【ソードアート・オンラインRTA】ラフコフ殲滅Any%『■狂者』   作:GARAKU

22 / 25
 サカデイ19巻にて篁さんの主食がチョコレートだと判明。
 ちなみにチョコレートには認知症(ボケ)の予防効果があるらし/


19話.タカムラ

 空気が冷えていた。

 勿論、ここはあくまでもVR…仮想で作られた偽物の世界である為、本物の冷気や、風の感触がある訳ではない。

 あくまでも、これは作り物の感覚…偽物の世界の筈だ。

 だというのに、この冷たさは何だ?

 

「…………」

 

 ――2024年の8月。

 この日、この場に集まっている者の数、そしてその質は、今までの例に当てはまらない程の、大規模なものであった。

 《血盟騎士団》、《ドラゴンナイツ・ブリゲード(DKB)》アインクラッドの頂点を争っている、二つのギルドが、こうして一つの場所に集まっている。

 その目的は、たった一つ――ラフィン・コフィンの討伐。

 和解の道は断たれ、これ以上犠牲者が出るよりも、本格的な階層攻略、その妨害が無視できないレベルに成長した為の、最後の手段だ。

 あまりにも、あまりにも遅いとしか言えなかった。

 今日この日までに、何人のプレイヤーが、彼らの手によって殺され、現実世界で、ナーヴギアに脳を焼かれてしまったのだろうか。

 一度タガが外れてしまえば、まるでウイルスのような速度で、それに釣られて悪行を重ねる者も生まれてしまう。

 結果として、キリトにとっても印象が深い、《タイタンズハンド》のような連中が生まれたのも、元をたどれば、ラフィン・コフィンのせいとも言える。

 殲滅ではなく、討伐。

 相手は人殺しだ、だからこそ、彼らはSAOにおける罰を、そして唯一の手段である、黒鉄宮の牢獄へ、彼らを投獄する。

 ――準備は万全の筈だ。

 だというのに、この――

 

「キリトくん」

 

 ()()の声が聞こえた。

 振り返れば、やはり彼女も、この異様な空気を察し、気分が優れていないのだろう。

 普段見せる、はにかんだ笑顔はどこにもなく、落ち込んだような、そんな空気が纏わりついていた。

 

「大丈夫、なんだよね…」

「…あぁ」

 

 漠然とした不安を抱えたまま、曖昧にそう返す。

 目の前にそびえ立つ、コンクリートを思わせるような、灰色の無機質な壁と、巨大な門。

 民家のような細かな装飾もなく、それこそ城のような大きさもない、とことん質素な作りのアジト。

 ゲーマー用語で、豆腐建築と揶揄されるような、そんな形の建築物を前に、続ける。

 

「情報の伝手も、《血盟騎士団》の諜報員から…それも最古参だって聞いてる。他のギルドならまだしも、あそこのなら信用できるさ」

「それは…そうだけど…」

 

 未だ不安の残る声で、アスナはそう言った。

 だが、口では大丈夫だと断言しても、一抹の不安があるのは確かで。

 キリトは、顔にこそ出さなかったものの、内心では懸念を抱いていた。

 

(ガラクは来るのか……?)

 

 彼の脳裏に過ったのは、正気を失い、理性を放棄して人を殺す、殺人マシーンと化した彼の姿。

 最後に出会ったのは、《プネウマの花》を手に入れる為に訪れた、第四十七層が最後。

 あれ以来、キリトはガラクの姿を見る機会がなく、目撃情報の一切が途絶え、消息を絶った状態になっている。

 だが、それでも変わらずSAOプレイヤー…PKを今も尚続けるオレンジプレイヤーや、ラフコフに所属するプレイヤーの死亡情報が、止まることはない。 

 彼は今も、あれから変わらず人を殺し続けているのだ。

 ただ己に向けられる、敵意に反応して――

 

 ――ガラクがあの人格を制御できるようになることは無い。

 

 彼の中にいた、もう一人の人格(アスナ)の、あの言葉を思い出す。

 何故、あれほどの強さを突然手にしたのか、言語能力を失ったような、幽鬼のような立ち振る舞いも。

 合点が行くと同時に、思う。

 

 ――どんな武器を使うか、どんな戦い方をするか…()()()()()()()()()()()()

 

 過度なストレスによる、苦痛を引き受ける為の発作。

 これまでに知った、相手の趣味嗜好や一人称、そして動作を事細かに記憶し、それらを組み合わせることで生まれる、限りなく本物に近い人格。

 確かに、彼の凄まじい記憶力と模倣能力なら、戦闘に関する情報のみに絞り、それで人格を作った場合、あのようなものが生まれるのも納得する。

 だというのに。

 

(何だ、この違和感…)

 

 ――違和感。

 得た情報は一応、アルゴを通して《血盟騎士団》にも通した、これはとっくに過去の話だ。

 あれ以来、キリトは一度もガラクと出会うことなく、こうして既に、討伐作戦が始まっている。

 だというのに、今になって何故か、あの言葉が記憶の底から蘇ってきたのだ。

 隣に、本物のアスナがいるからだろうか?

