【ソードアート・オンラインRTA】ラフコフ殲滅Any%『■狂者』 作:GARAKU
レベル59→『骸区』は一週間で59万ビューを記録。
彼女はいつも輝いていた→『骸区』の翌日にジャンプ+で掲載された読み切り(煽り文にも)。
篁有月→サカモトデイズ。有月憬と篁さんの両者の要素の融合。
と、サカデイと骸区両方を履修している人はあっとなったのではないでしょうか。
そしておまたせしました。今回からです。
《
ソードアート・オンラインが始まってから一年。その日、史上最悪のギルドが誕生した。
それまではソロ、あるいは少数のプレイヤーを取り囲み、アイテムを強奪する、いわゆる
だがそんな一線を、彼らは簡単に超えてしまった。
現代日本では許されるはずもない《合法的殺人》も、SAOという
HPバーがゼロになったプレイヤーを最終的に殺すのは、脳を焼くナーヴギアと、そしてこの世界を作り上げた張本人である茅場晶彦のみ。
――ならば殺そう。ゲームを愉しもう。
――それは、全プレイヤーに与えられた権利なのだから。
そんな劇薬じみたアジテーションによって、少なからぬ数のオレンジを誘惑、洗脳。
残る七千近くのSAOプレイヤーのほとんどが、彼らのPKに怯えることとなる。
そしてそのすぐ後に。
――彼らと並ぶ、あるプレイヤーの噂が広がっていった。
デスゲームを生き抜く為に、ルクスは何度もダンジョンに足を運び、恐れずにモンスターを狩り続けた。
生きる。たったそれだけの為なら、第一層《はじまりの街》に引きこもってしまえばいい。だがそれでは、停滞するだけで何の意味もない。
そう考えたからこそ、彼女は剣を取り、そして戦う道を選んだのだ。
――だからこそ、
どれだけ意識を張り詰めようと、どれだけ対策を取ろうとも、プレイヤーは所詮人間に過ぎない。
ほんの少しの差異、油断や自分でも気づかない慢心によって、普段はできていた筈の動きが鈍り、失敗する。
今回のルクスは、まさにその典型であり、その結果が現状。
所属していたパーティは壊滅。
それもボス部屋に入ったわけでも、宝箱と連動したユニークボス相手でもなく、ただダンジョンを徘徊する、一般モンスター相手に。
一人死んで、ただでさえ崩れていた陣形が更に崩壊し、あっという間に残る三人が死んだ。
ルクスは、死に物狂いで両手剣を振るった。
普段は使わないような、習得したばかりの上位ソードスキルも使った。
だが、そんな
ロクに使い慣れていないソードスキル、しかも元より硬直時間、隙の多い両手剣カテゴリだ。
結果として、ルクスのソードスキル発動後の硬直時間を狙って、モンスターが動き出そうとした瞬間。
――
突然現れたその集団は、ルクスの先ほどまでの悪足搔きとは全く別次元の、統率の取れた、どこまでも効率化させられた動きだった。
流れるように剣を振り、僅かなタイムラグも見せずに「スイッチ」と、先にモンスターに斬りかかった男が呟けば、背後にいた残りの男たちもまた、一斉に動き出し、斬る。
助かった。
――そう安心できたのは、彼らに視線を向け、そしてそのカーソル色を確認するまでの、僅かな間のみだった。
プレイヤーを示すカーソル、その色はSAOにおいて、単純明快二つに分けられる。
一度もPKを、プレイヤーに剣を振ったことのない者はグリーン。
その逆、人を傷つけた者はオレンジ。
そしてルクスの目の前にいる、四人のプレイヤーを示すカーソルは――全てオレンジ。
「イッツ・ショウ・タイム」
そこにあったのは、絶望だった。
SAOでは基本、相手にダメージを与える方法がある程度決まっている。
一つは剣、ソードスキルを使ったり、使わずにただ剣を振って、相手の身体に傷をつけること。
そしてもう一つが、毒による状態異常。
だが逆に言えば、これ以外の方法では、相手にダメージを与えられないということでもあり、その最たる例が、体術だろう。
エクストラスキルの方の《体術》ではなく、通常の体術。つまりは殴る、蹴るの暴行。
カーディナルはどこまでも公平で、たとえエクストラスキルを所持していようと、それによるアシストが発動されない限りは、その暴行に一切のダメージ判定は発生しない。
だが、そのノックバック判定もそうだが、単純に『殴られる』や『蹴られる』といった、人間の潜在的恐怖を刺激する。
――故に、今回の場合は脅しとして、これ以上ない程に効力を発揮していた。
