【ソードアート・オンラインRTA】ラフコフ殲滅Any%『■狂者』   作:GARAKU

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 体調復活。
 夕方の四時までぐっすりしてから書き始めました、辛し(調子早く戻せるよう頑張ります)


13話.Bar Brawl Scene

 がたん。ごとんと、心地よい音がする。

 その度に、道にある段差に車輪が引っかかり、身体が衝撃で浮き上がる。その度にぺたんと、何度も何度も、無機質な木と腰がぶつかった。

 アルゴはどちらかといえば、小柄に近い体躯の為、車輪が跳ね、現在乗っている馬車()()()が揺れる度に、アルゴは何度も、座るポジションの調整を行う羽目になる。

 移動を開始しておよそ二十分。最初に感じていた筈だった苛立ちも、もう今では感じなくなってしまったほどだ。

 肝心のそれを操縦する、《フレンジー・ボア》に似た容姿の、飼い慣らされた猪型のモンスターに、馬車もどきを引かせるNPCの運転手と、問題の二人。

 街で急遽用意し、NPCの鍛冶師によって何とか最低限に鍛え上げられた()()()

 未だ謎に包まれたままの辻斬り少女を、師匠と一方的に慕う、元両手剣使いルクス。

 

運転下手奈んだ与糞が

 

 そんな彼女が、キラキラと羨望の視線を向ける先。

 未だ正体不明の辻斬り。アルゴは彼女らを交互に見て、ため息を一つ吐く。

 だが同時に、己の中では確かに、決して否定できない程には、これからの未来に対し、期待しているのも確かで――

 それはきっと、これから向かう先で受注できるとされているクエストに、辻斬りが一体どのようにそれに対処するか――それを他ならぬ、アルゴ自身も見たいからだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 圏内戦闘の後、気のせいかもしれないが、アルゴは辻斬りがルクスに対し、以前と違った態度を示しているかのように感じた。

 アルゴの目には、あの戦いはほんの数秒。それこそVR世界の、SAOプレイヤーとして鍛え上げられた『知覚の加速』がなければ、現実の2秒にも満たない。

 その一瞬で、相手のソードスキルが発生を確認した、いわば()()()で、彼女は左手で柄を握った姿勢から、器用に刀を軽く放り投げ、そして鞘の部分を掴み、受け止める。

 SAOだから、武器の耐久値や補正という、ゲーム世界だからこそできた防御だった。ただまぁ、それを実現する為に必要な反射神経を持つ者は、きっと彼女以外にはいないだろうが。

 その後、彼女は凄まじい神業で、空中に放り投げられたルクスの両手剣《プラタブレード》を綺麗に三等分してしまった。

 それを見て、恐れるわけでも怒るわけでもなく、ルクスはただ、心底ゲームを楽しむかのように、笑った。

 

 それからだろう。ルクスと辻斬りの距離は、以前より更に近く見える。

 

 もはや突っ込む気力も浮かばないが、それでも流石ともいうべきか、アルゴはアインクラッド一の情報屋として、そして一人のSAOプレイヤーとして確信した。

 デスゲームとなってしまった現在。それこそラフコフのような、本物の犯罪者が出没するようになってからは更に以前よりも、デュエルを行う者は劇的に減った。

 その経験がないとは、アルゴは決して言わない。

 一人のSAOプレイヤー、そして元βテスターとして、情報屋としての生き方を続けて一年近い。

 その上で断言できる。

 ――対モンスターを除いた、対人における強さならきっと…

 

「この奥なんだね?」

「アァ。間違いないヨ」

 

 辻斬り少女の腕を組み、まるで介護でもしているかのような態勢のまま、ルクスはアルゴにそう問いかけた。

 …心なしか、ブツブツ呟く濁音の頻度が高く、そして凄まじく不機嫌そうに見えるのは気のせいだろうか?

 そこまで考えてから、やっぱり怖いからこの話はやめにしよう。そうアルゴは結論付けた。

 現在。アルゴたちがいるのはアインクラッド第三十二層。その東の最果てにある、小さな村だった。

 断崖絶壁を登り、小さな洞窟を潜り、それこそまるで、第二層で出てくるエクストラスキルの《体術》を会得できる、特別なクエストを受注できるあの場所のように。

 道中襲い掛かってきたモンスターたちも難なくと撃破し、進むスピードを少しも落とすことなく、彼女たちは目的の場所にたどり着いた。

 

 初回ボーナスクエスト。

 報酬は片手剣。それが今回攻略するクエストの正体だった。

 

