【ソードアート・オンラインRTA】ラフコフ殲滅Any%『■狂者』 作:GARAKU
RTAパート「実況がー!実況要素そのものがー!」
「ったくこの世には……」
明確に向けられる、純粋に煮詰まった殺意の怒り。
「生かしちゃおけねぇ」
最後に、モルテの視界に移ったのは。
「――クズばかり」
両断された、己の下半身が飛ぶ光景。
チンッ――
一人、またガラクによって殺された。
たとえ悪人だろうと、人殺しを楽しむような連中相手だろうと、決して踏み越えてはいけない一線。
それを踏み越え、蹂躙し、それでも彼らは、ラフコフや攻略組も共通して、彼と過度な接触をしようとはしなかった。
何故なら、彼は
だから彼を、プレイヤーの大半…それこそ第一層にいる者たちは、恐れなかった。
危害を加えなければ、敵意を向けさえしなければ、それでいい。
「………………ぁ」
その声は、誰が漏らしたものなのか。
刀を抜き、いともたやすく、プレイヤーの身体を両断した彼は、俯き、目を前髪に隠して立っている。
鋭利に輝く、刃物の如きその気配。
だが、先ほどの変貌。覚醒とも呼ぶべき進化と、そして最悪の種明かしによって、今この場を支配しているのは――恐怖。
機械的な何かでもなく。
ただ本能のままに、地を流離う亡霊などでもなく。
彼は、一人の人間だった。
己の意思で、明確な殺意を抱き、殺す人間――
もはや、正体が知れた今の彼から、逃げようと思う者などいない。
それどころか、本来なら敵ではない…『悪』のカテゴリに入っていないキリト達ですら、その背筋に、冷たい予兆が走るのを感じた。
カチンッ――
再び、彼の手に握られた、殺戮の兵器が音を上げる。
それが次に、向けられる先は――
「手前等全員」――テメェら全員――
――この場にいる、全ての《ラフィン・コフィン》の一員。
「殺寸」――殺す――
「ッあ――」
最初に、悲鳴を上げたのは、不幸にも彼の直線状にいた男。
彼は抵抗も、己に襲い掛かる"死"に対しての恐怖すら、満足に抱くことができず、貫かれる。
捉えたのは首。――そのまま、横に一閃し、アバターの頸椎に当たる箇所の半分以上を破壊。
クリティカル判定も追加され、HPカーソルは一瞬でゼロになり、消失。
――だが。
「あ、ッ、くがァあああ"ああ"あ"――ッ!!!!」
思わず耳を塞ぎたくなるような、あまりにも痛々しい悲鳴だった。
相手は人殺し。今までに傷つけ、殺し、重ねてきた罪の数々は、一つや二つではないだろう。
だが、仮想世界でなければ、血を吐き出しているであろう、その張り裂けるような叫びに、思わず憐憫の意が湧いた。
そもそも、アインクラッドは圏外、そして圏内エリアだろうと関係なく、常にペインアブソーバーが働いている。
これのおかげで、たとえアバターが欠損しようと、斬り付けられようと、あくまでも鈍痛や痺れる感覚が走るだけで、現実の痛みには到底及ばない。
だが、彼のこの叫びはなんだ?
まるで、
彼の悲鳴は、数秒も持たなかった。
本来よりも早く、アバターの消失反応が始まったことで、彼が痛みを叫び切るよりも前に、完全にこの世界からログアウトしたのだ。
――最も、ログアウトしたところで、彼に"生"の望みは存在しない。
仮想世界を塗り替える心意、怒りの波動に呑み込まれ、100の力で伝わる斬撃の痛みによって、彼は現実世界で、
たとえ、奇跡的に息を吹き返す可能性が残されていようとも、SAO本来の隠された仕様である、ナーヴギアによる脳の破壊が、万が一を完全に消し去っている。
つまり、詰みだった。
それを嫌と言う程に思い知らされ、残された者たちは、呆然とする。
そして、ガラクが再び動き――
「あ、ぁ……」
――自分たちは、どこで間違えたのだろう。
視界の隅々で、もはや残像しか残さない程に煌めく斬撃の雨。
部屋の中を、四方八方に走る白い幾千の剣跡。
まるで雨のように、絶え間なく視界に焼き付くものが、一人のプレイヤーが
ガラクのアバターを構成するポリゴンは、常にブレ続けており、カーディナルがエラーを引き起こしている。
それが腕を、首を、胴体を時に、武器や防具ごと断絶し、宙を舞う。
ショッキングで、そして無常な光景ではあるが、これでもまだ、仮想世界だからマシなのだ。
もしも、これが現実世界で行われていたとしたら――辺りは血と臓物で、真っ赤に染まっていただろう。
彼が持つ異次元の強さ。
