【ソードアート・オンラインRTA】ラフコフ殲滅Any%『■狂者』 作:GARAKU
評価と感想気軽にお願いします。
ソードアート・オンラインがデスゲームとなってから、ほぼ一年の時が過ぎた。
たった一年。しかしその一年で、SAOの攻略は大いに形を変え、そして新しい組織によって安定することとなった。
きっかけはやはり、ディアベル率いる《
彼とディアベルの間に、どのような会話があったのかは誰も知らない。
知っているとするならば、彼にディアベルが元βテスターであるという情報を渡した謎の存在、黒ポンチョの男だけ。
決別か、それとも譲渡か。とにかくキバオウは、半年以上戦いを共にしたディアベルに別れを告げた。そしてDKBより構成員の数は劣るものの、その分質で補う新たなギルド――《
――二十五層までは。
キバオウはある情報を仕入れた。それは二十五層のボスの攻略に関するもので、それなりに信頼できる者から仕入れた、価値のあるものだった。
だというのに。――キバオウを除いた
結果として、キバオウは方針を転換し、ALSは最前線の攻略ではなく、下層の治安維持や組織強化に集中するようになる。
一体彼を貶めた者は誰なのか。
そしてその事件以降、きっぱりと消息を絶った、キバオウが信頼していたプレイヤー、情報を仕入れた先はどこに消えたのか。
当日にあった、
この一年、ずっとガラクはユナたちの傍にいた。
五層が解放された時点で、ギルドを結成する為のクエストも解放されていたものの、ユナたちはそういうのは別にいいと、あくまでもパーティメンバーの括りに収まり、そしてのびのびと攻略を続けていた。
罪悪感はある。
それは元βテスターである自分が、その知識や実力を、残る約七千程度のSAOプレイヤーの為に振るわず、こうしてぬるま湯に浸かっている事実。
そして何より、捨てきれなかった哀れなプライドだった。
捨てきれないのだ。もしもあの時、逃げることなく、今も最前線に立ち続け、モンスターを、ボスを倒して経験値を貰い、強くなる。
上位数%の、選ばれた強者として崇め讃えられる。リアルで何度か経験した、あの恍惚とした甘露。
だが、今の自分に、それを思う資格はない。
そんな心の空白を埋める勢いで、ガラクはずっとユナ、ノーチラスという二人を守り続けることを選んだ。
戦闘では常に防御に徹し、ラストアタックボーナスも、ドロップアイテムも譲り続けた。
ちくりと痛む、先駆者としてのプライドのヒビには、目を向けないようにして。
そうしていくうちに、いつしかレベルは追い付かれ、追い抜かれ、彼女たちは一人の、立派な攻略組にへと進化した。
その最たる例はきっと彼、ノーチラスだろう。
ある日、いつものように三人でモンスターを狩っている時にふと、彼は言ったのだ。
あるギルドに入りたいと。
SAOがサービスを開始してから初めて、ボス戦での致命的な被害を出した。あの第二十五層をクリアしたのは、ある新ギルドだった。
赤い鎧、そして剣と盾という、SAOで他に存在しない特別な戦闘スタイルをした彼は、なんとキバオウ率いるALSが壊滅したその次の日に、二十五層ボスを難なく撃破した。
《
――ユニークスキル《神聖剣》の持ち主であり、KoB団長、ヒースクリフ。
彼の登場により、攻略組のモチベーション、更には攻略には参加できず、未だにはじまりの街に引きこもる非戦闘員のプレイヤーは、彼を崇拝するようになる。
そこから、KoBはDKB顔負けの怒涛の快進撃を続け、あっという間に二十六、二十八層…最終的には第三十層まで到達し、その間になんと、一人もプレイヤーを死なせることはなかった。
そしてそんな、全プレイヤーの憧れとも言えるギルド、KoBに自分も入りたい。ノーチラスがそう思うのも、当然のことだったのだろう。
数日後には、彼は今までの簡素なチェストプレート、ユナとお揃いだったコートの形はそのままに、白を基調とした、KoBが配布している特性のコスチュームを身に纏い、笑顔で帰ってきた。
まるで自分のように喜ぶユナも、そして顔を赤くするノーチラスも、ガラクにとってはとても眩しいものに思えた。
二人が互いに向けている感情、そしてその大きさがどれほどのものかは、この一年で嫌という程理解していた。
だからこそ、自分はせめて、この二人をこの世界から、SAOという悪夢から抜け出せるまで、せめて。
彼らの夢が叶うまでせめて。
せめて自分よりも幸せに、あの輝きを見せて欲しい。
