【ソードアート・オンラインRTA】ラフコフ殲滅Any%『■狂者』   作:GARAKU

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 ナタ楽しい


16話.バリアフリー

 アインクラッドの義侠者。

 その存在が知られるようになったのは、ほんの二か月前の話。

 シリカにとっては、それはかつてリアルで経験した『怪談』と呼ばれるものに近い、そんな空の上のような話だった。

 実際、アインクラッドにもちゃんとした怪談は存在する。それこそ幽霊系に分類されるモンスターと、HPをゼロにして死亡した、未練を残したプレイヤーが今も稼働したままのナーヴギアに…といったものだ。

 そんな根も葉もない作り話が既に広まっていたからこそ、()()()が新たに浸透するのは、そう時間はかからなかった。

 

 殺意の体現者。

 

 影も形もなく、ただその恐ろしさだけが語られていた。そんなプレイヤー。

 ――《辻斬り》が、今目の前に。

 

「バラン、トーマ、メル…?」

 

 三人。

 時間にしておよそ10秒。流れるような動作で、辻斬り――ガラクは《タイタンズハンド》のオレンジプレイヤー三人を、あっという間に殺してみせた。

 まるで作業のように、一切の躊躇も、戸惑いもなく、最初からその結果が定められていたかのように、抵抗を許さず、彼らは死んだ。

 一人は首を斬られ、一人は頸動脈の部位を、剣撃のクリティカル判定による一撃死を、最後の一人は神速の居合、抜刀による胴体の両断を。

 カチンッ。その音が聞こえた時には、既に次の目標へ――

 

「ひっ…」

 

 ロザリアの顔に、今日初めて青い色が浮かぶ。

 昨晩、シリカたちの会話を宿で盗み聞きしていた、針金のように尖った髪型をしたグリーンプレイヤーに関しては、既に抵抗する意志をなくし、腰を抜かしている。

 濃密な殺気が、辺りに充満している。

 直接それを向けられているわけではない。だというのに、シリカも腕が震え、息もまともに吸えないくらいには、《辻斬り》の持つ異質な気配に呑まれていた。

 

手前ぇ良全員殺

 

 カチッ――

 再び、銀色の刀身が露わになる。

 順手で掴んだ柄から先、無機質な刀の暗い光が、直線状に輝きだす。

 抜刀。

 ――神速の居合による、死。

 ロザリアの加速される思考速度は、今も固まったままの肉体とは裏腹に、ガラクが掴んだ刀の動きが、しっかりと鮮明に認識できた。

 死――

 

屑共

 

 ビュンッ!と、風を切った音がした。

 刀を掴み、そして一気に振り抜いたガラクの目線。そこにいたのはロザリアではなく、短剣。

 ガラクは一瞬の間に、目の前にいたロザリアに向けてではなく、己の背後、死角から襲い掛かってきた()()に対し、抜刀。

 静止した刀身の真上では、緑に濡れた、麻痺毒が仕込まれていたであろう短剣が、真っ二つになっていた。

 それを投げたのは――

 

之ぶ利だ奈…

 

 

 

 

 ――片手剣専用ソードスキル《ヴォーパルストライク》。

 単純明快、相手に単発の重い突きを放つその技が、空中でライトエフェクトを纏った黒剣――《エリュシデータ》によって炸裂する。

 空中という、ソードスキル発動の為のモーション制御が難しい場所でありながら、キリトは華麗に、空中で回転を加えながら放つという離れ業を披露。

 ガラクの胴体目掛けて走る《ヴォーパルストライク》が、咄嗟に潜り込ませたガラクの刀身《オーダー》によって防がれ、ダメージを与えるには至らない。

 しかし、例え刀の側面で受け止めたとしても、その分のノックバックは避けられない。

 ギシリ…と鈍い音を立てた次の瞬間、ガラクの肉体は凄まじい速度で木々の向こうに吹っ飛び、その姿が見えなくなる。

 そして、僅かな間静寂が訪れた。

 オレンジプレイヤーを攻撃した場合、システムは正当防衛と見なし、グリーンプレイヤーのカーソル色は変化しない。

 一瞬しか見えなかったが、シリカから見てあのプレイヤーは…ガラクはオレンジではなくグリーン、つまり彼女を攻撃した場合、こちらのカーソルが――

 

「キリトさ…」

「――シリカ!その場から動くな!」

 

 今まで一度も見せたことのない、本気の叫びだった。

 その剣幕に、シリカは思わず息を呑む。

 ――次はどう来る…!

