今更ですがネタバレ満載ですのでご注意ください。
11人登場しますが、
主題側であるはずの「千恋*万花」のキャラは
一人しかいません。
今回もよろしくお願いします。
「すみません、累さん、芦花さん。全部お願いしてしまって」
「アシスタントが私の仕事ですので。夕莉さんはもう少し他人を頼る事を覚えた方が良いですよ」
「アタシが出来るのはこのくらいですから。手を動かしている方が落ち着くんです」
「本当に美味しいですよ、コレ。機会があれば注文とか出来ます?」
「してくれるの? 深羽。楽しみね」
『深紅、食べ過ぎないようにね。太らない上に肌も荒れない身体に私の嫉妬が溜まるから。更年期のツラさを知らないとか、世の女に喧嘩売ってるわ』
『俺の知っている深紅は、寧ろ食が細かったと思ったが? 表向きには知らぬ者なしの娘といい、雛咲家も随分と変わったものだ』
「ここ十年で体質が変わりまして。あと怜さん、私はまだそこまで――」
「やめなさい、またお説教貰いたいの? 事が終わったら、天倉さんが御存じの父の事でも聞かせてください」
『あいつもとんでもない事やらかしたよなあ……ああ、待っているよ。写真もあるから、良かったら渡そう』
『ウチにいらした当時は軽食が多かったですけど、匪にいらっしゃった期間のカロリーを補給されているのかもしれません。あの時夕莉が淹れてくれた珈琲は、色んな意味で格別だったわね』
「私なりに悩んだ結果ですから」
『あの御容貌で、私達と同世代とは思いませんでした。流石美優さんのお母様ですね。お車もお噂通りパンチのある不等長音で、今まで間近で聞く事がなかった新鮮な。新しい表現が浮かびそうです』
『流歌も二十年くらい変わってないと思うんだけど? お元気だったら
「い゛っ、いえ……俺は唯のしがない作家で、麻生の本家筋にお邪魔するなんて……」
『俺は、麻生さんがよろしければ。優雨達に話してやるネタがまた作れそうですから』
「放生さん、そこはご提案に乗ってください。お願いしますよ。仲良くなってください。私が助かりますから。流歌さんはすみません……五月蠅くなかったです?」
「改めて私からアポイントを取らせていただきますので、その際はよろしくお願い致します。先生も天倉先生を見習って、少しはネタ探しに真剣になってください」
ここ最近営業していないのは変わらずだけど、今晩は賑やかだ。まさかこんな機会に当事者として関わるとは思いもしなかった。
累さんがお持ちだったノートPCのグループ会議。その連絡先は三か所で計五名。一つは密花さん。あの時の珈琲をまだ覚えてくれているらしい。
私にとって未知なのは、残りの二か所。
深紅さんの元上司である黒澤怜さんと、そのご友人で古字解読でお世話になった天倉螢さん。深紅さんを子供のように扱える人には初めてお会いする。
そして……深羽さんの関係者であるピアニスト「LUNA」こと水無月流歌さんと、そのスポンサーでありチャージ式の二台の射影機の真の持ち主、麻生姓をお持ちの麻生
深羽さんの「どうせなら有識者集めません?」の一言でこの場が設けられた。今この瞬間は、日本で最も隠世に詳しい方々が集まっている気がする。ここまで強力な方々が集まると、深紅さんの家電破壊体質でも大丈夫な様子。鬼も恐れて出て来ないだろう。
『それで夕莉。明日に穂織の黄泉の門へ?』
「はい。元凶と思しき怨霊に乗り移られた有地さんの心とお身体も心配ですし、穂織も日上山の禍津陽のようにナニカが近づいている気がします」
「まー坊……あの子はかなり我慢をしてしまう性格なので、その怨霊というのに抵抗して心を擦り減らしすぎていないか……」
『何にしても急いだ方が良い状況なのね。貸した射影機は使えてる? 元々ボロかったとはいえ、どっちも三十年くらい使ってなかったんだけど。フィルム液死んでたらごめんなさいね』
「ええもう全っ然大丈夫です。母がフルパワーで使った時は色んな意味で穏やかでなかったんですが、特に故障などは。朧月の方は今後私がお預かり致しますから」
『黄泉の門……奈落の底の
「私と深羽さんで、恐らく皆さんがご覧になってこられただろう現世と隠世の境を見て回る経験をしたんですが……」
「母が当事者になった、言葉通りの「黄泉の門」が最も近いものです。巫女を
戦国時代に散々各地を回らされた結果、私も随分と詳しくなってしまった。各地にあんな場所がある事もそうだけれど、それを封じる方法がどうしてああなってしまったのか。
そしてそのそれぞれは、全てこの場に居る方々に何らかの形で縁がある。
『螢は呪いの解き方を間違いかけたんだけど、そちらは大丈夫そう? 儀式が終わった後に凶行が起きたせいだったんだけどね』