――自分なんかには向けなくていい、せめて綺麗に、彼ら、彼女らだけで幸せに。
――そう、純粋に思っていた。
2023年の、10月15日。
それが、全てが終わった日。
ガラクの立ち位置は現在、攻略組から一歩引いた、用心棒としてそれなりの脈を持った、ただのソロプレイヤーだ。
流石に一年近くの時が過ぎれば、かつて三層で起こった事件、人格云々の話もかなり鮮度が薄れ、誰も気に掛けることはなくなった。
今の最前線は第四十層。仮に昔の事件を事細かに暗記している者がいようとも、わざわざ三十層以上も前の階層での一幕を、口に出すことはない。
ある意味好都合ではあるが、同時に自分はもうそこまで、誰かが気に掛ける程の人間ではないという事実が付きつけられているようで、滲むような痛みを覚えるのも事実。
攻略組にいたころと、今の世界は違った。
誰もが命を懸けて、ゲームをクリアするために、最強であるために精神を削り、仲間同士で競い合う。
これが普通のゲームであれば、それはきっと健全だった。
もし、あの日にユナの提案を無理やりにでも断って、あの世界に戻っていたら。
――もしも、今いるこの場所の温かさを知ることがなければ、こんなことを思ったりもしなかったのだろうか。
決して最前線で目立つことはなく、こうしてただ穏やかに、この仮想世界を生きる選択肢を。
ユナ。ノーチラス。
彼らが報われるような、そんな可能性を。
だからその依頼が来た時、ガラクは人違いではないか、とさえ思った。
むしろ、何故
いつもの日課とも呼べる、モンスターを狩ることによるレベリング。
SAOの安全マージンとして、安全に層を攻略するならば、現在いる層の数に十を足したレベルを目指せ。というものがある。
現在の最前線は第四十層。ノーチラスのレベルは現在52で、やはりKoBに属し、優先して戦いに参加しているのもあって、安全マージンの基準には一応達している。
続いてユナ、彼女のレベルは10以上違う41で、こちらはやはり、最前線に行ける水準ではないが、それでもそれなりのレベルだ。
それも全て、ガラクが彼らに優先し、ずっとフィールドモンスターの経験値、特にラストアタックボーナスを譲り続けた影響であり、その対価として、ガラクの現在のレベルは39。
あまりにも、用心棒としても、そして人手としても役不足すぎる。
だというのに、ノーチラスと共に現れた、
『閉じ込めトラップの被害にあった、あるパーティーを助けて欲しい』
当然ガラクは断った。
依頼を詳しく聞けば、そのパーティーが最後に連絡を絶ったのは昨日の深夜で、翌日の朝…つまり今日に残されたパーティメンバーの男が、涙ながらに駆け付けてきたのだ。
閉じ込めトラップとは文字通り、あるエリアに足を踏み入れたプレイヤーを、中にいるモンスターを全滅させるまで、決して外には出られないようにする類のトラップだ。
話によると、男は自身を含め、合計で六人程のパーティを組んでいたらしいが、その時偶然、彼は彼らよりも一歩下がった距離を維持し、歩いていた。
それが幸か不幸か、彼だけがトラップに囚われることなく、そして扉越しに伝わる、リーダーからの指示。
それに従い、彼は必死にダンジョンを走り、そして今朝、やっと彼ら、ノーチラスを含む、KoBの二軍プレイヤー、そしてその他の中層プレイヤーたちに、助けを求めに来たのだ。
現在、KoBやβテスターを含む一級プレイヤーは全員、最前線である第四十層のダンジョンを攻略中である。
勿論そこには、最強プレイヤーと名高いヒースクリフも含まれており、頼れる人間というのは限られていた。
だからこそ、彼は必死にノーチラスだけでなく、ユナやガラクにも助けを求め、そして土下座をしてまで縋ったのだ。
それを見たユナは、覚悟を決めた表情をして「助けよう」と言った。
決して濁ることのない、綺麗な輝きを放ったまま。
――ガラクはそれを、止めることができなかった。
SAOにおける閉じ込めトラップというものは、モンスターの湧き具合に二つの違いがある。
一つは制限。プレイヤーが部屋に閉じ込められたのを、システムが確認した次の瞬間、予め決められていた数のモンスターが排出され、その時点で効果が終了するもの。
その場合、部屋にいる全てのモンスターを倒すまでは、決して部屋から出ることはできない仕様だ。
もう一つ、それは俗に言う無限湧き。
制限時間もなく、ある程度定められた数のモンスターを倒し、その後はただひたすら一定時間耐久し、部屋を出られるようになったら撤退する…というもの。
