【ソードアート・オンラインRTA】ラフコフ殲滅Any%『■狂者』   作:GARAKU

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 座頭市(たけし版)で作者が一番好きなシーンは居酒屋で仕込みを奪い返すシーンです。
 鞘を拾ってそのまま納刀するのかっこいい。


11話.ガラ区

 アインクラッド第一層《はじまりの街》。

 ここににアルゴが来たのは、実に数か月ぶりの事だった。

 転移門を出たところで立ち止まり、アルゴはふと、全てが変わったあの日のことを思いだし、そして複雑な感慨に囚われる。

 巨大な広場を前に、その奥にある街並みをぐるりと見渡すと、以前とは全く違うその光景に、目を見開いた。

 《はじまりの街》は他層と比べても段違いで、実際にその規模は、アインクラッド最大級の都市である。

 『冒険』の為に必要な装備品や、設備の充実さだけなら、ここを超える場所はない。

 物価も安く、宿屋の類も大量に存在する為、受け入れられる人口も充分。効率だけを考えるなら、ここをベースタウンにするのが最も適しているとも言えるだろう。

 

 だが、それができない理由がある。しない理由がある。

 否が応でも思い出すのだ。

 中央広場での、あの日の悪夢、SAOが変わってしまった日を――

 

 アルゴや攻略組を含む、最前線を走るトップソロプレイヤーはそう思っている、ではそれ以外はどうか。

 その答えこそが、転移門を出てすぐ目に入った、数多のプレイヤーたちだった。

 完全な円形の、敷き詰められた石畳の空間の中央には、巨大な時計塔がそびえ立っている。

 その下で揺らめく、青い転移門の光。アルゴが先ほど、自分が出てきたその場所を振り返ると同時に、以前見たものとは違う光景が映った。

 現在、生存しているSAOプレイヤーの数は約七千程度で、《軍》を含めれば、ここ《はじまりの街》に在中しているプレイヤーは、およそ二千弱といったところだろう。

 そしてそれこそが、ここ《はじまりの街》で、あの日の悪夢が甦るのとは別の理由で、プレイヤーが第一層に降りない理由があった――

 

「どういうことダ…?」

 

 アルゴが困惑したのは、目の前の広場に集まった、数十人のプレイヤーの存在。

 遠目からでも、屋台や店舗の建ち並ぶ市場エリアが確認できるが、そこも広場と同じく、以前とは打って変わって、それなりの人数のプレイヤーが集まっていた。

 

 《軍》、またの名を《アインクラッド解放軍(ALF)》。

 かつて第二十五層にて壊滅的な被害を出してしまい、それ以降は攻略の最前線に立ち続けることはなくなったギルド。

 現在は代わりに、ここ《はじまりの街》を中心とした、下層部の治安維持に集中するようになった者たち。

 

 だが、そのうち彼らは――特にキバオウというプレイヤーが率先して、勝手な改革を行い、マナーを無視した狩場の独占や、犯罪者狩りに精を出すようになる。

 行き過ぎた行動指針や、それで増長した自尊心は、元より堕落していた彼らの心を、更に致命的なレベルに貶める。

 その結果として、第一層ではフィールドも例外ではなく、《軍》に所属するプレイヤーが、それ以外のプレイヤーに…それこそゲーム開始から現在に至るまで、未だに街から出たことのない弱者を食い物に、()()()()()《軍》所属プレイヤーが、恐喝による物資の略奪にまで手を出した。

 カーソルがオレンジになっていないだけで、彼らもまた悪党の一人。

 その結果。昼間は勿論のことだが、夜でさえまともに人は外に出ず、宿に閉じ籠っては《軍》の見回り、徴税行為から逃げる生活が、当たり前のものとなっていた。

 だというのに。

 

(軍は…どこニ…)

 

 広場には子供たちがいる。

 SAOに定められた年齢制限。見ただけでも、目の前の子供たちは、その基準の年齢に達していないことがわかる。

 大人も、賑やかに変わった目の前の光景に、本当なら手放しに喜ぶべきなのだろう。

 だが、情報屋として、何よりラフコフという、どうしようもない悪意を知ってしまった現状では、どうしても不安だった。

 ――間違いなく、何かが起きている。

 

「おーっ大変だぞ」

 

 そんなアルゴの予想を是とするように。

 背後から聞こえてきた、人の走る音と、叫び声。

 男の声に、広場にいたほとんどのプレイヤーが反応し、何事かと耳を傾けた。

 が。

 

