【ソードアート・オンラインRTA】ラフコフ殲滅Any%『■狂者』 作:GARAKU
鞘を拾ってそのまま納刀するのかっこいい。
アインクラッド第一層《はじまりの街》。
ここににアルゴが来たのは、実に数か月ぶりの事だった。
転移門を出たところで立ち止まり、アルゴはふと、全てが変わったあの日のことを思いだし、そして複雑な感慨に囚われる。
巨大な広場を前に、その奥にある街並みをぐるりと見渡すと、以前とは全く違うその光景に、目を見開いた。
《はじまりの街》は他層と比べても段違いで、実際にその規模は、アインクラッド最大級の都市である。
『冒険』の為に必要な装備品や、設備の充実さだけなら、ここを超える場所はない。
物価も安く、宿屋の類も大量に存在する為、受け入れられる人口も充分。効率だけを考えるなら、ここをベースタウンにするのが最も適しているとも言えるだろう。
だが、それができない理由がある。しない理由がある。
否が応でも思い出すのだ。
中央広場での、あの日の悪夢、SAOが変わってしまった日を――
アルゴや攻略組を含む、最前線を走るトップソロプレイヤーはそう思っている、ではそれ以外はどうか。
その答えこそが、転移門を出てすぐ目に入った、数多のプレイヤーたちだった。
完全な円形の、敷き詰められた石畳の空間の中央には、巨大な時計塔がそびえ立っている。
その下で揺らめく、青い転移門の光。アルゴが先ほど、自分が出てきたその場所を振り返ると同時に、以前見たものとは違う光景が映った。
現在、生存しているSAOプレイヤーの数は約七千程度で、《軍》を含めれば、ここ《はじまりの街》に在中しているプレイヤーは、およそ二千弱といったところだろう。
そしてそれこそが、ここ《はじまりの街》で、あの日の悪夢が甦るのとは別の理由で、プレイヤーが第一層に降りない理由があった――
「どういうことダ…?」
アルゴが困惑したのは、目の前の広場に集まった、数十人のプレイヤーの存在。
遠目からでも、屋台や店舗の建ち並ぶ市場エリアが確認できるが、そこも広場と同じく、以前とは打って変わって、それなりの人数のプレイヤーが集まっていた。
《軍》、またの名を《
かつて第二十五層にて壊滅的な被害を出してしまい、それ以降は攻略の最前線に立ち続けることはなくなったギルド。
現在は代わりに、ここ《はじまりの街》を中心とした、下層部の治安維持に集中するようになった者たち。
だが、そのうち彼らは――特にキバオウというプレイヤーが率先して、勝手な改革を行い、マナーを無視した狩場の独占や、犯罪者狩りに精を出すようになる。
行き過ぎた行動指針や、それで増長した自尊心は、元より堕落していた彼らの心を、更に致命的なレベルに貶める。
その結果として、第一層ではフィールドも例外ではなく、《軍》に所属するプレイヤーが、それ以外のプレイヤーに…それこそゲーム開始から現在に至るまで、未だに街から出たことのない弱者を食い物に、
カーソルがオレンジになっていないだけで、彼らもまた悪党の一人。
その結果。昼間は勿論のことだが、夜でさえまともに人は外に出ず、宿に閉じ籠っては《軍》の見回り、徴税行為から逃げる生活が、当たり前のものとなっていた。
だというのに。
(軍は…どこニ…)
広場には子供たちがいる。
SAOに定められた年齢制限。見ただけでも、目の前の子供たちは、その基準の年齢に達していないことがわかる。
大人も、賑やかに変わった目の前の光景に、本当なら手放しに喜ぶべきなのだろう。
だが、情報屋として、何よりラフコフという、どうしようもない悪意を知ってしまった現状では、どうしても不安だった。
――間違いなく、何かが起きている。
「おーっ大変だぞ」
そんなアルゴの予想を是とするように。
背後から聞こえてきた、人の走る音と、叫び声。
男の声に、広場にいたほとんどのプレイヤーが反応し、何事かと耳を傾けた。