確かに恐ろしい。実際に何度も、自分たちは彼らに邪魔をされ、何度も何度も仲間を殺された。
しかし所詮は、それはある程度いなせるだけの、対処法を知った怪異のようなものでしかなかった。
だが、それが何もかも間違いだったのだ。
偽狂者は、彼はずっと、自分たちに対し、明確な殺意を抱いていた。
「あ――」
一閃。
速度が落ちることはなく。
むしろ、人を殺せば殺す程、その太刀筋はより洗練され、無駄が更に無くなっていく。
――成長している。
彼の変貌、そして自我の有無の真実を知った者たちは、その事実に戦慄し、息を吞む。
――彼は、今も尚強くなり続けている。
一足先に逃げようとした者は、後頭部から目にかけてを貫かれ、絶叫して死亡。
仲間を盾に、必死に身を隠していた者は、盾にされた者と一緒に、仲良く首を落とされて死亡。
あまりにも容赦のない、そして理不尽としか言えない殺戮を前に、キリトを含む、討伐部隊のメンバーは全員、言葉を失っていた。
30人以上いた筈の部屋には、もう三人しか残されていなかった。
PoH、ジョニー・ブラック、そしてキリトと向かい合う位置にいた、赤眼のザザ。
それ以外の幹部、そして木端のラフコフ一員は全て、ガラクによって殺された。
「――ハハッ」
笑い声が聞こえた。
ジョニー、そしてザザ。残された二人だけが、その声に込められた、普段の彼らしくない感情に、気づく。
「HAHA…そーかよ」
強いのは確か。
だが結局は、心が潰れた狂人に過ぎない。
以前まで、PoHにとっては、ガラクとはその程度の、それほど興味を惹かれない、むしろ軽蔑する部類の人間に過ぎなかった。
もはや愛に匹敵する、キリトに向ける同種意識、そして執着に劣る、厄介なものに対する嫌悪。それだけだった。
だが違った。
まんまと、自分たちは騙された訳だ。
――ここまで、真っすぐに自分を
「――最高だぜ、ガラク」
PoH――ヴァサゴ・カザルスはこの時。
産まれて初めて、キリト以外の人間に対して、同種のような親しみを覚えた。
それは両者が互いに向ける、怒りと憎悪のベクトルが、似ていたからかもしれない。
ガラクはクズを、ラフコフを含む全ての悪人を。
PoHはラフコフすら、東アジアの人間を蔑み、嫌う。
決して相容れないからこそ、互いにぶつかり合い、化学反応を引き起こす殺意の波動。
PoHが一歩、前へ進むと同時に。ガラクも動く。
ヴァサゴ・カザルスは知らない。
キリトに対して己が向ける感情。それは憎悪をぶつけ、汚したいという嗜虐心だけでないことを。
――キリト、桐ヶ谷和人の横顔がかつて、一度だけ見た、腹違いの己の兄に似ていたことを。
――走馬灯。
そう呼ばれる現象が、一歩前に出た途端、彼の脳裏に迸った。
ヴァサゴ・カザルスは知らない。
自分が今、ガラクに向ける既視感が、キリトに向ける感情とは違うことを。
――十数年前に、任務に関わらない、己の目に留まったことを理由に、殺した人間。
――自分が
斬り合いは、数秒しかもたなかった。
鉄砲玉扱いとはいえ、犯罪組織に身を置き、数え切れない程の人間を殺して来た彼が、まるで赤子の手をひねるように翻弄される。
モンスターを斬るとスペックがダウンし、プレイヤーを斬るとスペックアップする《魔剣》である
それはPoHの愛用武器でもあり、何十何百とプレイヤーを斬り続けてきたことで、その単純な斬れ味は、アインクラッドでも最強レベル。
だというのに、その全てが技術で、自分よりも遥か上の『殺意』に圧倒される。
ありえないことだった。
何の経験もない、銃すら持ったことがない日本の餓鬼相手に、自分が何もできていない。
こちらが動くよりも前に、彼は既に行動を終えていて、気づいた時には数か所、庇い切れなかった箇所に傷を負う。
HPカーソルがどんどんと減り、それどころか、何のカラクリか彼は、自分に対して『痛み』を与えてくる。
システムすら上書きし、剣を振るって傷と痛みを味合わせるその姿。
乾いた笑いが零れてくる。
段々と近づく『死』に対し、恐怖など抱く筈もない。
ただ、呆れて笑いしか出てこないだけだ。
次第に、PoHの動きを全て"見た"ガラクにより、その均衡が崩れ始める。
反撃と防御。そんな戦いの基本が、もはやただの足掻きに変わり、敗北まであと一歩…そんな時だった。
ガキンッ!と、一際鈍い音が走る。
真っ二つに折れた
