零 ~イヌツキの少女達~   作:もふもふたぬきねこ

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カメラでの戦闘をどう描写しろと……と自分で書き出して思いました。

今回もよろしくお願いします。



8.  幽霊退治のリアル

夕暮れの武実乃山。

夜ではないとはいえ、本来なら今から入るなんて事はまずありません。

もし日中に山の中にいてこの明るさになってきたら、急いで山を出る時間帯です。

 

そんな中を。

 

「今のところは……特にそういった気配はなさそうでしょうか」

 

先頭を歩く茉子の後ろにつく不来方さんがポツリと一言。

特に何かを恐れている感じがしないのがまたすごいですね。

 

『安心感が段違いだな……』

 

「同感。結局正体不明には違いないしな」

 

「今回私たちは完全に戦力外ですからね。一応鉾鈴は持ってきていますけど」

 

「祟り神が現れた時はワタシたちのお役目なんですから。警戒はしておいてください」

 

まだまだ麓。そして今のところ祟り神の気配もなければ私の獣耳も出てきてはいませんが、いつどうなるのかは分かりませんからね。

 

「以前遭遇した場所、というのはどの辺りですか?」

 

「あと15分ほど歩いた先に進んだところと、さらに5分ほど進んだところになります」

 

「そういえば祟り神の出現場所って法則があったりするの?」

 

『ないと思う、としか言えん。今までキチンと歴代の巫女姫が記録を取っておったわけではないし、毎回同じ場所で出たという感覚もないからな。まあ、そこまで奥地に行く前には大体遭遇しておる』

 

「先日の診療所での事を考えると……憑代そのものが移動していて、私の所に向かってきているんだと思います」

 

 

 

初めて幽霊に遭遇した時より数日前。

山で有地さんが回収した憑代の欠片を調べていたみづはさん曰く「憑代から祟り神が現れた」。

祟り神自体は移動しているんですから、憑代も動いてしまっていると考える方が自然ですね。

 

 

 

そんな話を聞いておられたのか、あるいは何かを感じられたのか。

不来方さんがおもむろに射影機を構えられて。

 

『ひっ! あ、あやつらが現れおったのか?』

 

「いえ。怨霊ではないようですが、これは……芳乃さん」

 

「はっはい!」

 

なんでしょう? 今日は不来方さんが射影機を使われるとの事でしたが。

私が射影機を使うんですか?

 

「あちらの方角に射影機を構えてもらえますか?」

 

「はい、お借りしますね……えっ?」

 

「芳乃様?」

 

「朝武さん、なにか見えるの?」

 

「見えるというか……反応? と言えばいいんですか?」

 

幽霊らしきものが見えているわけではありません。

ですが特定の方角、場所がファインダーに入ると青い線がぼうっと灯って。

 

「これも射影機の機能の一つです。人の認識から外れた物……まあ「失くし物」ですか。それを表に出す事ができます。そのままフィラメントの反応の強い場所に近づいてみてください。周りに霊はいないみたいですから」

 

「はい。あぁ、音もしてきたぁ……」

 

『この感覚ばかりは芳乃と不来方にしか……うん? ご主人、分かるか?』

 

「これは――憑代の欠片を近くに感じた時の気配?」

 

「それでは、この辺りに憑代の欠片が落ちていると?」

 

特定の場所に近づくにつれて……フィラメント? でしたか。これが強く青く光って。

あとは霊波計とやらの音でしたか、コレも大きくなって。

多分この辺でしょうか。

 

「不来方さん、多分ここだと思います」

 

「フィルムを〇七式に切り替えて、そこを撮影してみてください。なんとなくでいいので射影機の角度を変えて、反応が強くなるところで」

 

今装填されているのは一四式。ここから……このダイヤルでしたっけ? ええっと、カチカチと。

これを習慣づけないと貴重なフィルムの無駄打ちになってしまうわけですね、気をつけないと。

撮影する角度は……っ!?

