの事はご存じないですよね――こういう事なんですよ」

 

連射式のメンテナンスは鏡宮さんがされているそうですね。私は怖くて触れない気がする。その鏡宮さんが射影機を前後から……おおぉ!

 

「ポーチみたいになった!」

 

「フォールディングといって、こんな感じに折り畳めるわけです。持ち運びしやすいようにですね。日上山のも実はこんな風に畳めます」

 

「あちらで初めて使って以来、一度も折り畳んだ事なかったですね」

 

「いちいちこんなもの仕舞ってられん。持っていく時は使う時だ、ウチにあったのが最初から小型で助かったぞ」

 

外見から明らかだったけど、蛇腹の分だけ中にスペースが取れますね。これ知ってたら、戦国の時に袂に仕舞うの楽だったのに……。確かにこれなら、何かの欠片くらいなら入れられそう。でもそれで撮影できるのかしら?

 

「連射式は消費が激しいですから七四式以下に比重をおいて、後はバランスを見て充填しておきます。強めのフィルムはチャージ式に気持ち多めという事で」

 

「よろしくお願いします。何から何まですみません」

 

「アシスタントというのはそういうものですから。ちょっと今回のは緊張しますが……では夕莉さん、暗室を借りますね。ここを吹き飛ばしたらすみません」

 

「……? 吹き飛ぶ? 累さんがされる事なので心配はしていないんですが……」

 

茉子もそうですけど、手伝って頂ける方がいるのは本当にありがたい。ウチなんて生活の体を成さなそうだし。キッチン吹き飛ぶんだろうなあ……。

 

 

 

「ところで、なんですけど」

 

鏡宮さんが作業の最中、茉子から質問。何かしら。

 

「有地さんからバカ父上を引き剥がせたとして……それで終わりになるんでしょうか?」

 

ええっと、今までと違う……ああぁ。

 

「いくら不来方さんでも、あんなの看取れるわけない、と」

 

「はい。芳乃様を嫁にすべく呪いとなって500年間残った存在が、その望みを他人に託されて消えるものかと。それに不来方さん達が汚れてしまいそうです」

 

言い方はなんだけど、違いない。

己で成すがために500年も残った意識を、他人に渡すとは思えない。

 

「確かにな。いくら夕莉でも看取りは危険か」

 

「何とも言えませんけど、常陸さんの懸念はその通りです。それに看取りは、正確には除霊ではありませんから」

 

「思いを汲み取ってやって、一時的にやる気を無くすようなものですからね。出来たとしても、解決にはならないかも。私達の射影機は根本から除霊する事は出来ないから」

 

「と、なってくると……芳乃様ですか」

 

「そうね。そんな事に私が役立つといいんだけど」

 

 

 

可能性があるのは私の力。正しくは与えて頂いた加護。

 

叢雨丸は穂織の住人を斬る事は出来なかったけど、朝武義和に関わる存在には影響を及ぼせると犬神様が言っていた。叢雨丸の御力は叢雲様の御力、そして私に授けられた御力も同様。叢雨丸の神力が使えない今、叢雲様の御力を行使できるのは私だけという事になる……いや、レナさんもその御力を使えるかも?

 

黄泉の門を封印するための要素でもあるし、神楽舞も儀式に関わっていた。それらでどうにかなると、今は考えるしかないですか。

 

 

 

「黄泉の門を閉じる事が出来れば、怨霊の源になる瘴気は断つ事が出来るでしょ。そうなれば弱体化は確実。ぶっ飛ばして私が縛って、朝武さんかレナちゃんにどうにかしてもらうっていうのが現実的なのかな。或いは犬に仕事させるか……そういえば、常陸さんは犬との話ってどうなんです?」

 

「こちらに戻って以来一度も。ワタシが怨霊に能動的に触れられたりあちら側に近づけば獣耳が出る辺り、芳乃様と同じで加護を頂いている感じではあるんでしょうけど。会話は出来ていません」

 

「日上山で「表に出にくくなった」と仰っていましたか。出やすい条件を満たさないといけないのかもしれません」

 

「今は出来る事をやるしかない……俺が戦いに参加する意味が何処まであるのか分からないが」

 

「最年長でしょう? たまには貫禄見せてくださいよ、さもなくば鏡宮さんをアシスタントに貰いますからね?」

 

「それとこれと、どう関係があるんだ? あと最年長は君の……いや、何でもないからその拳を下げてくれ」

 

「私は出版社の編集アシスタントでしかありませんから、深羽さんの傍に置いていただいても役に立ちませんよ。お待たせしました」

 

「お疲れ様でした、鏡宮さん。ご無事で何よりです」

 

「給料、今の十倍出すって言っても? 加えて養えますよ?」

 

「それ以上は真面目に揺さぶられますから勘弁してください。余裕がないのは事実なので」

 

鏡宮さんが戻ってこられた。よく暗室で三台分のフィルム補充が出来ますね。茉子が気にするくらいだし、本当なら難しい作業でしょうに。

 

枚数をチェック……おお、零式フィルムが二桁! 九〇式もそれなりに。ちょっと感動。磯良さんが相手だったとして、強化レンズとフェイタルフレームを使えば私でも戦えるのかも。

 

 

 

「……かも、じゃなくて。戦えなきゃいけない、よね」

*1
井山サチ。深紅と深羽の後見人

*2
宮中の神楽は御神楽(みかぐら)と呼ばれ、それ以外の一般的な舞は凡そ里神楽に分類される。




四台目は四作目「月蝕の仮面」のメイン射影機。
三台目の姉妹機みたいなものです。
リメイクも含めた8作品で、演出が一番派手な気がします。


この日はまだ3話あります。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
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