初撃退の打ち上げですね。
今作の夕莉は、二十歳は超えています。
今回もよろしくお願いします。
「おかえり。皆無事みたいだね。夕莉君も本当にありがとう」
「ただいま戻りました、安晴様、みづはさん。今回は被害ゼロです」
「まあ夕莉君がいるんだから、幽霊に関する心配はしていなかったけどね。夕莉君は本当に協力ありがとう。芳乃様達もお疲れ様でした」
「いえ、少しでも力になれたのなら良かったです」
『少しどころか』
「百人力だったよな?」
「あれを今後私がやらなきゃいけないんだと思うと……」
もう完全に日は落ちてしまいましたが、全員無事に武実神社に戻る事ができました。
戦果だけで言えば幽霊を8体退治して、更に憑代の欠片も入手の大豊作なんですが、私の精神ダメージが中々にヒドイ。
あれって慣れるものなんですか? 不来方さんが既に体現されてはいるんですが。
「先刻もお伺いしましたけど、不来方さんはこの後お時間大丈夫ですか?」
「出前を取ってあるんだ。もしよければ夕莉君も食べて行っておくれよ」
「私もご相伴に預かる事になってね」
「ありがとうございます。それではお世話になります」
「おっ! それじゃあとっておきのやつを出さないと!」
この流れだと不来方さんじゃ断れない気がするわよ? お父さん。
不来方さんってお酒の強さはどうなんだろう。
それよりも。
「ムラサメ様、不来方さんもここの温泉に浸かって頂いた方がいいでしょうか?」
『勿論浸からぬより浸かった方が良いだろうが……やはり体質の違いなのかの?』
そのまま「当然」と仰られるかと思えば、そうでもない?
「不来方さんは何か違う感じなの?」
『何かというか……穢れが溜まっている気配が全くしない。あの喫茶店が武実神社の境内に似た雰囲気だと吾輩は言っただろう? 恐らくだが、不来方本人の力で散らせておるのだ』
「そうなんですか? 私には特に実感がないのですが」
「まあ、一回くらいだとワタシたちでも分かりませんよね。今日は祟り神と戦闘したわけでもありませんし」
いや、それは違うわよ茉子。
わざわざムラサメ様がそう説明されているという事は、正真正銘穢れを落とす行動が必要ないって事。これまでの巫女姫にはなかった能力。
恐らくだけど、それだけ不来方さんの霊力? とでもいう力が強いのよね。
そのせいで逆に引き寄せてしまうという事もあるようだけれど。
「何にせよ今日は着替えを持ってきていませんので、お気持ちだけ頂きます。特別汗もかいていないですから」
「中々に健脚ですね? 分かりました。まあ今日はワタシたちも夕飯を頂いてからにしましょう。芳乃様、それでよろしいですか」
「もちろんよ。不来方さんはゆっくりしていって下さいね。私たちは一旦着替えに失礼します」
『ご主人、回収した欠片を合わせるぞ』
「そうだな、って常陸さんがいつの間にか着替え終わってる……」
「忍者ですから」
「便利ですね、忍者って」
意外と不来方さんのノリがいい。いや、天然?
♢♢♢
「おっ! ゆうりくんはいけるくちだねぇ」
「安晴さん、そのお言葉7回目です。お酒よりお水を」
「安晴様はその辺で。これ以上はデザートを食べられなくなりますし、医者としてもドクターストップをかけなければならなくなります」
「むぅ、そうかい? まあこうしてゆうりくんとたくをかこめただけでもぼかぁうれしいよぉ」
「ありがとうございます」
ザルだった。お父さんが強いわけじゃないけど、不来方さんはお酒が入った気配すらない。
お酒を飲む事は付き合い以外ほぼないんだけど、今回は不来方さんがいるから舞い上がっているのかしら。お酒が抜けたらお説教ね。
にしても。
「デザート?」
「ああ、安晴様から伺いましたが田心屋にデザートをお願いしているそうです」
「じゃあこの後芦花姉がここに?」
『そういう事だろう。うらやましいのう……噂をすれば、だ。吾輩は席を外すぞ。話しかけてしまうとややこしかろう』
「ごめんくださーい」
「はーい! ただいま!」
すみません、ムラサメ様。
玄関から馬庭さんの声。ひょっとしてひょっとしてひょっとして!!!