 先ほどの10秒程度の動き、その一切容赦のない殺人を見てわかった。

 あれだけで、キリトは今のガラクが持つ実力――そして脅威をこれでもかと理解した。

 人斬り三段、という言葉がある。

 その言葉が意味することは、例えどんな刀の素人だろうが、一度人を斬り殺した経験のある者は、他の者と比べて一切の()()()がなくなり、その結果として、剣道でいうところの三段に匹敵する強さを発揮できる…というものだ。

 そして先ほどのガラクの動きは、見ただけでもわかる。既に()()()も斬った動き。

 たとえオレンジになろうとも、カルマ浄化クエストを地道にこなせばそれでいい。

 全力で、そして少しの油断もなく、キリトは目前の木々、その影に視線を向けていた。

 

「あ…あんた」

「黙れ」

 

 後ろで腰を抜かしたロザリアを、冷たく突き放す。

 《シルバーフラグス》のリーダーだった男、彼からの依頼は、ロザリアを中心とした《タイタンズハンド》の連中を、黒鉄宮の牢獄に送り、罪を償わせること。

 

「勘違いするなよ。お前を助けるわけじゃない、お前をちゃんと黒鉄宮に入れるためだ」

 

 たとえ悪人だろうとも、殺してしまえば同じ穴の狢。

 強く剣を握り、そして瞬きすらも忘れて、キリトは迎撃態勢を取る。

 ――瞬間。

 

「――ッ!」

 

 ――来た。

 長い白髪が風に揺れ、視界に白い直線の残像を刻む。

 その光は、キリトの正面数m辺りに到達した瞬間、更に速度を上げ、キリトの死角を攻めるように、より鋭く、より速く接近する。

 あまりの移動速度に、アバターを構成するポリゴンがブレる程に。

 咄嗟に。キリトは後方へ力強く跳ぶと共に、背後にそびえ立っていた大木を、壁走り(ウォールラン)の応用で駆け上がる。

 

 ――ゾンッ!と、重い斬撃の効果音が響き渡る。

 

 空を斬ったその刀、《オーダー》が放つ黒く、重い輝きを見たキリトは、今のガラクが所持している武器が、最前線に立つ攻略組の誰もが並べぬ程の、高レアリティの武器であることを察した。

 刀を振り、そしてその刀身を再び鞘に納め――

 

「シッ――」

 

 その隙を狙い、キリトは上空から木を蹴って加速し、右手に握った《エリュシデータ》を振り下ろす。

 ソードスキルの補助はないものの、キリト自身の筋力値に裏付けされた、壁蹴りによる加速は正に神速で、1秒にも満たぬ一瞬の間に、キリトの剣撃が炸裂する。

 しかし、それを意味する効果音はガチンッ!という、金属同士がぶつかった音であり――

 

 チャキ―― 

 

 左手に握っていた鞘を、地面に突き立てることでその場に固定し、しゃがみ込む。

 それだけで、キリトの振り下ろした剣は、ガラクの身体に当たる直前に、鞘で食い止められてしまった。

 その隙に、残る右手にある《オーダー》の刀身が、ギラリと怪しい光を放ち。

 ザンッ!と凄まじい轟音を立て、キリトが先ほどまで立っていた場所、そしてその背後にあった大木が、縦に真っ二つ、両断された。

 

知ょ己末加止

(一年前のあの時(三層攻略時)より…)

 

 ――強い…!

