【ソードアート・オンラインRTA】ラフコフ殲滅Any%『■狂者』   作:GARAKU

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 サカモトデイズ163話の、篁さん登場シーンが一番のお気に入り。


15話.厄

 ――正体不明のPKK(プレイヤーキラーキラー)

 その噂がアインクラッド全体に広がるのは、そう長い時間は必要としなかった。

 ゲームというのは情報戦が第一で、それは単純に相手をするモンスターの、パターン化された行動の一つ一つと、マップもそうだ。

 しかしそれ以上に、今この時に求められている情報――それがプレイヤー、ギルドのものだった。

 《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》。一時期、彼らによる犯罪…PKの被害者数はおよそ二十人以上に匹敵し、しかもそれは、たった一か月の間に確認できたもの。

 これからも、彼らの手によって多くのプレイヤーが殺され、そして彼らに触発された、以前から活動を続けていたオレンジプレイヤーもまた、殺人という禁忌に手を出すのか。

 プレイヤーたちの恐怖、不安は案の定というべきか、実際にその通りとなってしまった。

 

 ギルド《シルバーフラグス》。

 その唯一の生き残りであるリーダーの男から、キリトは依頼を受けた。

 

 ゲームの始まったあの日から、ずっと共に戦い、生きてきた仲間だった。

 四人はもういない。あのオレンジプレイヤー…《タイタンズハンド》と呼ばれる犯罪者ギルドたちによって、その全てが奪われた。

 仲間の形見とも呼べる武器も、コルも、その他のアイテムも全て奪われ、彼は背後から聞こえる蔑みの声と、嘲笑の嵐を必死に耐えながら、何とか逃げた。

 残りの全財産。そしてこの為にクエストをクリアし、作ったコルで購入した。出口を黒鉄宮に設定した特性の回廊結晶。

 「どうか敵を取ってくれ」「これであいつらを捕まえてくれ」そう、涙ながらに頼むリーダーの男に。

 

「あぁ、必ず」

 

 キリトは迷うことなく、即座に了承した。

 だがそのすぐ後に、ある懸念が湧いて出てきたのだった。

 

(早く情報を集めないとな…じゃないと()()――)

 

 ――PKK(ガラク)が彼らを襲うかもしれない。

 元《シルバーフラグス》リーダーの男から渡された、専用の回廊結晶をポーチに仕舞い、キリトは事前に仕入れていた情報を頼りに、第三十五層にて、あるプレイヤーを追う。

 だがその間もずっと、キリトはアルゴから聞かされた噂の正体――いつしか記憶が摩耗していた、ガラクというプレイヤーの現在を知った。

 アルゴが確認した限りでも、最低六人のプレイヤーを殺害し、そして現在、その行方が分からないままであるということ。

 以前とは正にレベルの違う、圧倒的な強さと、その代償に失った意識。

 まともな会話はもうできず、常にブツブツと、言葉にならぬ濁音を垂れ流しながら、漆黒の日本刀を片手に層を徘徊する。

 にわかには信じられないことだったが、そもそもアルゴからの情報。というだけで、既に無条件で信用できるものだ。

 しかもそれを後押しするように、別の情報屋、新聞屋が仕入れ、拡散した情報で、キリトはそれを嫌でも再認識した。

 

 アルゴがその情報を提供した次の日に、別のオレンジギルドが崩壊した。

 ――彼は今でも、人を、悪人を殺し続けている。

 

 裏を取る為に奔走すれば、また別の層でプレイヤーが死に、その噂でもちきりとなる。

 最初こそ、人殺しの代名詞ともされているラフコフを思い浮かべ、恐怖した者がほとんどだったが、それを聞いた、より詳しい事情を知るプレイヤー…第一層の住民たちが一斉に公開した情報によって、その流れは大きく変わることとなる。