「そこのフィールドで()()()()が《軍》のやつに絡まれてるぞォ」

「なんだァ…?」

「ヤレヤレ」

「あー……またかァ」

 

 嬢ちゃん。

 その言葉が男の口から聞こえた途端に、皆の態度が急変した。

 まるでどうでもいいとでも言いたげな、ため息一つ。

 その後、再びフィールドに向かって走り出した男を追って、少数のプレイヤーが走り出す。

 残り六割のプレイヤーは、広場でそれぞれ談笑に戻り、何事もなかったかのように、先ほどまでの空気に戻る。

 そんな異質な空気を背に、アルゴは男を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やべェぞアレ」

「お前行けよ」

「どうなるかねェ」

「全く馬鹿なことを……」

 

 アルゴがその場に到着した時、既に野次馬による包囲網が完成していた。

 プレイヤーの身体で作られた、プレイヤーの脅威度を示すカーソル群。グリーンで統一されたカーテンの奥で、アルゴがそこに見たのは、二つの()()()()

 ――オレンジプレイヤー、圏外。

 アルゴの脳裏に、最悪の予感が走る。

 

「いーい刀だなァ、嬢ちゃん」

「ちょっと見せてェ」

 

 息を吞み、プレイヤー間の隙間を掻い潜って、その場面を目撃する。

 辿り着いた場所では、一人のプレイヤーを、グリーンカーソルの、それこそアルゴと同じくらいの、見知らぬプレイヤーの少女がいた。

 彼女は、珍しい圏外で設置されている木製のベンチに座り、まるで抱きかかえるかのように、真っ黒な日本刀を持っていた。

 そんな彼女を囲い、見下ろしているのは二人の男プレイヤー。

 禍々しいオレンジカーソルと、灰緑と黒鉄色で統一された装備は、彼らが《軍》所属のプレイヤーであることの証明だった。

 彼らはニヤニヤと、悪趣味な笑顔を浮かべながら、ベンチに座る彼女に話しかけていた。

 

之加計流奈寸ぞ

 

 ブツブツと、言葉にならない音のみ。

 聞き耳スキルをそれなりに鍛えているアルゴでさえ、その声が示す意味を悟ることはできない。

 視線を向けることなく、身体を動かすわけでもなく。

 ずっとブツブツ呟く彼女に、男たちの顔に嘲笑の色が浮かぶ。

 

 ――不味い。

 

 街の内部。いわゆる街区圏内では常に『犯罪防止コード』というシステムが働いており、他のプレイヤーにダメージを与えることは勿論、プレイヤーを無理やり動かすような芸当も不可能。

 しかしそれは、裏を返せば、行く手を阻む悪意あるプレイヤーも排除できないということでもある。

 その結果が、圏内で一人のプレイヤーに対し、大勢で囲い込むような、通称『ボックス』と呼ばれる行為だったりするのだが。今回は場所が違う。

 ここは犯罪防止コードのない圏外。

 そして目の前にいる《軍》は、その中でも最悪のパターン、つまりは人を傷つけることに、一切の躊躇がない存在。

 よく見れば、《軍》の配給品である筈の鎧が、所々に亀裂が走っており、ロクにメンテナンスもできていないように見える。

 何かの拍子に、それこそ今回のように圏外で、他プレイヤーに恐喝行為をする途中、ついうっかり武器が触れ、そしてそれがカーディナルによって、悪質な『直接攻撃判定』として処理された……のかもしれない。

 だが、そんなたらればの話はどうでもいい。

 

「ハッ!ボケちゃってるぜェ、このガキ」

「なァにブツブツ言ってんだァ?」

手前ぇ良糞共波.以川毛以川毛

 

 アルゴの視線の先で、右に立つ男が、背中の剣に手をかける。

 周りにいる、十数名の野次馬プレイヤーたちは、それに眉一つ動かすことなく、呆れたようなため息を漏らした。

 それが理解できなくて、思わず吐き捨てるように呟く。

 

「おいおイ。殺されるぞアイツ…!」

 

 周りの野次馬たちは、静かに目の前の景色を見つめるのみ。

 右手に投げ針を握り、いつでも動けるように姿勢を低くする。

 ギラギラとした、手入れもまるで行き届いていない、鈍く薄っぺらい片手剣を左手で握った男は、未だブツブツと呟き続ける彼女。

 その胸に抱きかかえられている、真っ黒な日本刀に、残る右手を伸ばし――

 