 それとも、これから相手をするラフコフ所属のレッドプレイヤー達、それを相手にするという共通点から、必然的にガラクを思い出したからだろうか?

 ――それとも……

 

「…行くぞ」

 

 その時、《血盟騎士団》の男が一人、静かに声をかけた。

 よく見れば、既に自分と同じように、他のプレイヤー達は既に、武器を手に、緊張を滲ませた顔のまま、アジトの方を見ていた。

 討伐といっても、その主な目的は無力化。そして捕縛だ。

 ここにいるのは、並のSAOプレイヤーではない、常に最前線を走り、レベルもプレイヤースキルも平均値から逸脱した、優れた戦士たちだ。

 今この場において、明確な上下関係というものはほとんど存在せず、強いて言うならば、アインクラッド最強とも名高い、かの《血盟騎士団》団長のヒースクリフくらいだろう。

 だが彼は、まるで緊張などしていないとでも言わんばかりに、オーバーリアクションな節のあるSAOの感情表現システムにも引っかからない程の、仮面のように冷徹な無表情であった。

 てっきり、彼が突撃の合図をするとでも思っていたのだが、どうやら思い違いだったらしい。

 それとも、SAO攻略を第一にしている彼にとっては、ラフコフ討伐など、最初からそこまで関心がないのか――

 

「――突撃!」

 

 ヒースクリフの隣に立っていた男が、一際大きな声を上げて、突き進む。

 それの熱気、使命感とも呼ぶべき感情に酔い、または釣られて、キリトたち以外の、討伐戦参加メンバーは、武器を掲げて、少しずつ移動速度を上げていく。

 距離にして、それはたったの1m。

 先陣を切った彼は、勢いよく、夜更けなのもあって、油断しているであろうラフコフの一員に、一泡吹かせようと突き進み。

 扉を開けて、一歩踏み込んだ途端。

 

「――え」

 

 ――赤いライトエフェクトが迸った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――急襲の筈だった。

 彼らのアジトの情報を必死で掴み、決して少なくない数の犠牲者も出た。

 だからこそ、絶対に失敗してはいけない筈だった。

 

「ッ待ち伏せだ!」

 

 誰かが叫ぶ。

 だが次の瞬間には、耳を劈くような悲鳴が響き、忌々しい、あのHPが全損する音が聞こえた。

 視界の隅で、誰かがポリゴン状に分散していくのが、見えたような気がする。

 勇ましい、最初に突撃を開始した男は、もうこの世にはいない。

 今頃とっくに、現実世界でナーヴギアによって脳を焼かれ、死亡判定が下されているだろう。

 

 ただ、人が死ぬだけならば。

 ――ただHPがなくなり、死ぬのを目撃するだけなら、既に経験があった。

 

 だが、今の彼らにとって、最も恐ろしい現実とは――同じ人間が相手だという、その一点のみ。

 最初こそ、何とか落ち着きを取り戻し、彼らの待ち伏せに対抗しようと、剣を振るっていた。

 ――しかし、その抵抗が成り立っていたのは、最初だけ。

 

「殺せ殺せ!」

「落ち着け!俺たちの目的はあくまでも無力化だ!」

「やめろ…やめ――」

「お前らぁ!いっそこいつらを全員返り討ちにしてやれ!」

「や――」

「ッハハハハハハハァ――ッ!!」

 

 討伐部隊の人間は、皆彼らを無力化、もとい捕縛する為に弱らせる必要がある。

 使うソードスキル、そして斬りつける身体の場所も、クリティカル判定が比較的発生しない、胴体や脚といった部分のみ。

 首を落とせば、彼らは致命的な部位欠損の判定によって、死亡する。

 つまり、慣れない手加減をしなければいけないのだ。

 

「ッ、あ…ああぁ…っ」

 