 事の発端といえば、ルクスの愛用していた両手剣、《プラタブレード》を失ってしまった為、代わりの武器が必要になった。

 それだけなら、代替措置としてNPCから、それこそ迷宮内の宝箱から発見し、保管していた他の両手剣だってある。

 だというのに、ルクスはそれを使うことはなく、代わりに両手剣の前の、ただの《片手剣》をスキルスロットにはめ込み。「曲刀は一度も使ったことがないからね」と、笑った。

 どうやら彼女は、本当の意味で、この辻斬りに弟子入りを志願するらしい。

 決して短くはない年月、ルクスは両手剣での戦い方で生きてきた。ステータスビルドや武器種の熟練度の問題もある。アルゴからすれば、以前まで使えていた、上位のソードスキルすらも使えなくなる程の弱体化をしてまで、その道を進むのはあまりにも無謀、考え直した方がいいとさえ思った。

 だがそれを聞いて、ルクスは「でも…」と言って。

 

「あの人の強さは、そんなの(ゲーム)とは関係ないだろう?」

 

 そう、自信に満ちた声で言ったのだ。

 そこまで覚悟が決まっているなら、これ以上は無粋であると、アルゴは納得して、そして同時に、ルクスは一人のプレイヤーアルゴではなく《鼠》の、情報屋のアルゴに対し、問うた。 

 ――彼女の《魔剣(オーダー)》程じゃなくとも、それなりの片手剣が欲しいと。

 

 そんな彼女の要望と、そして以外にも、隣でブツブツと呟いていた辻斬りを含めた、師弟二人のコルを対価として受け取り、行動を共にすることを選んだ。

 ――同行する一番の目的は、もはや言葉にする必要はないだろう。

 

「来おったか…」

 

 第二層の『カラテマスター』よろしく、目の前にいるNPCはいかにもザ・剣豪とも呼ぶべき容姿だった。

 袖がボロボロに劣化した剣道衣にも似たコスチュームを身に纏い、こちらをじっと見つめる寡黙な老人。

 最初こそ、イベントモンスターとしての判定が発生し、黄色いカーソル表示だったものの、ルクスの隣。辻斬りの持つ魔剣《オーダー》を見てから一気に、カーソル色が敵対を示す赤に変わった。

 赤。というよりは漆黒。それが意味するのは、今の自分たちのレベルと、目の前に立つNPCの実力差。

 ゆらりと。クエストを受注した本人であるルクスではなく、隣に立つ、辻斬りが行く。

 ルクスはじっと、その背中を見送った。

 

 このクエストは、いわゆる条件付きで解放される特殊イベントだ。

 

 目の前に立っているNPC、名もなき剣豪のバトル用AIは凄まじく、あらゆるソードスキルが、それこそ細剣でさえ防がれる程の、プログラムだからこそ許される、圧倒的理不尽な強さが売りとなっていた。

 何度も何度も、数多のプレイヤーが街のNPC、そしてその周辺にある遺跡から情報を必死にかき集め、なんとか攻略の手掛かり、その一つが判明したところだった。

 老剣士は、大きく長い、重厚感のある一本の刀を、上段で構えて対峙する。

 対する問題の――辻斬り少女は相変わらず、左手で鞘を掴んだまま、俯きブツブツと濁音を垂れ流すだけ。

 構えもせず、逆に相手の構えすら見ようともしない。

 舐められているのか。老剣士の顔に、僅かに不快感が浮かぶ。

 

「……どうなるかネ」

 

 ()()()――

 今回ルクスが受注したクエストは《無銘の贋剣》と呼ばれる、今この時期だからこそ、他プレイヤーと争うこともなく、確実に入手できるであろう片手剣入手クエストだ。

 わかりやすい例で言えば、第一層のホルンカの村で受けることができるクエスト、その報酬である《アニールブレード》の強化版…といったところか。

 性能も《アニールブレード》と似たようなもので、単純な武器性能の値だけを見れば、NPCの鍛冶師から買えるものより、少し優れた程度のもの。

 それに昔と違い。今では優秀な鍛冶屋に転職したプレイヤーがいる。彼らのプレイヤーメイドの武器は、既に攻略の最前線で活躍しており、今このタイミングで、わざわざクエスト報酬の剣を選ぶ理由は、ほとんどないと言っていいだろう。

 

 ――普通なら。

 

 だが今回。ホルンカの村で受けられる《アニールブレード》のと決定的に違うのは、これは最近まで俗に言う『負けイベント』と呼ばれるものであるからだ。

 ()()では、どうあがいても、このNPCを倒すことは叶わず、そして撤退するのがセオリーとなっていた。

 他サブクエストの消化、もしくは専用アイテムや時間帯によって、クリア条件が変わるのか?様々な憶測が飛び交う中、有力な情報は未だになし。

 その結果、最も信憑性の高く、そして最も()()()()()条件こそが――純粋なプレイヤースキル。

 カーディナルが管理する、戦闘用に構築されたバトルAIを、レベルを上げた、技術を極めたプレイヤーが打ち破る。

 しかし、このクエストの噂が広がってからというもの、数多のカタナ使いや、その他プレイヤーが、この老剣士に戦いを挑み、そして皆が例外なく、呆気なくやられた。

 だが、もしかしたら彼女なら――

 

 

 

 

