【ソードアート・オンラインRTA】ラフコフ殲滅Any%『■狂者』   作:GARAKU

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 鈴木祐斗先生のデビュー作『骸区』を皆さんも読みましょう。
https://shonenjumpplus.com/episode/10834108156652795921


7話.彼女はいつも輝いていた

 昔から、人の輝きを見ることができた。

 時に白く、時には沼のように濁った茶色。人それぞれ違う輝きが。

 いつしかそれを、その者が持つ()の色だと認識するようになったのは、中学に入った頃だった。

 何処で知ったかはわからない。だがある時に自分の秘密を。性別を目の前に立って茶化すクラスメイトの、あのにちゃあと笑った顔と、そして真っ黒な光は、今でも忘れられない。

 真っ黒とは行かずとも、ほとんどの人間が、その魂はまるで埃を被ったかのように、薄汚れたものがほとんどで。

 人を避けて、誰とも会話をせずに、自分の世界に閉じ籠って。

 そのうち、自分以外の誰もが、皆程度に違いこそあれど、必ず薄く、黒く汚れた色を持っていることに()()()

 その反動もあったのだろう、いつしかガラクは、人並み以上にゲームに没頭した。

 

 ゲームなら、相手の本当の顔がわからない。

 ゲームの中なら、相手の心の最奥も、薄汚れた魂の色もわからないままでいれる。

 ゲームの世界でなら、()()()()()()()()()。ストレスや苦痛を緩和できる。

 

 だがそれ以上に、ただ純粋に好きだった。

 この遊びを、ゲームを楽しいと感じた。だからこうして、彼はソードアート・オンラインの世界に足を踏み入れたのだから。

 

 ――その選択は、間違ったものではあったのだが。

 

 それでも、どうしても忘れられないのだ。

 あの日、仮初の浮遊城を、β時代の夢の世界を。

 そこで初めて、何のしがらみもなく、純粋にただ、ただただ楽しかった思い出を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2022年、12月27日。

 アインクラッド第四層が攻略され、そして第五層が解放された日。

 ガラクは既に、攻略の最前線には参加していない。

 キリトやアスナ、そしてミトからのメッセージは来ておらず、ガラクもまた、彼らにメッセージを送ろうとは思えなかった。

 自分で言っておいてだが、当然だろうと思う。元より仲が特段に良いわけでもなく、所詮は同じパーティメンバーに過ぎない程度の人間だ。

 しかも突然、そんな人間が自分のモノマネを、人格を形成するという、半分オカルトにも近い現象が起きたのだ。

 嫌悪感を露わにせず、むしろ困惑だけで済ませた彼女が、どれだけ優しい人物なのか。

 初めて彼女と出会った第一層、迷宮(ダンジョン)の中で光り輝く、善意の塊としか言えない、恒星のような輝きを目にした時点で、薄々わかっていたことだ。

 ディアベルからは、一度だけこちらを心配する内容のメッセージが送られてきた。

 元βテスターの実力。より安全な攻略の為にも、参加してくれた方が何倍も助かる筈だというのに、彼はこちらに参加を促すようなことは何も言わず。ただ「身体に気を付けて」とだけ。

 

 ――ここはSAOなんだから、肉体の不調も何もないだろうに。

 

 だが嬉しかった。

 それ以降、ガラクはずっと彼らの善意に甘え、ボス攻略には参加しないまま、ずっと()()()()と行動を共にしている。

 βの知識。そしてここまで培ってきた経験と勘によるプレイヤースキルもあって、道中のモンスターに苦戦することはなく。

 安全マージンも万全で、三層ボスに備えてレベリングした経験値と、プレイヤーレベルの貯金もまだ残っているのもあって、あの時のような、真に命の危機を感じる程の、強いストレスは感じていない。

 

「心配してくれて、どうもありがとう」

 