「朝武さん達が過去から聞いてきてくださっていますから。特に必要な三つの要素は分かっています。怜さんに画像修正してもらった写真に写っていたお方から、直接話を伺えたそうで」
『直したのは深紅のチョップでしょ? たしか穂織のお医者さんの先祖って人ね』
「ええ。水、花、姫。水は穂織の御神刀「叢雨丸」で神の身体、花は人柱の少女で神に選ばれた者、姫は当代の巫女で神の力を継いだ者、との事です。神って存在が本当に関わっているのが、俺には信じられないんですが」
『随分と穂織の儀式は効果が良かったのね。半分失敗しているのに500年も持ったなんて。神のおかげかしら』
『朧月神楽は10年に一度だったものね。仮面は揃っているわけですか……楽譜と演者は大丈夫そうですか?』
「…………これって、ドラマのネタバレだったりします?」
「先が気になるなら、耳塞いで貰った方が良いかもですね。今の所、姫を担う巫女の朝武芳乃さんが戦国から続く神楽舞を奉納すれば、穂織の神の力が戻って閉じられるようです。ただ……」
「その三つの要素のうち……最も重要であろう御神刀が、怨霊に取り憑かれたであろう有地将臣さんという男性の手にあります。加えて、その彼こそが唯一の刀の使い手ですから」
『有地君に憑いた怨霊を祓うのが絶対条件。累が言いたいのはそういう事ね?』
「はい……」
ここが一番の壁であり、最も不安定な要素。
現世に戻って来た直後、有地さんに憑りついていた怨霊――朝武義和に私と深羽さんで強化レンズを使った攻撃を仕掛けた。けれど、耐えてきた。あの時は怨霊というよりは有地さんのお身体が表だったから、と考える事も出来るけど。
仮にそのままだったら、祓うのは至難の業になる。常陸さんに制圧してもらったとして、それでも祓う事には繋がらない。私が知っている分には、密花さんに憑りついた巫女の怨霊が一番近い。これと同じならいいのだけれど。
『ちなみにだが……鏡宮。その少年に憑りついた怨霊は、今回の件の誰かに対して強い執着を持っているか?』
「ええ、巫女である朝武さんを襲う事を目的にしていると思いますが……?」
『であるなら、怨霊側が表に出てくるのはほぼ確実だろう』
意外な事に、天倉さんからそのお言葉を頂けた。
「それは……澪さんと、繭さんの?」
『ああ。怨霊というのは執着があるからこそ、常世の存在なのに現世に残っている。ならその無念を晴らそうとする際、表に出て来ないという事は無いだろう。加えてその場は常世、彼女らの領域だ。澪に憑いていた霊は負い目があって、中々表に出てくる事が無かったそうだが……約束を果たすべく最後には出てきたという。もしそれが無かったら、未だに繭は皆神村に消えたまま。澪に至っては灰になっていただろう。深紅が話してくれたケースとは異なるだろうが』
『螢』
「いえ、大丈夫です怜さん。螢さんのお話通り、兄の時とは違うようですから」
「……自分で、喋れる?」
「うん、心配しないで。今は貴女が居るんだから」
深紅さんと、そのお兄さんの御関係については同期の際に知った。けれどそれ以上の事は私も知らない――深羽さんにとっても心の奥底に仕舞われている話。
「……私の兄、
「それはつまり……その怨霊が、深紅さんのお兄様に執着を持った、と?」
「はい。生前の恋人の方によく似ていたそうで。兄も朧気にそれを理解したのか、そこから踏み込んでしまったようなんですけど」
深紅さんがスマホに触れられた際に表示された「真冬」の文字。お兄様の名だったのか。
『例はいくつかありそうですが、恐らく怨霊が表に出てくるのは心配しなくていいでしょう。だけど……私や夕莉達が知っている絶対霊と、決定的に違う点があるわね』
「ええ、その絶対霊となった元の存在が」
『ゴミって事なのかしら? 流歌が戦ったのって
『そうね。朔夜さんは
「正気に戻した所で、解決にならないかもしれない……という事でしょうか」
今までに私が知っている例は、どの絶対霊も元は善性の存在であり、黄泉に関する儀式に従事されていた方であり、最終的にはどの方もその使命を全うされた。例外として、皆神の『
一方で今回有地さんに取り憑いている朝武義和は、絶対霊と化しているかは分からないけれど……それらとは無縁の存在。元の性格も明らかに善性とは言えないものだった。善性の存在に該当するのは、部下として従わされていると思われる駒川磯良さんになる。
故に、有地さんから引き剥がせたとして。
再び取り憑かれてしまうなり、今度は芳乃さんに憑いてしまう可能性もあり得なくもない。その場合は……彼女にとって最悪の結末を迎えるかもしれない。
――自らを呪って来た存在を、自らの身体を以て再生してしまうという。
「となると……出来るのかな。あれの再現って」
全員が悩む中、深羽さんがそんな事を仰った。
再現、とは?