 

「なんか頭にキンキン音が?」

 

「そこで撮影してください」

 

「あー、そこにあるんだな」

 

パシャっとシャッターを切ったら。

 

「……憑代の欠片!? さっきまで見えなかったのに!」

 

「気付かなかったですね。ムラサメ様と有地さんは気付かれた感じですか?」

 

『気配は感じた。が、簡単に目視は出来なんだ。草むらに目線が向いておったのだろうな』

 

「俺も一緒だよ。よく探したら分かったかもだけど、ね」

 

夕暮れのこの時間に、地面に落ちていた透明な破片を見つけるなんて至難の業。

それをピンポイントで発見出来ました。

有地さんが憑代の欠片を拾って、私は不来方さんに射影機をお返しして。

幽霊退治だけでなく、こんな便利機能までカメラに?

 

「『呼び戻し』と呼んでいます。普段人の認識から外れているものを表に出す、普段意識が向かないところに目を向けるような技術です。勿論条件付きにはなりますが――これが以前私が行っていた仕事の一つです」

 

「失くし物探しですか。たしかに大切なものを探している方にはとても助かる力ですね」

 

なるほど、こういう霊感の使い方をお仕事にされるわけですか。

さすがに毎日幽霊退治だとは思っていませんでしたが、これなら相談も多そうです。

 

『これで芳乃も憑代を探せるというわけか。まあ射影機を借りる事が前提になるが』

 

「ですけど条件付きなんですよね?」

 

茉子の質問に不来方さんは。

 

「使用者本人がそれを強く探し求めているか、それに関わる何かを身につけている必要があります。さっきの呼び戻しを芳乃さんにお願いした理由はそのためです。私は憑代には詳しくないので」

 

との事。それは私じゃないとダメですね。

 

「不来方さんは祟り神から一番縁遠いですもんね。朝武さんの方がはっきり感じ取れると」

 

「それでもあまりお借りしたくはないですけれどね……」

 

だって、お値段が……。

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

そこからさらに十数分。ほぼ完全に陽が落ちて、どんどん夜の闇が近付いてくる中で。

 

不来方さんがストップ――否応が無しに緊張感が高まります。

 

『……あ、あ、あぁ……こ、この感じは』

 

「皆さんは私の後ろに。周囲を見て頂けると助かります」

 

「分かりました。芳乃様は不来方さんの近くに。周辺警戒はワタシと有地さんがしましょう」

 

「そうだね、朝武さんは次にやってもらうかもなんだし……ほらムラサメちゃん、宿った宿った」

 

『なっなんという雑な扱いなのだ……まあ直接目にせんだけマシと思わねばな』

 

「よろしくね茉子、有地さんもお願いします。不来方さんはお気をつけて」

 

やっぱりムラサメ様はなんとなくわかるのでしょうか。

陣形を取った後は不来方さんが射影機を構えて。

 

ああぁ……私にも見えました。

あの幽霊は。

 

「初めて、見た時のやつです……く、首が……」

 

先日は5人見たわけですが、インパクトは目線の先にいるファースト幽霊の方が圧倒的に上ですね。幽霊じゃなくてもこれは怖い……。

 

「……残念ですが完全に怨霊になってしまっています。正気に戻すというのは不可能ですね。私は今からあの怨霊に近づくので、芳乃さんは距離を取っておいてください」

 

「わかりました」

 

一方で不来方さんは全然怯んでいない。本当に、普段はどのような世界が見えているんでしょうか。

 

 

 

『……ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ』

 

 

 

『ひぃ!?』

 

「ほら、不来方さんの邪魔しない。耳を塞いで!」

 

「刀の状態ですから無理ですよ、有地さん」

 

そんな会話が後ろから聞こえてきた気がして。

でも私の視覚と聴覚は幽霊に釘付けで。

 

『ア゛ア゛ア゛ァ゛』

 

不来方さんの方に一気に!

 

「こz」

 

「大丈夫です」

 

幽霊まで1メートルを切ってたんじゃないですか!?