 あの日、二層の往還階段の近く。

 その時、それが、ガラクが彼女たちに向けた第一声だった。

 嘘偽りのない本心。性別や発作…人格の形成…コピーの絡まない、純粋な会話。

 彼女たちは、未だ秘密を隠したままの自分に対し、大きく顔を綻ばせ、笑った。

 

 ――今思えば、自分はただ気持ちが良かっただけなのだ。

 

 ノーチラス、ユナと名乗った二人の背を追って、道中で襲い掛かってきたモンスターを難なく倒し。

 その華麗な剣捌きを、そして告げたレベルの数値に対して、「凄い」と言ってくれる彼女たちの反応に、自分は優越感を覚えたのだろう。

 利己的なソロプレイヤーとして鍛え上げた、ガラクというキャラクターを肯定され。

 自分より弱い彼女たちを、守って感謝されるという現実が、どうしようもない快感だった。

 ただ、それだけだった。

 

「ところで、聞いた?もう第五層が解放されたって話」

 

 近くの酒場に足を運び、そして三人。いや、目の前の二人の会話を静かに、ガラクは眺めていた。

 二人はリアルで幼馴染の関係で、その仲の良さと、彼女たちの優しい性格は、()を見なくともわかる程。

 オレンジジュースにも似た、黄色の飲料を口に運びながら彼は、ノーチラスは少し言いづらそうに、それでもどうしてもこらえ切れなかったのか。言う。

 

「攻略組かぁ…」

 

 そこにあったのは、きっと羨望だったのだろう。

 彼だけではない。きっと今も怯えたまま、第一層《はじまりの街》に引きこもっている何千ものプレイヤーだってきっと、同じようなことを思っている筈だ。

 誰しもが夢に見る、憧れる立場が最強。

 群れることなく、あくまでも肩を並べて戦うだけ、最強なのは常に自分たち。それこそが彼らを、そして他ならぬ、元攻略組のガラクが胸に秘めた感情だった。

 ――もしも。

 

「ノー君」

「…ごめん。その」

「いい。気にしないでくれ、それに…」

 

 もしも、自分にこのような力がなければ。

 相手の性格を模倣する、技術を盗むこんな力もなく、もしもこれからもずっと、最前線でボスと戦えたなら。

 …いや、所詮は願望ありきの妄想だ。

 

「…()()()丁度いいと思ってたんだ。ボスと戦うのは、思ってた以上にキツイし、これくらいまったりしてた方がいい。…今も最前線にいる彼らには申し訳ないけどね」

「…それを言うならこっちだってそうだ。というより、そもそもちゃんとボス戦に参加している人がどれくらいいるか…」

 

 一人称を濁して言えば、ノーチラスは先ほど以上に、言葉を選ぶ挙動を見せて、そして黙った。

 ガラクもまた、これ以上に会話を続けられるネタもないため、気まずい空気から目を逸らすように、手元をじっと見つめる。

 産毛の一つも生えていない、ポリゴンで形成された仮初の肉体。

 血も流れていないし、もし何かで指先を切ったとしても、リアルでのような、不快感の強い、滲んだ痛みも血もないだろう。

 そこにあるのは、どこまでも、ただ似せただけの感覚。

 ――ならせめて、これも偽物であって欲しかった。

 

「…だよな、きっと」

 

 意味のない言葉を吐いて、それで終わり。

 再び、痛い程の沈黙が降りて、俯いたままのガラクを前に、どうしたものかと二人は顔を見合わせたのが見え、罪悪感が生まれる。

 何より、自分のような部外者は、彼女たちにはいらないとさえ考えていた。

 ただ偶然、目の前で倒れている見知らぬ誰かを心配し、そして話を聞こうと、こうして酒場で一緒に飲む…本当にこれだけだ。

 道中で感じた優越感。それがノーチラスの、そしてユナの善意を踏みにじっているような気がして、ガラクは自己嫌悪から抜け出せないまま。

 ありがとう、もう大丈夫。

 そう告げて、早く一人になりたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だと思ってたのに…」

 