が。
「そこのフィールドで
「なんだァ…?」
「ヤレヤレ」
「あー……またかァ」
嬢ちゃん。
その言葉が男の口から聞こえた途端に、皆の態度が急変した。
まるでどうでもいいとでも言いたげな、ため息一つ。
その後、再びフィールドに向かって走り出した男を追って、少数のプレイヤーが走り出す。
残り六割のプレイヤーは、広場でそれぞれ談笑に戻り、何事もなかったかのように、先ほどまでの空気に戻る。
そんな異質な空気を背に、アルゴは男を追いかけた。
「やべェぞアレ」
「お前行けよ」
「どうなるかねェ」
「全く馬鹿なことを……」
アルゴがその場に到着した時、既に野次馬による包囲網が完成していた。
プレイヤーの身体で作られた、プレイヤーの脅威度を示すカーソル群。グリーンで統一されたカーテンの奥で、アルゴがそこに見たのは、二つの
――オレンジプレイヤー、圏外。
アルゴの脳裏に、最悪の予感が走る。
「いーい刀だなァ、嬢ちゃん」
「ちょっと見せてェ」
息を吞み、プレイヤー間の隙間を掻い潜って、その場面を目撃する。
辿り着いた場所では、一人のプレイヤーを、グリーンカーソルの、それこそアルゴと同じくらいの、見知らぬプレイヤーの少女がいた。
彼女は、珍しい圏外で設置されている木製のベンチに座り、まるで抱きかかえるかのように、真っ黒な日本刀を持っていた。
そんな彼女を囲い、見下ろしているのは二人の男プレイヤー。
禍々しいオレンジカーソルと、灰緑と黒鉄色で統一された装備は、彼らが《軍》所属のプレイヤーであることの証明だった。
彼らはニヤニヤと、悪趣味な笑顔を浮かべながら、ベンチに座る彼女に話しかけていた。
「話之加計流奈殺寸ぞ」
ブツブツと、言葉にならない音のみ。
聞き耳スキルをそれなりに鍛えているアルゴでさえ、その声が示す意味を悟ることはできない。
視線を向けることなく、身体を動かすわけでもなく。
ずっとブツブツ呟く彼女に、男たちの顔に嘲笑の色が浮かぶ。
――不味い。
街の内部。いわゆる街区圏内では常に『犯罪防止コード』というシステムが働いており、他のプレイヤーにダメージを与えることは勿論、プレイヤーを無理やり動かすような芸当も不可能。
しかしそれは、裏を返せば、行く手を阻む悪意あるプレイヤーも排除できないということでもある。
その結果が、圏内で一人のプレイヤーに対し、大勢で囲い込むような、通称『ボックス』と呼ばれる行為だったりするのだが。今回は場所が違う。
ここは犯罪防止コードのない圏外。
そして目の前にいる《軍》は、その中でも最悪のパターン、つまりは人を傷つけることに、一切の躊躇がない存在。
よく見れば、《軍》の配給品である筈の鎧が、所々に亀裂が走っており、ロクにメンテナンスもできていないように見える。
何かの拍子に、それこそ今回のように圏外で、他プレイヤーに恐喝行為をする途中、ついうっかり武器が触れ、そしてそれがカーディナルによって、悪質な『直接攻撃判定』として処理された……のかもしれない。
だが、そんなたらればの話はどうでもいい。
「ハッ!ボケちゃってるぜェ、このガキ」
「なァにブツブツ言ってんだァ?」
「全久手前ぇ良糞共波.以川毛以川毛」
アルゴの視線の先で、右に立つ男が、背中の剣に手をかける。
周りにいる、十数名の野次馬プレイヤーたちは、それに眉一つ動かすことなく、呆れたようなため息を漏らした。
それが理解できなくて、思わず吐き捨てるように呟く。
「おいおイ。殺されるぞアイツ…!」
周りの野次馬たちは、静かに目の前の景色を見つめるのみ。
右手に投げ針を握り、いつでも動けるように姿勢を低くする。
ギラギラとした、手入れもまるで行き届いていない、鈍く薄っぺらい片手剣を左手で握った男は、未だブツブツと呟き続ける彼女。
その胸に抱きかかえられている、真っ黒な日本刀に、残る右手を伸ばし――
「刀よこせってんだよクソガキィ」