「お邪魔致します。こんばんは、巫女姫様、まー坊」
「お世話になります、馬庭さん。夜分にすみません」
「いえいえ、こうして売り上げに貢献頂けるのは大変ありがたい事ですので」
「何を持って来てくれたんだ?」
「それは後のお・た・の・し・み、だよ、まー坊。数が多いとは思っていたけど……ご無沙汰してます、夕莉さん」
馬庭さんが奥にいた不来方さんに声をかけられた。お知り合いのようですね。
「お久しぶりです、芦花さん。武実神社で会う日が来るとは思っていなかったです」
「それはこちらもですよ。夕莉さんの顔を見ると無性にコーヒーが飲みたくなるのよねえ」
「芦花姉は不来方さんと知り合いなの?」
「そうだよ? お互いにお客さまであり、アタシにとってはコーヒーの先生かな? ウチとは取り扱っているものが違うから競合もしないし、コーヒーを専門にされているお店は穂織では少ないでしょ? うちのお父さんもコーヒーは夕莉さんの所で飲んでるのよ。あそこは静かだしね」
たしか……田心屋の大将さんは中々に頑固な方だと聞いていましたが、そんな方でもあそこは憩いの場所なんですね。
そして私たち子供に隠していたと。むむむ。
「そちらはお預かりします。馬庭さんはこちらへ」
「ありがとうございます、常陸さん。安晴様、本日はありがとうございます」
「やあ! よくきてくれたねぇ!」
「……なんだか、随分と出来上がってません? 駒川さん」
「一線を越えそうになる前にちゃんと止めるから安心しておくれ。せっかく作って頂いたものを美味しい時に味わえないというのは、双方とも残念極まりないからね」
「はーい、皆様、お待たせしました」
茉子が持ってきてくれたのは……!!
「プリン!」
「気に入って頂けたようでなによりです」
「好きだよなぁ朝武さん。美味しいのは間違いないんだけどさ」
だって! プリンなんですよ!?
「今頃芳乃様の頭の中では語彙力不足の反応をされていそうですね。まあ芳乃様の場合、趣向品をそれ程食べてこられなかったので仕方がないですが」
「……意外に常陸さんの、芳乃さんへの評価が雑?」
「いや、アレは雑なのではなくて的確なんだよ。元々彼女は職務以外ではわりとフランクだよ?」
取り敢えず馬鹿にされている事は分かりました。
♢♢♢
「ところで……まー坊、最近小春ちゃんってなにかあったとかある?」
プリンを頂いて茉子が容器を洗っている所で、馬庭さんからふとしたご質問が。
小春さん――鞍馬君の妹さん。大体昼食は一緒に取らせてもらっていますね。田心屋でアルバイトをされているとの事ですから、馬庭さんも接する時間が多いでしょう。
特に変わった様子というのは感じていませんけど……。
「いや? 特にどうこうってのはないと思うよ。小春がどうかしたのか?」
「うーん。分かりやすくなにかがって事はないんだけど、ちょっと上の空になってる事が多いとか、お使いをお願いすると時間がかかるケースが偶にあるとか。そのくらいなんだけどね」
「上の空、ですか?」
わりと鞍馬君の手綱をがっちり握っているしっかり者の印象がありますけど。
「ええ。お客様がいらっしゃった事に気付かないとか呼びかけに一度で反応しないとか、そういったものです。小春ちゃん本人にも聞いたんですけど「すみません、なんだかぼうっとしてました」っていう程度で。今までの勤務態度が極めて真面目だっただけに悪目立ちしてしまっているんです」
「普段から鞍馬君の制御をされている感じですからね。ワタシも特別変化があったと思った事はありませんが」
食器洗いから戻ってきた茉子も私と同じ感想。特別気怠そうとか、そういった印象は感じた事がありません。
少し鞍馬君に対する当たりが強いくらい? まあアレは明らかに鞍馬君に原因がありますから。
「そうですか……ならまあ一時的なものかな? お仕事に慣れてきて少し緊張感が緩んできたのかもしれないですし」
「一応こっちでも気にかけては見るよ。特別聞いたりとかはしない範囲でさ」
「うん。ありがとう、まー坊。巫女姫様と常陸さんもありがとうございました」
「いえ。私たちも小春さんにはお世話になっていますから」
「そうですね、主に鞍馬君対応に。あ、馬庭さん、こちらプリンの容器です。時間もそろそろいい所ですしお開きとしましょうか。ワタシは不来方さんをお送りするので有地さんはみづはさんと馬庭さんをお願いできますか? そっちの方が道に自信ありますよね?」
「ありがとうございます、常陸さん。でも大丈夫ですよ? もうまー坊にエスコートしてもらう歳でもないですし」
「まあまあ、ご厚意に甘える事にしようよ。芳乃様達としてもその方が安心できるからね」
馬庭さんは一切ご存じないですからね――この穂織におかしな存在が出現している事を。
「わかった。じゃあ俺はそっちに行ってくるね。あ、芦花姉、店まで持つよ」
「あら? それはそれは。じゃあまー坊の漢気に乗っかるとしましょうか」