そして今回の場合、そのトラップは後者の仕様だった。
もう一度言おう。
ガラクがユナとノーチラス、そして他KoBメンバーと、風林火山というギルドから二人が選出され、そしてトラップ部屋に足を踏み入れた。
元βテスターの知識によって、早い段階でガラクはこの部屋が、無限湧きタイプのトラップであることを見破り、そして次にできることを、自分が伝えられることを彼らに伝えた。
一定数のモンスターを倒す、だが最前線の基準からは程遠く唯一の主戦力はノーチラスであり、だが彼一人の火力ではあまりにも足りない。
今回の任務は救出が目的であり、そのため普段からモンスターを倒し、ダンジョンをクリアするのに最適なダメージディーラーは少なく、ほとんどがタンク要員。
それでは耐久はできても、肝心のモンスターを倒す役割はできない。
最初こそ、ノーチラスのみで、何とか戦いを続けていたものの。数十分のスイッチとヒット&アウェイによって、何とか4体のモンスターを倒した次の瞬間に、モンスターの第二波がやって来た。
一切の隙間を残さず、統率の取れた動きでこちらを囲むモンスターたち。
現れた獄吏型モンスターの数は二十にも及び、そしてあまりにも性格が悪く。その時にやっと、トラップ部屋からの脱出が可能となったのだ。
だが、モンスターたちは四方八方からやって来る。
――詰み。
その時、皆が共通して浮かべた言葉はきっとそれ。
じりじりと迫る彼らに、同じく共通して浮かんだ感情は恐怖。
その時、ノーチラスの様子がおかしくなったのに、ガラクは気づいた。
――それは、今までガラクたちと行動を共にしたことで、克服できたと思っていた、ある欠点だった。
ナーヴギアは、装着した人間の脳波を読み取り、そしてアバターを動かす。
だがノーチラスの場合、ある程度の恐怖…それこそ最初、ガラクと行動を共にした時は、フィールドモンスター相手でさえ、ナーヴギアが彼の生存本能を優先し、アバターを動かせなくなるような事態が多発した。
だが、何度も何度も、普段の狩りでガラクが防御に徹し、そして何度もラストアタックボーナスを譲り続けたことによって生まれた自信と、弱さを受け入れるメンタル面での成長もあって、もう問題はないと思っていた。
だが、甘かった。
長く攻略組から離れ、そしてぬるま湯に浸かっていたガラクは、忘れてしまっていた。
鈍ってしまっていた。かつて自分も感じていた、第三層でのあの恐怖。それは簡単に克服できるものではないと。
――全員死ぬ。
対して強化もできていない曲刀を握り、そして身体を硬直させた、ガラクとノーチラスの二人。
諦めにも似た感情が浮かび上がると同時に。
一番、聞きたくない歌声が聞こえた。
――ヘイト。
SAOのモンスターが、プレイヤーに対して向ける攻撃の頻度や対象は、ある一定の行動によって決まる。
どれだけ攻撃に参加したか、どれだけそのモンスターの近くにいるか。
そして、それらに属さないある特殊行動――パーティメンバーにバフを与える行為。
エクストラスキル《吟唱》が発動したことを告げる、無慈悲なパッシブアイコンの効果音。
彼女が、ユナが何をしようとしているのかは、あまりにも明白だった。
――やめろ。
――彼女の行動を無駄にするな。
ノーチラスが、彼が必死に叫ぶ声がする。
《風林火山》のプレイヤーが二人がかりで、未だにフルダイブ不適合症状を発したままの彼を引っ張り、モンスターの波を潜り抜ける。
剣を仕舞い、無防備に背中を晒す彼らに、モンスターは一瞥さえしない。
――モンスターを殺せ。
――お前も死ぬぞ。
残ったKoBのプレイヤーが、突入時点で、最後の生き残りであろうパーティメンバーの肩を支え、同じように逃げ出していた。
理性が叫ぶ。己の生存本能が惨めに叫ぶ。
彼女の思いを無駄にするなと、合理的に動けと、体よく彼女を見捨てろと。
曲刀を握る力が、より強くなる。
――その時に、既に自分がやるべきことは決まっていた。
何を迷う必要があったのか、だがその迷いを終わらせた。
その時だった。
――初めて彼女が、今までに一度も見せたことのない顔で。
強い力で。
自分の身体を、思いっ切り突き飛ばした。
それが、最後だった。
――全部。守ってやりたかった。
ユナは、モンスターの波に呑み込まれHPを全て失うその瞬間。
――優しい人が、優しくいられるような。