 落ち着きなど、既に瓦解していた。

 そんな彼らとは正反対に、ラフコフに所属する全ての人間は、既に理性の枷を外している。

 相手を思い、手を抜いている討伐部隊とは全くの逆。彼らは全員、本気で殺すつもりで、そして自分が最悪、死んでもいいとさえ思っている。

 その狂気。殺意に身を任せる暴虐によって、次第に拮抗は崩壊し。

 一人、また一人と、討伐部隊のメンバーが、死んでいくのが見えた。

 

「あ…」

 

 また一人。

 

「あ、う…ぁぁ」

 

 また一人、二人が死ぬ。

 

「あ、嗚呼、ああッ――」

 

 ――まさしく、地獄。

 

「ッああっああああああああ――っ!!??」

「死にたくな――」

「助けて…!助けてお母さ」

「うわああああああッ!!!」

 

 ――それは、間違いなく地獄絵図だった。

 使命感、自信。彼らの理性を保護していた数々の感情が全て、『恐怖』に塗り替えられる。

 ソードスキルや、陣形といった戦い方の基礎すらも忘れ、彼らは一斉に、ただ「死にたくない」という言葉の下に、武器を振るう。

 例えダンジョンの最奥に足を運んでも。

 どれだけレベルを鍛えようと。

 どれだけ鋼の意思を装っても――その本質は、ただの人間。

 それも、子供なのだ。

 

「ッ――!――――――」

 

 言葉にならぬ咆哮。

 キリトもまた、彼らの狂気と、生存本能による嘆きと叫びに呑み込まれ、剣を振るっていた。

 一人、彼の身体を斬りつけた者がいた。

 その敵意に反応し、キリトは無我夢中で、躊躇なく、その攻撃をしてきた者に対し、反撃。

 圧倒的なプレイヤーレベルと、武器性能によって、するりと首が切断され、落ちる。

 一人、死んだ。

 否。――殺したのだ。

 死にたくないという、ただそれを一心に思い、その結果、彼らと同じ、人殺しのステージに落ちた。

 カーソルは、変わらない。

 オレンジプレイヤーは、どれだけ傷をつけようとも、カーディナルが正当防衛と見なし、グリーンカーソルが変色することはない。

 システムによって許された、自己防衛の殺人。

 それを悔やむよりも前に、キリトはもう一度、己の背後から攻撃を仕掛けてきた男の、心臓を一突きし、殺す。

 もう、意識などとっくに――

 

「殺せ殺せェ!」

 

 叫ぶ。

 ラフコフもまた、もう止まらない状態で、暴れ続けていた。

 己の死にすら酔って、どこまでも殺人を求め、暴れ狂う彼らの狂気に押されて、戦場はカオスを極めていた。

 もう、言葉では、誰にもこれを止めることはできないだろう。

 ヒースクリフですら、この乱戦を静かにいなしながらも、事を流れに任せているようにも見える。

 言葉を忘れ、獣のように暴れ狂いながら戦いを続ける彼ら。

 その動きが――

 

 

 

 

「――無理無理!」

 

 止まった。

 

 

 

 

 戦場に、沈黙が降りる。 

 皆の視線は、キリトたちが突入を開始した場所とは正反対の、窓から飛び込むように、部屋に転がり込んできた男。

 ――黒ポンチョ。

 その侵入者の正体に、キリトを含む討伐部隊、そして何より、ラフコフのメンバー全員が、驚いた顔をしていた。

 黒ポンチョの男。――PoHは、背後を見る。

 

「生きていたか」

 

 普段の彼らしくない。

 その声に込められた感情は――僅かばかりの■■。

 その視線が射抜くのは――もう片方の、無機質な扉。

 

「――殺意の亡霊」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――キンッ

 破壊不能に設定されていた筈の、部屋の扉。

 その鍵穴を突き破るように、刺突によって、シリンダー部分が消し飛び、カランと床に転がった。

 突き出しているのは、日本刀の切っ先。

 

 ――スー…

 まるで豆腐を切るかのように、滑らかに刀身が動く。

 扉を斬り続け、その刀身はついにドアノブに到達した。 

 が、ドアノブは切断されることなく、刀身の側面によって、一切傷を付けることなく、器用にドアノブは捻られた。

 

 ――ギィ…

 扉が開く。

 影により、最初は姿が見えなかったものの、その場に居た者全員が、察した。 

 "彼"は、決して手を出してはならない存在だと――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

此乃仁波可之知ぁ安於計禰ぇば加利

 

 辻斬り、入室――




 続きは明日です。
 次回予告――「■狂者」。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。