【ソードアート・オンラインRTA】ラフコフ殲滅Any%『■狂者』 作:GARAKU
イスケとコタローは、俗に言う『忍者』という
防御性能こそ低いものの、全身を包む灰色の布装備に、忍者マスクの代用品として装備しているパイレーツマスク。
《裁縫》スキルを所持していれば…と一瞬考えたが、ただでさえ貴重なスキルスロット、彼らはそこを非戦闘用のスキルで埋めようとは思えなかった。
できる範囲で、
その共通点があったからこそ。――自分たちは
「見事。これで修行は終わりだ」
クエストクリアを知らせるファンファーレが鳴り響き、同時に与えられる大量の経験値。
想定よりも遥かに早く、あっさりとあれだけ、βテスターだった頃から探し求めていた《体術》スキルが手に入った。
未だ実感がなく、しばらく目の前の虚空に、先ほどまで浮かんでいたウインドウ画面を幻視し、ぼーっと立ち尽くしていたが。
隣に立つ一人の少女の「おめでとう」の言葉と、背中に走る軽い衝撃でハッと我に返る。
「――本当に感謝するでござるよ!」
「ウム。拙者も同じ思いでござる。もしガラク殿がいなければ…」
「いいって、こっちも助かった」
イスケ、コタローの順で感謝の言葉を伝えられ、彼女は照れくさそうに笑う。
ギルド(この時点ではまだ解放されていないが)《
遂に攻略された、記念すべき一層のボス。その戦果を報告する為、街に戻ってきたディアベル一行を、プレイヤーたちは手を叩いて喜んで歓迎した。
勿論。その中にはイスケとコタローの二人もいた。
そしてβテスターだった二人はすぐに、マップを確認して二層の転移門を確認。すると案の定。ディアベル一行が街に戻ってきたのとほとんど同じタイミングで解放されていたのだろう、二層への道。
かつてそこそこの悪者忍者*1《
その第一歩。β時代。一か月の最後にようやく見つけられた手掛かりの情報。そのリベンジマッチとも呼べる機会が訪れた。
そして、その情報をもたらしてくれたプレイヤーこそが彼女、ガラクだった。
「その布装備…よく見たら二重か。普通の服に合わせて、鎧とかコートの装備枠をまた別の布で埋めて…」
「わかるでござるか!」
「マスクもだ。それ一層のNPCショップで買えるやつだろ?でもあれはパイレーツマスクだから、赤とか金がメインカラーだった筈だが、まさか…」
「勿論。色塗りアイテムを使ったでござる」
やっぱり。ガラクはそう言って。
「にしてもよく見つけたな。あれ今の時点だとまぁまぁ希少だろ?」
「それは髪専用の色塗りアイテムの場合でござる。確かに一層の時点だと、髪の方はモンスタードロップでしか入手できぬのだが…こういう小さな布装備用のなら、一層の店でも買えるのでござるよ」
「…マジか。ずっとカタナばっか探してたせいで、その辺の知識はなかったな…」
「もし良かったら教えるでござるよ」
「マジか、《鼠》にぼったくられずに済みそうだ」
軽快な笑顔とは、きっとこういうのを言うのだろう。
まだ物資も少なく、バリエーションも限られる装備品の装飾。それらをできるだけ工夫し、色から普段の立ち振る舞い、そして装備の仕方でどれだけ『忍者っぽく見えるか』を第一に。
そんな目に見えない工夫を、彼女は直ぐに見破り、そのロマンを肯定した。
話してみてわかったことだが、ガラクもまた、イスケたちとは少し違うものの、その目標の一つと被ったロマンを求める者であり。
「カタナの情報は…残念ながら拙者は知らないでござる。コタロー?」
「同じでござる。拙者たちもまたシノビ…日本刀も当然ながら求める
「……だろうなぁ、だって《体術》クエストのこと何も知ってなかったし」
「「ぐふっ」」
耳の痛い話である。
そもそもイスケたちが《体術》スキルの存在を知ったのは、βテスト期間である一か月の終わり近くであり、それも他プレイヤーが七層のNPCから情報を得たものだったからだ。
アインクラッドは広い。たとえクエストの受注場所が二層であるとわかっていようと、層に存在するNPCの数は膨大で、更には日替わりで変わることだってある。
しらみつぶしに探すには人手が足りず、そして《
「そういえば。イスケたちはどうする?二層のボス攻略には参加するのか?」
「うぅむ…正直な話。拙者たちは早く体術スキルの熟練度を上げたいでござるから…」
「基本的にはレベリングであろう。熟練度も…最低でも50は欲しいでござるな」
「あぁ…」
ガラクとてSAOプレイヤー、それも元βテスターである。
イスケたちの目的、そしてその気持ちが充分にわかるのか、納得するような声を漏らした。