「刀よこせってんだよクソガキィ」

 

 

 

 

 ピシッ――

 いつの間にか、少女の持つ刀は既に、抜刀されていた。

 

 

 

 

「あ?」

 

 地面に一つ、小さな影が出現した。

 ()()は、曲線を刻んで宙を舞う。

 思わず息を、足を止めてその正体を目で追って、アルゴは思わずヒュッ…と小さな悲鳴を零した。

 ――切断された、男の右腕。

 

「……え、あれっ?」

 

 刹那。紫色のライトエフェクトが、男の身体を包み込み。

 

「あっ」

 

 ――くの字を刻むように、斬撃が炸裂。

 男の身体は、一切の抵抗なく三等分された。

 

「!!??は、なっ…!?」

 

 ゴトンッと、男の肉体と、いとも簡単に切断された鎧の一部が、地面に落ちる音がして。

 その次の瞬間、男の肉体はポリゴンの光に包まれ、そして爆散。

 ――ゲームオーバー、死亡。

 残された男は、一気に額に脂汗と、潰れた、声にならぬ悲鳴を出した。

 

「わ…ッ」

寸っ天っ太与奈

「ひ、ヒィ…ッ、あ…うわぁああ――」

 

 残された男は、武器をその場に放り捨て。

 そのまま背を向け、涙を流しながら走り――

 

「たすけ」

 

 男の頭部に向かって、最初に投げつけられた鞘。

 その後一切の時間差なしに、頭蓋を横に一撃で割る、投擲された剥き出しの刀。

 先ほどのと同じく、凄まじい勢いで男のHPが減少。そのままゼロになった途端に、一切の猶予を許さずに、男のアバターを構成するポリゴンが爆散した。

 カラン、カランと、刀が地面に落下し、そして数回バウンドする音のみが、辺り一帯を支配する。

 

「…ッ………」

 

 ――今、何が起こった?

 目の前で、一瞬で起こった先ほどの光景は何だ?

 のそりとベンチから起き上がった彼女に、アルゴは最大限の警戒心を向け――

 

「あ~あ、やっぱなァ」

「ヤレヤレ」

 

 その瞬間、周りにいたほとんどの野次馬が、わかってたと言わんばかりに、一気に興味を失った。

 目の前で、オレンジとはいえ人が死んだ。だというのにだ。

 ほとんどのプレイヤーは、もう見るものはないと、それぞれが街の区に向かって歩き出す。

 困惑するアルゴの耳に、未だ場に留まっているプレイヤー、野次馬の一人であろう男の声が聞こえた。

 

「バカなヤツ、知らねェんだなァ。あの嬢ちゃんのこと……」

この辺(東圏外)のヤツじゃねェのかなァ…まァ自業自得だなァ」

 

 死んだ男たちに哀れみ、そしてすぐ、彼らは数人で固まって歩き出した。

 その先は、先ほど二人の人間を殺した、あの少女――

 

「ホラァ嬢ちゃん、まァた絡まれちまったァ」

邪魔ぁ寸ん乃が

「ハハ、しょうがねェ」

「どーする?一回宿帰すかァ」

「だなァ」

「――ッおイ!」

 

 アルゴは叫んだ。

 目の前の少女の脅威を示すカーソルは、まだグリーンのまま。

 だが、それでも先ほど見た光景は、オレンジプレイヤーが相手とはいえ、間違いなく故意で()()()存在なのだ。

 それに対し、気さくに話しかける男たちの姿が、納得のできないものだった。

 

「そいつが何をしたかわかってるのカ…!?」

「は?あァ~心配すんなってェ」

 

 アルゴの必死な声に、男の一人はぽんっと、少女の肩に手を置いて笑った。

 

「大丈夫だよ。この人、()()()()()()()()()()()()

「一か月以上こうだと…まァ他のみんなも慣れたよなァ」

「まァ素性は謎だけどなァ、とにかく強ェーんだ」

「………はッ…?」

 

 いくら害がないからとはいえ、ここまで穏やかでいられるものなのか。

 アルゴの知らないうちに、この第一層で何が起こったというのか。

 一抹の不安を胸に、アルゴは何も言えずにその場に立ち尽くす。

 

「ッとそうだ。髭の嬢ちゃん、そういやそこに刀と鞘落ちてるだろォ?それ拾ってくれねェか」

「…あ、アァ…」

 

 思わず、ついうっかり返事をしてしまったが、吐いた唾は吞めない。

 アルゴは渋々、先ほど少女が投擲した、地面に横たわる日本刀をまじまじと見る。

 見たところ、そう大した品には見えなかった。

 刀のすぐ横に落ちてある黒い鞘と同色の、黒い柄。

 しかし色は劣化し、まるで使い古した品のようで、かつては鞘と同等の輝きだったのだろうが、今では薄い灰色でしかない。

 それを拾い、そしてじっと観察しようとした途端――

 

(――重ッ!)