『深羽さんの時の再現……日上山のお話の際に何かあったんですか?』
「そちらの件ではなく、雛咲家が持っていた射影機のお話です。現物は既に壊れて失っていますけど」
「……ああ、そうね。あの射影機は」
『深紅と真冬さんの射影機……確か』
「はい――あれは、『怨霊を
『貸しているヤツの同型改良式らしいわね。博士もそんな所まで行きついていたとは思わなかったけど』
怨霊を封印できる……実際にどういう事が起きるのか分からないけれど。
『真冬が言っていたな、あれは文字通り「常世を侵す」シロモノだと。現世に居ないはずの霊という存在を、フィルムという実物に縛り付けられてしまうと聞いた。優雨とやっている研究に興味はあったが、恐れを抱いたのはその話が初めてだったよ』
「それができると……他の射影機とは、どう違いが?」
「多分ですけど……その怨霊は、永遠に常世の存在ではなくなります。本来ならありえない、フィルムの中にしか存在できない、輪廻から完全に外れた存在。放生さん達がお持ちの弔写真を、真に魂を宿したものにするのだとお考え下さい」
『とんでもないわね。日上山の一件では、夕莉が彼女を看取って溢れた夜泉を御澄に還らせ』
『澪と繭の時は、双子の魂が
『私達の時は、私が
『私の場合は……朔夜さんの帰来迎をお手伝いする事で、
「それは、逆を言えば――射影機のみでは怨霊達を黄泉の瘴気の呪縛から解く事が出来ず。あくまで事態解決の手段の一つでしかなかった、という事ですね。それが射影機だけで行えてしまうかもしれない、と」
「……すごいですね。日本各地でそんな事が……」
累さんが纏めて下さった通り。
射影機だけで真に除霊はできない。元を断たなければ、あれらの儀式によってありえないものを隠世の向こうに送らなければ、日上山の彼ら彼女らは死の直前の出来事を延々と繰り返し続けた。
けれど。
「その射影機は……射影機だけで、霊としての在り方すら失くしてしまえた、と?」
「……そう、なるんだと思います」
話は伺っていて、自分で口にして、なお信じられない。文字通り「ありえない」効果。理由は聞いているけど、それほど強力な効果をカメラに宿せてしまったとは。
『全てをゼロに出来る射影機、ね。じゃあ深紅さんが騒動に巻き込まれた時は、事の元凶をフィルムに封じて焚き上げでもしたの?』
「いえ、封じきれずに射影機が壊れてしまいました。ですが……その方は自ら事態を何とかすべく、瘴気に侵される前に善の心を切り離されていた。黄泉を封じる鏡に彼女を映す事で、
「お母さんのはそういう事だったわけ。流石の完成型射影機でも絶対霊そのものを封じる事は出来なくて、ぶっ壊れたと。でもまあ、その手前までは持っていけるかもね……麻生さん」
『何かしら?』
「お借りしている射影機の、お札が貼ってある方。購入させてもらっていいですか? 多分壊します」
『あらあら、演じない宗方美優も中々に大胆な事を口にするのね? 一応文化遺産的なものなのに。キライじゃないわよ、そういうの』
確かに壊す宣言は凄い。カップ一つ割っただけでてんやわんやする私じゃ、生涯言えそうにない。
『一々売るだなんてケチな真似はしないわ、差し上げましょう。ウチに置いておいたところでまた埃を被るだけだろうし。それで町一つ救えるというなら断る理由もないわ。ただまあ、タダより高いものはないから――貸一つという事で』
「お手柔らかにお願いします……」
『海咲、皆さんを助けるためなんだから』
『流歌が心配するような事は考えてないわ。でも宗方美優の代打としてLUNAを貸し出している状況なのよ? その分くらいはいいじゃない?』
「…………ぇっ? ちょっと、待ってもらえません? あっち、そんな状況に? 流歌さんが?」
『……? ええ、流石に10日も撮影に穴を開けたら皆さん大変だと思って。問題のない所は私が、と申し出ました。幸い脚本も裏設定まで全て知っていますし背格好も近いですから。アテレコや編集はお願いするかと思いますが』
『演者の元ネタだものね。中々珍しいわよ? 音楽以外基本ほんわかしてるこの子が、真面目に誰かの代役を買って出るなんて。プロデューサー達も奇跡だと泣いていたわ。貴女クラスの人間のスケジュールが10日もズレたんだもの、他の現場とか血の涙を流しているんじゃないかしら』
「お゛おおぉぉぉ…………単なるすっぽかしより遥かに恐ろしい……」
「ドラマや映画の裏側って、こんな事が起きているんですね。NGシーンより面白い」
「馬庭さんは中々貴重なシーンをご覧になっていますよ。こんな深羽さんを見るのは私も初めてですから」
頭を抱えられる深羽さんは、私も見るのは久々かもしれない。青ざめているレベルなのは初めてかもしれない。お話をしている限り、水無月さんはおっとりとした気配の方のようだけれど……?
