【ソードアート・オンラインRTA】ラフコフ殲滅Any%『■狂者』   作:GARAKU

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 プログレッシブ2~3巻をようやく買えたので履修中。
 面白いっすねやっぱり。


2話.憧憬

 《鼠》のアルゴの名は既に、βテスト時代から有名だった。

 SAOがまだデスゲームになるよりも前、世界中のゲーマーが夢見た世界に選ばれた1000人の剣士たち。その中の一人だ。

 茅場晶彦がこの世界を檻にする前、《手鏡》という悪趣味な仕様変更が施される前の――仮初の()と出会ったことがあった。

 モンスターは既にポリゴンとして爆散し、辺りに敵は一切いない。

 だからこそこうして、アルゴは気楽に話しかけられる。

 

「久しぶりだナ。ガラク」

 

 曲刀を手に持ち、アルゴとそう変わらないであろう年齢の少女は、話しかけてきた相手の、その正体を紐づける独特のイントネーションに気づき、複雑そうな表情をした。

 二ヶ月という、当事者からすればあっという間に過ぎた時の中。その頃にβテスターだった者が、製品版でも同じプレイヤーネームを使用するとは限らない。

 仮に使用していたとしても、SAOの仕様上、相手のプレイヤーネームを知るには面倒な手順を挟む必要がある。

 そんな状態でも、アルゴが目の前を少女が――かつてβテスト時代の、今の姿とは違う、モデルのような容姿をした男アバターでなくとも。すぐに分かった。

 

 武器は曲刀。

 そして、何より戦闘が終わった際の動きが証明だった。

 

 まるで日本刀を扱うかのように、鞘のない左手で円を作り、そこに曲刀を流し込むような形で納刀のモーションを再現する姿が一致した。

 まだSAOが希望だった頃、あまりにも楽しく、そして幸せなゲームだった頃の、哀れな名残り。

 少女がそれを今も続けているのは、未だ捨てきれない一筋の希望か。

 

「…驚いたナ」

 

 SAOがデスゲームとなってから、およそ二週間が過ぎた。

 アルゴがこうして、一層とはいえ迷宮区に足を運んだのは、マッピング以外にもある目的があった。

 それこそが、目の前にいる少女。

 

「βの時から変わらないナ」

「…アル、ゴ」

 

 SAOの感情表現のシステムは少し過剰ではあるが、それでも今の少女が見せる瞳、震える気配は――決して誇張ではないと思った。

 少し言葉を詰まらせてから、少女――ガラクは前髪をかき上げるのに近い動きで目を覆ってから。

 

「………」

 

 二ヶ月の間、それなりに言葉を交わし合った存在。

 簡素な作りながらも、その明るい性格を表したかのような、優しい雰囲気を醸し出していた男性アバターで。

 誰よりも早く片手剣、または曲刀カテゴリの武器情報を網羅し、コルを積んで、日本刀の、もしくはそれに酷似した武器を探し求め続けてきた彼。

 いくらアバター生成は自由とはいえ、普段の意識していない立ち振る舞いや雰囲気、細かな所作の隅々から、アルゴはガラクのリアルを、それとなく認識していて――

 目の前の少女は、息を絞り出すように呟いた。

 

「…お前になら、話しても…いい」

 

 だからその答えは、ある意味では予想できたものだったのだろう――

 

 

 

 


 

 

 

 

 《トールバーナ》の噴水広場に集ったプレイヤーたちは一斉に、ディアベルの合図と共に動き出す。

 みんなでパーティを組んでくれ――同時に、キリトの脳内に溢れ出す、小・中学時代の苦い記憶。

 そんなことを考えている間に、我先にとプレイヤーは相手を探し、あっという間にどんどんとパーティが結成されていく。

 デスゲームの開始からずっとソロで戦ってきたキリトは、当然の如く声をかけられる機会が――

 

「少しいいか」

 

