【ソードアート・オンラインRTA】ラフコフ殲滅Any%『■狂者』 作:GARAKU
居酒屋での一幕は、当然ながらそれなりの規模の騒ぎとなった。
NPCのアルゴリズムに設定された、突然の奇行に驚く声と、その他プレイヤーによる、純粋な興味。
話の分かる者であるなら、彼らが同時に行ったそれが、まさに
そしてそれは、彼も例外ではなかった。
――こっちの柄が身体で止められてやがる…これじゃ抜刀は無理だな。
額にバンダナを巻いた。ギルド《風林火山》のリーダーである男、クライン。
彼はその瞬間、一人の侍として――完膚なきまでの敗北を経験した。
クラインがその日に
数か月前、突如として発見されたエクストラスキルである《カタナ》を習得している、SAOに十人程度しか存在しない、選ばれたプレイヤー。その事実が、彼のフレンドである『黒の剣士』と対等に、そして追いつく為の価値が、彼の誇りでもあった。
まだ詳しい獲得条件は明らかになっていないものの、現時点て《カタナ》スキルを獲得した者、全員に共通して、《曲刀》スキルの熟練度が400以上だというものがあり。
個人差こそあれど、こうしている間にも少しずつ、曲刀使いからカタナ使いに転職するプレイヤーの数は、着実に増えていった。
だからこそ、自身と同じ道を行く武器の使い手である彼女はより――異質だった。
持っている武器が醸し出すオーラや、それを飲み込む程の、本人から放たれる…
しかし、彼女の脅威を示すカーソル色がグリーンなのと、彼女の傍にいたのが、アインクラッドでも一二を争うレベルで信用できる相手である、《鼠》のアルゴだったのもあって、クラインは早い段階で、彼女への警戒心を解いた。
ガラク。
それが、その場にいたアルゴを含む三人とパーティを編成する際に、クラインが知った彼女の名前だった。
歳はクラインよりも、おそらくは下。それこそ『黒の剣士』と称され、最前線で今も活躍を続ける、クラインにとって一番の
艶やかさの欠片もない、痛んで脱色した長髪と、まるで杖のように、しかしまるでその辺の棒切れでも扱っているかのような、慣れた挙動。
髪色、そして何より――
まるでボケ老――
大変失礼なことだが、未だにまともな言葉も聞けず、ずっと常にブツブツと呟いているガラクに対し、クラインが思い浮かべた言葉はそれであった。
ソードスキルで道中のモンスターを打ち倒し、そしてちらりと後ろを見れば、ルクスと名乗った、男性口調の少女が、ガラクの腕と自分の腕を絡め、ぴったりとくっついているのが見える。
普通であれば、麗しい少女が少女相手にくっつくその景色に、眼福だの何だの言っていたのだろう。
だが、あまりにも危険な雰囲気を醸し出す、常に濁音を垂れ流し、俯くガラクの姿を見て、そのような甘い感情を覚える間もなく。
一瞬。介護…?と、思わず更に失礼なことを考えてしまい、ブンブンと頭を振って、その言葉を脳内から追い出した。
………その時、ガラクからの視線がより強くなった気がしたのは、きっと気のせいだろう。
「…うん。やめとこう、うん」
クラインは賢明であった。
「もしよかったら、みんなでパーティを組まないか?」
数十分前、ガラクによる、逆手持ちにした刀身を押し付けられたままのクラインに対し、まるで一緒に遊びに行くかのような、そんな気軽さで、ルクスは彼ら《風林火山》に提案した。
「《無銘の贋剣》クエストは、今この時期だからこそ、他プレイヤーと争うことなく攻略できる」
その言葉が示す本当の意味とは、彼ら《風林火山》による、一種の宣伝効果があったからと言えるだろう。
クエストをクリアすれば、確実に入手できる片手剣。しかし現在、多くのソロプレイヤー…それこそ攻略組、大型ギルドには劣るものの、その
《
いい機会だ。それに、パーティ申請のメッセージを見れば――
そんなアルゴの内心を読んだかのような、あまりにも丁度いいタイミングで、ルクスがその場にいた全員に向けて、パーティ申請を受諾し、メンバーが編成される。
そして、咄嗟にアルゴは己の所属するパーティの、メンバー名を確認し、思わず、呻き声を漏らした。
2024年、
その日、約一年と二ヶ月の時を経て、アルゴは彼女と――ガラクと再会した。
――それも、変わり果てた姿で。
ずっと俯き、前髪に隠れて見えなかった顔。
居酒屋にて、
思い返してみれば、彼を思わせる要素は多くあった。
女子にしては珍しい、スカートタイプではない、男物のスーツ、そして日本刀。
薄情なものだ。あれだけβ時代、それなりの関係性を築き、そしてSAOが正式サービスを開始してから、何回も会話を交わしていたというのに。
今日この日まで、彼のことを忘れていただなんて。
「師匠。足元気を付けて」
「俺遠老人扱以寸ん奈」
ルクスに身体を支えられながら、彼はずっとあの調子だった。
髪の色や、普段の彼の雰囲気からしても、まるで介護される老人のそれで、やはり同年代だとは到底思えない。
それに、彼のアバターの変化は、いささか疑問が残るもの。
彼は最後に出会った時、髪は黒色で、それにあそこまで長くはなかった筈。