 思わず、呟く。

 現在。第五層の主街区《カルルイン》である。

 デザインテーマは『遺跡』であり、まさしくその言葉通りで、自然の地形は三割もなく、ほとんどが迷路じみた遺跡…つまりレンガにも似た材質でほとんどが覆われている層だ。

 今も攻略組は…特に最前線を走るキリトやアスナ、そしてディアベルやキバオウたちは、きっとボス攻略の為の情報を集める為に、街のクエストを攻略か、ダンジョンのマッピング作業を行っているのだろう。

 そんな彼らとは違って、ガラクたちは現在、街のある場所の前に立っていた。

 SAOには、武器の鍛造や強化を施す鍛冶屋。鎧とは違う、コートのような衣服やポーションを購入できる、一般的なNPCショップ。そしてそれ以外の――通常NPCが住んでいる住居のように、凄まじい密度と数の建築物が街に用意されている。

 しかもその全てが、容量削減の為に中に入れない…といったような、従来のゲームでよく見られた欠陥もなく、NPCのに搭載されたAI次第では、その家に留まる選択肢すらも浮かび上がる。

 

 つくづく思う。

 どうして茅場晶彦はこの世界を、SAOという夢そのものをデスゲームなんかにしたのか、と。

 

 あの日、茅場晶彦がデスゲームを宣言し、そして消えたから一か月以上。

 結局、茅場晶彦がガラクたちプレイヤーに干渉をしてきたのは、あの日が最初で最後。

 ――未だに、彼は無干渉を貫いている。

 

「どう?ユナ」

「…クエストのフラグが扉の前に立ってる。ノー君は?」

「…いや見えないな。ガラクは…」

「ノーチラスと同じ。最初にこの店を見つけた人限定か、それとも別の条件か…」

 

 ――もしよかったら、一緒に行きませんか?

 何故か、三人で行動を共にするようになったのか。

 その理由はきっと、彼女の…ユナのその言葉だろう。

 

 ……自分でも思う、お前は都合のいい奴だと。

 

 これ以上人格を増やさぬよう、人と距離を取ると決めた癖に。

 ユナからの提案だってそうだ。「遠慮しておく」と、一言そう言えば良かったのに。

 あの日、初めて往還階段の近くでユナたちと出会い、酒場で会話をしてから何日か。

 数年ぶりに形成された人格との向き合い方、それは芳しくない。

 なにしろ、後から噂で流れてきた、アスナというプレイヤーを自称した謎の存在……それを聞いてやっと、ガラクは己の中に潜むもう一つの人格が、アスナのコピーであることを知ったのだ。

 それから宿で睡眠を取る時、メモ機能を使い、意識を失うより前に、彼女(アスナ)に向けてメッセージを残した。

 朝起きて確認しても、開封された跡はなかったのだが。

 形成された人格が、肉体の主導権を握る条件。

 過去の記憶。今では二度と出てこない、亡き母親を宿した人格。

 彼女もまた、肉体の主導権を握るのは自分が寝た時――つまり意識を失った時だった。

 

「行こう、二人とも」

「…あぁ」

 

 突然意識を失う。

 よっぽどのことが無ければ起こらないことだが、それでも用心することに越したことはない。

 新たなクエスト、それも自分だけが受けられるという特別さもあり、心なしかルンルンという効果音が付きそうな程、いい笑顔のままに、ユナが扉を押す。

 その背中を追って、ノーチラスとガラクも歩き出し、そして扉を抜けた先、そこに広がる光景――よりも先に、音に反応を示した。

 ジャズだ。

 リアルでスマートフォンを、パソコンを操作して、動画サイトや音楽アプリで何度も聞いた、あの音だ。

 薄暗く、橙色のランタンが店内を淡く照らし、店の中央、ステージの上では、リュートによく似た形の、SAOオリジナルの楽器を演奏するNPC。

 それが奏でる店内BGMを肴に、酒らしき飲料を口にする、その他十数名のNPCたち。

 お洒落なバーだな。ガラクはそう思った。

 