 ということはなく、一人だけ声をかけてきたプレイヤーがいた。

 自分と同じく、アブレ仲間だった細剣使いが、一瞬小さな声を漏らした。

 それはキリトも同じで、声をかけてきたプレイヤーの容姿が一番の理由だった。

 隣の細剣使いと同じ――女性プレイヤーだったからだ。

 魔法の存在しない剣の世界。あまりにも失礼極まりない事だが、リアルでの顔が反映されるSAO内において、目の前のプレイヤーのような女性、しかも美少女はある意味では、モンスターからドロップする《魔武器》よりも希少な存在価値を持っている。

 いきなり声をかけられたのもそうだが、隣に立つ細剣使いと違って、目の前の少女は顔を一切隠していない、堂々とした立ち振る舞いだったのも印象的だった。

 ディアベルの仕切る『第一層ボス攻略会議』において、キバオウの訴えた反βテスター論、それにしっかりと反論して見せたプレイヤー、エギルといい、あの一幕では一定のプレイヤーが存在感を放っていた。

 だが目の前の少女は、キバオウやエギルのような行動で目立っていたわけではなく、ただそこにいるだけで、一定数のプレイヤー。……男からの視線が集中していた方の目立ち方だった。

 

「パーティをまだ組んでいないなら、良かったら俺と組んでくれないか?」

「お、俺はまぁ…別にいいけど……いいのか?」

「こっちもアブレてしまってな、赤の他人と話すのは苦手なんだ」

 

 相手の性別が女…ということもあり、最初は安堵と緊張の交じった声で、要領を得ない言葉を返してしまう。

 そんなキリトの内心を知ってか、それとも偶然か、少女は少し言葉を悩ませてから、真っ直ぐとキリトの目を見て。

 

「片手剣使い、キリト…」

「……?」

「…なんでもない。()()()お前の名前を聞いてな、合ってたか?」

「…いや」

「そうか、なら良かった」

 

 含みのある言葉。

 つい先程見た一幕、やけに強調した『片手剣』と『前』の言葉と、そして違和感。

 用意された推理の材料を積み重ねれば、簡単にその答えが具現化した。

 

 ――この女は、βテスターだった頃の自分を知っている。

 

 片手剣は他ならぬ、キリトがβ時代から好んで使っていた武器種でもある。

 だがそうなると、相手もβ時代のこの世界に…SAOに踏み込んだことのあるβテスターに他ならないだろう。

 《鼠》のアルゴは、アインクラッド一の情報屋であり、プレイヤーネームからその者の好む武器種、ソードスキル等の情報はコル次第で売る、売らないという情報すらもコルで売る程の徹底した存在。

 

 ――だが、絶対に売らない情報がある。それはβテスターの情報だ。

 

 アルゴは絶対に、どれだけコルを積まれようと、このプレイヤーはβテスターだったか否か…等の、βテスターに関する情報だけは徹底とした守秘義務を果たしていた。

 つまり今のキリトを…β時代から名前を変えていないとはいえ、βテスターと確信を持つということは――彼女もβテスターだったということ。

 あえてわかりづらく、言葉を濁らせ、含みを持たせた会話でキリトに伝えてきたのは、先程のキバオウの訴えを、反β派のプレイヤーに聞かれないように…という考えからだろう。

 この女はβテスター。それはほぼ間違いない。

 キリトがそう確信したのは、目の前の少女が片手を動かし、自分にパーティ申請を送ってきた時。

 そこに載っていた名前は――やはりと言うべきか、知っている名前だった。

 【Garaku】キリトと同じ、β時代から名前を変えていないプレイヤーであり。

 ――β時代、カタナスキルを求めて奔走していたプレイヤーの正体でもあった。

 

 

 

 

 

 A〜Hにナンバリングされた隊は、それぞれのリーダー同士が軽い挨拶を交え、SAO内ではありえない事だが、アルゴの用意した攻略本に穴を開けるかのような剣幕で熟読し、これでもかと作戦を練っていった。