ピシッ――
いつの間にか、少女の持つ刀は既に、抜刀されていた。
「あ?」
地面に一つ、小さな影が出現した。
思わず息を、足を止めてその正体を目で追って、アルゴは思わずヒュッ…と小さな悲鳴を零した。
――切断された、男の右腕。
「……え、あれっ?」
刹那。紫色のライトエフェクトが、男の身体を包み込み。
「あっ」
――くの字を刻むように、斬撃が炸裂。
男の身体は、一切の抵抗なく三等分された。
「!!??は、なっ…!?」
ゴトンッと、男の肉体と、いとも簡単に切断された鎧の一部が、地面に落ちる音がして。
その次の瞬間、男の肉体はポリゴンの光に包まれ、そして爆散。
――ゲームオーバー、死亡。
残された男は、一気に額に脂汗と、潰れた、声にならぬ悲鳴を出した。
「わ…ッ」
「殺寸っ天言っ太与奈?」
「ひ、ヒィ…ッ、あ…うわぁああ――」
残された男は、武器をその場に放り捨て。
そのまま背を向け、涙を流しながら走り――
「たすけ」
男の頭部に向かって、最初に投げつけられた鞘。
その後一切の時間差なしに、頭蓋を横に一撃で割る、投擲された剥き出しの刀。
先ほどのと同じく、凄まじい勢いで男のHPが減少。そのままゼロになった途端に、一切の猶予を許さずに、男のアバターを構成するポリゴンが爆散した。
カラン、カランと、刀が地面に落下し、そして数回バウンドする音のみが、辺り一帯を支配する。
「…ッ………」
――今、何が起こった?
目の前で、一瞬で起こった先ほどの光景は何だ?
のそりとベンチから起き上がった彼女に、アルゴは最大限の警戒心を向け――
「あ~あ、やっぱなァ」
「ヤレヤレ」
その瞬間、周りにいたほとんどの野次馬が、わかってたと言わんばかりに、一気に興味を失った。
目の前で、オレンジとはいえ人が死んだ。だというのにだ。
ほとんどのプレイヤーは、もう見るものはないと、それぞれが街の区に向かって歩き出す。
困惑するアルゴの耳に、未だ場に留まっているプレイヤー、野次馬の一人であろう男の声が聞こえた。
「バカなヤツ、知らねェんだなァ。あの嬢ちゃんのこと……」
「
死んだ男たちに哀れみ、そしてすぐ、彼らは数人で固まって歩き出した。
その先は、先ほど二人の人間を殺した、あの少女――
「ホラァ嬢ちゃん、まァた絡まれちまったァ」
「俺乃邪魔ぁ寸ん乃が悪以」
「ハハ、しょうがねェ」
「どーする?一回宿帰すかァ」
「だなァ」
「――ッおイ!」
アルゴは叫んだ。
目の前の少女の脅威を示すカーソルは、まだグリーンのまま。
だが、それでも先ほど見た光景は、オレンジプレイヤーが相手とはいえ、間違いなく故意で
それに対し、気さくに話しかける男たちの姿が、納得のできないものだった。
「そいつが何をしたかわかってるのカ…!?」
「は?あァ~心配すんなってェ」
アルゴの必死な声に、男の一人はぽんっと、少女の肩に手を置いて笑った。
「大丈夫だよ。この人、
「一か月以上こうだと…まァ他のみんなも慣れたよなァ」
「まァ素性は謎だけどなァ、とにかく強ェーんだ」
「………はッ…?」
いくら害がないからとはいえ、ここまで穏やかでいられるものなのか。
アルゴの知らないうちに、この第一層で何が起こったというのか。
一抹の不安を胸に、アルゴは何も言えずにその場に立ち尽くす。
「ッとそうだ。髭の嬢ちゃん、そういやそこに刀と鞘落ちてるだろォ?それ拾ってくれねェか」
「…あ、アァ…」
思わず、ついうっかり返事をしてしまったが、吐いた唾は吞めない。
アルゴは渋々、先ほど少女が投擲した、地面に横たわる日本刀をまじまじと見る。
見たところ、そう大した品には見えなかった。
刀のすぐ横に落ちてある黒い鞘と同色の、黒い柄。
しかし色は劣化し、まるで使い古した品のようで、かつては鞘と同等の輝きだったのだろうが、今では薄い灰色でしかない。
それを拾い、そしてじっと観察しようとした途端――
(――重ッ!)