『3日後には現場に戻られるんですよね? ならそこまでは大丈夫ですよ――役に戻られる前に、ピアノの練習をいっぱいしないとですから。徹夜でも時間を取れるようにしておきますね?』
深羽さんの震えが止まった。凍ったのかもしれない。音楽に関して一切妥協されない方なんですね、徹夜って……。
『それにしても、こんな時間を持てた貴方達は多分幸運よ。私達の時はお通夜より酷かったから。優雨と深紅の三人で暮らしていたはずが、いつの間にか怨霊の方が多くなったし。ねえ、ルリ?』
『自分達がいつ灰になるか、目で見て分かるような状態だったからな。半月も延々と悪夢を見させられて、俺も澪達を助ける意志がなかったら擦り切れていた……その猫、深紅が優雨達に引き取られた際に連れて来たんだったよな? 人換算で何歳なんだ?』
「150歳くらいかと。まだまだ元気よね? ルリ」
『私の時は全世界の方が「咲く」ところでしたよ? 最後の
『流歌と長四郎さんが一晩で世界を救っていただなんて誰も知らないわよね。
「流歌さんの件は極端すぎます。それに穂織も後一回失敗したら、日本全土くらいには広がるかもしれません。こっちは頑張りますから、東京に帰った時は加減してください……なんで腕前が合わないんだろ」
『どうしましょう、夕莉。私達って同じ家に居たのにほぼ単独行動だったわよね? ブラジル豆のエスプレッソで眠気を吹き飛ばすべきだったかしら』
「私と先生以外はそうでしたね。少なくとも会議をした記憶はありません」
「家に居ても大体寝ていて、それでいて夜になったらフラフラと、だ。もう監視カメラで見張りなんかしないぞ」
「なんというか……大変ですね。夕莉さん、相談事があったらいつでも乗りますから」
「……ええ、お願いします。明日を乗り越えたら、田心屋にお邪魔します」
私達の件も……なんというか、もっとやりかたがあったんじゃないだろうか? 今後は取り敢えず、動くにしても明るい時間帯にしよう。
名前が初登場、または久々のキャラが大量発生。
ストーリーに直接は関わりませんので、ここで紹介します。
本話での登場順です。
・水無月
流歌の母。旧姓は四方月。「月守の巫女」の末裔。
・天倉
二作目「赤い蝶」の主人公の双子姉妹(澪が主人公)。螢の姪。
本作ではマヨイガエンドで澪→刺青ノ聲で繭が救出され、両名生存。
・麻生
怜の婚約者。民俗学に詳しい編集者。
・雛咲
深紅の4つ上の兄でジャーナリスト。螢、優雨の仕事仲間。
深羽の伯父にあたる。実際は深羽の父。
・
三作目「-刺青ノ聲-」の巫女。
・
零華の彼氏。
・
四作目「月蝕の仮面」の巫女。海咲の義姉的な存在。
零の全キャラクター中最もヤバい事をやろうとした。
・
二作目「赤い蝶」に登場する民俗学者。
深紅達の先祖「宗方良蔵」の上司で麻生邦彦の友人。
・
一作目「零 -zero- 」の巫女。
・
四作目「月蝕の仮面」の主人公の一人。元刑事の探偵。
過去に流歌達を神隠しから救出した。
・
四作目「月蝕の仮面」に登場する流歌、海咲の幼馴染。
次より本チャプターのメインとなります。長いです。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。