 初めてのボス攻略…士気を盛り上げる為にも、そしてこれが最後の食事になるかもしれないからと、普段はあまり立ち入ることの無い、街の少し高めのレストランに皆が一斉に足を運んでいた。

 程よい緊張、そして僅かに残る死への恐怖が共通し、皆その場で結成されたばかり、出会ったことの無い初見の人間が相手とは思えない程、店内は和気藹々とした、暖かい空気に包まれていた。

 ――そして。

 

「……………」

「……………」

「……ここのパン、美味いな」

「……お、おう……」

 

 テーブル席、女が3人と男が1人。

 未だにフードを深く被ったままの細剣使い――アスナと、先程ガラクがパーティを編成した際、割り込むように入ってきたもう一人の、フードを被った鎌使いのミト。

 互いにフードの奥の素顔を確認し、そして涙を浮かべながら抱き合い、言葉にならない嗚咽を漏らし続けていた二人に対して。

 「どうする?」と、ガラクとキリトは互いに目を合わせて、首を傾げた。

 それが落ち着けば、次に訪れたのはあまりにも痛い静寂。

 あの距離の近さ、そして一瞬小さく聞こえた、聞いた事のない誰かの名前。察するにアスナとミトは、リアルでの知り合いといった所なのだろう。

 気まずい空気のまま、4人は無言のまま店内に入り、そしてあまり目立たない、店内の隅の方の席を取った…筈だった。

 

「………」

「………」

「これ…美味しい、な…」

「そ、そうだな……」

 

 視線が痛い。

 最も好奇の視線を向けられているのは、やはり、珍しい女性プレイヤーということもあってガラクではあるが。一番胃に痛い視線を浴びているのはキリトである。

 店内での食事を初めてから10分程。今も時折、ちらりとキリトに向けて嫉妬の視線が向けられ、その度にキリトは勘弁してくれと思う。

 更に追加で5分が過ぎ、ようやく落ち着いたのか、アスナとミトも食事を再開し、気まずい空気は少しだけだが落ち着いた。

 そしてそうなると当然、位置の都合上キリトの前に座る、ガラクと視線が交差する。

 

 ガラクはどういう理屈か、初見で自分をβテスターと見抜いた、知った上で関わってきたプレイヤーだ。

 

 始まりの日…《アニールブレード》を入手する為のクエストを受注した時、この世界で初めて経験した裏切り…MPKのこともあり、その腹の中に何を隠しているのか…と、どうしても考えてしまう。

 もはや日々の象徴と化した黒パンを食べ切り、腹を満たしたガラクは、真っ直ぐとキリトの顔を見て。

 

「……聞きたいこと、あるんじゃないのか?」

 

 今なら言うぞと、それだけを付け加えて、ガラクは静かにキリトを見た。

 

「…俺のことをどこで知ったんだ?」

「……勘。と言っても巫山戯てるとしか思われないよな。…うん、そうだな……」

 

 がやがやとした騒音に紛れるよう、周りの人間に聞かれない、システムが反映できるギリギリの声量で、二人は言葉を交わす。

 

「……俺、あんたと会ったことあったか…?」

「…お前は有名だったからな、それに比べたら俺の知名度なんてたかが知れてるよ」

 

 ガラクは、少し考え込んでから。

 一瞬泣きそうな顔で、その後すぐ、小さく笑って一言。

 

「あぁでも…もし思い出したら…そうだな、きっと驚かせるだろうな」

 

 晒した素顔と言葉の意味。

 その言葉の真意を知るのは、そう遠くない未来の話だ。




CharacterProfile・ガラク
 彼が日本刀武器…《カタナ》スキルを欲しがっているのは、打算のない純粋な憧れから。
 大好きなゲーム、大好きな日本刀を持ちたいという、とても純粋で子供らしい願いだった。
 そう、この時はまだ。

篁モード解放

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