 

 あやうく、手からそのまま落とすところだった。

 なんとか柄を強く握り、アルゴはそれを地面に落とすことなく、少し握った場所がズレるだけで済んだのだが。

 

(なんて要求筋力値ダ…)

 

 アルゴはビルドの都合上、そこまで筋力値を上げているわけではない。

 だがそれでも、情報屋として己の身を守るため、一般プレイヤーの平均より遥か上のレベルは持っている。

 だというのに、この刀は正にレベルが違う。

 一見するとそれほどでもなさそうな、華やかさのない日本刀。

 今でこそデスゲームになってしまったが、SAOは本来、皆が夢見たVRMMOの一つだった。

 何千、何万もの武器が存在するこの世界で、言ってしまえば、何の特徴も機微もない、あまりにも『らしい』日本刀は、一部のゲーマーの需要を満たすだけで、万人受けはしないだろう。

 恐る恐る、刀に指先で振れ、ポップアップメニューを表示させる。

 

 カテゴリ《カタナ/ワンハンド》、固有名《オーダー(ORDER)》。

 製作者の銘、無し。

 

 つまりこの武器は、鍛冶屋NPCやプレイヤーによって作られたものではなく、モンスターからのドロップアイテム。

 そしてこれは、後者の中でも更に希少な、《魔剣》と称される程の――

 

早っ左止

「ッ!」

 

 目の前でいつの間にか、彼女がじっとこちらを見つめていた。

 身長は近いものの、彼女は常に俯いたままであるため、必然的にアルゴの方が、彼女を見下ろす形になる。

 ブツブツと呟きながら、左膝を曲げて、腕を伸ばす。

 その時、アルゴの脳裏を走ったのは、先ほどの男の言葉。

 

 彼女は、敵意にしか反応しない。

 ――自分はさっき、彼女に向かって何を…

 

 そこまで考えた時、既に彼女の動きは止まっていた。

 彼女はアルゴの足元に落ちていた、真っ黒な鞘を、左手でゆっくりと掴んでおり。

 そして次の瞬間。アルゴが持っていた刀に向かって、勢いよく鞘をぶつけるように納刀。

 突然の衝撃と、そして速度に驚き、アルゴが思わず手を離した隙間に、鞘から離した左手を、アルゴの手と刀の柄の間に滑り込ませ、奪い返す。

 一寸のブレもない、機械のように正確な動きだった。

 刀を逆手持ちのまま装備し、再びブツブツと、言葉にならぬ濁音を垂れ流す。

 

が禮ぇ奈良

 

 ――大丈夫だよ。この人、敵意にしか反応しないから。

 

「………」

 

 顔はまだよく見えない。

 未だ半信半疑だったが、実際にこうして、アルゴの目の前で立ち尽くす彼女は、それ以降一切の動きを見せていない。

 では先ほどのは、威嚇するかのような納刀の流れは、最初に向けた敵意。それに対する答えということなのだろうか。

 ――だが、違和感がある。

 死んだ男たちはオレンジだったから?自分はグリーンだから?

 彼女が刃を振るう基準は、本当に敵意があるか否か。そんな簡単な話だろうか?

 ゆらり。彼女はブツブツと、再び口から濁音を流しながら、アルゴに背を向け、歩き出そうとして。

 

「あ!いたいた!」

 

 次に、アルゴの耳に入って来たのは。

 先ほどの、彼女に気さくに話しかけていた男たちとは違う、可愛らしい女声であり。

 

()()ー!今日こそ弟子にしてくれーっ!」

…………チッ

 

 一瞬聞こえた舌打ちと、右手をブンブンと振りながら、こちらに向かってやって来る、新たな少女。

 これだけで何となく、アルゴは彼女たちの関係と、この後の流れを察してしまった。




 はじまりの街の民度がサカデイ市民みたいになっちまった()
 今回たまたま相手がオレンジだっただけで、篁モードなら相手がクズだと判明すればグリーンだろうと関係なくぶっ殺します。やったね。
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