この時、自分が抵抗などできていなかったことを、PoHは知った。
何度も何度も、ミリ単位で衝撃を加えられた一点に、今までのダメージが蓄積していたのだろう。
自分が必死で武器を振り回し、いなしていたと思っていたのは全て、彼の予想通り。
むしろ自分は、ガラクの思い通りに、まんまと武器を必要以上に消耗させ、《武器破壊》の手助けをしてしまっていたのだ。
――刹那。打ち上げられたPoHの身体、喉をガラクが貫く。
待っているのは、『死』――
「――ハッ」
喉を焼かれるような、想像を絶する痛みの中、PoHは笑っていた。
まだ動く。
まだ動ける身体を、腕を手繰り寄せ、ガラクの持つ刀を掴み、身体に力を込め、空中に固定。
そして、宙を舞う己の愛武器である、
「――くたばれ
アバターが消失する寸前。
PoHは、己が口に咥えた武器の破片を、一気にガラクに向けて解き放つ。
それは文字通りの、正真正銘の捨て身攻撃であった。
武器を抑えられ、まさに1秒後、この世界から完全に消える筈の彼が、最後の足掻きとして残した遺恨。
それは皮肉にも、未来で《閃光》の名を冠する少女の為に戦った、黒の英雄と同じもので――
「………」
初めて、ガラクは傷を負った。
右目に走る、赤いライトエフェクトと、彼のHPカーソルの上に立つ、欠損アイコンがそれを物語る。
PoHのアバターが、そして彼が最後まで手にした
「…………嘘、だろ」
その言葉を零したのは、《血盟騎士団》の衣装を身に纏う、傍観していた男の一人であった。
一言。だが今この現状を表す、様々な意思や複雑な感情に相応しい言葉は、これしかないだろう。
アインクラッドを恐怖に陥れた、全ての元凶の呆気ない最後。
あれだけ厄介だと思っていた、人殺したちを難なく殺す、それ以上の殺人鬼。
――だが、彼は違った。
「………――」
――今にして思えば、もっと早く気付くべきだった。
何故、自分たち討伐部隊の襲撃時間が、こうもピッタリ予想され、迎撃されたのか。
冷静に考えれば、答えにたどり着ける筈だった。
自己防衛とはいえ、プレイヤーを殺した焦燥。
目の前で起こった、見るに堪えない殺人と絶望の叫び。
これらが、キリトを含む、彼らの判断力を奪っていた。
チンッ――
「あ"、っ」
一閃。
間を空けることなく、再び鳴り響く刃物の音。
それが意味する事、それ即ち、彼がまた動き、人を殺したこと。
そしてその標的は――《血盟騎士団》の一人。
ガラクが殺すモノ。
それが意味すること――内通者の存在に、錯乱している彼らは気づけない。
「――ッ!?」
未だ落ち着きを取り戻せていない彼らは、それへの反応が遅れた。
一人、その首が地面に落ちるよりも前に、ガラクは次の行動に移っていて。
再び、刀の切っ先をもう一人の
「――ッやめろガラク!」
「ッ!」
その寸前、二つの影が左右から襲い掛かる。
チャキ――
再び抜かれる銀色の刃と、左手に持つ鞘が宙に線を刻む。
その軌跡がそれぞれ、キリトとアスナの両手首を打つ。
(コイツ……!やっぱり最初と比べて…!)
僅かに仰け反り、生まれた時間で、彼は刀を逆手持ちに切り替える。
右手に持つ逆手持ちの刃が、キリトの持つ《エリュシデータ》の側面を正確に狙い撃つ。
左手の鞘は、アスナの持つ《ランベントライト》の持ち手を打つ。
そのどれもが、死角から襲い掛かっている攻撃が相手なのにだ。
こうして斬り合いを続けている間にも、彼は無限に成長する。
その悲しい才能を相手に、少しでも時間を稼げるよう、必死だった。
身体を前後反転させたガラクは、右側から襲い掛かる、《ランベントライト》による神速の尽きをいなす。
刀の柄を使い、下から細剣の側面を擦り上げるようにして、刺突のベクトルを逸らしたのだ。
同時に、左手の鞘を使い、彼は残る脅威――キリトの顎を正確に狙い撃ち、頭を揺らす。
「手前可…」
連撃を全ていなし、生まれた僅かな空白を狙って、ガラクが疾走する。
再び、あのアバターを構成するポリゴンがブレる程の超加速。
それの勢いに身を任せ、彼は今、意気消沈するジョニー、そしてザザよりも更に上。
今、この場にいる最大の『悪』に向かって、義侠の刃を向けていた。
――刀と、盾がぶつかる金属音が鳴り響く。
「殺寸」
「――ほう」
彼の次の標的は――
実は主人公の母は、過去PoHに殺されてたりする。
なので本人は気づいていないが、これで復讐は達成。
次回(明日)最終回。