そんな至近距離で――明らかに「パシャ」っというシャッター音とは違うもっと重い音。

言い表すなら「バシャン!」という感じでしょうか。

 

『アアゥ……』

 

「怯んだ!?」

 

「マジで!?」

 

幽霊が弾かれたように後ろへ下がって。なんか見えるものが増えた……。

 

「今飛び散っているのが霊片――芳乃さんは見えていますか? 怨霊の欠片だと思って下さい」

 

「は、はひ……」

 

不来方さん、冷静過ぎません? というか怨霊の欠片って……。

確かになんか、よく見ると幽霊の顔に見えますね。直視したくありませんが。

 

『ア゛ア゛』

 

 

バシャン!

 

 

『ウアア、アァ……』

 

二枚目を撮影されて――幽霊の姿が歪んでなんだか白っぽく?

 

『……気配が、変わった?』

 

「怨霊の基となったものはもう散らしました。これは最後の残留思念のようなもので、そのうち消えてしまいます」

 

「なんとまあ、あっさりと言っていいか分かりませんが。すごいものですね」

 

「あっさりじゃないわよ、茉子。ものすごく幽霊に近づいていたから」

 

「除霊ってこういうもんだったんだな。テレビとかは完全にやらせだって思ってた」

 

そんな私たちの会話をしり目に不来方さんは幽霊のそばへ。

そして、右手で幽霊に触れたような感じがして。

 

 

 

『……あああぁ』

 

 

 

幽霊は、消えていきました。なんとなくですが最後は救われたような感じだったでしょうか。

 

「……一旦はこれで終わりです。特定の何かに対する明確な怨みというよりは、ただ自分がわけもわからず亡くなられてしまった事に対する理不尽から、生者への妬みを持ったような感じでしょうか」

 

「ありがとうございます、不来方さん。という事はやはり」

 

『うむ、生前は至って普通の人だったのだろうな。何かの事故で亡くなったか、吾輩のように病に伏せた元穂織の住人の霊が何らかの理由で力を得たのだろう。穢れとの因果はわからぬが』

 

「穂織の浮遊霊みたいなもんって事か」

 

「しかし……怨霊というものにも強さというか、ある程度識別は出来るものなんですか?」

 

不来方さんは先程の一連の出来事を思い出すかのようにしながら。

 

「そう、ですね。生前強い霊感を持っていた方の怨霊や生霊は極めて危険ですし、極端に強い執着があった場合は近づかれただけでその影響が出ます」

 

「……具体的には?」

 

「――()()()()()()()()()()()()()()()とか、ですね。身体を乗っ取られるような感覚を想像してください」

 

恐ろしいなんてもんじゃないですね。完全に呪詛の類じゃないですか。

祟り神に喰われるのも呪詛で寿命を削られるのも嫌ですけど、身体を乗っ取られるというのは想像が出来ないお話です。

 

「ところでムラサメ様、祟り神の気配は感じられますか? 芳乃さんの耳は私にも見えていませんが」

 

『今のところは大丈夫だ。安全などとは絶対に言えぬが、穢れを感じる時に比べれば圧倒的にマシだろう』

 

「ではもう少しだけ周辺を見回ってみましょう。お話を聞いた限り一体ではないとの事でしたから」

 

『え゛っ……ま、また? また幽霊に自分から会いに行くのか?』

 

「いや、今後そうなる可能性大じゃん。さっきのも元は普通の人の幽霊だったんでしょ?」

 

「そうですね。いい話ではありませんが今後芳乃様にご対応いただく事を視野に入れると、この場はもう少し不来方さんのお力をお借りした方がいいでしょう」

 

「そう、ね。不来方さん、よろしくお願いいたします」

 

『なんでアレ相手にそれほど堂々として居れるのだ……』

 

それが日常だった、という事なんでしょう。

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

『おおおぉぉ……』

 

「はぁ……はぁ……怖いなんてもんじゃないんですが?」

 

あれから。

さらに少し山の中に入って別の幽霊に遭遇しました。

前回私たちが遭遇した幽霊と同じか分かりませんが、全部で7体……7体?

一体全部で何体の幽霊がいるの? 祟り神以上にいたりする?