あやうく、手からそのまま落とすところだった。
なんとか柄を強く握り、アルゴはそれを地面に落とすことなく、少し握った場所がズレるだけで済んだのだが。
(なんて要求筋力値ダ…)
アルゴはビルドの都合上、そこまで筋力値を上げているわけではない。
だがそれでも、情報屋として己の身を守るため、一般プレイヤーの平均より遥か上のレベルは持っている。
だというのに、この刀は正にレベルが違う。
一見するとそれほどでもなさそうな、華やかさのない日本刀。
今でこそデスゲームになってしまったが、SAOは本来、皆が夢見たVRMMOの一つだった。
何千、何万もの武器が存在するこの世界で、言ってしまえば、何の特徴も機微もない、あまりにも『らしい』日本刀は、一部のゲーマーの需要を満たすだけで、万人受けはしないだろう。
恐る恐る、刀に指先で振れ、ポップアップメニューを表示させる。
カテゴリ《カタナ/ワンハンド》、固有名《
製作者の銘、無し。
つまりこの武器は、鍛冶屋NPCやプレイヤーによって作られたものではなく、モンスターからのドロップアイテム。
そしてこれは、後者の中でも更に希少な、《魔剣》と称される程の――
「早っ左止返世」
「ッ!」
目の前でいつの間にか、彼女がじっとこちらを見つめていた。
身長は近いものの、彼女は常に俯いたままであるため、必然的にアルゴの方が、彼女を見下ろす形になる。
ブツブツと呟きながら、左膝を曲げて、腕を伸ばす。
その時、アルゴの脳裏を走ったのは、先ほどの男の言葉。
彼女は、敵意にしか反応しない。
――自分はさっき、彼女に向かって何を…
そこまで考えた時、既に彼女の動きは止まっていた。
彼女はアルゴの足元に落ちていた、真っ黒な鞘を、左手でゆっくりと掴んでおり。
そして次の瞬間。アルゴが持っていた刀に向かって、勢いよく鞘をぶつけるように納刀。
突然の衝撃と、そして速度に驚き、アルゴが思わず手を離した隙間に、鞘から離した左手を、アルゴの手と刀の柄の間に滑り込ませ、奪い返す。
一寸のブレもない、機械のように正確な動きだった。
刀を逆手持ちのまま装備し、再びブツブツと、言葉にならぬ濁音を垂れ流す。
「用が禮ぇ奈良帰禮」
――大丈夫だよ。この人、敵意にしか反応しないから。
「………」
顔はまだよく見えない。
未だ半信半疑だったが、実際にこうして、アルゴの目の前で立ち尽くす彼女は、それ以降一切の動きを見せていない。
では先ほどのは、威嚇するかのような納刀の流れは、最初に向けた敵意。それに対する答えということなのだろうか。
――だが、違和感がある。
死んだ男たちはオレンジだったから?自分はグリーンだから?
彼女が刃を振るう基準は、本当に敵意があるか否か。そんな簡単な話だろうか?
ゆらり。彼女はブツブツと、再び口から濁音を流しながら、アルゴに背を向け、歩き出そうとして。
「あ!いたいた!」
次に、アルゴの耳に入って来たのは。
先ほどの、彼女に気さくに話しかけていた男たちとは違う、可愛らしい女声であり。
「
「…………チッ」
一瞬聞こえた舌打ちと、右手をブンブンと振りながら、こちらに向かってやって来る、新たな少女。
これだけで何となく、アルゴは彼女たちの関係と、この後の流れを察してしまった。
はじまりの街の民度がサカデイ市民みたいになっちまった()
今回たまたま相手がオレンジだっただけで、篁モードなら相手がクズだと判明すればグリーンだろうと関係なくぶっ殺します。やったね。
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