 『敵意にのみ反応する』『彼女が斬るのは悪人だけ』『意識は混濁していて、会話はまともにできない』

 その言葉を是とするかのように、実際にアルゴが仕入れ、提供した犠牲者たちの名義と、組んでいたパーティ、そして死後ようやく明らかになった、彼ら被害者の黒い噂。

 最初にあった恐怖は薄れ、畏敬する者すら現れるようになったとも聞く。そのことを、アルゴはキリトの前で、泣きそうな顔をしていたのを、キリトは覚えている。

 キリト自身、信じられないことではあるが、現在のガラクが放つ抜刀、その速度だけで比べるならキリト…いや、あのヒースクリフでさえも上回る可能性があるという。

 尾ひれのついた噂は加速し、圏内にいるプレイヤーの誰かが言った「まるで座頭市」みたいだと。

 実際の所、ガラクはちゃんと目が見えている為、その例えは適切ではない…のだが、細かいことはいいだろう。

 キリトの心配とは裏腹に、どうやら情報によると、《タイタンズハンド》は『辻斬り』の噂などどうでもいいかのように、視線の先で、おそらく次の餌としてキープしていたであろう、ビーストテイマーの少女と、何やら口喧嘩をしているようだった。

 今回メインターゲットであるオレンジギルドのリーダー、ロザリアの顔には、僅かに焦りの表情が見える。

 《タイタンズハンド》のこれまでの手口から推測するに、今回、彼女たちのターゲットは間違いなくあのビーストテイマーの少女…なのは確かだ。

 しかしそれにしては、彼女たちの口論…というより、説得の言葉には嘘が見えない。

 

(目前での仲間割れ…計画外ってところかな)

 

 ここまで()()()()を、彼女たちが見逃すわけがない。

 背中を向けて歩き出したビーストテイマーの少女へ、一瞬見せたロザリアの負の感情。それをキリトは見逃さなかった。

 彼女たちは必ず動く。それを確信し、キリトは彼女たちに見つからないよう、こっそりとビーストテイマーの少女、その行く先をつける。

 そしてその予想は、当たっていた――

 

 

 

 


 

 

 

 

「――そこで待ち伏せてる奴、出てこいよ」

 

 第四十七層。

 死亡した使い魔を蘇生させられる、SAO唯一のアイテム、《プネウマの花》。

 狡猾な彼女たちは、ビーストテイマーの少女、シリカの脱退というイレギュラーにも臨機応変に対応し、こうして目の前に現れた。

 

「ろ、ロザリアさん…?どうしてこんなところに…!?」

「………」

 

 喧嘩別れにも近い形で、パーティを抜けたシリカ相手に、彼女はきっといい感情を向けてはいないだろう。

 そう思ってはいても、それでも尚、理性とは別の感覚が刺激する――違和感。

 シリカが数歩後ずさったのは、きっと本能で、ロザリアが向ける悪意に勘付いたからなのだろう。

 

「その様子だと、首尾よく《プネウマの花》をゲットできたみたいね?おめでと、シリカちゃん」

 

 一秒にも満たなかった。

 視線の中に忍ばせていた悪意を、彼女は隠そうともせず、笑いながら言った。

 

「じゃ、早速その花を渡してちょうだい」

「なっ………」

「そうはいかないな。ロザリアさん、いや――犯罪者(オレンジ)ギルド、《タイタンズハンド》のリーダーさん」

 

 オレンジギルド。その名を聞いたシリカの顔に、驚愕の色が浮かぶ。

 ロザリアもまた、まさかこんなに早くバレるとは思っていなかったのだろう、僅かな驚愕と、そして感心の表情を浮かべて、「少しはやるのね」と、得意げな笑みのまま言った。

 

「随分強気だな、自分の正体がバレてるんだぞ」

「何。まさかアタシがそれだけで、《軍》にでも捕まるって思ってるわけ?」

「いいや。確かにこういう治安維持は《軍》の仕事だ。血盟騎士団なんかはほとんど層の攻略がメインだしな、あんたみたいな木っ端のオレンジに、いちいち人員を割いたりしない」

「だから何?」

 

 ――()は来ていない。

 

「そんなお気楽さで、噂の《辻斬り》にやられてないのが不思議だと思ってな」

「――なにそれ、馬鹿」

 