SAOではスキルスロットにスキルをセットし、それを使い続けると熟練度の数値が増えていき、最高値は1000だ。
だがそれが50に達した時。『
デスゲームからの脱出。そのための研鑽…とは少し違う。
目的の主な割合はやはり、ゲーマー特有の収集癖というものであろう。
「なら俺も付き合うよ。体術に関してなら俺は誰よりも先輩だしな、ある程度ノウハウは効く」
「いいのでござるか?」
「勿論。それに一層のボス攻略にはちゃんと参加したんだ、今回くらいは休んでも、誰も責めないだろうさ」
「かたじけないでござる」
コタローが頭を下げると、ガラクはいいよと笑って首を振った。
実際、ガラクの申し出は願ってもない内容であり、ただ事前に情報を知るだけとは違う、スキルを実際に使用し、研究した本人の体験談だ。
《はじまりの街》で配布されている攻略本にも、まだ書かれていない新鮮な知識。
正直、話が美味すぎる気もしたのだが。その疑念は、彼女が笑顔で零した言葉によって、すぐに晴れることとなった。
「楽しいな」
「……楽しい、でござるか?」
「あ。気を悪くしたなら謝るよ。…ただ、俺
「……」
不思議と、性別の違いは気にならなかった。
確かにゲーム…MMOならば尚更で、
勿論イスケたちは違う。ただ自分たちは、夢にまで見た仮想世界、鉄と剣の世界に足を踏み入れ、ただ楽しみたかっただけだから。
だが、しかし――
「いいな、こういうの」
SAOには魔法がない。まずこの要素の時点でかなりの数が絞られる。
なんの数か、それは勿論女性人口の数だ。
β、そして悪魔の化身たる茅場晶彦がサービスで付け加えた、現実世界の肉体…特に顔の造形を忠実に再現する仕様。
大変言い難いことではあるが、今のSAOにおいて女性プレイヤー…更にその中で『美人』に分類される人間は非常に希少だ。
イスケやコタローも、どれだけ忍者になり切ろうとも――彼らは男である。
じっと、改めて彼女の容姿を見る。
黒曜石のような、黒の中に光を感じさせる輝き。肩の辺りまでに抑えて伸ばされた、絹のように綺麗な髪。
一見すると少年にも捉えられる容姿もあり、まるで同年代の友人。それもクラスメイトの男子と会話をしているかのような、そんな心地の良さすら感じる。
しかしだ。
「気になったのだが…ガラク殿」
「ん?」
「一人称が"俺"なのは拙者たちと同じように、何かのロールプレイをしているのでござるか?」
「――」
――しかし。あまりにも
イスケの問いに、ガラクは一瞬目を大きく開き、そして「あ~…」と、気まずそうな声を漏らした。
そう、それは決していないわけではない。
珍しいのは違いないが、それでも、一人称が俺の女性というものは確かに存在はする。
ロールプレイの一環で、ゲームをしている時だけは口調が変わり、それこそ一人称が変化することだってあるだろう。
では一体何が、イスケに疑惑を覚えさせたのか?
勘。としか言えないだろう。
まだSAOが、現実の肉体、顔の造形を再現するよりも前、それこそβ時代は、プレイヤーの全員が己の分身を…アバターの容姿や声を自在に設定することができた。
失礼な言い方だが、現実ではそこまで優れた容姿をしているわけではない人間も、アバター生成に力を入れれば、誰でも美男美女に変化できる。
そうなると、必然的に鍛え上げられるのは洞察力。それも相手の性別看破だ。
意識しない言葉の節々。イントネーションから身体の動作、その一つ一つ。
イスケの目には、彼女がただロールプレイをしているだけの様子には見えなかったのだ。
「………」
沈黙が降りる。
SAOに限らず、ゲームにおいて、相手のリアルに関する情報を聞き出すのはマナー違反。
自分で聞いておいて、今になって失礼なことをしてしまったかと、イスケは内心冷や汗を流していた。
コタローも同じ気持ちなのだろう、マスクでほとんど隠れた顔が、SAOのオーバーな感情表現によって真っ青に染まっている。
そうして数秒、唸り続けていたガラクは、ぱんと手を叩き。笑った。
「ま、お前たちならいっか」
胸に手を当て、小さく息を吐きだしてからじっと、イスケとコタローを真っすぐに見て。
まるで、数あるちょっとした秘密の内の一つをバラすかのような気軽さで。
「俺は男だ」
「…なぬ!?」
「身体は女だけどな」
「なぬ!!??」
――
想像していたよりだいぶ、それこそ予想の斜め上を突っ走るレベルの秘密が暴露されたことにより、二人の思考と身体は完全に停止した。
どう反応するべきか。
相手がこうも凛とした、堂々と告げたのだから、自分たちも同じく堂々とあるべきか?