 凄まじい程の反射速度、そして躊躇のない斬り。

 今もこうして、()()()()()()()()キリトを優先し、ロザリアたちのいる方には一切目を向けていないその姿。

 まるで機械のように、淡々と人を殺す仕草といい、やはり不気味としか言えない何かを、キリトは感じていた。

 

 殺人マシーン。その言葉が不意に脳裏をよぎる。

 

 《エリュシデータ》と《オーダー》、武器種こそ違えど、同じモンスタードロップの魔剣、黒剣の戦い。

 チャキ…と、刀の重音が聞こえたその瞬間、キリトは反射的に、横薙ぎの一閃を繰り出していた。

 その予想は当たっており、目の前には、数mはあった筈の距離を、再び瞬きの間に縮め、加速して接近するガラクの姿。

 だが残酷に。その次の予想は外れ、ガラクはその場で宙に跳び、身体を横にしスピン。

 キリトの横薙ぎを交わすと共に、回転を加えた刀の突きを――

 

「っ…!」

 

 ドッ――と鈍い音と共に、キリトの背後にあった大木に、日本刀が深く突き刺さる。

 否。それは最初だけで、すぐにキリトの横幅の二倍はあるであろう大木が、日本刀の突きで切断され、倒壊。

 下手な反撃や攻めに移らず、じっとキリトは、ガラクの左手にある鞘を見る。

 ブツブツと、再び何かを呟きながら立ち尽くすガラクは、右手の刀を鞘に納め。

 カチンッ――

 

(ガラクは数回の斬撃のあと、刀を鞘に納める癖がある)

 

 ――その瞬間、キリトの身体は加速していた。

 日本刀、それも抜刀の際に最も重要とされるのは、踏み込みの足、そして何より鞘。

 今まで見せなかった、全力の滑走でキリトは、ガラクの肉体ではなく、その左手に握られた鞘――そこに向かって突きを放つ。

 選んだ技は、再び《ヴォーパルストライク》。

 今度こそ、システムによってアシストされた超常的加速により、キリトの攻撃が先に届く。

 仮に届かなかったとしても、ガラクの持つ刀の柄と、キリトの突き出す剣先の距離は、およそ数十cmであり。もはやここから、鞘から刀を抜くための加速動作は行えない。

 

(抜かせる前に止める…!)

 

 だが――

 

………

 

 

 

 

 ――ビュンッ!

 

 

 

 

「あ」

 

 キリト――桐ヶ谷和人は昔、幼少期に剣道を経験した過去がある。 

 たとえ二年でやめてしまったとしても、インターネットの世界、電子の海を探れば、嫌でも関連した情報が、何よりその映像が流れ込む。

 まるで走馬灯のように、キリトの脳内ではいつかのある日。パソコンの画面で流れていた、ある剣術の動画が再生された。

 

 視線の先。ガラクの居合の体勢はそのまま。

 しかしその左手に鞘はなく、右手に握る刀と、その刀身は剥き出し。

 ――先ほどまであった鞘は、ガラクの背後で、凄まじい速度で飛んでいた。

 

 刀を抜くスペースを失い、居合の加速ができないガラクがとった手段。それは刀を鞘から抜くのではなく、鞘を刀から抜くことによる抜刀。

 実際、アインクラッドのシステムによるものとは違う、本物の剣術の中にも、正座の姿勢から、鞘を地面の上で滑らせ、刀身を剥き出しにして斬りかかる技がいくつかある。

 数年ぶりの、それこそ、こんな仮想世界で、達人が見せるような本物の技が、今こうして己に襲い掛かり――

 

「マジか…!」

 

 咄嗟に回避し、大げさなバックステップで距離を取る。

 それはガラクも同じで、地面の窪みに引っかかり、空中に跳ね上がった鞘を回収する為か、ガラクもキリトと似たような動きで、バックステップと共に鞘を左手でキャッチし、そして構える。

 右手の刀身を納め、再びいつでも居合を放てるよう、鞘の部分を掴んだあと、俯いて動きを停止する。

 ――乱戦は、まだ続く。




 キリト
二刀流封印&ロザリアを庇うように位置取りに苦労しているため流石に苦戦。
多分普通の状態なら勝てるかも。VRの申し子は強い。
 
 オーダー
隠れ仕様として、一定のカルマ値を持ったプレイヤーを斬っても自分はオレンジにならない、代わりに自分はどれだけ攻撃されようとも相手はオレンジにならない、という仕様がある。
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