 老剣士が動く。

 一歩足を踏み込んだ次の瞬間には、もう既に目の前に、辻斬りの少女の数十cm先にいた。

 スローモーションになっていく景色の中で、アルゴはあの時と同じ、彼女が神速の技で、刀の柄を掴むのを見た。

 

 カチンッ――

 

 鍔鳴りが聞こえた時にはもう、老剣士の身体を構成するポリゴンが、分散したのだった。

 

 

 

 


 

 

 

 

「イヤ~~まさかこうなるとはなァ…」

 

 主街区のバーで。というよりは居酒屋に近い内装ではあるが、そこにアルゴたちはいた。

 ルクスはクエストの第一幕…つまりあの老剣士を、己が師匠と慕う少女が打ち破ってから、興奮冷めやらぬ状態だった。

 それこそまるで、コミックの世界であるかのような、堂々たる態度で、そして一撃で斬り伏せてみせたのだ。一人のゲーマーとして、実際アルゴも心の底から驚愕したし、ルクスと同じく、僅かながらも憧れの感情は確かにあった。

 神速の抜刀。それも日本刀を使ってだ。

 現代に蘇った石川五右衛門か、それとも桂小五郎、宮本武蔵か。

 まだ今は、アルゴは彼女の情報収集をし、そして集めた情報を整理しているだけで、彼女の今現在の情報を、ネタとして扱うつもりはない。

 だが、やはりおかしいとしか思えない。

 

ど宇之流

 

 ルクスはオレンジジュースにも似た、甘く定番の飲料を。

 アルゴは一見ビールに見える、炭酸の混じった黄色の『なんちゃってビール』と呼ばれる飲料を口に運びながら、隣に座る彼女を――

 

(やっぱリ。どこかデ…)

 

 既視感。あいつか?

 ずっと変わらない。俯いた体勢の彼女の、その横顔。

 色変えアイテムは希少なのと、そもそも己の顔がリアルと同じ仕様に変わってしまったSAOにて、顔ではなく髪だけを変えるメリットもない。

 それこそアルゴからすれば、かの攻略組トップの男である、《騎士》ディアベルくらいでしか、色変えアイテムを使ったという話を聞いていない。

 となると、残る選択肢は一つ、地毛だ。

 だがそれこそ、彼女のような年齢、未成年でこのような特殊な…老化した髪を持った者など、アルゴは知らない。

 頭の中で答えを探し、アルゴはこれから攻略予定の、未だ誰も開拓できていない武器入手クエストと、そしてこれから必然的にパーティを組むことで明らかになる、辻斬りのプレイヤーネームもまた気になるが…

 と、その時。

 

「店主、こっちにも酒くれ!」

「おうよ」

 

 不意に、店の入り口からプレイヤーの一団が、鎧をガチャガチャと鳴らしながら入って来た。

 その中心に立つ、額にバンダナを巻いた男は、まるで本物の居酒屋に来ているかのような明るさで、店のNPCに話しかけた。

 勿論SAOにアルコール飲料は存在しない。酒こそあれど、それはあくまでもアルコールを抜いた、少し豪華なジュースでしかない。

 バンダナを巻いた、野武士という言葉の似合う男は、店内を自身と同じ、統率の取れた鎧を着たパーティメンバーと共に練り歩き、そして止まった。

 ――彼の視線の先にあるのは、魔剣《オーダー(ORDER)》。

 

「………………」

じ呂じ呂天んじゃ禰ぇ

 

 ――興味半分、怖いもの見たさ半分。

 異様な空気を醸し出す、白い髪と黒いスーツの、シンプルで目によく焼き付くその姿。

 黒い恰好――それだけで、ある意味()にとっては思い入れのある友人を彷彿とさせるカラーリングでもある為、よりその興味を惹くに至ったのだろう。

 男が指で、鍔を押して刀身を見せる音が鳴り。

 カチッ――

 

「………なぁ」

 

 ――ジャキンッ!

 それをかき消すが如く。それを上回る音量で響く、彼女が見せた、抜刀の構えと鍔鳴り。

 

「…あんた、ただのカタナ使いじゃねぇだろ」

………………

 

 いつの間にか、座っていた筈の彼女は既に、男の目の前で刀を前に、刀身を滑らせながらゆっくりと立っている。

 その動きを、決して見逃すまいと集中し、意識を向ける。

 彼女が刃を鞘に戻す。

 瞬間――

 

「ッ――」

 

 男――クラインが己のカタナを順手で持つより先。

 辻斬り――ガラクが逆手持ちで、首から胴にかけて、刃をシステムに干渉されるギリギリで、クラインの身体に押し付けていた。

 一瞬の攻防。店内という、限られた閉所で行う読み合いと、純粋な、カタナに対する理解度。

 店内の証明に照らされた、色を映さぬ辻斬りの表情を見て。

 

「――嘘だロ…?」

 

 アルゴは、ようやく彼女の正体を知ったのだ。




???「こんな狭い所で、刀そんな風に掴んじゃ駄目だよ」
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