 その時、ロザリアの顔から笑みが消えた。

 

「馬鹿みたい。そんなの、あるわけないじゃない。ここで人が死んだって、本当に死ぬわけないのに、ここはゲームなんだからさぁ、それでいいじゃん。どうせそいつも、元は他のゲームでも、正義のヒーローぶったガキでしょ。そんなのを頼りにしてるって、それだけで滑稽だわ」

 

 面倒そうに、ロザリアは言った。

 

「で、まさかそれだけ?あんたのそれ、まさかいつかはその《辻斬り》が助けてくれる…なんて信じちゃってるわけ?」

「まさか。そもそも俺の最初の目的はあんた――あんただけだったんだよ、ロザリアさん」

「…どういう意味よ」

「あんた、十日前に、三十八層で《シルバーフラグス》っていうギルドを襲ったな。メンバー四人が殺されて、リーダーだけが脱出した」

 

 キリトの拳が、無意識に強く握られた。

 網膜に焼き付いた、リーダーの男の必死の訴え、そして涙は、きっとこれからも忘れることはない。

 隣に立っていたシリカからも、思わずといった、息を吞み込む音がした。

 殺人。――ラフコフが頭角を現すと共に、その他オレンジプレイヤーにとっても当たり前の選択肢となってしまった、禁忌。

 ロザリアは一瞬、何かを思い出すように首を捻ってから。

 

「……ああ、あの貧乏な連中ね」

 

 眉一つ動かすことなく、頷いて言った。

 ――その時、場の空気が揺らいだ気がした。

 

「…リーダーだった男はな、毎日朝から晩まで、最前線のゲート広場で泣きながら仇討ちをしてくれる奴を探してたよ」

 

 不快感を隠すことなく、キリトはロザリアを真っすぐに見る。

 

「でもその男は、依頼を引き受けた俺に向かって、あんたらを殺してくれとは言わなかった。黒鉄宮の牢獄に入れてくれと、そう言ったよ。――噂の《辻斬り》に頼ることなくな」

 

 辻斬りに頼まなくてもいいのか。

 キリトは一度だけ、リーダーの男にそれを聞いた。

 彼は涙を流しながら、悔しさを滲ませながら、それでは駄目だと。そうはっきりと言った。

 ちゃんと罪を償わせる。

 仮に心が変わらなかったとしても、それで命を奪う行為に走ってしまえば、それでこそ自分は、彼女らオレンジプレイヤーと同じになってしまう、仲間たちに顔向けができないと。

 だから決して、報復で命を奪う依頼はしない。そう言い切った。

 

「あんたに、奴の気持ちが解るか?」

「知らないわよ」

 

 ――ロザリアは変わらず、眉をひそめて言った。

 

「何よ、マジんなっちゃって、馬鹿みたい。ここで人を殺したって、ホントにその人が死ぬ保証なんてないし。そんなんで、現実に戻った時に罪になるわけないわよ。大体、戻れるかどうかも解らないのにさ、正義とか法律とか。…辻斬りとか、馬鹿すぎて笑っちゃうわよね」

「…」

「アタシ、そういう奴が一番嫌い。この世界に妙な理屈を持ち込む、あんたみたいな奴がね――」

 

 ロザリアが指を鳴らすと、それを合図に、道の両脇にあった木々から、次々と人影が現れた。

 ――十。現れたプレイヤー、それのほとんどが、禍々しいオレンジ色のカーソルであり、そしてその中に一人、ロザリアと同じ、グリーンの、特徴的な髪型のプレイヤーがいた。

 シリカはその男を知っている。針山のように尖った髪型は、確かに昨夜、宿の廊下で遠目に見たのと同じだった。

 全身に銀のアクセサリと、サブ装備をじゃらじゃらと身に着け、こちらに向かって、粘つくような視線を向けている。

 キリトの背に隠れ、シリカは震えながら言った。

 

「き、キリトさん…!人が多すぎます、脱出しないと…!」

 

 キリトは大丈夫。とだけ言って、そして橋に向かってすたすたと歩き出した。

 ――彼は強い、だが、この数では。

 そう思うのも無理はない、シリカはキリトから渡された、転移結晶を両手で握り、そして彼の名を――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手前ぇ良屑共波…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…声……?)