 

6体は不来方さんが除霊されて。

 

「芳乃様、大丈夫ですか?」

 

「と、とり、あえず……体力的に、どうこうとかじゃなくて。ファインダー越しでも、幽霊を見続けなきゃいけないのがもう……」

 

『吾輩ならショック死していそうだ。何故あれを平然とできるのか……』

 

「ムラサメちゃんはもう霊だって。にしても、心霊ビデオを鼻で笑えそうな事やってるよね」

 

「撮影の仕方は除霊の効力にどうしても関わってしまうので。残念ですがフィルムの残数を考えると、遠距離から撮り続けるのはこの先無理があるんです」

 

一体だけですが、私も除霊する事になりました。

不来方さんがいる時に経験できるかどうかでは段違いですからね。

 

 

 

それにしたって――「まだ(撮っては)駄目です」って何回言われました?

私、射影機を握りつぶさん限りに手に力入ってましたよ!?

ファインダーが全部幽霊の顔で埋まってるんですから当然じゃないですか!?

 

 

 

頑張りましたが……やっぱり不来方さんより撮影枚数は増えてしまいました。

元々の霊感の差も大きかったりするんでしょう。

 

「先程の方々も、怨霊としては特別強い怨みや縁があるものではなかったと思います。現れ始めた原因というのは残念ながら……」

 

『いや、今はそれで十分だ。彼らの正体に関しては一旦吾輩達の目的ではないからな。対抗手段が取れるという事実だけでも随分な収穫だ』

 

「芳乃様に射影機を使って頂く機会を減らす事は大前提ですけどね。もしもの時の備えが可能なのは本当に大きいです。ありがとうございました、不来方さん」

 

「結局、なんで叢雨丸は切れなかったんだろうな?」

 

「ありがとうございました。それに関しては……そうですね」

 

霊的な存在を断つ事ができる叢雨丸。ですが幽霊には効果を成さない。

単に叢雨丸の神力は祟り神に特化したもの、という事でしょうか。

 

「射影機も全ての霊を除霊するわけではないんです。芳乃さんは見られたかと思いますが、フィラメントが赤い――つまり使用者本人が害意を向けられていると認識している場合に限ります。射影機が写す物は霊だけではありませんから」

 

『叢雨丸にとっての敵と認識されておらんという事か? まあこればっかりは今のところどうにもならぬな』

 

「そういう意味ではやっぱり祟り神……犬神とは無関係の方々という事になりそうですね。祟り神が幽霊を嫌った理由は今も分からないですか」

 

「その辺は後々のお話ですね。私たちは祟り神を祓って憑代を元に戻す事を第一に考えましょう」

 

「そうだね、それが元々の目的なんだし。そっちが解決したら夜の武実乃山に入る目的もなくなる……あの幽霊ってほっとくとどうなるんですか?」

 

有地さんがまた怖い質問を……。

 

「今はなんとも。それこそ原因が分からないと、そのままなのか変化するのかは分かりません。ですが有地さんが叢雨丸を抜かれた事が切っ掛けなら、元に戻せば消えるかもと思う所はあります」

 

たしかに。それがあるんですよね。

憑代を元に戻して呪詛を解いて、叢雨丸をもう一度あの岩に戻せれば。

……あれって、刺し直しができるんでしょうか?

 

『まあその辺の話は後でよかろう。穢れの気配がないとはいえ、ここは夜に長居する場所ではない。武実神社に戻るとしようぞ』

 

「そうですね。それでは戻りましょう」

 

「不来方さんはこの後お時間ありますか? 宜しければご夕食をと安晴様から承っているんですが」

 

「時間自体は大丈夫ですけど……」

 

「帰りは俺が送っていきますよ。穂織の治安なら大丈夫と思いますけど、いないよりはマシだと思うんで」

 

そういえば、不来方さんにも温泉に入ってもらった方がいいんでしょうか?




という事で射影機を使った初戦闘でした。
効果音のバリエーションを増やさないとかなり地味に。

次はチャプター2の最終話です。
次回も楽しんで頂けたら嬉しいです。
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