ガラクに向かって右手を伸ばし、何かを言おうと口を開いた。
見開かれたその瞳に浮かんでいたのは。一年前に、彼女が自分に向けていたのと同じ。
淀みのない、汚れてもいない、美しい善意の光だった。
「――生きて」
――彼女はいつも、輝いていた。
――ユナを追って死ぬはずだった。
――そのはずだったのに。
――
第三、第四と無限に湧き続けるモンスターたち、見境なく34体を。
その後もずっと、脳味噌の血管が沸騰するような感覚のまま、ずっと意識を、身体を動かし続けた。
第五、第六。
――第七、第八。
無限に湧き続けるモンスターを、ただひたすらに狩り続けた。
失った武器は、途中で
――モンスターの攻撃は、
そこからずっと、ずっと曲刀を振り続けた。
まるで死に場所を探すように。
――何だ。結局あの時。
その度に、頭の内で己が糾弾する。
――お前なら、助けられたじゃないか。
もう一人の、真っ黒な彼は、見下しながらそう言った。
記録 2023年 12月31日
記述概要
圏外、第■■層のフィールドにて、当時忘年会を開いていた小規模集団、ギルド《■■■■・■■》が急襲され、全滅
・担当者、《鼠》のアルゴ派遣から翌日、他情報屋、新聞屋プレイヤーに匿名メッセージ(犯行声明)が送付される。
・モンスターによる被害と思われたが、送付されたメッセージに添付された画像、当時の詳しい情報の描写から、意図的で悪質なPK行為であると断定。
・被害にあったプレイヤーは13名。その内の一名は送付されたメッセージによって、かつて二ヶ月前の『閉じ込めトラップ』からの唯一の生還者であると判明。
・より詳しい事情を聞く為、
・元血盟騎士団、ノーチラスに情報収集が行われたが、有力な情報はなし。
・そしてノーチラスと同じく、モルテとの面識があるプレイヤー、ガラクに捜査の目処が立つ。
・ガラクもまた行方不明。最後の目撃情報は上記した『閉じ込めトラップ』事件。ソロプレイヤーガラクはダンジョンに突入してから
ソードアート・オンラインは、茅場晶彦とは違う、ある絶対的な運営者が存在する。
Cardinal System――通称『カーディナル』は、量子学の天才でもある茅場晶彦が生み出し、そして自ら調整を施した、究極のゲームメインシステム。
カーディナルに意思はない。AIでありながらも、その判断基準、そして形成する新規クエストやモンスターのポップ調整は、どこまでも合理的で、人の趣味嗜好、癖がない仕様となっている。
――そんなカーディナルは、あるダンジョンにエラーを察知した。
未だ多くの層が解放されていないとはいえ、それでも未開放の層のメンテナンス、そしていつしか解放された場合に、一切の不都合、バグが生じないよう、常に働き続けている。
だが、そのエラーは、そんな大量の作業が一通り終わり、そして生まれた一時的な暇によって、ようやく露見する程のものだった。
ダンジョンのある部屋に――トラップ部屋からずっとプレイヤーの反応がある。
カーディナルはすぐに調べた。その過去の履歴、データを確認し、感じた違和感を元に、公平なゲームシステムとして、その
――モンスターの自動ポップ解除。
――システムコンソール起動。
カーディナルが注目しなかったことで、今まで無視されていたイレギュラーに。
もう一つ、どこまでも無常な、ゲームシステムの壁が立ちはだかった。
フードの奥と、袖口から覗く腕には、密度の高い闇が蠢いている。
顔の奥には、そこにだけには生々しい眼球が、血管を浮かべてぎろりと、こちらを見下ろしていた。
その憤怒の表情は、わざわざ手を煩わせたカーディナルのある種の怒りすらも感じられる。
【………】
――《
そのモンスターの強さは、約九十層レベル。
右手に持つ刀を、その死神は無造作に構え、言葉にならない息を吐き、見下す。
「――
死神は、刀を振り上げる。
システムに裏付けされた、その神速の一撃が炸裂する寸前。
「――入って来るな…!!」
激しい苦痛やストレス、衝撃的な体験の反芻をすると。
人は、その耐えがたい苦痛を引き受ける為。
――別の人格が形成されることがあるのだ。
――ザンッ。
【…?】
死神が刀を振り下ろし、目の前のイレギュラーを処分しようとした時。
その時、目の前で一瞬、
続いて、鮮血変わりのエフェクトが右手首から。
HPが全損し、死神は呆気なく倒れ、そして消滅。
――その背後。彼はそこに立っていた。
「全久此乃世仁波生可之知ゃ安於計禰ぇ屑ば加利」