「いぎっ…」
髪を乱暴に掴み、そして思いっ切り殴りつける。
所詮ポリゴンで形成されたアバター、SAOという仮想世界だからこそできる、痣やその他の後遺症の心配がいらない手法。
何度も、彼はルクスを殴り付け、そしてそんな様子を、残る男たちは嘲笑う。
彼らが事前に、ルクスに要求した内容はただ一つ「自分たちの手駒になれ」だった。
「ハハッ、見た目通り可愛い声出すじゃん!」
「ジョニーサァン、まだっスかぁ?」
「まぁ待てって」
「ひっ…」
じろりと。
僅かに黄を帯びた、ベージュ色の長髪が、怯える身体に合わせて揺れる。
その視線は、まるで蛇のように己の身体を、首から下を這いまわるかのように、下卑た光が蠢いていた。
嫌悪感を上回る、恐怖。
ルクスの喉から、言葉にならない悲鳴が上がる。
「ねーわかる?お前さぁ、もう逃げられないんだよ」
子供のような声色でありながら、そこに秘められた悪意は計り知れない。
ごくりと、生理反応で唾を飲み込んだ次の瞬間、再び彼の、鋭い鋲が打たれた、黒革のブーツが目前に迫った。
続いて、衝撃。
「う…う"ぅ…」
もしここが現実世界だったら――
この錯覚の嘔吐も、少しは楽になるのだろうか。
現実逃避に浸れたのは数秒で。
すぐに、胸倉を掴まれた。
頭陀袋のような黒いマスクが、ルクスを無機質な光で覗き込む。
「なに?もしかして自殺願望持ちぃ?」
「ちがっ…嫌………いや」
「もう殺しちゃおっかなぁ、別に他にも候補はいるし」
斬りつけた者に麻痺状態を付与する、緑に濡れた細身のナイフ。
それをルクスの目に付きつける形で、彼は低い声で言う。
《
彼はじっと、ルクスを見つめ。言う。
「選べ」
――
彼からすれば、女であるルクスに対し、
勿論彼を含む、ダンジョンに現在いるラフコフのメンバーは全員がオレンジプレイヤー。つまり主街区に入ることができず、その日の食料も、装備のメンテナンスも満足にできない。
カルマ回復クエストを受ければ、カーソルの色をオレンジからグリーンに戻すこともできるが、この仮想世界だからこそできる《人殺し》という甘い蜜。その甘美な感覚を、その印とも言えるオレンジを捨てるなどありえない。
だからこそ手駒が欲しい。それもグリーンの。
その為、徹底的に心を折る。
何度も、時にHPを削り切ることのないよう、細心の注意を払って、足や腕をナイフで串刺しにし、脅す。
その度に、目の前の餌は新鮮に泣き叫ぶ。
もう一度、這いつくばったルクスの手の甲に、思いっ切りナイフを突き刺す。
「選べ」
「ああ"っ……」
何度も。
「選べ」
「嫌、いやいやいやいやい――」
何度も。何度も。
「選べ」
何度も何度も何度も――
「――選べ」
何度も――
HPバーが赤に変わり、残り数ドットになった時点で、もう答えは決まっていた。
彼女の心は既に、もうどうしようもない程の絶望を、そしてこれから彼らに、
「………」
その時、ジョニーにも聞こえない程の。
声になる前の、掠れた空気を、口を動かして吐き出した。
『………助けて…』
「ん?止まれ貴様」
同刻。第■■層迷宮区にて。
ジョニー・ブラックがすぐそこにいる、通路の壁に背もたれながら、
彼らは、突然目の前に現れた来客に、訝しげな表情をした。
というのも、彼女の容姿もそうだが、彼らに一言も発することがないまま、間を通ろうとしたからだ。
俯いているのもあり、顔は見えない。
ゆらり。どこかおぼつかない、安定しない歩き方。
カーソルはグリーン。
どっちにしろ邪魔者に変わりはない。
殺しの正当な理由と目的ができ、彼らは隠し切れない狂喜を顔に浮かべ、背中から片手剣を取り出してすぐに動き。
「今この部屋は俺たちの管理下だ」
「死にたくなければ消え失せろぉ」
そう言いながら、既にソードスキルを発動させ――
カチッ――
「邪魔寸流奈塵共」
日本刀。
その鍔と鯉口がぶつかる音。鍔鳴りが。
「「え」」
――その音が聞こえた、その瞬間。
首、胴、足に走る斬撃エフェクト。そして四等分にされて飛ぶ、自分の身体。
それが、彼らの見た最後の景色だった。
「――何か来たな」
ジョニーの動きが止まる。
それに続いて、先ほどまでルクスの泣き顔を嘲笑い、楽しんでいた他の男も、一斉に押し黙った。
そして一斉に、全く同じタイミングで、勢いよく迷宮区の入り口に視線を向けた。
――この感覚は何だ?