それに、ドロップアイテムである色変えアイテムを仮に使ったとしても、変わるのは色だけで、元から設定されていた、SAOを始める前にナーヴギアがスキャンした髪質、それだけは変えられない。
謎だらけだが、それでも唯一、アルゴが手放しで喜べることがある。それは彼が、ちゃんと生きていること。
そして同時に、あまりにも目を疑う、歯痒い思いもあった。
彼は、人を殺した。
第一層の圏外、そしてルクスから聞いた、ラフコフとの戦いだけでも、最低でも六人以上。
相手がオレンジプレイヤーだから、特にラフコフは人殺しだから。だとしても。
それでも、彼が手を汚す必要など、決してない筈なのだ。
何より――圧倒的な殺意。
あの強さ、あの挙動。ガラクの今の姿を、アルゴは
――
(強さだけで決めるならキリ坊。それかヒースクリフのどっちかだガ…あのバトルスタイルには一致しないし、そもそもあんな挙動不審じゃなイ…)
黒の剣士――キリトは盾なしの片手剣使いで、ヒースクリフは盾を持った防御からのカウンターが主体のバトルスタイル。
対するガラクはというと、彼の戦い方は神速の抜刀術。更には逆手持ちによる居合、そして超近距離での圧倒的無双スタイルを、
(あの強さ、挙動の正体はガラクの人格コピー…それ以外の答えはないガ。…ないからこそ余計にわからなイ…)
迷宮区を突き進む間、ずっと彼は、ルクスの傍にいた。
モンスターが出現すると、今までと同じ、ブツブツと呟く不審な挙動のまま、左手に持った刀を持ち上げ、動きを止める。
だがクラインの指揮による、《風林火山》のメンバーが奏でるソードスキルの旋律が、モンスターを一瞬でポリゴンの欠片に変化させる。
それを見てから、ガラクは刀を再び元の位置に戻し、そして相変わらずの挙動不審のまま。
――敵意にしか反応しない。
第一層の住民から聞いた、今のガラクを示す言葉。
掠れた声、小さく言葉の体を成していない、常時垂れ流されている濁音。
あれほどの強烈な個性と強さを持った者が、一体他に何人いるというのか。
アルゴはその、常識知らずの強さもそうだが、今のガラクから溢れ出す、『危険』そのものである空気を見て、その上で思う。
『SAOにいる全プレイヤー、その殺意の集合体』
ルクスが戯言として呟いた、彼がサンタや幽霊のような、仮想のプレイヤーではないかという持論。
ただでさえ、普通の人格コピーでさえ、かなりオカルトに片足を突っ込んだ事態だったというのにだ。
「――ガラク」
「何だ」
一年。
この一年で、SAOは大きく変わり、そしてある程度
朝起きて、剣を握ってモンスターを倒す。産毛の一つも生えていない、ポリゴンで作られた仮想の肉体。
それがまるで、最初からこうであったかのような、そんな感覚がふと、自分の頭に浮かび上がる。
街を奔走し、フィールドを必死に駆け回って、クエストやモンスターの情報を集めて回る。
その間、彼は一体どこで、何をしていたのか。
もはや、それを聞く資格も、聞けるような状態でもない。
アルゴの言葉を、理解できているのか、それともただ、反射として濁音を流しているだけなのか。
160にも満たない、小さな身体だった。
隣に立つのは、自分よりも更に小さな、そして年下の…本当の意味での子供。
最初、自分の秘密の一つである性別と、己が抱える病気、人格絡みの話も、自分は聞いた。
その時の、拒絶されることを恐れた、怯えた表情を、今になって、アルゴは思い出した。
――思い出してしまった。
そうなると、次にやってくるのは、第一層での罪悪感。
彼に向けた敵意。仕方ないものだと、そう割り切るにはあまりにも、アルゴは彼のかつての姿を、小さく怯えた一人の子供を詳しく知ってしまっている。
この一年、彼は何をして生きていたのか。
そして、一体何を経験し、この絶技を身につけたのか。
アルゴは、まるで罪滅ぼしのように、一言。
「…気づけてやれなくてごめんナ」
彼を刺激しないよう、ゆっくりと頭を撫でた。
少し掴めば、簡単に千切れてしまいそうなくらい、弱く傷んだ髪。
その時一瞬、彼の色を映していない瞳が、揺れたような気がした。
2024年、
「俺もあんたを探してたのさ、ロザリアさん」
「――どういうことかしら?」
「あんた、十日前に、三十八層で《シルバーフラグス》っていうギルドを襲ったな。メンバー四人が殺されて、リーダーだけが脱出した」
「ああ、あの貧乏な連中ね」
「…リーダーだった男はな、毎日朝から晩まで、最前線のゲート広場で泣きながら仇討ちをしてくれる奴を探してたよ」
「……」
「あんたに、奴の気持ちが解るか?」
「全久此乃世仁波……生可之知ゃ安於計禰ぇ屑ば加利…」
Q.どうしてアバターの髪が変化してるんですか?(現場猫)
A.心意システムって凄いね♡
次回予告
タイタンズハンド「シルバーフラグス襲ったけどアイテムしょぼくて萎えぽよ」
ガラク「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す…」