「では宜しくお願いするよ。ああ、芳乃様。安晴様の二日酔いは大丈夫だと思いますけれど、残っていそうであれば三つ葉を食べて頂いてください。目が覚めますので」
「分かりました」
まあ二日酔いは見た事ないですから大丈夫だとは思いますけど。
でもお客様がいる前で半分酔いつぶれちゃうなんて……。
「不来方さん、今日は本当にありがとうございました」
「いえ、こちらこそ御馳走様でした。射影機が必要になったら店にいらっしゃるか……こちらに連絡をください。基本的には穂織にいますからすぐに向かえるかと」
不来方さんが手渡してくれたのは、不来方さんの携帯電話の番号。
使わないに越した事はありませんが大変ありがたい事ですね。感謝いたします。
正直射影機を手に持ちたくないんですけどね……持つ意味合い的にも値段的にも。
♢♢♢
『吾輩も食べたかったのう……プリン』
「すみませんムラサメ様、のけ者にするようになってしまって」
『いや、吾輩から言い出した事だ。どうせ食べられんしな』
茉子と有地さんはお見送りに行ってもらって、お父さんはあの後あっさり回復して今はお風呂。
戻ってこられたムラサメ様と2人きりです。
この状況ってわりと珍しいのよね、大体茉子がいるし。
『取り敢えず幽霊への対抗手段が取れると分かって一安心だな。根本的に解決したわけではないが、憑代を集める間だけでもなんとかなれば随分な違いだ』
「そうですね。ですけど、あの幽霊のもとになった方々も……」
元はただの穂織の住人。今まで特に悪さを働いたわけでもない。
それをこちらの都合で祓ってしまうというのも。
『芳乃、それは違うぞ。怨霊と化してしまった時点で彼らの意思は無いに等しい。只々苦しみと憎しみの瞬間を延々と味わい続けておる。不来方が祓った時は成仏したような感じであっただろう? あの瞬間彼らは救われたのだ』
たしかに不来方さんが祓われた時はそんな感じでしたね。
『彼らは芳乃達やご主人を襲う事を目的としているわけではない――単に苦しいのだ。ただ目についた存在にそれを分かってもらいたい、そんなところなのだろう。この件も放置は出来ぬが吾輩や芳乃達の本来の領分ではない。それこそ安晴か、不来方の師匠ともいうべき者達に依頼する仕事だ。まあ祟り神さえ抑える事ができれば安晴がすぐに動くだろうさ』
「そう、ですね」
ならば尚更、少しでも早く憑代を集めないといけませんね。
私の為にも、みんなの為にも、あの人たちの為にも。
そういえば。
「私が祓った幽霊は成仏はされていないんでしょうか?」
なんというか、祓った後に不来方さんが触れて初めて成仏されている感じなんですよね。
あれは射影機がうんぬんとかとは違うように思えるけど。
『今の所は一瞬の話だから断言は出来んが……恐らく成仏はしておらん。一時的に気絶させたようなものなのだろう。彼らがどのくらいで再び動き始めるかは見当もつかんがな。まあその辺りはいずれ不来方に相談するとしようぞ。芳乃は自分の事を考えよ』
「はい……」
あれもそういう才能、という事でしょうか。
何にしても今考える事ではありませんね。憑代を戻して、呪詛を解いて、祟り神を鎮める。
そうすれば山の……穂織に存在する危険が一つなくなる。お父さんも茉子も有地さんもお役目から解放される。あの幽霊の方たちへも手が付けられるようになる。
まずはそちらを優先しましょう。
『さて、そろそろご主人や茉子も戻ってくる頃であろう。今日一番疲れておるのは間違いなく芳乃だ、しっかりと湯に浸かって疲れを癒せ。芳乃が万全に活動できる事が大切なのだからな』
「分かってます」
『ホントかのう』
むぅ。確かにちょっと頑張り過ぎてしまったところは……な、何度かあったかもですけど!
今以上に茉子や有地さんに迷惑を掛けられませんし、今後は不来方さんも。
分不相応な事をしないように心掛けないと。
♢♢♢
『こんな機会でもないと、中々君には直接お礼が口に出来ないから。君のお陰であの子は生きて、今も元気でいられている。本当に、ありがとう』
……。
彼女達は、
祟り神の話は聞いた通り。でもそれだけとは思えない。前は秋穂さんも居た。
相談されたわけでもないけど因果関係を疑うべきなんだろうか。
だけど……私が関わってしまうと、それが引き金になりかねないような気がして。
助かった命、それを散らすような事になってほしくない。
私も一度はそうなりかけたのだから。特に彼女は自ら望んだわけでもないのだから。
でも、どうしたら。
「……一度、
チャプター2完結です。お疲れ様でした。
ここまで如何でしたでしょうか。ご感想や評価を頂けると嬉しいです。
どうしても、読んでくださっている皆様のお気持ちがわからないもので。
現時点でストックが26話相当までなので、
以降はゆっくりになるかと思いますがお付き合い頂ければ幸いです。
それでは次回もよろしくお願い致します。