「おい、今の誰だ?」

 

 その時、その場にいた全員が、その声を聞いた。

 特に、シリカから見て左側の、木々の陰から出てきたばかりの、オレンジカーソルのロン毛の男が、辺りを見渡して疑問に思う。

 ロザリアも、そしてキリトもまた、動きを互いに止め、その聞こえてきた謎の声に、意識を傾け――

 

「…まさか」

 

 その時、キリトは一体何を見たのか。

 彼の視線の先には、ロン毛の男が、自分の身長に匹敵する、巨大な草むらを前に、じっと視点を合わせているところだった。

 男はその奥に、何を見たのか――

 

「……」

 

 ――ドドドッ!

 男がじっと、草むらを観察して数秒。すぐに片手剣を、、背中にある鞘から抜き、そしてソードスキルを発動。

 細剣程ではないものの、確かな精密さとスピードを兼ね備えた三連撃が、草むらに穴を開ける。

 確認作業の為、そのまま草むらに顔を近づけ――

 

「……?」

 

 ――草むらから、人の指が飛び出し。

 それが男の鼻を、全力で掴んで動きを封じた。

 

「!??――~~ッ!?っ!!!!」

「どうした!?」

 

 突如鼻を掴まれ、そして身動きがとれなくなった男。

 ロザリアは突然の光景に驚き、そして叫んだ。――次の瞬間。

 

 

 

 

「あ」

 

 

 

 

 音もなく、その者は現れた。

 紫のライトエフェクトが、男の首を一閃したと共に、首と胴が泣き別れとなり、無造作に地面に転がった。

 残された一瞬の猶予。ポリゴンの欠片として、そしてアバターが爆散する寸前の、呆気に取られた男の顔が、ロザリアの網膜に焼き付いた。

 

 ――その者は、あまりにも異質だった。

 既に納刀させた刀を、柄の部分を逆手持ちに、まるで傘でも持つかのような姿勢のまま、木々の陰から現れる。

 黒で統一されたスーツと違い。腰まで伸びたその髪。それは全てが白色で、先ほどまで、木々の陰にいたとは思えないような、アンバランスな配色。

 

 ――危険。

 ロザリアも、配下の男も、そしてシリカも。

 その者が放つ――殺気に、心臓がうるさく鳴り響いて抵抗していた。

 

「ぉぉッ!?」

 

 俯き、そして隣に立っていた他プレイヤーに目を向けることなく、その者は歩く。

 その目標地点は――ロザリア。

 目の前を通過された、もう一人の男は、恐怖と反射に従い、その者に向けて、剣を振る。

 

 キィンッ!と甲高い音が響く。

 

 その者――辻斬りが右手を高速で動かし、柄から鞘へと、掴む場所を変えると同時に、その運動を利用し、男の剣を弾いた音だった。

 結果として、ソードスキルの当たり判定はズレて、辻斬りの頭ではなく、そのすぐ隣の虚空を貫いた。

 そのまま、男に対して視線を向けることなく、ノールックで鍔を指で押し、銀色の刃を見せる。

 剥き出しとなった刀身を、トンッと、男の首に押し当て。

 甲高い、クリティカルの発生音と同時に、男の意識が遠のいていく。

 アバターが分解され、ポリゴンの光が――

 

「んだこの…っ!?」

 

 ――カチンッ。

 三人目。

 辻斬りの前に立ちはだかった、オレンジプレイヤーがまた、その首と胴を切断され、死に至る。

 流れるような動作で、そして一切の交渉や抵抗の余地も許さず、その者は静かに、刀を納めて歩き続ける。

 ――その目標は変わらず、ロザリアに。

 

「ひ…っ」

 

 ――向けられる感情は怯えと、僅かな敵意。

 ガラクは目の前のそれに向かって、ゆっくりと歩を進めた。

 




 最近クーラーが快適すぎて朝起きれない()
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