そもそもなんと返せばいいのか、そうだったのか…だけで済ませていいのか?
悶々と悩む二人の耳に、再び。
「……あのさ、それで…」
彼の声が聞こえた。
ほんの少しだけ。
気のせいだと切り捨てることのできない、確かに感じた違和感と、聞こえた声の抑揚、震え。
一瞬。彼はまた言葉を詰まらせてから。
その後さっきよりも、更に震えが混じった声が聞こえ。
「………こんな俺でよかったら、その………」
イスケもコタローも、すぐ互いに目を合わせた。
それだけで、長い付き合いを持つ彼らには充分だった。
二人は同時に頷き、その後イスケが、彼に話しかける。
「体術スキルなのだから当然、その中には蹴り技もあったりするのであろう?」
「………あ、あぁ」
「コタローは蹴り。拙者は打撃をメインにした差別化を図り、そして《
「お、ぉぉ…」
「だから、良かったら詳しく教えてはくれないだろうか?」
「………!」
イスケがそう言うのと同時に、
それを知らせるメッセージを目にしたガラクの、その安堵の表情。
――きっと、自分はそれを忘れることはないだろう。
「………よ、よろしく…!」
「それはこっちの台詞であろうに…」
デスゲームとなったこの世界で、命の保証はどこにもない。
レベリングの作業でさえ、終始事故による"最悪"の可能性がある。
だが、だからこそ生まれる関係性がある。
たとえ仮想世界、どこまでも現実に近いものであろうと、ここはゲーム。
一緒にゲームをしたのなら、次に生まれる関係は一つのみ。
「フレンド…ふふ、友達か」
「……そこまで喜ばれるとなんだかむず痒いでござる」
「イスケ。かっこいいでござるよ」
「黙れコタロー!お前もさっさとフレンド申請をしろ!」
「ロールが剥がれかけてるでござるよ!?」
SAOに閉じ込められ、一か月と少し。
――この日はガラクにとっても、決して忘れられない大切な日。
――大切な友ができた日。
たとえ意識が混濁しようとも。
怒りに吞まれ、殺気と敵意を受信して動く、ただの怪物になろうとも。
――彼は、決してこの友情を忘れない。
「聞いたかぁ?最近またラフコフの奴が好き勝手暴れてるらしいぜ」
「最近は大人しいと思ってたのに。…何が彼らをそこまで駆り立てるんだろうね?」
「拙者たちには理解のできない連中でござるよ。…あ、LA」
「ムッ…すまないでござる。次はちゃんとコタローに譲るでござるよ」
「しかしなぁ…いくらあいつらが潜在的なイカレ野郎だとしてもよ、ここまで数を増やすなんてことあんのか?」
「私からすれば、君も結構その素質あったと思うんだけど?」
「裏切っ太良殺寸」
「……やめろ。そんなことすりゃこいつに殺される未来しか見えねぇ」
「あははっ、賢明な判断だよねー」
「フム…ラフコフもある意味、SAOが持つその者の本性を暴く仕様の被害者…とも呼べるのかもしれぬな」
「ラフコフに入ってるほとんどが道徳観念。倫理観や良心が元から欠如してる人間がほとんどだろうけど…流されるままに殺人を繰り返す心の弱い人もいるだろうしね」
「……ままならねぇもんだな」
「コタロー、来たでござるよ」
「ウム。それじゃあ次は拙者が……」
「…………――」
「あ」
「あっ」
「イスケ、コタロー!伏せぇ!!」
「ッ――」
「……」
「………」
「おお…」
「屑波全員殺寸」
「…こっちにもいたでござるよ!殺しのブレーキがない者が!」
「むしろアクセルベタ踏みじゃねぇか」
「さっすが師匠!」
「全員殺寸」
「……ま、相手が何十何百いようが」
「何とかなると思うでござるな」
「ウム」
「私も同感!」
ギルド『?????』
ガラク
???
イスケ
コタロー
??????
篁モード解放
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1話日常回を挟んだ次の次の話で解放
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もう待ちきれない!次回一気に解放して!