「いらっしゃい」

 

 目の前の演奏に目を奪われていると、奥の方から店主であろう、立派な髭を生やしたNPCが、ユナの目の前に立ち、話しかけてきた。

 その時、ユナが一瞬、店主の顔ではなくその上、頭上の虚空に視線を向けていたのを、ガラクは見逃さなかった。

 自分も同じように、目の前の店主ではなく、その上、頭上に視線を固定してみたのだが。何もない。

 

「クエストフラグ…か?」

「……うん。"いい音楽だ"……って選択肢が出てる」

「………どうする?ノーチラス」

「受けられるなら受けた方がいい…んじゃないかな、多分」

「…わかった。受けよう、あの……」

 

 ガラクの視界には何も映っていないが、ユナの視界には今頃、クエストの受注アイコンが変更され、そしてより詳しいクエストの内容が浮かび上がっていることだろう。

 「いい音楽ですね」そうユナが言えば、店主は立派な髭を指で整えながら、「なら……」と、ステージを指さし。

 

「一曲、歌ってみるかい?」

「………え?」

「勿論無理にとは言わねぇさ、だがずっと同じ曲を演奏するのも味気ない。だから、よかったらでいい」

「……」

 

 どうしたものか。

 といっても、その感情を占める主な割合は、いくらNPCが相手とはいえ、店の中央で、ステージ上で歌を歌うという、リアルでは滅多に味わえない特別な演出、それの困惑だろう。

 ガラクはというと、ユナが現在攻略しているクエストが、かの《体術》と同じ、何かしらのエクストラスキルを獲得できるものだろうと当たりを付けている。

 βと違い、楽器の演奏ではなく歌という、細かな仕様変更こそあれど、店内での基本の流れはそのまま。

 ノーチラスの方を見ると、彼はガラクと違って、どこか面白そうな笑みを浮かべており。

 ステージ上に立ち、店内の客から拍手で迎えられて、顔を赤くする彼女を指さし、そして言った。

 

「得意分野だな」

「…なんだって?」

「まぁ見ててよ」

 

 きっと驚くから。

 ――その言葉は、決して間違いではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 綺麗な声だった。

 この時ほど、自分のあまりにも貧弱な語彙力を恨んだことはない。

 彼女の歌を、そして輝きを、余すことなく人に伝えることができないことが、こんなにも悔しいとは思わなかった。

 学校の授業でも習うような、世にありふれた童歌の一つだというのに。

 綺麗だと。たった一つのその言葉で、胸が締め付けられた。

 

(嗚呼、本当に……)

 

 だが、ダメだ。

 あの優しい少女には、同じく優しい少年が、彼こそが隣に相応しい。

 リアルでも、そしてSAOでも隣に立ち続けた、彼こそが最も、あの麗しき歌姫には相応しい。

 そうだ。所詮自分のこれは、ただの気の迷い。

 異端者の自分が、()()()思うのは間違いだ。

 これは、永遠に墓まで持っていく。

 決して誰にも悟られない、決して気づかせない。

 そして二人を、異端者である自分を気に掛ける彼女たちを、せめて。せめて守り続けたい。

 ――だから。

 

(この気持ちは、仕舞っておく)

 

 ――彼女はいつも輝いていた。




 
 
 
 
 
 
 
 
 
 










「…久しぶりだな。ガラク」
「…………」
「…あれから、何年経った?」
手前だっ太乃加
「………そうだな。お前はそういう奴だった。俺が聞きたいのは一つだけだ」
也女呂
「…お前の中に、ユナはいるのか?」
「…――」
「ガラク。お前がコピーした人格の中に、ユナはいたのか?」
五月
「…そうだな。わかってる、それでも……」
馬鹿
「――貰うぞ、お前のユナの記憶」




















「ったくこの世には――」

篁モード解放

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