ジョニーは今や、立派な人殺しの犯罪者であるものの、それでもSAOプレイヤーらしく、モンスターを狩った経験はそれなりにある。
特にこの世界は、ファンタジーでよく見たミノタウロスや、ゴーレムのような架空の生物も、あまりにもリアルな造形となっている。
だからこそ、最初この世界にやってきた時、初心者だった頃はそれなりに、そんなモンスター相手に、こんな感じの――
木々の影から、うっすらと浮かび上がったシルエット。
現れたその者は、
SAOは、ナーヴギアで顔の形状を詳しくスキャンしている都合上、髪色やその質まで、どこまでもリアルに基づいたものだ。
レアアイテムである色変えアイテムを使えば、それこそ《騎士》ディアベルのように、質はともかく髪色のみを変えることは、一応できる。だが目の前のそれは――
――老人。
薄く、痛んで劣化したその髪と、くすんだ白色。
目の前で、影から現れたそのプレイヤーが――自分と同じかそれ以下の年齢の少女であると、最初はわからなかった。
髪だけを見れば、きっと自分以外の者も、彼女を老人と間違える程だろう。
次に、服装。
ルクスのように、機敏性と防御性を兼ね備えたチェストプレートでも、そして自分のように、身体に密着する黒のレザーアーマーでもない。
スーツだ。
現代社会でよく見る、白のシャツに黒いスーツは、この鉄の浮遊城では、あまりにも不釣り合いとしか思えない。
更にその体躯は小柄で、おそらくその身長は、せいぜいが160近くだろう。
そんな彼女の左手に握られているのは、日本刀。
だがジョニー・ブラックは、その武器が持つ特有の威圧感、何より重厚感から、あれが自分が「ヘッド」と慕い、忠誠を誓っている《
だが、それらを中和し、塗り潰す程の――
――ゆらり。
「殺寸殺寸.全員殺寸」
――圧倒的な狂気。
「手前ぇ良屑波全員殺寸」
「やべ~ヤツが来た」
まさに幽鬼という言葉が相応しい、全身から放たれる危険の香り。
――見ただけでわかる。あれは不味い。
頭のネジが一個とかそういうレベルではない、一度ハンマーか何かでぶち壊して、その後乱雑に詰め直したかのような…とにかくヤバい。そうジョニーは思った。
ブツブツと、言葉ではない何かを呟きながら、生気のない瞳をじっと、こちらに向けて固めたまま。
――だが、彼らは既に慣れたものだった。
「ゴズ」
「はーい」
ジョニーが一言命じれば、ゴズと呼ばれた、背後で控えていた一人の男が、すぐにナイフを取り出し、それを目の前の幽鬼に向かって放つ。
SAOでも滅多に習得している者のいないスキルである《投剣》は、システムの補助によって真っすぐ、目標の首に向かって加速する。
入念に用意していた、麻痺状態付与の効果が内蔵された特性のナイフを、一切の躊躇なく投げ捨てる彼も、即座にそれを命じたジョニーも。
一瞬、目の前の現実を受け入れられなかった。
「殺之天也流.全員」
――ガギンッ!
目に見えぬ神速。
たった一秒にも満たない、投げナイフが首に当たるよりも前に、目の前の幽鬼はそれを防いだ。
投げナイフが炸裂する、システムで保障された必中判定。それよりも速く、更には逆手持ちによる抜刀術で、いとも簡単に弾いてみせたのだ。
「てめっ…!」
刀を抜き切ったその隙を狙い、先ほどゴズと呼ばれたのとは違う、ラフコフの男が斬りかかる。
細剣を突き出す、単純だが速度も充分。後隙も少なく、優れた基本技の《リニアー》。
だが。
「あ?」
ぬるりと突き出された刀の先が、男の指を的確に捉える。
ファンブル。――男の武器が、指という支えを失ったことで、ごとん、と手から滑り落ち。
そして、一閃。
「死禰」
「がっ」
ザンッ!と、肉を貫く鈍い音が炸裂し。
男の喉仏を、日本刀が二回、三回と入念に何度も突き刺す。
――そのまま、男はHPをゼロにして、呆気なく死亡した。
「は?」
ジョニーの呆気に取られた声。
他のプレイヤーも、一連の流れを目撃したルクスもまた、先程までの恐怖を忘れ、凄まじい戦慄が走る。
オレンジプレイヤーを攻撃した場合、正当防衛と見なされ、カーソルの色は変わらない。
だがだからと言って、このゲーム世界で死ねば、現実世界でも死亡するというのに、ラフコフでもない、ただの一端のプレイヤーが、それを簡単に行う。
そして、何より。
――速すぎる…!
SAO、このVRMMOの世界でプレイヤーの速度を決める要素はたった一つ、脳の電気信号だ。
だがそれ以上に、この世界はあくまでもゲーム、故にシステムに定められた要素は絶対。だからこそ、先程の《投剣》スキルのような、一定距離での攻撃も、どれだけ素晴らしい反射神経を持ったとしても、それだけは絶対に崩せない。
――というのに。
「あがっ――」
「殺寸」
次に斬撃音が聞こえれば、既に光景は変わっており。
次の標的は、ジョニーの背後にいたはずの、先程《投剣》スキルを使っていた男。
彼は口を斬り裂かれ、肉体を鼻から上と、そこから下の二つに両断され、そして軽快なクリティカル音と共に――
「は?」
再び、何も出来ずに仲間が死んだ。
「え、は?」
困惑、恐怖。
それよりも、ただ目の前の理不尽に、乾いた笑いを出すしかできない。
「――無理無理無理無理!」
「次波於前だ」
辻斬りは、止まらない。
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